仮面ライダーブライ!
前回の三つの出来事は!


一つ!ブライはリュウギョクの圧倒的な忍法に苦戦する!

二つ!遂に森光蘭は、天堂地獄を手に入れた!

そして三つ!ブライはトライドフォーゼの力を得た!

脱出と誕生秘話と火竜の長


烈火は思い出す。
天堂地獄によって全てを狂わされ、苦しめられ、潰えていった者達のことを。

紅麗は思い出す。
その天堂地獄を所有する男が、今まで自分の大切なものをどれだけもぎ取ってきたかを。

そんな二人とは裏腹にブライは黙っているだけだったが、トライドフォーゼのハンドルをしっかり握っている。

そして三人の考えは一つ。

(((潰す!!!)))

「なに共闘してやがる!!馴れ合ってんじゃねぇよ蟲がぁぁ!!」

天堂地獄の複製体はそう言いながら刺を伸ばすも、

『ガォォオオオ!!』

トライドフォーゼの車体によって刺は砕かれ、

「ウォオオオオオオオ!!」

ブライが全身から発する眩い光―――攻撃性の光線が全方位に向けて照射されていく。
刺はあっと言う間に灰となっていく。

「はあッ!はあ!はぁあ!」

一方首だけの本体は、まるで芋虫のように身をうねらせながら地面を這って行き、必死になって紅麗から逃げる。

(なんという惨めな姿だ!!結局・・・・・・また紅麗に脅えてるではないか!)
(・・・・・・今だけだよ・・・・・・その恐怖心はお前の心に生まれる最後のものだ。逃げて・・・戦況を立て直すのだ・・・!完全体を得るが為に!!)

焦りに焦る森に、海魔が論ずる。

(案ずることはない。運命は必ず、我等を生かす!!)

断罪の火炎を放たんとする紅麗の前に、

「パパは、やらせないよ♪」

煉華が立ちふさがる。
そしてその姿は、

(紅・・・・・・)

紅麗の最愛の女性と被った。

(バカ・・・な・・・)

――ザシャ・・・ッ――

紅麗が戸惑う隙に、煉華は炎の矢を打ち出し、紅麗のわき腹に命中させた。

「ぐっ・・・・・・惑わすか・・・・・・!紅は・・・ここにいる!ここにいるのだ!!」

そう、紅麗の最愛は、今まさに彼の中に居る。

一方七実は、

――カっッ――

腕を振るって発生させた衝撃波をどこぞの壁にぶつけていた。

「・・・・・・あの時の女装少年さん。そこでなにをされているのでしょうか?」
「流石は僕をボコった相手・・・・・・と言うべきか?な〜〜んて♪バレちゃった」

姿を現したのは葵だった。

「お迎えに参りました、森様。ここより撤退致しましょう」
「おお!まっておったぞ、葵!!」

森は歓喜に打ち震えると、口から光をもらしていき、

――チュドォォオオオオ!!――

口からレーザーを発射して洞窟の天井を撃ち、さらに状況を悪化させた。

「まずいで!!マジで崩れるわ!!」
「紅麗様!!」

ジョーカーと雷覇もこの状況に危機感MAXだ。

「森・・・・・・光蘭・・・・・・!!」

紅麗はわき腹をおさえながら、殺意と憎悪に満ちた目つきで森をにらむ。

「また会おう。烈火、紅麗、ブライ!貴様らが生きてここから出られたらの話だがね」

森は首から伸ばした触手を煉華の腕に絡ませながら、憎たらしい笑顔で離脱宣言をした。

(奴を逃がすな!!とんでもないことになるぞ!!)
「わーってらぁーー!!」

烈火は急いで本体を殲滅しようとするが、そこへ残った複製体が烈火を足止めする。

『ガォォオオ!!』
「だったら俺が!」
『〜〜〜〜!!』

今度はブライとシェードフォーゼを、バマーイヤミーが怪力にて止めた。

「さらばだ」

森は憎たらしい笑顔のまま逃げていこうとする。
しかしそこへ、何の妨害もうけていない紅麗が、強力な火炎を森達に食らわせようとする。
だが、タイミング悪く岩が天井から落ちてきたせいで、炎は森たちに命中しなかった。

「・・・落盤が我等を炎から守る盾となった!これは・・・運命の女神も私に微笑んでいるのだろう。残念だったな三人とも!!」

森は最上級のいやみをこめて”ひゃはははははは!!”と笑いながら、煉華と葵共々、洞窟から姿を消していった。

「運命の女神、ですか。もしいるとしたら、あの下手人になにをさせるつもりなのでしょうか?」

七実は静かに、虚無にその疑問を投げかけていた。





*****

その頃バット達は

「おぉーい!まだ出口じゃねーのか!?」

土門は柳を背負った状態で文句たらたらなことを叫んでいた。

「あッ」

その時、先頭をはしっていたバットが止まった。

「ヤバいですね」
「ヤバいってなに!?」
「あれ」

バットが指差した方向には、

「出口が、落盤で塞がれてる・・・!?」

絶望的状況があった。

――オオ・・・・・・――

その時、薄暗い洞窟の中で光るものがあった。

「凍りづけにされた・・・盗賊・・・」

氷の中にいる盗賊の一人は、手を無理矢理動かして氷を削り、拳を握ったなかで親指だけをだし、ある方向を指し示す。

「え?」

その方向をみると、そこにはなんと、もう一つの出口が!

「あそこから出ろって教えてくれてるの・・・?自分たちは逃げられなかったのにお、俺たちを助けてくれるの・・・?」

小金井の声にも当然反応を示さないが、答えはさっきの行動で十分示してくれた。

「ありがとう」

小金井は涙ながらに礼をいうと、水鏡とバットが軽く頭をさげ、土門は合掌して感謝を告げ、そして退路に向っていった。

(((生き延びよ。若き者たちよ・・・・・・そして・・・何時の日か、天堂地獄を破壊し、我々の魂を浄化してほしい。御主らなら必ず成し遂げてくれると信じている・・・・・・信じているぞ・・・)))





*****

一方烈火たちは、

「くひひひ・・・・・・私と海魔が共存する”本体”は無事脱出した!本体の私はまた力を蓄える。治癒の少女を捕らえ食す!そしてその時こそ、究極の魔導生命体、天堂地獄は完成するのだ!!」

複製体は自慢げにかたる。

「バカどもが!!逃げられた!逃げられてやがるぅ!ぎゃはははははは!!さ・・・て、少しでも本体が楽になるように、一人でも多く殺しておこう!緋水やカッパのようにな!!」

そのとき、なにかが複製体に近づく音がした。

「天堂地獄、万歳!!」

――ズバッ!――

極めて長い刀身が、複製体を貫いた。

「・・・緋水・・・私、生きるよ。戦うんだ。神慮伸刀、一本もらっていくね・・・お前の気持ち持って生きたいから・・・!」

風子は、全てを覚悟した戦士の顔で、緋水の亡骸にそう告げた。

――ザグッ!!――

「おびょれぇぇえええ!!」

一気に刀身が上方へと引き抜かれたことで、体を半ば半分に切断された複製体。

「死ぬ前に本体に伝えてやれ。”すぐ会いに行くぜ”」

烈火はそういって複製体を全力で殴り飛ばした。
そして宙に『刹』の一文字をえがく。

『塵塵塵塵塵塵塵塵塵塵塵塵塵塵塵塵塵』

刹那の呪詛じみた声とどうじに一つ目が開かれ、複製体を完膚なきまでに燃やし尽くした。
もっとも、一部分だけ焼け残ったが、

――グシャ!――

紅麗がそれを踏み潰した。

「さて、残りは一匹か」

そしてブライの鉾先はバマーイヤミーへ向う。
ブライはローグスキャナーでコアメダルをスキャンした。

≪SCANNING CHARGE≫

「我刀流奥義・・・!」

ブライは『杜若』の構えではなく、自然体の構え『無花果』のままでいた。
そしてそこから、軽くジャンプして足を振るった。

風花乱舞(ふうからんぶ)!!」

七回振るわれた足。
そこから発せられた衝撃波ならぬ斬撃波は、正しく”風に乱れ舞う花弁”だった。

『ンガァァァアアア!!』

スキャニングチャージによって強化された風花乱舞の七撃は、見事全てクリティカルヒットし、バマーイヤミーを爆発させた。

――チャリーン!――
――パシッ――

「チッ・・・三枚だけか」

ブライは手中にある三枚のセルメダルを手に、少し苛立ちを覚えながらオーメダルネストにしまった。

「・・・・・・んじゃ、俺らも出るかな」





*****

封印の地、そこにはゴンゴン!!という音が響いていた。

――バゴォォォン!!――

「いぃぃよっしゃぁぁああ!!」

石島土門、腕力とタフが売りの男であった。

「ち、地上だ!戻ってきたんだ!!」
「・・・あとは、あの四人だな」

水鏡は柳を地面に寝かせてそういった。

「じゃあ待つの?」
「現状ではそうするしかないでしょう」

というわけで、待つ事にした。



しかし、



「・・・・・・・・・随分時間が経ったな・・・・・・」
「探しにいくか?」
「でも・・・」
「大丈夫ですよ。少なくとも鋼さんと鑢さんの生命力は半端じゃありませんし」

などと四人が論議していると、破壊された壁から三つの人影が・・・!

紅麗、雷覇、ジョーカーだった。

「紅麗・・・・・・(やはり、生きていたのか・・・!?)」

水鏡は紅麗の登場に驚く。

「なんでテメェがいるんだよ!?花菱たちはどうした!?」
「・・・・・・・・・・・・」

紅麗は何も答えない。
その代わりに、

――ゴバーーーッ!!――

『ガウォオオオオオ!!』

地面から炎のレーザーと、猛虎の熱光線が地上に登ってきた。
それによってあいた風穴から、

「よーし、地上へ到着だ!」
「随分荒っぽい脱出でしたね」
「でもお陰で助かったっすよ」

一方の穴からはブライ、七実、吹雪が。

「バカ!!今ので頭に石落ちてコブできたぞ、ヘタクソ!!」
「文句言うな!!」

もう一方からは風子と烈火。
その時、

「烈火くん!!」
「うおッ」

何時の間にか起きていた柳が、烈火に抱きついた。

「よかった・・・烈火くん・・・」
「お・・・おう!」

顔を赤らめて烈火は返事をする。
しかし、

「流石は桜火の息子だ。生存能力は実に高いな」

女の声がした。

「リュウギョクか」
「ふふふ」

ブライは木に取り掛かる人間態のリュウギョクを仮面越しににらみつける。

「テメッ!さっきの続きやろうってのか!?」

烈火はケンカ腰でそういった。

「違うな。ただお前らの様子見をしに来ただけだ。第一、そこの虚刀流はともかく、他の面子では私には勝てない」
「ッ!だったらやってみっかぁぁ!!」

烈火はバカにされたと思い、リュウギョクに殴りかかっていく。
しかし、その行動はまさしく愚の骨頂といえた。

「真庭忍法」

リュウギョクの瞳が、一気に変わって虹色になっていき、烈火の瞳を直視した。

夢幻惑(むげんまど)い」
「―――――――――−」

烈火は動かなくなり、

――バタン!――

倒れた。

「烈火くん!!」
「烈火!!」
「花菱!!」
「烈火兄ちゃん!!」
「ッ!」

柳も風子も土門も小金井も水鏡も、みな烈火に近寄り心配した。

「あなた、烈火くんに何をしたんですか!?」
「”幻惑の魔眼”で幻覚を見せただけだ」

リュウギョクは冷ややかに答えた。

「紅麗よ。その仮面に逆字ながらも火影の印を刻む以上、”そういうこと”なのだな」
「・・・・・・あぁ、私たちは”裏火影”麗として戦う。それだけだ・・・」

リュウギョクの質問の意味を理解し、紅麗は冷淡に答えた。

「それだけ・・・か。まあ良い、”忍びは生きて死ぬだけだ”」

リュウギョクはそういうと、今度はブライと七実に向けてこういった。

「何れ又会おう、我刀流に虚刀流。今度は互いに万全の状態でな」

――ボンッ!――

それだけいうと、リュウギョクは懐に忍ばせていた煙幕弾をつかって姿をくらまし、逃げ去った。
煙が晴れた頃には、リュウギョクは勿論のこと、紅麗たちもいなくなっていた。

「・・・真庭・・・」

宿敵のいなくなったその場所で、ブライは刃介に戻っていく。

(侵食が進んでいる)

その姿を見た七実は率直な感想を抱いていた。

ハッキリいって、刃介は左前腕部までもがグリード化していた。
いやそれだけじゃない、色が変わっているのだ。
今までは漆黒だったが、今は”金色(こんじき)”としてそこに存在している。

(コア、三枚分といったところですかね)





*****

あれから三日後。
ここはトライブ財閥の会長室。

「なんのようだシルフィード?また俺から血を吸い上げるのか?」
「それに、どうして私まで呼びつけるのですか?」

そこに刃介と七実がいた。

「実はね、貴方達に話しておきたいことがあるのよ。極秘情報だから、外部には絶対もらさないでね。そのためにバットも吹雪君にも席外してもらってるんだから」

シルフィードは何時ものおちゃらけた態度をかなぐり捨てたように真面目な表情をしていた。
服装も会長としての風格のある礼服になっている。

「具体的にいうと?」
「まずはグリードの誕生秘話についてよ」

シルフィードは席に座りながら語り始める。

「800年前も昔のこと、当時の科学者たちが人工生命体を生み出そうと切磋琢磨した時期があったわ。様々な生物のエネルギーをメダルに凝縮し、それを核とすることでね」
「それがコアメダルってわけか」

シルフィードは黙って頷く。

「初めに作られた十枚のコアは、あくまでただの道具、装飾品と同じ存在だった。でもね、その十枚のメダルから一枚ずつ抜き取って9枚という不完全な数字にした時、それを満たそうとする『欲望』が生まれたの。その凄まじい欲望は進化を齎し、それらに魂といえるものさえ宿らせたわ。その生命体の名、それがグリード」

シルフィードは一旦区切って続ける。

「鳥類王アンク、昆虫王ウヴァ、猫王カザリ、重量王ガメル、水棲女王メズール。この五体の力は余りに凄まじく、彼らに対抗するために抜き取ったコアの力で戦い封印した者、それが『オーズ』・・・!」
「オーズ・・・ですか」
「あの時の甘ちゃんか」

仮面ライダーオーズ。
その存在を七実と刃介は知っていた。

「だけど、リュウギョクは他のグリ−ドとは違うの」
「どういう意味だ?」
「彼女の核となるメダルを、”私たち”は造っていない。にも関わらず、彼女はブライが誕生する少し前何処かからかフラりと現れたのよ」
「私たち?つくった?」

刃介は不穏なキーワードを見逃さなかった。

「私はね、800年前、コアメダル研究に参加した一人よ」
「マジ・・・?」

言われてみれば、年齢が800以上でオーメダルについて詳しいのだから、ある意味有り得ないことでもない。

「大体、800年前の技術であんな化物達を造れると思う?」
「成る程な。魔導面に通じた者の協力も必要だったわけか」
「その通り。もっとも当時の私は人間だったけど、グリードたちが封印された後、後のことを同志達に託されて、 魔術師上がりの吸血鬼になったのよ。だから正確な年齢は825歳ってこと」

様々な情報を開示していくシルフィード。

「ついでに言わせてもらうと、バットは蝙蝠を素体にしてつくった私の使い魔よ。中々優秀で、私の秘書役だけでなく、トライブ財閥の重要施設の統率も一挙に引き受けてくれていて助かってるわ」
「使い魔・・・・・・意外と身近にファンタジーな存在が満ちていきますね」
「七実。それいったら俺たちはなんなんだ?」

「それからね、吹雪のことなんだけど。彼が七実ちゃんのこと嫌ってるの・・・気づいてた」

七実は頷いた。

「率直に言わせて貰うとね。彼は苗字どおり、貴女が滅ぼした凍空一族の生き残りなの」
「・・・・・・よく逃げ延びられましたね」

七実は無表情でそう呟く。

「吹雪君は貴女から必死に逃げ惑っているとき、突然世界が歪んだといっていたわ」
「世界が?」
「詳しくはわからないけど、きっと次元の歪みかなんかに巻き込まれたんでしょうね。気づいたら私の管轄内で気絶していて、超人的な怪力を見込んで雇ったのよ」

シルフィードは大きく息を吸い、さらに喋り続ける。

「さて、ここからはブライに関する話よ。ハッキリ言うけど、ブライの誕生には私たちは直接関与していないわ」
「じゃあ誰が造ったんだ?」
「・・・・・・さぁてね。ただ、我刀流開祖の鋼一刀の話によると、”とあるイカれた刀鍛冶”から”血錆色の三枚のコアをベルトごと貰った”・・・ですって」

「お前初代と知り合いだったのかよ・・・・・・」
「えぇ、一緒にお酒も酌み交わした仲よ。かなり喧嘩っ早い不良だったけど」

シルフィードは過去を思い出しながら口を開く。

「あのシルフィードさん。情報の開示はもういいので、本題に入っていただけないでしょうか」
「あぁぁ・・・・・・そうね。貴女の前で無駄話してもダメか」

シルフィードは少し残念そうにする。
そして意を決したように言い切った。

「貴方達、新しいコアメダル欲しくない?」
「「・・・・・・・・・・・・へっ?」」

あまりに唐突な言葉だった。

「実は我が財閥のほうも、コアメダルを何枚か所有しているの。その内の三枚をあげるわ」
「・・・・・・条件はなんだ?」
「理解が早くて助かるわ」

シルフィードは妖艶に微笑んだ。

「まず七実ちゃんにはこれから、ヤミーを何体かつくってセルメダルを稼いでもらうんだけど、苗床となる人間はうちの社員の中から選んでね。外部の人間使うと、もしものことがあっても揉み消し切れないことがあるから」
「まぁいいですけど」

シルフィードのシビア混じりな言葉に七実は二返事で了承した。

「そして鋼君。貴方にはある物を回収しに行って来てもらう」
「なにを取りに行く?」
「それを言う前に確認事項が二つある」

シルフィードは指を2本立てた。

「一つ目。貴方達が作業に取り掛かってる間に、あの佐古下柳って娘、確実に拉致られるわよ」
「・・・・・・続けろ」
「二つ目。鋼君・・・・・・もう一度、人殺しになる覚悟はある?」

シルフィードは瞳の奥に、大氷塊のような冷たい物を宿しながらそれを問うた。
刃介は長い長い沈黙の末、こう答えた。

「どの道、今の俺ではリュウギョクには勝てない。新しい力はどうあっても必要だ。多少のリスク程度は覚悟する・・・・・・!」
「刃介さん・・・・・・」

七実は不変ともいえる刃介の決意に、なんとなくだが、彼の名前を呟いていた。

「決まりね。じゃあ手付け及び前払いとして―――」

シルフィードは席を立つと、何時も通りの妖艶な笑顔で刃介に異常接近し、

「いただきます♪」

その首筋に、牙を立てた。

「ん・・・・・・」
「ちゅ〜〜//////」

少しばかり、痛みに耐える刃介とは逆に、恍惚の表情で血を吸うシルフィード。
相当彼の血が美味なのか、それとも・・・・・・。

「あの、そろそろ離れてくれません?」

そこへ七実の不機嫌そうな一言。

「あら、ごめんなさい」
「・・・ふぅ・・・」

その一言でシルフィードは牙を外し、刃介は一息ついた。


こうして、今から数日間、鋼刃介という男は”この世界”から消失することとなった。
さらに、七実のヤミーによってトライブ財閥は数千枚のセルメダルを得ることになる





*****

その頃、森光蘭の居城となっている建造物内部。
その廊下を歩く一人のメイド。両手には食事を乗せた蓋付きのトレーをもっている。
無表情で廊下を歩くメイドは、二人の黒服が警護している大きな扉の前に立ち止まる。

「食事を・・・もってまいりました・・・」

淡白な口調でそういうと、黒服の一人がセキュリティパネルにカードを通してロックを解除した。

扉が開くと、部屋の中は不気味なまでに薄暗く。
メイドは無表情のまま、心臓音を大きく高鳴らせ、震える身を隠すように喋る。

「森・・・様・・・お食事を、こちらに・・・」

テーブルの上に食事をおくメイド。

「旨そうだな、近頃は食欲があってな」

暗闇の中で、森の声が響き、照明のスイッチが押されると、薄らと明かりがつき、狂気の表情をした森の姿が露になる。もっとも今は人間らしい姿だが。それに、首だけにされた肉体も外見上は完全に元通りだ。

「理解しているのだな、娘」
「(・・・・・・この部屋・・・・・・生臭い・・・この、ニオイは・・・)何が・・・でしょう?」

震えながらも無表情を保ちつつ質問するメイド。
しかし、その無表情もあっけなく崩壊する。


自分の周囲に、血まみれの女性たちの死体があれば。
しかもその死体らが食い散らかされたかのような惨状ならば。



「ひッ・・・あっ・・・あっ・・・ああ!!いやあああああ!!出して!!許してぇぇええ!!」

メイドは必死になって扉も叩くも、外の黒服たちが開けてくれるはずもない。
彼らはこのことを承知しているのだから。

「人間には三大欲求というものがある。”睡眠欲・食欲・性欲”だ・・・」

森は顔を醜く変貌させながら話し始める。

「この体になってから変化があったよ。睡眠欲が殆ど消えた。食欲と性欲が一つのものとして感じるようになった。どんな美食家でも味わう事叶わぬ・・・性的快楽を伴った食事・・・」

森は全身をゆっくりと変貌させていき、メイドは壁に背中をくっつけ、尻餅をついて悲鳴にもならない声をだしている。

「ひ・・・い、や・・・」
「理解したな娘?・・・お前が餌だ・・・!」

(・・・・・・あ、れは・・・・・・?)

その時、メイドは死の淵の間際に目にした。
常人では見ることは叶わぬはずの物が。
何十何百にも及ぶ卵が入った巣のような物を、彼女は眼にし、食い尽くされた。


そして、メイドが死体になった頃、扉から入ってくるものがいた。
それと同時に、メイドが見た巣の中から、一個の卵から一体の怪人が生れ落ちた。

鯨の祖先(ゼウグロドン)の頭、古代鮫(メガロドン)の腕、太刀魚の脚をした水棲系の同種混合型・ゼメタヤミー。


「想像以上の成長速度だな」

それに感心するのは、流麗の如き長い黒髪をポニーテールにし、全身に鎖を巻いた忍び装束を身に付けた美女、リュウギョクだった。

「あぁ・・・これが私の”欲望”の結晶か・・・・・・」

森は血だらけの体でクメタヤミーをまじまじと見る。
するとゼメタヤミーはジャリンという音を立てて、百枚近くのセルメダルへと還元された。
リュウギョクはそれを残さずに回収する。

「1枚のコア生産に必要なセルは5000枚。お前の欲望から生まれたヤミーは量も質も段違いだな。これなら思いのほか早くコアが揃いそうだ。いや、それどころか釣銭がくるな」

リュウギョクは森の肩をポンと叩くと。

「では、私の為にもお前の為にも、もっと欲望を解き放て」

そういって、リュウギョクは部屋を出て行った。

「ふん・・・言われるまでも無い」

森はそんなリュウギョクに、話しかけるように、ひとり呟いた。





*****

火影の隠れ屋敷。
シルフィードの言うとおり、刃介と七実が留守の間、柳は拉致された。

葵が”神楽 葵”という偽名で学校に潜入し、彼女に近づき、友人となることで柳と打ち解けることで屋外での交友を謀り、そこにつけこんで拉致したのだ。いや、拉致というより、柳が付いて行く気にさせたというべきだろう。
葵の魔導具によって、柳を守り通す為に命を散らしていくやもしれない火影メンバーのIFともいえる姿を幻視させることでだ。

勿論烈火たちも気付かなかったわけではない。
しかし、現場に駆けつけようとしたさい、四死天が一人・蛭湖によって妨害されてしまったのだ。

結果は最悪なものとして終わった。
連絡も無しに居なくなり、未だに消息がつかめない刃介と七実のことも幾度が議題にのったが、今日この時、火影にとって最重要ともいえる情報が陽炎から告げられる。

「森光蘭の居場所が、わかったわ!」

陽炎はそういって、日本地図を広げると、ある一点を指した。

「日本の中心部にあたる中部、近畿地方。山脈が犇くある一点に強烈な反応があった。おそらく登山に利用されていない、私有地としての山岳に連中の要塞はある。そこに森光蘭が、柳ちゃんがいる!」

――がっ!――

それを聞いた途端、烈火は外に出ようとする。

「花菱!!」
「どこ行くの!?」
「決まってらぁ!姫を助けに行く!!」

烈火は大声で叫んだ。

「待ちなさい烈火!!柳ちゃんはまだ生きてる!影界玉が彼女を感じているわ!」
「だからなんだ!?森は姫を取り込んで、完全体になるって言ってんだ!一刻の猶予もねえ!!あいつが危ねぇんだ!!」

己の主張を大声で押し出す烈火。
しかしその烈火の前に、いつのまにか虚空がたっていた。

「・・・どけ、虚空」
「・・・・・・ぬしの気持ちはようわかる。だがの・・・」

虚空は一息間をあけ、

「覇ッッ!!」
「ぐは・・・っ」

烈火をぶっ飛ばした。

「このような時にこそ・・・静かなる心を保て。さもなくば敵陣に乗り込んだところで犬死じゃ」

虚空は厳しいようで変え様のない事実を突きつける。

「烈火・・・ごめんなさい・・・・・・あの時に、私と土門が居たら・・・もしかしたらこんな事にはならなかったかもしれない・・・・・・ごめん・・・・・・私たち、心のどこかであの二人に頼ってたんだ・・・・・・ごめんよ・・・」

風子は涙ながらに謝った。
確かにあの夜、刃介か七実がいれば容易く蛭湖を撃退して柳を助けられたかもしれない。
しかし、あくまでそれは想像に過ぎない。刃介と七実のいない自分たちの実力の浅はかさに嘆く言葉でもあった。

「ええい!何時までもしみったれたれとるなぁぁあ!!柳ちゃんはまだ大丈夫じゃ!!」
「何の保証があって言ってんだジジィ!!てめぇになにがわかる!?」
「わかる!!」

そして驚愕の一言。

「ワシも魔導具を造った一人じゃ」





世界の時間が、止まって感じた。




「「「「「「ウソォーーーッ!!!??」」」」」」

信じられなくて当然といえよう。

「風神・・・閻水・・・鋼金暗器・・・土星の輪、みなワシの作品じゃよ」


かつて海魔と虚空は互いを競うようにして魔導具を造っていった。
殺める為、生かす為。
価値観の相違が魔導具の能力を相反する物へと変えていった。

ただ魔導具にはみな一つの共通点が存在する。
”魔力”である。

そして治癒の少女・佐古下柳に秘められし力は・・・それとは全く逆の力。


「前例があってな・・・互いの力が反するものだという事が確認されておる」
「・・・・・・前例?」
「いずれわかる。・・・つまりじゃ!」

虚空は未だ残る希望について語る。

「水と油の力が一つになるにはそれなりの準備と時間が必要!単純に”食せばよい”という事ではない。それは奴のなかに在る海魔とてよく知っているはずじゃ!」

それを聞いた途端、

「そっか・・・姫は助かる・・・まだ助けられる!!」

希望の火が灯り始めた。

「そう・・・・・・そして・・・おそらくこの戦いこそ、最後の戦い!永きに渡る血塗られた火影忍者の歴史・・・呪い・・・全てを断ち切る重き戦いとなろう!!」

虚空は厳正とした口調と雰囲気で語り続ける。

「火影忍軍七代目頭首、花菱烈火!会わせたい者がおる」

その名は、

「八匹の火竜の頂点、裂神(れっしん)!!」



次回、仮面ライダーブライ

敵陣と育成と裂神





ルナイト・ブラッドレイン・シルフィード
年齢:825歳 職業:企業家 所属:トライブ財閥 身分:会長
身長:170cm 体重:自由自在 趣味:コスプレ スリーサイズ:B100/W58/H85

輝くブロンドのロングヘアに緑色の瞳、見る者全てを魅了するであろう妖艶な容姿とグラマラスなボディスタイルをした絶世の美女。
鴻上ファウンデーションと対等かつ協力関係にあるトライブ財閥の会長で、様々なメダルシステムをブライ陣営に提供している(その代わりにブライ側はヤミーや戦いで得たセルメダルの40%を提供する契約と刃介の血を週に一度提供する契約をしている)。
その正体は800年前コアメダル研究に参加した一人で、グリード達が封印された後、吸血鬼となることで数百年の時を生き永らえた元人間。出自こそは人間だが吸血鬼としては高位に属するらしく、基本的能力の他に風や重力を操作することができる上、他人に自分の血を流し込んで回復力を大幅に高めることも可能である。

血液をイメージさせる赤ワインを良く好んでおり、会長室にミニバーを設けている上、実はソムリエの資格まで取得している程である。
露出度がかなり高かったりボディラインをくっきり出すコスプレ衣装を着用するのが趣味で、ノーブラノーパン主義者でもある(公の場では普通の礼装をする)。性格は淫乱で少々おちゃらけた感じだが、状況によっては冷徹とも言える判断を下す。
ちなみに刃介に対しては特別な感情を持ち合わせているらしい。
コアメダルの開発においては魔導面を担当していたので、それに見合った高い魔術の素養を備えていると思われる。人間上がりでありながら高位の吸血鬼として格付けされている要因はここにあると推測される。



バット・ダーク
年齢:不詳 職業:会社員 所属トライブ財閥 身分:秘書
身長:165cm 体重:40kg 趣味:無趣味 スリーサイズ:B90/W55/H86

シルフィードの秘書役をしている麗人。その正体は蝙蝠を素体とする使い魔で、シルフィードには絶対の忠誠を誓っている。基本的な業務は勿論の事、裏社会からも仕入れを行う役割を帯びている上、トライブ財閥の重要施設の統制を全て任されている。普段は冷静沈着で落ち着いた口調をしているが、時折毒舌混じりな言葉を吐いたりする。
頭髪の色はダークブルーで、服装は女物のビジネススーツであることは殆どである。場合によっては戦闘地域に送り出されるエージェントとしても活動する。



凍空吹雪
年齢:23歳 職業:会社員 所属:トライブ財閥 身分:用心棒
身長:185cm 体重:60kg 趣味:日曜大工

「刀語の世界」の蝦夷・踊山に住んでいた凍空一族の生き残り。
七実が村を襲撃した際には空間の歪みに巻き込まれ、別世界に流れ着いた結果、シルフィードの用心棒として雇われることとなる。ブライにメダルシステムを届けたりすることが多いが、村を壊滅させた七実に対しては憎悪と嫌悪感を抱いている。
その気になれば一族特有の怪力でヤミーと交戦することも可能である。
髪は白く、普段着も白いライダースーツである。


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