『流石に予想していたかい?』

「ああ」

『だが、3対1だおとなしくここで死んでくれたまえ』

『あんたは嫌いじゃないけどさ。こっちも事情があるんでね』

『そういう事だ』



事情なんて誰にだってあるに決まっている。

俺だって死ぬ訳にはいかない。

後は、俺と奴らのどちらが用心深かったのか、その差だけだ。



「誰が死んでなんてやるものか!!」




俺は、早速奴らに向かって突進した……。





銀河英雄伝説 十字の紋章


第十話 十字、奮闘す。






最初に考える事はやはり、こいつらを殺してもいいのかということだ。

なんだかんだで、今まで俺は直接人を殺したことはない。

3対1で不利だが、最初が味方殺しなんて笑えない。

それに、何より俺の経歴に傷がつく。


自分でハードルを上げておいてなんだが、つまり殺さず無力化して裁判を受けさせるのが最上という事だ。

ただでさえ、1対3の不利があるのに、向こうには地の利もある。

仕込みでどこまで対抗できるか、だがまあ、最悪殺すなら方法はなくもない。

やるだけやってみるか。


壁を背に逃げ隠れしながら、そういう事を考える。

基地の内部に逃げるしか無いのが現状だ、閉鎖空間でないと銃撃を防ぐのは難しい。

逃げ道は誘導されているな、3人以外にも誰かあいつらの仲間がいる可能性があるか。

面倒なことだ。



「ガエタン少尉はあまり地球教徒って感じはしなかったですが、ね!」



突っ込んできたガエタンを蹴り飛ばす。

続く銃撃は蹴り飛ばしたガエタンの影に隠れる事でやり過ごした。

仮にも無重力バスケ(フライングボール)の選手だ。

真空中での動きはそう負けない。


ゴーティエ軍曹は銃を射つのをやめ、ユルシュル曹長は狙撃の姿勢で俺が動くのを待っている。

あまり時間をかけられないのは俺と同じはずだが……。



「随分余裕じゃないか」

『そうだね、何でだろうね』

「お前達が出発するまで、脱出艇が出ない保証があるってことか」



なら、ほぼ決まりだ。

普通に考えればダーラム・ホド大尉かバプティスト中尉のどちらか、もしくは両方がからんでいる。

司令官か副司令クラスでもないと脱出艇を待たせておくなんてわけにはいかないからな。


しかし、そうなると厄介だな。

もし全員が地球教関係者だったりした日には、脱出不能だ。

それを考えて、先に十字教で探りを入れておいたのは正解だった。


少なくとも、大尉は大丈夫であることを保証してもらっている。

100%信用できるかはわからないが、信用する事は大前提だ。

だったら、恐らくは……。



「しかし、バプティスト中尉は遅いようだが、どうしたんだ?」

『!!?』



追い詰められようとしているとは思えないような、俺の余裕が気になり始めた頃だろう。

ゴーティエ軍曹は動揺で動きが止まった、しかしユルシュル曹長はそのまま銃を射つ。

俺は予想の範囲とばかり壁の後ろに身を隠す。


電磁バリア発生装置は今回は使わないほうが良いな。

下手に使うと囲まれそうだ。

人数を集められたら数分程度のバリアなんて意味がない。



「どうやら当たりのようだな」

『くっ、貴様!』



蹴り飛ばされた、ガエタン少尉も体勢を立て直したようだ。

相変わらず1対3だが、精神的優位を取れたのは大きい。

時間稼ぎをしているのは、向こう側だけじゃないからな。



「ところで、俺も銃を携帯しているわけだが、何故撃っていないと思う?」

『そんな所に縮こまってりゃ、そりゃ撃てないだろ!』

『ちょっとまって、まさか!?』

「これ、何かわかるか?」

『!?』

『何考えてやがる!!』



俺が取り出したのはゼッフェル粒子発生層を相手に投げ飛ばす。

すると、地面に落ちてゼッフェル粒子を撒き散らした。

これで相手はうかつに銃を撃てなくなったわけだ。



「銃は怖いからな、用心してるってことだよ」

『へっ、だからって1対3な事には変わりない!』

「これなーんだ?」

『げっ』



俺は、折りたたみ式のロッドを取り出す。

3段伸縮の割には強度が高く、1mと少しあるので警棒レベルで重宝する。

電気を流すこともできるが、ゼッフェル粒子が反応するので使わない。



「逆転とは言わないが、棒があるだけで有利不利に影響する状況だよな」



壁の後ろから出てきた俺はそういう、この時点でバプティスト中尉が来ていない以上気にするだけ無駄だ。

だったら、こいつらを何とかして脱出艇に向かうのが先決だろう。



『囲んで叩くぞ! 正面は俺がやる、ゴーティエは右、ユルシュエルは左から回り込め!』

『了解』

『分かったわよ』



ガエタン少尉が命令し、2人は少し嫌そうにしながらもそれに従う。

当然そうなるわな、俺でも急ぎならそうする。

なにせ狭い廊下だ、正面から3人で突っ込めば余程連携訓練でも積んでない限り互いが動きを制限する。

とはいえ、回り込む動きがバレバレな以上、ガエタン少尉が自分の危険を下げるために言った可能性も高い。

こういう時のお定まりがある事を理解していないのだろう。



「それは愚の骨頂だガエタン!」

『なっ! グハッ!』



俺は逆に突っ込んで行ってガエタンに棒を付きこむ。

リーチに差があるのだから、こっちが遠慮する必要はどこにもない。

ましてや両側に広がる動きを見せていた2人は反応に遅れが出る。


アスターテ会戦の失敗と同じ事だ。

見た目の連携に囚われ、連携をするために実際に必要な事を軽視していただけ。

この場合は部下の意思統一。


宇宙服の上からとはいえ2000年台の宇宙服のようにごっついものではない。

衝撃はある程度殺すが心臓につきこまれた以上しばらくは動けないはずだ。

俺はそのまま左に向いてゴーティエに向かう、とっさに掴みかかってくるがそれを棒で受ける。

そのまま力比べをするように見せかけ、体勢を崩して低くしつんのめったゴーティエに足払いを食らわせた。



『くそっ!!』

『ゴーティエ! どきな!』



足払いで体をひねった体勢の俺に背後からユルシュエルが迫る。

だが、俺だって伊達に薔薇の蕾式と同盟軍式の2つの軍隊格闘を収めたわけじゃない。

更に体を沈め、倒れるようにしてユルシュエルの蹴りを回避すると足払いを更に半回転させ上下逆になりながら通り過ぎたユルシュエルの首を狩りに行く。



『ちぃぃ!!』

「やるなっ!」



通り過ぎたユルシュエルはそのまま自分の身を前に投げ出して俺の逆さ首刈りを回避する。

互いに、半回転して立ち上がり向き合うが、俺はまだゴーティエを倒しきった訳じゃないし、数分でガエタンも復活するだろう。

有利なのは棒一つ、それにあまり長く戦えばゼッフェル粒子が拡散して向こうが銃を使ってくるようになる。

というか、実はこいつら俺に付き合う必要すらないことに気がついてない。

ゼッフェル粒子をまかれた建物から飛び出し、外から銃を撃てば俺は建物ごとお陀仏だ。

まあ、そうしようとしたら一緒に外に出るだけだが。


「まあ、私物の持ち込みは多いほうでね」

『なっ!?』


俺は銃を撃った。

だが、ゼッフェル粒子は反応しない。

当然だ、これは空気銃なんだから。


「心配しなくともこれで死ぬ事はない、トリモチを飛ばすだけの銃だからな」

『トリモチだって!?』

「ああ、これでお前の両手は動かせない、ついでに足も」



最初はきちんとやろうとしたが、建物についてしまうと持ち運び出来ないから3人を引っ付ける事にした。

3人はボール状にくっつき、身動きが出来ないようになる。

俺はそれを蹴り飛ばしながら脱出艇に向かう事にした。



『予想より時間がかかったな』

「大尉わざわざお待ち頂きありがとうございます」

『一応、私闘に関与はしないつもりでいたが、こいつの件もあったからな』

『ぐっ!』



ダーラム・ホド大尉が俺に見せたのは縛り付けられたバプティスト中尉だった。

なるほど、来られないわけだ。

中尉の後ろには後5人ほど縛られている。

地球教関係者達だろう。



『例の件は大丈夫なんだろうな?』

「はい、大尉は2ヶ月以内に少佐になれるはずです」

『しかしまさか、十字教の聖者とやらがそこまで手が回るとはな」』

「蛇の道は蛇っていうでしょう?」

『まあいい、俺はこのまま終わるつもりはなかった。それに地球教はうんざりしていたからな』

「そう言ってもらえると助かりますよ」



そうして、どうにか脱出艇に乗ることが出来たのだ。

俺の仕込み勝ちといった所だろうか。

先程の話、地球教徒の捕縛に関する手伝いを大尉に頼んでいたのだ。

俺が、ではない。

バグダッシュを通じてウランフ准将につなぎを取ってもらったのだ。

彼もまた、同盟内に他国の勢力、フェザーンや地球教が蔓延っている事に対しては思う所があるらしい。

薔薇の蕾も使って、その情報を集め、どうにか地球教徒の動きがあった場合、大尉に動いてもらうよう繋ぎをつけてもらった。

かなりギリギリの仕込みだったのは事実だ、あまり良い印象は持たれていないだろうな。


取り敢えず俺は、帰りの船の中で捕縛した地球教徒と面談をしてみることにした。

正直彼らの能力は高いとは思えないが、それでも情報はほしい。

それに一応でも十字教に寝返らせられれば役にたつかもしれないという思いもあった。


地球教徒は基本的に3種類の人間がいる。

地球教の支援活動に感動したり、恩義を感じている信者。

命を助けられたり、教化によって強迫観念を植え込まれた狂信者。

そして、それらを操る幹部、まあその幹部も狂信者だったりすることもあるが。


だが、狂信者には種類がある。

子供の頃からそういう教育によって作り出された教化エリート。

薬によって暗示をかけられた鉄砲玉。

立場的に追い込まれて、地球教から追い出された段階で死ぬしかない、やけくそ。

大まかに言ってこの3つだ。


地球教徒のテロリストや潜入要員は教化エリートがほとんどだろうと思っていた。

しかし、聞いてみるとやけくその奴らもそこそこいるようだ。

例えば地球教に借金を建て替えてもらっており、従わねば殺される。

例えば、嫁が地球教徒で地球教に従わないと離婚どころか刺されかねない。

関係者の誰かが教化された人間だったりすると従わざるを得ない傾向にあるようだ。

これは、実際の地球教徒の数より危険度は高いということになる。



「いらん事ばかりわかるな……」



地球教の闇はどれくらい深いのか。

フェザーンという資金的バックアップもあるからな。

放置していたら、また大きくなるんだろうな……。

だが、俺のできる範囲で地球教にダメージを与える方法はネガティブキャンペーンくらいしかない。

取り敢えず、今回の事も薔薇の蕾を通じて俺の事だとわからない程度に広めておこう。













ハイネセンの自宅に帰って半年ほど、俺は軍の総務部で年金の支払いを行うという、別の意味で有名なスペオペの主人公のような真似をしていた。

取り敢えず半年の勤務と一応前回の手柄もあって中尉に昇進の辞令とともに新たな任務が言い渡される。

エミーリアが前回の事もあってゴネていたが、今回は近くだからと説得する。



「ジュージっていつも良く分からない事で突っ走るもん」

「良くわからんという訳じゃないと思うが……」

「だから、護衛とかできるだけ一緒にいてね」

「いや、軍内部まで護衛つけるわけにもいかないしな」

「そうだけど……」

「大丈夫だ、まだまだ人生前半だぜ?

 きっちり平和にして人生満喫するまで死ぬつもりはないよ」

「……もう、その前半だって楽しまないと駄目だよ?」



誤魔化す様に言った俺の言葉にエミーリアが顔をしかめる。

だが確かに、今も幸せかもしれない。

前世でこんなに成功した体験も可愛い婚約者がいた事もないからな。

結婚は取り敢えず少佐になってからにしようと思っているが。

そろそろ準備をしたほうがいいかもしれない。



「ある意味楽しんでるけどな」

「もうっ!」



完全に拗ねてしまった彼女の頬にキスをかまして駆け去る様にタクシーに乗る。

そのタクシーはどうやら実際のタクシーではないようだ、まあ予想の範囲ではあるが。

毎度ご苦労さまであはる。



「……教主はそんなに暇じゃないと思うが?」

「そう言わないでください聖者様、やはり意思疎通は大事だと思いますので」

「だからってな、そんな毎日よく来れるな」

「ここ一週間程だけですよ、一応これでも同盟内に20の惑星支部を持つそこそこの宗教の教主ですし」

「教徒も1200万人を越えたそうでおめでとう。しかも、ほとんど地球教徒だったわけじゃない一般の信徒ばかりとか」

「ええ、聖者様の教義のおかげですわ」



しれっとした顔で漫画やアニメを布教していることを認めるのは十字教教主リディアーヌ・クレマンソー。

最近は俺がタクシーに乗るのに合わせて俺の呼んだタクシーに乗ってくる。

どんな出待ちだ……まあ、あれだタクシー運転手の教徒が多いんだろう。

タクシー網に引っかかってるのかね。

無人タクシーではなく有人タクシーであるところが味噌だろう。



「それで、今日の用件は?」

「もう少しお話していたかったですが、そうですねお互いあまり時間はないですし。

 明日の夜、この店に来て頂けないでしょうか?」

「この店? ああ、わかった」



この店はよく十字教の会合に使われるものだ。

ただし、表立ったものではなく、俺に紹介したい人間がいる時や、何らかの情報を渡したい時等に使われる。

だからこの店を指定されたなら俺は出来るだけ断らない事にしている。



「良かった、かなり大きな案件なので私には対処しかねますので」

「教主に対処出来ないことをさせようとしているのか」

「ええ、聖者様は表立っては兎も角、実質十字教の柱ですから」

「ぽっきり折れそうだな……」

「皆で支えますよ」

「はあ……わかった、じゃあそろそろ行ってくる」

「いってらっしゃいませ」



統合作戦本部、正直自分が行くような用件があるような所ではない。

最低でも佐官か、参謀本部勤めでもない限り用件はないはずなんだが。

やっぱり前回の件だろうな……。

俺は呼び出された部屋へと向かう、そこにはやはり予想していた人物がおり俺は敬礼の姿勢で固まる。

そう、ウランフ准将だ。



「半年ぶりだな、ジュージ・ナカムラ中尉」

「は!」

「君の事を調べさせてもらった、随分といろいろやっているな」

「は!」

「漫画王と呼ばれ、聖者様と呼ばれ、次は軍か? 君は何がしたい?」

「………そうですね」



なんというか、大物は俺のやっていることが気になる傾向にあるのか。

こちらとしてはバックアップでもしてくれたら嬉しいが、今の所そういうのはいない。

奇行に見えるんだろうな、だがまあ今の所艦隊司令部に融通の効くとは言えないが、交渉の出来る窓口は彼しかいない。



「同盟の存続と勝利でしょうか」

「それは私もしたいことだ。そのためにこれだけの事を?」

「発言力を得るためと、内患とも言える地球教、フェザーン資金等への抵抗、僅かではありますが」

「ほう、相応に理由があると」

「結果が伴っていると言えるレベルではありませんが。地球教への対処としては分裂させたのは正解だったと思います」

「ふむ……君は稀代の詐欺師か英雄か。どちらにせよまだ20歳になったばかりだというのに」



ため息をつくウランフ提督、言いたい事は分かるが……。

俺だって、前世ならこんな奴胡散臭いと思っていただろう。

一般家庭の出でありながら、亡命貴族のお嬢さんと婚約、個人で億単位の利益をあげ、宗教の実質リーダー、それが軍に志願してきたのだ。

誰だって頭の構造を疑いたくなるだろう。

だから、取り敢えず言ってみる事にした。



「同盟が勝利するには邪魔なものが多すぎます。

 まずは敵の軍事力の強大さ、艦艇数では倍以上と思われます。

 それを覆す必要があると理解している方が少ない様に思えますね」

「倍以上?」

「帝国は艦艇数16000の艦隊が帝国に18個艦隊、貴族が持つ9個艦隊合わせれば27個艦隊あります。

 対して同盟は艦艇数13000の艦隊が12個艦隊、地方警備隊は艦隊として整備されてもいません。

 ざっと計算しても3倍近い数の差になりますね」

「そうなるな……しかし、一隻ごとの能力差もある技術力の差といってもいい」

「その差、フェザーンを通じて売り飛ばされていると考えられませんか?」

「!? まさか……」

「似たような艦隊、似たような艦種、確かに技術レベルでは少し差がありますが。

 それも型落ちを売っていると考えれば納得が行きます」

「……」



ウランフ准将の目に鋭い光が帯びる、根拠のない事ならただでは済まないと言っている用に見える。

だが、フェザーンの立地を考えればこの手の技術が漏れるのは当然のことなのだ。

なにせ、彼らはあらゆるものを売り買いしているのだから。



「同盟国債の何%をフェザーンが持っているかご存知ですか?

 既に22%も握られています。

 これは、特定の国が持っていいレベルの国債ではない。

 現状でもおそらく、同盟の国政に彼らは口を出しているでしょう」

「フェザーンを通じて軍需産業が流出しているということか」

「これは一例です。同盟の勝利を阻むものはまだ多数あります」

「言ってみろ」

「戦争票を当てにする政治家、テロリズムの温床である地球教、フェザーンの安い農産物等の購入により同盟経済が悪化している事実。

 頑なに艦隊戦に拘る軍等でしょうか」

「はっ、言ってくれるな」



最後のは余計だったかもしれないが、彼のような人物ならむしろ言って置くべきだろう。

何事も中途半端がいけないというものだ。

最悪、彼に軍を追い出される可能性もあるが、そういう事に権力を使うのはあまり好きではないはずだしな。

俺の時も、俺が嵌められた事情を話したのとその証拠取りを怠っていなかったからだ。

そうでなければ、指一本動かしてはくれなかっただろう。



「俺には理解できんタイプの人間のようだが、それなら一度フェザーンに行ってみるがいい。

 紹介状を書いておいてやる、お前が本当に何かをする人間だと言うなら、示して見せるんだな」

「は!」


なるほど、彼のお眼鏡に叶ったわけではないが、試験だけは受けさせてくれるわけだ。

今の時期にフェザーンに行っておくのは俺にとっても悪くない。

ただ、あそこは地球教の温床でもある。

教敵と言っていい俺が行くなら、可能な限り準備をしなければならない。

恐らく、いくら早くとも2ヶ月やそこらはあるはず。

それまでに、可能な限り仕込んでおくか。

そう考えながら退室を言い渡され部屋を出る。



「そう言えば、あっちの件もあったな」



ここ半年は漫画の原作やアニメ、映画について多少口出しした程度で基本は制作会社に任せきりにしていた。

金はそこそこ貯まったが爆発的というわけにも行かず、出費を考えれば少し黒字といった所。

今回の事も考えると赤字になる可能性もあるな。

まあ、そういうときはコネもできるからいいのだが。








エミーリアに次の赴任先の事でさんざんゴネられたのには申し訳ないと思ったが、それまで時間を取る事でなんとか納得してもらった。

そうして数日、俺はリディアーヌに言われた十字教御用達の店に顔を出す。



「予約していたナカムラといいます」

「ああ、聖者様! ようこそお越しを!」

「いやいや、お店お店」

「はっ……申し訳ありません。奥のお部屋にどうぞ」

「ありがとうございます」



信者の暑すぎる視線を抜けて、奥にある部屋に向かう。

そこには既にリディアーヌともうひとりが座っていた。

それには流石に俺も驚いた。



「先輩?」

「まだ先輩と呼んでくれるのか。嬉しいね」

「そりゃ、当然じゃないですか。色々手伝ってもらってますし」



そう、来ていたのはアンリ・ビュコック先輩。

最近は会っていないが、地球教分裂を行った際は手伝ってもらった。

うまく行ったのはアンリ先輩他先輩方のおかげだと思う。



「そう、それなんだが」

「はあ」

「俺な、軍を辞めようと思う」

「え!?」



俺は思わず目をむいてアンリ先輩を見る。

先輩はいたずらが成功した時のように含み笑いをすると、しかし真面目な顔に戻り話を進めた。



「同盟を守ろう、親父のように同盟の盾になるんだと思ってきた」

「はい」

「だが、お前を見ているとな……」

「え?」

「最近思う様になったんだ。軍にいるだけが同盟を守る方法なのかと。

 いや違うな、俺がより世間の役に立ち、そして同盟にも貢献出来る方法はないかと」

「はい、素晴らしい事だと思います」

「そうだろう? その結果俺は、回帰教の教主に収まる事になった」

「はっ?」



先輩が回帰教の教主?

いや確かに、回帰教は先輩達にお願いして地球教から分離させる方策を試してもらった。

結果的に凄くうまく行ったのだが地球教徒の何割かを取り込み一大勢力となっている。

現在は2000万近い信徒がいるはず。



「回帰教は俺達が作ったと言っていい、当然指導部に俺達がいつく事も増えてな。

 そうしたら教主になってほしいと言われたんだが、俺はその時考えたわけだ」

「なるほど、先輩がそう考えるなら。俺も賛成しますよ」

「まあ、何よりお前の考えに賛同するからでもあるがな」

「賛同?」

「そうだ。政治に口出しをするんだろ?」

「可能ならば」

「回帰教と十字教が共同で押せば一人くらいなら最高評議会に送り込めるくらいにはなった」

「それは……」

「もちろんまだやらないがな。もっと大きくしてからだ」

「流石ですね」



アンリ先輩は俺の考えを先読みして見せた。

まあ、今までの行動を見ればわかるかもしれないが。

実際このままの状況では政治が戦争票だけで動いてしまう世の中になりかねない。

いやもうなっていると言っていい。

それだけフェザーンの資金が入り込んでいるということだ。

それに、ありがたいのは軍人を辞めるという点もだろう。

彼の死亡フラグを折ったとも言い切れないが、少なくとも軍に普通にいれば死ぬ可能性が高い。

次は長男のアンドレ・ビュコック氏、彼とはまだ面識もないんだよな。

早く面通ししておかないとな。

家の兄貴も軍にいるらしいから、せめて両方とも死なない様に手は尽くしたい。



「とまあ、俺からはそれだけだ」

「いえ、有意義でした。ビュコック提督には話されたので?」

「ああ、喜ばれたよ。いや笑ったと感じただけだがな」

「そりゃ、死ぬかもしれない仕事ですからね」

「まあそういう事だろうな」



アンリ先輩は渋い顔をする、確かに危険度は少しは下がったかもしれない。

だが、教主っていうのも大概色々問題の多い仕事だとは思うが。

俺はその事についてはあえて追求しないでおいた、アンリ先輩が分からずにやっているとは思えないからだ。

ともあれ、先輩のおかげで一歩前進したと言える。

この先、同盟を何としても勝利させないとな。









あとがき


ようやくジュージが中尉になりました。

次は大尉にしないとな、とはいえ駐在武官でどうやって階級を上げればいいのやら。

それに原作開始はまだ19年も先。

正直、原作崩壊フラグがどんどん積み重なっている感じがします。

せめて同盟の大規模侵攻くらいまでは同じ様にしたい気もしますが。

どうなりますやら。



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