睡眠と医療と裏切り
午前六時半の鋼家。
朝日が夢見町を隈なく照らし出すこの時間帯で、プチイベントが起こっていた。
といってもこのプチイベントは、色々と混乱を招き捲くるモノとなっただろう。

その元手は寝室であった。
七実はとっくに起きて朝食などの準備に取り掛かっており、何時もなら刃介は漸く眠りから覚めている頃だ。そう、何時もなら。

「・・・・・・・・・・・・んー」

眠りの時間から意識が解放され、目蓋をゆっくり開ける刃介。
だがまだ直ぐに起きるのがしんどいのか、適当に布団の中で手と足を動かしていると、

――ムニュ――

「んあっ///」

片手で何だか柔らかくて温かくて大きなモノを揉んだようで、布団の中から女の喘ぎ声が聞こえてくる。

(まさか・・・・・・)

意識が急速に冴えてきた刃介は、もう少し手と足を動かした。
するとまた、ムニュっとした感触を残った片手で感じ取った。
脚のほうでも、滑々した心地好い感触がしてくる。

(・・・・・・あ)

そして見てしまったのだ。
二つ並んだ布団のうち、自分が今いる布団の直ぐ近くに、見覚えのある『忍び装束』が乱暴に脱ぎ捨てられていた。おまけに、胸に巻く曝し布や股を隠す褌まであるではないか。

そこから導き出せる答えは唯一つ。
刃介は何かにトドメを刺すかのように布団を取り去る。

――バサッ――

「ん・・・・・・もう朝か?」

B95の豊満な巨乳、W56の括れた腰、H87の熟した尻、長くて細くて綺麗な手足。
それら全てを曝け出した素っ裸の状態で刃介の布団に潜りこんでいた真庭竜王だったのだ。

「・・・・・・竜王」
「なんだ?」
「何故、俺の寝床に?」
「好きな所で寝て良いと言ってたではないか」

真庭竜王は現在、鋼家の居候している。
刃介は竜王に対して不覚にもこう言ってしまったのだ。
”好きなトコで寝ていて良いぜ。今更遠慮し合う関係でもないしな”
と、親愛を篭めていったつもりが、何故かこんなエロ展開に繋がっている。

「それから竜王。なんですっぽんぽんで、体を隠そうとしない?」
「私は基本的に寝るときは素っ裸だぞ。それに、私とお前の仲ではないか」

などと、平坦に真顔で言い切った竜王。
どうやら疚しい気持ちでやったことではないらしい。

(拙い、拙過ぎる・・・・・・!)

竜王の格好もさることながら、刃介の状態もお世辞が通じない。
昨夜は寝苦しかったせいで、寝巻きの襦袢が着崩れて上半身裸になっているのだから。
もし、こんな所を七実にでも見られようものなら・・・・・・。

「刃介さん、竜王さん」

あ、もう遅いや。
七実は味噌汁をつくり終えたばかりだったのか、お玉を持っていた。

「朝御飯の支度が出来―――」

七実の視界は一瞬フリーズし、持っていた御玉がスっと畳みの床に落ちた。
まず目についたのは、忍び装束も下着も、髪留め用の紐さえしていない、まさに一糸纏わぬ裸体ヌード状態の真庭竜王。
そして、その竜王と同じ布団にいるのは、上半身裸でいる自分の唯一無二の所有者こいびと・鋼刃介。

状況を二つの目玉を通して色々と誤解して認識する鑢七実。
そんな彼女が取った行動とは、

「刃介、さん、の・・・・・・うっ――ぅ・・・ひっく・・・うぇぇ・・・・・・」
(なっ、泣いちゃってるぅぅぅぅぅ!!?)

こんな状況を一体誰が予想しえただろうか?
そして、今の無力な刃介に打開すべき手段は残っているのか?
否、ある訳がない!

「ま、待ってください七実さん!!貴女はこんなキャラじゃなかった筈ですよ!?」

などと言うが、それはある意味、逆効果としか言い様がなかった。
愛する男のトンデモ事態に、幼子のように涙を零す七実は、若干赤くなった目元で刃介を捉えた。

「うふふ、うふふふふ」

そうすると、両眼から涙を流した状態のまま、黒くて不気味な笑いまで・・・・・・。

(さようなら、俺よ)

そうして、裁きの時がやってきた。

「恥を知りなさい、この浮気者」



それは、ただ虐殺というには、余りに残酷すぎる光景であった。

ただ一つ言えるのは、我々は失ってしまったということだ。

何をかって?――決まっている・・・!――それは最高の戦士!

ありがとう刃介――我等に夢をくれて。

ありがとう刃介――我等に希望をくれて。

ありがとう・・・・・・本当に・・・・・・ありがとう。





*****

トライブ財閥の会長室。
そこではルナイト、バット、吹雪の三人がシリアスムード満点で集っていた。

「まさか四季崎の奴、竜王を復活させたばかりか・・・仮面ライダーにするなんてね」
「大番狂わせとしかいいようがありませんね」
「でも、これから俺っちらはどうすりゃいいっすかね?」

などと、全員揃って最後に”ね”がついている。
流石にこんなシュチュエーションが出来上がるのは考えていなかったのだろう。

「―――まあ良いわ。起きてしまった事でクヨクヨしても始まんないし、開発したモノの、お蔵入りしてたアレをやっちゃいましょう♪」
「あ、アレをですか?」
「ん、アレってなんすか?」

ルナイトの発言に対してバットが戸惑い、吹雪は首を傾げる。
どうやらアレのことを知らない様子の吹雪に、バットは耳打ちするように教えた。

「え・・・・・・マジで?」

それを聞いた瞬間、口調も個性も忘れて、吹雪はただ声を漏れ出さした。





*****

はてさて、此処は第二話にて登場した古着屋。
刃介と竜王と七実は此処に来ていた。
理由は実に単純――竜王の普段着を購入しに来たのだ、もちろん値切って。

しかし、この店をやっている老夫婦には一つ、来訪してきた刃介について、どうしても尋ねたいことがあった。

「じ・・・ジンくん・・・?」
「どうしたんじゃ?その生傷は?」
「ノーコメントで、お願いシマース」

棒読み気味に答えた刃介の体中には生々しい傷がついていた。
これもまた理由は単純で、七実の虐殺を超えたお仕置きの結果である。
まあ、逃げようと思えば逃げられたのだが、七実が泣きながら迫ってくるという激レアな状況もあって・・・・・・。

「・・・・・・・・・・・・」

そんでもって、当の七実は機嫌を損ねたままの状態らしく、そっぽを向いてしまっている。

「いや、その・・・本当に、すまなかった・・・」

竜王は竜王で、自分の軽率な行動の所為で刃介が嬲り殺しにされたことについては罪悪感が募っているようだ。

「あのさ、ジッちゃんにバッちゃん。竜王(こいつ)の着物買いに来たんだけど、安く譲ってくれないか?」
「「あ、あぁ・・・・・・」」

生気が全然感じ取れない今の刃介の棒読み口調を耳にしていると、無条件に情けをかけたくなる好々爺な老夫婦。

「んじゃあ、婆さん・・・」
「そうだね、爺さん・・・」

老夫婦は早速竜王に似合いそうな古着を店中から五着ほど選んでくれた。
その内の五着は無地の着物で、色はそれぞれ赤・黄・緑・灰・青だ。

「あ、そうじゃお嬢さん。折角来てくれたんじゃから、特別にこの一着だけ、タダでやるよ」
「え、いいのか?私にこんな上等そうな物を・・・・・・」
「気にせんでえぇの。こういうのはやっぱり、若くて心の綺麗なお嬢さんが着るのが一番だしね」

老夫婦が竜王に渡したのは白菊の刺繍が施された黒い女物の和服だった。
帯も含めて、使われている布は実に上等であることが素人目でもわかる。

「ありがとう、御老人方」

竜王は素直に頭をペコリと下げた。

「んじゃあ、ジッちゃんにバッちゃん。これの値切りなんだけどさ」
「ああ、それなら半額にしとくよ」
「ジン君もえらい苦労しとるようだし、老婆心ながらも気を遣わせておくれ」
「あんがとよ。それじゃ此処に代金置いとくぜ」

なんだか交渉する間も無くあっさりと値切ることに成功し、着物の料金をさっさと置いて帰ったいく三人。そんな三人の帰り際の後ろ姿を見ていた老夫婦は―――

「あの忍び装束を着たお嬢さん、ジンくんの何なんじゃろうな?」
「ただの居候ってわけではなさそうだったけど・・・・・・」
「ジン君はもしかして、ワシらなんかには及びもつかん世界におるのかもしれんなぁ」
「かもしれませんねぇ」





*****

鴻上生体研究所・所長室。
そこには後藤が、バース運用マニュアルを読み漁りながらパソコンに向って何かの資料をまとめていた。
しかし、後藤にはどうあっても気にかかるものがある。
直ぐ近くに置いておいた封筒から取り出したレントゲン写真。

(左後頭部に、45ACP弾・・・・・・)

伊達明に鋭い頭痛を与える元凶。

(本当にこのまま戦って大丈夫なのか?)

そして伊達が戦う理由は、

(一億――一体何の為に?)

と考えていると、一本の電話がかかってきた。

「もしもし・・・・・・はい」

電話の相手は病院の医者だった。

「伊達は今・・・・・・え?検査に行ってないんですか!?」

後藤は思わず立ち上がった。




*****

さて、今日のクスクシエは?

「「「ニーハオォ!」」」
「香港フェアにようこそ!」

チャイナ服着た三人が出迎えた。
アンクは当然そんなことに参加しない。

比奈は信吾の体をもたせる意味も込めて、アンクに定食をだした。

「はい、ちゃんと食べてね」

といって比奈は仕事に戻った。
アンクはアンクで、疑問に思うことがある。

(あいつ、なんで・・・・・・)

どうして自分を追い出さなかったのかと。
しかし、今考えても始まらない。
アンクは慣れない手つきで箸を手にとって食事をとる。

「お待たせしました、カンフーポテトです」

映司は店の出入り口に一番近い席に座っている、新聞を広げた客こと伊達に料理を差し出す。

「今日は随分ゆっくりしてますね」
「うん、ちょっとね。暇つぶし」

などといいながらポテトを食べようとしたとき、

「あら後藤くん。久しぶりぃ」
「あの、伊達さん来てませんか?」
「えっ?」

後藤が伊達を探しにやってきた。
知世子が思わず視線をやった先にいる新聞紙を広げて顔を隠す客。
後藤は即行でその客に近づいて新聞紙を奪い取る。

「あっ」
「何やってるんですか?今日は病院に行く筈でしたよね?」
「え、病院?伊達さんどっか悪いんですか?」

などと映司まで食いついてくる。

「あ、ちょっと、虫歯がね」

ボロありまくりな言い訳。
多少頭の回る奴ならこう言い返すだろう。

なんで虫歯の奴が飯屋に来るんだ?・・・と。





*****

時間は一気に飛んで夕方。

「すみません。でも検査は常に受けてもらわないと」
「わかってるって、明日いくよ。ただし、俺の行き付けで」
「いいですけど・・・・・・じゃあ俺も一緒に」
「おいおい、信用ないね。・・・・・・じゃあ明日」
「はい」

そうして伊達と後藤は一旦別れた。
しかし、伊達は後藤の見えないところで。

「―――あッ、くぅッ・・・!」

足はふらつき、目眩や頭痛に苛まれている。

不見みられず――酷い様ですね。見てられませんよ」

そこへ現れた奇妙な口調の女。

「金女ちゃん・・・・・・」
「こんにちは・・・というべきでしょうか?」





*****

グリードたちのアジトたる洋館。
そこには五人のグリードのうち、生粋のグリード四人がそれぞれ時間を潰していた。

ロストとカザリはボール遊び。
艶のある長い黒髪を伸ばし、青い服を着た女子高生くらいの少女に化けたメズールはファッション雑誌を読み、長身で屈強な体付きをした白い服を着た青年に化けたガメルは駄菓子を食べている。

そこへ、

「メズール君、ガメル君」

紫の男の声。

「私が貴方方を呼び戻す事に賛同した理由は一つ」

腕に乗った人形に向って喋る真木清人。

「勢力の統一です」

確かに今、800年前に生まれたグリードたちは、アンクとウヴァを除いて集いつつある。

「現状の勢力分散が、コアメダルの分散に繋がっている。例え目的が違っても、まずはコアメダルの為「待って」

そこへメズールが待ったをかけた。

「余計な説明ならいらないわ。どうして私たちが大人しくあのカザリについてると思うの?あんな裏切り者に」

そういわれたカザリはわざとらしく肩をすくませる。

「そう・・・コアの為なら協力できる、わかってるわ。まず大量にセルメダルを集めるんでしょ?その為のヤミーならもうつくってあるの。ね、ガメル?」
「うん」





*****

その頃、とある高層ビルの屋上。

『ああ、いい眺めだこりゃ。さーって、ここで良いかなーっと』

えらく軽めで流暢な日本語で喋る異形が一体。
アルマジロの体――厳密に言うと、左半身にウニがくっついたようなウニアルマジロヤミー。

『ウニニニニニニニニ!!』

ウニアルマジロヤミーは左肩から大量の小針を飛ばしまくった。
勿論ソレは下にいる人間たちに降り注ぐことになる。

だが人間たちには大きな被害はない。
その辺の子供やタクシードライバー、さらには知世子などの首筋に針が刺さっても、例え針が体に入り込んでも、ちょっとチクっとするだけであとは気にならない。

そうして、大勢の人間に針が打ち込まれる。





*****

「では私の考えに賛同なんですね?」
「ええ、これから宜しく。紫の坊や♪」

といってメズールは、真木の頬を撫でた。
撫でられた真木の反応も、それを見たガメルの反応も芳しくなかった。

「コイツなんかヤだ・・・・・・!」

明らかな嫉妬。

「ぷッ、坊やねぇ?」

カザリも思わず笑ってしまう。

Dr.(ドクター)!――と呼んでもらいましょうか」
「いいわ、ドクターの坊や♪うふふ」

結局、坊やという点は変わらなかった。





*****

そして深夜に指しかかっている頃合に効果は現れた。
例えば知世子の場合、眠くなっていつもどおりに布団被って横になろうとも。

「な、なんなのよ?どうして眠たいのに眠れないのよ?」

布団から出て二日酔い覚悟で酒を飲んでも全然眠れないし、眠気は増すばかり。

そんな不眠症に悩まされる人々の声で、この夢見町の夜はチト騒がしくなった。

『フフフハハハハハ・・・・・・・!!』

そんな人々の声を聞き届けているかのように、ウニアルマジロヤミーは不気味に笑っていた。





*****

翌日の朝のクスクシエ。
映司達が店の準備をしていると、

「おはよう・・・・・・」

知世子がやってきた。

「「おはようございます」」

と二人が挨拶を返すと、

「あぁぁ・・・・・・」

知世子はカウンターに凭れ掛かってしまう。

「おーい、注文の品、届けに来てやったぞ」

そこへ刃介が店の前にシェードフォーゼを止め、後部座席に積んでおいた荷物を届けにやってきた。
中身は調理器具や包丁といった物で、知世子が新調するために購入しておいたものだ。

「・・・・・・おい、なんかよく解らんが、不眠症みたいな面してるぞ」

刃介は近くのテーブルに荷物をおき、知世子の顔色を見た。

「そうなのよ。昨日からとーっても眠くて眠くて仕方ないんだけど、何故か一睡もできないのよ。ホントに辛いわぁ」
「なら睡眠薬でも仕入れようか?」
「それよりまず、病院に行ったほうが良いよ」
「そうですね。今日は御休みしましょう」

ということで、映司と比奈は知世子をつれて近くの総合病院に行った。

「・・・・・・微かだが、ヤミーの気配がしたな。こりゃあの女だけじゃなさそうだな。セルメダル稼ぐチャンスだし、七実や竜王に連絡しとくか」

スマートフォンに番号を打ち込みつつ、刃介は店から出てバイクに跨った。





*****

東亜総合病院。
ここの待ち合い場所にも、知世子と同じ症状で悩まされている老若男女で溢れていた。

「ああ、眠い・・・・・」
「眠らせてくれ・・・・・・」

と口々に言っている。

「映司くん、これって・・・」
「あぁ・・・」
「す、座らせて・・・・・・」

比奈は知世子を空席に誘導したが、映司はこの事態に対し、なにかを感じ取っていた。



そして、伊達と後藤と金女は、この病院に来ていた。



「お前が自分から検査しにくるなんて、珍しいな」
「まあタマにわね。んで?」
「ん・・・・・別に。ま、折角だし、健康診断くらいしとくか」

この病院こそが伊達の知り合いの医者がいる行き付けの病院だったのだ。

「安くしといてくれよ?」
「ハハッ」

軽口をたたきあいつつ、伊達はナースに連れられて健康診断を行うことになった。
すると金女は、物怖じせずハッキリと言った。

「やはり、伊達さんの弾丸、この病院で摘出するのは不出来(できず)なんですね」
「・・・・・・あいつが連れてきたってことは、ザックバラに話していいってことかな」

藤田医師は伊達の遠回しの意思表示を汲み取る。
そして後藤が持ち込んだレントゲン写真を見て、

「ハッキリ言うと、この弾丸を抜くか抜かないかなんです。ただし、かなりリスクの高い手術オペで、取り出せる医者は早々いないでしょう。もっともこのままでも十分危険ですが」
「じゃあ、激しい動きとかは?」
「当然危険です。いつ脳を大きく傷つけるか」

藤田医師は冷静に伊達の身体状況を告げた。

「でも、わかってるからこそ、あいつは日本に帰ってきたんじゃないんですかね」
「そういえば、何か目的があるようなこと言ってましたね」

金女が相槌をうっていると、後藤が意を決したように尋ねた。

「あの、一億円と伊達さんが関係するようなこと、知りませんか?」
「一億・・・?」



一方ロビーでは、座席で横になる患者達が続出していた。

「あの、ここロビーなので寝たら困ります」
「眠いけど眠れないんだからしょうがないでしょ!」
「じゃなかったら病院に来ないって!」

従業員の注意もロクに聴こうとさえしない。

(これって、何かの病気かな?それとも・・・・・・)

映司がかんぐっていると、バッタカンドロイドが現れる。

『映司、ヤミーを見つけた』
「ッ!」

アンクからの連絡をうけ、映司は急いで現場へと走った。



そして診察室では、

「アフリカでそんなことが・・・・・・」
「なるほど」

藤田から話をきき、二人はどこか納得したような表情をしている。
すると、

「後藤ちゃん、金女ちゃん、行くよ!」
「あの、まだ、検査が終わってないんですけど!」

伊達もゴリラカンドロイドを通してヤミー出現に勘付く。
勿論、引き止めた看護士のことは無視して行ってしまう。
後藤と金女は藤田に一礼してから伊達のあとを追いかけていった。





*****

『もーいっかなぁ?そーろそろかなぁ?』

なにかを待ちわびるウニアルマジロヤミー。
背後からは映司と刃介らが駆けつける。

「もしかして、こいつのせいで、知世子さん達・・・・・・」
「ガメルとメズールか・・・まずは様子見だな・・・」

アンクは映司にメダルを渡す。

「さってと、テキパキやるかな」
「では、このメダルを先に渡しておきます」
「必要と在らば、私も加勢するぞ」
「サンキュー」

ブライドライバーを装着した刃介に七実は黄色いコアを三枚渡し、竜王もクエスドライバーを装着して待機する。

『なんだお前たち!?』

ウニアルマジロヤミーは左肩から大量の針を飛ばしてくるも、

「「変身!」」

≪RYU・ONI・TENBA≫
≪TAKA・TORA・BATTA≫

周囲に展開されたメダルエネルギーが防壁となり、本体には届かない。

≪RI・O・TE!RIOTE!RI・O・TE!≫
≪TA・TO・BA!TATOBA!TA・TO・BA!≫

変身完了!

『ああ!オーズにブライ!!』

ウニアルマジロヤミーは即行で逃げようとするが、

「逃がすかよ!我刀流奥義!」

≪SCANNING CHARGE≫

ブライは右の手刀を構え、力を蓄える。

電光石火(でんこうせっか)ッ!」

――シュン!――
――バギンッ!ボギンッ!――

『NOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!』

一瞬の間にブライはウニアルマジロヤミーに立っており、その周囲にはウニアルマジロヤミーご自慢の針山が無数に落ちていた。
つまり、刹那とさえ居える瞬間において手刀一本で大量の針を叩き斬ったということだ。
まさに電光石火の早業といえよう。

「ついでに目潰しだ」

ブライはメダルチェンジを行ってローグスキャナーで読み取る。

≪YAMANEKO・JAGUAR・SMILODON≫
≪YAJA・YAJA!YAJAGUADON!≫

黄色いネコ系コアの三枚ぞろい、ヤジャガドンコンボ。
それの発動と共に、ブライの全身から発せられる凄まじい閃光を伴って放たれる熱光線・ワイルディザー。

『アアアアアアア!!眩しいぃぃぃ!!そして痛いぃぃぃ!!』

効果抜群である。
ガメルとそのヤミーは閃光に、メズールとそのヤミーは高熱に弱い。
その二つがくっついているのだから、効果覿面なのは当然といえよう。

「よし、このままメダルに両替『させんよ、ブライ・・・!』
『今はまだ、貯まり切ってないからな』

トドメを刺そうとしたとき、背後から声がした。

――バチッ!――

「うおッ!?」

背中を攻撃されてしまい、トドメの攻撃が行えなかった。
その妨害者はというと、

「チッ、錆と四季崎のヤミーかよ」

そこにいたのは、甲殻類系のカニヤミー。さらには変体刀系のヨロイヤミー。
どちらも硬度に自信のありそうなタイプだ。

「やはり、私も加勢せねばダメらしい」

竜王はそれを見てコールカテドラルに三枚のメダルを装填し、コールスキャナーで読み取る。

「変身」

≪BARA・SARRACENIA・RAFFLESIA≫
≪BA・SA・RA!BASARA!BA・SA・RA!≫

クエス・バサラコンボに変身する。

『クエスか・・・・・・』
『そのコンボで我等に対抗できるかな?』
「ふっ、ならメダルを換えるだけだ」

クエスはトリッキーな戦法を得意とするバサラコンボで戦うつもりなど思ってもいない。

≪OOKAMI・KANI・RAFFLESIA≫

焦茶色の狼の頭、黒い蟹の腕へと変化した。
亜種形態のカミカニシアだ。
クエスはオオカミアイの青く鋭い眼光で睨みつつ、両前腕部に装備された大鋏型武器『カニシザース』を両手に持ち、臨戦態勢に入る。

さらにそこへ、

「おうおう!やってるねぇ」

メダルタンクを持った伊達が到着する。

「さーて、俺も稼がせてもらい――ガシッ――」

ベルトを装着しようとしたさい、それは何者かによって阻まれる。

「止めて下さい。もうバースは無理です」
「はあ!?ちょ、何言ってんの、放してよ!」
「放しません!」
「放せって!」

後藤は伊達の身を案じているのだが、結局は取っ組み合いになってしまう。

「ああ、やっぱりこうなっちゃいましたか」
「鋼の妹か。お前はどうするんだ?」
不言(いわず)もがなです」

アンクと軽い会話をかわし、金女はチェリオドライバーを装着してセルメダルを投入する。

「変身」

――パカッ――

変身を終え、さらにセルを入れて見せた。

≪TOUTOU・NAMARI≫
≪SHATOU・GEN≫

左腕には投刀『鉛』と射刀『鉉』が合体装着され、狙いを三体のヤミーにつけた。
直接的な助太刀ではなく後方支援に回るべく、チェリオはさらにセルを二枚、投入する。

≪CELL BURST≫

――バシュ!!――

セルのエネルギーを受給された苦無や手裏剣らは、チェリオが弦を引いて解き放った瞬間、それら全ては三体のヤミーに降り注いだのだ。

「皆さん、今です」
「ありがとよ」
「感謝する」
「ありがとう金女ちゃん。アンク、メダル」
「ほれっ」

三者三様に感謝し、それぞれは隙をつくべく動いた。

≪TAKA・KUJAKU・BATTA≫

オーズはタカジャバへと変化し、左腕のタジャスピナーから火炎手裏剣を発射。

『どわあアツツツツ!!熱っちぃぃぃぃぃ!!ギャアアア燃える燃える!!』

どうやら火炎攻撃はウニアルマジロヤミーに対し、効果は充分にあるようだ。

一方でクエスは、ラインドライブを通してオオカミヘッドに力を伝達していた。
そうして息を大きく吸い込むと、カニヤミーのほうに向って、

「ッ!アォォォオオオォォン!!!!」
『ぬあぁ!!なんだこの咆哮は!?』

口から発せられた遠吠えの名は『錆狼慟哭(セイロウドウコク)』。
任意の相手にだけ、自らの咆哮を超大音響として聞かせる撹乱技だ。

≪SCANNING CHARGE≫

ブライはエネルギーを全解放し、猫刀『鉤』を下に減り込ませるように『杜若』の構えをとった。
そして一気に、

「よーい、どんっ!」

目の前にある三つのリング――それらを全て、自らをドリル回転させながら潜り、敵へと突っ込むビーストスパイラル。

「チェーーストーーッ!!」

だがしかし、

――ガギン!――

「なに・・・!」
『甘く見られたものだ。この装甲を簡単に貫けるわけないだろ』

ヨロイヤミーは自分の胸を叩きながら誇るように言った。
だてに賊刀と同じ名前をしているわけではないのだろう。

『おい、2体共!引き上げだ!』
『は、はいよ!』
『逃げるが勝ち〜〜!!』

ヨロイヤミーの言葉にカニヤミーは素直に従い、ウニアルマジロヤミーは早い者勝ちといわんばかりにビルから飛び降りてしまった。

「あー、逃げられた・・・」
「構わんさ。まだメダル貯めてる途中だったみてぇだしな」
「もうちょっと後で、セルが増えた後で倒せば「好い加減にしろ!!」

アンクの声を遮り、其の場になんともいえない空気を齎したのは、伊達の怒号だった。

「後藤ちゃん、藤田から俺のこと聞かなかった?」
「聞きました。伊達さんだって!」
「そう!わかってる・・・わかってやってるわけよ、俺。・・・・・・そこんとこ解ってくんねぇかな?」
「わかりません。命がかかってるんですよ!絶対止めます!」

言い争う二人。
しかしその中で不穏な言動があることに気付き、

「命がかかってるって、どういうことですか?」

オーズが変身を解きながらきくと、伊達は薄ら笑いしながらタンクに座る。

「なんですか・・・・・・!?」
「いや・・・俺を死なせないって言ったの、そういう意味かと思ってさ」

伊達は何時もの口調とは裏腹に、残念そうな感情を滲ませている。

「まだ一億には程遠いんだ」

伊達はタンクを背負い、

「後藤ちゃんの考えがそれってんなら、コンビは解消だな」

と、言い切ってしまったのだ。

「そんじゃ」
「あ、ちょっと伊達さん!」

映司の制止もきかず、伊達は一人で去ってしまう。

「はぁぁ、なにやってんだが・・・・・・映司、ほっとけ」

アンクも呆れ返って先に帰ってしまった。
それを見た刃介は、

「竜王、ちょっとの間、後藤と火野についてろ」
「情報収集か?」
「まぁな。俺等は俺等で調べたいことがある」
「別にいいが、着替えてからでいいか?」

刃介は首肯した。

「では参りましょう、刃介さん」
「ああ、あっちこっち探してれば、手がかりくらいあるだろ」
「兄さんたち、誰を探すきですか?」
「なーに、イカレた刀鍛冶だよ」





*****

海沿いの公園付近。
後藤はそこで、ついてきた映司と竜王に伊達の容態を教えた。

「頭に弾丸が入ったままって!」
「医者として、紛争地域で働いていたとき、巻き込まれたそうだ」
「不幸中の幸いで、どうにか生きてるわけか」

映司はショックをうけ、竜王は感心している。

「取り出す方法とかないんですか!?」
「それが・・・・・・でも、このままにしておいても・・・」
「どうしてそんな状態になってまで・・・・・・」

それは火野映司が吐くべきセリフではないきがする。

「奴が狙う、一億とやらが絡んでいるのではないか・・・?」
「一億円・・・・・・」





*****

街中の休憩所。
そこで伊達は腰を据えながら、ミネラルウォーターを飲んでいた。

だが、

「――がっ・・・!あぁぁ・・・・・・!」

頭痛に襲われ、ペットボトルを落としてしまう。
少しして漸く痛みが引き、中身が半分近く流れてしまったそれを拾おうとしたとき、

――スッ――

誰かが先に拾い、持ち主へ返した。

「あ、ドクター!」
「お久しぶりです伊達君」
「――元気そうじゃない。人形(コイツ)も「ヤメロ」

真木清人は他人が人形に触れることを著しく嫌う。
人形になにかトラブルがあっただけでパニくるような男だからしょうがない・・・・・・というわけでもないが。

「あんた、ホントにグリードになろうとしてんの?」
「いい話を持ってきました。前金で5000千万、成功報酬で5000千万、しめて一億です」
「・・・え?」

もはや、話をすりかえられたことにさえ気にならない話題が展開された。

「勢力を統一したいんです。バースは元々私がつくったものですし」
「・・・金であんたにつけってか?」
「君は元々それで動いていた筈です。それに、のんびり貯めてる時間もないのでは?」

まったくもってその通りである。
このままろくに治療を受けずに戦えば十中八九で伊達は死ぬ。

「痛いトコつくね」
「如何です?」
「・・・・・・・・・・・・」





*****

町外れの古びた武家屋敷。
そこには二人の住人が居る・・・が、そこへ二人の人物が踏み入ってきた。
家主である男は、玄関でそれを見て、薄らと笑って見せた。

「随分とまあ珍しい客人だな」
「フッ、お前に聞きたい事が山ほどあってな」
「こうして、お邪魔させて頂いたわけです」

不遜な態度で接する鋼刃介と、丁寧な態度で接する鑢七実。

「ま、いいか。白兵の奴も丁度出かけてるし、可能な限りなら質問に答えてやろうじゃねぇか」
「その言葉、忘れずにいてくれよ?」

この武家屋敷で、様々な秘密が開帳される。
しかしそれは、まだ中盤へと差し掛かったばかりなのかもしれない。





*****

同時刻――金女はルナイトに呼び出されていた。

「何の御用ですか?」

金女は率直に尋ねた。

「御用って程、大仰なものじゃないんだけどね。強いて言うなら・・・・・・」

ルナイトは会長席に座りながら、どんな言葉を出すべきか迷っている。

「――やっぱ、大きな声じゃいえないし、こっち来て」
「はい?」

一応従って至近距離になるまで歩いた。
ルナイトは身を乗り出して、金女に耳打ちした。
どういうわけか、金女の表情はドンドンドンドン奇妙で今まで見せたことすらないくらいに、衝撃をうけた風にしていた。

「あの、マジですか?」
「私は到って大マジよ。超がつくってくらいにね」

シルフィードは机の上においてあるリモコンを手に取ると、スイッチを押して部屋においてあるモニターに向けて信号を飛ばす。
すると、あるものが映し出された。

「これが、ですか・・・・・・」
「そう・・・『最後の大仕事』って感じかな?」

モニターには、紅蓮に燃える一枚のメダルが映っていた。





*****

今から1・2年前のこと、アフリカで伊達と藤田が働いていた頃の話。
二人は医療支援の一員として、大きな戦いで傷ついた人達の傷を癒していた。
しかし、限界という奴は思いのほか早くやってくる。

「伊達!明日撤収が決まった。情勢が急変してて、かなりヤバい」
「クソッ、またかよ!?」
「仕方ないんだ・・・・・・」

当時、藤田も伊達も、紛争地域の危険度と、それによって生じるエゴに腹を立てていた。

「俺みたいな医者でも、居なくなったらここは終わる。いくら医療支援だっつっても、引き上げたら0に戻る。――そんなんじゃダメだ。・・・・・・俺達が居なくなっても残る医療支援でねぇと」





*****

藤田から後藤へ、後藤から映司らへと話は伝わる。

「自分たちが居なくても残る、医療支援・・・・・・」
「一億はそのためかもしれない。・・・なんなのかは解らないが」
「んー、現地の者達が自分で治療できるようにするとかではないのか?他所の医者を長期滞在させられない環境なら、それしかあるまい」

竜王の聡明な推測に、映司も思い出すように声を出す。

「きっとそうだ・・・!医療関係の学校を建てる為に、一億を・・・・・・」
「学校・・・・・・寺子屋の発展版か?」
「まあ、そんな感じ」

戦国時代で生まれ育った竜王は映司の言葉を独特の解釈で拾う。

「俺、学校つくる活動手伝ってたことあるんですよ。普通の学校ですけど」
「・・・そっか・・・火野もあちこち、回ってたんだったな」
「今は全然ですけどね。――自分が居なくなっても残る・・・・・・凄いことですよね」
「自分の遺志を、少なからず持ち続けてくれる者が、出来るわけでもあるしな」





*****

クスクシエの二階部屋。

「なるほどな――ヤミーの狙いは睡眠欲か。だが、欲が高まってるだけで・・・・・・濡れてない。・・・これからか」

アンクは一人、開いた窓の外を見ながら、ウニアルマジロヤミーに行動に確信を立てていた。

「しかし、あの二体のヤミーは・・・・・・800年前と違って、本当に面倒なことになったもんだ」





*****

グリードらのアジト。

「初めて力を融合させたにしては、順調みたいだね」
「やってみれば簡単なことね」

カザリは経過を確認するかのようにメズールに話しかけた。

「ガメルの欲望を自分の能力とするヤミー。大きさより数で育てる私のヤミー」

実は先日の深夜、ガメルの睡眠欲が高まっているのを見計らって、メズールがガメルにセルメダルを投入。それによってガメルの欲望がメズールの力と融合して生まれたウニアルマジロヤミーが出来上がったのだ。

「欲望を極限に育ててから、一気に」

そして、そのヤミーの能力によるセル収穫はもうすぐ成されようとしている。

「なるほど」

真木もこれには充分納得する。

すると、後ろの扉が開く音がし、真木はそれが誰が開けたのかを瞬時に理解する。

「正しい決断です」

背負ったミルク瓶型のタンクから、メダルの音をさせながら歩く男に、真木は静かに賞賛した。





*****

武家屋敷内部の居間。
畳が敷き詰められ、何もかもが江戸時代レベルの道具ばかりがおいてある。
刃介と七実と四季崎が取り囲んでる卓袱台の上には、人数分の日本茶と煎餅がおかれていた。

「んで、どっから話すか・・・・・・」
「まずは以前、メッキヤミーが言っていた”記紀であって記紀ではない”というトコからだ」
「あー、あいつんなこと言ってたのか」

四季崎は煎餅を齧りながら相槌を打つ。

「率直に言うとだな、今現世に居る四季崎記紀も錆白兵も鑢七実も真庭竜王も、その全てが偽者なのさ」
「偽者?」
「正確に言うと、本人と同じ容姿・人格・能力を備えた精巧な人形。もっとも、グリードの力がある以上は明確的にそうなんだがな」

刃介は話がいきなり意味不明な方向に突っ走ったのかと思った。
そこへ七実が、

「その技術はどこで得たのですか?」

と聞いてきた。

「へー、流石は完了作だ。いい勘してるじゃねぇか」
「完了作・・・・・・まさか、七実たちの虚刀流は、俺の我刀流同様、誕生にはお前が関与してるのか?」
「当然。鑢一根の張った根っこを軸にして、200年の歳月をかけて鑢七花の代で完成したのが、完了形変体刀・虚刀『鑢』ってわけだ」

その一つの真実に、刃介も七実も大して驚いた風にしていない。

「なるほど・・・私や七花が変体刀の区別ができることの説明がいきました」

七花と七実には、変体刀に近づいた際、まるで生き別れた血族で出くわしたような感覚を覚えることがある――共感覚というやつだ。

「ちょっと脇道に入るぞ」

四季崎は煎餅をバリバリと食べ終える。

「実はな、俺達は元を正せば占い師の家系でな。四季崎家には代々予知能力があって、それを利用して歴史を改竄してきたのさ。千本の変体刀をつくり、日本中にばらまいたのもその一環だ。ご先祖様が戦国時代に俺が都合よく生まれてくるように仕組み、一番歴史の流れが変わりやすい時代で脚色をやれる刀鍛冶になるようにもしたんだろうさ。まあ、占い師の伝統は俺の代で終わったんだが」

長々と語る四季崎はさらに続ける。

「もっとも、旧将軍や飛騨(ひだ)鷹比等(たかひと)みたいな歴史の修正者はそれに勘付いて、俺達一族の計画を大幅に遅らせたわけだがな」

四季崎は記録を読み上げるような淡白な口調で語りだす。

「俺達四季崎家の目的というのはだな、某幕府や尾張幕府みたいなのを潰して鎖国を止めさせて、この世界で言うところの黒船を初めとする諸外国からの侵略を防ぐ為だったのさ。だがお前も知っての通り、家鳴(やなり)匡綱(まさつな)と御傍人十一人衆が死んでも、結局のところは失敗に終わった」

四季崎は心底残念そうな表情をする。
しかし刃介は、尾張城で殺した数百人の一般兵のことや、完成形変体刀奪取の為に殺した十一人のことを思い出す。そして何より、時空を越えてあの世界に流れ着いてしまっていた、あの暗黒騎士王のことも。

「そんで、お前はどうやって七実らをグリードとして作る力をつけた?」
「ああ、そこが二番目に重要だな」

四季崎は茶をすすりながらも一応は返答している。

「俺の未来予知はなにも、あの世界だけじゃなく、無数に存在する数多の世界の未来を見ることができるようになった。そして、本物の魔術や魔法が存在する世界から技術を盗んできたのさ。変体刀作りの時と同じだ。幸い俺には、それを実行するだけの実力があったらしいからな」

魔術という言葉に、刃介は著しく反応した。

「魔術って、ルナイトみたいなあれか?」
「魔術にも色々と分野がある。義手や義足を踏み越えて全身――自分そのものを作り上げてしまえる程の人形師(まじゅつし)もいれば、平行世界へ自由に干渉する魔法使いもいる」

要するに、四季崎記紀という男は、未来予知で得た人物達の情報を元にして、異世界の人形師の技術で自分を含む幾数の人形にせものを作り上げた。そこへこの世界に存在していた錬金術師たちが練成したコアメダルの製法を得て、それぞれのコアメダルを創り人形(にせもの)に与える事でグリード化させた。

そして、それらの人形(にせもの)をこの世界に飛ばしてきた。
しかも、800年前と現代に分けて。

「そうか・・・・・・なら最後に聞かせろ」
「なんでも」
「俺達一族をブライに選び、グリードというメダルの器にしたのも、虚刀『鑢』以上を目指した変体刀作りが狙いだな」

そこに疑念は一切なく、確信しかなかった。

「かなりヒント出したんだし、やっぱ気付くよな」

四季崎は気分良さそうに笑っている。
家の中なので編み笠を外しているので、その笑みはより露骨に出ていた。

「生前の俺は、完成の先にある完了こそは目指したが、完全は目指さなかった。それは、完全に到る事は闇に堕ちるのと同義と考えたからだ。しかし、その闇へ堕ちて尚、朽ちずにいられるモノこそが・・・・・・!」

『欲望』の力。

「そして、俺のコア全てを得て完全変化した際にお前は神の領域に片足を突っ込むだろう。初代は戦ってる期間の短さ、十代目は自律心が成長を阻害しちまったが、お前は見事な我欲のもとで長きに渡る戦いを繰り広げてきた」

四季崎はいつ終わるのかと思うほどに長々と語る。

「さらに、俺が作った全てのコアを秘めたとき、お前は『超完全体』となり、神さえ超越した存在に超進化するだろう」

語り終えたかは知らないが、一旦区切りがついたところで刃介が言葉を出した。

「そういうことかよ・・・・・・今の今までのことは、全部あんたが仕組んだ運命だってことか」
「別に悪い気はしねぇだろ?理想の女を始めとして良い女ども愛されてるし、仲間だっているじゃねぇか」

だが四季崎「でもよぉ」と付け足してくる。

「それでも決して満ち足りることの無い深遠で悠久なる欲望。――いや・・・『欲望そのもの』であることが800年の研鑽の果てに作り出されたブライの器・・・!」

あらかたの概要を解説すると、四季崎は微笑んだままで刀の銘を告げた。

「完全系変体刀・我刀『鋼』」
「それを生み出して、貴方はどうするおつもりですか?」

七実もこんな大仰なことをする動機はすぐに思いつかず、本人に尋ねるも、彼は漂々とした態度でこう返す。

「それは秘密だ」
「・・・・・・まあ」
「だと思ってましたよ」

最初からこの男の返事に期待してなかったようで、刃介も七実も聴きたいことを全て聴いたため、席を立って帰ろうとする。

「おい、お前等。一つ訊いていいか?」
「なんだよ?」

四季崎に呼び止められ、足を止める。
何を聞かれるのかと思えば、

「おめぇら、グリードになってから視界や食事に変化とか出たか?」
「別にねェよ。美味い飯は美味いし、綺麗なモンは綺麗に見えてる。それだけだろ?」

質問に答えると、刃介は七実を連れて屋敷から出て行った。

すると、意外な場所から意外な人物が出てきた。

「話は終わったでござるか?」

押入れから錆白兵がでてきたのだ。
どうやら四季崎はもしもの保険にと、あえて嘘をつき、押入れに白兵をスタンバイさせていたようだ。

「かっかっか。俺等や竜王を含め、完了作も鋼刃介も、中々の成功作に仕上がりつつあるな」





*****

『そーろそろ良いっかなーっと!』

ウニアルマジロヤミーは前とは別のビルの屋上に上ると、人間には決して見えない波動を町中にばら撒いた。
波動は音速で町に広がり、針によって不眠症になっていた人々全員を解放した。
勿論、抑圧されていた睡眠欲が一気に弾けてしまい、例え路上だろうがロビーだろうが、睡魔に推されて熟睡しきってしまう。

だが、それと同時にセルメダルもこの上ないレベルで増大していく。

『ハッハハァァ!キタキタ来ましたぁぁ!!きもちぃぃぃ!!』

体内に何百何千ものセルメダルが一気に蓄積し、ウニアルマジロヤミーは興奮のあまりにビルから飛び降り、地面に激突した。
だが重量系の側面として頑丈さが備わっているので、この程度ではダメージにもならない。
逆に一般人たちがウニアルマジロヤミーを見て逃げ出すのだが。

しかしそこへ、彼の気配を感じ取ってきた映司と後藤と竜王、刃介と七実がやってくる。

『オーズにブライ!来たなぁ!』

ウニアルマジロヤミーがいきがっていると、そこへアンクも到着する。

「おい映司!こいつは大物だ!絶対逃がすな!」

と叫びながらコアを投げ渡す。
刃介はそれを見ると、ウニアルマジロヤミーがさっきまでいたビルの屋上に眼を向けていた。

「火野、合体ヤミーはお前に任す。俺と竜王はあいつらの相手をする」
「あいつら・・・・・って、そうか。わかりました!」

言葉の意味に気付き、了承する映司。
そして三人は肩を並べ。

「「変身!」」

≪RYU・ONI・TENBA≫
≪TAKA・TORA・BATTA≫
≪RI・O・TE!RIOTE!RI・O・TE!≫
≪TA・TO・BA!TATOBA!TA・TO・BA!≫

映司はオーズ・タトバコンボとなり、メダガブリューを装備。
刃介はブライ・リオテコンボへと変身する。

「なら私は、別のコンボで行くとしよう」

コールカテドラルに植物系とは違うメダルを投入してスキャンした。

「変身!」

SASORI(サソリ)KANI(カニ)EBI(エビ)
SAKANIBI(サッカッニッビ)SAKANIBI(サカニビー)!≫

蠍の頭、蟹の腕、海老の脚。
それら三つが黒く染まった甲殻類のサカニビコンボだ!

『フッフッフ・・・・・・』
『面白くなってきたな』

そこへビルの屋上から落ちてきたのはヨロイヤミーとカニヤミー。
そうしてオーズVSウニアルマジロヤミー、ブライVSヨロイヤミー、クエスVSカニヤミーという構図となった。

まずはクエスの活躍から見てみよう。

『同じ甲殻類だからって、俺の殻を破れるのか?』
「いくら堅くとも、いずれは隙ができる」

そういうとクエスは両手を小さく広げ、自分とカニヤミーを取り囲むようにあるものを展開した。

『んな、結界だと!?』

これこそがサカニビコンボの固有能力ことシェルフィールド!
黒ずんだ殻の結晶のようなこの空間を展開した以上、どちらかが倒れるまで消えはしない。

「毒針でも喰らうと良い!」

――ビュ!――

紫のサソリアイが光ると、蠍の尻尾を模したサソリニードルから大型の毒針が打ち込まれる。

『へっへ!んなもん効くか!』

だがカニヤミーは背中の甲羅でそれらを防ぐ。
時には正面を向いて自慢のハサミで別の方向に殴り飛ばしたりもする。

だがこの時彼は気付かなかったのだ。
弾かれた毒針がシェルフィールドにぶつかった瞬間、それらは光を反射するように勢い良く飛んでいき、シェルフィールド内部で少しずつ数と速度を増やしている事を。

そして、カニヤミー自身が気付くときが来た。

『ハハハハハハハぐがッ!!』

――ピキッ――

高笑いしていると、背中の甲羅が大きく罅割れた。

『ま、まさか、同じ所を正確にぃ・・・!』

≪SCANNING CHARGE≫

「塵も積れば山となるだ」

クエスは増幅した力を全身に行き渡らせる。
すると、エビレッグについた胸脚型の鉤爪・エビスナッチャーが起動して鋭い刃を伸ばして剥き出しにすると、一気に接近して回し蹴りを喰らわせることでエビスナッチャーによる斬撃に加え、爪先から大量の泡を吹き付けて身動きを封じた。
そこへカニシザースでガッチリと挟んで拘束した上、サソリニードルが巨大化・伸長してまさに蠍の尻尾の如く、その強大な毒針を勢い良く!

――ブスッ!――

『ぐ、が、あああああああああああ!!!』

背中の甲羅のヒビめがけて襲い掛かったサソリニードルの一撃により、カニヤミーは猛毒を受けて爆発四散した。

「差し詰め、シェルドポイズン、とでも銘打つかな?」

静かに技名を思いつきつつ、クエスは静かに息を吸って吐いた。

ブライはというと、

「まず最初にこれだぜ!」

≪GOKKUN!≫

メダグラムにセルメダルを飲み込ませる。

≪RIOTE!≫

♪〜〜♪〜〜〜

コンボメロディが鳴ると、ブライは素早くヨロイヤミーの懐へ入り込み、

「あらよっ!」
『のぁぁあああああ!!』

思い切りメダグラムでの斬り上げをやってヨロイヤミーを上方へ吹っ飛ばす。
ブライはすぐさまメダグラムを地面に突き刺すと、

≪RYU・TSUBA・TENBA≫

リュウバテンにメダルチェンジしていた。
そこからヤイバスピナーに収まっているセルをコアと入れ替える。
賊刀『鎧』の性質を備え持ったヤミーなら、工夫次第で一発勝利が出来る方法をブライは知っている。

≪BAKU・MAMMOTH・INOSHISHI!GIN・GIN・GIN!≫
≪GIGA SCAN!≫

ギガスキャンを久々に発動させると、ヤイパスピナーは灰色の波動を纏う。
そして、昂りに昂ったところで一気に!

「柳緑花紅!!」

――ゥドン!!――

膨大なエネルギーと融合した鎧通しの拳。
それが落下してくるヨロイヤミーの体へ打ち込まれた瞬間、

――ドガァァアアアァァン!!――

内部から崩壊し、数十枚のセルを置き土産に爆散した。

そしてオーズは、

「アンク!ウナギのメダルあったっけ?」
「ああ。――が、これで何とかなるのか?」

≪GOKKUN!≫

メダガブリューにセルを喰い飲ませた直後にウナギ・コアを受け取った。

≪TATOBA!≫

♪〜〜♪〜〜〜

軽快なコンボメロディが流れ出る。
それと同時にメダルも換装して読み込んだ。

≪TAKA・UNAGI・BATTA≫

タカウバへと変化すると、セルによって威力が高まったメダガブリューに電気エネルギーをプラスする。
そしてバッタレッグで跳躍し、自らが振り下ろす力と自由落下の力さえ追加した。

「セイヤァァァァアア!!」
『うんああああああああああ!!!!』

ウニアルマジロヤミーはもろに”グランド・オブ・レイジ”の直撃を喰らい、爆発して幾千ものセルメダルに還元された。

「思ったとおり大漁だな」

アンクもこの結果に上々な様子だ。
そこへ一台のライドベンダーがエンジン音を立ててやってきた。

「おやおや、終わってしまったのですか?」
「悪いな金女。出番はとっくに無いぜ」
「別に構いまんよ(早くついたところで、チェリオにはなれないわけですし)」

刃介と金女の会話の傍らで、

「映司、よくやったな」

さらには珍しく褒め言葉まで口にした。
だがそこへ、


――ウイィィーーーン!!――


ブレストキャノンを頭、キャタピラレッグを足、ドリルアームとクレーンアームを針の尻尾、ショベルアームを左の鋏、カッターウイングを右の鋏として組み立てられた銀色の蠍型ロボットが現れ、セルメダルを掻っ攫ってきたのだ。

CLAWs(クロウズ)・サソリ!?」

金女は声を少し荒げた。
それはチェリオと対を成す、誕生の名を冠するセルの戦士が使う取って置きの手段なのだから。
そしてそれは尻尾部分でセルを吸い上げ、現れた三体の怪人へと与えた。

それらは与えられた大量のセルメダルを取り込んで歓喜する。

『力が沸くゥ!!』
『セルメダルもこれだけあると違うわねぇ』
『フフフ』
「お前ら・・・!」

ガメル、メズール、カザリ。

「まずはグリードの強化、成功です」

そこへ真木が現れた。
しかし、それだけではなかった、当然の事だ。

「らしいな」

CLAW's・サソリが出てきたということは、そういうことなのだから。

「伊達さん?」

伊達明は、グリード陣営に立っていた。

「突然で悪いけど俺、こっちに転職したから」

余りに衝撃的なことを唐突かつ軽めに告げる伊達。

「何言ってるんですか!?」

後藤も流石に喚き散らすように大声をだしてしまう。

「まぁそういうことだから宜しく」

伊達はバースドライバーをつけ、セルメダルを投入。

「変身」

――パカッ――

瞬く間に装甲を身に纏ってバースへと変身する。
そしてセルの弾丸が充填されたバースバスターの銃口を映司らに向けて構えた。

しかし、状況の悪化はそれだけではすまなかった。

『俺等も混ぜてくれないか』

銀粉を撒き散らしながら空より現れ出でる銀色のグリード。

「デシレ・・・・・・!」

ブライが睨んでいると、デシレは嘲笑うように言った。

『折角だ。戦いの前に、真っ赤な花で戦場を彩るか』

次の瞬間、


――斬ッ、斬ッ!――
――ブシューーーッ!!――


一言で述べよう。
金女の両肩から、命の液体である血が、噴水のように吹き出ていた。

『逆転夢斬』

それをやってのけたのは、爆縮地という技を併用し、薄刀『針』の柄と鞘を刀身に見立てた二刀流で金女の肢体を切り裂いたゼントウ。
その早業に、グリード側も驚いている。

「―――――――」

刃介は全身が血塗れて、意識を失い地面に倒れ付した実の妹を見た瞬間、完全に無表情になっていた。
しかし、両目だけは何かに沈んでいくかのように重い妖気を漂わせた。

そして、

『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッ!!!!』

刃介は全てをかなぐり捨ててグリードとなった。
そこには理性も誇りも想念さえ、何もかも弾け飛ばしている。
ただ一人の肉親を血染めにされた己のバカさ加減と敵への深き憎悪が彼を心身を変えていく。

その凶暴な口を大きく開け、天地鳴動の叫びをもって吼え続ける一本の刀には―――もはや人の心さえ見えぬほど、暗くて黒い闇へと堕ちていた。

完全形変体刀・我刀(ガトウ)(ハガネ)』。
暗闇色の感情と復讐心という欲望による、最強最悪の暴走!





*****

夢見町の端、丁度入り口とも言える場所に彼はいた。

「鋼たちに会うのって久々だよなぁ」

そこにいたのは軽装の高校生くらいの少年だった。

「柳たちにも内緒な上、アポなしで遊びに来ちまったけど、まあいっか」

などと能天気ぶっこいている者の名前はもうおわかり頂けるだろう。

戦国の世から時空を越え、全ての因縁を断ち切った異端の炎術士。
その名は、元火影忍軍七代目頭首・花菱烈火!
次回、仮面ライダーブライ!

超絶暴走と紅蓮のチェリオとReverse/Re:birth





サカニビコンボ
キック力:20トン パンチ力:15トン ジャンプ力:150m 走力:100m4秒
身長:210cm 体重:92kg 固有能力:シェルフィールド カラー:黒
必殺技:シェルドポイズン

サソリヘッド
複眼の色は白。蠍の尻尾を模した『サソリニードル』から無数の猛毒針を射出したり、エネルギーを伝達することで巨大化・伸長させて縦横無尽な使い方が出来る。

カニアーム
両前腕部にハサミ型武器『カニシザース』が装備されていて、それら二つを合体させることで甲羅型防具『カニシールド』としての使用も可能。

エビレッグ
脚部分に海老の胸脚を模した『エビスナッチャー』という鉤爪が装備され、回し蹴りなどの威力が上がり、爪先からは多量極まる泡を吹き出す事も可能である。


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