「艦隊による突撃は恐らく通じない。ここに5個艦隊揃っていても無理だろう」



ラインハルト・フォン・ローエングラムはそう言葉に出した。

それは、当然と言えば当然だ、相手はまだ7個艦隊は保持している。

その上、ヤン・ウェンリーという艦隊戦の天才がいる以上奇襲も簡単には成功しない。



「ですね、普通の奇襲では恐らく返り討ちに合うのが関の山かと」

「その通りだが、お前にそう言われるとは思わなかったぞ、キルヒアイス」

「僕は出来ない事は出来ないといいますよ」

「それもそうだったな」



ラインハルトは嬉しくなったのか、口元を緩める。

一発逆転を狙っての奇襲、それを行うには色々と条件が存在する。

こちらは全部で5個艦隊、そのうち3個半艦隊は揺動のためにファーレンハイト艦隊を攻撃している。

こちらの自由になるのは1個艦隊半。これで同盟軍に勝利出来ると考えるなら頭お花畑と言えるだろう。

だが、それをしなければいくら奮闘しようとジリ貧だ。



「やはり、ジュージ・ナカムラを殺すしかあるまい」



ここでジュージ・ナカムラを殺す事ができれば、他の同盟軍にも動揺が走るだろう。

彼は、その手段は兎も角、提督になって以後の戦いにおいて一度も負けていない。

常勝の英雄なのだ、彼がいなくなればそれだけで指揮はガタガタになるだろう。

一部の、ヤン・ウェンリーや幾つかの艦隊は残る可能性はあるが、それでも大幅な弱体化を見込める。



「でもどうするんだい?」

「奇襲も駄目、艦隊戦も駄目なら決まってるだろう?」

「まさか……」



不安を口にするキルヒアイスにラインハルトは口にだしては何も言わなかったが、口元を釣り上げる。

それは……。





銀河英雄伝説 十字の紋章


第四十五話 十字、戦いを終わらせる。






「ローエングラム艦隊、下方小惑星影より出現! こちらに主砲を向けています!」

「機関全速! 相手の砲撃が来る前に射程外まで走り抜けろ!!」

「はっ!」



こちらが正面の敵艦隊に向き合っている所にドンピシャで現れたラインハルト艦隊。

いや、どちらかと言えばキルヒアイスの艦隊なのだろう、赤い戦艦が確認されている。


敵艦隊は下方から現れた、一個半艦隊。

しかも、こちらが動きが取りにくくなっている所にしっかり突き刺さる様に来ている。

このままでは俺の死亡は確定だろう……。

だが、俺だってそう簡単にやられるつもりはない。

そして、この手の状況は優秀な提督と参謀に任せればいい。



「第十三艦隊はどうなっている?」

「はい、奇襲艦隊を既に射程に捉えています」

「なら、殲滅は任せた」

「はっ!」



通信士がヤンに許可を伝える。

ヤンはどうせ愚痴っているんだろうが、しっかり仕事はしてくれた。

あっという間に敵艦隊は半数近くまで減り込んでいく。

そして、怯んだのか動きを止めて、ごく少数の艦隊だけが吐出する。

止まった艦隊は第十三艦隊の餌食となってどんどん撃沈ないし、航行不能になっていく。



「不味いですね」

「どうした?」

「吐出してくる十隻程度の艦隊はジークフリード・キルヒアイス上級大将の旗艦バルバロッサを含む艦隊です」

「何っ!? という事はあれも作戦行動なのか?」

「はい、まだこちらは下方に艦隊を向けている最中です。

 前方は敵味方入り乱れて戦っていますので、愚策とはいえこうするしかなかった」

「誘導されたという事だな?」

「はい」



ラップの眼をかいくぐったのか、俺のせいか。

まあ、俺のせいだろうな。

ラップももっと進言してくれればいいのに、思う存分丸投げするから。



「で? ラップが落ち着いてるという事は何か手があるってことか?」

「普通ですが、スパルタニアンの展開ですね。距離はまだ少し遠いですが。

 こちらを主砲の射程に収めるまでに展開できれば、動きを止められます。

 向こうも出さざるを得なくなる」

「無視して主砲って事はないのか?」

「その前にスパルタニアンが到達します。

 充填中にどかんとなるだけですよ」

「ならば、全艦スパルタニアン発進! 少し遠いが増槽をつけて飛ばしてやれ!」



これで上手くいくのかは五分五分くらいに思えるが。

相手もここまで追い込まれれば破れかぶれだろう。

この状況でなら、死んでも主砲を撃つなんて本末転倒な事も起こりうる。

だが、俺はそんなので死んでやるつもりはこれっぽっちもない。

例え主砲の攻撃にさらされても生き残る算段くらいはつけてある。

この艦はブリッジから直接脱出ポッドに乗り込める仕様だ、ブリッジに直撃でもしない限り逃げられるはず。

更にブリッジ周辺には色々と防御設備をとりつけてある。

自費で戦艦を強化したのは俺くらいのものだろう。

安心出来るとは言い切れないのが難点ではあるが。



「第十三艦隊と交戦中のラインハルト艦隊旗艦ブリュンヒルトが轟沈!」

「……恐らくもぬけの殻だな」

「そう感じますか?」

「ああ、奴の豪運はこの程度でどうにかなるほど簡単じゃない」

「ならば、バルバロッサの方に乗っていると?」

「……わからん。ラインハルトの戦法は基本、自分たちに損害を少し出しても相手の艦隊を突っ切る事が多かった。

 ここのところは相手より数が多かったからしなかったんだろうが……」

「まだ伏せている可能性があると」

「そうだな、恐らく。その可能性はあると思う」

「……ですが、今伏せられる戦力等たかが知れている」

「そう、10隻程度の囮だ、スパルタニアンだけでも殲滅ができるだろう」

「なら、隠れられるのは巡洋艦か駆逐艦、それも1隻か多くて2隻」

「だとすれば……」

「不味い!」



その次の瞬間、ズズーンッ!という音とともに艦が揺れた。


つまり……。












ブリュンヒルトとバルバロッサを含むほぼ全ての艦隊を囮として使い、ラインハルト達はステルス性の高い巡洋艦で敵艦に迫る。

それは、戦法というには荒っぽすぎる代物であった。

今までの全てをかなぐり捨て、目の前の勝利のために特攻する。



「思い出すな……」

「え?」

「何も無かった頃、俺とお前だけで軍に飛び込んで無茶をした」

「そうだね」



ラインハルトの呟きに、キルヒアイスは微笑みで返す。

命を失うかもしれないような場面には相応しくない、しかし、だからこそ話すのかもしれない。

最初の頃は命を失う様な場面は日常茶飯事だった。

今でこそ、大艦隊を率いふんぞり返っているが、基本的に全ての役割を一流でこなせる天才達である。


キルヒアイスは原作で語られていた事を考えると秀才であると思うかもしれない。

しかし、20歳を越えたばかりの人間が白兵、銃撃、艦隊運用、外交といった多面的に一流になれるかと言われれば疑問だ。

普通に考えれば努力で補える限界をはるかに越えている。


そんな彼らなので、以前の自分達を思い出す場面であるのは間違いないのだろう。



「だから、最初からやり直す」

「そうだね。ここで勝ってもう一度やり直そう」

「済まないなキルヒアイス。お前には帳尻合わせに突き合わせてばかりだ」

「いいよ、最初に誓ったじゃないか」

「ああ、お前となら出来る」

「やろう!」



こうして、自分達の気分を高揚させたラインハルトは巡洋艦をバルバロッサの影から飛び出させる。

ちょうどバルバロッサに艦載機や主砲が集中している事を見越してだ。

もちろん、ブリュンヒルデやバルバロッサは自動操縦に切り替え乗員は脱出させてある。

この時点でラインハルトは作戦の成功を確信していた。

ジュージ・ナカムラの乗る、第一艦隊旗艦アイアースに可能な限り死角を突いて激突させる。



『さあ、乗り込むぞ!

 アイアースを制圧し、可能ならジュージ・ナカムラの捕獲、無理なら確実に殺せ!

 幸運を祈る、プロージット!』

『『『『プロージット!』』』』



突撃部隊全員が行き渡っているワインを一気に飲み干しグラスを叩き割った。

そして、アイアースに空いた穴に通路を突き刺し走っていった。



『心配なのは、敵の使ってくるパワードアーマーだな』

『確かにパワーや耐久性は段違いのようだね、ただ3m近いサイズになるから小回りは効かないはずだよ』

『だろうな、だが追い込まれたら終わりだ、時間をかけずにブリッジを制圧する!』

『了解!』



通路のシャッターが閉まっていくが、それよりも素早くラインハルトの部隊はブリッジへ向かっていく。

しかし、当然ながらブリッジのシャッターはもう降りていた。

だが、その程度は予想済みだ。

指向性ゼッフェル粒子を使い爆発に方向性をもたせシャッターに穴を開けた。

ゼッフェル粒子は少量でも彼らが死んでおかしくない爆発を生む、それを一方向に集中させ厚さ20cmの鋼材すら貫く刃としたのだ。



『始めましてかな、ナカムラ大将閣下』



ラインハルトは余裕を持って部隊ごとブリッジに侵入した。
















全く、最後は肉弾戦というわけかよ。

ラインハルトやキルヒアイスにとって、白兵戦は得意分野だ。

かの不良軍人ことワルター・フォン・シェーンコップとキルヒアイスが互角にやり合ったというエピソードがある。

ラインハルトもそれに近い白兵戦能力を持っているという事だ。

つまり、彼らと白兵戦をするという事はシェーンコップ2人を相手にするようなものである。

俺は直様各ブロックのシャッターを下ろす様に命令を下した。



「間に合うと思うか?」

「全てとは行きませんが、ブリッジのシャッターは間に合います」

「……それじゃ駄目だな」

「はい?」

「あいつらは同盟軍最強と言っていいシェーンコップ准将と互角だ」

「ローエングラム侯がですか?」

「キルヒアイス上級大将が、だがローエングラム侯も同等の強さだと聞く」

「彼らはスーパーマンか何かですか!?」



ラップは流石に切れた。

俺が作ったパチもん漫画の一つを思わず叫んで。

だが、それはよくわかる。

外交をこなし、内政をこなし、策略をこなし、艦隊戦をこなし、白兵戦もこなす、それも全て超一流なのだ。

更には帝国は軍で勝り、利用されてない埋蔵金(門閥の金)が大量にあり、彼は20歳までに元帥になる。

もっと言えば、最大の怨敵であるフリードリヒ四世は自分を元帥まで引き上げたあと、ぽっくり行ってくれるのだ。

復讐をする必要がなくなったため、名誉に傷もつかず門閥を賊軍として始末するだけで皇帝への切符が手に入る。

そして、皇帝となった時、彼の策略によって同盟は既に国としては終わっているのだ。

正直言って、2020年頃の作品としてそんなチート主人公の話を出せば叩かれるだろう。

それくらい完璧な主人公なのだ、ラインハルトは。


そんな事を考えているうちに、こちらのパワードスーツ部隊を部隊の一部を使って足止めしつつ、シャッターを爆破した。

指向性ゼッフェル粒子……こんな使い方も出来たのか……。



『始めましてかな、ナカムラ大将閣下』



装甲服の通信機能を使って俺に話しかけてくるラインハルト。

ブラスターを構えている所を見るに、ゼッフェル粒子の広域散布はしていないようだ。

まあ、そんな事をしていたら指向性ゼッフェル粒子に誘爆するわけだから出来るわけもないか。



「そうだな、確かに対面するのは初めてだ」

『だが、貴方には散々煮え湯を飲まされた』

「お互い様と言っておこう」

『だが、最後は俺達の勝ちのようだな』



天才のはずのラインハルトも俺を眼の前にして話しかけるくらいはしたくなったという事か。

ありがたい話だな、本当に。



「それはどうかな?」

『心臓に穴が空いても、そう言えるかな!?』



ズキューンッ!!


ブラスターは確かに俺の心臓へ向けて発射された。

しかし、俺は電磁バリア発生装置を起動している。

熱線は俺まで届かず弾け散った。



『バリアッ……だと!?』

「なんの備えもしていないと本当に思っていたのか?」

『そんなもの! ッ!!?』



ラインハルトが個人用のバリア発生装置の脆弱性に気が付き連射しようとするが次の瞬間ブリッジー下部からパワードスーツが飛び出してくる。

あっという間に一個小隊30人分のパワードスーツ部隊が現れた。

ゴクウは俺の護衛部隊を率いてきた。

そう、護衛は直ぐ近くに控えていなければならない。

だから、ブリッジ内で潜伏してタイミングを図っていたのだ。

そもそも、ブリッジは高低差があるため、隠れる所には事欠かない。



『伏兵かッ!?』

『ラインハルト様ッ!!』



近づいてくるパワードスーツにキルヒアイスと思しき装甲服はブラスターを連射する。

しかし、パワードスーツは基本的に重装甲なのだ、装甲の一部が剥げる程度の事は起こるが、ダメージは与えられない。

ただ、やはりラインハルトもキルヒアイスも天才だけあって直様戦い方を切り替える。


関節部への攻撃や、ジェネレーターのある場所に集中攻撃をしたり色々派手な事をしている。

だが、装甲が30cmもあるため、ブラスターで表面を溶かされてもまるで効いていない。

パワードスーツに対して正面からは対処出来ないと判断したラインハルト達は関節部を集中攻撃するようになった。

この事により、一時的に戦闘は拮抗した。



『ラインハルト様! パワードスーツは僕と部下達でなんとかします。

 ラインハルト様はジュージ・ナカムラを!』

『わかった!』



ラインハルトはパワードスーツ達の隙間を縫う様に俺へと接近してくる。

正直、俺は白兵戦能力は並の兵士とそう変わらない。

超一流の白兵戦能力を持つラインハルト相手に正面から戦うのは不可能である。




『今度こそッ!!』

『させるかッ!!』



ラインハルトと俺の間に一体のパワードスーツが立ちふさがる。

ゴクウ……どこまでも真面目な。

嬉しいけども、パワードスーツを使えばそうそう怪我もしないだろうが、それでも心配だ。



「タイムアップだな」

『ッ……そういう事か……』



ブリッジの出口方向から戦闘音が聞こえてきた。

通路はラインハルト達に占拠されていたのに戦闘音が響くという事はつまり、各部署の防衛を行っていたものも集合しているという事だろう。

この艦に乗っている白兵戦要員は大隊規模1500人。

パワードスーツを全員にというわけにはいかないが。

100人分のパワードスーツと、ノーマルの装甲服も改造してにパワーアシストもつけてある。

数の暴力により、あっという間に通路は取り返す事に成功し、ブリッジになだれ込んでくる。



「形成逆転だ、降伏をお勧めるる」



俺はさも全て予定通りという風に装った。

当然ながら予測なんて出来ていない、初めてづくしなのだから。

だが、用心だけは欠かさない様にしてきた。

それが、このバリアでありシャッターでありパワードスーツであり大隊規模の陸戦要員だ。

どんな状況にもある程度対抗できる、流石にラインハルトが突っ込んでくるとは思っていなかったが。

言ったそばから、キルヒアイスも完全に囲まれていた。

戦闘力が高いため反撃は激しいが、それでもパワードスーツには大したダメージが入らない。

キルヒアイスが倒されるのは時間の問題だ。



『……わかった。俺の負けだ」



ラインハルトは装甲服のヘルメットを脱ぎ両手を上げて降伏を示した。


ここに、銀河帝国と自由惑星同盟の戦争は終結したのである……。








あとがき



ラインハルトに対して勝利する。

というのは、正直不味いかもしれないと思いました。

ですが、これ以外の結末は思いつきませんでした。

自分が弱者だと知っているジュージは自分を守る事には手を抜きません。

最後の最後はブリッジの爆破もありえたと言っておきましょう。


ともあれ、ようやく銀河英雄伝説 十字の紋章の物語はほぼ完結となります。

次回はエピローグという事になりますのでまた2週間後に投降しますがw


この作品は同盟が勝利するというテーマをつけたので、帝国と同名の差、ラインハルトの能力等を語る必要があり。

ジュージは敵の強大さを常に語る、ちょっとうざい感じになってしまいました(汗)

とはいえ、どれも調べれば調べるほど頭痛いほどに差があったのは事実です。

今後、同盟作品を書く人がいるのでしたら私の書いた事は基本的に使ってくださって結構です。

まあ、必要性は薄いと思いますがw

コピペ以外では文句を言うつもりはありませんので。

ではでは、エピローグでまた。



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