ラインハルトによる皇帝交代劇により、帝国は未曾有の混乱の中にあった。

皇帝の孫であるエルウィン・ヨーゼフ2世を擁立したとはいえ、5歳という時点でお飾りに過ぎない事は明らかである。

ラインハルトは確かに先帝を殺すことには拘っていたものの、帝国を滅ぼすつもりはなかったので血筋は残す方向で進める事にしたのだ。

面倒な事になる場合は禅定させる予定であったが、一足飛びというのは不味いと考えたのだろう。


これに対し、真っ向から否定したのはブラウンシュバイク公爵とリッテンハイム侯爵を代表とする門閥連合だ。

彼らはラインハルトの擁立したエルィン・ヨーゼフ2世の即位を否定し、自らの孫娘を擁立しようとした。

だが、ブラウンシュバイク公爵とリッテンハイム侯爵にはどちらも皇室の血を引く娘がいるためなかなか決まらなかった。

門閥連合はそのせいもあり、今ひとつまとまりのない集団となっていた。


それとは別に、ラインハルトに対して強烈な批判を浴びせたのは、作戦途中で放り出された格好になった同盟付近の星を領土とする貴族たちだ。

もともとラインハルトが十分な報奨をするという前提で、作戦中だけ物資を引き上げるという事になっていたが、戻されたのは即位式の後であった。

更には、ラインハルトの立ち上げた新政府は門閥貴族達の不正取得した金を差し押さえ、その資金で改革を始めたため貴族たちの評判はすこぶる悪かった。

不正を行っていない貴族というのはほとんどいないと言っていい、それ故差し押さえに関わっていなくてもラインハルトに批判的になるのは当然だった。

実際、内心マーリンドルフ伯等は歓迎したらしいが、表立って接触はしなかった。

このあたり、原作と比べ信頼が低い事が如実に分かる事態である。


結果として、帝国は3つの勢力に別れた事になる。

ただし、現状において同盟付近に領土を持つ貴族達にはリーダーと呼べる存在がおらずこのままでは門閥に取り込まれるのが目に見えていた。

ラインハルトとしてはそれが不味い事がわかっているため、工作を進めている段階である。

そういったこともあり、ラインハルトもまた同盟に謀略を仕掛けるほど余裕がないのは間違いなかった。

一応の勢力図が整うまで、彼らの謀略が同盟に届く事はないだろうと思われた。





銀河英雄伝説 十字の紋章


第三十二話 十字、防衛圏を作る。






「ようやくだな……」

「はい、ギガントマキアの第最終目標であるフェザーン回廊帝国出口にようやく到達しました」

「色々邪魔はあったが、ラインハルト達がこっちに構っている暇がないのは助かった」



ブラウンシュバイクの艦隊や帝国軍の追撃はなかったものの、ワープ出現ポイントで小型艇によるハラスメント攻撃が結構あった。

ブラウンシュバイクもそれで勝てると思っているわけじゃないだろうが、ただで返したとなると面子にも関わると思ったのだろう。

地味な嫌がらせを何度か受けるはめになった。

被害はほとんどなかったが、時間を無駄に消費させられた。



「都合2ヶ月近い大遠征になったが、これでそれも報われる」



5個艦隊6万5千隻と輸送艦隊1万隻の7万5千隻によりガイエスブルグを回廊内に引き込む。

フェザーン回廊はフェザーンのある空間を除けば、イゼルローン回廊とそう変わらない幅しかない。

当然、大艦隊を入れると密集してしまうが、フェザーンに大艦隊はいないし、要塞砲もない。

なので、内側に向けては警戒せずに入り込んでいく。

だが、回廊内に入ると1千隻程度の艦隊が立ちはだかった。



『こちらはフェザーン警護艦隊、フェザーン領内に艦隊が入る許可は出されていません。

 直ちに引き返してください』

「我々は、フェザーンの度重なるテロや敵対的買収工作、政治家への癒着行為等、数多の罪状を持ってフェザーン政府に勧告するものである。

 フェザーンは直ちにその主権を停止し、同盟へ参加されたし、それが出来ない場合は敵国と判断し殲滅する」

『なっ!? 馬鹿な! 国家に対してその様な横暴が許されるとでも……』

「横暴は貴様らだ! サイオキシン麻薬の流布や海賊への武装供与等、罪状は上げれば切りが無い。

 もう一度だけ言うぞ、我らの言に従って主権を停止し同盟に参加するか、滅ぼされるか、どちらか選べ」

『……自治領主様に確認を取る……』



当然だろう、口ではともかく戦うとなれば50倍以上の艦隊を相手にしなければならない。

勝ち目等あるわけがないんだからな。

暫くしてフェザーンの領主官邸にて話し合いをする事となった。

まあ、話し合いと言ってもここから逆転の目はないから、条件の緩和狙いだろうとは思うが。

とりあえず、ガイエスブルグには一時的にウランフ中将を要塞司令及び駐留艦隊司令とし、残ってもらう事となった。

物資は高速輸送船1万隻に残っている物資の大部分を置いていく事になっている。


後々としては、ラップを中将まで昇進させて、ヤンとラップで同盟の守りをやってもらいたいと考えている。

まあ、直にというわけにはいかないが。

そんな事を考えているうちにも、艦隊はフェザーンを包囲するように布陣する。

俺は降下艇に乗り、護衛の部下を千人引き連れて領主官邸に降り立った。

もちろん、護衛が十分に安全が確保された事を確認してから降りる。

俺自身、個人用バリアーを含め完全武装だが。

なにせこれから会うのはルビンスキーだ、あいつは火祭りをやった実績がある。

下手に追い込むと自爆しかねん。



「ようこそお越を。私が自治領主アドリアン・ルビンスキーだ」

「俺は自由惑星同盟宇宙軍大将ジュージ・ナカムラだ」

「同盟の英雄、漫画王、今はコンビニ王もですかな。フェザーンにいても聞こえてくるよ」

「そうか、所で立ち話でいいのか?」

「これはこれは気付かず申し訳ない。付いてきてくれたまえ」



わざとだろうが、まあどうでもいい。

こちらは聞かれて困るようなことはないんだからな。

そうして、恐らく弁務官らと話すのだろう客間に通される。

俺は、護衛の一部を部屋の外に待機させ、10人ほど連れて中に入る。



「客間にあまり多く人を入れるのは無粋ではないかね? 部屋が狭く感じてしまうよ」

「そうか? 十分広いと思うが」

「これ見よがしな武力は関心せんぞ、同盟は開放を歌って攻めているはずだが?」



なるほど、確かにそういう文面がフォークの計画書にはあったな。

だが、それは帝国に対してであって、フェザーンに対してではない。



「いいや? これは懲罰進駐だよ」

「懲罰?」

「まさか、防衛艦隊との問答を聞いていなかった訳じゃあるまい?」

「聞いてはいたが、何のことやらさっぱりだな」

「そうか、証拠資料を確認してもらおうか」



俺は、同盟内の汚職資料、地球教徒の犯罪資料、フェザーンの献金事情等を記した資料を机にドサリと落とす。

薔薇の蕾、十字教、政府筋等あらゆる所から情報を集め精査したものだ。

まあ、精査は専門家任せなので、俺はタッチしてないが、確認はしてある。

調べれば出るわ出るわ、ルビンスキーの同盟乗っ取りがどれくらい本気だったかがわかる。



「汚職資金の流れがフェザーンに繋がるとしても、我らは商人の国。誰がしたかまではわからんよ。

 それに、地球教のやったことをフェザーンに合わされてもな」

「決まっている、お前がド・ヴィリエの直属だからだよ」

「……誰だねそれは?」

「残念だがこういう動画もある」



そうして俺がホロヴィジョンに映してみせたのは、ルビンスキーがド・ヴィリエと話し合っているシーンだ。

傍目からみても、膝をついてド・ヴィリエを迎えているルビンスキーという構図であり、上下関係は明らかだ。

これは、フェザーンで活動を続けている回帰教のメンバーからもらった。

アンリ先輩には頭が上がらないな……。



「なんとでも出来る程度の事だな」

「そういう心配はいらない、この録画機器はフェザーンの誇る最高級品だよ」

「確かにその様だが、だからこそ編集は容易い、証拠にはならんな」



認めない事はわかっていた。

別に承認が必要なわけでもない、ただこちらが証拠を抑えている事を知っていればいい。

何せ、こういった事を段取りしなければ結構厄介な存在だからだ。



「いいや、これらの証拠が全てお前の罪を物語っている。

 この場で首を跳ねればお前が何をするかわからないから、会っているだけの話だ。

 脳波が途切れると爆発する爆弾くらいは仕掛けているだろうからな」

「ッ!!」



この頃はハイネセンにまで手が伸びていないだろうとは思う。

脳派が途切れると爆発する爆弾なんて、1光時離れれば自動的に爆発するしかないからな。

しかし、フェザーン内には仕掛けている可能性が高い。

その程度の保険をかけていないとは思えないからな。



「まあ、心配しなくてもいい、ルビンスキー。

 俺は君にいい話を持ってきたんだよ」

「いい話?」

「単純な話だ、君に指示を出した存在を言えばいい。

 君は脅されていた事は理解しているとも」

「……」



俺はニヤリと口元を歪めて笑う。

フェザーンを取り込む時に面倒なのはルビンスキーと地球教徒だ。

だが、これをどうにかする方法がある。

それは、ルビンスキーに地球教を売らせる事だ。

そもそも、ルビンスキーが地球教に従っているのはフェザーン自治領が地球教によって成立した事に起因する。

自治領主は地球教の紐付きでないとなれないのだ。

ルビンスキー本人は野望を持っていて地球教に対して面従腹背であったのも知っている。



「そうすれば自由惑星同盟において、君の自由を保証しよう。

 俺の会社の株の半分近くが君のものである事も承知しているさ。

 これからは上手くやっていけると思わないかい?」

「なっ……」



株式名義はバラバラではあるが、警戒して薔薇の蕾に監視させていた。

やはりフェザーンが、とも思ったがルビンスキー本人に行き着いた時は笑ったものだ。

俺の会社の株で大儲けしていたらしい。

まあ、俺だって自分の会社で大儲けしたんだから人の事は言えないが。



「これからは、同盟で天下を狙えばいい。

 君が企業を起こして同盟最大手となろうと、評議会議員になろうと関知しない。

 君の才覚があればできるんじゃないかね?」

「……わかった」



アドリアン・ルビンスキーは折れた。

そもそも、別に義理もない目の上のたんこぶを切り捨てるだけの話だ。

それに、同盟市民になる事はルビンスキーにとって大きなマイナスではない。

帝国ならそういうわけには行かないが。

そもそも民主主義や共和制というものは個人のやる事に対し犯罪でない限りは口出ししない。

そして、コネと才覚のある人間が勝つのだ。

これは片方だけでは難しいのが実情ではあるが、帝国のようにコネだけが肥大化するよりマシのはずだ。

そして、ルビンスキーは両方持っている。

再起は難しくないだろう。


もっとも、監視はつける。

地球教との繋がりが完全に切れたかわからないという点もあるし、原作のようにハイネセンで脳波爆弾をやられちゃ敵わんからな。

ただ、追い込まれさえしなければ彼は有能な政治家だと思う、フェザーンの利益を回していたその力がほしいのは事実だ。

同盟の力は金の力と言っていい、それをフェザーンに抑えられていたせいで成長が阻害されていたのは間違いないのだ。

だからこそ、彼には期待している。


ルビンスキーから一通り聞き終えると、ルビンスキーに布告を出させた。

フェザーン自治領は解体されるが、自由商人の活動を制限はしない事と、積荷についてはチェックをする事の2つも含めて布告した。

ガイエスブルグがあるので、密貿易は格段にやりにくくなるだろう。

臨検のためにガイエスブルグの周囲に小さめの要塞というか基地を作っておくべきだろうな。

ガイエスハーケンの邪魔にならないよう、ガイエスブルグよりはフェザーン寄りに設置する必要があるが。

艦隊の駐留数を増やすためにも必要だろう。





そうして、フェザーンでの降伏勧告が終わり、一通り政治的やり取りと後から来た官僚への引き継ぎを済ませるのに2週間ほどかかった。

ガイエスブルグに駐留中のウランフ中将と第10艦隊とフェザーンの警戒のために残るルフェーブル中将の第3艦隊を除く艦隊を帰還させる事となった。


帰還を始める頃には同盟全体が浮足立っているのを感じた。

イゼルローン回廊を奪った時も凄かったが、今回はその比ではない。

今回の作戦により、同盟はかなりの出費を強いられたが、フェザーンからの賠償金で半分くらいは補う事が出来た様だ。

そして、フェザーンまでを領土としたことにより、各企業が積極的に貿易に打って出た。

これからは国内になるので、フェザーンとの商売に関税はかからない、まあその代わり所得税がかかるので無税とはいかないが。


そして、地球教の悪事も公開された、同盟にせっせとサイオキシン麻薬を持ち込んでいた事や政治を操るために献金を行っていた事。

更には数々の政治家暗殺や海賊に物資を提供し、同盟内で争いの種を撒いていた事も含めテロリストも顔負けの活躍に同盟市民も鼻白んだ。

結果、地球教は同盟ではテロリストと同義として嫌われる事となった。


同列に見られたくない者は各宗教に鞍替えするか、新規の宗教を起こし地球教とは違うというアピールをする。

ごく一部が地下に潜った様だが、暴力団と同じように狩り出せるように法整備が始まったらしい。

これにより同盟での地球教はほぼ力を失った。

同盟政治もこれで風通しが良くなるだろう。


汚職が無くなるという意味ではないが、少なくとも自分のためと同時に同盟のための政治をするようになるだろう。

今まではフェザーンや地球教のために政治を行っていたものがいたからな。

国が乱れるのも当然だった。



「閣下、ハイネセンまで後1時間ほどとなりました。諸々準備をお願いします」

「わかった」


そういえばラップに言っておく必要があるな、

俺が大将になった時に、中佐から大佐に出世したが、このままというわけにもいかない。

彼には最終的に艦隊司令にはなってもらわないと。



「ラップ、ハイネセンについたら准将に申請しておく、来月くらいだから準備しておけ」

「は? いやいや、私ほんの一ヶ月半前に出世したばかりですよ?」

「今回は大活躍だったからな、来年には少将になっているだろう」

「ぶっ」



二階級特進は死んだ時だけだから、一定期間置く必要があるのがちょっと面倒だ。

とはいえ、中将まで一足飛びというわけには行かない、少将になったら自前で手柄を上げてもらう必要があるだろう。

そんな事を考えながら俺は帰還の準備をする、恐らく色々なのがいる事だろう。

だが調子のいいトリューニヒトの事だ俺と一番に会って握手をしようとするだろうな。

後はテロの警戒もしておかないと駄目だろう。

とはいえ、目立つのも不味い。

色々やる事が多いな。


そんな事を考えながら廊下を歩いている時の事。



「うわぁぁぁぁッ!!!」



同盟軍の士官服を着た男が走り込んできて発砲した……。

俺は自分の胸元から血が出ているのを自覚する。

そういえば、一応耐弾耐刃のベストを着込んでいたはずだが……。

ビーム系の銃かーまいったな……。



「ナカムラ閣下! 貴様っ!!」



今度は俺を撃った奴が蜂の巣になる。


ラップ……追いかけ……てきてい…たのか……。


あ……り……が…………と…………な………………。




そのまま、俺の意識は沈んでいった……。












あとがき


地球教を徹底的に弾圧したら、軍の中に潜んでいた教徒に撃たれたでござるの図。

まーここの所教徒ほとんど出ていなかったので、少し活躍してもらいました。

ジュージの生死については、皆さんには大体わかっていると思いますので言いませんw

新年一発目がこんなので申し訳ないです。

とはいえ、毎回上手くいくのもおかしな話ですしね。

どちらにしろ、大金星なそいつらは基本それだけの出番ですがw

今回はモノローグが多いですが、色々語ると増えすぎるので、こういう形になりました。

ではでは、次もがんばりますのでよろしくおねがいします。



・2020年2月29日/文章を修正。



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