銀河英雄伝説 十字の紋章


第三十八話 十字、取引きをする。






正当同盟の軍事力は大きく分けて3つの勢力からなる。

陸軍と、第4艦隊と海賊の三種。

最初に対処すべきは地上部隊とその最高位にいるドーソン大将だ。

故に、俺はヤン中将とリンチ少将(復帰)に先行して宇宙にあがってもらった。

ヤン中将には第一艦隊を率いて、第四艦隊への対処をして貰う予定だ。

リンチ少将は悪名がまだ払拭されていないため、逆に使い勝手が良い。

終了後には悪名を取り除く事を約束し、フェザーン商人や海賊と接触してもらい、勢力構造を掴んだら殲滅して貰う予定だ。

サポートは通信がついたルグランジュ中将にお願いしている、彼も今や出世して第十一艦隊の司令となっている。


そして、俺のもとに残っているのは、クブルスリー大将捜索司令部であるアイアースの面々と俺の共犯者の皆さんである。

すなわち、ラップとトリューニヒトとアンリ先輩と教祖リディアーヌ、薔薇の蕾連絡役のアイネ。

そして、俺の護衛のゴクウとその小隊だ。



「アイネ、準備は整ったか?」

「はい、陸軍内に潜伏していた薔薇の蕾一個小隊は既に展開を終えております」

「何よりだ、閣下手伝ってもらいますよ」

「ふぅ、ジュージはいつも人使いが荒いね」

「ここが同盟が勝利出来るかの瀬戸際ですからね、閣下にも活躍してもらいますよ」

「命の保証はあるんだろうね?」

「無論です。逃げ隠れするよりも安全であることを保証しますよ」

「ふむ、頼むよ」



トリューニヒトにとって見れば、安心できる場所というのは重要だろう。

だが同時に、彼にとっては名誉も重要なのだ。

彼は人の欲望を見つけて取り入るのも、人を引っ張るアジテーション能力も高い。

だが、政治センスのほうはさっぱりだ、そもそも彼には同盟をこういう国にしたいというヴィジョンもない。

利権を貪り、贅沢をして、反対派は排除し、自分の権威を強めそして、栄光を得たいと考えている。

普通なら無理だ、原作で破滅したのは当然である。


だが、繰り手であるフェザーンや地球教が悪かった面もある。

彼らは自分達にとって都合のいい事だけをさせようとした。

それは当然政治バランスを崩すものだったし、同盟を疲弊させるものだった。

普通の政治家ならバランスを取り国家を疲弊させない程度にスポンサーの言うことも聞くものだ。

なぜなら、自分達の宿り木が枯れてしまうのは不味い事くらいわかっているものだからだ。

しかし、トリューニヒトにそういうバランス感覚はない。

国家が疲弊し、自分の栄光も霞んでいく中、ただ利益を貪り続けた。

彼が破滅するのは当然だったと言える。


だから俺は繰り手となった時、彼に金も票も与えたが、彼の行動を国がよくなる方に向かわせた。

面倒がったり、最初の頃はごねたが、それで栄誉が享受できる事がわかると手のひらを返した。

有り体に言えば、彼は自分の軍隊は持てなかったが、欲していた金と権力と栄誉を全て手に入れたのだ。

だから、普通なら逃げて引きこもる所を俺の言うことに従っているという事になる。



「通信開きます」

「頼む」



俺は、先ず陸軍の中枢である、ハイネセンの陸軍総司令部に連絡を入れる。

本来なら下っ端には繋がっても、上まで報告されることはないだろう。

今は彼らが優勢であるし、彼らはこちらの降伏を受け入れられるような組織ではない。

受け入れれば、常に逆転されるリスクを負わねばならないからだ。

だが、潜入させた薔薇の蕾メンバーの通信士官からドーソン大将に報告が上がった。

その結果として、ドーソン大将との会談が成立した。



「お久しぶりです。ドーソン閣下」

『フンッ、私の前に良く顔を出せたものだ』

「私がなにか、閣下に不利益を働いたでしょうか?」

『……ッチ!』



あーなるほどなるほど、これはまた典型的な不機嫌状態だな。

よほどのことを吹き込まれている可能性が高い。

俺が言った事は事実だが、確かに挑発に聞こえるだろう。

何で怒ってるのかわからないというのも本音だ。

彼には色々便宜を図ってきたつもりだが……。

おべんちゃらが足りなかったかな。

ここの所忙しかったから仕方ないんだが。

一番気に食わないのは、俺が同格の大将まで出世した事かもしれないがな。



「なるほど、色々と周りの方に吹き込まれているようで」

『貴様が私を裏切った事について色々とな』

「それが本当だとお思いで?」

『どういう意味だ?』

「私はドーソン閣下と相互利益の関係を維持してきたと自負しております。

 そちらの方にも相応の利益を出す様に気をつけてきたつもりですが?」

『そんな事ではない、貴様が政治家共に私の不手際を報告したせいで出世が遅れたのだ!』

「誓ってそんな事はしておりません」

『嘘をつけ!!』



こりゃ、正面からは無理だな。

まー半ば分かっていた事ではあるが。

とうの昔にバグダッシュを通じて取り巻き共の事は確認してある。

今の今まで放置しておいたのは、単に忙しかった事と薔薇の蕾の潜入を持って詳しく調べたかったからだ。

遅くなったせいでこんな事になるとは考えていなかったが。



「右隣にいるバルテレミー・ゲンズブール准将ですが、

 陸軍予算のうち装備品予算の横領、使途不明のまま計上していました。

 その金額は12年間を通じて3千万ディナール(約33億円)。

 これがその証拠である資料です」

『なっ、何!!?』

『ドーソン閣下!! 奴お得意の嘘です!!』

『あっ、ああ……』



ドーソンはいきなり俺が何を言い出したのかと不思議に思っているだろう。

だが、取り巻き共はしっかりと分かる。

そりゃ、自分の罪状だからな。



「左後ろに控えている、コンスタン・サンティレール少将。

 あなたは、新型戦車、高射砲、通信機器等の購入の際バックマージンを要求。

 その金額は11年間で1億2000万ディナール(132億円)。

 資料はこれですね、何度か査察対象になっています」

『……』

『そ、そんな事実はない! 捏造もいい加減にしろ!』

「右端の方に映ってるウジェーヌ・ガルニエ大佐」

『私はなにもない!!』

「地球教系テロリスト、憂国騎士団の副団長で地球教から活動費として毎年1000万ディナールをもらっています。

 目撃情報がほら、こんなに」

『ちっ、違う!! 俺じゃない!!!』

「ドーソン閣下、貴方の取り巻き18人、全員の資料があります。

 そちらに送ってありますので確認願いますね」



それまで怒りを持って俺を見ていたドーソンの目は理性を取り戻し、そのまま落ち込んでしまった。

全く悪事を知らなかったという事ではないが、並べてみれば罪のもみ消しや金を集めるために利用されていた事がわかる。

つまり、ドーソンは体の良い盾代わりにされていたのだ。

責任や悪名はドーソンに押し付け、利益だけ享受する。

だが、YESマンやおべんちゃら係ばかり集めればこうなるのは当然だ。



『なるほど……そういう事なのか』

「はい、貴方は人の集め方を間違った」

『どうすれば良かったというのだ?』

「目の前で貴方を褒めるかどうかより利益を与えてくれる相手かどうかを見極めるべきでした」

『……そうだな』

『ドーソン閣下ッ!?』

『ちっ……閣下にはお隠れになってもらえ』

『陸戦隊!』

『ハッ!!』


ズキューン!!



ブラスターの音が鳴り響く。

地上基地では流石に危ないのでゼッフェル粒子は配備してない。

なので熱線でも問題ないという事だろう。

しかし、ドーソンは倒れていなかった。



『これは……』



何度も鳴り響いた銃声は、ドーソンではなく取り巻き連中をどんどん貫いていく。

潜んでいた薔薇の蕾の工作員達だ。



「閣下の安全のために、部下を潜ませていました」

『はっははは……』

「そして、ドーソン閣下。貴方には元帥になり、統合作戦本部長を引き継いで頂きたい」

『は?』

「ご心配なく、閣下はもともと陸軍を掌握しクーデターを阻止するために埋伏の毒となっていたのです」

『いや、あのな……』



シトレはそもそも、今回の件で引退せざるを得ない、それに今のドーソンは統合作戦本部次長なのだ。

そのままでいても10年以内に統合作戦本部長になっただろう。

ドーソンに能力がないという点だが、実のところそこまで低くはない。

問題なのは彼が小市民であることと、自己の利益ばかり追求する取り巻きだ。

取り巻きはいなくなった、なら彼を統合作戦本部長に据える事は別に悪いことではない。

小市民なせいで、自分から思い切った作戦をやれないという点はあるが。

今回のことで恩人になる俺の言うことは断れないだろう。



『そもそも、そんな事ができるはずがないだろう……上層部が認めない』

「認めますよ。さて、出番です。トリューニヒト閣下」

「ほんと、君は人使いが荒いね。

 さて、ドーソン君。君は曲がったことは嫌いかもしれないが。

 今回君達がやったクーデターはそもそも、帝国の謀略だ。

 作戦の全てはローエングラム侯爵が作ったものだ」

『ほ、本当なのですか……』

「ああ、もう一つの反乱計画は事前に潰せたのだが、2つ同時に仕掛けてくるとは我々も読めなかった。

 同盟は今帝国に対し優位を取っている、この状況なら普通我慢するもんじゃないかね?

 だいたい、今は帝国が内乱中だ、同盟内で荒れるより、帝国に侵攻したほうが利益も名誉も手に入る。

 なのになぜ、これだけの規模の反乱を起こす? 少しは疑問に思わなかったのかね?」

『……違和感は持っておりました』

「ローエングラム侯爵は策略の天才だ、君達が騙されたのは仕方ないが、最後まで踊るつもりかね? 帝国のシナリオで」

『業腹ですな……、私はこれでも同盟を愛している』

「ならば、我らの提案に乗り給え。君の才覚は買っているのだよ」

『了解しました』



こうしてドーソンは陸軍の半分以上を引き連れて投降した。

もともとドーソンが反乱分子の排除を計画していたという事にして。

正直、ラインハルトがどうやって彼らを煽ったのかわからない。

原作と違い同盟は別に負けがこんで国家が傾いている訳ではない。

それでもこれだけ反乱分子を煽った事は正直恐ろしい。

だからこそ、相手がまだこちらに対処できる状態になるより前に排除しなくてはならない。



「これで、ハイネセンにおける反乱分子は地球教を主体にしたメンバーのみか」

「はい、ドーソン閣下が抜けた事で勝ち目がないと見て潜伏した者も一定数おりますので残りは当初の3分の1程度と思われます」

「対処のほうはドーソン大将に一任するか」

「内情は知っているでしょうから、素早く対処出来るでしょう」



アイネは参謀としての能力も十分持っているので助かる。

まあ、艦隊戦においてはヤンやラップには到底及ばないだろうが。

戦いはそればかりというわけではないんだからな。



「ヤンが率いている第一艦隊はどうなっている?」

「はい、ムーア率いる第4艦隊を包囲殲滅で削っています」

「同数で包囲か、流石だな」

「分断し、各個撃破を行っていますので、既に2割以上削っています。

 何度か投降の呼びかけも行っていますが、ムーアは聞く耳を持たないようです」

「……第四艦隊に潜入している人間はいるか?」

「薔薇の蕾は潜入していませんが、通常の士官として任官している回帰教徒は何人かいたはずです」

「アンリ先輩は今どこにいる?」

「個室の方にお連れしています」

「なら、少し行って見るか」



回帰教徒が全てアンリ先輩に従うというわけでもないだろうが。

それはそれとして、乗せる事は出来るかもしれない。

このままではヤンが殲滅してしまうだろう。

だが、ムーア本人さえどうにかすれば投降させられる可能性は高い。

第四艦隊は同盟の貴重な戦力だ、同士討ちで失うにはもったいない。


アンリ先輩がいる個室まではほんの3分程度でついた。

まあ、先輩の事だからもう手を回している可能性もあるが。



「先輩、少し話があるんですが」

「ああ、入れ」



中に入ると、アンリ先輩は通信を行っているようだった、だが通信先は俺の考えていた所ではなかった。

相手は……帝国の貴族階級のように見えるが……。



「ああ、丁度いい。お前にも話そうと思っていた所だ」

「どうしたんです?」

「彼は、クラウス・フォン・デッケン子爵だ」

『クラウス・フォン・デッケンだ、よろしく同盟の英雄殿』

「ジュージ・ナカムラです。こちらこそよろしく」

「彼は中立派の取りまとめ役の一人でもある」

「中立派はマーリンドルフ伯が代表になったはずでは?」

『そうでもない。

 マーリンドルフは意志の弱い貴族を餌で取り込んでいるだけだ。

 本気で支持しているやつは2割といったところだな。

 我々には大きな軍事力はない、よってマーリンドルフを通じて金髪の孺子につくかブラウンシュバイクらにつくしかない。

 だが、上級貴族は皇帝の血筋である事で一般の貴族を見下している。

 恐らく、金髪の孺子への盾にされるだけだろう、となれば少しでもマシな金髪の孺子につくしかないというのがその主張だ』

「なるほど」



イゼルローンやフェザーン周辺にいる領主貴族は男爵や子爵が多く、上級貴族と直接の繋がりが少ないという事か。

だから、同盟の帝国侵攻の時、焦土作戦に反対出来るほどの地位の貴族がいなかったのだろう。

そして今は、その焦土作戦をしかけたラインハルトと、自分達を盾として使うのが目に見えている門閥連合を天秤にかけるしかないと。

恐らく彼は、そのどちらも嫌な派閥ということか。



『回帰教に帰依することで、我らを自由惑星同盟の友好国と出来ないかという話をしていたのだ』

「アンリ先輩凄いですね」

「ははは……まあ、確かに悪い提案ではないと思う。彼らは貴族制度は維持したいがゴールデンバウム王朝は見限ったという事だ」

「しかしなるほど、友好国ですか……悪くないですね。正直同盟が帝国と戦うにしても直接統治が出来るほどの人員はいませんし」

『ほう、英雄殿も乗り気か』

「一存で返事は出来ませんが。回帰教を通じてこちらとやり取りをしてくれるというのもありがたいです」

「では図ってくれるか?」

「はい。幸い評議会議長がいますからね。頑張ってもらいましょう」

『はっはっは、政治首班を顎で使うとは流石英雄殿だな』



そうして、細かいことをある程度詰めてから通信を落とした。

アンリ先輩はいつの間にここまでやっていたのだろう。

まあ、会期教を地球教の対抗馬として宇宙全土に広げるのが彼にお願いした事なのでそれを実行しているんだろうが。

さすがの手腕と言わねばならないな。



「それで、何か話があったんじゃないのか?」

「ヤン中将が率いる第一艦隊が第四艦隊と戦闘始めている所ですが、

 勝利は時間の問題、しかし、このままでは貴重な戦力が一個艦隊まるまる消滅する事になります」

「なるほど」

「幸いにして第四艦隊には回帰教徒も一定数紛れ込んでいるという話なのでお願いしたい事がありまして」

「わかった、そっちの方もやっておこう。降伏でいいのか?」

「頼みます」

「任された」



反撃の準備は整った。

ようやく動き出せるな、しかし、アンリ先輩様様だな。


後は、第六艦隊の招集もしなければ。



そうして俺は動き始めた……。








あとがき


なんだかんだで動き始めるまでかなりの話数を割く羽目になりました。

準備は地味だし、ネタはあまりないしで申し訳ないと思っておりました。

ようやく次回から話が動かせます。

がんばりますね!



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