EとIにさようなら/街【せいぎ】


常に風吹く街・風都。
かつては見るも無惨な姿にされた風都タワーも漸く修理が完了し、街が活気を取り戻しつつあった。

そんな中、街の裏路地。
そこには長い銀髪に真紅の瞳をした絶世の美女がいた。
ただし服装は、その美しい白い肌と銀髪とは対照的に黒かった。

黒くて緩めなジャケットに黒い布製のズボン、首にはシルバーアクセサリーと、男っぽい服装をしていた。

「では、これは約束のモンでさぁ」
「あぁ、確かに」

美女はフードを被った人物から封筒を受け取り、入れ替えるように自分からも封筒を差し出した。

「何時もすまないな、ゼラ。”裏側”の情報の仕入れも大変だろうに」
「ゲッゲッゲ!リインフォースさん。あんたはネウロ様達と違ってかなり良識的でさぁ。最近は裏の情報屋となってからは運が良いですぜ」


フードの人物、下級魔人の青膿(あおみ)ゼラは、フードをとって奇妙なラインの入った不気味な素顔をみせた。
実はこの顔面のラインは、ゼラの口や内臓を魔界とリンクさせている切れ目であり、下級魔人のゼラが消滅することなく人間界にいられる最大の要因となっているのだ。
因みに、ゼロの口を強引に通り道とすれば、魔界の行くことも可能だ。
もっとも、ゼラが口部分をトンネル状にまで広げるのに一日かかるのだが。
ついでに、超どうでもいいことだが性別は女である。


「にしても、未だに信じられねぇんですがねぇ。あの魔界一慈悲深き生物と、魔界一屈強な生物の兄弟が、この地上で死ぬとは・・・・・・」

ゼラは青空を見ながらそういった。
ゼラにとってゼロはネウロと一緒になって散々自分を虐めてくれた因縁の相手であり、レイズは自分達下級魔人を庇ってくれた恩人的存在なのだ。

「・・・・・・・・・」

リインフォースも、虚空のような瞳で、ただただ周りを見るだけだ。

「まあレイズ様がお亡くなりになったのは実に残念でさぁ。でもゼ――ガシッ!――」

突然、リインフォースがゼラの口を閉じさせた。
しかも、眼つきが凄まじく鋭くなった状態で、今にも殺しにかかりそうな、憎い仇を目の前にしたかのような雰囲気だ。

「でも?ゼロがいなくなって清々した?・・・といいたいのかゼラ?」
「め、滅相もありませんぜ!リインフォースさん!」

ゼラは必死になって誤解を解こうとする。
余計な事を口走り、誰かに口を塞がれるというところは変わらないらしい。

「わかった。・・・ではこれで・・・取引は終わった」
「そうですね。無駄話はこれくらいにしとくとしましょや。んじゃ、俺はここで失礼しまさぁ」

そういってゼラは、闇の中に消えていった。

「さてと、資料の確認といくか」

リインフォースは、ゼロが消えてからというもの、次元書庫で必要なキーワードを探るべく、情報屋になったゼラや、ネウロとのコネを利用して望月信用総合などから情報を分けてもらっている。
勿論それは風都イレギュラーズも到底知りえない裏社会の情報が必要な時に限って使う方法だ。

ゼロがいなくなってからというものの、リインフォースはこういった影の取引が異様に上達していったのだ。

「・・・・・・・・・成る程」

そして、資料を確認し終えると、リインフォースは魔法を使い、自宅へと移動した。





*****

自宅。

「あ、お帰りママ!」
「お帰りなさい」
「ただいま。ネオは?」
「ベッドで、まだ泣いてるよ・・・・・・」

ヴィヴィオが指差した方向には、ベッドで喧しく泣き叫ぶ赤ん坊・無限ネオの姿があった。
何れこの児が成長し、自分達の危機を救ってくれる。
それを知っているリインフォースは、できる限りネオには甘い教育はしないようにしていた。
もっともそれは、ネオに物心がついてからの話だが。

「ンギャァァ!ンギャァァ!」
「よしよし」

リインフォースは正に聖母のような笑顔で愛息を抱いて優しくあやす。
今ならシュラウドの気持ちも、リインフォースは確実に理解できるだろう。

「こんなことで泣いていてはダメだぞ?お前には、もっと強くなってもらわなければな」

といいつつも、聖母の笑顔と優しい仕草は一切不変だ。

「んぎゃぁ・・・んぎゃぁ・・・・・・ん、ぎゃ・・・・・・」

すると、ネオの目蓋が閉じていき、眠りに入っていった。
やはり、母親の優しいあやしには、どんな赤ん坊も一ころのようだ。

「・・・・・・ふふ」

愛らしい寝顔を見て、リインフォースは自然と笑顔になる。

――ピリリ、ピリリ!ピリリ、ピリリ!――

するとその時、マンティスフォンが現れる。
リインフォースは極力ネオが起きないよう気をつけて話をする。

「はい、もしもし」
『あ、リインフォース?』
「ん、はやてか?」

かけてきたのは八神はやてだった。

「どうしたんだ?」
『どうしたもこうしたも、ここんとこゼロさんが全然出て来うへんから、皆を代表してわたしが風都にと』
「え・・・!?」

リインフォースはあせった、この上ないくらい。
ただでさえ、ゼロからの遺言で管理局にはゼロの死は秘密にしているのだ。
だがそれが何時か露見する可能性はあると考えていた。

なにしろネオを出産するまでの間、管理局からの依頼は全て拒否し、産まれて以降も子育てや療養に時間を費やし、その度に様々な言い訳をしてきたのだ。
好い加減誰かが風都にやってきても可笑しくはなかったのだ。

「だったら、先に左のところに行っててくれ。待ち合わせ場所としても最適だ」
『勿論そうするで♪翔太朗さんとは、何ヶ月も会っとらへんもん。それにネオ君も抱っこしてみたいし』

ちなみに、ネオが産まれたことは公言している。

「そうか。じゃあ、探偵事務所で」

そうして、電話はきられた。

(そろそろ、隠し通せなくなったか。あの四人だけになら、話してもいいか)

その四人とは、はやてを含めて、ディアンにフェイト、なのはら四人のことを指している。
彼女達は信頼や絆という点については十二分なまでに信用できるし、親友の頼みとあらば、口も堅くしてくれるはずだ。

「ヴィヴィオ、御霊。私は出かけてくる。ネオの面倒見は頼むぞ」
「うん、わかった、今度こそ私で泣き止ませてみせるよ!なんたって、私はお姉ちゃんだからね」
「私もできる限り、お手伝いするわ」

姉としての自覚がでてきているヴィヴィオを、傍で手伝う御霊。
ちなみに御霊は、ゼロが居なくなってからはメイド服ではなく私服を常用している。

「じゃあ、行って来る」
「「行ってらっしゃい」」
「かーぁ!かーぁ!」

ネオがなにやら言おうとしているが、声帯が発達途上なのでよくわからなかった。
だが、リインフォースは何を言ったかが解ったかのように、笑顔でネオの顔を撫でて、地下ガレージに向っていった。

しかし、彼女はふと、一年前のことを思い出していた。
そして、誰かに語りかけるように思う。


(あれから一年・・・・・・私達は今もこの風都にいる。我ながら未練がましいとも思っているが、ここに居れば又貴方に会えそうな気がしてならない。まるで貴方が何時も私を見守っているようにすら感じる。・・・・・・・・・・・・なぁ、ゼロ。今の私を見たら、貴方はどう思う?)






*****

地下ガレージ。

「・・・・・・ふう」

無事到着。
そして当たり前のようにドアの前に立ち、ドアノブを握って扉を開けた。

「こんにちわ」

当たり障りのない挨拶をして登場する。
すると、

「こ、こんにちわ・・・!?」

返事をしたのは事務所の面々ではなく、小学生あたりの少年だった。

「なんだ左、依頼人か?」
「あぁ、行方不明の姉さんを探して欲しいんだとよ」
「今話し聞いとったところや」

依頼人の名前は青山晶。
姉の青山唯の行方を捜してもらうべく、事務所に訪れたらしい。

「にしてもはやて。なんでさっき電話したきたのに、もう既にここにいるんだ?」
「いやー、一度やってみたかったんよぉ。電話してきた直後に実際登場してくるパターン」
「ホント、ビックリさせられたぜ」

どうやら、どこぞの嵐を呼ぶ幼稚園児の父方祖父の真似事をやったらしい。

話を戻そう。

「なんとかできませんか?僕、姉さんがいないと何もできないんです」

胸を張って情けないことを宣言した晶。

「男がんなこと胸張って言うな!・・・どんな状況においても、冷静さを失わず、一人で耐え抜く。それが、ハードボイルドってもんだ」
「それって、必要なことですか?」
「・・・なんだと?」

晶は当然のように質問した。

「完璧な人間なんて一人も居ないって言うじゃないですか。それに僕はこの通り、半人前の子供だし、誰かに助けを求めるのは当然だと思いますけどね」

かなり正論を言っているが、鼻をほじったり、ふてぶてしい態度だったりして、聞いてるだけで腹が立って来る。しかし、たった一人では大したことができないという点については、翔太朗とリインフォースは骨の髄まで知っているので、なまじ反論できなかった。

「うわぁ・・・」
「冷めとる・・・」

晶の態度に、亜樹子もはやても微妙な表情をする。

「はぁ・・・兎に角、行くぞ左」
「あぁ、そうだな」

リインフォースに促され、翔太朗は晶の手を乱暴に引っ張った。

「ちょっと、なにするんですか!?僕は依頼人ですよ!」

なんか色々反抗していたが、書くだけ無駄なので省略する。





*****

風都のとあるカフェ。
そこでリインフォースたちは唯の写真を風都イレギュラーズに見せて情報収集していた。

「唯ちゃんって、嵐ヶ丘高校のだよね?あの学校、悪いグループと繋がりがあるって噂だよ。名前は確か・・・EXE」
「EXE?」
E(イー)X(エックス)E(イー)で、EXE(エグゼ)

エリザベスから教えられたグループ名に疑問する翔太朗に、ウォッチャマンがそういった。

「聴いたことがあるな。ミュージアム壊滅後、密かにガイアメモリを売買しているチンピラ集団」

裏社会にかかわりを持ち始めただけあり、このくらいの情報は検索するまでもなく知っていたリインフォース。

「そう。それでボスはエナジーとイカルスって呼ばれてるらしいよ」
「エナジーとイカルス?メモリの名称か。よし、キーワードは揃ったな。項目は青山唯の居場所。・・・頼むぜフィリ―――」
「了解ゼ―――」

翔太朗とリインフォースは言葉を詰めた。

「どうしたの二人とも?」

クイーンが聞いてみる。

「いや、ちょっと癖がでただけだ」

弁解するリインフォース。

「左、EXEの溜まり場なら、私は幾つか知ってる。案内しよう」
「あ、あぁ・・・頼むぜ。・・・いくぞ晶」
「あ、はい」

そうして、三人はカフェを出た。
すると、一人の従業員の女性が退席したリインフォースを猛烈に見ていることに気付いたウォッチャマンは。

「どったの?」
「あ、いえ・・・綺麗な人だなって。あんな男物の服装なのに」

正面、側面、斜め後ろから見ても十分美人といえる女性従業員はそういった。

「確かに、風都一の美女だって云われてるくらいだから」
「へぇー、風都一・・・」

エリザベスからきき、なんだか女性従業員の表情が曇った。

「あれで子持ちの人妻っていうのが凄いよね」
「ほほぉー・・・」

クイーンが付け足すと、さらに従業員の表情が曇っていった。

(次のターゲットはあの女狐ね)





*****

町外れの廃工場。

「ここかEXEの溜まり場っていうのは。如何にもって感じだな」
「そのへんのチンピラの遊び場には丁度いいのではないか」

翔太朗とリインフォースがそういっていると、

「好き勝手いってんじゃん。ハハハ」

一人の青年が現れた。
それに沿うよう、数人の高校生や大学生くらいの男女が数人ほどでてくる。

「云っておくが、ガイアメモリは生半可な覚悟で持っていいような代物ではない」
「子供のくせにメモリの売り買いなんかしやがって。・・・お仕置きだぜ」
「お仕置きするなら、まずこいつからだろ?」

青年がなんか指示すると、他のメンバーが青山唯を連れてきた。

「姉さん!どうして?」
「俺たちのメモリ売買は、元々唯が始めてことなんだよ!」
「う、ウソだ!」

青年の言葉を、晶は信じられなかった。

「ゴメン晶、本当なの!偶々手に入れたメモリを売ったら、凄い金額で売れて・・・・・・」

後は雪だるま式にエスカレートしたらしい。
そして青年は、壊れてしまったかのような笑顔でこういう。
もっとも、その笑顔はEXEメンバーに共通しているようだが。

「俺たちがミュージアムを継ぐ者。偉大な”カリスマ”の犬」
「・・・カリスマ?」
「今は街で静かにしてるあの人を迎えるために、俺たちは残りのメモリを掻き集めるのさ!・・・再起動のの日は近い」

すると、唯を捕まえていた男は、唯の捕縛を他のメンバーに任せ、前に出る。
そしてもう一人のメンバーが前に出て、ガイアメモリを起動させた。

【ANOMALOCARIS】
【MEGALODON】

「「ヒャハハ!」」

メンバーの二人はメモリを直挿しする。

「退いてろ晶」
「怪我をするぞ、近くにいたらな」

それに対し、翔太朗はロストドライバー。
リインフォースはレフトスロットには透明のメモリが既にインサートされている”EXドライバー”を装着。

『ほーらやっちゃうよぉ!』
『アッハハハ!』

以前Wが倒したアノマロカリス・ドーパントと、
今回が初登場となる古代鮫のメガロドン・ドーパントはが姿を現す。

「いくぜ、フィリップ」

【JOKER】

「了解だゼロ」

【MAGICAL】

「「・・・・・・・・・また癖が」」

二人はバツの悪そうな顔をする。

「はぁぁ?なにそれ?」

青年が言ってる間に、二人はこういった。

「「変身」」

【JOKER】
【MAGICAL/XCELION】

翔太朗の身体は黒き切札と云われし格闘士へと姿を変えた。

リインフォースが変身したのは、イーヴィルと同じ姿形をしながらも、配色と武装が異なるライダーだった。身体全体が白銀であり、マフラーや胸・肩・ブレスレットやアンクレットの色がスカイシルバーとなっていて、右の太ももには一本のコンバットナイフ型ウェポンをホルスターに収めている、一人の魔法戦士へと姿を変えた。

「俺は仮面ライダー・・・、ジョーカー」
「そして私は、仮面ライダーマジカル」

二人の黒色のライダーと白銀のライダーは名乗りを上げる。

「翔太朗さんたちが・・・・・・!!」

晶が驚くのも当然だ。
なにしろ仮面ライダーとは、風都の住人にとってからすれば守護神に匹敵するような存在なのだから。

『はは〜!仮面ライダ〜!』
『へへ〜〜!!』

しかしアノマロカリスとメガロドンは可笑しそうに笑うだけだ。
相当メモリに毒されているようだ。

「んじゃまぁ、頼むな〜」
「晶!晶ァ!」

青年は他のメンバーと一緒に唯を連れて行き、その場を二人のドーパントにまかせる。

『フンッ!』
『ハァ!』

アノマロカリスは歯の弾丸、メガロドンも歯の弾丸を発射すると同時にマジカルに突っ込んでいき、腕の鋭利なヒレで切り裂こうとする。
しかし、どれもこれも、ジョーカーとマジカルには甘い行動だった。

ジョーカーは弾丸を避けつつ接近し、アノマロカリスに一発パンチをくらわせる。
マジカルも綺麗に弾丸を避けると同時に、コンバットナイフ型ウェポン・マジカルエッジを使ってヒレを綺麗に受け止めた。

そしてそのまま勢いに乗り、拳と蹴り、マジカルエッジの斬撃をあびせていく。

「おいおいどうした!こんなもんか!」
「この程度で我々に挑もうなど、百年早いぞ!」

ジョーカーとマジカルはアノマロカリスとメガロドンを向こう側に放り投げ、こう呟く。

「「これで決まりだ」」

【JOKER・MAXIMUM DRIVE】
【XCELION/MAGICAL・MAXIMUM DRIVE】

ジョーカーはベルトのマキシマムスロットにメモリをインサートし、右拳を構える。
マジカルはウェポンの二つのスロットにメモリをツインマキシマムして、マジカルエッジを構えた。

「ライダーパンチ・・・!」
『フンガァァァ!』
「オラァァ!!」

突っ込んできたアノマロカリスを、ジョーカーのライダーパンチが迎え撃ち、メモリブレイクした!

「穿孔せよ、マジカルブラッディダガー」

マジカルの周囲には魔力で形成され、マジカルエッジを模した幾数本ものダガーが現れる。
そしてそのダガーは意志を持つかのごとく”ビュン!”という風を切る音を立てて、メガロドンに直撃した。
トドメに、マジカルは魔力が最大限注入されたマジカルエッジの刃を、メガロドンに突き立てた。

『ンギャアアァァァ!!』

そうして、メモリブレイクが完了する。

「「・・・・・・・・・」」

ジョーカーとマジカルは冷静さを崩さずに変身をとく。

「晶、姉さんを追うぞ」
「まだ間に合うはずだ」
「い、嫌だ・・・僕はもう何も知りたくない!したくない!」
「おい晶!」
「目を背けていても、現実はなにも変わらんぞ!」
「僕は、貴方達みたいに強くないんだ!」

流石に晶はまだ子供だ。
酷な現実を受け入れるにはまだ色々な下準備たらなすぎる。

しかし、そんな晶に言い訳に、翔太朗とリインフォースはなにかを思い返す。

「晶、俺たちはお前が思ってるほど強くねぇ」
「肉体が強かろうと、精神はまだまだだ」
「ホントは一人じゃなんにもできねぇけど、無理矢理一人で踏ん張ってるだけさ」
「・・・・・・それがハードボイルド?わかんないよ・・・」
「何時か解るときが来るさ・・・きっとな」

二人は自分の置かれた状況を再認識した気がした。

「先に事務所に戻っててくれ」
「私達は少し調べることがある」
「・・・・・・・・・」





*****

時も所も変わり、一年前の風都警察病院。
そこでは真倉も刃野も顔を真っ青にすることが起こっていた。

その日の出来事に、翔太郎、リインフォース、ヴィヴィオは駆けつけていた。

「おー翔太朗!よくきてくれた!」

刃野は震えた声で翔太郎達に感謝する。

「やはりこうなったか」

リインフォースは目の前の光景、
若菜が生身の状態で警官達をぶっ飛ばしていく様子をまじまじと見ていた。

「あれば俺たちの知ってる若菜姫だなんて・・・・・・!!」
「やっぱり、彼女が諸悪の、根源だったんですね・・・!」

刃野と真倉は互いに互いを抱き合って、ショックと恐怖による震えをとめようと必死になっている。

「変身しないでも、ドーパントの能力(ちから)が発動している・・・」
「やっぱり、メモリと肉体が融合したってことだよね・・・?」

照井とヴィヴィオがそういっていると、若菜は突然にも不調そうな面持ちで屋上へと向った。
勿論四人も屋上へとのぼっていく。

「・・・ぱ、パワーが足りない・・・」
「待て!園咲若菜!!」

照井は苦しそうにする若菜によびかける。

「・・・お断りよ。私は再起動を果たし、この汚れた街を浄化する!」
「この街は汚れてなどいない!そう見えるのは、お前の心が歪んでいるからだ!」
「そうだよ若菜さん。心の荷を全部降ろしてよく見れば、この街はきっと、凄く素敵に見えるよ!」

若菜に語りかける。

「風都を危機に晒す者は俺たちが許さん!」
「ちょっと手荒だけど、眼を覚まして!」

「変、身!」
「変身!」

【ACCEL】
【HOPPER】

二人は変身し、エンジンブレードと、振りかざした拳を若菜めがけて振り下ろそうとすると、

「「待ってくれ二人とも!!」」

翔太郎とリインフォースが待ったをかけた。

「ッ・・・どけ左!力づくでも彼女を止めなければ!」
「待ってくれ、照井。もしここで彼女を傷つけたら、フィリップと無限はなんの為に命を「左ッ!」

リインフォースが止めるも、時既に遅し。
若菜は理解してしまった。

「来人達が命を?・・・ねえどういうこと!?」
「・・・・・・フィリップは消えた。君を救うために、最期の力を振り絞って。・・・そして、地球の記憶の中に・・・・・・」
「ゼロも、この世界を守り、食糧を守り、食卓を守るべく、その身を塵とした・・・・・・」

それを聴いた若菜は、

「ッッーーーー!!」

声にならない声をだし、後悔と自責の念にまみれるかのように後ずさりし、肉体をデータ化させて去って言ってしまった。

「ホント、甘いよな」

その時に聞こえたは男の声。
振り返ると、

「園咲大地・・・!」
「よう」

リインフォースの行動によって、変身前でも右目に眼帯をつけることとなった大地の姿。

「お前の外出許可はでていない筈だがな」
「んなもんは要らん。出て行きたい時に出るだけだ」
「させると思うか?」
「できるんだなコレが」

――ビンッ!――

大地が何かを引っ張り上げるかのような動作をすると、指に巻きつけてあったか細いピアノ線が僅かに見え、ピアノ線の先端は太いロープに巻きつけてあるのがわかった。

「んじゃ、さよなら」

大地はまるで怪盗のような素早い動きでロープに捕まり、滑り降りていった。
勿論アクセルは追いかけようと思ったが、既にロープを切っても意味のない高さにまで降りていた大地を追う役目を一階にいた刃野と真倉に、電話で指示したが、まるで約にたたず、大地の脱走は成功することとなってしまった。

(奴は一体、なにをやる気だ・・・?)

リインフォースの疑問は、意外な形で解消されることとなる。






*****

現在の事務所前。
翔太郎とリインフォースが中に入ろうとしたとき、

「問題ないよ、アキちゃん」
「フン、実に面白いな」

果てしなく聞き覚えのある声。

「フィリップ、帰ってたのか!」
「ゼロ、何時の間に!?」

二人は勢いきって事務所に入った。
なんだか何時の間にかヴィヴィオがやってきていて、連れてきていたネオをはやてが抱っこしていたりしたが、二人はそれに目もくれず、

「フィリップ、俺はわかってたぜ。薄々な、お前が近くにいるんじゃないかなってな!」
「ゼロ、人が悪いぞ。帰ってきたなら、帰ってきたといってくれれば良いものを」

二人はかなり明るい表情と声で言うが、現実は甘くない。
ふと、下の方向に目をやると、

『問題ないよ、アキちゃん。さあ、検索を始めよう』
『フン、実に面白いな。ご馳走を期待させてもらおう』

フロッグポッドだった。

「「・・・・・・・・・・・・」」

二人は一気に黙り込んだ。

「ご、ごめんね二人とも!偶然フロッグポッドに、あの二人の声が残ってたもんだから・・・・・・本当にゴメン!」

亜樹子は必死になって謝るも、翔太郎とリインフォースは、意を介さずにガレージに入ってしまった。

「ねぇ、怒らないの?亜樹子ォォ!って?」
「・・・・・・なーんだ、相棒がいなくなって、クヨクヨしてるなんて、僕のこと――偉そうに言えないじゃないか。だって外国に行ったくらいで」

晶は不謹慎な発言を、無意識にいった。

「・・・・・・あれ、ウソなの」
「え、亜樹子ちゃん、それどういうこっちゃ?」

亜樹子の言葉にはやてはネオをあやすのを一旦止めて聴いた。
すると、ヴィヴィオもこういった。

「パパとフィリップさんは、此の世から消滅してしまったの」
「「え・・・?」」

晶もはやても、信じられなかった。

「フィリップ君は翔太郎君にとって、ゼロさんはリインフォースさんにとって、掛け替えのない相棒だったの。たった一人じゃなにもできないくらいに、何時も二人で一人だった」
「ホントは今でも悲しくて、泣いていても可笑しくないのに、二人ともやせ我慢してるんだよ。約束と誓いを守る為に」

「無限さんと、フィリップ君が・・・・・・」

はやてはゼロとフィリップの死を知り、今までのリインフォースの様子のおかしさに合点がいくものを感じた。

「やせ我慢・・・・・・それがハードボイルド」

晶は心の中で少しだけ、翔太郎のいうハードボイルドのなんたるかを、悟った気がした。

すると、晶の携帯電話の着信音が鳴った。
どうやらメールのようだ。

そのメールの内容を要約するとこうだ。

”姉さんを返して欲しかったら、一人で来い!”

EXEからのメールには無論場所に指定してあった。

「・・・・・・・・・ッ」

晶はそれを見ると、皆には黙ったまま、こっそりと事務所をでてしまった。
本当は怖いはずだ。しかし、自分も変わろうと思った。
やせ我慢だろうとなんでも良い。ただ単純に姉を助けたいと思ったが故の行動だった。





*****

一年前、某所

そこで大地は、ある人物と会っていた。

「奇妙なこともあるものね」
「まあそういうなよ」

そこにいたのは、大魔導師のプレシア・テスタロッサ。

「俺があんたに教えて欲しいことはたった一つだ」
「それなら、ここへの待ち合わせの通信の時にもう見当はついてるわ」

そうしてプレシアはなにやら情報が細かく書かれた紙を何回か渡した。

「へー、随分素直じゃん」
「・・・・・・こうしないと、多分償い切りかけのところで、また罪で出来そうだもの」
「・・・・・・まあいいや。有り難くもらっとくぜ」

大地は一応プレシアに礼をいうと、互いに魔法を使い、その場から離れていった。





*****

一年前、雑木林。
そこにはシュラウドと、母に用事あってやってきた若菜がいた。

「何をしにきたの?」
「再起動方法を聞きに」
「何のために?」
「私による、ガイアインパクトのため」

シュラウドの質問に、若菜は遠慮なく答えた。

「そう。・・・貴女の知りたい答えは、きっと地球の本棚にある」
「意外ね。あなたがそんな簡単に教えてくれるなんて」

シュラウドは、若菜の手を握り、優しく告げた。

「家族だもの」
「え・・・?」
「若菜、貴女の好きなようになさい」
「・・・・・・・・・」

若菜は、なにもいえなかった。

「私は、もう、逝くわ・・・・・・」

そして、園咲文音(シュラウド)は糸の切れた人形のように力を失い、絶命した。
愛する娘によりかかるようにして。

「・・・・・・母さま・・・・・・」

若菜は自分でもふがいないと思うほど、涙を流していた。





*****

とある廃れた電車整備場。
EXEのメンバーはそこに屯し、唯が逃げないよう見張りながら、晶が来るのをまっていた。

「・・・・・・・・・」

そうしていると、晶が直ぐ近くにまできた。
それに気付いたメンバーの一人がそれを皆に報せる。

「よく来たじゃねーか」
「ぼ、僕・・・貴方達なんか、怖くありません。姉さんを、返してください」

本心では今すぐここから逃げ出したい。
だが、自分がバカにした二人は、そんな恐怖さえも霞んで見えるような孤独をあじわってきた。
それに比べればと思い、必死になって虚勢を張る。

「あんま調子に乗んねぇほうがいいぞ!!」

メンバーの一人がなにかを地面に叩きつけた。
そして他のメンバーが晶を捕まえる。

「は、放して下さい!」
「なにいってんだよ?」
「お姉ちゃんのところ行きたいんだろ?」

メンバーたちは代わり代わりに晶を運ぶ。
そして晶が唯のところに運ばれると。

「・・・姉さん・・・」
「晶・・・ごめん・・・」

唯は晶のバッグの中に、荒っぽい刺繍で無理矢理つくったスペースを、乱暴にこじ開けた。
そして、ある物を二本取り出す。

「姉さん!?」

取り出された物はEXEメンバーによって起動される。

【OCEAN】
【ROGUE】

大洋の記憶と、無頼漢の記憶。

「オーシャン・・・!レアだよなぁコレ!」
「ローグも中々ですよ!」

「晶、早く!!」

唯は晶の手をとり、急いでダッシュする。
隠していたメモリは譲り渡す形になってしまったが、結果としてはメンバーたちの注意をそらす事に成功したのだ。

「逃げたぞ!」
「追えッ!」

だがメンバーらも簡単には逃がしてくれない。

【COCKROACH】
【BOAR】

コックローチ・ドーパントと猪の記憶を宿すボア・ドーパントまでもが参加し、晶と唯は整備場の敷地を出たとたんに捕まると思われたとき、


――ブゥゥゥゥウウウン!!×2――


二台のバイクが突如、コックローチとボアに突っ込んできた。
E字が刻まれた銅色のバイクに乗った女ライダーと、前身が黒で後身が緑のバイクに乗った黒ライダー。
その二人はヘルメットをとる。

「翔太郎さんにリインフォースさん。どうしてここに?」

晶が問うと、

――カサカサッ――

「あ、晶・・・か、髪・・・」
「髪?」

唯に言われ、頭を触ってみると。

「ッ、うわぁぁ!!」

目玉に手足が生えたような蟲がいた。
そう、リインフォースは念のため、晶の髪に魔界虫を忍ばせていたのだ。

「よー晶。見直したぜ」
「驚かせて悪かった。でも、子供一人にしては上出来だ」

晶は必死になって平静さをとりもどす。

「ふ、二人も、一人で踏ん張ってるから」

晶がそういってサインを送ると、二人もそれにあわせ、サインを送った。

「いくぜ」
「切り上げるぞ」

【JOKER】
【MAGICAL】

そしてドライバーを装着してメモリを起動する。

「俺、変身・・・!」
「シングル変身」

【JOKER】
【MAGICAL/XCELION】

翔太郎はポーズをつけながら、スロットを展開し、ジョーカーに変身。
リインフォースは無愛想に淡々とスロットを開き、EXドライバーをX字型にしてマジカルに変身する。

『仮面ライダ〜?』
『鬱陶しいやぁ』

コックローチはジャンプ、ボアは突進して二人に襲い掛かろうとするも、

「オラァァ!」
「ハッ!」

ジョーカーの後ろ回し蹴りによってコックローチは蹴り飛ばされた。
マジカルも首から垂れていトゥーズイレイザー=マフラーを触手のように自由自在に動かし、ボアの肉体を絡めとり、あまつさえ投げ飛ばした。これも半魔人化の恩恵といえよう。


それにあわせるかのように、メモリ不所持だったり未変身のメンバーに、照井とヴィヴィオが殴りかかった。

「なんだお前ら?」
「俺に質問するな」
「以下同文」

そうして照井とヴィヴィオは、ジョーカーとマジカルが戦いやすいよう補助する。

「ほら二人とも、こっちやで」
「危ないから、戦いが終わるまで動いちゃだめだよ」

はやてと亜樹子も晶と唯を避難させる。

「「ハァァ!」」

一方ジョーカーとマジカルは、遠慮忌憚なくコックローチとボアを肉弾戦で叩きのめしていた。
回し蹴りや押し蹴り、拳の嵐といったもので二体をぶっ飛ばす。

「さあ、お片づけだ」
「害虫・害獣は駆除しなくてはな」

二人は強気な姿勢でメモリをベルトのマキシマムスロットにインサートする。

【JOKER・MAXIMUM DRIVE】
【XCELION/MAGICAL・MAXIMUM DRIVE】

「ライダーキック・・・!」
「ライダー卍キック!」

ジョーカーは飛び上がり、右足を突き出しての必殺キックを。
マジカルも跳躍して右足を突き出し、倒される側から見れば、マジカルが卍を描いているかのように反時計回りしながら、必殺キックを繰り出す。

『『げはああぁぁぁぁ!!』』

結果として、コックローチもボアも見事な噛ませ犬っぷりで終わった。

「「うあああああ!!」」

やけになったメンバーたちはメモリでドーパントになろうとするも、ジョーカーとマジカルに照井とヴィヴィオがそれを防ぐ。

「出番がなかったなぁ、エナジーさんよぉ?」
「それにイカルスといったか?悪いが、ここで眠っていてもらうぞ」

EとIがガイアディスプレイに浮かぶメモリをもった二人を取り押さえ、デコピンと頭突きをして気絶させた。勿論、メモリは踏み潰したり、握りつぶしたりした。

「左、リインフォース、あとは俺に任せろ。ヴィヴィオもご苦労だった」
「あぁ、頼むぜ」
「行こう、ヴィヴィオ」
「うん、ママ」

そうして、皆は一旦現場から離れた。
しかしこの時はまだ気付かなかった。

先ほど砕いたメモリの名称に。

【EDGE】
【IRON】





*****

EXEメンバーを大量検挙し終えると、青山兄弟を加えて、一向は風都タワーを背景に並んで歩いていた。

「まさかあんたがあんな勇気だすなんてね」
「覚えたての、ハードボイルド、だよ!」

晶は若干カッコつけながらそういった。

「こんの野郎!調子に乗るなっての!」

翔太郎は弟と触れ合う兄のような態度で、晶と喧嘩とさえ言えない微笑ましい光景をかもし出す。
やはり彼にはハードボイルドというより、ハーフボイルドが似合いそうだ。

(やはり、仲間や家族といる時間は心地いい)

リインフォースは心の底からそう思った。
ただし、それを思うともう一つの考えが浮上しかけることがよくあったのだが、今はそれをどうにか押し込められた。

そうしていると、前方から半袖シャツに短パンに帽子といった風貌の男と、もう一人は・・・。

「?・・・・・・あっ、ペットショップの!」
「それに、喫茶店の店員!」

そう、サンタが店長を務めるペットショップの店員と、さきほど風都イレギュラーズとの話し合いを行った喫茶店の従業員だった。

「偉そうに。何が街の顔だよ!」
「子持ちのクセになにが風都一の美女よ。この私を差し置いて!」

二人は黒いメモリと白いメモリを取り出す。

【ENERGY】
【ICARUS】

二人はコネクタにメモリを挿すことで、エナジー・ドーパントとイカルス・ドーパントへと変貌する。

「下がってろ!」
「ここは私達が!」

皆を後方に後退させるべく、敵に後ろを見せた瞬間。

『ヒャハハァ!』
『うふふふ!』

――バシュー!――
――ビュンビュン!――

エナジーは左腕から高電圧エネルギーを、イカルスは両腕から大量の羽根手裏剣を繰り出した。

「っ!」

それに気付き、リインフォースは髪の毛を操作し、髪質を鋼鉄のように硬化させることで防いだが、

――バタンっ!――

翔太郎にまでは防御範囲は広がらなかった。

「翔太郎さん!!」
「左・・・!」





*****

一年前の風都。
若菜は修理途中の風都タワーがよく見える場所で、地球の本棚の検索をおこなっていた。

「再起動における全てを閲覧した」

そして、風都タワーをみて、

「・・・来人・・・」

消えた実弟の名を呼んだ。





*****

一年前、ワールドゲート。

――カタカタ――

大地はそこで、辛うじて生きていた「根源」のシステムと端末をつかい、なにやら設定を組みなおしていた。

「俺も遂に、焼きが回ったかな?」

端末の液晶画面に一番大きくでている文字はこうだった。

DEMON WORLD=魔界

「・・・・・・・・・・・・」

そして、短い階段を登り、「根源」の真正面にたった。





*****

現在。

「ハハハハ・・・!誰も知らない。この街では俺たちが一番強いことを」
「EXEのツインヘッドであることもね!」

エナジーとイカルスだった二人は変身を解いて立ち去ろうとする。

「そんな・・・翔太郎さん・・・」

はやては目尻に雫を浮かばせたが、

「ありゃ?」

雫はすぐに引っ込んだ。

「・・・・・・・・・ん」

エナジーの攻撃を喰らったかと思われた翔太郎は、無傷で立ち上がった。
そして、自分の背中で自分を守ってくれた存在に気付く。

――ウェッ!――

「エクストリームメモリ!」

相棒と一緒に消失した筈のデータ結晶たる大型の鳥型ガイアメモリ。
そして、

――ギガガァ!――

「きゃっ、なによこれ!?」
「エクセリオンメモリVer.X!」

虚数空間に消えたはずの大型の飛竜型ガイアメモリ。

「まさか・・・!?」
「もしかして・・・!」

二人の予感は的中した。

エクストリームメモリとエクセリオンメモリからはデータ粒子の光が溢れ、そこから二人の人物が形成される。

「フィリップ・・・?」
「ゼロ・・・?」

「やぁ翔太郎。久しぶりだね」
「一人で泣いてなかったか?リインフォース」

当の二人は流暢にそういった。

「どうしてだよ?」
「永遠に消滅する、といったじゃないか」
「僕は一年前、若菜姉さんから肉体(からだ)をもらったんだ」
「そして私も、大地から命を譲り受けた」





*****

フィリップ復活の理由はこうだ。

「来人!これが私の決めたガイアインパクトよ!」

若菜の身体はデータとして分解され、そのデータはエクストリームメモリとなる。



そして、ガイアスペース内部。
フィリップはそこで意識を覚醒させた。

「・・・・・・・・・姉さん・・・?」
「来人。私の肉体(からだ)を貴方にあげる」
「え・・・?」
「貴方の相棒の泣き顔が、見てられなかったんですもの」

それを聴き、フィリップは自然と笑顔になる。

「人類の未来の為に、地球の運命を変えるのは、園咲に与えられた使命。でもそれに相応しいのは私じゃない。誰よりも優しい貴方よ、来人」
「姉さん・・・・・・でも僕、どうして?」

フィリップは疑問に思った。
肉体が消滅すると同時に、魂もまた地球の中に融合したとばかり思ったのだから。

すると、

「答えはその内見つかるわ。それまでは、風都を守る風でいなさい」
「・・・・・・みんな」

若菜だけではない。
冴子、琉兵衛、文音までもが現れていた。

「私達は、地球に選ばれた家族だからね。この地球の中から、お前を見守ってるよ」
「父さん!母さん!姉さん!」

フィリップは駆け寄ろうとするも、文音が制する。

「来人、来てはダメ」
「さよなら、来人」
「さようなら・・・・・・ありがとう」

冴子はさっぱりとしていたが、若菜は涙声でお別れをいう。

「若菜姉さん・・・・・・初めて貰ったカードと、同じ笑顔だ」
「・・・バカァ・・・」

遂に若菜は泣き出してしまい、冴子は若菜を抱きしめてやった。
文音は二人の愛娘を気遣いながら。琉兵衛はフィリップに笑顔で見送りながら、

自分達の家族に最後の望みを託して、かつての優しい家族として、地球の未来を見守っていく。

「・・・・・・ありがとう」

そんな家族の一員として生まれて、フィリップはこのうえない誇りと感動を覚えていた。





*****

ガイアゲート。

「無限ゼロ。これが俺なりの答えだ」

そういって、大地は「根源」へと飛び込み、「根源」からは激しい光の渦が巻き起こった。

――ギガガァ!――

その光につられて、虚数空間の壁をぶち破り、エクセリオンメモリまでもが「根源」へと突入した。


そして、魔界。

「・・・・・・・・・・・・んぅ」
「気がついたか、ドS魔人」
「貴様は・・・!・・・・・・なぜ、私は・・・!?」

目の前に大地がいることにも驚いたが、自分が存在していることにも驚いた。

「貴様なにをやった?」
「ベツに、一度だけの裏技だ。「根源」にある無限のデータを利用して、俺の肉体を巨大な魔力に変換し、塵状になって魔界に強制送還されていたあんたにくれてやっただけだ。後は自動で肉体が再生する。満腹度は腹八分ってところかな」

要するに、大地は命と引き換えにゼロを復活させたということだ。

「ちょっと待て、ならば貴様は」

そういってゼロは、大地に触れようとした。
が、触れなかった。姿ははっきりしているのに、立体映像のように触れなかった。

「何故私を?」
「なーに、あんたの言う信念がどれ程のものかを、確かめたくなっただけさ」

大地は気軽そうに言った。

「『欲望』を喰らい尽くした末、世界に何が起こるのか。これはこれで見応えがありそうだからな。だから、善意からあんたを救っただなんて思うなよ。これは俺個人の我侭だ」
「それはそれで疑問が残るな」

「ゼロ。人様からの親切は、邪険にするものではないと思うんじゃがの」

行き成り聞こえてきた老人口調。
咄嗟に後ろを振り向くと。

「兄上」
「よう」

ゼロの兄、無限レイズがいた。
もっとも、姿は半透明だが。

「AtoZの時といい、ここのところやたらと半透明で登場してくるな」

「まあそういうな。・・・ゼロ、ワシは御主に相棒に問うた、覚悟について。そして教えた、覚悟のなんたるかを。ワシは隣で一緒にいてくれるものが、友達や仲間、相棒がいれば、どんな脅威にも立ち向かっていけると、心底信じておる。じゃから、御主にはリインフォースの傍らにいる義務がある」

レイズの脳裏には、越えてはならない一線を越えてまで、戦う道を選んだ戦友との記憶がうかぶ。

「それに、君達と左達には、私達の風都を守って貰わないとね」
「貴様は確か・・・・・・」

そこへ、一点だけに血をにじませたようなスカーフをした男が現れる。

「園咲霧彦」
「あぁ、冥界でレイズさんから、色々話は聞かせてもらっているよ」

霧彦もまた流暢に語る。

「君にも言わせてくれ。あの良い風が吹く、私の愛する街を、宜しく頼む」

状況ゆえに色々と違えど、霧彦は翔太郎に風都を任せた時と全く同じ気持ちで、ゼロにそういった。
そこへさらに、外堀を埋めるように大地がこういった。

「無限ゼロ。あんたは何があっても生きるべき存在だ。これからも信念のままに『欲望』を喰い続けろ。それが今までの戦いで犠牲になったもんへの礼儀ってもんだぜ」

「・・・・・・・・・・・・」

そういわれて、ゼロは少し黙り込んだ。
そして、こうかえした。

「全ての『欲望』は、私の手中にある・・・」
「「「・・・・・・・・・(コク」」」

ゼロの言葉を聞き、三人は頷き、消え去っていった。

「フッ・・・・・・さて、もう一度行くか、地上へ!」

そうしてゼロは、魔界に突入してきたエクセリオンメモリに、手をかざした。





*****

肉体(からだ)を復元しながらも、僕はメモリのなかで君達を見ていた」

「私の場合、魔界と地上の時間軸のずれを修正すべく、色々切磋琢磨している間に時間が経ってしまったがな。なので急いで肉体を異次元の侵略者(イビルスクリプト)でデータ化させて、一っ飛びしてきたというわけだ」

そう、魔界と人間界の時の流れはかなり歪にずれており、魔界での一年が、地上では百年にも千年にもなりかねないのだ。
故にゼロは魔界王に頼むことで魔界と地上の時間軸を同じにしたのだ(勿論そのためにかなりの労力や説得を要したのは言うまでもない)

だがこれは朗報としか言いようがなかった。

「気のせいじゃなかったんだな・・・」
「ホント、貴方らしい無茶苦茶ぶりだ」

そういいつつも、翔太郎もリインフォースも喜んでいた。

「貴方達がフィリップさんとゼロさん。翔太郎さんとリインフォースさんの相棒」
「やぁ!青山晶君。君の事は既に検索済みさ。あの状況でよく頑張ったね。もしかしたら僕らは仲間になれるかもしれないねぇ」
「私も貴様の進化をしっかりと見せてもらったぞ」
「うぉおおお!!フィリップ!!」

翔太郎はフィリップに精一杯抱きつこうとするも、フィリップは避けた。

「うわッ、翔太郎!相変わらず全然ハードボイルドじゃないってイタタタタ!!」
「翔太郎君は完成されたハーフボイタタタタタ!!」

――ギュゥゥゥ!!――

「翔太郎さんはハーフボイルドやない。人一倍優しくて素敵なだけや!」

はやてはしっかりと翔太郎の顔をたてた。
そしてこっちは、

「リインフォース、ヴィヴィオ、ネオの調子はどうだ?」
「すこぶる良いよ!でも、私にまだ懐いてくれなくて・・・・・・」
「ゼロ、帰ったら直ぐ、あの児を抱っこしてやってくれ」
「勿論だ。にしても・・・」

――モニュ・・・!――

「あぁん///」

いきなりゼロに乳房をもまれ、思わず色っぽい嬌声をあげてしまったリインフォース。

「以前よりかなり胸がデカくなったな。やはり児を産むとこうなるものなのか?」

といいつつも、ゼロは相棒の豊かな美巨乳をもみ続ける。

「ゼ、ゼロ、頼む・・・・・・これ以上、されると//////」

必死に理性を働かせているものの、幾度もの情事で知り尽くされてしまっていた弱点を細々と攻められ、これ以上喋るとお子様の教育上、好ましくない声と表情をしてしまうと悟り、ゼロの逞しい胸板に顔を埋めることでそれを隠した。





「コラァァ!さっきからなんだぁ!?無視すんなーッ!」
「ていうか何堂々とイチャついてんのよ!?あんたらに独り身の辛さがわかる!?」

すると、さっきから完全に空気というか影というか、とにもかくにも存在すら忘れられていたツインヘッドの二人は、地団駄を踏みながら抗議する。

「おっといけねぇ。忘れるところだったぜ」
「構わんさ。どうせ噛ませ犬だ」

翔太郎もリインフォースも何気に酷いことをいう。

「行くぜフィリップ」
「あぁ」
「相棒、ここからが本番だ」
「了解だ、ゼロ」

四人はいつもどおり、立ち並ぶ。

【ENERGY】
【ICARUS】

ツインヘッドは、エナジーとイカルスに変身する。

【CYCLONE】
【JOKER】
【MAGICAL】
【LEADER】

「「・・・・・・・・・(コク」」
「「・・・・・・・・・(コク」」

二組はメモリを起動させ、お互いに顔を見合い、頷きあった。
そして、構えた。

「「「「変身!!」」」」

【CYCLONE/JOKER】
【MAGICAL/LEADER】

一年ぶりに姿を見せるのは、
風の切札、仮面ライダーW・サイクロンジョーカー。
魔人戦士、仮面ライダーイーヴィル・マジカルリーダー。

「おっとと、やっぱこれだわぁ」
「そうやなーって、なんでわたしがリインフォース受け止めとるん?」

なんだかはやてが勝手に乗り突っ込みしてるが、無視しよう。

「いくぞ相棒」
『無論だ相棒』

Wもイーヴィルも互いの声を掛け合い、闘志を滾らせる。

そして、敵に突っ込んでいき、見事なキック技を食らわせていく。
単独変身の時にはなかったキレが、今はあった。

【LUNA/TRIGGER】
【SONIC/KNIGHT】

Wは幻想の銃撃手・ルナトリガー、イーヴィルは音速の騎士、ソニックナイトにハーフチェンジ。

――バンバンバンバンッ!――

――ブンブンブンブンッ!――

『『うああああぁぁぁぁあああ!!』』

幻想の追尾弾と音速の薙刀が、エナジーとイカルスの身体に直撃する。
さらにはイーヴィルによって、イカルスは翼をズタズタに切り裂かれ、飛行能力を喪失していた。

【HEAT/METAL】
【TRICK/BLASTER】

今度は熱き闘志・ヒートメタルと、謎の砲撃手「・トリックブラスタートにハーフチェンジ。

――ブンブンッ!――

――バンバンッ!――

Wは鋼鉄の棍棒・メタルシャフトでエナジーを持ち上げて投げ飛ばし、イーヴィルは狂気の銃器・ブラスターキャノンによる連射でイカルスの体力をそぎ落とす。

【CYCLONE/JOKER】
【MAGICAL/LEADER】

そして基本形態に戻る。

【JOKER・MAXIMUM DRIVE】
【EVIL/LEADER・MAXIMUM DRIVE】

『さあ、行くよ翔太郎』
「あぁ、ハードボイルドに決めるぜ」
「決めるぞ相棒」
『えぇ、この一撃でフィニッシュだ』

Wとイーヴィルは、イカルスとエナジーを挟み込むような位置で跳躍し、そして

「『ジョーカーエクストリーム!!』」
「『リーダーブレイクラッシャー!!』」

前からも後ろからも、左右どちらからも。
どちらの表現をつかうかは読者次第だが、

『『あぁぁぁぁあああああ!!!』』

互いの力を合わせ、支えあうことで成立するこの必殺キックは、見事にきまった。

『決め台詞は、忘れてないだろうね?翔太郎』
「当たり前さフィリップ!街を泣かせる悪党に、俺たちが永遠に掛け続ける、あの言葉・・・!」

「リインフォース、まだ憶えているな?あの決め台詞を」
『ゼロ、それは貴方が一番わかってるはずだ。私の願いと貴方の信念の乗った、覚悟の言葉を』

そして、彼らは何時ものように、左手の指と右手の指で、悪党を指差し、こういうのだ。

「『さあ、お前の罪を・・・・・・数えろ!』」
「『さあ、貴様の欲望を・・・・・・差し出せ!』」

次回、仮面ライダーイーヴィル、最終回!

祝福されしZとR/花【ウエディング】

これで終わりだ!





仮面ライダーマジカル
リインフォースがマジカルメモリとEXドライバーで単独変身した仮面ライダー。
ベースカラーは白銀で、マフラーその他の色はシルバースカイ、複眼の色は緑。
メモリの使用上、イーヴィルに比べて能力値は半分近くだが、魔法を自由自在に扱い、格闘戦とマジカルエッジでの近接戦を得意とする。

身長/200cm 体重:70kg キック力:6トン パンチ力:4トン
ジャンプ力:30m 走力:100mを4.5秒 ライダー卍キック:18トン


EXドライバー
AtoZ事件の際、ゼロが単独変身する為に使用した物と同一機。
レフトスロットにT2エクセリオンメモリを予めインサートしておくことが前提となっている。極秘裏にシングルドライバーのデータを解析・分析した結果として製造された管理局製のメモリドライバー。しかしながら常人が使うことを想定していない試験機な為、どのメモリで変身してもツインマキシマムが可能な機構になっている。


T2エクセリオンメモリ
管理局が開発したアナザーT2メモリの一本で、AtoZ事件の際、ゼロが回収した。
単一ではなんの効果もないメモリだが、EXドライバーのように二本のメモリによる単独変身型のドライバーと、もう一本のメモリを組み合わせることで初めて効果を発揮し、対となったメモリの性能や特性を極限まで強化する。
カラーは透明(クリア)


マジカルエッジ
マジカル専用のコンバットナイフ型武器。色調が白銀と空色で、マキシマムスロットが二つあること以外はエターナルエッジと同等の武装である。
マキシマムドライブはマジカルエッジを原型に魔力で形成された幾数本もの血錆色のダガーを一斉に飛ばし、目標に命中させた後にマジカルエッジでトドメを刺す”マジカルブラッディダガー”。この技を使う際は「穿孔せよ、マジカルブラッディダガー」と言う。


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