これまでの仮面ライダーブライ!
前回の三つの出来事は!


一つ!葵と蛭湖が裏麗を裏切り、烈火たちに味方する!

二つ!烈火は紅麗の後押しを受け、竜之炎捌式・裂神の力で柳を炎へと変える!

そして三つ!柳の『癒しの炎』の力によって天堂地獄は全ての力を失い、烈火の右腕とブライの一撃により、永きに渡る火影の因縁に終止符が打たれる!

終焉と決着と日常


*****

HELL OR HEAVEN
今此処に、全ての元凶を討ち滅ぼし、一時の静寂が訪れていた。

異形の姿となっていた者達も皆、人間の姿に戻っている。

しかしながら、

――ピキ・・・っ――

「閻水・・・?」

なにやら不穏な音がした。
しかしながら、その間際に、

――さよなら、凍季也――
――然らばだ――

「姉さん・・・?おじいさん・・・?」

愛すべき家族の声が聞こえてきた。
それが幻聴だったかどうかを問いただすのは野暮だろう。
ただ一つ確実なのは、

――パキン!――

閻水という『魔導具』が壊れたということ。

一方で風子も、

――頑張ったね風子――

「・・・緋水・・・」

――パキン!――

神慮伸刀が砕けた。
そして、

『お疲れ様でした、ゴシュジンサマ。幸せになってね!サヨナラ!!』

――パキン!――

「風神・・・ちゃん・・・」

風神という『魔導具』も壊れた。

無論、二人だけではない。
蛭湖の『血種』も、土門の『鉄丸』と『土星の輪』と『嘴王』も、小金井の『鋼金暗器』もまた然り。

「魔導具が―――」
「砕けていく・・・!?」

その最大の原因は、


『火影が終わるのだ』


それらが『火影魔導具』だから。
その詳細を、裂神―――桜火が語る。


『天堂地獄という邪悪な欲望、野望が消えたとき・・・火影に関わる全ての物が役目を終え、此の世から消滅する』


もう二度と、悪の手に渡らぬように。


『今・・・火影の歴史が終わる』


火影の全てが滅される。

火影に関わるもの全てが消えるということは―――

「・・・・・・紅・・・・・・磁生・・・・・・」

紅麗は炎の亡霊となってまで自分に力を貸してきてくれた者達との別れを迫られるということでもある。

「今日まで・・・よくぞ共に歩んでくれた。お前達の事を私は生涯忘れない!決してな!」

――コク・・・っ――

すると、磁生は優しい笑顔のまま、無言で頷いて手を振りながら、消滅していった。

――サ・・・ヨナラ――

そして紅も、

――サヨウナラ。大好きな紅麗――

最愛の人に別れを告げて、消滅した。

「また、会おう」

紅麗はとても寂しそうに、悲しそうに呟いた。

『紅麗』

そこへ桜火が語りかける。

『火影頭首として生き、父として生きられなかったワシを許せとは言わぬ。しかし・・・ワシはお前と麗奈のことを、心より愛しておったぞ』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

紅麗は無言で両膝をついて正座し、そこから地面に手をつけて頭を深く下げた。
偉大なる父への、精一杯の敬意と感謝を示す為に。

『陽炎―――よくぞ400年の間・・・火影の為に生き、ワシを忘れずいてくれた。これからは、己の為に生きてくれ』
「さようなら・・・桜火様・・・・・・!」

陽炎は眼から一筋の涙を流しつつも、雄大なる夫に恥ぬよう、妻として凛然な表情で答えた。

そして火影の力が消え、紅と磁生が消えたことは、烈火が必死に柳を抱きしめる理由としては充分すぎた。

「イヤだ!!冗談じゃねぇ!!消えんなよ!!消えんなよ、姫・・・・・・!!お前が消えることねぇだろ・・・・・・!?」
『泣かないで・・・・・・泣かないでよ烈火くん・・・・・・』

烈火も柳も大粒の涙を垂れ流しにする。
そこへ桜火は、

『烈火、よくぞ火影を滅ぼした!そして、よくぞ我ら八竜の心を晴らし、成仏させてくれた!』

言葉に従い、烈火の両上腕にある火竜の刻印は消滅していくではないか。
恐らく烈火の体内にいる火竜達の成仏を示しているのだろう。

『無念・・・怨念を残した炎術士は火竜となり・・・八竜の呪いは火竜を宿す者が晴らすこと消えることができる。お前はそれを成したのだ!』

だが語っている間にも、柳の炎の翼はどんどん消滅の一途を辿っていく。

『火竜は消える。火影も消える。火影の力も・・・・・・皆消える』

――パリン!――

烈火の右腕の手甲が砕け散った。

『そしてなにより、解放された柳殿の魂の行方は・・・・・・』



結論から述べよう。

「ふえ・・・・・・」

柳は消えなかった。
そこにいるのは、どう見ても簡素なワンピースを来た女の子だ。

「くしゃっ!」

柳はくしゃみをした。
炎の化身ならば絶対にするはずの無いクシャミを。



「やっぱり、こうなりましたか」

七実は大して驚きもせず、そういった。

「そりゃそうだよな。紅や磁生と違って、まだ器があるんだからよ」

刃介もこの展開を読んでいたらしい。

「まあ、ここまで来て死別だなんて、どんなクソゲーかって話ですよ」

金女も同意して見せた。彼女なりの表現で。
烈火はそんな感想など気にも留めずに、

「姫・・・?・・・姫だ!!!」

飛びっきりの笑顔!

『天晴れなり花菱烈火!!然らば・・・!』

こうして、最後の火竜も成仏し、火影の呪いは全て解かれた。
忍者は少女を精一杯持ち上げて、最高の笑顔を互いに浮かべて、こう言い合った。

「おかえり!!」
「ただいま!!」

これこそ正に、ハッピーエンド!

「・・・・・・さてと」

刃介は紅麗の方に視線を向けた。

「・・・・・・なんだ?」
「ん・・・やっぱ声、似てるな」
「何の話だ?」
「いやいや、コッチの話だ。気にするな」

少し自分でも無神経と思いつつも、刃介は思わず『ドS魔人』のことを思い浮かべてしまう。
まあ、そんなことは一旦頭の隅に置いて、刃介は紅麗に問うた。

「あの時の答え、まだ聞いてなかったな。・・・・・・今一度問うぞ。『お前は何の為に戦う?』」
「私はただ、例え傍らに居られなくとも、『守る為』に戦ってきた」
「―――お前、絶対に今までの中で、一番良いツラしてるぜ」
「ああ・・・そうだな・・・」

そうだ。紅麗は『守る為』に戦ってきた。
烈火とは違い、血に塗れた道を歩み、その過程で幾十人もの者達を失った。
始まりから終わりまで、この異母兄弟は正反対だ。
でも紅麗は戦ってきた。真に愛する者達の為、誇り在る火影の為に。

「雷覇――音遠――礼を言う」

――カラン!――

紅麗は仮面を取り去り、地面に投げ捨てた。

「今日までよく仕えてくれたな。麗は解散だ」

刃介のいう、『一番良いツラ』で、彼はそう告げた。

「然らば」

右腕をかざした瞬間、

――ビュウウゥゥゥン!!――

「なんだ!?空間に穴が・・・・・・!?」
「あれは・・・・・・時空流離!!?何をするつもりなの、紅麗!?」

時空流離(じくうりゅうり)。
それは400年前、陽炎が烈火を戦火から逃がす為に使った禁呪。
烈火と紅麗が纏めて現代に流され、今に到るまでになった禁術。
副作用として陽炎に不死の呪いを与えた禁忌の法。

「私の身体に残された、火影の力で使う最後の秘術。火影は消える。あなたのように不死にはならぬさ・・・・・・遣る事が残っていてね。私はあの時代へ還る」
「戦国時代に、戻るのか。あの”尾張の虚け”を討つのに最良の時代へ」
「ああ、一人でな・・・」

火影忍軍が歴史から抹消されたのは、ひとえに彼らの魔導具を欲した織田信長によって滅ぼされたが為。ならば遣る事は一つ。
誇り高き火影忍者として、紅麗がなさんとすることは”一族の仇討ち”に他ならない。

「御武運を!」
「紅麗様!!」

雷覇と音遠。
麗最高たる忍びたちも、君主の最後の旅立ちに応援の声を送る。

「紅麗ぃーーーっ!!!」

そして最後に、

「あばよ・・・アニ、キ・・・じゃねぇ・・・!あの・・・・・・」

烈火は何か言おうとするが、今までいがみ合っていた分、どういう台詞を吐けば良いかがわからない。
だから、言葉ではなく、

――グッ!――

行動で示す。サムズアップを決めて。
それを紅麗は、かつての穏やかで慈愛満ちた表情で受け取った。

紅麗は空間の穴に入って行くと、思わぬことに・・・・・・

「バイバイ、みんな。俺・・・紅麗についてくよ!一人じゃ寂しいだろうから!」

小金井までもが別れを告げた。

「すっげぇ楽しかった!これからも皆と楽しくやりたかったけど・・・・・・紅麗のトコに行くよ!!」

この状況で時代を超えるということは、もはや現代に帰る事も会うことも永遠に叶わなくなる。

「そこが俺の、居場所なんだと思う!」

しかし、小金井の決心は変わらない。
幼い頃、自殺まで考えた自分をここまで立ち直らせてくれた、一生の恩人に報いるために。

「みんな元気でーーーッ!!」

少年はずっと一人だった。
少年は一人の青年と出合った。
少年は一人ではなくなった。

あの時の言葉を・・・気持ちを・・・忘れる事などできない。
全てを捨て、たった一人でいずこへと向う青年にかつての自分を重ねたのか、少年は青年のもとへ走った。

――兄弟となろうぞ・・・・・・――

青年も、少年も、もう一人ではない。



そして今―――

「我刀流」
「・・・・・・リュウギョク」

―――もう一つの決着がつこうとしている。

「言葉どおり、決着をつけるぞ。今此処でな」

竜王は帯刀した忍者刀に手をかけた。

「ああ、悪いが今度にしてくれないか?大激動な戦いの後だし、なんかさぁ」

気だるそうにする刃介。
すると竜王は忍者刀を鞘から抜き放った。

「おいおい、俺はもう今日は――ビュン!――」

竜王は刀身を振るった。
それにより、

――ッッ!――

血が舞い散らされた。
身体の中にて流動する命の水。
身体に温もりを与える赤い液体が。

「・・・・・・・・・あ」

それは刃介から出ているわけじゃない。
刃介の直ぐ後ろに居た、

「へぇ・・・中々ですね」

余裕の表情で、顔から血を垂れ流している七実。
正確に言うと、額から左頬にかけてまで、刀身から出た斬撃波によってつけられた刀傷。

それを間近で見た刃介は、顔を俯かせて呟く。

「・・・・・・七実の顔を」
「これでヤル気になったか?」
「絶対許さん。絶対に殺す」
「全く、そんな生霊みたいな女の何処が良いのやら?才能と美貌だけにほれたのか?」

竜王は怒りに血を沸きあがらせる刃介を挑発する態度を取り出す。

「この戦いで、お前の心身を星屑の如く散らしてやろう」

その言葉を引き金に、刃介は怒りに燃え上がった形相を上げ超弩級の激怒の炎を背景に咆哮する。


「やってみろ!!ただしその頃には、お前は八つ裂きになってるだろうがな!!!!」


それは虚刀流七代目当主にして七実の実弟、鑢七花の決め台詞。

「漸く全力で戦えそうだ」

竜王はそう言って薄らと笑い、それを皮切りにお互いに名乗った。


「我刀流二十代目当主!!鋼刃介、参る!!」
「真庭忍軍十二頭領総補佐!!真庭竜王、通称『奇蹟の竜王』、来ませい!!」


それにより、刃介は初めてリュウギョクの素性と本名を知った。
だが関係ない、二人のこれから遣る事に変化があるわけではない。

竜王は再び完全体のリュウギョクへと変身する。
刃介もブライドライバーを装着し、懐から三枚のコアメダルを握りだす。

『そのコアは?』
「俺のコアだよ」

刃介のコアとは、今握り締められている『金色』のメダル。
それらをセットしてローグレイターを傾けれた準備完了。
仕上げにローグスキャナーを使って三枚のコアメダルをスキャンする。

「変身」

重く低い声、今の今まで聞いたことさえないような、憤怒を秘めた声音。
それに呼び覚まされたかのように、彼の周囲には色取り取りのメダルたちが踊る。

YAIBA(ヤイバ)TSUBA(ツバ)TSUKA(ツカ)
YABAIKA(ヤバイカ)YAKAIBA(ヤカイバ)YAIBAKA(ヤイバカー)!≫

金色の波動を胸に受け、彼は変身し、一本の刀となる。

巨大な刃と化し、白銀の眼が輝く頭。
境界たる役目を果たす鍔と化した胴体。
その力を振るう為の柄と化した脚。
その全てが金色だった。

これこそが、刀剣系グリードと化した鋼刃介の力の結晶にして我刀流の真髄が一つ。

「まるで・・・刀みてぇ・・・」

誰が呟いたか、最早問題ではない。
金色に輝く一本の刀たる雄姿。

仮面ライダーブライ・ヤイバカコンボ!

『新たなるコンボ・・・か。良いな、これで私も本気になって戦えるぞ』

それに対し、リュウギョクは強敵との対峙に武者震いしている。
緊張しきった空気。そこに対決しあう二人以外にこの戦いに介入する余地など一片も無い。


『真庭剣法・流水剣・・・連撃編!!』
「我刀流奥義!快刀乱麻(かいとうらんま)!!」


その瞬間、世界が震えた。


――ザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュ!!!!――
――ザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュ!!!!――


リュウギョクの刀とブライの手刀は相手に攻撃しようとした途端、その攻撃を互いに止めあい、隙をついては攻撃して血を流させ、腕を引き戻して瞬時に腕を伸ばして敵を攻撃しようとして止められて、だが隙を見つけて刀傷を付け合う。

その動作の繰り返し。
だがそれは高速・・・・・・いや、超々高速の世界で行われている。

刀と手刀の残像が何十にも渡って視認され、それによって発生する衝撃波も凄まじく、二人の身体から血やメダルたちを舞を躍らせて『粋』なモノを感じさせる。

このまま決着は永遠につくかどうかさえわからないとき、

――ズッ――

「あ・・・・・・っ」
「っ!」

ブライは血溜りを踏んで、極僅かにバランスを崩したをの機会に、リュウギョクは両目を虹色に輝かせて、

『真庭忍法・劉殺生!!』

――ブシュウウウゥゥゥ!!!――

高速を越えた光速の領域での一撃。
再び身体中から飛び散る血液の噴水。
普通なら誰しもがここで出血しを想像するだろう・・・・・・が。

≪SCANNING CHARGE≫

ブライは諦めなかった。

「うぅぅおおおおおおお!!!」

魂の根底から競りあがってくる咆哮。
それにはこの場にいる全員が、本当の剣士と忍者の命を賭けた死闘であることを再認識させた。

「トォ!」

ブライは全力で飛び上がり、全身のいたる箇所から金色のオーラを発して此方へ急降下してくる。
金色のオーラは次第に一本の刀剣のそれへと変化し、ブライの身を覆い被す。

両脚を突き出したままキックの姿勢で突っ込んで来て、目の前にいる好敵手を斬るべく、彼は技名を腹の底から叫んだ。


我欲刀鋩(がよくとうぼう)ォォォオオオオオ!!!!」


そして、

――ザグッッ!!――

一本の刀は、一人の忍者の胸に深く突き刺さった。

『ぐ、は・・・・・・ッッ』

流石にこの一撃にはリュウギョクもかなり堪えるらしく、大量のセルメダルが身体から飛び散っていき、彼女の身体は地面に平伏してしまった。

この間に、ブライはトドメを刺すべく、取って置きの『奇策』を発動する。

――ジャリ・・・!――

その手に、十八枚のコアとローグスキャナーを持って。
それを見たシルフィードは、

「ちょ・・・待って!!そんな一気にスキャンしたら、コアの力が暴走するわよ!!」

そう。シルフィードは800年前の戦いの生き証人だ。
だから良く知っている。先代のオーズは欲張ってコアを多数同時に取り込んだことで、皮肉にもグリードを吸収し、オーメダルを封印する石棺へと変わり果てたことを。

「横からゴチャゴチャと言葉の槍を入れてんじゃねぇよ」

だがそんな警告にもブライは耳を貸さない。
十八枚のコアを空中に投げ、その全てを一度にスキャンする。



≪RYU≫
≪HAYABUSA≫
≪YAMANEKO≫
≪KABUTO≫
≪BAKU≫
≪ZEUGLODON≫
≪ONI≫
≪HOUOU≫
≪JAGUAR≫
≪HACHI≫
≪MAMMOTH≫
≪MEGALODON≫
≪TENBA≫
≪YATAGARASU≫
≪SMILODON≫
≪INAGO≫
≪INOSHISHI≫
≪TACHIUO≫



「ハァァアアアアアアァァァアアアアアアア!!!!」

周囲に満ちるは生命力の波動。
ブライから溢れる六色の輝きは部屋を照らしても尚足りないほどに眩い。
シルフィードとリュウギョクはブライの自滅を想像した。

だがしかし、

「行くぜ竜王!!」
『な・・・・・・―――ああ、来い刃介!!』

リュウギョクは心底驚かされた。
800年前、刃介と同じく欲望の塊ともいえる一人の王はコアの力で石化という結果に終わったのに対して、ブライ=刃介は十八枚のコアの力を完全に支配している。

幾ら与えようとも満たされない、まるでブラックホールのように限りの無い『欲望の力』で・・・!

「我刀流究極奥義!!」

ブライは全身に力を込め、好敵手の懐にもぐりこみ、溜めの行い強烈な貫通力の拳を突き出そうとする。

リュウギョクは咄嗟に皮膚と少し離れた距離で忍者刀を重ねて構えて防御の姿勢に移る。
だがそれはムダだった。


ブライは目の前だけでなく、背後にもう一人いたのだから。


『(こ、これは私の忍法影分身!?)』

なぜブライが自分の忍法を使えるのかと疑問に思ったが、疑問に思った瞬間、回答が導き出せた。

鋼一族は我刀流。
それは他者の技法を『盗見取る』流派。

オリジナルの技を造る事ができたのは十代目だけ。
ならば刃介は盗んだ技を結集して新たな技をつくる。

前方のブライからは―――

「七花八裂・改!!」

後方のブライからは―――

「忍法劉殺生!!」

―――二つを合わせて!


「「望語(ノゾミガタリ)ッッ!!」」


そして、こうして、欲望の剣士と埒外の忍者の決着は、幕を下ろすこととなった。





*****

かつて火影忍軍が天堂地獄を地下深くに安置していた封印の地。
何時か昔のこと、この天堂地獄を求めて触れたが為、死ぬ事さえ許されなくなった三人の盗賊がいた。

今の彼らは苦痛と悪夢を忘れるべく、分厚い大きな氷塊で眠りについていた。
そんな彼らの魂は、今解放される。

(((魂が・・・浄化されていく・・・天堂地獄を壊してくれたのだな・・・・・・)))

哀しい呪いに縛られた彼らの魂は、全ての呪縛から解き放たれ、天へと昇る。

(((・・・・・・ありがとう・・・・・・)))





*****

「・・・・・・・・・・・・」

――カチャ――

血と刀を滾らせた死闘の果て、勝利したのはブライ。
勝利者はベルトの傾きを直し、変身を解く。

「・・・刃介・・・」

変身を解いた刃介の姿に、烈火は思わず戦友の名を呟く。
上から見ていくと、白髪の所々は赤黒いメッシュのようになり、黒い着流しは奇妙な艶を発している。
何より、腹部と左鎖骨から胸までの大きな刀傷によって流れ出る多量の血液には度肝を抜かれた。

彼は実に威風堂々とした態度で、地面に横向きで倒れ、辺りに大量の血液とセルメダル――そして、十枚のコアメダルを撒き散らした女忍者にこう宣言した。

「俺の勝ちだ、竜王」
「・・・ああ。そして・・・私の敗北だ・・・」

二人の声音には悔いも恨みもない。
ただ純然たる勝負の結果を真正面から受け止めている。

「なあ、竜王。もし良かったら、このまま俺たちと――ビーッ!ビーッ!ビーッ!――ん、なんだ?この警報は!?」

うるさく鳴り響く警報の音。
それは正に、非常事態を告げていた。


――緊急事態発生!緊急事態発生!天堂地獄ノ破壊を確認!――

コンピューターによる合成音が見えざるスピーカーから流れてくる。

――エマージェンシーコードニ従イ、コレカラ30分後ニ、セルボンバーニヨッテHELL OR HEAVENノ自爆ヲ決行シマス!――

「んな!?今時自爆システムだと!?」

刃介はとても大怪我をしてるとは思えない様子で大声を出す。

――裏麗ノ総員ハ直チニ退避シテクダサイ!繰リ返シマス!――

「っておい!どうすんだよこの状況!!?」
「なんでこんな状況で・・・っていうか、永遠求める奴が自爆装置なんか組み込むのか!?」

土門と風子は思いの限りシャウトする。

「兎に角、今は逃げる事が先決だ!急いでエレベーターに乗るんだ!」

水鏡は冷静にそう指示を飛ばすも、

――尚、侵入者対策トシテ、最重要部ニ通ジル全テノ出入リ口ヲ遮断シマス――

こちらの判断は読まれていたらしい。

「ど、どうしよう・・・!?」

柳も八方塞がりなこの状況に右往左往する。
しかしながら、

「あ、そうだ。会長の魔術でどうにかなりませんか?」
「え、私の?」

金女がシルフィードの魔術に頼る案を出してきたのだ。

「出来ない事も無いけど・・・・・・」
「じゃあ早くしてくれ!」
「いや、でもね・・・・・・」

シルフィードは歯切れの悪そうな表情と口調をする。

「私の力じゃ、一人だけ取り残すことになるわ。質量的にも重量的にも」
「よし土門。お前今すぐ軽くなれ!」
「出来るか!!」

烈火と土門のギャグは一先ず置いておこう。

すると刃介は、シルフィードに近づき、耳元で囁く。

「おい、シルフィード」
「何かしら?」
「皆のこと、頼む」
「・・・・・・鋼くん」

それはある意味、捨石になりかねない発言。

「心配するな。爆弾の名称からして、俺でも爆発を解除できるかもしれん。お前らはもし仮に万が一に備えて避難しろ」
「本当に、それでいいのね?」
「くどいぞ」

シルフィードはもう口答えしなかった。
懐から例の色付きメモ帳を取り出し、紙ではなくリング自体を取り外した。
結果として連なっていた紙は一気にバラけて、刃介を除くメンバー全員を円で囲うように地面に張り付いた。

結果として火影メンバーはなにやら騒ぎ出すが、シルフィードは気にも留めずに刃介にもう一度語りかける。

「頼んだわよ」
「ああ、任せておけ」

円形に並んだ紙は互いに呼応し合い、様々な色の光を発しだす。
そして、光はドンドン強くなっていき、遂には皆の姿を覆い隠そうとする直前に、

「七実」
「はい?」
「また会おうぜ」
「・・・・・・ええ、また」

そうして、シルフィードの空間転移魔術は発動し、皆をこの塔の外側に移動させた。

――セルボンバー起爆マデ、アト、25分デス!――

無機質なアナウンスが報せるカウントダウン。
刃介は最後の仕事を遣り終える前に、この場に残っているもう一人に話しかける。

「竜王」
「・・・・・・刃介」
「お前、大丈夫か?」
「私から大量の血とメダルを散らした男が、よく言う」

どうやら喋る分には問題ないらしい。

「なあ、聞いてもいいか?」
「好きにしろ」
「なんで手加減した?」
「それはお前も同じだろ?」

そう。二人は互いに手加減していた。
竜王は忍者としての卑怯卑劣さを駆使すれば、刃介はヤイバカコンボに秘められた幾つかの力を使えば一回か二回は相手を出し抜く策を編み出せた筈だ。

にも関わらず二人は正面きって堂々と戦った。

「多分、俺とお前の考えは同じだな」
「ああ、私もそう思うぞ」

一言で要約すると、こうなる。

「「お前とは正々堂々と決着をつけたかった」」

二人の声が完全に重なった。
すると刃介はというと、今度はこんな質問をしてくる。

「お前、なんで天堂地獄を裏切った?ただ単に、友達喰われてブチ切れただけでああなる忍者はいないと思うが」

そう。忍者とは心を刃で隠す者。
あらゆる苦境にも耐え忍ぶのが忍者だ。

「私は・・・ただ・・・自分を救いたかっただけかもしれん」
「自分をか?」
「ああ。私自身を姉と慕う者を可愛がることで、私にもヒトは残っているのだと、自己満足したかったのかもしれん。ある意味、それが私の欲望だったのかもな」

竜王は嘘偽りを赦さない表情で語る。
もしかしたらその表情は、自己に対するものかもしれない。

「刃介・・・私は常に孤独だった。しかし、前世において死んでいった仲間達との絆を思い出し、自らの存在意義を求め彷徨ってきた。だが、もう疲れた・・・・・・刃介、私が得た命は、無意味だったのだろうか?」

竜王の言葉に、刃介は血塗れた顔を横に振った。

「命は存在してこそ価値がある。・・・だからお前が得た新たな命にも、きっと意味がある。此の世に無駄な(モノ)なんて、ありゃしねぇんだからよ」

それを聞いた竜王は、実に心安らいだ表情になる。

「刃介。私は新たな生涯の最期に、更なる進化を見出すお前を観た。お前ならきっと、その欲望で運命を越えて行ける」

――セルボンバー起爆マデ、アト、20分デス――

「だが俺には、まだ為すべきことがある」
「それが何を意味するか、わからねお前ではあるまい?」

竜王もまた、刃介のすることを倒れながらも盗み聞きしていた。

「セルボンバーを止めるには、使われているであろう大量のセルメダルの力を完全制御しなければならない。今それができるのは、この俺だけだ」
「・・・・・・・・・・・・」

竜王は何も言わず、ただ目を閉じた。
刃介は申し訳なさそうな顔をすると、瞬く間に表情を変え、シェードフォーゼに乗って行ってしまった。

――ブゥゥウウウゥゥゥン!!――

隔壁などを突き破り、下の階層へとドンドン降りていく刃介の姿を確認すると、竜王は血塗れの身体である物を掴んだ。

重要なものを十枚。





*****

SODOMにある石像の間。
今となっては役目を果たしきった無用の長物たる場所である。

「ふう、上手く離脱できたみたいね」
「おいちょっと待て!鋼の奴がいないだろうが!」

烈火はシルフィードにとって掛かる。

「彼なら、もう一仕事していくと言ってたわ」
「ま・・・まさか・・・!?」
「ご想像に任せるけど、多分正解でしょうね」

その話を聞いたものは全て理解した。
刃介は爆発を解除するために残ったと。

「鋼ぇぇぇええ!!」
「鋼さぁぁぁん!!」

烈火と柳は、喉が潰れんほどに、大きな声でHELL OR HEAVENに叫んだ。





*****

――ブゥゥウウウゥゥゥン!!――

最下層への直轄通路。
セルボンバー起爆装置への道のりは、螺旋階段状になっていた。
下に向って走るのに従って、最下層の装置から放たれる光と熱が少しずつ強くなっていく。

シェードフォーゼに跨って駆けながら、刃介は中心部の状況に冷や汗を流す。
だがその時、

――バギン!!――

何者かが壁を破壊して螺旋階段の通路に進入してきた。

「竜王!?」
「詰めが甘かったな刃介。コアさえ揃っていればセルが不足してても動ける。後始末は私に任せろ!」
「お前・・・・・・」

唐突に現れた竜王は刃介と平行して走りながら、自らが自分に下した決断を口にした。

「勝者には新たな未来が託される。お前は生きなければならない!」

そう強く言うと、竜王は跳躍してシェードフォーゼの一足先に行き、両手から火炎・雷撃・竜巻・水流・重力波を放射して、階段を破壊する。
丁度、自分と刃介との間に境界を作るように。

「竜王!!?」

刃介の戸惑いの声にも厭わず、竜王は一人でセルボンバーの起爆装置の元に飛び降りる。

「竜王ぉぉぉぉぉオオオ!!!!」
「・・・すまない・・・」

最早常人の目では視認できるかどうかの上下距離にまで届く大きな声。
その声に竜王は呟くように謝る。

――セルボンバー起爆マデ、アト、1分デス!――

そして装置の中へ特攻した。
全てが奇妙なエネルギー光で満たされた異様な装置内という空間の中で、竜王は一人虚しく思う。
あまりの高エネルギー地帯ゆえに、忍び装束や肉体が着実に蝕まれていく。

「八百年・・・・・・思えば永かったな・・・・・・」

そう呟き、今度は頭の中で思う。

(蝙蝠、白鷺、喰鮫、蝶々、蜜蜂、蟷螂、狂犬、川獺、海亀、鴛鴦、人鳥、鳳凰・・・・・・すぐに私も逝く・・・・・・)

初代十二頭領達との再会を信じて祈りながら、

「漸く・・・全てから・・・」

一筋の涙を流し、グリードとしての運命(さだめ)から解き放たれることを喜びながら、真庭竜王――通称『奇蹟の竜王』は光の中へと消えていった。

そして、致し方なく螺旋階段を昇っていた刃介は、

「・・・竜王・・・」

とても虚しそうに戦友の名を呼んだ。
そして、

「うおおおおおおお!!」

その”瞳を金色に”光り輝かせて、愛機の疾走をより加速させた。




*****

一方みんなは、石像の間にある隠し通路の入り口をじっと見ていた。

「鋼さん・・・大丈夫、ですよね?」
「きっと大丈夫ですよ。死んでるなら、今頃HELL OR HEAVENは木っ端微塵でしょうから」

と柳に対して七実は顔の傷あたりを摩りながら冷静に答えた。
もっともこの程度の傷ならば、七実の自然治癒力によって数日でなおるのだが。

そして、


――ブゥゥゥン!ブウウゥゥゥン!!――


「あっ・・・ホントに来ました!」
「お帰りなさい、兄さん!」
「お帰りなさい、刃介さん」

バイクの駆動音を鳴らして、

「みんな、ただいま!!」

―――英雄が、帰ってきた!





*****

刻は戦国の世に、奇なる忍の一族が在った。
火影忍軍。
彼らは一人の男によって歴史より葬り去られた。

天正四年=1576年。
それは織田勢が火影の里に攻め入り滅ぼした年。
多くの勇敢な忍者達が立ち向かい、討ち死にした時でもある。

そして、あれから時は流れる。

天正十年=1582年。
この時代での大事件を現代ではこう呼称する。

本能寺の変・・・と。

燃え盛る本能寺、数少ない護衛兵に刃を向けていく明智光秀の兵士達。
そんな中、もうじきその生涯を閉じようとしている者が、本能寺の本堂の中で座っていた。

「蘭丸――森蘭丸はおるか?」

織田上総介信長。
いまや死を逃れられぬ彼に近づく黒い影が一つ。

「何奴?」
「火影忍軍の紅麗――一族の仇、信長公の御首(みしるし)を頂きに参った」
「火影・・・おお。寺に火を放ったはそちか」

やはりアレだけの事もあり、そして動機が動機ゆえ、信長にとっても火影攻めは印象深い記憶らしい。

「外は明智光秀の軍勢。内は面妖なる乱波集団の生き残り。もはやこれまでか・・・・・・」

そして信長は、歴史的に有名な詩を歌う。

「人間五十年・・・・・・下天のうちをくらぶれば―――夢幻の如く也」

紅麗は手にした一本の刀の抜き放つ。

「一度生を得て、滅せぬ者あるべきか・・・・・・・・・」

こうして信長は、燃え盛る本能寺の中で、四十八年の生涯を閉じた。

そして紅麗は静かに本能寺から去り、その終始を見届けた。
最大の目的である、仇討ちを達成したのだ。

「終わったんだね、紅麗」

そんな彼に声をかける少年が一人。

「薫・・・・・・」

着流しを着て草履を履いた小金井を見て、

「そのカッコ、似合わんな」

と、正直に酷評をくだした。

「紅麗のカッコのほうがこの時代じゃ変なんだよ!!」

小金井も反論する。
紅麗は可笑しそうにクスっと笑うと、

「ああ・・・終わったよ」

そう報告した。

「あとは?これから何すんの?」
「そうだな。焼けた火影の里に帰って仲間達の弔いでもしよう」

信長を討った後となれば、そうするのが至極当然だろう。

「父上・・・桜火と、母、麗奈の墓もつくらねばな・・・・・・しかし、なぜ私についてきたのだ?もう帰る事は・・・」

――ドコン!――

小金井は紅麗に跳び蹴りをかました。

「今更何言ってんだよ!!『兄弟になろう』って言ったのはあんただろ!?」

小金井は小さな身体から精一杯声を絞り、

「ずっと一緒に居てやるよ、兄者!!」

その言葉を聞いた紅麗は、少々面食らった様子だが、すぐに慈愛満ちた優しい表情となり、小金井の頭をクシャリと撫でた。

「そういえばさ、みんなは今頃どうしてるかな?」
「さぁな。大方、何時ものようにバカ騒ぎをしてるだろうさ」

紅麗は続けてこう言う。

「それに鋼も、己の生き方という欲望を貫いているだろう」

語るときの紅麗の表情は、実に清清しく、感謝の念に満ちていた。
そんな紅麗の姿を見た小金井も満足そうな表情で月夜の空を見上げる。

(みんな、俺元気にやってるぞっ。そっちはどうだい?)





*****

あの現実離れした要塞都市での戦いから何日経っただろうか?
烈火と柳は、町の外れにある山の中に来ていた。

因みに言いだしっぺはやっぱ烈火だ。

「見せたい物ってなーに?」
「ちょっと前から準備してたんだよ姫!」

烈火は地面に固定してある大筒に手を加える。

「花火?」
「姫の為に作った特別製だ!」

すると、柳は大きく息を吸って大声でこう宣言した。

「もう姫はお終いだよ、烈火!!」

初めて烈火のことを呼び捨てにした。

「火影が無くなって、貴方はもう忍者じゃない。私ももう姫じゃないの」

柳は頬を薄ら赤く染め、初々しい表情でお願いする。

「『柳』だよ、烈火」
「・・・・・・・・・」

烈火はすこし戸惑ったが、

「打ち上げるぞ、柳!!」
「うんっ!」



花菱烈火。
火影忍軍七代目頭首。
炎の右腕で火影の歴史に終止符を打つ。
火影はもう、存在しない。

奇なる運命。
仲間と共に歩んだ運命。
運命の扉は今ゆっくりと閉じていく。

そして・・・・・・



また新たなる扉が開かれる。





*****

空高く打ち上げられた烈火の花火。
夜空に咲き誇る鮮やかな炎の花を見物する者が二人いた。

「烈火の奴、意外な才能があるな。流石は元炎術士・・・ってわけでもないか」
「なんでも、今まで育った環境が花火職人の家だったから自然と身についたのでは?」

我刀流二十代目当主、鋼刃介。
虚刀流の異端児こと、鑢七実。

この二人は烈火たちの姿を見下ろせる程度の高さの山に登り、彼らの様子と見事で美しい花火を肴にして、日本酒をお猪口に注いで飲んでいた。
もっとも刃介のお猪口には七実がお酌をしていたわけだが、何故か全然違和感が無い。

そして刃介は首に『不恰好な五色のマフラー』を巻いて、七実も懐に『三十枚のコア』をしまいこんでいた。

「つーか七実よ」
「はい?」
「お前あの時、わざと受けたろ」

あの時とは、顔を竜王の刃によって刀傷を負わされた時のことだ。

「さあ、どうでしょう?」

七実は邪悪に微笑んで誤魔化した。
否、邪悪に微笑んでる時点で、確実にわざとあの斬撃波を喰らったのだろう。
その際の傷もすっかり癒えて傷跡さえ残っていない。

「刃介さん」
「なんだ?」
「前に私は初めて貴方を変身させたとき、こういいましたよね」

私に惚れていいですよ。

そう七実は言っていた。

「今度は逆の事を言います」
「というと?」

――サッ――

七実は刃介の顔に両手を添えてガッチリと固定すると、

――チュ・・・――

唇と唇を重ね合わせた。
身長差のため、七実が身を乗り出す姿勢になるが、それでも何故か違和感が生まれることはなく、甘く優しい空気が場を満たす。

「・・・・・・・・・」

愕然とする刃介に、七実は暖かな笑顔で頬を薄らと赤く染めつつこう言った。

「私は貴方に、惚れてしまいました//////」

鋼刃介
所有刀:虚刀『鑢』と???





仮面ライダーブライ 〜欲望の物語〜

『烈火の炎』編―――完!


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