ゼロ率いる最大の反ブリタニア勢力『黒の騎士団』の姿が世間から消えてから幾月が
経とうとしていた。黒の騎士団という世間の注目を集めていた勢力が消えようとも、
世界から戦乱が消えることは無かった。

 むしろ消えるどころか、世界各地の反ブリタニア勢力による行動は過激となった。
 これは、今まで黒の騎士団という組織が他の組織よりも頭ひとつ抜きん出ていた事と、
彼等ならばやってくれるのではないだろうか、という他の組織が考えた事で抑制されて
いた物が黒の騎士団の消滅という出来事により再度、爆発した事に原因があった。
 
 そのため、神聖ブリタニア帝国としてもこれを放置することは出来ず、自身らが
支配している領地に出没した反抗勢力の対処に追われていた。
 
 そして、その中には皇帝シャルルの剣であるナイトオブラウンズの姿もあった。

 
 中東、現在はエリア18と呼ばれている場所でもまた爆炎と土煙、そして兵士達の
叫びが響いていた。

「進めー! ブリタニアの奴らを追い出すんだ!」
 
 エリア18における最大の反抗勢力『砂の蠍』の一部隊を指揮する男の指示が飛ぶ。
 砂の蠍は元はエリア18、いや中東における諸国の軍人達で構成された組織であり、
構成員の殆どを元軍人である事から練度も高く、またゲリラ戦を得意とするため、
これまでブリタニア帝国としても壊滅させる事の出来なかった組織である。

 この砂の蠍も黒の騎士団の勢いがあった時は動きを潜めていた組織の一つであり、
その間に着々と自身らの戦力増強を行なっていたのだった。
 
 そんな彼等が動き出したのには当然だが、理由があった。
 それは、黒の騎士団が壊滅してから幾日が経ったある日、彼等の下にある品が送られて
きたのである。差出人はイニシャルのみで『R・T』とあり、品の中身は最新型というには
古いが、それでもブリタニアの主力機であるグラスゴーの性能を大幅に超える機体の
設計図とサンプル機が送られて来たのだ。

 そして、設計図の最後にこう書かれていた。

『この設計図はあげるわ。これを使うかは貴方達次第。もしも使うのであれば、こちらが
指定した日に必ずブリタニアに攻撃を仕掛けて欲しい。R・T』

 これを見た砂の蠍のメンバーも最初はこれに従うつもりはなかった。
 だが、設計図の内容を見た幹部の判断により、この謎の指示に従う事としたのだった。

 そうして完成したのが今、ブリタニア軍に対し猛攻を仕掛けている機体『スコルプ』
である。このスコルプは鋭角的なフォルムを持ち、右腕に鋏のような武器と
スラッシュハーケンの先が蠍の針の様になっている機体だった。
 またこの機体は砂漠戦が考慮されており、軽装甲に加え、ランドスピナーも砂漠仕様に
開発されていたため、本来ならば足を取られ機動力の落ちる砂漠において、従来以上の
速度を出す事が可能となった、正に彼等の為にあるような機体だった。

 スコルプを戦線に投入してからというもの、砂の蠍の戦果は素晴らしいの一言に尽きた。
 それに伴い、砂の蠍の士気は最高潮となったいた。
 砂漠仕様に換装しているとは言え、従来の速度と性能を出しきれないブリタニア軍のKMF
部隊を面白いように打破出来たのだからそれも当然であろう。

 砂の蠍の幹部の一人であるイドゥもまたスコルプの中で笑っていた。

「やはり素晴らしいな。この機体は。あのブリタニアがまるで赤子のようではないか。
これならば我等の土地を取り戻す日も遠くは……」

「イドゥ様! 報告します!」

 イドゥが一人ほくそ笑んでいると、突如通信が入る。
 故郷を取り戻す光景を思い浮かべていたイドゥはそれを邪魔された事で少し言葉に棘が
入ってしまう。

「……何事だ」

「は。南西にあるブリタニア軍の基地から新たに一部隊出てきました。ご指示を」

「部隊? KMFか?」

「恐らくは」

「ならばいつも通りだ。砂漠こそ我等のホームグラウンドだ。牽制を加えつつ、砂漠地帯
に引き込み、殲滅しろ。いいか、くれぐれも舗装された場で戦おうとするなよ。
我等の戦い方を貫き、奴らを粉砕しろ」

「了解しました。第三小隊、私についてこい!」

 その言葉を最後に通信が切れ、イドゥのカメラの五機のスコルプが疾走していくのが
映る。

 ……五機か。少なすぎるか? 一応援軍の準備は進めておくか。

「本部、私の下に全スコルプ小隊を集めておいてくれ」




 セグラントは自身の愛機、ブラッディ・ブレイカーの中で目を閉じていた。

「……きたか」

 通信から砂の蠍の一部隊がこちらに向かっている事を確認した彼は目を開く。
 
「全機に告げる。敵の新型は我等が受け持つ。伏兵や何かしらの仕掛けがあるかもしれん。
各部隊はそれらの対処に回れ。ダールトン、出るぞ」

「はっ。全機、セグラント卿に続け!」

『イエス、マイロード!』

 ダールトンの言葉にセグラントの部隊員である10人全員の返答が帰ってくる。
 その返答に満足したかのようにダールトンは頷く。





 スコルプ一小隊を率いた小隊長はまず目を疑った。

 敵のKMF部隊はまたグラスゴーとサザーランドを組ませた物だと思っていたからだ。
 だが、実際に目視できる位置まできた時、彼は思わず声を上げてしまった。

 何故なら、向こうから駆けてくる機体は戦闘に真紅の魔竜、そしてそれに続くのは
これまた人型から外れた狼型のKMFだったからだ。

「真紅の竜に、狼の機体……。ゾディアック隊か!」

 小隊長は相手の部隊を確認するやいなや本部に通信を繋ぐ。

「本部! 敵はナイトオブツー率いるゾディアック隊です! 至急、援軍を!」

「小隊長! 接敵まで距離250です!」

「ちぃ。各機、戦闘態勢! 砂漠ではこちらに地の利がある! いくらナイトオブラウンズ
と言えども恐るに足らず! 我等の力みせてやれ!」

「「「「はっ!」」」」




 砂の蠍のスコルプがこちらに銃を向けると同時にセグラントは声を出す。

「各機、いつも通りに行くぞ。いいか、必ず二機で一機を狩れ。これは騎士の戦い
ではなく狩りだ! ゾディアック隊、戦闘開始!」

 檄が飛ぶと同時に10機のコマンドウルフは二機で一組となり、スコルプに襲いかかる。
 一機が敵を撹乱するようにジグザクに動きながら、距離を詰め、ペアである機体は前で
囮を務める機体の影を最短距離で進む。

「速い! ここは砂漠だぞ!? 何故、そこまでの速度が出る!」

 スコルプに乗る兵士はジグザクに動くコマンドウルフに意識を向けてしまう。
 そして、その意識の隙を付き、もう一機が後ろに回りこみ、背中に取り付けられている
二門の6連装大型ガトリングガンが敵機に穴を開ける。

 戦闘の結果だけをいうならばゾディアック隊の完勝であった。
 砂の蠍はスコルプという機体に絶対の自信を持っていたが、コマンドウルフはそれを
軽く凌駕していた。通常のKMFと違い、四足歩行という形態を取ることにより、
砂漠という本来ならば足を取られるであろう不利な地形を無視したのである。

 また、必ず二機で動くという事も大きかった。
 一機に狙いをつければもう一機が。他の敵機が援護しようとすれば他の二機がそれを
妨害する。それは正に完全に統制された一つの群れだった。

 群れは先頭に立つ魔竜によって統制され、ゾディアック隊という部隊が完成してから
誰一人として欠けた事はない。それがまた群れに自信を与え、戦果を上げる。

 今までのブリタニアには無かった戦法だが、最早それを誹るものは存在しなかった。


 敵部隊を全滅させた後、セグラントは本営にて休憩を取っていた。
 馬鹿みたいに不味い軍のコーヒーに顔を顰めながら飲んでいると、

「ここにいましたか、セグラント卿」

「ダールトンか。コーヒー飲むか?」

「後でいただきましょう。それよりも報告する事が」

「ん?」

「どうやら、再び現れたようですよ」

「何?」

 何が、再び現れたのか。
 セグラントはそれを聞かない。

 なんとなくだが、分かるのだ。
 眼の前の副官にこの様な苦々しい顔をさせる人物などそうはいない。

 奴が、ゼロが出たのだと。

「ゼロは処刑された筈だろう? 叔父貴が直々にやったって聞くがな」

「自分もそう聞いておりますが。ですが、これを」
 
 ダールトンはそう告げ、一つの映像をだす。
 それには声は無かったが、確かにあの仮面が写っていた。

「……ホンモノか?」

「さあ。ですが、無視は出来ませんな」

「ああ。ダールトン。本国に戻るぞ。砂の蠍も後は後続に任せて問題ないだろう」

「は。ゾディアック隊に帰還の旨、伝えてきます」

 ダールトンは一礼し、走り去る。
 そんな彼の背中を見送りながら、セグラントは一人つぶやく。

「……叔父貴は何を考えている。……きな臭くなってきやがった」



 

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