ゼロの復活。
 ブリタニア帝国に対する最大の反抗勢力、その首領の復活。
 ゼロが復活した事により世界は再びざわめきだした。

 ゼロは復活を大々的に世界に公表すると同時に一度は潰えた『合衆国日本』の再建を
宣言したのである。ブリタニア帝国としてこの宣言を見逃せる筈もなく、本国並びにエ
リア11におけるブリタニア行政府はその対応に追われていた。

 そして、本国は先のブラックリベリオンにて捕縛していた黒の騎士団主要メンバーの
処刑を早める事を決定した。

 結論だけ言おう。
 処刑が行われる事は無かった。
 黒の騎士団残党とゼロ、そしてゼロの策謀によるものだった。
 
 この結果にブリタニア帝国本国、いや皇帝シャルルはある判断を下す。
 その判断とはエリア11新総督としてとある少女を派遣するという事だった。
 その少女の名をナナリーと言った。

 
 太平洋上をブリタニア帝国の国旗を掲げた艦隊が進んでいた。
 艦隊は中心に旗艦を置き、その回りを護衛艦が囲うという形であり、上空には空中護
衛艦隊を配置した正に鉄壁というべき配置である。

 旗艦の中にある貴賓室にて一人の少女がいた。
 彼女こそがエリア11の新総督として派遣されたナナリーである。
 
 ナナリーは車椅子の上で繰り返し深呼吸をする。

 これからの自分がどうなるのか、それを考えるだけで体がこわばる。
 それを何とかしようと深呼吸を繰り返すが、すぐにまた嫌な考えに身を囚われる。
 先程からそれの繰り返しだった。

「……おにいさま」

 敬愛するべき人物の顔を思い浮かべる。
 こんな時に兄がいてくれたら。
 常に自分を支えてくれた兄がいてくれたら。

 いつしかナナリーは兄の事ばかり考えていた。

「ナナリー様。よろしいでしょうか?」

 扉の奥から声を掛けられ、ナナリーは背筋を真っ直ぐに伸ばし、毅然とした声を出す。

「どうぞ」

「失礼します。ナイトオブラウンズの方が到着されました」

 自身の侍従であり、監視役でもある人物が一歩下がると同時に一人の青年が歩を進め、
ナナリーの前で膝をつく。

「ナイトオブセブン、枢木スザク。只今より護衛の任に着任します」

「はい。よろしくお願いします」

 ナナリーは突然現れた旧知に息をのむが、直ぐにそれを隠す。
 正直に言ってナナリーは今の彼が少しだけ怖いのだ。

 目が見えないからこそ感じるものがある。
 今のスザクは昔の彼と違い、野心に溢れているのだ。
 肌をさすようなギラギラとした感情にナナリーは知らずの内に喉を鳴らす。
 
 だが、それを表に出す事だけはしない。
 ゆえに心の内で自身をいつも勇気付けてくれる呟く。

(おにいさま…………)





 場所は変わり、セグラントは今モニカと共に中華連邦へと派遣されていた。
 この国は皇帝ではなく天子を中心に据え共同主義的な統治を行なってきた国である。
 
 共同主義による統治は一見すると良く見えるが、その裏では大宦官と呼ばれる者達の
専横が目立っていた。しかし、その専横もそこまでは酷くはなかった。
 それは一重に名君と称された天子の存在があったが為である。

 だが、その名君は最早この世にはいない。
 今の天子――名を蒋麗華という少女――は未だ歳幼く、政治的判断が難しい状況に
あった。これを機と見た大宦官達はこぞって表に出始め、国を己の好きに回し始めた。
 
 そして、大宦官達が己の富を守らんとする為にうった手が天子をブリタニア帝国へと
政略結婚の駒とすることだった。
 その政略結婚の相手に選ばれたのがブリタニア帝国第一皇子オデュッセウスだった。
 オデュッセウスは気質は穏やかであり、善人ではあるが、その政治能力に疑問を持た
れる人物ではあるが第一皇子という肩書きの持つ力は大きい為、今回の政略結婚の相手
として選ばれたのである。

 その護衛として選ばれたのがセグラントとモニカであった。

「はああ、暇だ」

 セグラントは中華連邦首都洛陽に存在する天子の居城である朱禁城の一室でそう
漏らした。彼は本来であるならばこういった護衛任務には向かないのだが、どういった
訳かブリタニア帝国第二王子シュナイゼルからの指名により、この任についていた。

「そうあからさまに言わないでくれるかしら。こっちまで気が滅入るわ」

「そうは言ってもなあ。なあんで戦いも出来ずにこんな狭っこい所に居なきゃいけない
んだか……。叔父貴も人選をミスしたとしか言いようがないぞ」

「まあ、貴方の機体はねえ。まあいいじゃない。護衛って言ったってここじゃあ戦いな
んて起きやしないんだから少しのバカンスとでも思いなさいよ。それにこんな美女と一
緒なんて中々ないわよ?」

 悪戯っぽい笑顔を浮かべるモニカに対し、セグラントはわざとらしく回りを見渡す。

「え、何処に美女がいんの?」

「貴方ねえ」

 米神に青筋を浮かべながらも微笑を絶やさないモニカにセグラントの額に汗が垂れる。
 
「じょうだんだ。ウレシイナー、こんな美女と一緒の任務ナンテー」

「分かればよろしい」

 ――コンコン

「取り込みの所失礼する」
  
 扉が控えめなノックと共に開かれ、一人の男が入ってくる。
 切れ長の目と長く伸ばした黒髪。そして腰から下げた業物と思われる刀。
 中華連邦の武官、黎星刻の姿がそこにあった。

「んあ、別に構わねえよ。それで何の用だい?」

「なに、世に名を轟かすナイトオブラウンズの方々の顔を見に来ただけだ」

 星刻は涼しげな表情でそういうと、座ってもいいかと確認を取り、席に座る。
 セグラントはこの男が相当デキる人物である事は始めて顔を合わせた時から分かって
いた。それだけに惜しい(・・・)

「星刻さん、それで話ってえのは?」

「なに、この国の感想などをと思ってね」

「感想か。そうだな、暇、の一言だな」

「ばっさりと言ってくれる」

「ふん。言葉を飾るのは得意じゃなくてね。この国の奴らはどうにも覇気が無い。
俺にはそれがたまらなく詰まらん」

 簡単にそういった彼に星刻は苦笑する。
 星刻もまたセグラントという人物を少しだが理解していた。

 目の前で愚痴を零している男は良くも悪くも裏表がないのだ。
 今の中華連邦を牛耳っている大宦官達相手に腹の探り合いをする毎日に星刻も少し
疲れていた。故にこういった真っ直ぐな男はとても好ましかった。
 惜しむらくはこの男は敵であるという事だ。

「まあ何と言われようともここは私が敬愛する国だ。そう悪しざまに言ってくれるな」

「悪いな、これが俺だ」

 特に笑う所はなかったのだが、それでもどちらからという事でもなく両者は笑う。
 そのまま暫く雑談を続けた所で星刻は時計を見上げ、

「もうこのような時刻か。ついつい話し込んでしまったな。そろそろ私は失礼させて
もらおう。セグラント卿、有意義な時間だった。ありがとう」

「おう。俺も楽しかったぜ。本当なら仕合を申し込みたいが、無理をさせる訳には
いかねえからな。体、大事にしろよ」

 セグラントがそう言うと星刻は一瞬だが顔を強ばらせたが、直ぐにいつもの表情に
戻す。そして、微笑を浮かべる。

「ああ、卿も気をつけるといい。それではな」

 星刻が出ていった後、

「ねえ、さっきのってどういう意味?」

「んん。まあ、そういうことだ」

「……訳が分からないわ」



 

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