世界は変わる。

 それがダモクレスに集結した全兵士に共通する思いだった。

 スザクとセグラント、二人の至高の武人による一騎打ちが終わり、ルルーシュ側の兵士
も全滅に近く、シュナイゼルの勝利だと思われた瞬間の事だった。

 ダモクレスに搭載されていたフレイヤが発射されたのだ。
 幸いというべきかフレイヤの射出されたポイントには誰も人はおらず、人的被害は
出なかった。

 だが、それは人命に関する事のみであった。

 全世界に同時に入る緊急通信。
 そこに写ったのはルルーシュだった。

 画面に映るルルーシュは開口一番に告げる。

「空中要塞ダモクレスはこの私が制圧した。これによりフレイヤは全て私の手の内だ」

 それは事実上のシュナイゼル側の敗北を意味する。

 どれだけの数の兵士を、兵器を揃えようと一発のフレイヤに届かない事をその場にいる
全員が知っているからだ。

「世界よ、私に従え!」

 ルルーシュの宣言に人々は確信した。

 これは世界が変わるのだ、と。


 セグラントはその放送を呆けた様子で眺めていた。

「親父、世界が変わるぜ。兵士のいらない世界、それが訪れるかもしれねえ。
親父、俺はどうすればいい……」

 スザクを倒し、我こそは至高の武人であるという事を証明した矢先にこれである。
 セグラントにはどうすることも出来なかった。

「セグラント君」

 クラウンが気遣うように声をかけてくる。

「……着艦する。誘導頼むわ」

「ああ、分かった」

 ドラグーンネストの誘導に従い、セグラントはボロボロになったホーリーグレイルを
着艦させる。

 セグラントがホーリーグレイルのコクピットから降りた時だった。
 ホーリーグレイルが力尽きたかのようにその巨体を崩した。

 元々、スザクとの戦いで何時壊れてもおかしくは無かった。
 だが、こうしてセグラントが無事に降りた途端に崩れ落ちたホーリーグレイルに
セグラントは胸に迫るものを感じた。

「今はゆっくり眠れ、相棒」



 ルルーシュにより世界が統治されてから数週間。
 彼はダモクレスに集結していたシュナイゼル側の主要戦力の公開処刑を行おうとして
いた。その中にはセグラントとモニカの姿もあった。

 セグラント達はあの後、ドラグーンネストに集っていたのだがフレイヤを抱えた
ダモクレスに狙いを定められ、捕縛されたのである。

 磔にされながらもセグラントの心中にあるのは死への恐怖でも、ルルーシュへの怒り
でも無かった。

 彼の胸中にあるのは空虚だった。

 隣で磔にされているモニカはそんな彼を心配そうに見ていた。

「セグラント、貴方大丈夫?」

「ん、ああ。お前こそ大丈夫かよ」

「……この状況で大丈夫って言えるなら言ってみたいわね」

 彼女はそう言って苦笑する。
 まあ、磔にされている状況で大笑できる人間はそうはいないだろう。

 だからといって黒の騎士団のメンバーのように泣きわめくつもりもないが。

「ああ、どうすっかなあ」

「さあね、とりあえず死ぬんじゃないかしら?」

「だよなあ……。ん、いや何か一波乱ありそうだぜ?」

「え?」

 モニカが唯一自由を許された首を動かし、セグラントの視線の先を見る。

 そこには黒で統一された衣装に怪しい仮面を着けた人物、ゼロがいた。

 突如として現れたゼロに現場は慌ただしくなる。

 ルルーシュは有り得ない、と言わんばかりに動揺を露にし、激昂した。
 
 銃を抜くルルーシュ、警護の兵を切り抜け剣を構えて突き進むゼロ。

 そして、ゼロの剣がルルーシュを深く貫いた。
 腹部を貫かれ、血が溢れ出す。

 一人除く全員がルルーシュが刺された事にのみ注目していた。
 その一人とはセグラントである。

 彼はむしろゼロの方を見ていた。
 彼の身のこなしを見て、ある事に気づき笑う。

「なんだ、あの野郎生きてたのか」



 結論のみを語ろう。
 ルルーシュはゼロによって倒された。
 
 あの時の騒動をまとめるならばそれだけである。

 ルルーシュが倒れた事により磔にされていたセグラント達は解放され、世界は再びの
変革を迎えようとしていた。

 虜囚となっていたシュナイゼルとナナリーにより世界は話し合いにより治政を行うよう
になり、それは平和と呼べるものの始まりだった。

 しかし、平和になるという事は軍人という物が常時いる必要は無いという事である。

 これによりナイトオブラウンズも解散となり、各々が新たな生き方を模索する事と
なる。勿論、ナイトオブラウンズが解散となっただけであり、彼等のKMFの腕を無くす
のは惜しいという事でナナリー専属の騎士に、という声も上がったがそれに応じたのは
アーニャのみであった。

 スザクを打破したセグラントには数多くの国から是非に我が国へ招待したいという
連絡が多数来たが、彼はそれを全て蹴っていた。

 そして、彼は消えた。

 そう消えたのである。

 彼は一連の騒動が終わってからというもの暫くの間はヴァルトシュタイン領にて静養
していたのだが、ある日急にセバスに暫く留守にすると言って消えたのである。

 最強の称号を持つセグラントの失踪はそれなりの話題性を持って騒がれたが、人の噂も
七十五日というようにやがて人々はセグラントの事を気にしないようになっていた。

 だが、一部の人間は彼を探し続けていた。
 それはダモクレスの戦いに参加していた人々だった。

 彼等はセグラントの行方を知ろうとあらゆる場所を探していた。

 その中にはモニカもいたが、彼女はそこまで精力的に探そうとはしておらず寧ろ
一生懸命に探している者たちの姿を見て楽しんでいた。

 ある日の事だった。

 ナナリーがモニカを呼び出した。
 モニカとしてもそろそろ呼ばれる頃かな、とは思っていたのでそこまでの動揺は
無かった。

「率直に聞きます。モニカさん、貴方はセグラントさんが何処にいるのかご存知
なのではないですか?」

「ええと、何処に居るかは知りませんけど何をしているか位なら分かってるつもりです。
なんだかんだで付き合い長いですし」

 どこか恥ずかしそうに言うモニカにナナリーは微笑む。

「そうですか。まあ私としては彼はもう自由にしても良いと思うんですけどシュナイゼル
お兄さまとゼロの考えは違うようでして」

 ナナリーはそう言うと、シュナイゼル等の考えをモニカに言った。

 彼等曰く、現最強の騎士となった彼には軍部の旗印として立って欲しいとの事。

「ああ、なるほど。それで私に」

「ええ。それで彼は何をしてると思います? あの自由な方は」

「そうですね……」

 モニカは何処か遠くを見るように視線を動かし、

「多分、世界中を旅していますよ」

 笑った。

「旅、ですか?」

「ええ、それが約束ですから」

 約束、それが誰とのかは分からないがナナリーは優しく微笑んだ。

「そうですか。旅という事はいつかは帰ってくるのでしょうか?」

「さあ。それは分かりませんが私は待つことにしました。あいつはいつか必ず帰って
きますから」

 モニカはそう言って笑った。







 ドラグーンネストは世界を気の赴くままに航海していた。
 本来ならば戦争が終わった時点で解体される予定だったがどういった手を使ったのか
クラウンが武装を外す事を条件に残したのだった。

 ドラグーンネストの艦橋にはクラウンとセグラントがいた。

「セグラント君、次は何処にいこうか? インドかい? それともアフリカかな?」

「さあな。気の赴くままに行こうじゃないか。針路適当、面舵適当ってな」

 彼は笑いながら言って、胸元から一枚の写真を取り出す。

 それは軍学校時代に撮った三人(・・)が並んで写っている数少ない写真。

 その中の親友に語りかける。

「約束だ。世界を回ろうぜ、親友」



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