「セグラント、エディ! こっちこっち」
 
 訓練が始まる前になんとか訓練場にたどり着いたセグラントとエディを迎えたのは
金色の髪を腰辺りまで伸ばした女性だった。

 女性の名をモニカ・クルシェフスキーと言った。

「よっす、モニカ。教官は?」

「まだ来てないから大丈夫よ。それよりもいつも遅刻ギリギリに来るのは止めてくれない?
貴方達が遅れると、チームを組んでる私まで怒られるんだから」

「すまんすまん。セグラントの奴が中々起きなくてよ」

 エディは笑いながらセグラントの背中を叩く。

 本当なら肩を叩きたいのだが、セグラントとエディの身長差ではそれは難しいのだ。

「セグラント、お前も謝っとけって」

「わりぃ」

 セグラントも謝るが、その態度に反省は見えない。

 そんな彼の態度にモニカの米神に青筋が浮かぶが、すぐに怒りをしまい溜息をついた。

「セグラントが起きれないのはいつもの事だから、もう慣れたわ」

 どうやらこの遣り取りもいつもの事のようだった。

 モニカも最初は怒ったり、色々対策を練っていたのだが、それら全てが徒労と終わった。

 例えば、目覚まし時計をセットしても鳴ると同時にセグラントに破壊され、逆に目覚ましが眠りに付く事となったのだ。

 それ以外にも様々な方法を試したが、結局は誰かが声を掛けるのが一番という事が分かった。

 それ以来、彼を起こすのはチームメイトであり、ルームメイトであるエディの仕事となったのだった。

 そのまましばらく三人で話していると、教官がやってきた。

「全員集まっているな。今回の訓練はナイトメア『グラスゴー』による模擬戦を行う。
尚、今回のナイトメアはシュミレーターではなく実機にて行う。また装備を変えたい者は私に言うように。質問は?」

 ナイトメアによる実戦、この言葉にその場にいる訓練生のほとんどが反応した。

 何故なら『ナイトメア』すなわち『ナイトメアフレーム』とは体長約6mの人型ロボット兵器であり、現代の戦争における花形と言える存在であるからだ。

 訓練生達は今までシュミレーターでしかナイトメアを動かしていなかったが、今回は実機である。
彼等が反応するのも分からないでもない。

 実機による訓練、それが意味するのは軍学校を卒業する日が近いという事である。

 ここで良い成績を残せば、それだけ軍での出世も早くなる。

 気合いも入るというものだ。

「うむ。それでは訓練を始める。……模擬戦闘の順番はこれまでの成績から判断した。呼ばれたチームから始める。
尚、順番は成績上位チームからだ。まずはBチームとDチームで行う。今呼ばれたチームは前に出ろ」

 セグラント達BチームとDチームが前に出る。
 
「セグラント・ヴァルトシュタイン、先に言っておく。壊すなよ?」

「イエス・マイロード」

 教官の言葉にセグラントも苦笑して答える。

 セグラントはその体格の通り筋力、中でも握力が強く、今までの訓練で幾つかの器物を破壊してしまっているのである。

 ちなみに、破壊した器物の中にはシュミレーターの操縦桿なども含まれているため、教官が注意するのも納得というものである。

「信じるからな。それでは総員騎乗!」

 セグラント達はナイトメアに乗り込む。

 操縦桿の調子を確かめ、機器に不備がないかを確認する。

『セグラント、作戦はどうする?』

『粉砕する。それ以外にあるのか?』

『エディ、聞く相手を間違っているわ』

『ならモニカ、何か良い案でもあるのか?』

『それは……』

『なら、いつも通りに行くぞ』

『そだな』

『そうね』

 セグラント達の通信に突如割り込みが入って来た。

『セグラント・ヴァルトシュタイン! 今度こそ勝たせて貰うぞ!』

 相手はDチームのリーダーである青年からだった。
 
 彼は何かとセグラントに勝負を挑んでくるのだ。
 
 ちなみに今までの結果は、今の彼の言葉で分かるだろう。

『まぁたお前かよ、ダン』

『ぬ、私はお前をフルネームで呼んでいるのだ! お前もフルネームで呼ばんか!』

『めんどくせぇよ』

『……教官、問題ないようなので始めて下さい』

 モニカが教官に模擬戦を始めろうよう進言する。

『そうか、それでは始め!』

 教官もこの遣り取りには慣れたもので即座に訓練開始の声をあげる。

『あ、まだ言いたい事があるのだぞ!』

 ダンが何か言っていたが、その場にいる全員がそれを無視し模擬戦を始める。

『それじゃあ始めましょうか』

『了解』

『おぅ』

 モニカの言葉に従い、三人が駆るナイトメアがダン達に接近していく。

 セグラントを先頭にモニカ、エディの順番である。

 この隊列が彼等のいつも通りである。

 すなわち、セグラントがランスで正面から吶喊し敵の連携を崩し、モニカがそれに続きスタン・トンファーで連携の崩れた相手を狩る。
そして、二人が討ち漏らした敵をエディがアサルトライフルによる射撃で仕留めるというものだ。

 これは各々が最も得意とする戦法を選んだだけなのだが、それが思いのほか上手くはまった為、以後使い続けていた。

『いつもと変わらぬ戦法か! その戦法は最早この私、ダン・モロレルには通用せん!』
 
 ダンは自分のチームメイトに指示を出す。

 ダン達は隊列を自ら崩し、セグラント達を各個撃破しようと目論む。

 この戦法は確かに連携を崩す事が出来れば打破することも可能だろう。

『お前、自分達まで連携崩してどうすんだよ……』

『あ』

『アホだ、アホがいるぞ』

『ごめんなさいね、ダン。私もそう思うわ』

『う、うるさい! 勝てばいいのだろう勝てば! 全員奮起せよ! セグラントは俺がやる!』

 ダンのヤケクソ混じりの言葉に彼のチームメイトも呆れながらも従う。

 少し間抜けな所が目立つが、それでもダン・モロレルという男が優秀であるという事を知っているからである。

『エディ、モニカ! ダンは俺がやる。後は任せる』

『なんだかんだ言って相手してやるのな。フクロにすれば早いのに』

『しょうがないわね』

 セグラントの言葉に従い、エディとモニカも隊列を崩し各個撃破を行う。

 勝負は一瞬でついてしまった。

 ダン率いるDチームはダン以外もそれなりに優秀なのだが相手が悪い。

 ダンのチームメイトはトンファーを構えながら急接近してきたモニカに反応できずコクピットに直撃を受け、
エディの正確な射撃により四肢を破壊され、両機とも大破扱いとなった。

『セグラント、こっちは終わったわよ』

『わかった。……だそうだが? ダン』

『ぬぅぅ。まだだ、まだ私がいる! 私がお前達全員を倒せばいいのだ!』
 
 ダンはそう叫ぶと、ランスを構える。
 
 セグラントもそれに合わせランスを構えた。

 両者の距離は約30m。

 先に動いたのはダンだった。

『ゆくぞ! セグラント・ヴァルトシュタイン! 我が槍を受けて見よ!』

 ダンはセグラントの機体のコクピットを狙い、真正面から突撃して来る。

 それを見たセグラントはランスを思い切り振りかぶり、ダンに向け、投げた。

『なぁ!』

『はっはぁ! 俺が真正直に受けるかよ!』

 ダンは飛来してきたランスを構えていたランスで弾く。

 ランスを弾いた事でダンの機体姿勢が崩れ、コクピット部分がガラ空きとなった。

 セグラントはガラ空きとなったコクピットをKMFの拳で思い切り殴りつける。

 セグラントのKMFで殴られたダンの機体はコクピットに大きなヘコミを造り、
大破扱いとなり試合終了のブザーが鳴る。

「勝者Bチーム! 全員降りていいぞ!」

 教官の声が訓練場に響き、模擬戦は終了となった。

 セグラント達が機体から降りると、教官がやってきてセグラントを見る。

「あいかわらず荒々しい戦い方だな。だが、今回は何も壊さなかっただけ良しとするべきか」

「はっはっは。俺だっていつも壊す訳じゃねぇ……ですよ!」

 ――ゴドン。

 セグラントがそう答えると同時に嫌な音が響いた。

 その場にいた全員の目が音の出所に向く。

 それはセグラントの乗った機体の拳が壊れ、地面に落ちた音だった。

『………………』

「あれ?」

「あ〜、やっぱりな。ただのグラスゴーであんな戦い方すればああなるよな」

「また私まで反省文か……」

「……セグラント・ヴァルトシュタイン。やはり貴様は訓練の度に何かを壊さんと気が済まんようだな」

「いや、そんな事は……」

「この『壊し屋』が! この件は君の保護者にも伝えておく」

「うぉぉぉぉ! 教官様ぁ! 何でもしますからそれだけは勘弁して下さい!」

 保護者という単語が出た瞬間にセグラントは教官に縋りつく。

「なら、さっさと卒業してくれ……」

 教官は心底疲れた顔を浮かべながらそう言った。







 後日、セグラントの必死の嘆願虚しく、父へと報告がなされ彼の下には父である
ビスマルクから手紙が届いた。

 手紙には短く一文のみが書かれていた。

『覚悟しておけ』



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