シュナイゼルの合流要請に従い、セグラント達は彼が指定してきたポイントへと向かう
事となったが、シュナイゼルが指定してきたポイントは地図上では何もないとされている
場所であった。

 これにはその場にいる全員が首を傾げる事になったが、事の真偽を確かめる上でもまず
は合流しなければならないという結論に至り、彼等は輸送機でそのポイントへと向かう。

 ポイントへと辿りついた彼等を迎えたのは空中に浮かぶ巨大な要塞だった。

「……なんだこりゃ」

 流石のセグラント達も開いた口が塞がらず、暫くの間その巨大建造物を眺めていた。

『ナイトオブラウンズの諸君、合流要請を受けてくれた事を感謝するよ。取り敢えず
こちらの出すビーコンに従って入ってきてくれるかい?』

「シュナイゼル殿下、これは……」

『その説明も行おう。ひとまずようこそダモクレスへ』


 ダモクレス。
 これはシュナイゼルがカンボジアにある子飼いの機関、トロモ機関によって開発された
天空要塞である。その全長は3kmにも及び、それを飛ばすに足る巨大にして高出力である
フロートユニットを使用する事でこの要塞は空に浮かんでいる。
 またダモクレスは単独での成層圏飛行に加え、大気圏突破の機能まで備わっている正に
天空要塞の名に恥じない性能を誇っている。

 ダモクレスの一室に集められたセグラント達はシュナイゼルと謁見していた。

「シュナイゼル殿下、いつの間にこの様な巨大要塞を?」

「クルシェフスキー卿の疑問も最もだね。これはフロートユニットが開発されてから
建造を始めてね。ルルーシュの帝位継承に伴い日の目を浴びたというわけさ」

 シュナイゼルはセグラントの方を向くと、

「ヴァルトシュタイン卿の事は残念に思うよ。彼ほどの騎士はそうは現れないだろう」

「殿下にそこまで言って貰えれば親父も喜ぶでしょう」

 セグラントはシュナイゼルの正面に立つと、彼に対して臣下の礼を取る。

「セグラント・ヴァルトシュタイン、父の遺志を受けこの度ヴァルトシュタイン家当主と
相成りました。これより自分は貴方の指揮下に入ります」

「……ありがとう。では告げよう。ヴァルトシュタイン卿、君は自由に戦うと良い」

「は?」

 シュナイゼルの発言にその場にいる全員がポカンと口を開ける。

「おや、意外かな? 私は君は自由に戦場を駆けるべきだと思う。獣を指揮をという鎖で
縛っては本来の力は発揮できないだろう?」

「いや、それは、まあ。……ありがとうございます」

 シュナイゼルの評価を否定出来ないセグラントは気恥ずかしそうに頭をかく。

「さて、ナイトオブラウンズの方々は戦闘が始まるまではこのダモクレスの中で好きに
過ごしておいてくれ」

 シュナイゼルがそう纏め、解散しようとした時だった。

 部屋の扉が開き、一人の少女が入ってきた。

「……シュナイゼル兄様。ナイトオブラウンズの方々が参着されたのですか?」

「ああ、ナナリーか。そうだよ、これでルルーシュとの戦も有利に進められるだろう」

 ルルーシュの名前にピクリと反応した少女、ナナリーはそれを表に出さないようにし、
気丈に振る舞う。

「そうですか。ナイトオブラウンズの方々、ようこそダモクレスへ」

「ナナリー皇女殿下!? 生きてらっしゃったのですか!?」

 ナナリーはフレイヤ弾頭によりエリア11の政庁と共に死んだと思われていたのだから
モニカの驚きも当然の物である。

「ええ、ある方に助けて頂きまして。非才の身ですが、シュナイゼル兄様にお願いして
この場に立たせて頂きました」

「そうなんですか。しかし、この場に立つということは兄と戦うということを了承
したということですか?」

 モニカの言葉にナナリーは、

「はい」
 
 揺るがない意志を持って頷いた。

「お兄様は道を外してしまわれました。ギアスという力はあってはならないのです」

 ここで首を傾げるのはセグラント達だ。
 彼等はギアスという単語が出てきても一切分からない。

 だが、彼等を除く面々はそれを理解しているようでなんとも居づらい。

「あー、皇女殿下。そのギアスってのはなんすか?」

 セグラントの言葉にナナリーは驚いたように口元に手をやる。

「シュナイゼル兄様、セグラントさん達にはまだ?」

「ああ、後で説明しようと思っていたところだよ。そうだな、後で黒の騎士団も交えて
作戦会議を開く。その時に説明しよう」



 ダモクレスに用意された会議室に集められたセグラント達はシュナイゼルに指定された
席に座り、作戦会議の始まりを待っていた。

 しばらくするとシュナイゼルが現れ、黒の騎士団の主要メンバーが集まった。
 その中に星刻の姿を見つけ、セグラントはとりあえず手を上げる。

「よう、元気か」

「ああ、おかげ様でな。ビスマルク殿の事は……」

「気にすんな。親父は親父の忠義を通そうとしたんだ。あとは俺がやるべき事だ」

「そうか。やはり強いな」

 星刻はそう言って笑みを作り、席に座る。
 星刻の他にいた黒の騎士団のメンバーはやはりブリタニア人に対して思う所があるのか
話しかけてはこなかった。

「さて、諸君に改めてギアスについて説明しておこう」

 全員が揃ったのを確認したシュナイゼルはそう切り出した。
 ギアスという言葉に黒の騎士団のほとんどが顔をしかめる。

 ギアスについての説明は簡単なものだった。
 超常の力。
 ようやくすればそれだけの事である。

「ルルーシュのギアスは絶対遵守の力だそうだよ。相手の目を見る事で一回のみだが、
対象にどんな命令でも下す事が出来る。ルルーシュはそれを使って今までの奇跡を
起こしていたみたいだね」

 そう言って黒の騎士団を見るシュナイゼル。

 すると黒の騎士団のメンバーである扇という男がダンと机を叩く。

「ルルーシュは俺たちを裏切っていたんだ! ギアスの、ルルーシュのせいで俺たちは
かけがえの無い仲間を失った……」

 悲痛な面持ちでそういった扇に黒の騎士団のメンバー全員が同意する。

 しかし、

「くっだらねえ!」
 
 セグラントがそれに真っ向から意見した。

「あんた、今なんて言ったの?」

 カレンがセグラントを睨みつける。

 セグラントは殺気を向けられても気にせずに、

「もう一度言ってやろうか? くだらないって言ったんだよ」

「あんた!」

 殴りかかろうとするカレンをシュナイゼルは手で制し、

「ヴァルトシュタイン卿、どういう事かな? 君は何故そう思うんだい?」

 尋ねてきた。

「シュナイゼル殿下、力は力でしょう? 絶対遵守? 造られた奇跡? はっ、それの
何が悪いんですか?」

「ギアスは人の心を操る! それはやってはならない事だ!」
 
「ふん。そのギアスがどんなに優れたものであれ、それを操る人間が優秀でなければ
意味は無い。そしてルルーシュは優秀だった。奴に武力は無いかもしれないが奴には
智力があった。ギアスを勝利に繋げる為のパーツにするくらいのな」

 それに、と一旦言葉を切り、黒の騎士団を見据え言う。

「あんたら、今までそのギアス込みの作戦に乗って勝ってきたんだろうが。それが何だ?
種が割れた瞬間に手のひらを返して裏切りか」

 セグラントの言葉は続く。

「それに、聞けばあんたらシュナイゼル殿下の日本返還って言葉に乗ったんだろう?
今まで自分たちを導いてくれたリーダーをいとも簡単に切り捨てて。
あんたらは裏切られたって言ったがそうじゃない。裏切ったのはあんたらだ。
はっ、ルルーシュが可哀想ってなもんだ」

 辛辣とも言える言葉に黒の騎士団は顔を伏せる。
 しかし、

「じゃあ、あんたは許容出来るの? 自分の心が誰かに操られてその結果破滅が訪れる
ということを」

 カレンだけは違った。
 彼女はセグラントを真っ直ぐに見据え、問う。

 それに対しセグラントは、

「さっきも言ったろう? 力は力だ。そしてその結果が俺の破滅ならそれは俺が弱かった
ってだけの話だ。ギアスやらのせいにするつもりは無い!」

「…………」

 これには会議室にいる全員が唖然とした。
 
 この男はギアスという超常の物に敗れてもそれを言い訳にせずに自身が弱かったからで
納得できるというのか。

 今まで口を開く事の無かった男、藤堂が口を開く。

「では、貴殿は我々こそが裏切り者だと言うのか?」

「ああ、そうだな。確か藤堂だったか、あんたの救出劇、あれもギアスがあってこそ
成功したものだろう? つまりギアスを認めないという事はあんたの命は無い物って
事だ」

「……では、我等は最後までゼロを、ルルーシュを信じればよかったのか?」

「さあ? そんな事は知らん」

 バッサリと切り捨てるセグラント。
 これにモニカは苦笑せざるを得なかった。

「さて、この話はここまでにしよう」

 シュナイゼルが頃合いを見計らい、話を終わらせた事でひとまずの終端を見せたが、
黒の騎士団のメンバーは皆、考えこんでしまった。
 
 カレンのみはセグラントを睨んでいたが。

 作戦会議はそのままシュナイゼルによる説明だけで終わり、後はルルーシュとの戦が
開かれるのを待つのみとなった。

「それでは、解散だ」

 会議室から出たセグラントの下に通信が入る。

 通信相手はクラウンだった。

「クラウンか。どうした?」

『機体が完成した事を伝えようと思ってね。これからそっちに向かう。
到着を楽しみにしておいてくれ』



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