仮面ライダーブライ!
前回の三つの出来事!


一つ!卑怯卑劣な落ち武者風の忍者モドキ、文丸にブライらが完全勝利!
二つ!風子に助っ人として、バット・ダークが参戦!
三つ!紅麗が、封印の地へと向っていることが判明する!

妄想狂人と王子様と純情


双角斎。
この男は裏麗の中で1・2を争うレベルで嫌われている。
なぜなら・・・・・・。

「霧沢・・・・・・風子・・・・・・。お前・・・俺が好きだろ・・・好きだよな・・・・・・愛してるだろ・・・俺を・・・・・・なあ?」

「「・・・・・・・・・??」」

いきなりの意味不明な発言に、風子とバットはポカンとした表情になる。

「いいよ・・・何も言わなくてもわかってるよ・・・わかってるよ・・・お前の目がさあ・・・言ってるよ・・・・・・俺に抱いて欲しいって訴えている・・・・・・」
「おめえ、○○○○?」
「脳みそ取り替えたらどうです?」

双角斎の余りに度を越そうとする発言に微妙な表情となる。


「照れるなよ・・・受け入れるよ・・・へへ、へへへ。・・・・・・俺は毎日日記を書く。最近はお前のことだらけだよ風子・・・・・・書くたびに感情は本能となっていく。電波も感じた・・・指令だ・・・運命だ・・・」

一人語りは続く。

「みるみる・・・脳内麻薬の分泌が凄まじくなってきて・・・小説を書いてみた。主人公は俺と・・・お前・・・とても美しく・・・淫らな・・・官能小説だ。その世界では・・・お前はとても素直なイイコだ。哀願・・・しながら求めてくるよ・・・・・・カワイイ・・・カワイイよ風子」

まだ続く。

「・・・そのうち文字の羅列だけじゃ、物足りなくなった・・・お前に触れてみたい・・・・・・持ち運びできる大きさのお前を作った・・・・・・・・・まだダメだ・・・人形は動かない・・・肌も作り物だ。そして・・・お前の体を写真にとってビデオで写した」


――フッ・・・――


いきなり双角斎が消える。
そして風子とバットの中間位置に現れ、二人の肌に触れた。それも超至近距離で。

「本物・・・だぁ・・・あったかい・・・や、やわらかい。大丈夫・・・・・・俺も愛してる・・・」
「「ッッ!!」」

――ボグッ!――
――ドガッ!――

「うぎゃッ・・・」

風子は神慮伸刀、バットは拳で双角斎を殴った。

「さわんな。おまえ、気持ち悪いよ」
「今すぐ地獄に直行してください」

二人が実に冷めた表情をして言い切っていると、

「ひゅひゅ・・・やっぱり・・・いいよなぁ・・・・・・反応が返ってくる・・・ってさぁ」

起き上がる双角斎。
だが、

「う!?」

なにか違和感を感じ、フィギュアを取り出す。

すると、

「う・・・あ・・・ああ・・・」

首と右腕がもげていた。

「ぁあぁ!!うわあぁあぁあぁあぁん!!壊れた!俺の!うわあぁああ!!」

((こいつと戦うのヤだ))

心の底から本気で風子とバットは思った!

「なんでだよ・・・?」

――バチンッ――

双角斎が背負っている壺の鎖を解く。

(あの壺・・・もしや・・・)

「なんで・・・こんな酷いことすんだよ・・・?俺を愛してるんじゃ・・・ないのかよ?そんなら・・・・・・俺にも考えがあるよ・・・」

――カパッ――

「使うぞ」

双角斎が壺の蓋を開けた。

――ゴウゥゥゥゥゥオオオオォォォォォ!!!――

「「くッ・・・!!」」

壺は掃除機の数百倍はあるであろう勢いで空気を吸い込み始める。

(な・・・に!?吸い込まれる!?)

「魔導具・・・・・・魂吸(たます)いの壺・・・・・・この壺のなかに・・・人間を閉じ込めることが・・・できる」

「きゃ!!」
「拙い!!」

まともに立つ事すらも叶わず、二人は岩にしがみつく。

「風子にバット・・・もう一回聞くぞ。俺を愛しているんだよな?じゃなきゃ・・・永遠に・・・壺の中の住人になってもらう・・・」
「へん!何言ってんだバーカ!てめぇなんざ大嫌いだ!!ぶっ殺してやる!!」
「右に同じですね!!」

風子は中指を立て、バットはアカンべぇをしながら言った。

しかしそれが拙かった。
両手でやっとだったのに、ジェスチャーのために片手を使った結果、

「「しまった」」

驚くくらいにあっさりと壺に吸い込まれてしまった。

――パコ・・・――

「照れ屋だなぁ・・・・・・」

蓋を閉じる双角斎。

「へひゃひゃひゃ!!もう少し素直に・・・なってくれよぉ!!この中で・・・一生・・・!一生飼ってやるからな!!」





*****

『もう歩いて随分になりやすが、一向に他の方々に出くわしませんなぁ』
「広いところにまで来たけど、道・・・あってるかな?」

小金井とカッパヤミーは神威を撃退し、とりあえず道なりに進んでいた。

「つーかなんなんだろうねこの門?」
『さぁて?もしかしたら、ここで待っていたら他の方たちも来るんじゃ?』

二人はこの広い空間において明らかに異質な西洋風の鉄の扉のまえに腰をすえた。

するとだ、

「おーい、お前ら」

向こう側から聞いた事のある声。

「この声って・・・!」
『もしかして・・・刃介の旦那!』
「ご名答だ」

おくの洞窟からはブライはテクテクと歩いてきた。
勿論後ろからは烈火たちもついてきている。

「烈火兄ちゃああぁぁぁん!!」
「小金井ィィいいいい!!」

小金井と烈火は互いに飛びつきあい、再会を喜ぶ。

「つか、この河童だれだよ!?」
『あ、始めまして。あっしは七実様の遣いのもんでさぁ』

土門の言葉にカッパヤミーの能天気な受け答え。

「七実から聞いたが、三手に分かれさせられたらしいな」
「うん・・・・・・」
「そうしょげるな。その内待ってれば来「もう来てますよ」・・・早いな」

何時の間にか七実が刃介の後ろをとっていた。
七実の隣には気絶した木蓮を担いだ水鏡と、同じように失神させられた命が居た。

「水鏡先輩に七実さん!」
「柳さん、これで殆どのメンバーが揃いましたね」

水鏡は平然といった。

「じゃあ、残りは風子だな。あいつなら五分もせずに来るだろうな!」
「でもビリだったわけだな!」
「「ワハハハハハハハハハ!!」」

烈火と土門は幼稚に大いに笑う。
そこへだ。

「仲がよろしいことで結構だわ〜」

向こうの岩陰から姿を現す一人の女。

「テメーは確か・・・」
「鬼凛ちゃんでィーす♪」

鬼凛は相も変わらず気軽そうな声音をしていた。

「テメーがここにいるってことは、門番役か?」

そう訊かれると、彼女は刃介らにあるものを見せた。

「カギ・・・?」

柳の呟きどおり、それは鍵だった。
鬼凛はポケットから出したソレを見せながら説明する。

「この門の鍵だね。こいつは火影の民が造った強固なもんで・・・魔導具の力でも壊せない。この鍵が唯一の術なの。ここをくぐれば天堂地獄はすぐだよ。さっき森さんも入ったばかりだからまだ間に合うかもね」

「くれ!」
「イ・ヤ。男なら力づくで奪って♪」

この面子の前になんて命知らずな発言をする鬼凛。

「・・・・・・一ついいか?」
「あれ?なにかしら?」

いきなり刃介が鬼凛に質問してきた。

「霧沢の行ったルートにはどんな奴がいたんだ?」
「・・・・・・勘がいいんだね」

鬼凛は刃介の思考を察した。
勿論心眼ぬきでだ。

「おい、どういうことだよ?」

土門が刃介に意味を問いただす。

「霧沢風子・・・彼女は私達裏麗でも毛嫌いしてる双角斎っていう奴と戦っていたの」

それには鬼凛が答えだす。

「妄想壁の強いストーカーでね、気に入った女はどんなことがあっても手に入れる男だ。奴自体はそれ程強くないけど問題は魔導具!魂吸いの壺――人間を壺の世界に閉じ込めてしまう。・・・・・・そして、彼女ともう一人は壺の仲の住人となってしまった。これでもう無事に外には出られない」

(ん?もう一人?)

刃介は鬼凛の説明の一部に首をひねる。


「あの壺の中は完全な無の世界。音も光も、出る術も無い虚無の空間。時間だけが外より早く過ぎていく。一時間が十日分・・・もう彼女らは何日無を体験しているのか・・・・・・何も見えない、何も聞こえない密閉空間に長時間おかれた人間はどうなると思う?―――確実に・・・精神に異常をきたすわ。もう・・・君達の知ってる明るい風子は、きっと・・・帰ってこない」


心なしか、それを語る鬼凛の口調には悲痛なものを感じた。


「そ、そんな、風子、ちゃん・・・・・・ウソ・・・・・・ウソだぁああ!!」
「ああそうだ!!ウソに決まってる!!」

涙交じりに泣き叫ぶ柳の言葉を土門が怒鳴るように肯定した。

「土門、くん・・・・・・」
「柳・・・あの風子が、こんなことで負けちまうような奴だと本気で思ってるのか?今まで俺たちの戦いを見守って来てくれたお前ならわかるはずだぜ。俺たちの――風子の強さをよォ!!」

土門は堂々と言い切った。

「そうだね、私弱気になってた。うん、風子ちゃんは絶対に来るよ!」

柳は土門の言葉により、柳は一気に活力を取り戻す。

「フ、ゴリラにも、役立つところがあったんだな」
「水鏡、お前後で覚えてろよ・・・!」

さりげに水鏡の皮肉たっぷりの言葉が引っ掛かったが。

「よし、じゃあ鬼凛。もし霧沢がその変態野郎をぶちのめしたら、素直にその鍵を渡してもらうぜ」
「いや渡さないから!何勝手に私が鍵を渡すようなフラグを発言したみたいになってんの!?」

刃介の勝手な言い分に鬼凛はツッコんだ。
これから先に起こる果てしない本能の恐怖も知らずに。





*****

魂吸いの壺内部。

風子とは中身を落としてきてしまったかのような空ろな表情をしていた。
そう、自分の中身を落としてしまったかのようにだ。

そんな彼女に悪魔の囁きが。

――・・・風子・・・風子ォオ・・・――

「風子さん、聞いてはダメです」

外から聞こえてくる双角斎の声と、隣で全くの平常状態で風子に声をかけるバット。

――カワイイ風子・・・どうしたんだい・・・元気ないよ?――

「いや、貴方のせいでしょうが」

にしてもバット・ダーク、この劣悪な環境において自我を保つとは――伊達にシルフィードの秘書をやっていないということか。

――つれないこというなよバットォォ・・・・・・お前も照れてんだろ?――

「・・・・・・もう何を言っても無駄ですか」

(あれ?誰だっけ?今話してるの?)

風子は心が空っぽ状態だ。
故に、バットと双角斎の会話?の内容以前の疑念を抱いていた。

――二人、とも・・・出してあげても・・・いいんだぞ。俺を好きだと、愛していると・・・そう言えば・・・・・・!――

「はいはい。妄想は自室限定でお願いします」

――ホラ・・・言うんだ風子・・・”愛してる”と!”永遠の愛を誓う”と・・・・・・!!――

「ん、狙いを風子さんに絞りましたね・・・!風子さん、無視しなさい」

「(・・・・・・・・・・・・なにもわからない。もうどうでもいい)え い えん の」

風子は口を開き始めた。
実にのっぺらとした調子でだ。

――言え!!楽に・・・なる、楽になれるぞ・・・・・・!!――

「風子さん、口を閉じていて!」
「あい を」

バットを無視して風子はほんの少しずつ喋る。





*****

双角斎は喋りきろうとする風子に歓喜した。

「言え風子!ヒャハハハハハハ!!」

――ガスッ――

「・・・・・・・・・あへ?」

なにかが双角斎の手の甲に刺さった。

「これ・・・しゅり・・・」

手裏剣。
忍者などが使う暗器の一種で、主に投擲武器として使われる。

「ぎゃあああああああああ!!!」

双角斎は情けなく叫んだ。

「ダメですねぇ。そんな形で隙って言われて嬉しいですか?」

そこへ手裏剣の投手が現れる。

「女の子は感情の無い人形じゃありません。それなりのマナーとモラルが必要でしょう。貴方は不合格ですね」

長く伸ばされた黒い髪。
身に纏った白い忍び装束に背中に背負った忍者刀。
女と見紛うほどの綺麗な素顔。

「十神衆雷覇、ここより私がお相手します」

語り口の優しい青年であった。

「ぐッ・・・ら・・・雷覇だと・・・・・・!?」
「はいっ」

雷覇はニコニコとして答えた。

(な・・・何故だ!?裏武闘の最中に姿をくらました男が、何故此処に!?)

双角斎はあせっていた。
なにしろ鬼凛から与えられた情報によれば、雷覇の強さは紅麗に次ぐ=十神衆最強とさえ言われるものがあったからだ。

(お、お、穏やかなツラしやがって・・・とんでもねぇプレッシャー与えてやがる!逃げられねぇ・・・逃がすつもりがねえ・・・!!)

そして、

「う、うわああ!!」

ヤケクソになってあるモノを雷覇に投げつけ、それは忍者刀によって斬られる。
が、それは・・・

――パラパラパラ――

粉の入った袋だった。

「?」
「かかったぁ!!」

雷覇の身に粉がかかると、すかさず双角斎は魂吸いの壺を発動。

「わぷっ」
「馬鹿め!その粉を浴びた人間は・・・この壺に閉じ込められちまうんだよぉ!!風子とバットも・・・そうやって中に入れてやった!!」

二人に異常なまでに、超至近距離にまで近づいたあの時だ。

「成る程、やっぱり風子さんとかの麗人はその中なんですね」

雷覇は地をけり、

「てやぁーー♪」

自分から壺へ飛び込んで行った。

「!?」

驚いた様子であったが、とりあえず双角斎は壺の蓋を閉じる。

「・・・・・・・・・・・・ほ、本当に強いのか・・・?自分から入った・・・ただのマヌケとしか思えん・・・」

拍子抜けか、意外だったか、双角斎は腑に落ちなさげだ。

「・・・・・・ヒヒ・・・まあいい。風子とバットは・・・場合によっては出してやるが、奴は一生この中だ・・・・・・!勝った!!あの雷覇を倒したんだぁぁ!!イヒヒ!!風子にバットォオ!!お前らへの愛が俺を強くする!!」

もう独りで一生やってろといいたくなる絵面だった。




*****

壺内部。

「あれ?新入りでしょうか?」
「・・・・・・・・・・・・だれ・・・?」

どっちがどっちの言葉かは、まあ言うまでも無いか。
外からやってきた彼は、自分のことをこう称した。

「助けに参りました。王子様です」

果てしなく使いふる・・・・・・いや、クサい台詞だった。
だが、嫌な感じはしなかった。

(・・・・・・・・・・・・王子様・・・?あれ・・・?前にも・・・前にも・・・こんなことがあったような・・・・・・ダメだ、思い出せない・・・・・・)

「さっきからこの調子なんです」
「これはなんというか、流石ですね」

風子が思い耽っていると、バットと雷覇が話し合っていた。

「この異常な空間において、精神崩壊を免れることはできずとも、それを軟化させるために”無意識に心を空っぽ”にしたみたいです」

バットは簡単に風子の状況を説明した。
すると、雷覇は「ん〜〜」と少し考え、右手を前に突き出し


――ムニュ――


風子の左の乳房をタッチした。

「・・・・・・・・・・女子高生好き?」
「ち、違いますよ!これはですね、そう、感情の激流です!年頃の女の子なら、このような事に対して何らかのアクションを起こす筈です!」
「行き成りおっぱい触られたら、誰だって否が応でも反応しますよ。というか、そんな方法をチョイスするってことはやっぱり女子高「だから違いますって!!」

雷覇よ、色んな意味で説得力0だ。



一方風子の思考は空っぽの状態から

――私の胸に私の胸に私の胸に私の胸に――
――まっ暗――
―ーB87から最近86――
――そーいや今日私、ブラしてたっけ?――
――双角斎――
――右手H――
――チカン――
――ちかん――
――痴漢――

思考の嵐となっていた。



そして心の状態が完全に戻って眼にしたのは、自分の乳房にタッチしている雷覇。
結果、

CRASH!!だった。
簡単にいうと、雷覇が風子に殴り飛ばされたのだが。

「何してやがんだコノヤロー!!死にたいのか馬鹿!!」
「風子あん、落ち着いてください。暫定てきながらも、味方が死にそうですよ」
「へ・・・?」

風子はなだめられ、ゆっくりと足元をみた。

「・・・雷覇くん?」

そこには頭から血を流したギャグ仕様な雷覇が倒れていた。

数分後、雷覇が回復し、状況説明が始まった。
双角斎に魂吸いの壺に入れられてから、勿論風子とバットは出口らしきものを探した。
もっとも、そんなものは最初から期待していなかったしあるはずもなかった。

だったら兎にも角にも暴れ回ってみたが、壺はビクともせず、風子は最終手段である風神の核のスペアたる小玉の最後の一個を使おうとまでした。しかし今後のことを考えたバットは当然のようにそれを止めるようにいった。

肝心の核がなくなり、スペアさえもなくしたら風神はただの趣味の悪い腕輪に早代わりだからだ。
しかし、風子はその制止を振り切って使ってしまったのだ。

そして風神に宿っていた人格はこう言い残した。

――ダメだ・・・・・・ごめんよ、ゴシュジンサマ。力になれなくて、ゴメン・・・・・・――

その声は実に切なそうだった。

――これで小玉は全てなくなった。風神は冬眠する・・・・・・早く本体を見つけて・・・ボクを・・・――

バットに止められたのに、それでも無茶をして、結果として小玉を無駄に消費してしまった。
力を完全に失い、自分は我侭な判断をしたせいで、これから仲間たちの力になれない。
そんなネガティブな想いが起因して心が空っぽになってしまったらしい。


「あなたらしくないなぁ!」

雷覇はひとしきり話を聞いて明るく言い切った。

「人間ですからネガティブなことだって考えます。絶望することだってあるでしょう。でもね、結局マイナス思考でいいことなんて何もないんですよ。全てが楽天的で何も考えていない人よりマシですけどね」

雷覇は言い聞かせるように語る。

「あなた達は・・・どんな時だって、頑張って戦って・・・そして紅麗様に勝った。立って、出口を探しましょう!問題なのは絶望したあと、そこかた立ち上がる勇気です!」

雷覇はそういうと、少しとぼけたかのような――心配するかのような表情で

「・・・・・・説教くさかったですか?」

などと尋ねる。

「・・・ううん!ありがと!!」

風子はすっかり元気を取り戻したようだ。
するとバットは雷覇にこう呟く。

「お見事でしたよ」
「いえいえ、大したことではありませんよ」

バットは雷覇のことを高く評価したらしい。
彼女も裏世界には表世界と同様に、善い奴と悪い奴がいることをよーく熟知している。
雷覇はどちらかといえば立場上悪い奴になるのだが、人間としては善い奴に分類されるだろう。

「では気を取り直して、この薄暗い牢獄に光を差し込ませましょう」
「え、どうやって?」

風子がきくと、バットは左腕にしてある腕輪を光らせた。

「さっきからコレにこの空間の解析をやらせていたんですけど、どうやらこの壺の内部は特殊な結界を張る事で視覚を遮り、空間を無限ループさせるようにしていたようなのです」

バットはそう説明し、手刀を構える。

「炎熱」

言語と同時に右手には奇妙な青黒い光が灯り始める。

「属性付加」

そして、灯った光は激しい青色の炎となった。

「うそ・・・?烈火と紅麗以外にも・・・!?」
「これは炎術士の才能ではありません。私の体内にある魔力を炎熱に変換して右手に纏わせただけです」

驚く風子に説明しながらバットが手刀をふるい、視覚封じを司っていた呪符を燃やした。
それと同時に闇が一気に晴れ、広大であると思っていた空間は多少広い部屋程度のものだったことを強制認識させたのだ。

「全く持って愚かしい男です」

バットは自分らの周囲にいる被害者らを見て呟いた。

「本当にそうですね。己の独占欲を満たす為だけに、何人もの未来ある女性を閉じ込めて自由を奪った」

周囲にあるのは数人分の死体。
その殆どが白骨化した女の死体。

「あまりに自己中心的なこの悪魔にはそんな彼女達の悲痛な声も届かなかったのか」

雷覇は忍者刀の刃先を内壁に当ててこういったのだ。

「忌まわしき元凶に・・・・・・死を」


――ズガッ!!――


突き立てられた白刃は、壺を貫通して外へ出て、双角斎の体を貫いた。

「おぶえッ・・・ばらがああああああああ!!!!」

奇妙奇天烈な絶叫をする双角斎は吐血し、背中に背負った御自慢の壺も割れ果てて、中に居た三人が元のサイズで出てきた。

手刀と忍者刀を構える雷覇とバットに

「許ッ・・・ゴボッゴボッ・・・・・・」

命乞いしようとしているが、吐血のせいでうまくできないらしい。

「お願いです、風子さん・・・・・・目を閉じていてください」
「貴女が見るには、これはあまりに残酷で醜悪ですから」
「・・・・・・うん・・・」

雷覇とバットの言葉に、風子は素直に応じて眼を閉じた。

「頼む!!命・・・!命だけは許して・・・ッ!」

さっきまでの優越感を金繰り捨てる双角斎。
これが新生火影メンバーならどうにかなったかもしれない。
だが彼に鉄槌を下すのは、

「そう言った女にお前はどう答える?」
「電気と冷気、属性付加」



(・・・・・・誰かが言ってたな・・・雷覇は”昼行灯”だと・・・・・・冗談じゃねぇ・・・今の眼・・・コイツは・・・コイツらは・・・!!)



首だけとなった彼の――それが最期の思考だった。
だがもし、彼の命がもう少し長く続いたら、多分このような言葉が出ていただろう。

死神、悪鬼、羅刹・・・・・・と。





*****

「!・・・双角斎が、死んだ」

一方鬼凛は、青ざめる。

『双角斎ってたしか、風子さんとやらと戦ってた奴ですよな?』
「そう。あいつは風子ともう一人を魂吸いの壺に封じて勝利した。もうじきここに来るはずだった・・・あの男さえ現れなければ・・・とんだ、計算ミスだよね」

勿論鬼凛はそれが誰だが知っている。
双角斎は念話的なもので鬼凛にこう報告していた。

――いい情報だ・・・鬼凛。雷覇を倒した・・・!――

もっともその報告も勘違い以外のなんでもなかったが。

『つーことは、あっしらの心配のタネは一切合財刈り取られたってことですかい?』
「多分そうでしょうね、カッパヤミー」

カッパヤミーの言葉に七実が肯定した。

「そんじゃ、こっちもこっちでおっ始めるとするかな」

そしてブライがメダルを換えながら鬼凛の前に立つ。

≪KABUTO・ONI・INAGO≫

変化したのは頭と脚だ。
カブトムシの立派な一本角が雄々しくそびえるカブトヘッド。

亜種形態の一つ、カブオニナだ。

「だったら私はこれでいくよ、砲鬼神!」

鬼凛は右腕に砲型の魔導具を装備し、その窪みに『蛇』と書かれた玉をはめ込んだ。

「バキュン!!」

砲鬼神は花弁のように砲身を開くと同時に、内部にあったもう一個の嘴状の部品が現れて射出される。

「虚刀流・・・『梅』」

それに対してブライはエネルギーが伝達されたイナゴレッグで、回し蹴りを行い、弾き飛ばした。

「ひゃんっ・・・・・・まだまだ、いっくよォーー!!」

鬼凛は砲鬼神の玉を入れ換えた。
今度は内部の部品も口を開き、太く大きい刺を延々と射出し始める。

「甘い甘い」

――バチバチバチバチ!!――

ブライはカブトレッグから緑色の雷撃を行って刺を全てを撃ち落す。

「う〜〜!やっぱり君の心って読みにくいというか、読みたくないというか・・・・・・」

そう、心眼によって他人の思考を読み取れる鬼凛は戦闘において凄まじいアドバンテージをもつ。
しかし刃介の心はヘドロのような欲望で本心が覆い隠されているので、読めないというより読む気にさえさせないのだ。

流石に自分の敗北を予想する鬼凛だが、ここで彼女の想像を真っ向から裏切る発言がでた。

「・・・・・・・・・つまんねぇな。飽きたわ。・・・おい、他に誰か相手してやってくれないか?」
「うぇ?」

ブライの言葉に鬼凛はマヌケな声を出す。

「おいおい鋼、そりゃないだろ!」
「そうだよ!折角楽勝で先に進めそうなのに!」

勿論烈火と小金井がブライに文句をつけた。
口にはださないが、他のメンバーも似たように思っていた。

「だってよぉ・・・これじゃ只の弱いもの虐めだし、つまらない上にあっけなさ過ぎるぞ」

なんだかゲーム感覚みたいなことを言い出すブライ。

「つーか俺も正直疲れてんだよね。ちょいと休みたいから・・・・・・石島、ちょっとお前が相手してやってくれ」
「お、俺がか!?」

いきなりの御指名に慌てる土門。

「何故よりにもよってゴリラなんだ?心眼対策のつもりか?」
「さぁてな、何となくだ。でも、あいつなら絶対勝ちそうな気がするんだよね」

水鏡の言葉にブライは悠長に答えながら前線を引いた。

「んじゃ、宜しく頼むぞ。お前なら絶対に勝つと信じている。多重な意味で」
「やっぱり俺がやんのかよ・・・・・・」

肩をポンポンと叩かれ、土門はいきなり鬼凛と戦うことになってしまった。
これが鬼凛の悪夢の始まりとも知らずに、

「ふーん・・・いいよ、私は」

鬼凛はこの勝負に乗ってしまった。
多分この門を護れずとも、一人くらいは敵戦力を削るチャンスとでも思ったのだろう。

「二番手!石島土門見参!!」

土門は威圧感たっぷりに名乗った。

水鏡が「心眼対策」といったのは、土門が基本的に何も考えずに戦う猪突猛進型ファイターだからと思ったからだ。何も考えず闘争本能に従ったままの攻撃は思考云々では片付けられないものがあるからだ。
しかし、ブライが土門を選んだのは単純な気紛れであったことは、今語ることではないだろう。

まあ作者的には原作通りにことが進むのでスムーズに書けたりする。

「ウガーーーっ!!」

思いきり咆哮し、土門は全速力で疾走した。
まさしく猪突猛進。何も考えていないことこの上なかった。

「ぬん!!」

勢いに任せた拳。
しかしそれを鬼凛は余裕でかわす。

「ムリムリ♪計算の無い戦いでも、その程度のパンチなんか簡単に――ピッ――」

その時、悪夢の時間(ナイトメアタイム)が本格始動した。

ハッキリ言おう。
鬼凛が胸にしていた布が、土門のパンチをかわした際にドモンの爪が偶然あたり、外れた。上半身――それも胸だけを隠すようにしていた布が外れたのだ。

周囲の空気が完全に塗り替えられた。
そして土門の雰囲気も変わった。一気に幼児の様な無表情な顔とは裏腹に圧倒的な威圧感を漂わせている。

(ん?)

それを不自然に思い、自分の姿を改めて確認した鬼凛が視認したのは―――



見事なまでに豊満な美巨乳を曝け出した上半身裸の自分だった。



「きゃああああああああああ!!」

当然大絶叫が起こる。

「なんでぇ!?キャーーッ!!あぁあぁああーーーん!!」

自分の胸を隠して叫びまくる鬼凛。

「ひどいよもう!!バカバカエッチ!!」

そして布を拾って再び胸に巻く。

『なんでさぁ?あの取り乱しようは?』
「さあ?この方なら知ってるんじゃないですか」

そういって七実は命を起こした。
最初は色々反抗しようとしたが、七実が少し脅したら一発で話してくれた。

「鬼凛は、すっごく純情だって聞いた事がある」

命は以前に聞いた鬼凛の噂を語りだす。

「男とキスしたことがない。エッチィテレビ番組もまともに見れない。エロ本読んだだけで熱が出るなど・・・」
「要するに貴女方と正反対の人ということですか」
「そうだよ、悪かったな!」

命と木蓮は”あんなことやこんなこと”までしちゃった関係だ。
19歳になる現在まで純潔云々以前のものさえ穢していない鬼凛とは正に対極と言えよう。

「そんな天然記念物もんな純情娘が生乳をみられたとなれば、ダメージ800だなこりゃ(しかし、眼福でもあるな♪)」


「刃介さん」
「・・・・・・はい」

ブライがなんか心で呟いていると、それを察知したのか、七実がブライの首に手を添えた・・・!
お仕置きかとおもったが、

「そんなにお胸が見たい、というなら、家に帰った後に幾らでも見せてあげますよ//////」
「是非お願いします・・・・・・!!」

頬を染めて耳打ちする七実の手を握り、ブライは意志を強めに表現して発声した。

まあ横道はこれくらいにして本筋に戻るとしよう。

(や、やっぱりこんな恰好で来るんじゃなかった・・・・・・)

と、鬼凛が後悔していると

――おっぱい――

心眼を通してこの単語。

(なに・・・!?)

発生源は当然土門。
一見幼稚な無表情だが、実際には・・・

――オッパイ――

脳内で鬼凛の乳房に頬擦りしている自分を妄想していた。

(なッ・・・なんて卑猥な妄想!!)

幾らなんでもこれにはドン引きを通り越すものがあった。

――おっぱい・・・オッパイ・・・オッパイッ――

「いやあぁーーーッ!!」

因みに土門の妄想は切り替わる。
今度は”人気の無い海の浅瀬で全裸姿になっている鬼凛”だった。

「来ないでえぇーーーっ!!」

クリアに心を読めるぶん、ダメージは大きかった。
それも、そんな妄想をかきたてる男が自分を捕らえようとするかの如く近づいてくるのだから尚更だ。


論理的なことを言わせて貰うと、心眼の心を読む力は強烈だが、鬼凛のような純粋な人間が使うと生じるデメリットがある。それは前述のような刃介の欲望や土門の妄想が最たるものであろう。
しかし、普通の人間は考えを必要としない超至近距離での戦い以外ではある程度の思考をもって戦い、鬼凛はそれを読み取って優勢となってきた。

しかし今の土門は戦闘とは一切関係の無い思考によって、己を見失い・・・動きを無意識的にする程の状況と化している。特に鬼凛のようなタイプの存在を動揺させるには持って来いの思考によって、限定的ながらも激強な状態となっていた!

まあ真面目に長々と語るとこんな感じなのだが、もっと簡単に短くまとめて述べるなら、”サカリがついてエッチモード突入”ということになる。

ついでにもう少し言わせて貰うと、同じ女でも七実や命ならこんな危機には陥るまい。
たとえ同じように裸体を見られたり妄想対象にされても命なら激怒してボルテージをあげるだろう。
七実の場合は、裸体を見られたところで羞恥心の薄い彼女のことだから冷静に服を着なおし、妄想対象にされても呆れ果てるだけであろう。


「冗談やめて!!こんなんで負けたら馬鹿じゃん!砲鬼神!!」

――ズボっ!――

嘴が土門の右肩に命中する。

(性的思考は本能!なまじ強いぶん、冷静な判断力は希薄となる。つまりに防御に弱い!)

鬼凛の考えは全く持って間違っていなかった。
相手が今の土門でさえなければ。

――おッパいオッパいおっぱイおっパイオッぱイおっぱいオッパイ――

原作通りにする為とはいえ、こんな単語を連呼的に書かなければならないというのは抵抗感ありまくりである。

そして土門の妄想だが、今度は鬼凛がノーブラの状態でシャツをめくって乳房を見せて、
”また大きくなっちゃったよ。キミのせいだぞ♪”なんて言うものだったりする。

「いやぁああああああ!!計算ミス!!」

鬼凛よ。こんな状況を予測できる奴が居たらそいつは最早神レベルだろうよ。

「今の状況じゃ心眼はハンデ極まるよ!まったくなんて奴だい!心の眼・・・・・『閉』!!」

心眼の指輪を外した鬼凛。
これで勝率が上がったと若干思ったようだが、時既に遅し。
前方にある土門の体と彼の股間。

ひとことで言い表すならば、”チョモランマ”とでも言うべきだろう。
ちなみにチョモランマとは標高8848mの高山です。

それを目撃したとたん、鬼凛の心象風景が一瞬宇宙の隕石群になっていた。

「そろそろ潮時か。柳さん」
「は、はい?///」

もう隠すのメンドイので率直にいうが、土門のズボンを突き破らん勢いでデカくなったナニを見て「やだ土門くん・・・///」と顔を赤らめていた柳に水鏡が耳打ちした。
土門の暴走を止める為に。

一方、鬼凛は色んな意味で絶対絶命だった。
逃げ場をなくし、前方には性欲の塊状態の土門。

「いや・・・やだ・・・」

ガタガタと震えて、冷や汗ををかき、眼の端っこに涙を浮かべる鬼凛。

「私・・・・・・私・・・は・・・」

そして彼女は大声で言った。

「螺閃だけの(モノ)なのーっ!!!」

言葉虚しく、土門が鬼凛に飛び掛ろうとした瞬間、

「風子ちゃんに言っちゃうよ!!!」
「っッ」

柳の口から発せられた一言により、土門が鎮まった。



そして、



「イヤ・・・あのさ・・・俺どうやって勝ったんだ?」
「それはな・・・アレだ・・・」
「アレ、だよね・・・」
『なんというべきか、迷いまさぁ・・・・・・(汗)』

房総状態のことをまるで憶えていない土門にどう言えばよいのか、烈火も小金井もカッパヤミーも等しくこまっていた。勿論他の面々もだが。

まあ、この洞窟を脱出したあと、刃介と七実が真実を渋々、包み隠さず話したら、土門は部屋の隅っこで鬱病寸前の状態で縮こまっていたらしいが、今はどうでもいいことだ。

「・・・途中経過はともあれ・・・」
「これでまた一歩前進ですね」

失神してしまった鬼凛のポケットから鍵が取り出され、一同は先へと進む。
そして、大いなる鉄の門の向こう側にいる番人は・・・?

次回、仮面ライダーブライ

螺閃と母親と到達


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