Pの遊戯/走【ラン】


「人形の声を聞いて」

パペティアーの糸が途絶えたというのに…。

「人形が喋ってる…ッ!?」
「まだ操っているの?」

亜樹子とヴィヴィオは堀之内を睨んだ。

「「リコちゃん…」」

二人は人形を優しく横にすると、堀之内に詰め寄る。

「なんで娘さんの人形を復讐の道具に使うんですか!?」
「君達に何がわかる!?」

問い詰めるヴィヴィオに対して逆上したかのような態度をとる堀之内。

「あんたが最低だってことよ!あんな小さな子を悲しませて!!」
「何の話だ!?」

亜樹子は堀之内の胸倉を掴んでそう言ったが、堀之内はまるで身に覚えが無いような反応を返す。

「娘さん…私たちに人形を取り返してって頼みに来たのよ!」
「嘘をつくなッ!」
「本当よ!貴方、自分の娘を愛してないんでしょ!?」

亜樹子は今まで堀之内の小説を侮辱した者達と同じ台詞を吐いた。

「もっと娘さんの身になって考えてください!!」
「貴様らァ!」

ヴィヴィオが追撃とばかりにそういうと、堀之内は激怒して二人を突き飛ばす。

「いい加減にしろォ!!」

【PUPPETEER】

メモリを起動させて顎下のコネクタに挿すと、堀之内はパぺティアー・ドーパントとなる。

『貴様らァァァ!』

怒り奮闘のパペティアーは二人に襲いかかろうとする。
立ち上がった二人は逃げるわけでも抵抗の姿勢を見せるわけでもなく、ただただパペティアーに覚悟の籠った目を向けるだけ。

するとWとイーヴィルの銃撃がパペティアーに弾道を変えながら命中していく。

『くぅぅぅ!ぁぁぁ…!!』

パペティアーは唸り声を上げて、自暴自棄な特攻をしようとしたとき、

【WEATHER】

突如黒雲が太陽の光を遮ると、濃霧が周囲一帯に出てくる。

「なんだこの霧?」

Wがそういってる間にも霧が深くなっていき、晴れた時にはパペティアーは姿を消していた。

(さっきのガイアウィスパーは…?)

イーヴィルは常人を遥かに超越した聴覚で聞き覚えの無いガイアウィスパーを聞いた。

亜樹子とヴィヴィオは人形を抱きしめながら、

「リコちゃん…」
「必ず私達が助けてあげるから…!」

『ヴィヴィオ…』

娘のそんな姿を見て、リインフォースは複雑な心境だった。





*****

井坂内科医院。

『ここは?』
「病院です。ただし、ドーパント専門のね」

手術台の上に寝かされているパペティアーに井坂が説明する。

「私は今、ある新しい治療法を試そうとしています。パペティアーのメモリを研究させてほしいんですよ。だから貴方を助けた」
『私は…操っていた人形を失ってしまった。…お役には立てんよ』

そう言われても井坂は問題など何一つもないといった表情になる。

「御心配なく。…代わりを用意してあります」

井坂の指さした方向には待合室にいる若菜が映ったモニター。

「彼女を操り人形にしてください。貴女の愛を否定した連中に、罰を与える為に」

その瞬間パペティアーは亜樹子とヴィヴィオの言った言葉を思い出す。

――貴方、自分の娘を愛してないんでしょ!?――
――もっと娘さんの身になって考えてください!――

思い出した瞬間、パペティアーは忌々しげに手術台をたたいた。





*****

探偵事務所。

人形を椅子に座らせ、亜樹子とヴィヴィオはずっと人形を見てリコを思い出していた。

「リコちゃん、今頃どうしてるんだろ…?」
「無事であってくれればいいんだけど…」

二人は曇りがかった表情である。

「おい二人とも。いつまでも人形とにらめっこしてんだよ?そんなことやったってな、なにも起こんねえよ。…な?」

そういって翔太郎は人形の頭に手を置く。
すると、

「放っといてよ」
「ん…?」
「放っといてよ」
「うわあああ!!」
「「やっぱり?」」

人形から声が聞こえてことに翔太郎は腰を抜かし、ヴィヴィオと亜樹子は詰め寄る。

すると人形の背後から、

『放っといてよ。放っといてよ』

カエル型のガジェット・フロッグポッドが出てきた。

「あ、いた」
「声がするからわかりやすいですね」
「なんだよ二人とも驚かさないでくれ」
「メモリガジェットが完成したのか?」

ガレージから出てきたフィリップとリインフォースにゼロがそう尋ねる。

「あぁ。録音した声をあらゆる音声に変換できるガジェットだ」
「戦闘力はありませんが、音声収集や敵を撹乱させるのに使えると思います」
「へぇ〜」

翔太郎は説明を受けて感心する。

しかし、亜樹子とヴィヴィオの表情は再び憂鬱に。

「アキちゃん、ヴィヴィオちゃん。なにか喋ってみて」

フィリップはフロッグポッドからギジメモリを取り出してスイッチを押した。

「やめてよ。今そんな気分じゃないし」
「もう、人が悪いよ」
「はい貰った」

そしてギジメモリを挿入。

【FROG】

『止めてよ。今そんな気分じゃないし』
「あ、俺の声だ」
『もう、人が悪いよ』
「私の声まで」

フロッグポッドは翔太郎の声とゼロの声で亜樹子とヴィヴィオの台詞を繰り返した。
本物のカエルのようにジャンプして人形の膝部分にとまったフロッグポッドを見て亜樹子は…。

――お姉ちゃん。人形とお話しできるの?――

「あ…。私、前にも会ってたんだ」
「亜樹子ちゃん…それって一体?」

亜樹子の唐突な言葉にヴィヴィオはそう聞いた。

「リコちゃんよ!…それにこの人形にも!」
「どういうことだい?」

亜樹子の言ってることは事情の知らない者からすれば意味不明にもほどがあった。

「私が…大阪から出てきてすぐの頃…」





*****

数か月前。

橋で泣いているリコ。
そこへ亜樹子がやってきた。

「お嬢ちゃん。どうしたの?」

橋の下を見てみると、リコの人形が落ちていた。

「人形を落っことしちゃんたんだ…」

橋の下に降りた亜樹子は人形を持つと、まるで同じ人間であるかのように人形へ一方的に話しかける。

「はい。大丈夫だって」

そうして人形を持ち主に返した。

「お姉ちゃん。人形とお話しできるの?」
「うん。ちゃんとお人形の声を聞こうとすれば、きっと貴女にもお話してくれるわよ」

亜樹子は明るくそう言った。

「スゴーい!お姉ちゃんって魔法使い?」
「ううん。お姉ちゃんはね、探偵よ」

もしここに本物の魔導師(まほうつかい)がいたら、頷いたかもしれない。

「探偵?」
「うん。…はい。もし何か困ったことがあったら、此処に来て」

亜樹子は懐から名刺を取り出して、人形のポケットに入れた。





*****

「そっか…。だからあの子、私のところに」
「だったら、そこに行けば会えるかも!」

亜樹子とヴィヴィオは人形を持って外に駆けていく。

「おい二人とも!何所行くんだよ?」
「案ずるな左。あの二人には魔界虫をつけさせておいた」
「用意周到だね」
「ホントに抜け目ない」





*****

広場。

人形を持ってそこのベンチの近くにまで来たヴィヴィオと亜樹子。

「そう簡単に会えるわけ無いか」
「考えが甘かったね…」

二人はちょっと落ち込みながらベンチに座って人形を置いた。

「お姉ちゃん達」

聞こえてきた声。

「リコちゃん!」
「良かった!ここに来ればまた会える気がしてたんだ。もう大丈夫よ、お姉ちゃん達が守ってあげるからね」
「人形の声を聞いて」

リコはまたこの台詞を口にする。

「リコちゃんこそ、良く聞いて。貴方のお父さんはね、ガイアメモリっていう道具を使って、ドーパントっていう怪物になっちゃったの。だから一緒にいると貴女は危険なの」

ヴィヴィオはそう論ずるも、

「聞いて。人形の声」

リコはこう返すのみ。

「人形なら取り返したよ。ほらあそこに」

亜樹子は指をさしていうも、そこには何故か人形が無くなっていた。

「あれ?…兎に角、一緒に行こう。警察の人に守ってもらおう?」
「聞いて聞いて!お姉ちゃん達、人形の声を聞いて」

あくまで人形の声にこだわるリコ。

「今は人形より、貴女の安全の方が大事なんだってば」
「人形!人形人形!」
「ねえリコちゃん。前に会った時の事言ってるの?お姉ちゃんが人形とお話しできるって」

リコは嬉しそうに頷く。

「…あれはね…お芝居だったの。泣いている貴女を笑わせてあげたくて…本当は声なんて聞こえない。だって人形は人形だもの」

それを聞くとリコは走り去ってしまう。

「待ってリコちゃん!!」
「お願いだから話を聞いて!」
「おい!どうかしたか?」
「何をやっとるんだ?」

そこへ翔太郎とゼロが駆けつける。

「パパ、それがリコちゃんが…」
「また逃げられわ!」

そういって振り返ると、リコの姿はどこにもいない。

「え?…あれ?…リコちゃん、リコちゃん!」
「返事して!出てきてよ!」

そんな叫びも、虚しく空に消えていくだけ。

「どーしてこうなっちゃうんだろ…」
「…へ?」

すると今度は人形の姿があった。

それを見た瞬間、亜樹子はリコがやたらと人形のことにこだわっていたことに腹立たしそうな顔をして…。

「何が人形よ!!」

怒って人形を放り投げてしまう。

「亜樹子ちゃん…」

亜樹子の気持ちはわからなくもないが、流石に人形が可哀そうになって来たヴィヴィオは一応ベンチの上に人形を戻した。
そうしている間に亜樹子の携帯から着信が、

「もしもし」
『所長』
「あぁ。竜君」
『今から来てくれないか。大事な話がある』





*****

井坂内科医院。

「若菜君。預かっていたドライバーをお返しします。…では早速ドーパントになってください」
「へ?…でも昨日はその必要な無い『黙れ!』…誰なの?」

若菜の言葉を遮ってパペティアーが現れる。
パペティアーは指から糸を出して若菜の身体を捕えた。

『もうお前の意思は消えた。私の思うがままだ』

パペティアーが若菜を操る場面を一通り見た井坂は「素晴らしい」とだけいってその場を去った。





*****

堀之内家。

「御苦労、マッキー」
「精が出るな」
「はい!どうもです!」

ゼロがいるせいか、軍人見たいにハキハキとした口調になる真倉。
相当ゼロを怒らせたくないのだろう。

「堀之内は妻を病気で亡くして以来、娘と二人きりで暮らしていたらしい」

家の中から家宅捜索を行っていた照井が出てくる。
ゼロ達は家の中に入っていく。

家の中はまるで男が独身生活をしていたかのような惨状である。

「こりゃ相当荒んだ生活してたな」
「リコちゃん…こんなところでずっと」
「一か月前までは…」

照井の言葉に亜樹子とヴィヴィオは著しく反応する。

「堀之内の娘・里香子は、一か月前交通事故で死んでいる」
「なんだって…?」
「そんな、冗談ですよね?照井さん…。私は亜樹子ちゃんと一緒に何度もリコちゃんと会ったり話したりしたんですよ」

ヴィヴィオは照井にそう言うも、現実を突きつけるように照井はある場所を指さす。
そこには堀之内の妻・千恵の遺影と並んだ里香子の遺影。

「そんな…」
「わかったろ?堀之内の娘はもうこの世にはいない。これ以上君と所長が心配することはなにもないんだ」

「照井」
「貴様…」

二人に少しでも心の平穏を取り戻させようとする照井の言葉。

「だったら、あの子は…リコちゃんは何だったの?」
「リコという名前には心当たりがある」

照井は一枚のDVDをプレーヤーにセットして内容を再生した。

そこには堀之内が娘・里香子に誕生日プレゼントとして例の人形を渡しているところだった。

そして、堀之内に名前をどうするかを聞かれ、里香子は自分の妹みたいなものだからという理由で人形に”リコ”という名前を付けた。

「リコというのは人形の名前だ。…君達二人は疲れている。休んだ方がいい」

リコのことを知った二人は照井の言葉など耳に入らず、あることを考えた。
リコがあそこまで人形のことに固執していた理由を、

「もしかして、私達の目の前に現れたリコちゃんは…あの人形自身だったのかも…。そうよ!そうに違いないわ!」

亜樹子は確信にたどり着く。でもそれと同時に、自分が一度人形に乱暴なことをしてしまったことを思い出す。

「あ!私…なんてことを!」
「私も、あの時リコちゃんを放っておくんじゃなかった!」

ヴィヴィオは人形(リコ)をベンチの上に戻しはしたが、話の流れに乗せられるがままに広場に置いてきぼりにしたことを後悔する。

後悔先に立たずとはよく言ったものだ。

二人は急いでさっきの広場に向かって行った。





*****

広場にたどり着くと、そこではもうゴミ集積車の中にゴミと一緒にリコが積まれてしまっていた。

「あー!待ってぇ!」
「待って下さい!」

幾ら叫んでも車は止まらない。
人間が走るのと車が走りのとでは全くスピードも違う。
このまま見失ってしまうかと思われたとき、

「どうしたの亜樹子ちゃん?…あれ?そこの可愛い子は?」

翔太郎がよく情報を買っている情報屋のウォッチャマン。

「この自転車貸して!」
「ダメだよ!やっとオークションで手に入れた風都くん「ごめんなさい!」ハヘッ!」

自転車を貸すことを渋るウォッチャマンにヴィヴィオが首にチョップをかまして気絶させる。

「ちゃんと後で返しますから!」
「ヴィヴィオちゃん!乗って、早く!」





*****

再び堀之内家。

「あの二人を安心させようと思ったんだがな…」
「人形が、死んだ少女の姿で会いにきた」
「まるで九十九神(つくもがみ)だな」

照井・翔太郎・ゼロはそう言いながら、庭に出てくる。

「有り得ないことだが。仮にそれが事実だとしよう。…ただの人形だぞ。どうしてそれでも親身になる?」

照井は翔太郎とゼロに尋ねる。

「それが…鳴海亜樹子なんだよ。たとえ相手が人形でも、泣いていてほしくない。あいつはきっと、そう言う奴だ」
「ヴィヴィオも、どんな奴にだろうと暖かい心があると信じている。それが化物や人形であろうともな」

翔太郎とゼロはそう語った。





*****

その頃、パペティアーは新しい手駒(にんぎょう)を手中にして、行動を起こさんとしていた。

探偵事務所。

――ガタン――

「翔太郎とゼロ?」
「帰って来たんですか?」

フィリップとリインフォースが扉の前に近づくと、扉は何者かによって破壊され、二人は吹っ飛ばされてしまう。

「ドーパント!」

二人は急いでガレージに入る。

『隠れるな!』
「其の声はパペティアー…いや、堀之内!」

その瞬間に操られたクレイドール・ドーパントの発したエネルギー弾がガレージの扉を破壊する。

フィリップはスタッグフォンで翔太郎に連絡を取ろうとするが、攻撃が激しくてそれすらままならない。

クレイドールはさらに追撃をかけるも、

「盾」

【TANK SHIELD】

リインフォースは記憶の魔導書のデバイス機能で強固な魔法陣のシールドを展開した。
さらに、

「刃もて、血に染めよ」

【BLOODY DAGGER】

「穿て、ブラッディダガー」

詠唱完了によって複数の血の色に染まった鋼の短剣をクレイドール目掛けて飛ばし、ダメージを与える。

「凄い…!」

フィリップは魔法を間近で見て感動する。

『クソッ!…まあ良い答えろ!鳴海亜樹子と無限ヴィヴィオはどこにいる!?』
「堀之内!お前の狙いは照井竜じゃないのか!?」
『あの刑事は私を罠にはめる為挑発しただけだ!だが、あの小娘共だけは違う…!』

クレイドールを通して怒りの感情が駄々漏れである。

『あいつらだけは、許せん!』

再びエネルギー弾が飛ぼうとしたとき、

――ガギン!ガギン!――
――グオオオオオ!!――

「ファングッ!」
「ダークネス!」

ファングメモリとダークネスメモリが主の危機に駆け付けた。





*****

一方、ウォッチャマンから半強制的に拝借した自転車で車を追う亜樹子とヴィヴィオ。

「待って!お願い!」
「止まってください!」

そうして二人は漸く車に追いついて前方に回り込んだ。
それによって集積車も停止する。

「その中に、私の依頼人がッ!」





*****

『早く吐け!』

操られたクレイドールから連続して放たれるエネルギー弾。
幾らリインフォースが巨大な魔力を保有していると言えども、流石にこんな一方的な防戦では魔力を消耗するだけである。

(拙い…このままでは…もたない)

シールドを展開させるのもいい加減限界に来ているリインフォースに容赦ない追撃がかけられようとしたとき、

戦車のようなアクセルのサポートドロイド・ガンナーAが現れる。

「あれは…アクセルのユニット…」
「でも、なぜそれがここに?」

ガンナーAはエネルギー弾を発射してくるクレイドールに、頭部にガイアキャノンから砲撃を行ってクレイドールを粉々にする。

それによって手駒(にんぎょう)を失ったパペティアーは悔しそうに、

『あの小娘共だけは…絶対に探し出してやる!』

そして、一度破壊されたことでパペティアーから解放されたクレイドールは自己再生によって復活。

『ここは一体?………ハッ!』

周りを見渡すクレイドールは医院でのことを思い出す。

『よくもこの私に、こんな辱めを!許さないッ!!』

クレイドールはフィリップとリインフォースのことなど気にも留めずに外に出て行った。

フィリップはようやくスタッグフォンで翔太郎に、リインフォースは念話でゼロと連絡する。

無論連絡内容は共通している。

パペティアーが狙っているのは、亜樹子とヴィヴィオ。

「何!?…左、照井、行くぞ!」





*****

そして、当の亜樹子とヴィヴィオは係員が止めても止まらず、一心不乱にゴミの中からリコを探す。

「居た!」

ようやくリコを見つけ出し、二人は集積車からリコを引っ張り出した。

「ゴメンね…ホントにゴメンね。私達はもっと早く気付いてあげればよかったのに…」

するとリコから、

「お父さんに、泣かないでって…」
「必ず伝えるよ、リコちゃん」

だがしかし、

『見つけたぞ。鳴海亜樹子、無限ヴィヴィオ』

パペティアーが現れる。





*****

井坂内科医院。

『井坂深紅郎!!』

自分が操り人形になる原因たる男の下に、クレイドールは激怒しながらやってきた。

「そろそろ来るころだと思ってましたよ」

対する井坂は余裕たっぷり。

『ふざけるな!!』

クレイドールは腕からエネルギー弾を井坂目掛けて発射しようとするが、そこへタブーが現れる。

『若菜、お止めなさい』
『お姉様?お姉様には関係無いわ!!』

なぜここにタブーがいるのか?
という疑問すら抱かない程、今のクレイドールは怒りに満ちていた。

『仕方ない』

タブーは掌からエネルギー弾を発しようとしたが、そこへクレイドールも至近距離からエネルギー弾をぶつけてきた。
すると、クレイドールのエネルギー弾の方が威力が勝っていたのか、攻撃がタブーに見事命中した。

『お姉様!?』

タブーは変身が解除されて冴子の姿に戻る。

「この威力…」

今までとは違うクレイドールの力にそう呟く。
クレイドールはようやく冷静さを取り戻して変身を解いた。

「ごめんなさい!私…!」

若菜は冴子を起こそうとするが、冴子はその手を振り払って自力で立ち上がる。

「良いのよ、気にしなくて…」

冴子の視線は、井坂に向いていた。





*****

「どうしてこんなことを?」
『どうしてだと?私と、私の娘を侮辱したからだ…!』

亜樹子の質問にパペティアーが答える。

「娘さんを?」
『私は、里香子との思い出を小説に書いた。そうすれば、娘は永遠に生き続ける。…そう思ったからだ。なのに奴らが小説を貶し、あろうことか、私が娘を愛していないなどと言った…お前等もだッ!』

パペティアー…堀之内にも堀之内なりの動機…娘への真の愛情があった。

「だから復讐するんですか?自慢すべきお父さんの、そんな姿見ても里香子さんが悲しむだけです。それに、リコちゃんだって…」
『その人形のことか?』
「そうですよ!この子は貴方のことを心配している!」
『ふざけるな!そんなもの、ただの人形だ!』

哀しげな表情をするヴィヴィオにパペティアーは、彼女がまともな態度でいないと思ってさらに怒る。

パペティアー指から出た糸で、亜樹子とヴィヴィオの身体を縛り上げた。
パペティアーが手を動かすと、それに反応して亜樹子とヴィヴィオの身体も宙を舞う。

『どうだ?自分が操り人形になった気分は?』
「お願い!人形の声を聞いて!」
『黙れ黙れ黙れ!!』

亜樹子の説得に応じないパペティアーはナイフを取り出し、

『お前等の声は耳障りだ!』

ナイフで糸を切った。
ヴィヴィオは咄嗟に騎士甲冑姿になって浮遊魔法を使うも、

「亜樹子ちゃん!」

パペティアーは両手を使って二人を左右対極の位置にしていたので、ヴィヴィオは一瞬亜樹子救出に間に合わないと思った瞬間…。

「フッ!」

――パスッ――
――スパーン!――

Wが間一髪のところで亜樹子を抱きとめた。
でも当の亜樹子はWのボディサイドをスリッパで叩く。

「痛ってぇな亜樹子!」
「来るのが遅いよ翔太郎君!」
「お前なぁ…」

Wは亜樹子を降ろして溜息混じりにそう呟く。
そこへエンジンブレードを構えたアクセルと、ナイトグレイブを持ったイーヴィル・マジカルナイトが現れる。

「そう言うな所長。左が一番あんたを理解してる」
「案外ガラに合わないがな」
「へ?」
「だぁもう!余計な事言うな!」

最も、W自身はそのフォローがお気に召さない様だが。

『どいつもこいつも、私を虚仮にしやがって!』

――パーーー!プーー!パー−−!――

パペティアーはクラリネットを奏でることで怪音波を生じさせて一同を苦しめる。

そうして手から出した糸で亜樹子を絡め取ると、そのまま柱に縛りつける。
さらにはアクセルとヴィヴィオの身体に糸を巻きつけ…。

「照井!」
「ヴィヴィオ!」

Wとイーヴィルが駆け寄るも、パペティアーが指を動かした瞬間に二人はWとイーヴィルに攻撃を仕掛ける。

「止めろ照井!ヴィヴィオ!」
「無駄だ!パペティアーが操ってる限り、二人の意思に関係無く、その肉体は戦い続ける!」

Wとイーヴィルは思わぬ戦況を迎える。

「だったら!」

【CYCLONE/METAL】

Wはサイクロンメタルにハーフチェンジしてアクセルの攻撃をメタルシャフトで受け止め、反撃に出る。

「こっちもだ」

【TRICK/KNIGHT】

イーヴィルもトリックナイトにハーフチェンジする。

しかし、ヴィヴィオは虹色の魔力を一個の球状に凝縮し、アクセルはエンジンメモリを用いて…。

【ENGINE】
【STEAM】

エンジンブレードから高温蒸気(スチーム)を噴射しながら歩き、ヴィヴィオも球状の魔力を前方に噴射。

【JET】

今度は衝撃波(ジェット)を飛ばし、ヴィヴィオは球状の魔力をピッチングの要領で投げ飛ばす。

【ELECTRIC】

さらには電気(エレクトリック)の籠った刃でWを切り裂き、ヴィヴィオも魔力で強化したパンチをイーヴィルに喰らわせる。

三連続の攻撃でもイーヴィルは大したダメージを受けなかったが、なにしろ攻撃している二人はただ操られているだけ。流石にゼロも手が出せな…

――バキ!バキ!――

「「グヘッ!!」」

手じゃなくて、足を出した。

「成程成程…操られても、攻撃に対してはそれなりの反応するようだな」
『な、なんの手加減も無しに、味方と娘を蹴り飛ばしやがった…!!』

操っていたパペティアーすら、イーヴィルの行動に驚いた。

「手加減?バカを言うな。全力でやっていたら二人の首は消し飛んでいたぞ」

余裕な態度でそういったイーヴィル。

(ヴィヴィオ…ドSなパパを止められない無力なママを許して…)

そんな中、リインフォースがひっそりと懺悔していたりするが。

でも、流石に二人にこれ以上手荒なことをするのは少し拙いと踏んだイーヴィルは、

「W…アレを使うぞ」
「アレ…お、アレか」

『今が好機(チャンス)

アクセルとヴィヴィオが剣と拳を振り下ろそうとしたとき、

「止めてよ。今そんな気分じゃないし」
「もう、人が悪いよ」

それは間違いなく亜樹子とヴィヴィオの声。

『小娘共…!』

パペティアーは信じられなかった。
なにしろ亜樹子は糸によって口をふさがれ、ヴィヴィオも操られて喋ることはできない筈。

すると、パペティアーの足元に…。

『止めてよ。今そんな気分じゃないし』
『もう、人が悪いよ』

ライブモードのフロッグポッド。

『これは!?』
『『今だ!』』

パペティアーが驚いている束の間に、フィリップとリインフォースの合図でWはメタルシャフトを投降・イーヴィルはナイトグレイブの刃を鞭のように伸ばして攻撃する。

それによってアクセルとヴィヴィオは勿論、亜樹子を縛っていた糸も解けた。

「よくも好き勝手にやってくれたな…!」

アクセルは怒り心頭なご様子で、容赦なくエンジンブレードを振り回す。

「『さあ、お前の罪を数えろ!』」
「『さあ、貴様の欲望を差し出せ…!』」

【METAL・MAXIMUM DRIVE】
【EVIL/KNIGHT・MAXIMUM DRIVE】

メタルシャフトに旋風が巻き起こると、Wはその勢いに乗って回転しながら連続で打撃を叩きつけていく。

イーヴィルもナイトグレイブを高速回転させると、両端の刃はドンドン分身していくと思えば、無数の刃はナイトグレイブから離れて宙を漂い、それをイーヴィルはナイトグレイブを高速回転させながら振り下ろすことで、全ての分身刃全てが射出され、自動追尾してパペティアーに喰らわせる。

「『メタルツイスター!!』」
「『ナイトイリュージョ二スト!!』」

二人の必殺技(メモリブレイク)が決まると、パペティアーは元の堀之内の姿に戻った。

「…お前達に私の苦しみはわからん」

堀之内はそう言うと、懐から一枚の写真を取り出した。
その写真には妻・千恵と娘・里香子が写っていた。

「全て失った。…妻も、娘も…」

堀之内は涙を流し始める。

「もう私を愛してくれ者は、誰もいない」
「リコちゃんがいるよ」

涙を流す堀之内に亜樹子はそういった。

「この子、言ってました。…お父さん、泣かないでって」

今度はヴィヴィオがそう言った。

呆然とする堀之内に二人は人形(リコ)を差し出すと、堀之内はゆっくりと受け取った。
イーヴィルはそれを見ると、堀之内…いやリコに近づく。

「パパ…何をするの?」
「…本人に聞きたいことがある…。魔界777ッ能力…物体の意思(イビルスピリット)

イーヴィルは左手から鮮やかな光を放射してリコに浴びせた。
すると…リコは光の粒子になって消えた。

『ありがとう。お姉ちゃん達、仮面ライダーさん』

人形が消えた直後、亜樹子とヴィヴィオの背後には里香子の姿を借りたリコがいた。
そして、その姿は亜樹子とヴィヴィオだけでなく、他の者にも見えていた。

「良かったね…リコちゃん」
「お父さんのこと、もう大丈夫だよ」

そう言うと、いつの間にかリコの姿は消えていて、堀之内の手元には人形(リコ)があった。
堀之内は今見たリコの姿が幻ではないと悟り、人形(リコ)を深く抱きしめた。
まるで、本当の家族のように。

それを見た亜樹子とヴィヴィオの顔には、とても満足そうな表情があった。





*****

再び、井坂内科医院の廊下。

「若菜のあの力…。あの子に一体何をしたの?」

冴子がそう質問すると、

「ドライバーを調整したんですよ。直挿しと同じことになるように」

と答えた井坂。

「直挿しですって!?」
「怒りの感情がメモリの力とよく混ざっていた」

井坂は二コやかである。

「でも…そんなことをすればやがては精神を!」
「シッ!」

幾ら不仲と言えども、冴子は流石に血を分けた妹にそのような結末を迎えさせたくない。

「聴診ならね…。ドライバーは…ドーパントとしての進化を阻害している。そんなものに頼る限り、貴女は本当の強さを手に出来ない」

耳元でそう囁き、最後には舌舐めずりした井坂に、冴子は怯えにも似た感情を抱いた。





*****

報告書
亜樹子とヴィヴィオは本当に人形の声を聞いたのか。
無限の話だと、あの光…物体の意思(イビルスピリット)には無機物に一時的とは言え魂を与える力があるらしい。おかげでフィリップは魔界能力に関して検策を始める始末。

でも俺には思える。あの人形が本当に堀之内のことを思って…亜樹子とヴィヴィオに依頼しに来たんじゃないかって。



報告書を書き終わった翔太郎。

【FROG】

亜樹子は予めギジメモリに吹き込んでいた声をフロッグポッドで再生する。

『所長、君は美しい。最高の女性だ』

照井の声で。

「だってさ!だってさ!」
「おいおい、そんなことにメモリガジェットを使うな」

舞いあがる亜樹子にゼロはそう注意したが…。

「いや…でも…美女二人を椅子と机にしてる人に言われたくない…」

ゼロは今、リインフォースを椅子・御霊を机にしていた。
二人はもう諦めきったかのような表情で口を閉ざしている。

「あー…」

その様子をヴィヴィオは複雑な心境で見ていた。

「何を言う?…他人を屈服させるというのは、この上ない快楽だ♪それに、『欲望』を喰えなかった腹癒せもあるしな」
「ドS外道ォー!!」

ゼロのサディスティックな発言に亜樹子が叫ぶ。



真実は分からない。だが、まあ良い。
この街にはミステリアスという言葉が良く似合う。
美しい謎は、謎のまま…それも悪くない。




心の中でそうカッコつける翔太郎だが、操られていたクレイドールによって打ち壊された事務所のドアであった部分に取り付けられた”修復中”と書いてある段ボールが貼られた青いビニールシートが、なんだか雰囲気を台無しにしている気がした…。



次回、仮面ライダーイーヴィル

Dが見ていた/透【とうめい】

「この『欲望』はもう、私の手中にある…」

これで決まりだ!


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