ナリタ連山にて完璧な奇襲を敢行した黒の騎士団は数多の反抗組織が集った組織であり
その中核を成すのは扇グループと呼ばれる小さな組織だった。彼らはそれこそ他の反抗組
織からみても蟻の如き、小さな組織だった。そんな彼らがこうして成長を遂げる事が出来
たのは一人の人物の影があった。その人物はどこからともなく現れ、ゼロと名乗り、他に
類を見ない知謀で彼等に勝利をもたらして来た。この勝利は絶望しかけていた、中小組織
に希望を与え、いつしか扇グループは黒の騎士団という一大組織に成長していった。
 
 黒の騎士団に所属する日本人達は 命を惜しんだ事は無かった。
自殺願望があるわけではない。ただ、知ってしまったのだ。
勝利の味を。
希望の色を。
彼等はゼロに希望を見出していた。
彼について行けば日本を取り戻せるのでは。
故に彼等はゼロに付き従う。
どのような策謀であろうとも、付いていく。

 しかし、当然の事ながら黒の騎士団の中には未だゼロに懐疑的な者が多数存在する。
ゼロはそんな彼等を完全に付き従える為に此度の無茶とも取れる作戦を敢行した。
神聖ブリタニア帝国第二皇女コーネリア・リ・ブリタニア率いる精鋭部隊への奇襲。
ゼロはこれを持って、黒の騎士団を完全に掌握したのだった。


 しかし、全てが計算通りとなることは無かった。
「なんなのだ! アレは!」
 ゼロ、ルルーシュは無頼のコクピットを強く叩いた。
彼は勝利を確信していた。自分はコーネリアを自らの策謀で孤立させていたはずだ。
有利に立っていたのはこちらの筈だった。

 だというのに目の前に広がる光景はなんだ。

 突如現れた紅い竜はその両の腕でコーネリアを囲んでいた無頼を掴み、
宙に持ち上げる。
「な、なんなんだ! テメエは! 離しやがれ!」
 掴まれた無頼のパイロットが掴まれながらも竜に対し、アサルトライフルを乱射する。
それに呼応するかのごとく、周りの無頼も射撃を始めるが、竜の装甲を貫く事は叶わず、
竜は無頼を掴んでいる腕に力を込める。それに伴い辺りに響く駆動音がまるで、飢えた獣
の唸り声に聞こえる。

 無頼の装甲が悲鳴を上げ、ひしゃげていく。

 ブラッディブレイカーに捕まった無頼のパイロットの名を鴻上と言った。
彼は下は他の中小組織の一員であり、最近になり黒の騎士団に合流した一人だった。
日本を解放する事を夢見て、戦ってきた。
当然、命は惜しい。
だが、それでも日本を取り戻したかった。
 日本を取り戻してみせる一心で戦ってきた。
 
 しかし、現状はどうだ。
突如として現れた謎の機体に掴まれ、アサルトライフルも通用しない。
周りの仲間が何かを言っている。
「鴻上! 早く脱出しろ!」
 鴻上は何度も、何度も緊急脱出装置のボタンを押す。
しかし、画面に表示されるのは脱出不可能の文字。
「ひ、ひい! 脱出装置が起動しない!? なんで!? ゼロ、助けて下さい!
ゼロ、助け……」
 鴻上の言葉は最後まで続くことは無かった。

 彼は機体と共に握りつぶされた。
KMFのオイルと人の血がブラッディブレイカーに降り注ぐ。

 セグラントは新たな獲物を求め、ブラッディブレイカーの緑色に輝く眼光を自身を取り囲む
無頼に向ける。ルルーシュが萎縮した団員に指示を出そうとした時、横の林が吹き飛び、
新たな機影が現れた。それは、白金の鎧を持つ騎士。
名をランスロットと言った。

「白兜まで現れただと!?」
「ゼ、ゼロ! 撤退しよう!」
 扇がルルーシュに進言する。ルルーシュもそれには同意だが、目の前の二機がそれを
許すかどうかが問題であった。すると、二機に動きがあった。


「なんだ、あの機体?」
 セグラントはクラウンと共にロイドを尋ねた際にランスロットを見ている筈なのだが、
彼の記憶からはさっぱり消えているようだった。
「あれは、特派の機体か」
「コーネリア殿下。ご存知なので?」
「ああ。セグラント卿、あれは一応味方だ。通信を入れてくれ」





 ランスロットを駆るスザクに通信が入る。通信は自身の前にいる異形の
KMFからだった。
「お前、特派のパイロットか?」
「はい、そうです! 貴方は?」
「ナイトオブツー、セグラント・ヴァルトシュタインだ。丁度いい、お前殿下を安全な所
まで連れていけ」
「ナ、ナイトオブツー!? 申し遅れました! 自分は枢木スザクと言います!それと、
殿下の撤退支援の件ですが、敵の数も多いのです。ここは自分も残り共同であたるべき
ではないでしょうか?」
 スザクは相手がナイトオブツーと知り、緊張するが、それでも提案できる辺り肝っ玉
の太さはセグラントと同等なのかもしれない。
 セグラントはスザクの提案に対し、
「いらねえよ。というか邪魔だ。さっさと殿下を連れていけ」
「……」
 どこからここまでの自信が湧き出るのだろうか。
「それに……。ナイトオブラウンズに敗北はない」
 そう言って笑うセグラントにスザクは己の目指す場所の高さを再認識した。
「というわけで。コーネリア殿下。ひとまずの撤退を」
「まったく。今が非常時でなければ不敬罪に問われても致しか無い会話だったぞ。
まあいい。セグラント卿、私からのオーダーは一つだ。凱旋してこい」
「イエス・ユアハイネス」




 ランスロットがコーネリアの乗るグロースターを護衛しながら撤退していく姿を尻目に
セグラントはブラッディブレイカーを一歩前に進ませる。
「さぁ。前に出てこい! 反抗したんだ。殺られる覚悟ぐらいあるだろう! 
かかってこい!」
 セグラントの咆哮に彼を取り囲む二十機の無頼は一歩下がる。
一歩下がった彼等に対し、セグラントは歯を剥き出しながら笑い、
「来ねえのか? なら噛み砕いてやるよ!」
 ブラッディブレイカーは己の持つ武装を全解放した。

 そこから始まったのは戦闘ではなく、殲滅戦。
ブレイカーアームがその巨大な腕を振るい、すぐ横の無頼を掴み、地面に叩きつけ、伏し
た相手をその足で踏み砕く。
 正面に布陣した三機の無頼からアサルトライフルによる一斉射撃は両後ろ足に装備され
ているフリーラウンドシールドが防ぎ、射撃を完全に防御した。半ばパニック状態に陥っ
た三機の無頼は弾倉が空になるまで撃ち続け、銃口から弾丸が出なくなっても狂ったかの
ように引き金を引き続ける。そんな彼等をあざ笑うかのようにブラッディブレイカーの顎
が大きく開かれ、まず真ん中の一機に噛み付き、天高く持ち上げ、そのまま噛み砕いた。
 噛み砕かれた無頼だった物が轟音を立てながら地に落ちていく。その様子に残る二機の
動きが完全に止まってしまう。セグラントがその隙を見逃す筈がなく、彼は横に展開して
いたフリーラウンドシールドからブレイカーユニットを出現させる。現れたブレイカーユ
ニットの形は例えるならば鋏だろう。刃の部分は似ても似つかないほどに凶悪な物である
が。
 展開されたブレイカーユニットを見て、
『なんだよ、それ……』
 誰が言ったのだろうか、それは分からないが現れたブレイカーユニットによって残され
た黒の騎士団の士気は完全に破壊された。

 最初に背を向けたのは誰だったか。
一人がブラッディブレイカーに対し背を向け、逃走を計り始めた瞬間にその場に残る殆ど
の無頼は我先にと逃げ始めた。
 しかし、
『誰が逃がすなんて言った!』
 セグラントの咆哮が響き渡り、二つのブレイカーユニットが二機の無頼をその鋏に捕ら
え、持ち上げ、切断した。

 ブレイカーユニットで捕らえる事が出来なかった無頼は背中に装備されているガトリン
グガンにより、後ろから撃ちぬかれ蜂の巣となった。 

 数分後にはコーネリアを囲んでいた無頼二十機も残るは四機のみとなっており、破壊
された無頼達により地は赤く染まっていた。残ったのは黒の騎士団の内でも核を成して
いる扇グループ位の物だった。

『ゼ、ゼロ! どうすんだよ!?』
「少し、静かにしていろ!」
 玉城が半ば悲鳴を上げながら、ルルーシュに尋ねる。
既にルルーシュの中からは勝利の二文字は消え去り、あるのは如何に損害を少なく撤退を
行うかに移っていた。思考を続ける彼に一つの通信が入る。
『ゼロ、殿は私がやります』
 それはカレンだった。
カレンの駆るKMF紅蓮は新型であり、性能も高く、またパイロットの技能も高い。
本来ならばカレンに任せ、撤退を行うのだが、彼にはカレンが目の前の化物に勝てると
は思えない。ここでカレンを失うのは余りにも大きな損害。しかし彼女以外にこの場で
殿を務められる人物はいない。
『ゼロ、いかせてください!』
「……すまん。カレン、殿を頼む! ただし必ず帰ってこい! お前は黒の騎士団の
エースなのだからな!」
『はい! 紅月カレン、いきます!』
 カレンの駆る紅蓮がブラッディブレイカーに向かっていく。
「よし、アレはカレンに任せ、我等は撤退する」
『待てよ、カレンを見捨てるのか!?』
 玉城が再び叫ぶが、
「ならばお前が殿を務めるか?」
 というルルーシュの言葉で静かになった。




 セグラントは自身に迫ってくる紅蓮に密かに感心していた。
「単騎か! 上等だ!」
 紅蓮は装備しているアサルトライフルを狙いを付けること無く乱射する。アサルトライ
フルがブラッディブレイカーに通用しない事は分かっている為、撹乱に使ってきたのだ。
 カレンの狙いはただ一つ。
紅蓮の右腕に装備されている武装『輻射波動機構』による一撃粉砕。
紅蓮に搭乗したのはこれが初めてではあるが、この武装があれば並大抵の敵には負けはし
ない、と考えていた。事実、コーネリアの親衛隊もこの武装で何機かは撃破してきたのだ
。仮に倒せなくとも損傷を与える事は出来る。そうすれば撤退が簡単になる。カレンはそ
う判断を下し、ブラッディブレイカーに特攻を敢行した。
 弾倉のもつ限り弾を撃ち続け、視界を奪い、距離を詰めていく。
ブラッディブレイカーはフリーラウンドシールドを広げ、その射撃を防ぐ。そして、遂に
カレンは輻射波動の射程内に踏み入った。
『貰った!』
 カレンは勝ちを確信し、輻射波動のスイッチを入れる。
しかし、何も起きない。目の前の敵に対し、輻射波動が打ち込まれないのだ。
『どうして!? なんで輻射波動が……!』
 戸惑う彼女の耳に通信が入る。
『狙いは良かった。だが、分り易すぎだ』
 通信の相手は目の前の機体からだった。
通信は音声のみで顔は表示されていない。
 カレンが視線を上に向ければ、そこには紅蓮の右腕をブレイカーユニットで切り取り、
挟んでいるブラッディブレイカーの姿があった。
「嘘……」
 切り取られた輻射波動機構がついた右腕が地面に落ちる。
「ここまでだな。よく戦った、とだけ言っておこう」
 セグラントはそう言い、ブレイカーアームを紅蓮に向ける。
「ごめんなさい。ゼロ……」
 目を瞑り、覚悟を決めた時だった。後方からアサルトライフルの弾が飛んできた。
ブラッディブレイカーはそれをフリーラウンドシールドで防御するが、その動作により、
一瞬だがセグラントの意識が射撃の飛んできた方に移る。その隙にカレンは紅蓮を駆り、
後方に退いていく。
『無事か! カレン!』
 射撃を行ったのはルルーシュの駆る無頼だった。
「ゼロ!」
 紅蓮は無頼の横に付くと、セグラントの方を警戒しながら撤退を開始した。
当然セグラントは追うつもりであったが、モニターに目を移せばエナジーフィラーが切れ
かけていた。
「ちっ、動けるようになってもまだこの程度か。クラウンに頼んで予備動力も積むと
するか」
 彼はそういうと、切り取った紅蓮の右腕を顎に咥え、本陣へと帰陣した。
 









 本部に帰還したセグラントを迎えたのはクラウンの満面の笑みと不満そうな顔をした
ロイドだった。
「見ろ、ロイ坊。お前ご自慢の機体は役にたたず、私のブラッディブレイカーの独壇場
だったではないか」
「もっと早く許可が下りていれば結果は逆でしたよ」
「小僧が言いおる」
「そろそろ小僧を卒業したいのです。スザク君、もっと頑張ろうか」
「え、あ。すいません、ロイドさん。でも、セグラント卿のご命令もありましたし」

 スザクがロイドに対しモゴモゴ言うのを尻目にセグラントは紅蓮から切り取った腕を
クラウンに引き渡し、確認をとっていた。
「クラウン。この腕はなんだ? 取り敢えず拾ってきたんだが」
「これは、何処かで見たような……。何処だったかな」
 クラウンはこめかみに指をやり、考え始める。
こうなると彼は思考の海に沈んでしまうのは分かっているので、セグラントは適当に休憩
でもとろうとした時だった。
「すいません!」
 振り返ると、そこにはスザクが立っていた。
「なんだよ?」
「一つ教えていただきたい事があるのですが」
 そう言った彼は真っ直ぐにセグラントの目を見つめ、
「貴方が目指す物はなんですか?」
 そう尋ねた。
「なんでそんな事を聞く」
「知りたいからです。僕には大きな夢、望みがあります。その為に」
「……。俺が目指す場所は……」
 セグラントは一度空を見上げ、目を伏せる。
その姿はまるで既にいなくなってしまった誰かを思い出しているように見えた。
セグラントはそのままスザクに背を向け、歩き出す。
「セグラント卿」
「枢木。俺が目指すのは帝国最強だ」
 そう言って手をヒラヒラと振り、彼は自身のトレーラーへと向かっていった。
去っていく彼の背をスザクは見続けた。



 

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