神聖ブリタニア帝国第99代皇帝ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアは即位するやいなや
苛烈とも言える政策を施行していった。彼は今までのブリタニア帝国というものを完全
に破壊するかのように貴族制の廃止、貴族達の特権の没収などを敢行した。

 当然の事だが、これに素直に応じる貴族が居る筈もなく彼等は皆一様に反乱を起こす
事となったが、そのいずれもがルルーシュの忠臣であるジェレミアとその配下によって
ことごとくが鎮圧されていった。

 既得権益の没収をされた貴族達は皆一様にルルーシュの指示通りに土地を治める様に
なり、その政策は世界から評価されつつあった。
 世界はルルーシュの行動に左右されるようになったとも言える。

 そして、それはヴァルトシュタイン領とて例外ではなかった。
 ヴァルトシュタイン家が所有する多くの土地は全て没収され、残されたのは本家と
直轄地のみであった。ビスマルクからすれば自身の治めていた土地の民衆が害される
事が無ければ統治者が誰になろうと構わなかったので表立って反抗の姿勢を見せる事
は無かった。

 ビスマルクの屋敷には今、少しずつ人が集まり始めていた。
 彼等は皆一様にナイトオブラウンズ麾下の騎士達と、現皇帝に従うを良しとしない
者たちだった。その中には古強者とされる人物の姿もあった。

 ビスマルクはそんな彼等の前に立つ。

「諸君、良く集まってくれた。だが私は集まれと言った覚えはないのだが?
そんなに死にたいのかね、君たちは」

 茶化すような言葉にその場いる全員が笑みを浮かべる。
 すると一人の男が一歩前に出る。

「いやいや、誰が好き好んで死にたがるものですか。我等は闘い(・・)に来たのですよ。
そして集まれと言ったのは貴方でしょう? 言葉には出てなくとも我等の此処に響いて
来ましたよ。貴方の叫びが」

 そういって胸の辺りをドンと叩いたのはビスマルク麾下の騎士でも最古参とされる騎士
ザイツだった。

 そんなザイツの言葉に皆頷く。

「ふん、臭いことを言う。お前にそういったカッコつけた物言いは似合わん。
そういう臭い事はそこにいるナイトオブスリーに任せておけ」

「ちょっ。ヴァルトシュタイン卿、それはあんまりですよ!」

 突然話を振られたジノは慌てながら、反論する。
 
 しかし、

「確かに。このような強面よりもヴァインベルグ卿の様の方が似合いますな」

 然り、然りと周囲も合わせるものだからジノとしても強く言い返せずに赤面するのみ
だった。場の雰囲気が暖かな物に変わるのを感じたビスマルクはコレで良いと思う。

 これから自身等が行おうとしているのは反乱である。
 世間からは馬鹿な行いと称されるかもしれないがそれでも譲る事の出来ない物がある。
 その為ならばこの命も惜しくはない。

 だが、この無謀な行いに次代を担う若き武人を道連れにして良いものだろうか。

 ビスマルクの視線の先にはセグラント、モニカ、ジノ、アーニャが談笑している姿が
あった。彼等は皆これから死地に赴くというのにそれを感じさせない。

「ヴァルトシュタイン卿」

「ドロテアか。どうした?」

「卿が何を考えているかは分かります。アイツらは此処で潰すには惜しいです」

 そういったドロテアもセグラント達に視線を向ける。
 どうやらこの騎士も自分と同じ気持ちだという事が分かり無性に嬉しくなった。

「そうだな。敵は強大だというのに奴らを連れて行きたくないと思う私は甘いか?」

「ええ、甘いです。……ですが嫌いではありません」

 ドロテアの言葉に後押しされたのかビスマルクは一つ頷くと、近くにいたセバスに
指示を出す。セバスは一瞬顔を強張らせるが、直ぐに一礼しその場を去る。



「さあ皆の者! 出陣の前の杯を用意した。各々受け取られよ!」
 
 セバスがワゴンの上に乗せた杯を次々にその場にいる者に配る。
 全員に杯が行き渡ったのを確認したビスマルクは杯を高く持ち上げ、叫ぶ。

「オールハイルブリタニア! オールハイルシャルル!」

 杯に注がれた酒を一息に飲み干す。
 セグラント達も飲むのを確認し、心の中で謝罪をする。

(すまんな。これは私のワガママだ)



 違和感を感じ始めたのは酒を飲み干してからだった。
 先程からどうにも体がだるい。
 というより異様なほどに眠いのだ。

 セグラントが周りを見回すと、モニカやジノ、アーニャ、そして若い連中は皆自分と
同じ状態にあるようだった。

 そしてそんな自分達を見つめるビスマルクの視線。

「親父……。まさ、か」

「すまんな、セグラント。これは私の勝手だ。許せとは言わん」

 ビスマルクはマントを翻し歩いて行く。

 その言葉で全てを悟った。
 彼等は自分たちを置いていくつもりなのだ。

「若、オサラバです」
 
 ザイツがニカっと笑いビスマルクの後に続く。
 他の連中も別れの言葉を口にしながら、ビスマルクの後に続いていく。

「おや、じ……」

 セグラントは彼等の背中を霞む目で見ながら、やがて意識を手放した。



 帝都ペンドラゴン上空。
 そこにビスマルク達は集結していた。

「大恩あるシャルル陛下を弑逆した愚か者に鉄槌を下す! 全機、私に続け!」
 
 ビスマルクの駆るガラハッドを先頭に軍勢が続く。
 その時ペンドラゴンから一つの光が登る。

 光は自分達より高い場所に上がり、閃光が瞬く。

「っ、全機散開!」

 ビスマルクは己の直感に従い、指示を飛ばすが数瞬遅く、軍勢を光の矢が襲う。
 光の矢は散開が遅れた数機に直撃し、爆発を起こした。

「ちぃっ。やはりというべきか、出てきたな枢木!」

 叫んだドロテアの視線には翠の翼を持った純白の騎士が彼等を見据えていた。

『やはり来たんですね』

「ああ、来たぞ。シャルル陛下に拾ってもらった恩を忘れていないのならばそこを退け』

『それは出来ません。この先にはルルーシュ陛下が居られます。彼に害為すというならば
討ち取らせて頂きます』

 その言葉が引き金となった。

「よくぞ吼えた! 裏切りの騎士枢木! まずは貴様の素っ首を刎ねてくれる!」

 ドロテアが一喝し、自身の機体をランスロットに向ける。
 ランスロットはその場を動かずにドロテアの動きを注視していた。
 
 MVSの切っ先をランスロットに真っ直ぐに向け駆ける様は正に矢の如く。
 駆ける矢はランスロットに直撃するかと思われたが、MVSの切っ先はランスロットの
腕から発生した翠のエネルギーシールドによって防がれていた。

 自身の必殺の一撃を防がれた事に一瞬だが、ドロテアの動きに隙が生まれる。

「ドロテア! 下から来るぞ!」
 
 ビスマルクの言葉にドロテアは自身のKMFを無理やりに右に動かす。
 ランスロットの振るったMVSがドロテアの機体の右足を斬り裂く。

「ちぃっ」

『遅いですね』

 ドロテアはコクピットの中で舌打ちをし、態勢を立てなおそうとするがランスロット
がヴァリスの引き金を引く方が数瞬早かった。

 轟音が響き、ヴァリスから放たれた一撃はドロテアの機体のコクピットを貫いた。

「ドロテア!」

「おのれぇ! よくもエルンスト卿を!」

 ドロテア麾下の騎士達が怒りに身を任せランスロット目掛け吶喊していく。
 怒りで陣形は乱れ、連携などあってないようなものだった。

「いかん、戻れ! それでは枢木の思う壺だ!」

 ビスマルクは制止をかけるが既に時は遅く、ランスロットの翠の光翼から再び光の矢
が射出される。光の矢は陣形の乱れた騎士達を的確に撃ち抜いていく。

「馬鹿者どもが!」

 コクピットを苛立ちを込めて思い切り叩く。
 しかしビスマルクの胸中には怒りとは別に感嘆の言葉も浮き上がっていた。

 あのランスロットがどれほどの高性能であろうともそれを操るのは人間であり、
パイロットが未熟ならば脅威ではない。しかし現実にはドロテアとその麾下の騎士は
一瞬にしてその命を狩られた。

 ドロテアは言わずもがな、彼女の麾下の騎士達もいずれもが猛者で有名である。

(……厄介だな。恐ろしい敵になったものだ枢木)

「この場にいる全機に伝える。全機撤退せよ」

 ビスマルクからの指示に生き残った騎士達は反論をする。

「撤退ですと!? ヴァルトシュタイン卿それは簒奪者に対し敗けを認めろと!?」

「…………もう一度言う。撤退だ。生き残った騎士は全機残してきたナイトオブラウンズ
と合流し、次の機会を待て。これはナイトオブワンからの命令である!」

 ギャラハッドをランスロットの前に出し仁王立ちとなる。、

「なお、殿(しんがり)は私が務める!」

「ヴァルトシュタイン卿……」

「どうした、早く撤退せぬか」

「ご武運を!」

 ビスマルクの下にその場にいる騎士全員から激励の言葉が届く。
 その言葉にビスマルクは少しだけ微笑む。

「ああ、そうだ。ヴァルトシュタイン麾下の騎士達よ、息子を頼む」

『イエス、マイロード!』

 騎士達が撤退していく中、スザクはそれを見逃すつもりなのか動く気配は無い。

「…………どうしたザイツ。私は撤退しろと言った筈だが?」

 咎めるような声に画面越しのザイツは照れくさそうに笑う。

『いやあ、一人くらい閣下の殿に付き合う奴がいてもいいでしょう? 
それに私が忠誠を誓ったのは閣下ですからね』

「ふっ、ならば駆けるぞ!」

『イエス、マイロード!』

 ギャラハッドと肩を並べるようにザイツのKMFガレスが並ぶ。

「さあ枢木、始めるぞ!」

 裂帛の気合を持ってギャラハッドが一直線にランスロットに向かう。
 急加速からのエクスカリバーの振り下ろし。

 ドロテアのMVSと違いギャラハッドのエクスカリバーは巨大であり、その威力も
段違いである事からスザクも先程と同じように受け止める事は不可能と見たのか機体を
右に動かす事でそれを避ける。

『おっと、それは悪手だぜ坊や!』
 
 右に避けたスザクをザイツが迎える。
 ガレスに装備された二門のハドロン砲がランスロットを襲う。
 スザクはそれをエナジーシールドで防ぐが、それにより足が止まってしまう。

 そこを見逃すビスマルクではない。
 振り下ろしたエクスカリバーをそのまま足の止まったスザクを両断せんと振るう。

『くっ』

 ここで初めてスザクが苦悶の声を漏らす。
 エクスカリバーはランスロットのMVSによって防がれているが単純な質量の差から
刀身が軋みをあげていた。

 スザクは胸中で称賛の声をあげていた。

(……やはり強い! ナイトオブワンの名は伊達ではないということか!
でも、僕にはやるべき事がある。それを成すまでは死ねない!)

 スザクの両目に赤い光が灯る。
 それは過去ルルーシュによって掛けられた『生きろ』というギアス(のろい)
 それは本人の意志とは別にどんな状況であろうとも生き延びる為に体が動いてしまう
というものだった。そして、今スザクはそれを逆手に取っていた。

 武技と経験で劣っていようともこのギアスにより最適の動きを編み出す事でその差を
覆そうとしたのだ。

 突如として動きが更に洗練されたスザクを見てビスマルクは舌打ちをする。

「ザイツ! 気をつけろ、先程とは何かが違うぞ!」

『そのようですな。となればこちらも解禁してはどうですか?』

 ザイツの言葉にビスマルクはそれも已む無しかと思い、左目のピアスを破壊する。
 開かれた左目にはギアスの紋章が浮かんでいた。

「左目を開くのも久方ぶりだな。……ザイツ、往くぞ!」

『イエス、マイロード!』

 ビスマルクのギアスは極近未来を読むというものである。
 極近未来であるため普段は一切の役に立たないが戦闘においてこのギアスは相手の
一手先を知ることが出来るのだ。戦闘におけるその優位性は並の物ではない。

 ビスマルクのギアスが見せる未来はスザクが一刀の下にザイツを斬り裂く姿だった。
 極近未来とは言え、そこには多少のラグがある。

「ザイツ、左だ! 奴はお前に狙いをつけた!」

 指示を飛ばし、ザイツはそれを疑う事なくその通りに動く。

 スザクの振るった必殺の一刀は避けられ、その事実にスザクは目を見張る。
 今の自分の動きはどちらを狙うか分からせない動きだった筈だ。
 だが、現実として相手はこちらの意図を読み避けた。

「ザイツ、右だ!」
 
 まただ。また避けられた。
 ビスマルクがこちらの動きを読み、叫んでいる。

「……ヴァルトシュタイン卿、貴方はまさかギアスを」

「ふん、気付いたか。如何にもこれが我がギアス。これを使い始めた以上貴様に勝ちは
ないものと知れ」

 何も知らない人間がこの言葉を聞けば根拠の無い言葉に聞こえるだろう。
 だが、これは今までビスマルク・ヴァルトシュタインという人間が歩んできた武人と
しての絶対の自信という根拠の下に生まれる言葉。
 
 スザクは背中に冷たい汗が流れるのを感じる。

「それでも、やらなくちゃならない。ユフィの為にも……っ」

 目を閉じ深呼吸をする。
 そして、スザクが取った一手は正面からの吶喊。

「ザイツ正面からだ。如何様にでもいなせ!」

『はっ』

 ザイツは機体を右に大きく動かす事で避けようとするが、スザクもまたランスロットを
無理やりとも言える機動でそれに追随する。
 
 無理な機動により多大なGがスザクにかかるが、それを無視しザイツを斬る事にのみ
専心する。

『おおおおおっ』

(ああ、これは避けらんねえな)

 ザイツは避ける事を諦め、振り返りざまにMVSを振るう。
 そして、ザイツのMVSはランスロットの腕に少しの傷をつけるだけだった。
 両断されたガレスのコクピットの中で血塗れになったザイツは最後に通信を繋ぐ。

『閣下、オサラバです』

「ザイツ!」

 轟音と共にガレスが爆散した。
 脱出機構は作動していない。
 ザイツが死んだという事は誰から見ても明らかだった。

「ザイツ……。貴様の死に必ず報いて見せよう」

 エクスカリバーを構え、真っ直ぐにスザクを見据える。
 見ればスザクも同じように正面からこちらとぶつかる腹づもりのようだ。

「その意気や良し! いざ!」

「尋常に!」

「「勝負!!」」



 目が覚めたセグラントはふらつく頭と未だ朦朧とした意識を覚醒させる為に近くに
転がっていたグラスを割り、その破片を膝に突き刺す。

 鮮血が飛び散り、痛みが体中を支配するがそれを無視し足を引き摺りながら、
ブラッディ・ブレイカーのコクピットに乗り込む。

「親父……」

 ブラッディ・ブレイカーは翼を羽ばたかせ、戦場へと向かう。



 これで何合打ち合っただろうか。
 エクスカリバーとMVSによる斬り合いを始めてから長い時間が経とうとしていた。
 既に両者のエナジーは底をつきかけており、限界が近いのは目に見えていた。

「残り何太刀振るえるか。そろそろ決めなければなるまいて」

 それはスザクも同じようで最後の一撃の為に距離を取る。

 スゥと息を吸う。

「「おおおおおおおおおおおおおおおお!」」


 気合一閃。
 ビスマルクの一閃とスザクの一閃が一瞬交差する。
 


 戦場に辿りついたセグラントの視界に写ったのは交差する父のギャラハッドとスザクの
ランスロットの姿だった。

 そして結果は。
 ズルリとランスロットの右腕が切断され、地に落ちた。
 そしてギャラハッドは腰から両断された。

「親父いいいいいいいい!」

 ブラッディ・ブレイカーのブーストを最大にする。 
 かかるGは全て無視し、ただ真っ直ぐに父の下へ。


 両断された機体の中でビスマルクはセグラントがこちらに駆けてくるのを見た。
 既に脱出機構は動かない。

『おや、父上ええええ!』
 
 通信越しに聞こえる息子の叫び。

……まったく。

「そう呼ぶのが遅いわ。馬鹿息子」

 セグラントに対し、言うことが沢山ある。
 だが、実際に何を言えばいいかいざとなると喉から言葉が出てこない。

 ならばまずは自分を破った者へ言葉をかけるべきだろう。

「枢木、まずは見事。……だが、覚えておけお前は楔を外したのだ。獣を繋いでいた
最後の楔を。私はお前が破られるのをあの世で楽しみにしておるわ!」
 
 呵呵と大笑いするビスマルク。
 
 そして、

「セグラント」

『父上!』

「……達者でな」

 ギャラハッドは地面に墜落し、その両断された機体の傍にエクスカリバーが突き立つ。
 さながら墓標の如く。

 ナイトオブワン、ビスマルク・ヴァルトシュタインはこの日戦死した。




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