エディ・マクシミリアンの死。

 彼の死によりセグラントとモニカの戦い方に違いが現れた。

 セグラントは前のようにただ吶喊するだけでなく機を見ながら動き、
確実に敵機を討つ戦い方に変わり、モニカはセグラントの討ち漏らしを討つのではなく、
セグラントと連携を取りながら、挟撃の形で敵機を確実に狩っていく。

 確実に討ち、傷を負わない彼らに味方は希望を、敵は恐怖を見出した。

 EUとの戦争も佳境に入り、これからが本番になるという頃の出来事。

 セグラントとモニカはローディーに呼び出されていた。

 呼び出された要件に関しては直接伝えるとの事で知らされていない。

 二人は司令室へと続く廊下を歩きながら、話していた。

「急な呼び出しってどうしたのかしら」

「さぁな、お前何かやった?」

「それで呼ばれるなら私ではなく貴方でしょう? 貴方もそう思うでしょう、エデ……」

 モニカはエディに意見を聞こうとして、止まる。
 
 ――彼は既にいない。

 わかっていた筈なのに。

 つい、呼んでしまった。

 泣きそうになる彼女の頭に手を乗せ、セグラントは言う。

「そんな顔すんなよ。俺たちはアイツが羨む程に楽しくやると決めたじゃねぇか。
泣くなよ、泣くのは許されねぇ」

 モニカは頭に乗せられた手を軽く払い、

「なによ。貴方だって泣きそうな癖に。それに知ってるのよ、貴方がこの前エディの機体の前で泣いてたのを」

「なんで知ってんだよ!」

「え、本当だったの? 冗談で言ったつもりなのに」

「……知らん。さっさと行くぞ」

 セグラントは顔を赤く染めながらズンズンと大股で先に進んでいく。

 恥ずかしがる彼を見たモニカはクスリと笑い、彼に付いていく。

 ――エディ、セグラントも私も決して忘れないから。

 だから見てて。

 私たちが進む姿を。







 司令室の前まで来たセグラント達は扉をノックし、告げた。

「セグラント・ヴァルトシュタイン並びにモニカ・クルシェフスキー参りました」

「入ってくれ」

 司令室から入室の許可が下りたので二人が入ると、ローディーが腕を組みながら椅子に座っていた。

 彼の前には一枚の書類が置かれていた。

「司令、要件とはなんでしょうか」

 モニカが尋ねると、ローディーは唸りながら答える。

「皇帝陛下からの命令だ。セグラント・ヴァルトシュタイン並びにモニカ・クルシェフスキー両名を
本国によこせ、との事だ」

 皇帝陛下からの命令。

 その言葉にモニカは固まってしまい、額から汗を垂らしながら、尋ねた。

「し、司令。私たち何か問題でも起こしましたか?」

「いや、起こしていない。現在のお前らの戦働きは上々だしな。お前らの活躍がなければ
此処、西方の侵攻も遅れていただろう」

 ローディーの言葉にモニカは一先ず安堵の息を吐いた。

「それでは、何故本国へと?」

「それなんだが、喜ばしい事にお前らをナイトオブラウンズとする、と書かれている。おめでとう」

「「は?」」

 喜ばしい事に、と言っているがローディーの顔は苦虫を噛んだような顔をしていた。

 対して、ローディーから告げられた言葉にモニカとセグラントは固まっていた。

 ナイトオブラウンズ、それはブリタニア帝国の軍事に携わる者全ての憧れとなる存在。

 帝国最強を表す騎士達の集まり。

 その名を背負う者に敗北は許されない。

 ナイトオブラウンズの名が持つ意味を考えると、背筋に冷たい汗が流れる。

「司令、それは本当ですか?」

「本当だ。なんなら指令書見るか?」

 ローディーが指令書をモニカに手渡す。

 そこには確かにセグラントとモニカをナイトオブラウンズに任命する為、本国へ来いと書かれていた。

「俺たち、叔父貴……皇帝陛下に知られる程戦果上げたか?」

「今、聴き逃しちゃいけない単語が聞こえた気がするけど今は無視するわ。
そうよね、そこまで戦果を上げた覚えは無いわ。EUの重要拠点を落とした事も無ければ、
特別な任務をこなした覚えも無いわ」

「だよなぁ」

「お前ら、自分たちがどれだけの事をやっているか覚えてないんだな。コーラッド、教えてやれ」

「は。セグラント・ヴァルトシュタイン並びにモニカ・クルシェフスキー両名が今まで撃墜した
EUのKMFの数、312、EUの兵站基地破壊が8。確かに諸君らは重要拠点は落としていないが、
我が西方侵攻軍がここまでの速さを持って侵攻を進められたのには諸君らの活躍が大きい。
この件は総司令官であるシュナイゼル殿下も高く評価している。納得したか?」

 モニカは教えられた内容に唖然としていた。

「俺たち、そんなに壊しましたっけ?」

「壊してるんだよ。……お前さんの場合、コクピットの操縦桿破砕数も
断トツで一位だ。どうやったらEUに派遣されて三ヶ月で5回も壊せるかね、
まぁ、それは置いといて、おめでとう! 私もうれしいよ」

 ローディーはそういうが、顔は笑っていない。

 そんなローディーにコーラッドは言う。

「司令、喜ばしいというならばせめて笑ってください」

「そうは言うが、こちらとしては今、お前たちに抜けられるのは厳しいのだ。
まだ、戦争は続いているのだから。一応、後任というか代わりの人間が派遣されるらしいがな」

 ローディーはため息をつきながらそう言った。

 ローディーとしても自らの部下からナイトオブラウンズが二人も出るということを思うと
一軍人として嬉しく無い訳がない。

 しかし、ローディアン・テイガ―は一軍人であると同時に西方の侵攻において全ての兵士の命を
預っている司令でもある。

 その為、ここで西方侵攻において最も戦働きをしている二人が抜けるという事を考えると、
兵士の生存率が下がってしまう。この事を考えると、苦虫を噛み潰したような顔になってしまうのも
仕方ないと言えば仕方ないのかもしれない。

 本国も一応、そこら辺は考えているらしく、優秀な後任を送ると言ってきたのだが、
ローディーからすれば役に立つか分からない新人よりも、セグラント達を残してほしいのだろう。

「そうなんですか?」

「あぁ。ちなみにお前たちと同じように軍学校から直接送られてくる。
名前はジノ・ヴァインベルグと、アーニャ・アールストレイムだったか。役に立てばいいんだが……」

 ローディーは唸りながらそう言った。

 そこまで言って、ローディーは席から立ち上がり、セグラント達に手を差し出す。

「まぁ、愚痴はここまでにしよう。ここからは司令ではなくローディアン・テイガ―個人の言葉だ。
セグラント・ヴァルトシュタイン、モニカ・クルシェフスキー。君たちの事を私は誇りに思う。
おめでとう」

「「ありがとうございます」」










 司令室を出て廊下を歩いていると、前から一組の男女が歩いて来るのが見えた。

 男の方はセグラントと比べると低いが、それなりに長身でモデルの様な雰囲気の金髪の男。

 女の方は小柄で、ピンク色の髪を揺らしていた。

 二人はセグラント達に気がついたのか、彼らの方にやってきながら言った。

「先輩方、初めまして。先輩方の後任と派遣されましたジノ・ヴァインベルグと言います。
それで、こっちが……」

「アーニャ・アールストレイム」

 ジノは明るく挨拶をしてきたのに対し、アーニャは無感情に自身の名のみ告げた。

「あぁ、貴方達が。ところで何で先輩なのかしら?」

「なんとなくです。軍学校は別とは言え、先輩方は有名でしたから」

 ジノの答えにモニカも得心が言ったようで、なるほど、と呟いていた。

 二人の会話が続いている中、セグラントが適当に相槌を打っていると下からパシャリという音が響いた。

 視線を下に向けると、アーニャがカメラをセグラントに向け、写真を撮っていた。

「保存」

「あぁ? いきなり何だ?」

「すいません。アーニャの奴、気になる物があると何でも写真を撮っちまうんです」

「……写真は嘘をつかないから」

 そう言ったアーニャの顔には悲しみの表情が浮かんでいた。

 そんな彼女の頭に手を乗せ、適当にグシャグシャと撫でる。

「……!?」

「そんな泣きそうな顔すんな。お前の事はよく分からんが、まぁなんだ。頑張れ」

「セグラント、なに言ってるの?」

「俺も分からん」

 モニカのツッコミにセグラントは頭を掻きながら、答えた。

 そんな彼の様子にモニカはため息をついた。

「まぁ、いいわ。それじゃあ私達は行くわね。二人とも頑張ってね」

「死ぬなよ」

 セグラント達はジノとアーニャに激励の様な物を送り、二人と別れた。

「いや、噂通りだったなぁ。セグラント先輩マジで大きいというか、威圧感あったなぁ。
なぁ、アーニャ?」

 ジノはアーニャにそう言うが、反応は返ってこない。

 彼女の方を見れば、アーニャはグシャグシャになった頭のまま、フリーズしていた。

「アーニャ? おーい、かえってこーい」

 それから少しの間、ジノの声が廊下に木霊していた。



 

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