仮面ライダーブライ!
前回の三つの出来事!


一つ!森光蘭こと天堂地獄は着々と力を蓄える!

二つ!七実はトライブ財閥社員たちの努力を糧にヤミーを次々と育成!

そして三つ!烈火は裂神である己の実父、桜火と邂逅する!


一つお報せです。
登場キャラ達の内、三人のイメージCVをここに書いておきます。

ルナイト・ブラッドレイン・シルフィード
イメージCV:柚木涼香

バット・ダーク
イメージCV:能登麻美子

凍空吹雪
イメージCV:堀川亮

といった感じにしようとおもいます。

戦国時代と真庭忍者と託す望み


紅麗の呪われし炎の型の正体は、不死鳥。
その姿はもはや眼にすることはできないと桜火は語った。
なぜなら、その炎は既に人間の魂魄に憑依して姿形を変えてしまっている。

火影の長い歴史においても前例の見られない現象。
その特殊な炎の型によって、新たなる姿と力を、炎の亡霊となって得た存在。
それこそが紅!紅麗が生涯において最も愛する女性の成れの果て。


そして、桜火はこのようにも語った。

火影忍軍が滅びてから既に四百年以上が経過した今尚、火影最大の遺産たる魔導具を欲する欲深き者達によって生み出される悲劇。
その代表格ともいえる存在こそが、森光蘭であり海魔であり天堂地獄なのだ。

桜火はそういうと、烈火が此の世に生まれてきた意味を説いた。

「烈火・・・お前は選ばれたのだ!呪われた火影の因縁を断ち切る者として!」

と・・・!

時代は常に変化し続け、それに合わせて人々は古き物を捨てて行き、新しいものを作り上げて行く。
しかし、とうの昔に歴史から退場させられた火影の因子は今尚生き延びている。

それによって生まれた悪鬼(森光蘭)!それによって生まれた悲劇!それらを止める役目を背負った火影最後の頭首。
それが火影忍軍七代目頭首、花菱烈火!

「八代目はないぞ?」

と桜火がいうと、烈火はこういった。

「戦わなきゃいけねぇ奴らが居る。共に戦ってきた奴らが居る。そんで―――」

思い浮かべるは生涯唯一の君主であり、想い人である姫君。

「守んなきゃいけねぇ人が居る!姫は、俺が守る!!」」

その決意に揺らぐ隙など、微塵もありはしない。

「・・・柳殿・・・お前が忠誠を誓った姫君か」

桜火は確認するように呟くと、とんでも発言をした。

「烈火・・・あの女子もやはり火影に関わりがあると言えるのだ。ワシは人間の頃、あの娘に会っている。そして、今はお前らの敵たる真庭忍者のリュウギョク殿にもな」




――プチッ――

青筋の立つ音。




「親父は四百年以上前の人間だろうが!!姫はまだ16歳だぞ!!それにグリードだって800年前から今の今まで封印されてた連中だって聞いたぞ!!」
「最後まで聞け馬鹿野郎!お前は陽炎が昔話してる時もそーやって話の腰を折っとったではないか!」

思い切りに叫びあう親子。

「・・・正確には・・・転生・・・というのかもしれんな。そしてまたリュウギョク殿も、凄まじい戦いの果てに封印され、運命の悪戯で叩き起こされたのだ」

ここから語られるのは、烈火と紅麗が生まれる前、火影が滅びるよりもずっと過去の話。
西暦1568年―――永禄十一年のこととなる。





*****

西暦1568年―――永禄十一年。
それは尾張の領主・織田信長が時の将軍、足利義昭を奉じて京都へと上洛した頃。
時代が戦国から安土桃山に移り変わろうとする中間みたいな時期だ。

そして舞台は天下統一を一考するのさえアホらしくなるような小さな領分の小さな城での話し。
と言いたいところだが、その前に少々語るべき場面を書く事にする。



とある深い山のふもと。
付近の里の者ですら滅多に入らないその山から一人の美女が出てきたという噂で里は一時の間賑わったことがあった。
噂によるとその美女は、流麗の如き長い黒髪を後ろで纏め上げて凛々しい雰囲気を漂わせた上に凛然とした美麗な顔立ちをしていたというのもあるが、話題性になったのは彼女の服装にあったといってよい。
覆面がない上に袖を切り落とし、野太い鎖を全身に巻いた忍び装束――――それが彼女の身形であった。

そして里の人間が彼女の姿を見たとき、微かにこう言っていたのが聞こえていたという。

「コアメダル・・・・・・必ず奪い返す・・・・・・!!」

と言っていた・・・・・・。
そしてもう一つ。その山から忍び装束の女が出てくる数日前に、とある大名の遣いが山に入り、ある物を持ち帰ったという噂もあった。



閑話休題、本題に戻ろう。

「お館様、本日も高杉殿より使者が参られた。”桜姫、我が側室へと招く事”・・・・・・”返答は如何に。”これで六度目の書状にございます」

城主の間にて、家老と思われる老人が書状を読み上げていた。
勿論この場にて城に籍を置く重鎮達が同席しており、簡素な上座には疲れ果てた印象の濃い人物が座っていた。
少々・・・・・・・いや、全くといっていいほど迫力に欠けたこの城主の名前は沢木(さわき)と言った。

「う・・・うむ。困ったことになったのぅ」
「高杉は戦になれば負け知らずの強国にして大国!恐れ多くもこれを政略結婚とするならば、これは良縁にございます!逆に申し入れを断ればなにが起こるかわかりませぬぞ!!」

家老は城主に対し、必死に主張した。

「わかっておるから悩んでおるのだ・・・・・・当の、桜がのぅ・・・・・・」

沢木は己が娘の意見も尊重してやりたいと考えていた。
ある意味保身に走らず身内のことを考えるあたり、戦国時代では変わり者であり、現代では実に好感のもてる人物であった。

何より沢木は知っていた。娘の桜姫とと家臣の清水(しみず)小平太(こへいた)貴光(たかみつ)は相思相愛の間柄であることに。
しかし、一国の姫と家臣という身分の隔たり故にその愛がまかり通らないことに苦しんでいたことを。
なにより戦国時代において一国の姫というのは、弱小の国にとっては名のある大名と親戚関係をもつ為の政略結婚の道具に使われるのが専らであることなど、歴史の授業を受けていれば誰もが知っていることであった。

しつこいようだが、時は永禄十一年。
小国の姫君の桜姫―――この時御歳十六であった。



数日後、貴光は沢木に呼び出されていた。

「清水小平太貴光」
「は!」
「其方は桜を慕っておるのか?」
「め、滅相もございません!!そのような身分も弁えぬ「正直に申せ。その為に人払いをしておるのじゃ」

それは沢木なりの配慮だった。

「・・・然ればこの貴光・・・お館様に心の内を御明かし申す。恐れ多くも桜姫様に恋心有りは事実!しかし私とて、沢木家の家臣!お家を思うならば、桜姫様が高杉に嫁ぐ事に異存はありませぬ!」

貴光は心の内を暴露した。

「ワシはのぅ貴光、桜の亭主が其方でも良いと考えておった」
「!?」

これには貴光も驚く。
普通こんなあっさりと家臣と姫君の婚約を承諾する大名は滅多にいないから。

「結局ワシは男の子宝に恵まれんかった。しかしワシには多くの兄弟がいる故に跡継ぎには困らん。この戦乱の世を静かに暮らす我が国には政略結婚も必要ない」

一国の主としては稀有なほど無欲で平和主義だ。

「・・・そして桜を思えば、其方を一緒にさせたほうが良いと思っておる」
「お・・・お館様・・・」
「しかし問題は高杉・・・・・・あれが大人しく引き下がるとは思えん」


高杉(たかすぎ)獣伍郎(じゅうごろう)正金(まさかね)
小国であった高杉家の先代、己の父を殺害して戦にて国を大きくしていった武将。
性格は残虐にして冷酷非道。
少しでも気に入らない者は重臣はおろか正室や側室であろうと斬り殺すと言われいる。


「桜もとんだ男に目をつけられたもんじゃ・・・・・・」
「お館様、某に妙案がございます」

困り果てる沢木に貴光が言い出したのは、

「火影を御存知ですか?」

忍者の力を借りることだった。





*****

火影の里。
そこには数日前からある異端な客人が上がりこんでいた。
偶然にも里を通りかかった際、里の者達が素性を問いただそうとしたが、そいつはそれを無視して歩もうとした。
しかも、問いかけに応じないそいつに里の忍者たちが試しに威嚇攻撃を行ったところ、そいつは人間離れした動きで攻撃を避け、一分程度にて火影忍者を気絶レベルにて返り討ちにしたのだ。
しかも倒された輩は全員魔導具を持っていたにも関わらずだ。

「姐さん!好い加減俺らに稽古をつけてくだせぇ!」
「お願いしますよ姐さん!」
「お頼み申しますお姉さま!」
「リュウギョクお姉さま!」

「一切合財断る」

そう、謎の客人は余りにも華麗で美しい技法にて勝利したせいで里中の連中から一気に憧れの的となり、特例として火影の里に身を置いているのだ。奇抜ながらも彼女が上級忍者ということもあってか、彼女に稽古をつけてもらいたがる者も続出した。
もっとも、中には百合の匂い漂うくノ一の声もあったが。

もうわかっていると思うが紹介しよう。
彼女の名前はリュウギョク。今から四百年後、我刀流二十代目当主・鋼刃介こと仮面ライダーブライと対立する忍者グリード。

彼女は封印されて復活するのは二回。
その内の一回は勿論現代。もう一回はこの戦乱の世の話だったのだ。
当然アンク達五大グリードらが未だに封印されている今、実質的にグリードの中でこの日ノ本の土を踏んでいるのはリュウギョクだけということになる。

「あ、そういえば姐さん、聞きましたか?頭首様が小国の依頼話を直接伺いにいったって」
「・・・・・・・・・」

若者の言葉にリュウギョクは黙っている。

「どこの国のだ?」
「なんでも最近高杉家に婚姻の書状を叩きつけられている沢木家だと聞き及んでいますが」
「(高杉っ・・・!!)―――その依頼について、私も混ぜてもらうとしよう」

そうしてリュウギョクは沢木家の城に出向いていくのであった。
そう、貴光が火影に頼む事、今現在の沢木家の状況から見て一つしか思い浮かばない。
真庭忍軍である自分が最も得意とする分野、暗殺なんだと。





*****

沢木家。
そこには桜火が依頼を受理するかどうかの判断の為、直に沢木と話す意もこめて来ていた。
勿論桜火がここへくる途中にリュウギョクは余裕で追いつき、話し合いの席に同席していたのだった。

「ほう、火影が別の忍軍の者を居候させておるとはな」
「・・・・・・大して気にする事ではない」

リュウギョクは沢木の言葉に冷たく返した。
すると沢木は桜火に視線を戻した。

「ついに七度目の書状で”沢木を討ってでも桜を連れて行く”と申してきた。選択は二つ!桜を渡すか決戦あるのみ!・・・だが・・・もし高杉正金を亡き者にできれば・・・・・・・あれほど敵の多い男だ。家臣は離れ、周りの国より高杉は狙われよう」

「なるほどね。しかしこの仕事、受けるかどうかは時間を頂く。我等は忍。主を持たずに人を見て依頼を受ける。その者が仕えるに値するかどうか、つまらん者なら受けませんぜ」

桜火はキッパリといった。弱小ながら仮にも一国の主に向って。

「ではもし火影が任務を受けなかった場合は私一人で高杉を始末するとしよう。個人的にも奴には用件があるしな。それに暗殺とは、真庭忍軍の専売特許だ」
「ん、なんじゃ用件とは?」
「それは秘密だ」

リュウギョクは沢木の問いをはぐらかした。





*****

城の庭、そこには一人の美しい少女が居た。
実に明るそうで聡明そうで、なにより一本の芯が真っ直ぐ立っている印象が見受けられた。
その容姿は正直なところ、佐古下柳と瓜二つだ。
この者の名前こそ桜姫―――佐古下柳の前世とも呼べる姿である。

桜姫は一匹の雀と戯れていると、

『姫様!桜姫様!ご機嫌麗しゅうございますか?』
「鳥が・・・話をした?」

桜姫は目を見開き、

「面白い!!」
「なにぃーーっ!?」

賞賛の声の直後に驚愕の声。
そして木の上から一人の男が落っこちる音。

「忍法声帯移し・・・か。相生忍軍の者達を思い出すな」

そこへ顔を出すのは懐かしむような顔をするリュウギョク。

「・・・今の、どっちじゃ?」
「・・・・・・ワシじゃ」

桜火が挙手した。

「某らは新たに姫のお側につくことになった・・・・・・ん?」

何時の間にか桜は桜火の手を持っていた。
そして、

「怪我をしておる」

さきほど木から落ちた際につくられた切り傷は、暖かな光と共に綺麗に塞がった。

「「っ!」」

この現象にリュウギョクも桜火も驚くしかなかった。

「もう、大丈夫」

桜は正しく花のように可愛らしい笑顔で告げた。
いくら時が流れて肉体が入れ替わろうと、こういう根底の部分は変わらないらしい。

「傷が・・・治った?」
「治癒の力じゃ。生まれながらにもっておった。何故かはよくわからんが」
「生まれながらの力ならワシももっとる!!」
「まあ、私にもあるな」

桜火は自慢気全開でいうも、リュウギョクは相変わらずクールだ。

「とくと、ご覧あれ!!」

――ゴォォォォウ!!――

桜火は手甲がされている右掌より火炎を生み出した。
やはり火影六代目頭首なだけってその炎は実に色鮮やかだ。

「炎!?面白い!わらわも炎をだしてみたい〜〜!」
「・・・なんと無茶苦茶な姫君だ・・・これは術ではなく力だというのに」
「忍軍の頭首のくせして力を見せびらかすお前のいう台詞か」
「うっっ」

能天気な桜とは裏腹に、リュウギョクの一言でちょっぴり落ち込むダメ頭首。

「それで、お主の力は?」
「悪いが易々と使っていい力ではない。忍法ということにしているが、これも先ほどの炎と同じく、使いようによっては簡単に人を死に至らしめる呪われし幻惑(げんわく)魔眼(まがん)・・・・・・」

リュウギョクは少し虚しげに池の水面に映る自分自身を見ていた。

「にしては桜姫。あなたは先ほど炎を出したいと言っていなかったか?」
「うむ。わらわもあれをやってみたい!」
「では良い物がございます」

桜火はあるものを取り出す」

偽火(にせび)、という」

手甲型の魔導具。

「それをつけて念じるとよい。”火よ生まれよ”と」
「んーー・・・・・・」

桜は教えられた通りにしてみせる。
すると、

――ピキ・・・っ――

嫌な音がして、

――パリィィィン!!――

核が砕けた。

「あ、壊れた」
(馬鹿な!!強固に造られた魔導具だぞ!なに故に壊れる!?)
(もしや、魔導具に宿りし魔力にとってこの桜姫の治癒の力は、天敵だということか?)

桜火とリュウギョクは些か動揺しながらも、忍びとしての冷静さを取り戻して状況を速やかに分析する。

まあそれは兎も角、まだ自己紹介がまだだったので、一応お互いに名乗っておくことにした。

「ほう。桜火にリュウギョクと申すのか。奇遇じゃ、わらわも桜という!にしてもリュウギョクはどんな漢字を使うのじゃ?」
「気にする必要は無い。所詮リュウギョクなんてのは偽名に過ぎん」
「偽りの名前、というわけか」
「真庭忍軍は暗殺専門の忍者集団。場合によっては本名の一つや二つくらいは伏せる」

リュウギョクはサバサバと答えた。

「ところで桜姫様。一つ・・・お聞きしたいことがあります。・・・今、この国に戦が起ころうとしています。滅ぼされるかもしれません。沢山の民が・・・女子供まで死ぬでしょう」

桜火は桜姫を子ども扱いせず、一国の姫君と対して話していく。

「避ける術はある。ただしそれは人身御供(ひとみごくう)!好色にして殺戮を繰り返す男の下に嫁ぐ事!」
「当然無理強いはしない。・・・さて、どちらを選ぶ?」

桜火とリュウギョクは真剣な目つきで問う。
すると桜は少し顔をうつむかせるも、すぐに顔をあげた。

「どちらも選びません!高杉正金を斬り、わらわも死のう!」
「「・・・・・・・・・・・・」」

実に凛々しくキリっとした桜の表情と言葉に、リュウギョクと桜火は少し黙った。

「ぷっ・・・!わははは!わはははは!!気に入った、面白いぞ!!」
「私もだ。ここまで見事な啖呵を切った依頼人、それもお姫様となれば、長い人生で初めてだぞ。ふふふふふふ!」
「何を笑うか二人共!」

火影の首領桜火。
自らとリュウギョクがこの仕事を行うことを報告する。
なすは暗殺、狙うは高杉獣伍郎正金の御首(みしるし)





*****

高杉正金の城。
その天守閣で高杉は何かを眺めていた。
普段はこの時間、正室か側室か妾か侍女あたりを閨に引っ張り込んでいるような男だが、今日は珍しく一人で夜を過ごしていた。

「くはははは・・・!」

数日前、高杉は部下に命じてある物を山奥の洞窟で回収させていた。
どう考えても武将なのか?と疑うような肥満体型。元から醜いが、戦場でついた傷跡や歪んだ笑顔でより不気味に見えてくる。

「伝説というものもあながち侮れんものよのぅ。”コアメダル”とかいう未知なる力の結晶が真に存在していたとは」

綺麗に梱包されていた箱の中には五枚のコアメダルが入っていた。

「これさえあれば、余が日ノ本の王となる日も・・・!」

どうやら彼は伝説を履き違えていえるようだ。
確かにコアメダルの力は強大極まるが、普通の人間ではコアどころかセルメダルさえ満足に使えない。それなのに高杉はコアメダルを持っていれば自分は何れ天下統一が可能な存在になると信じているらしい。一体どのような敬意でオーメダルの存在を知ったかはわからないが、戦国時代の人間ならそういう眉唾な話も信じるだろう。

「・・・・・・殿、沢木家より書状が届いてございます。桜姫との婚礼の儀、承ったとの知らせです」
「・・・そうか・・・」

しかし彼はこの時、彼は未だに気づかない。
後々に降りかかる我が身の不幸と、最大限の悲劇に。

「―――かちかねた・・・・・・待ちかねたぞ・・・・・・桜姫!」





*****

後日、仰々しい籠が幾人者武将達に運ばれて道を行く。
その中に貴光がいたことから、籠の中にいる人物にも予測がついた。
そして籠は高杉の城にたどり着いた。

籠の中にいた人物は純白なる和服で身を包み、薄らと化粧をしていた。
それから高杉本人とその家来らがいる間で彼女はこういった。

「・・・桜と申します。不束者ではありますが、何卒宜しくお願いいたします」
「苦しゅうない、はるばるよう参った!余が高杉獣伍郎正金じゃ!」

暗殺作戦の第一段階。

そこへ時間は一気に飛んで深夜となる。

天守閣―――つまりは高杉の居室であり寝室だ。
一体ここで何人の女人が体を汚され泣かされたかは数えたたくも考えたくもないが、今此処でそれを思ってもしょうがない事だ。

桜は布団の上で正座、高杉は布団の上で胡坐状態だ。
状況的にも二人共薄手の襦袢姿だ。

「くへへへ・・・では、初夜の契りといこうではないか?」
「断る」

襦袢を脱ごうとする高杉に対し、桜の余りに冷え冷えとした拒絶の声。

「貴様のような小物の言の葉は聞けぬよ、戯けが!」

――ドスっ!――

「ッッッ!!?」

貫手による一撃が喉笛と鳩尾に炸裂した。
その上、手裏剣や苦無が顔に突き刺さった。

「貴、様・・・!な・・・に・・・も・・・の!?」
「ふッ」

桜と思われていた人物の輪郭は崩れ、あっと言う間に別の姿へと変わった。
顔立ちや体格だけでなく、服装までもだ。

「死に逝く貴様如きに名乗る名前は無い。我が忍法夢幻惑いの牢獄にて、未来永劫囚われるが良い」

真庭忍軍の忍装束姿のリュウギョク。
そう、最初から桜姫はここには来ていない。
ただリュウギョクが自分の視界に入った者全てを”幻惑の魔眼”により、桜姫と誤認させていたのだ。それにリュウギョクは熟練した忍者なので、余分な気配は遮断できる為なお効率良くうごくことができた。

「コアメダルは返してもらう」
「こ、コア・・・メダル・・・・・・だと」

リュウギョクがキリっとした表情で忍者刀を抜刀しようとした時、

「!(・・・・・・この術は)」

リュウギョクは背後に感じる気配を感じ取った。

『こんなことだろうと思っていた・・・・・・あっさりと婚礼に了解を得たからな』

背後に舞うのは幾つモノ人魂。
人の顔をするものもあれば般若の顔をするものまである。

『貴様、忍者だな?』
「幻術か」

リュウギョクは忍者刀を抜刀した。
そして、逆手に持ち

――バッ!――

背後にいる者を斬った。

「ぐッ!」

斬られたのは黒い忍び装束を着込み、目元に並んだ三つのホクロが印象的な長髪の男。

「良くそれで大名に召抱えてもらったものだな。・・・貴様、名はなんだ?」
「・・・・・・甲賀五十三家の高峰(たかみね)蔵人(くらうど)
「甲賀忍者か。私と相対したことが運の尽きだったな」

リュウギョクは肩口に刀傷を負った高峰を見下ろすようにいった。

「さらばだ」

――斬ッッ――

こうして、高杉獣伍郎正金は、高峰蔵人共々、黄泉の世界へと蹴飛ばされた。

「さて、後はコアメダルを取り返せば用済みだ」

リュウギョクは部屋の中を物色し出した。
すると、一つの箱を見つけた。蓋を開けて中を確かめる。

「ヤタガラス、ゼウグロドン・・・・・・他のメダルがない」

二枚のコアメダルを手に取り、怪人態になってそれを取り込み、首と下半身部分が復活したが、まだ三枚足らず、右二の腕と左二の腕と腹部が不完全(セルメン)だ。

『こんなことなら、聞き出した後に殺すべきだった』

リュウギョクは高杉の死体を見下しながらそう言った。
そして、

『忍法疾風迅』

天守閣から姿を消し、城から出て行った。





「あの化物め・・・・・・!!」
「不覚をとりましたね」





一言で言おう。
高杉も高峰も死に切っていなかった。

高杉と高峰が負わされた傷は致命傷だったはず。
ではなぜ生きているのか?

「このような物、なんの役に立つかと思いましたが・・・・・・」
「流石は化物の源じゃよ・・・!」

高杉は口からコアメダル三枚を出した。
高峰も口からセルメダルを五枚出して吐き出し、セルメダルは消滅していった。

よく見てみると、二人の傷は急速に癒えていたのだ。
これもある意味、オーメダルの力なのかもしれない。
もしかしたら、高杉の強大な欲望がコアと反応した結果かもしれない。

「おのれ沢木・・・!忍の如き化物を影に余を殺そうと思うとは!戦じゃ!!兵を出せ!!沢木を討つぞ!!」





*****

翌日の早朝。

「高杉より兵が動いたとの報告です!」
「その数約三千!我が兵の三倍の数にございます!」

沢木の地は未曾有の危機に直面していた。
当主である沢木や家臣たちは鎧を身に纏った万全装備の状態だ。

「・・・どのみち・・・合戦は免れんかっただろう。迎え撃ってやろうぞ!」
「「「「「「「おおおぉぉぉぉおおおおお!!!!」」」」」」」

家臣たちは盛大に賛成した。

(これで・・・これで良かったにでござる、桜姫様!かくなる上はこの貴光、命を賭けて貴方様をお守りいたします・・・・・・!)



そして庭では。



「リュウギョク、桜火。お主らも、合戦にいくのか?」

装備を整えていた二人に桜が訊いた。

「此度の合戦は私の不始末が原因だ。故に依頼があろうとなかろうと、私は勝手に戦わせてもらう。ケジメをつけるためにもな」
「我等火影にも、リュウギョク殿一人だけに事をやらせてしまった責任がある。自ら志願して戦場に赴くことにした」

二人は己と忍軍の誇りのために戦うと決めた。

「わらわは・・・辛い・・・わらわの為に・・・この国の者が血を流す・・・小平太も・・・父上も・・・つらかろう、苦しかろう・・・・・・」

桜は涙で顔を濡らしながら悲しんだ。

「桜姫よ。そう悲観することはない。私も桜火も、そして兵士達も皆、強制されたのではなく、自国とお前を守りたい一心でいる。真庭忍軍とは違って利益ではなく情義によって動く者を見るのは実に懐かしいよ。連中はさぞかし、桜姫という人間に惚れ込んだかがわかる」
「あぁ、ワシも姫が気に入ったから仕えた!それでいいのだ!見ておれ、火影忍者と真庭忍者の力を!」





*****

戦場の最前線。

「来おった!!」
「高杉正金の軍勢三千!!」
「三の丸、二の丸、北の丸に兵を置け!!」
「本隊は城より出て突攻をかける!!」

その中に貴光が居た。

(姫様・・・桜姫様・・・・・・!この清水小平太貴光、命に代えても貴方様を守って見せます!!)

幼少の頃より桜のことを妹のように世話してきた貴光。
思い出される桜との記憶の為に、そして彼女自身の為に。

「ゆくぞーーーっっ!!!!」

彼は号令をかけた。



「「「「「「「「「「わあああああああああ!!!!」」」」」」」」」」



大勢の兵士達が鎧や兜をつけ、刀を持ち、槍を持ち、弓矢を持ち、己が信念に順ずるまま駆けて行く。
馬に騎乗していくものも地に足をつけて走る者も、皆刀と槍によって斬られ突かれて血を流し、地面に倒れ伏していく。



「殺せ!!女子供も皆殺すのだ!!高杉正金を馬鹿にしたその大罪!!死を持ってしらしめよ!!この顔の痛み!!沢木の者ども全てに倍として返せ!!」

敵陣の本丸のなか、高杉は顔に包帯をまきつけて馬に跨り、頑丈な鎧甲冑をまとって怒号を飛ばしていた。



そんな地獄絵図一歩手前の戦場を見下ろす二つの人影があった。
隠すことではない、桜火とリュウギョクだった。
今回この二人が参加するこの戦には増援が居ない。
仮にも頭首自らが受諾した任務を外部の忍者に任せて失敗した結果がこの様なのだから、それに伴う責任をとる必要がある。

「桜火様!リュウギョク様!」

そんな二人の背後から聞こえてくる声。
振り返ってみると、そこには黒いくノ一装束姿の二人。

「私らも御一緒させてください!何もせずただ待つなど、耐え忍べません!」
「迷惑はかけませぬ。共に戦うことをお許し下さい!」

十四歳の頃の陽炎と十五歳の頃の麗奈だった。

「・・・・・・・・・まだ小娘と思っておったが・・・」
「少し目測を誤ったな」
「「よし!」」

「「敵は三千!!ぬかるな!!」」
「「はい!!」」

四人はそうして戦場に飛び込んでいく。

「どけどけどけーーーーっ!!」

桜火は大きく跳躍していく。

「火影忍者桜火見参!!儀によって沢木家に助太刀致す!!」
「真庭忍者リュウギョク!!私怨と情義故に沢木に加勢する!!」

――ゴォォォウ!!――
――ビリビリビリビリ!!――
――ビュウウゥゥゥン!!――

桜火の炎術は敵を燃やしつくし、リュウギョクの雷と風は敵を薙ぎ払った。
陽炎と麗奈も魔導具を武器にして戦う。

「こいつら・・・忍か!?」
「手強いぞ!!」

思わぬ敵の登場に高杉勢は慌てだす。

「おお!桜火殿にリュウギョク殿!」

それとは反対に貴光は歓喜する。

「死ぬなよ、小平太!」
「おうよ!!」

桜火の言葉に貴光は馬を走らせてさらに敵陣へと突っ込んでいく。

すると、

『・・・お主らに他人の命を心配する余裕は無い・・・・・・火影に真庭と言うたか・・・知らぬ名だな』

それはリュウギョクがみた幻術と同じもの。

『片方のほう、見れば私と同じ火術を使うようだが、力の差を思い知らせてくれよう』
「甲賀者か」
『いかにも。臆するか?逃げるか?」
「殺す!!」

そう桜火が言った瞬間、

「ならば、死ね!!」
「にしても良く生きられたものだな。致命傷を与えたはずだというのに」
「なに。貴様が大事にしているメダルとやらの力を拝借しただけのこと。最も上様は顔の傷が治らず不機嫌だが」

高峰はリュウギョクの言葉に答えた。

「・・・・・・桜火、この下忍はお前に任せる。私は他の軍勢どもを叩く」
「・・・・・・わかった」

リュウギョクはこの場を桜火に任せ、他の連中の撃破に回った。

「ふむ、あのくノ一を果たし合えぬのは残念だな。・・・では代わりに貴様で我慢しよう」
「ふん!ぬかせ青二才めが!」
「「勝負!」」





*****

一方その頃沢木の本城では、桜姫が手負いの兵士達の手当てをしていた。
勿論治癒の力でだ。

「おお!傷が・・・!」

たちまち癒える傷に兵士らは感動していた。

「よし!次の怪我人、参れ!」
「なりません姫様!その力で貴方様もお疲れではありませぬか!!」
「よいのじゃ・・・みな、わらわの為に血を流している・・・その傷を癒すのは当然のこと!!」

と、気丈に振舞うが、

「すまん・・・すまんの、皆のもの・・・・・・わらわは戦えぬ・・・・・・こんなことくらいしかできない・・・・・・」

ボロボロと涙を流した。

「怪我人じゃあぁあぁあ!!」
「清水貴光殿を御連れした!深手じゃーーっ!!」

その時、最悪の報せが舞い込んできた。
兵士の一人が肩を貸して担ぎこんで運ばれた貴光は、全身に刃物傷を負っていて、かなりの量の血液が流れていた。

「小平太!!小平太ぁぁあ!!」
「・・・・・・その声・・・姫・・・桜姫様・・・」
「待っておれ!今・・・その傷を癒す!死ぬな!死なないでくれ、小平太!!」

桜は必死になって貴光の体に手を当てて力を放出する。
しかし傷の癒え具合は微々たる物とかしつつある。

(力が弱い・・・そんな・・・そんな・・・!!)
「姫・・・・・・最後に・・・お願いが、ございます・・・・・・」
「最後などと申すなぁ!!わらわを娶ってくれると約束したではないか!?小平太!小平太ぁ!!」

必死になって貴光に抱きつき、彼を此の世にとどめようとする桜。

「申し訳・・・・・・――――」

そこからの言葉は全て途切れた。
永遠に途切れたままになってしまった。

「小平太・・・?」

安らかな表情で一切動かない小平太。
周りの者達は胸や心を痛めたり、涙を流して悲しんでいた。


――この戦に勝てば姫様をくださるとお館様が申してくださった!良き働きを期待してくだされ!――


合戦場にいく間際、小平太がいってくれたプロポーズの言葉が脳裏を蹂躙した。
そして、

「小平太ぁぁぁぁあああ!!!!」

桜姫の、女としての嘆きが響き渡った。





*****

方や戦場では、

「ハァ!!」

――ビリビリビリビリ!!――
――ビュウウゥゥゥン!!――

リュウギョクが右手から雷、左手から風を巻き起こして敵兵を蹴散らしていた。

「ハァァァアア!!」

さらには口から火遁の術の如く火炎まで吐いてみせるという大技つきで。

「流石はリュウギョク様・・・・・・!私たちも負けていられない!」
「あぁ全くじゃ!・・・それにしても、桜火様は何処に?」

陽炎と麗奈が感激と心配をしているとき、桜火は・・・!



『逃がさぬぞ、火影の桜火・・・名も無き忍共にしてはようやったが・・・・・・ここで死んでもらおう』

禍々しい炎の幻術が桜火の体に巻きつき纏わりついた。

「ぐぬ・・・!動けん!」
「忍法・・・炎蛇(えんじゃ)

身動きのとれない桜火に高峰が術名を明かしながら登場した。

「熱くはなかろう?これは幻術。真の炎ではないからな。しかし貴様の自由はもはやきかぬ!甲賀忍者の恐ろしさ、思い知ったか!・・・さらばだ、下忍!」

高峰の忍者刀が桜火に降りかかろうとする。

「お・・・・・・おおおおお!!」

――ずっ――

桜火はそれによって、顔の右半分に大きな刀傷を縦に入れられた。

「ん?首を狙ったはずだが・・・・・・」

――ゴド・・・――

気がつくと、自分の腕が地面に落ちる音。
そう、高峰は右腕の肘から先をバッサリと斬られていた。

「馬鹿・・・な・・・」

吐血しながら倒れ伏す高峰。

「幻術は・・・所詮幻じゃ!」

と桜火は言い切った。
つまりは気力だけで忍法による幻影を打ち破ったのだ。
桜火は一旦戦場の様子を見た。

(・・・・・・リュウギョク殿は既に産百人近くを蹴散らしたか・・・しかし、沢木の兵はどんどん少なくなっていく・・・このままではもたぬか・・・・・・!)




戦場のリュウギョクはというと、

「剛力無双及び流水剣・激流!!」

自らの腕力を極限まで強化する忍法と、鉄砲水のように徹底的に攻め立てる剣法を同時に振るい、リュウギョクは一気に十人近くの敵を斬り殺した。

(チッ!やはり人間のままで戦う分には限界があるか。かといって迂闊に本性をみせるわけには・・・・・・!)

リュウギョクは心の中で舌打ちした。

「一旦戻って状況を見直すか」

といってリュウギョクは本丸に引き返した。
途中で桜火と合流し、たどり着くと、何故か皆シクシクと泣いていて活気自体が死んでいた。

「どうかしたのか?」
「お・・・お館様が・・・・・・討ち死にされた・・・・・・」

一人の老兵が答えてくれた。

「沢木家はもう、お終いじゃ・・・・・・」
「うう・・・・・・お館様・・・・・・」

「ならば、桜姫は何処に居るのだ!」
「姫様もお労しや・・・・・・想うておった清水貴光殿が先ほど・・・・・・・・・亡くなられた」

それを訊いた途端、リュウギョクと桜火は館内を走り回り桜姫を探しまわった。
そして見つけた、あっけないほど簡単に。

その時、桜が見に纏っていたのは白い着物に、腰に差された小太刀。

((死・・・・・・死装束!))

「・・・・・・・・・・・・世話になったな二人共・・・・・・わらわの最後の願いを聞いてくれるか?」

桜の言葉はこうだった。

「わらわはここで自刃する。この館に高杉の兵を一人も入れず、それを食い止めよ!直に館に火が回る。わらわの心も体も、高杉正金には髪一本わたさぬ!」

その際の笑顔は全てのしがらみから解放されたと言わんばかりに清清しかった。

「頼まれて、くれるか・・・?」

断れなかった。汚い所業に手を染め、歴史の影に生きる忍者が彼女に「生きろ!」などという資格等一切ないのは当人らが十二分にわかっていた。

故に己の無力を祟った。
そして。

「心得て候!!姫様の御首、誰にとらせましょうや!!」
「お心・・・静かに・・・」

――カチン・・・ッ――

そうして二人は忍者刀をもって金打(きんちょう)した。
忍者如きが武士の真似事のような約束の仕方をするのかと、自分たちでもあざ笑った。
しかし、今の二人にはこれ以外思いつかなかった。

「ありがとう・・・・・・桜火にリュウギョク、もし・・・今度生まれ変わることがあれば・・・愛した者と・・・・・・幸せになりたく願うぞ・・・・・・」

そうして桜姫は戸を閉めて部屋にこもった。
そして拳を深く握った桜火とリュウギョクは屋外に出た。


((・・・・・・誰(じゃ)・・・・・・))

表情も心も穏やかにあらず。

((桜姫の幸せを奪ったのは・・・・・・・・・桜姫に死に逝く運命を辿らせたのは・・・・・・))


眼前に広がるは大勢の敵軍。
沢木軍とリュウギョクの働き効してが半分近くの千五百あたりになっているが、それでもこの状況なら大軍だろう。

「許さぬ・・・」
「下郎ども・・・」

声は実に重く低い。

「我が命の欠片盗るだけでは飽き足らず、良くもまぁここまで調子付いてくれたな・・・・・・!!」
「姫の成さろうとする事、我等が力を持って守る!邪魔する者は、皆死だ!!」

鬼や閻魔も及びつかない激怒と憎悪の顔。
迫り来る大軍に彼らは恐れもしない。

そして、リュウギョクは大きく息を吸い、一気に言葉として吐き出す。
館の奥にいる桜姫にも、否が応でも聞こえるような大声で。



真庭忍軍(まにわにんぐん)十二頭領(じゅうにとうりょう)総補佐(そうほさ)!!!真庭(まにわ)竜王(りゅうおう)!!!通称”奇蹟(きせき)の竜王”!!!!推して参るぞ腐れ外道めが!!!!」



真なる名と肩書きを大声で告げたリュウギョ―――否、竜王は桜火と共に突撃していった。

「「おおおおおおおおおおおお!!!!」」

桜火は右手より業火を、竜王は炎・雷・風を放出しながらいく。

「こいつら、たった二人でこの軍勢と戦う気か!?」
「炎や風や雷をだしておるぞ!」
「ええい!なにを怯んでおるのか!?忍者ごとき某が!!」

敵に武将の一人が二人に突っ込んでいこうとすると、

――ガシッ!――
――ボムッッ――

桜火に顔をつかまれた男は、その首が灰塵となるまで燃やされた。

――ザシュザシュザシュザシュ!!――

竜王もまた二振りの刀で織り成す剣法をふるい、敵に有無を言わさず斬り伏せていく。





*****

時間は少々遡り、暗殺を請け負うと決めた直後にこととなる。

「不思議なモノだ。桜火にはああ言っておきながら、お前と話していると忍としての矜持を忘れて己の秘密を言い漏らしてしまいそうだ」
「お主らの話は面白いからわらわもよう聞きたい。そういえば・・・リュウギョクの属する真庭忍軍には頭領が十二人おって、リュウギョクはその十二人全ての補佐なのじゃろ?」

”如何にも”と竜王は返した。

「だが私は真庭としてはマトモ過ぎると言われたことがある。・・・・・・いや、だからこそ、十二頭領らの総補佐役に選ばれたのやもしれんな」
「んー・・・・・・なんで真庭には頭領が十二人もおるのじゃ?」

と桜は素朴で当然な質問を投げかける。

「真庭忍軍は人格破綻者の集まる場所。故に集団行動には向いていないのだ。おまけに個人が扱う忍法が強力な分、固まって動くと互いに足を引っ張りかねん。だから頭領を十二人にすることで集団行動の意味を破棄した。その凄まじい試みは成功に至り、永きにわたって敵対していた相生忍軍との戦いに勝利を齎したほど」

リュウギョクはペラペラと喋った。

「もっとも私は歴史の影の更なる闇に生きる存在。十二頭領以外には、私のことを知る里の人間は一人としていなかった。だが、だからこそ、出来る事がある。私の存在など正しくは影。一族繁栄の為なら、栄誉など要らぬさ」

「しかし、それだけ頑張ったのじゃから。もっと多くの人に褒めてもらうべきじゃ。わらわは、リュウギョクのことを褒めるぞ。だって、今こうしてわらわはリュウギョクと話、お主のことを知っておるのじゃからな」





*****

回想終了。

「臆するな!!」
「相手は二人ぞ!!」

敵兵が迫る中、桜火と竜王は静かに立っていた。

(桜姫よ。ならば散り逝く際に、我等がなす大業に賛美の言の葉を貰い受けよう!)

竜王の決意はじつに固かった。

――バチ・・・――

一方で桜火は右腕の手甲に手をかけていく。

「桜火様!リュウギョ・・・・・・竜王様!助太刀せねば・・・!」
「まって、麗奈!」

少し離れた場所に居た陽炎と麗奈は眼にする。
火影六代目頭首と真庭頭領総補佐の実力を。

――カラン――

手甲が外され投げ捨てられた。

「出でよ。我が真なる力!!」
「全身全霊を尽くし、愚者共に死を!!」



桜火の右腕より、彼の炎の源が姿を現した。火炎そのものとさえ言える七匹の火竜達。
そして竜王の姿もまた、グリードとしての異形に成り果てる。



「なな・・・な、なんじゃあ!?」
「これは・・・『余所見をしている暇があるか?』

敵兵が七竜の登場に恐怖する。
そして竜王自身が名づけたもう一つの姿に対する名前、リュウギョクが敵兵共に襲い掛かる。

『真庭忍法影分身!!』

一気に多重分身を行い、量を質でおしていく。

「「「「「「「「ぐぎゃああああああぁぁぁぁぁあああああ!!!!」」」」」」」

それと同時に七竜らの猛烈な体当たりによって兵士達の体が燃え盛っていく。


「陽炎・・・・・・!!あれ、は!?」
「・・・七匹の竜・・・」
「あれが・・・桜火様の炎の型!?」
「炎術士により様々な形を持つという炎の源・・・・・・七竜(しちりゅう)
「だが、竜王様のあの姿は!?」
「わからない。・・・でも、もしかしたら、あの姿こそが竜王様の真なる・・・・・・」

陽炎と麗奈は遠くからこの惨状を目の当たりにしていた。


「どけ!!火影の桜火と真庭の化物は、この高峰蔵人が殺る!!あの程度で死んだと思うたか桜火ぁあ!!」

兵を押しのけ、隻腕状態にも関わらずに高峰が出張ってきた。

「同じ火術を使うこの高峰に脅しはきかぬ!!我が炎蛇と同じ幻か!?」

高峰は手裏剣や苦無といった暗器各種を片腕で器用に投げ飛ばした。
しかし、暗器は火竜をただすり抜けるのではなく、燃やし熱せられてすり抜けた。

(幻ではない)

高峰は悟ったがもう遅い。
気が付けば、残っていた左腕もぶちきれ、両足もわき腹も、到る部分が火炎によって抉り取られていた。

(本物の・・・・・・炎の化物・・・・・・)

そうして高峰蔵人は討ち死んだ。

「なんじゃ・・・あの化物だけでのうて、炎の竜・・・・・・ワシは悪夢でもみているのか?」

高杉は包帯で隠されていようとわかるほどに動揺していた。

「桜姫・・・」
「お逃げくだされ殿!!」
「もはや桜姫などと申されている場合では・・・!」
「ひっ・・・ひいい!!」

高杉は部下に促されたのをトリガーに、一国の主にあるまじき情け無い悲鳴をあげて、馬に乗って本国に戻ろうとする。

が、それも叶わない。

『コアメダルを返せ・・・・・・!!』

竜王(リュウギョク)がいた。

「そ、そそ、その方の探す物は・・・ここには、な・・・無い!」
『では何処にある?』

リュウギョクの冷え冷えとした態度に高杉はただただ恐怖する。

「す、すまぬ!とある輩に売り飛ばしてしまった!し・・・しかし安心せよ!生かしてくれるのなら、直ぐにでも買い戻して『もうよい。消え失せろ塵芥』

リュウギョクは忍者刀を逆手に構えてこう告げる。
己の最強の忍法の名を。

『真庭忍法、劉殺生(りゅうせっしょう)!!』

一言で述べるなら、高杉は一瞬でバラバラに分解され、ただのグロテスクな肉塊とかした。

忍法劉殺生。
ただ単純に竜王が習得している忍法全てを総動員するだけの忍法。
幻惑の魔眼による夢幻惑いにて敵を確実に捕え、影分身で複数人となって敵を囲み、剛力無双によって得た怪力を疾風迅による神速の速さで振るい、流水剣・激流によって敵を斬殺する。

それが彼女の奥義であり必殺技なのだ。
その時、リュウギョクと桜火にある言葉が心の中に響いてきた。


――心せよ・・・・・・桜火・・・・・・我等七匹の火竜は汝と竜王の心に同調し、一度だけ力を貸した。しかし・・・・・・哀れにも汝の心が晴れず朽ちていったその時は――

言葉は一旦途切れたが、すぐ紡がれる。

――汝が八匹目の火竜となるのだ・・・!我は七竜の長、虚空。また・・・会うやもしれぬな・・・・・・――





*****

そうして、合戦は終わった。
良い方に言えば引き分け、悪く言えば双方殲滅で。

竜王と桜火は、読みきれぬ表情で戦場跡を高台から見ていた。

「本当に言ってしまうのか?」
「あぁ、コアメダルを取り戻す必要があるからな。それに・・・・・」
「それに?」

竜王は少し儚げな自嘲気味な表情でこういったのだ。

「忍者はあくまで歴史の影に生きる黒子。噛ませ犬は噛ませ犬らしく、化物は化物らしく、主人公たる英雄に封印されるだけのこと」

そうして竜王は去っていく。

「ま、待て!」
「我等は所詮忍者だ。忍は生きて死ぬだけ・・・・・・それだけなのだから。転生しようと、それは変わらぬ」

竜王は今度こそ消え去ってしまった。
桜火はただ呆然と立ち尽くしていた。

――桜火――

すると、聞き覚えのある声がした。

――別れの挨拶を、言いに参った・・・・・・竜王がおらんのが残念じゃが・・・――

幻影のようにも思ったが、違うかもしれないし、本当に幻影だったのかもしれない。

――其方が己を責める必要は無い。其方らの力でわらわは敵に辱められることもなく天寿をまっとうできた――

だが語りかけてくるのは紛れも無く、

――わらわは其方らに救われた・・・・・・お前らなくして今のわらわはおらぬのじゃ――

悲運なる姫君、その名は桜。

――礼を言うぞ桜火。・・・竜王に宜しく頼む。そして――

いや、悲運などとは第三者からの意見だ。
彼女はきっと、

――さらばじゃ・・・――

最後の最期にはほんの少しだけ、幸せだったかもしれない。

この話は、烈火が生まれる前で紅麗が生まれる前。
時に永禄十一年のお話・・・・・・・・・・・・。

この一年後、桜火は陽炎を正室に、麗奈を側室に迎え入れる。
後に火影が滅ぶのは西暦1579年=天正七年、天正伊賀の戦いにおいて伊賀が攻められる事の三年前であった。





*****

現代の花菱烈火の精神世界。

「・・・・・・今までの話が、ワシが過去に柳殿と竜王殿におうていると言った意味じゃ。無論、転生するまえの”桜姫”ではあるがな」
「・・・・・・懐かしい話じゃのぉ・・・あの時ワシらは桜火殿と真庭殿の心に打たれ、力を貸した。それは烈火が紅麗と初めて戦った時と同じ気持ちだったのやもしれん」

桜火は決意を新たにするように、虚空は懐かしむようにする。

「ワシはお前の中よりお前の人生の流れを共に見てきた。当然、柳殿や竜王殿に初めておうた時のこともまた然り。その時ワシは、確信した」

桜火は裂神としての意見をいう。

「柳殿は桜姫が生まれ変わりし者だと!」
「・・・・・・・・・」

烈火は黙ってその話をきく。

「あれから時が流れた。互いに姿形は変わっている。しかし・・・ワシにはわかるのだ。!あれは彼女だ!」

桜火は過去を思い返し、表情を震わせ、拳を振るわせる。

「・・・ワシは・・・・・・ワシは・・・・・・本当の意味で姫を救ってやる事ができなかった・・・!竜王殿も、あの時ワシがもっと強く引きとめていたら、再び四百年の眠りにつかせることも、あのような形で再会することもなかったろう・・・・・・!!」

桜火は眼を見開き、烈火の両肩をガシっと掴む。

「だからお前の託すのだ!!烈火!!」

その眼に涙を滲ませながら。

「せめて・・・今度こそ桜姫を・・・柳殿を救ってくれ!!前世で報われぬまま短い生涯を終えたあの娘を!!今も残された治癒の力が、ワシには桜姫の無念に思えてならん!!」

すると烈火は父の手を払いこう言った。

「言われなくても当然やる。それが忍だ。俺は最後の火影忍軍頭首、花菱烈火!」

烈火の答えは最初から決まっていたのだ。

「呪われた火影の歴史も・・・・・・それによって悲しみをつくっちまった奴らの気持ちも・・・・・・姫だった人も、姫も!全ての呪いも因縁も断ち切る!」

それが烈火の決断。そしてその結果が、

「変な言い方だけどよ、火影つぶすぜ!俺たち新生火影忍軍がよ!」

そう、戦いが終われば、火影忍軍の力は不必要となる。
それゆえに”火影をつぶす”ということになる。

「うむ!ならばそろそろ現実の世界に帰れ!他の連中も集まっておろう!時の流れが違うので、既に三日はたっとる」
「何!?マジでか!?早くしねーと!!」

虚空の言葉に烈火が軽くパニくった。
するとタイミングを見計らうように現れた奇妙な鏡。

「えーと・・・またこの鏡に入ればいいんだよな!」

と、途中まで進むも

「オヤジ!うまく言えないがよ、やっぱり俺はあんたの息子で、そいつをスッゲー誇りに思う!!」

それみおまた、純粋なる思い。

「そういうことだ!!じゃあな!!行って来るぜ!!」

そして、烈火は鏡を通っていった。

「・・・塁も砕羽も・・・皆あれが好きらしい。良い御子息じゃの桜火殿」
「・・・・・・・・・いや・・・頭の悪い未熟者じゃ・・・ワシの息子だからな・・・」

そういうものの、桜火の表情は笑顔だった。
息子の成長をこの目で見届けて確信したような、そんな父親の笑顔だった。

次回、仮面ライダーブライ

SODOMとチェリオとCDデータ





真庭(まにわ)竜王(りゅうおう)
グリードの一体で、鳥類系・昆虫系・猫系・重量系・水棲系のコアを宿した異質な存在。偶然にも七実にコアメダルを予備を含めて十五枚持っていかれたせいで不完全(セルメン)状態になっている。五系統のコアを宿しているだけあって、一度に多数のセルメダルを使うことで合成型ヤミーを生み出すことが可能であり、ヤミーの育成方法は他のグリード達のそれに準ずる。また、五千枚のセルメダルを結合させて一枚のコアメダルを生産する能力を備えている。

自分のコアメダルを持っているのが強力なグリードとブライであることを知り、森光蘭に取り入ることで誰にも邪魔されずにセルメダルの大量生産、及びコアメダル生産に専念できるようにしている。

人間態の際は流麗の如き美しい黒髪をロングポニーテールにし、全身に鎖を巻いて袖も覆面も無い上、上半身は和風だが下半身部分は脚の付け根にまでスリットの入ったリロングスカートといった奇抜な忍装束を着込んでいて、腰の左右に二本の忍者刀を帯刀した凛々しい風貌の美女の姿となる。
ちなみに鎖は首・両腕・両足・腹部へと二重螺旋を描くように巻かれている。

元を正すと彼女もまた「刀語の世界」からグリードに転生した存在で、元々は十二頭領結成当時=真庭忍軍全盛期に活躍していた忍者で、十二頭領の総補佐役をしていた。もっとも、彼女の存在は同じ里の者の中において十二頭領しか知らなかったらしい。単純な高い戦闘能力だけでなく、初代十二頭領達からも”マトモ過ぎる”と言われる性格ゆえに総補佐に選ばれたらしい。
通り名は『奇蹟(きせき)竜王(りゅうおう)』。

グリード化していこうは”リュウギョク”という名前を基本的に名乗っているが、時折本名を堂々と口にすることがある。複数の忍法を会得している上、剣法の使い手としても一流に値する腕前の持ち主。

生まれ持っていた虹色の”幻惑の魔眼”によって対象に幻覚を生じさせ、時には幻想世界に引き込んでしまう忍法「夢幻(むげん)(まど)い」。
実体つきの分身体を複数生成する忍法「影分身(かげぶんしん)」。
十秒間だけ通常の千倍の速度で動ける忍法「疾風迅(しっぷうじん)」。
一日に数回だけ凄まじい怪力を発揮する忍法「剛力無双(ごうりきむそう)」。
邀撃を司る”小流”と攻撃を司る”激流”といった二つの様式をもった真庭剣法の一つ「流水剣(りゅうすいけん)」。
そして、全ての技法を駆使して敵を一瞬で殺す忍法「劉殺生(りゅうせっしょう)」といった六つの技法を駆使して戦う。


因みに、これら六つの技のうち五つは、五大グリードの特性に準えて設定しており、夢幻惑いはアンクの嘘の上手さ、影分身はウヴァのコア三種で発動するガタキリバから、疾風迅はカザリの風を操る能力から、剛力無双はガメルの怪力ぶりから、流水剣はメズールの属性からである。


年齢:不詳 職業:忍者 所属:真庭忍軍 身分:総補佐
身長:210/175cm 体重:123kg/???  趣味:歌 
スリーサイズ:B95/W56/H87 イメージCV:清水香里


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