どのような軍事行動であれ、起こしたからには後始末というものが存在する。
 今回のナリタ連山では黒の騎士団という第三者の介入により、数多くの犠牲者が出てし
まった。生き残った者達は亡くなった戦友達を弔うために土砂と向かい合う。
 その中には特派の枢木スザクの姿があった。
 苦渋を浮かべながらも一心に土砂を掘り続ける彼にこの場にそぐわない暢気な声がかけ
られた。
「スザク君。死体発掘は順調かい?」
「ロイドさん! そういう言い方は不謹慎ですよ」
 セシルが注意をするがロイドは何故不謹慎なのか分からないのか、首を傾げる。
「どうしてだい?」
「教えてあげましょうか?」
 ロイドに微笑を浮かべながら近づくセシル。
 その影には鬼が見えた。
 スザクは二人のやりとりに苦笑を浮かべながらもその手を休める事はない。
何もせずにいたら、行きどころの無い怒りで大声を上げてしまいそうだった。
 
 手を動かす彼の視界に一人の大男が映った。
「セグラント卿」
 セグラントはその手に巨大なスコップ――というかKMFの装甲に鉄棒を組み合わせた何
か――を持ち、土砂を掘っていた。
「ん。特派のパイロットか。何か用か?」
「い、いえ、ナイトオブラウンズの方がいることに驚いただけです」
「ナイトオブラウンズとはいえ俺も一人の戦士だ。面識は殆ど無かったとは言え、同じ国
を守る戦友(とも)達だ。そのままにしておくのは忍びないと思ってな」
 セグラントはスコップを動かし続ける。
 そんな彼にスザクは聞いてみたかった事を聞くこととした。
「ロイドさん、セグラント卿。ゼロは、黒の騎士団は何をしたいのでしょう? こんな犠
牲の上に何が出来ると思っているんでしょうか?」
「そりゃあ正義じゃない? 正義の味方だって自分で言ってたんだから」
 ロイドは軽くそう答え、セグラントは一旦手を止め、空を仰ぎ見ながら、
「知らん」
 端的に答えた。
「セグラント卿。自分は真面目に聞いてるのですが……」
「真面目に答えているさ。知らん物は知らん。ゼロとか黒の騎士団が何を考えているのか
そんなことは知らん。分かるのは、ただ俺に、ブリタニアに牙を剥いたって事だ。牙を剥
いたからには俺は誰であろうと噛み砕く。それだけだ」
 それだけ言うと彼は再びスコップを動かし始める。
 スザクはセグラントの答えに一瞬呆け、直ぐに自身も手を動かすのを再開する。

 再開された作業は一つの声によって中断される事となる。

「セグラント卿! ここに居られましたか」
「どうした?」
「はっ! コーネリア殿下がお呼びです。急ぎベースにお戻りください」
「分かった。じゃあな枢木。ああ、そうだ。お前俺の代わりにここの土砂掘ってくれ」
 セグラントは自身を呼びに来た兵士に巨大なスコップを渡し、去っていった。
 残されたのはいきなり巨大なスコップを渡され、重そうにしている兵士とスザク達だっ
た。
 残されたスザクは取り敢えずヨロヨロしている兵士に
「スコップ交換しましょうか?」
 とだけ言った。



「ナイトオブツー、参上しました」
「うむ。入ってくれ」
 許可が出たことで部屋の中に入ると中にはコーネリアとユーフェミア。
そしてギルバート、ダールトンがいた。
 コーネリアは席から立ち、セグラントに一礼をする。
「セグラント卿。まずは感謝を。貴君の活躍で私はこの通り五体満足で帰還できた。
感謝する。……さて、早速だが本題に入らせてもらおう。ギルバート」
「は。今回の作戦においての目的は日本解放戦線の殲滅でしたが、黒の騎士団の介入によ
り日本解放戦線における一部の上層部の逃走を許してしまいました。その中には頭である
片瀬と藤堂とその部下四名も含まれています。ここで彼等の逃走を許せば再び我等の前に
立ち塞がるは必定。その為、急ぎ片瀬並びに藤堂等を捕縛する必要があります」
「あ〜、そいつらの逃げる先とかは分かんのか?」
「問題ありません。既に陸路は抑えてありますので彼奴等が逃げるには海路しかありませ
ん。現在、周囲一帯の港を捜索していますので直ぐに捕捉出来るでしょう」
 ギルバートは一旦言葉を切り、コーネリアに視線を向ける。
 コーネリアは頷き、
「ついてはセグラント卿。再び貴君の力を貸していただきたい。今回の黒の騎士団の卑劣
極まりない行動で我が軍は少なくない損害を負ってしまった。しかし、この機会を逃す訳
にはいかない。そこで貴君の名を使わせてもらう」
「つまり、下がった士気を上げるための看板になれ、と?」
「その通りだ。頼めるか?」
 セグラントは腕を組み考える素振りを見せるが直ぐにそれを止め、
「了解しました。看板の任受けましょう」
「すまんな」
「構いません。一応自分の機体も持って行きます」
「ああ、頼む。それでは解散だ」


「待ってください」
 セグラントが部屋から出ると、後ろから声がかかる。
「ユーフェミア殿下。なんでしょうか?」
「いえ、お礼を」
「礼?」
「はい、お姉さまを助けていただきありがとうございました」
 深々と礼をするユーフェミアにセグラントはどうしたものか、と思うが此処は素直に礼
を受け取る事とした。
「頭を上げてください。殿下。今回コーネリア殿下救出には特派のパイロットの活躍があ
ってこそ。その特派に出動命令を与えたのは殿下自身。殿下が俺、自分に礼をする必要な
どありません」
「それでもです」
 ユーフェミアはそう言って再び頭を下げる。
 どうにも居心地が悪くなったと感じたセグラントは二言三言会話をし、その場を後に
した。



「クラウン。調子はどうだ?」
 専用のトレーラーに行くと、セグラントが持って帰ってきた紅蓮の腕を見ながら何かを
考えているクラウンがいた。
「おい、クラウン!」
「ん。おお、セグラント君。すまないね、少し考え事をしていた。どうしたんだい?」
「いや、ずっとその腕の前で唸ってるからよ。何か分かったか?」
「……分かったというより思い出したが正しいね。この腕どこかで見たことがあると思っ
たら昔、ロイ坊と一緒の研究室にいた奴がこんなのを開発してたな、と思い出してね」
 クラウンはどこか懐かしむようにシミジミと言った。
「へえ、そいつの名前は?」
「ラクシャータ。ラクシャータ・チャウラー、彼女もまた天才だった。私がラク嬢と呼ぶ
と嫌そうな顔をしていたがね」
「ふーん。そのラクシャータって奴の発明を敵方が持ってるって事は……」
「恐らくは黒の騎士団にいるんだろうね。彼女も自身の発明を使ってくれるなら相手は問
わない性質だったからね」
「ブリタニアじゃ駄目なのか?」
「ブリタニアにはロイ坊がいるからな。あの二人は仲が悪くてね。見ている分には楽しい
のだがね。まあ元気でいるということが分かっただけ良しとしよう」
「まあいつか会えるだろうよ」
「それが処刑の時でなければいいんだがね」
「そればっかりは分からねえな」
「そうだねえ。ああ、話を変えるけれどブラッディ・ブレイカーはどうだった?」
「悪くないどころか最高だ。まあ稼働時間が短いのがネックだが……」
 セグラントの感想にクラウンは笑う。
「やっぱりそこか。でも安心してくれ。既に新型動力の構造は大体理解した。もうしばし
待っていてくれ。追加武装となるがエネルギーパックの様な物を造る予定だ。そして、
もう一つ武装の開発を並行して行っている。こっちはまだ秘密だ」
「気になるじゃねえか。まあいいや。信頼してるぜ、博士」
「任せておけ」



 片瀬等が潜伏しているタンカーの居場所が判明した、と連絡が入ったのはそれからしば
しの日にちが経ってからだった。
 セグラントはブラッディ・ブレイカーを載せたトレーラーでコーネリアの軍の後ろに待
機していた。コーネリアは全軍に通信を入れる。
『勇敢なる騎士達よ。これより我々は日本解放戦線の首領片瀬、並びにその部下を捕縛す
る。何があろうとも恐れるな! 後ろにはナイトオブツー、セグラント卿が控えている!
現地に到着したならば事前に説明した通りに展開しろ。そして私の合図で行動を開始する
ように。分かったか!』
『イエス、ユア・ハイネス!』


 
 港に到着したコーネリアの軍は精鋭の名に恥じぬ速度と練度を持って部隊を展開し、
後はコーネリアの合図を待つのみとなった。
 コーネリアの駆るグロースターがサッと手を上げ、振り下ろした。
 部隊が片瀬のタンカーを拿捕せんと、飛び出していく。
 それに伴い、何機かの無頼が気づき迎撃に当たる。
 そこかしこで銃撃戦が繰り広げられる。
『片瀬を逃がすな!』
 コーネリアの号令の下、タンカーに接近しようとするが、無頼がそれを阻む。
そうしている間に片瀬を乗せたタンカーが出航を始める。
『マズイ! このままでは逃げられるぞ! 逃がすな!』
 ギルバートが叫ぶが、既にタンカーは沖に出てしまった。
 しかし、次の瞬間。
 片瀬を乗せたタンカーが光り、爆発した。


 突如大爆発を起こしたタンカーにその場にいる全員の動きが一瞬止まる。
 その一瞬が命取りとなった。
 大爆発を起こしたタンカーにより津波が引き起こされたのだ。
 津波は敵味方関係なく飲み込み、流していく。
 助かったのは一瞬の内に何が起きたのか理解した者達だけだった。
「まさか、自害するとは……! 態勢を立て直せ!」
 ギルバートの叱咤が飛ぶ。
 しかし、悪い事というのは重なる物である。
『見ろ! ブリタニア軍の足並みは乱れたぞ! 黒の騎士団よ、ブリタニアに鉄槌を!』
「黒の騎士団だと!? こんな時に!」
 横合いから現れた黒の騎士団に乱れていた足並みが更に乱れる。
 コーネリアは何とか立てなおそうとするが、横から黒の騎士団による猛攻を受けては
立て直すのにも時間がかかる。
 後方からそれを確認していたセグラントはクラウンに声をかける。
「クラウン、出られるか?」
「勿論。稼働時間に気をつけてくれ」
「ああ、往ってくる」



 黒の騎士団の猛攻は足並みの乱れたコーネリア達の戦力を少しづつだが削っていく。
ギルバートやダールトンといった猛者は攻撃を上手く凌いでいるが、彼等の部下はそうで
はない。
『死ねえ! ブリキ野郎!』
 黒の騎士団の無頼が振るうスタントンファーがコクピットに直撃せんとし、兵士は目を
瞑るが、いつまで経っても衝撃は来ない。
 恐る恐る目を開くと、そこには自身を狩ろうとした無頼の姿はなく、
いたのは一機の異形。
 異形は無頼を咥え、噛み砕いていた。
『セ、セグラント卿! 助かりました!』
「おう。さっさと戦友を拾って下がれ」
『イエス、マイロード!』



『ゼ、ゼロ! 奴だ! 魔竜が出てきた!』
 玉城の悲鳴混じりの声を聞きながらルルーシュは仮面の中で苛立ちを露にする。
「(くっ、奴が現れる前に何とかして藤堂等を連れて行きたかったのだが……っ)
全員に告げる! 魔竜とは戦うな! 撤退だ!」
 ルルーシュは指示を飛ばしながら、目の前のブラッディ・ブレイカーに通信を入れる。
『初めまして、私の名はゼロ。貴様は一体何者だ?』
 画面の奥の男は歯を剥きながら笑った。
「初めましてだ、ゼロ。俺はナイトオブラウンズが一席。ナイトオブツー、
セグラント・ヴァルトシュタインだ。ここでお前を噛み砕けば全ては終わる」
『(ヴァルトシュタインだと……?)それは困るな。私にはまだやることがあるのだ。
今日はここで失礼させてもらおう』
 ルルーシュはそう言い、無頼を反転させ、その場から立ち去る。



 セグラントは去っていく黒の騎士団を見ながら、コクピットでぼやいた。
「あー、本来なら追いたい所だが、今のコイツじゃ追う距離にも限界があるからな。
クラウンに早いところエネルギーパックを造ってもらわなくては」



 

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