機動戦士ガンダム〜転生者のコロニー戦記〜





第三話 トレノフ・Y・ミノフスキー



イーサン・ライヤーを防衛艦隊司令として迎え入れた事で仕事量を軽減する事が出来た。

流石に半減とはいかないが、新規防衛計画は旧来のメンバーでは厳しいのだ。

ジオンに対してなぁなぁになっている所があるのも否定できない。

何せお隣なわけで、人の行き来もまだ途絶えているわけでもない。

まして、連邦に対する不満を持っている人間も一定数いるのは事実だしな。


だが、ジオンがコロニーに対する核攻撃や毒ガス攻撃をする可能性について考えている人間は誰もいない。

これに対してのジオンの情報規制の徹底ぶりは相当なものだ。

ジオン側の情報収集能力と比べ連邦はMSやミノフスキー粒子にすら危機感がない。

とても30倍の国力があるとは思えない情報収集能力だ。

こんなのだから、後々までジオンに手玉に取られ続ける事になるのだろう。


連邦は腐敗しているというが、それ以前の問題だ。

連邦を構成している各国がなぜいつまでも連邦に甘んじているのか不思議になる。

地球連邦政府は国家として絶対にやるべきいくつかの事を怠っている。

それは、アニメ作品として作られたが故の不完全さなのだろうが現実になると頭が痛い。



第一に決断を怠っている。


よく考えてみればわかるのだが、別にジオンは現状国内の反乱組織なのだから相手が動くのを待つ必要はないのだ。

ジオンが軍の体裁を整える前に、なんならモビルスーツや一部の戦闘艦を生産した時点で軍を動かしても全く問題ない。

そもそも国家が相手ではないから国際法なんて気にする必要もないのだ。

罪なら内乱計画罪でもいいし、テロ準備罪でもいい。

一週間戦争はつまり、公国が十分な軍事力を整えるまで待ったが故に起こった悲劇であると言える。


だが、今となっては後1年待つしかない、大きな差がないからだ。

今すぐ開戦したとしてもザク9割旧ザク1割の編成からザクと旧ザクが5割づつになるくらいだ。

こちらはトリアーエズとエース用のセイバーフィッシュしかない。

ジオンの成長を阻むよりも、こちらの兵器を底上げするしかない。



第二に情報の管理を怠っている。


さっきと同じだがジオンに対して情報収集や防衛能力に劣っている。

それだけではない、情報は運用する必要がある。

非情な行動をとる相手を非難しなければ、国民が弱腰だと思うのは当然だ。


レビルは優勢に戦争を進めながらデギンの降伏を受け入れようとした。

これは国民感情的な意味でありえないと言える。

ここで降伏されては世界人口の半分の死に対する報復にならないからだ。

またレビルが死んだというのに、連邦はジオンの降伏を受け入れている。

そしてそれが、後々まで続くジオンのテロの呼び水になってもいる。


この感情は情報を正確に伝えれば全てジオンに向くものだ。

何せ生き残ったほぼ全ての人間の近しい人が死んでいるはずだからだ。

それをごまかした結果が、アースノイドとスペースノイドとか言う対立構図だ。

しかも、スペースノイドの代表にちゃっかりジオンが収まるという意味不明っぷりである。

ジオンはサイド1,2,4,5を壊滅させたスペースノイドの仇敵なのにだ。

相手の言いたいことを言わせておくのは問題外を通り越して害悪だろう。


というかゼータでシャアが連邦大統領にもなれるとかなんとか言ってたが、

シャアはコロニーに核バズーカを撃ち込んだ部隊にも参加しているはずだし、コロニー落としの作戦にも参加していた。

直接間接は分からないが、階級の上がり具合から見て虐殺に貢献しているのは明白である。

それが大統領とかもう意味不明過ぎて笑えて来る。



第三に軍の管理を怠っている。


これも言うまでもないが、ティターンズやエゥーゴは不祥事所の話ではない。

ジオンの情報操作を真に受けたティターンズというアースノイド至上主義ブーム。

これは、本来政府や軍上層部なら防げた問題である。

政府や軍上層部は内情を知っているはずなのに、鬱憤のはけ口としてティターンズを受け入れた。

ジオン利権のようなものがあったのだろうが、酷い話である。


そしてエゥーゴに関してはより酷いと言えるだろう。

ブレックスの理想がどうであったかはわからないが、実質アナハイムの犬に成り下がっている。

増してや、シャアに組織を託そうとしたり表舞台に出る様にそそのかしている。

ジオンダイクンの理想はともかく、サイド1,2,4,5の死者達の事をどう思っていたのか。

それに、エゥーゴのせいでアナハイムはより巨大になり、ジオン残党への支援も膨らんだのだからどうしようもない。


エゥーゴを前身としアナハイムの支援を受けてジオン残党狩りをするロンドベル等まさに、アナハイムの道化だろう。



これらは、元の世界においては単にアニメが続いた事による設定の矛盾という面が大きかった。

連邦そのものの描写等が少なかったせいもあるが、制作側に蔑ろにされてきたというのが本当の所だろう。

何せあれだけシリーズが続いたにも拘らず連邦政府の状況等はふわっとしかわからない。

コロニー落としの被害等もまちまちで、ダブルゼータの頃等はコロニーが落ちてからジュドーが逃げて間に合っていたりもする。

何せ科学的な資料が無かった頃に始まったシリーズなのでその差が顕著なのだ。

それに応じて、政府やジオン等の反応も変更する羽目になり、それを繰り返す関係上、おかしな事態がどんどん増えた。

だが、今はそれらは現実となって俺の前にある。

何とか付き合っていくしかない現実なのだ……。



「ライヤー准将、やはり仕事が早いね。助かるよ」

「当然でしょう、そのためにヘッドハンティングされたのだから」

「部署の掌握はうまく行っているかい?」

「おおよそ半分くらいでしょうか、流石に着任半月程度では限界もあります」

「十分だよ、私は今あまり内部の事に時間を割くわけにはいかなくてね」



俺の発した言葉に、ライヤーはピクリと口元を動かす。

そして、皮肉げに俺に帰して来た。



「対ジオン防衛計画ですか、彼らに聞いても今一つ要領を得なかったのですが」

「ははは、最重要機密ってやつだ」

「私には閲覧顕現がないと?」

「今は、どこから情報が洩れるかわからないからね。

 もちろん、君がジオンシンパだとは思っていないが、君の行動から類推される可能性もある。

 ある程度形になるまでは誰にも知られたくないんだよ」

「ジオンがそれほどのものとお考えで?」

「そう、それだよ」

「は?」


俺は、ライヤーの反応からやはりと思う。

サイドTだけの話じゃない、今は誰もジオンに脅威を感じていないのだ。

せいぜい、反抗的な動きをしているという程度。

独自の戦略を持った組織だと誰も認識していない。

せいぜい、テロを起こす可能性のある武装組織程度の危険度としか判断されていないのだ。

ゴップ大将のような政治将校を除けば、ジオンが連邦の目から完全に消えているという事なのだ。



「私はね、独自に色々と調べている。何せこのザーンから見れば、ムンゾはお隣だからね。

 彼らがいつ暴発してもおかしくないほどに危険度が上がっている事を知っている。

 だから防衛計画を作らせてみた事もあるが、残念ながら見識の甘い物しかできなかった」

「ふむ、ではこのままではサイドTの防衛は難しいと考えておられるので?」

「その辺りはご想像にお任せするよ。これ以上は内容につながりかねないしね」

「分かりました、その時を待つ事にしましょう。

 ですが、あまり待たせるとこちらも調べたくなるかもしれませんので」

「発表できる段階はまだまだ先だろうがね」

 

やはり、かのイーサン・ライヤーだけあって一筋縄ではいかないか。

今の会話からおおよそを掴んだ可能性もある。

だが、今の段階からあまり広まってしまうとジオンが対策をしてくる可能性も高い。

例えば、戦争開始を早めたり等だ、正直今でもスケジュールギリギリなので、それをされてしまうと勝ち目がない。

まあ幸いにして、まだ本格的にどうなるかは俺の頭の中にしかない。

漏れて困る段階はまだ先ではあるのだが。



「さて、以前過労で倒れた関係もあって、8時間労働を義務付けされているのでね。

 後の事は頼んだよ、イーサン・ライヤー准将」

「はっ! 2年後を楽しみにしております!」



早速、自家用のエレカ(EVと言った方が通りがいいが)に乗り込み軍施設から出ていく、護衛の車両もついてくるがそれは仕方ない。

そうして、俺は家に帰るのではなく、ロンデニオンの郊外へと向かう、行先はヤシマ重工の出張所だ。

ロンデニオンは軍のコロニーという事もあり、兵器に限らず軍関係の色々なものをテストする事も多い。

当然軍需産業が出張所を構えており、ヤシマ重工もその例に漏れない。


当然、俺がここに来る事は軍にはバレバレなので、ライヤーも知っている。

対ジオン戦略の何かだろう、とは理解しているだろう。

ただ、ヤシマ重工内部には、護衛も入れない。

ここからはヤシマの護衛チームが引き継ぐからだ。

これに関しては、ゴップ大将を通じて話を通してあるので護衛も渋々引き下がっている。


ヤシマ重工の護衛に引き継ぎを行った後、出張所内を通って地下兵器工場へと向かう。

ロンデニオンにはこういったものが多数存在する、もちろん軍独自の工廠もある。

企業工場も基本的に軍の管理下にあり、ここで作ったものやデータを持ち出すのには軍の許可が必要だ。

企業といえど軍事機密の漏洩が起これば裁かれる。

当然の事である、何せこれらは人の命を奪うものであるから、軍という政府の暴力装置以外が管理をする事は許されない。


そのはずなんだが……、何と言っていいのか。

ガンダム世界は基本的に軍に懐疑的というか、軍と企業は癒着しており、企業は技術を漏洩するものという考えが根底にある。

中でも有名なのが売国企業アナハイムだが、ジオンとの取引は次第に緩くなり、ヤシマも未来には取引するという話を聞いた事もある。

そのため、この世界にもそういう歪さが引き継が出ているらしい。

つまり、ここで作っているものは主導している俺が機密だと言えば、軍上層部にすら秘密に出来るという事だ。

まあ、この辺もゴップ大将様々であるが、同時にいずれ無くさねばならない歪みでもある。



「御加減いかがですか? ミノフスキー博士?」

「良い訳がないだろう! 私はジオンに狙われているのだ! 勝手に連れ出してくれて、それがサイドTだと?」



爺さんの名はトレノフ・Y・ミノフスキー博士。

最初はレビル将軍にお願いするつもりだったが、兄貴の方に頼む事にした。

理由はいくつかあったが、彼が連邦政府に公開したミノフスキー粒子の利用法がビーム兵器に関するものだったこと。

それが、今はマゼランやサラミスに実装されている事を考えて無関係ではない事を思い出したのだ。

そして、彼の隠遁先がサイド7である事も調べがついた。

いずれホワイトベースやガンダムを作る時に色々追加情報を出す事になったのだろう。


「そうです。ここはサイドTのロンデニオン。ジオンに対抗するために新兵器を開発する場です」

「……何が言いたいのかね? あの粒子についての情報は公開したはずだが」

「実は、いくつかお伺いしたいのですよ。ジオンが使っているミノフスキー粒子の使用法について」

「……」


因みに、オリジンにおいては彼が死んだから全ての情報が伝わらなかったという点もあるようだ。

弟子であるテム・レイが頑張った結果、再現されてガンダムに積み込まれたという。

ただ、原作世界においては出し渋りをしたとしか考えられない。

何せ彼が亡命したのは0072年そう6年も前である。

それが何でビーム兵器としてしか使われていないのか。

まあ、ジオン以外では彼の研究が評価されなかったという点があるから、どうしても渋くなるのもわかるが。



「こちらも、ジオンには色々と探りは入れているのですが、ミノフスキー粒子はビームを偏向させるだけではないようですね」

「それは……」

「まず一つ、可視光以外の光を遮断出来るのではないですか? 電波の乱反射も可能なようで」

「……そうだ」

「エックス線やガンマ線まで遮断できるようですね」

「分かっているのだろう?」

「まあ、概要はですが。何にせよ出し渋りはよくありませんよミノフスキー博士。

 恐らくあなたのせいで億単位の人間が死にます」

「はっ?」


理解できないという顔をしているミノフスキー博士に、俺は資料を突きつける。

これは、ジオン内にいる密偵を使って調べさせたものと、俺の記憶を組み合わせて作ったものだ。

といっても、密偵はかなり空振りさせられているが、空振りさせられる事で分かる事もある。


核ミサイルをグラナダの廃棄場から何百発も移送しているのは間違いないだろう。

核ミサイルをどこに落とすか、俺は知っているが、まさかそのままいうわけにもいかない。

だが、電波妨害で回避できなくなった所に核ミサイルを撃ち込むつもりである事は誰にでも理解できる。

そして、核ミサイルのような広範囲破壊兵器を軍対軍の戦いで使う事はまずない。

都市ごと蒸発させるためであるのは明白だ。



「核ミサイルは……流石に脅しだろう……」

「実はですね、もう一つ資料があります。これを見てもそう思いますか?」

「これは……!?」


核搭載型のザクバズーカの資料を見せる。

これは、流石に情報入手は困難だったが、キシリアを通じてゴップ大将が引き出してくれた。

元々核バズーカの事を知っている事をにおわせて、ある程度値引きをしているがかなり持っていかれたようだ。

小惑星規模の資源等を裏でサイド3に渡したらしいが、仕方ないともいえる。

この情報は絶対に必要だからだ。



「使わないならこんなものは作らないでしょう」

「……何に対して使うつもりだ?」

「恐らくはコロニーでしょうね」

「コロニーへの直接攻撃はスペースノイド最大のタブーだろう!」

「ギレン・ザビがそんな事で止まる人間でない事は貴方も知っているはずだ」

「ッ!」



彼が逃げ出したのは、ギレン・ザビの狂気に触れたからだろう。

直接対面したかはわからない、ただギレンはジオン国民以外の死を単なる威圧効果くらいにしか考えていない。

そうでなければ人類の半数を殺すという最悪の殺戮等出来るはずもないのだから。



「私が……甘かったというのか……」

「貴方は恐らく連邦でも同じことが起こるのを、貴方の開発した技術で戦争が起こるのを危惧したんでしょう。

 しかし、ジオンを放置すれば民間人が億単位で死ぬ事はほぼ確実だと私は思っています」

「それで、私を呼んだのか」

「はい、開戦まで恐らく1年もないでしょう、それまでに電波妨害の仕組みや対抗策、核融合炉の小型化等を行う必要があります」

「……わかった。協力しよう」

「ありがとうございます」



俺は頭を下げる、これでどうにかスタートラインにつく事が出来た。

ミノフスキー博士の協力は対ジオンにおいて必須だからな。

しかし、たった1年で可能な限りジオン脅威のメカニズムに対抗しなくてはならない。

まだまだ問題は山積しているといっていい、だが生き残るためにも全力を尽くすしかない。

心の中で決意と共に、ミノフスキー博士に丸投げするのだった。







あとがき


シルフェニアの18周年という事で、どうにか間に合わせたつもりです(汗)

実際は連載を長々と休んでしまっただけですがw

最近ソシャゲばっかやってたなーと思う今日この頃。

大変申し訳ありませんorz

今やってるのは、グラブル、プリコネ、ウマ娘、FGOですw

この間まではコードギアスのもしてたんですがタワーディフェンスについていけなくなりリタイアしました。

そのおかげでこれが出来たとも言えますが(爆)

実際の所、やる気がなかなか出なかったんですが、最近何とか一念発起して書き始めました。

これからも可能な限り続けて行ければと考えています。

まあ、見てくれている人がいるかはわからないのですがw



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