IS〜インフィニット・ストラトス〜
自由の戦士と永遠の歌姫

第九話
「特訓!」



「久しぶりね・・・一夏」
「鈴・・・」

 どうやら二組の転校生と一夏は知り合いらしい。

「何カッコつけてるんだ? すっげー似合わないぞ!」
「っ! な、なんてこと言うのよ! あんたは!!」

 その時だった。鈴音の後ろに立つ一人の女性・・・その女性が鈴音の頭に拳を落とした。

「っ!? いった〜・・・何すんの!? うっ・・・・・・!?」
「もうSHRの時間だぞ」
「ち、千冬さん・・・っ!」

 千冬だった。一夏の知り合いなら当然だが千冬とも知り合いという事になる。そして様子を見る限り、彼女は千冬に苦手意識を持っているみたいだ。

「織斑先生と呼べ。さっさと戻れ邪魔だ」
「す、すいません・・・・・・また後で来るからね! 逃げないでよ一夏!」

 自分の教室に戻って行った鈴音に教室中が唖然とする中、一夏は何処か懐かしそうな顔をして、キラとラクスは新たな騒動の予感に・・・チラッと箒に目を向けて、心の中で黙祷を捧げるのだった。


 昼休み、キラとラクスはお馴染みのメンバーである一夏と箒にセシリアを加え、途中で二組の転校生である鈴音と共に食堂に来ていた。
 キラとラクス、セシリアは洋風ランチセットを頼み、一夏と箒は和風ランチセットを、鈴音は醤油ラーメンを頼んだ。

「で、いつ代表候補生になったんだよ?」
「あんたこそ、ニュースで見た時はビックリしたじゃない!」
「俺だって、まさかこんなトコに入るなんて思わなかったからな」
「入試の時にIS動かしちゃったんだって? なんでそんな事になっちゃったのよ?」

 キラの場合は束が発表して世界中に知られたのだが、一夏の場合は何でも高校入試の時に入試会場である私立の多目的ホール内で道に迷い、偶々入った部屋の中に置いてあったIS、打鉄を動かしてしまったのが原因らしい。

「そういえば一夏以外にもいたわよね? ISを動かせる男・・・その人?」
「ああ、そうだ。キラ・ヤマトってんだ」
「よろしく」
「よろしく〜、確かアンタはアレよね? 篠ノ之博士が発表したんだよね」
「うん、一年ほど束さんと一緒にいたからね。その時に」

 へぇ〜、と相槌を打った鈴音だが、直ぐに興味が無くなったのか再び一夏の方に集中し出してしまった。
 だが、そろそろ我慢の限界が来てしまった箒が立ち上がり、一夏の前まで回ってくると、テーブルを叩いて一夏を睨みつける。

「一夏、そろそろ説明してほしいのだが!? ま、まさか一夏・・・こいつとつ、つき・・・付き合っているのではなかろうな!?」
「べ、べべべ別に・・・!」

 何故か鈴音の方が狼狽した。当の一夏は何言っているのだと言わんばかりに笑い、それを完膚なきまでに否定する。

「落ち着けって箒、何を興奮してるのか解んねぇけど、鈴は只の幼馴染だよ」
「むぅ・・・」

 今度は鈴音の機嫌が悪くなった。いくらなんでも一夏の言葉は彼に恋している乙女の前で言うべき台詞ではない。

「幼馴染・・・?」
「あ〜、えっとだな・・・・・・」

 箒の場合、幼稚園の頃から小四の終わりまで一緒だったが、箒が引っ越してからの小五の頭に鈴音が引っ越して、中二の終わりに国に帰った。丁度入れ違いで一夏と一緒にいた幼馴染になるのだ。

「鈴、こいつが篠ノ之 箒、前に話しただろ? 箒はファースト幼馴染で、お前はセカンド幼馴染ってとこだ」
「ファースト・・・・・・」
「ふ〜ん、そうなんだ・・・初めまして、これからよろしくね?」
「ああ・・・こちらこそ」

 何故だろう、箒と鈴音のバックにトラと龍が睨みあっている絵が見えるのは・・・。箒と鈴音は互いに笑っているが、その間にはバチバチと火花が散っている。

「コホンッ、私の存在を忘れてもらっては困りますわ! 中国代表候補生、鳳 鈴音さん! 私はイギリス代表候補生、セシリア・オルコットですわ!」
「一夏、あんた一組の代表になったんだって?」
「ああ・・・キラに押し付けられてな」
「人聞き悪いね・・・」
「事実だろうが! お前が面倒だって言って勝手に押し付けたんだろうが!!」

 まだ根に持っていたらしい。っていうか、誰もセシリアの話を聞いていないのが笑えてくる。

「一夏、何ならアタシが見てあげようか? ISの操縦の!」
「あ、いや・・・俺はキラに見てもらおうと思って・・・・・・」
「って、ちょっと!! 聞いていらっしゃいますの!!?」

 遂にセシリアが切れた。誰も聞いていなかった事に気付いて涙目になっているのは、些か哀れに思ったのか、箒が肩を叩いて宥めていた。

「ごめん、あたし・・・興味ないから」
「なっ!?」
「一夏に教えるのは私とヤマトの役目だ! 部外者は引っ込んでいてもらおう!」
「あたしは一夏と話してんの! 関係ない人は引っ込んでてよ」
「関係ないだと!?」
「後から割り込んできて、何をおっしゃってますの!?」
「後からじゃないけどね・・・あたしの方が付き合い長いんだし」

 とは言うが、鈴音と一夏の付き合いは三年、箒と一夏の付き合いの方が長い。一夏自身、どちらの家でも食事を食べた事があるので、アドバンテージにはならないだろう。

「親父さん、元気にしてるか?」
「あ・・・っ、うん・・・・・元気だと思う」

 そこで鈴音の表情が若干だが暗くなった。とは言っても気付けたのはキラとラクスだけなので、一夏も箒もセシリアも鈴音の表情の変化を知らない。

「そ、それより如何なのよ? ISの操縦・・・一応は代表候補生だし、そこのファースト幼馴染やもう一人の男のIS操縦者より強いし、上手だと思うけど?」
「あ〜いや・・・いくら鈴が代表候補生でも、キラには勝てないだろ」
「は? 何よ一夏・・・あんた、まさかあたしが負けるとでも思ってんの?」

 しかし、一夏自身、キラの試合を見て、自身も戦ったからこそ判るのだ。今、ラクスと一緒に食後の珈琲を楽しんでいるキラの実力が、遥か雲の上を更に越えている事が。

「ああ、鈴には悪いと思うけどさ・・・キラは多分だけど千冬姉より強いぜ。だからキラに教わろうと思ってるんだ」
「はぁ!? 千冬さんより強い!? あんな細いもやしみたいな男が!? 馬鹿言わないでよ! 代表候補生でもないのに、専用機も持ってる代表候補生のあたしが負けるっての!?」
「いや、キラも持ってるんだ・・・専用機、それも束さんが自ら作ったISを」

 話を聞いていたキラが珈琲片手に袖を捲ってストライクフリーダムの待機状態であるブレスレットを見せた。
 ラクスはキラの横で紅茶を飲みながら読書をしている。

「篠ノ之博士が作ったIS・・・で、でもね! 機体が良くても操縦者はそうとは限らないでしょ?」
「キラ、お前は千冬姉に勝てるか?」
「・・・? 昔の試合の映像は見た事があるけど・・・そうだね、30分もあれば勝てるかな」
「正確には30分〜35分ですわね」
「・・・な? お前は千冬姉に勝てるのか?」
「・・・っ」

 勝てない。例え強がりでも千冬に勝てるなんて言える人間は現在のIS操縦者に存在しないのだ。
 だが、キラは勝てると言った。しかも瞳を見れば判る、あれは強がりでもなんでもなく、明らかな核心を持った言葉だという事が。

「というわけで、ゴメンな?」
「ふ、ふん! 後で後悔しても知らないんだから!」

 丁度チャイムが鳴ったので、話もそこまでにしてトレーを下げると教室に戻って行った。ただ、鈴音はキラの方を見る度に敵意の籠もった目で睨みつけていたのだが・・・まあキラは特に問題とはしていないので、特別なにかあったとは言えなかった。


 放課後、キラとラクス、セシリア、一夏、箒は第三アリーナに来ていた。だが、少し用事があると言って箒とラクスは二人で貸し出し用IS管理室に行っているので、三人しか第三アリーナにいない。
 早速、キラとセシリア、一夏の三人はストライクフリーダム、ブルーティアーズ、白式を展開、直ぐにキラのストライクフリーダムはVPS(ヴァリアブルフェイズシフト)装甲が展開されて白と黒と青のボディーカラーに変わる。

「前から聞きたかったんだけどさ、キラのIS、何で色が変わるんだ?」
「そうですわね、何か意味があるんですの?」
「これ? これはVPS(ヴァリアブルフェイズシフト)装甲を展開して色が変わったんだ。この装甲を展開する事で実体兵器・・・例えば実弾とか実剣とかの攻撃を一切無効化する事が出来るんだよ」

 実体兵器の無効化、それはつまり現存する全ての第二世代型ISと一部の第三世代型ISの兵器による攻撃を無効化出来るという事だ。
 そんなトンでもない装甲が存在していた事に驚く一夏とセシリアだったが、二人はストライクフリーダムを束が作ったのだと思っているので、そこまで大袈裟に驚く事は無かった。

「キラ、お待たせしましたわ」
「あ、ラクス・・・来たん、だ・・・・・・」

 キラが振り向くと、打鉄に乗った箒と、ラファール・リヴァイヴに乗ったラクスがいた。
 箒は別に問題無い。だが、ラクスの場合は意外過ぎて言葉を失うキラだった・・・。何故ならラクスは入試の時以外にISに乗った事は無いし、ランクAはなるべくなら隠しておきたかったのもある・・・・・・何より、キラはラクスに兵器に乗って欲しくなかったという気持ちもあったので、尚更だ。

「ら、ラクス・・・何でラファール・リヴァイヴに乗ってるの?」
「一夏さんの訓練にご協力しようかと思いまして・・・一人でも対戦相手は多い方が宜しいと思ったのです」
「だからって!」
「キラ・・・大丈夫ですわ」
「・・・ラクス」
「訓練の時だけですから」
「・・・・・・」

 恐らく、ラクスにラファール・リヴァイヴの貸し出し許可が簡単に出た理由はランクだろう。ランクAなのにISオペレーター志望というラクスに、IS学園側としては是非ともIS操縦者になって欲しいという思いがある。
 だからラクスがISを動かすのなら好きなだけ乗せて、そして自分から操縦者になりたいと思えるようにしたいのだろう。
 箒の場合はランクCだが、IS開発者である篠ノ之 束の妹だから特例というのがある。勿論、学園側としてはその事を箒には伝えていないだろうが、間違いない。

「一夏の訓練の時だけだよ?」
「ええ、勿論です」

 しかしラファール・リヴァイヴの色はラクスに似合っていないと思うキラは、やはりラクスにはピンクが似合うと考え、どうせならラファール・リヴァイブもピンクなら良かったのにと、フランスのデュノア社に憤慨していた。

「さて一夏・・・今日の訓練なんだけど、先ずは一夏一人で此処にいる全員と戦ってもらうよ・・・勿論一人ずつじゃなくて、一度に全員と」
「はぁ!? ちょっと待て!! そ、そりゃ無理だって!! キラだけでも致死量なのに、そこに更にセシリア達も入るなんて!!!」

 突然、外道染みたことを言い出すキラに一夏は慌てて無理だと言うが、キラは容赦が無かった。

「無理でもやってね、これくらいしないと一夏の反射速度とか瞬時状況判断能力とか鍛えられないから・・・・・・勿論だけど、この訓練方法、暫く続けるから・・・早く成長してね?」
「お、鬼だああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」

 ニッコリと笑顔で恐ろしい事を言うキラに、一夏は絶望する事になる。
 少し心配だと思う箒だが、これくらいしないと一夏が強くなれないだろうと納得して、そしてこんな方法を実は肯定していた為、反対する事は無かった。

「じゃあ、始め!」
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!!!!」

 この後、キラのドラグーンフルバースト、セシリアのBT兵器一斉射、ラクスの銃弾の嵐、箒の斬撃の嵐が一夏に襲い掛かり、訓練が終わる頃には心身ともに消耗し切った一夏がアリーナ中央で虫の息になっているのだが、キラはそれを見ても良い笑顔で、一夏は頼む相手間違えたかな? と若干だが後悔するのだった。



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