IS〜インフィニット・ストラトス〜
自由の戦士と永遠の歌姫

第十一話
「舞い降りる予感」



【一組 織斑一夏  二組 鳳 鈴音  両者、所定の位置まで移動してください】

 アリーナ中央、そこには白式を纏う一夏と甲龍を纏う鈴音が向かい合って雪片弐型と双天牙月を構え合っていた。
 お互いに真剣な表情で、睨み合い、試合開始の時を待っている。

「逃げないで来たのね、今謝れば少しは痛めつけるレベルを下げてあげるわ!」
「手加減なんていらねぇよ、ずっとキラ達に鍛えて貰って来たんだ・・・真剣勝負、全力で来い!」
「どうあっても気は変わらないって事ね・・・なら容赦はしない・・・あんなもやし男程度に鍛えられたからって図に乗っているみたいだけど、その自信と一緒にこの甲龍で叩きのめしてあげるわ」

 未だに鈴音はキラの事を侮っていた。確かに千冬に勝てると言った時のキラの瞳は冗談でも、慢心でもなかったが、それは男だからISの事を知らないからだと納得した。束の所に居たからって、実際にISに乗るのと勉強するのと、訳が違う。
 つまり、キラは只ISの知識が普通の男子より高い程度の素人でしかなく、鈴音の方が強いというのは当然であり、道理なのだと考える。

【それでは両者・・・試合】

 遂に、来た・・・。お互いに武器を深く握りこみ、開始の瞬間の一撃を狙う。

【開始!!】

 始まった瞬間、両者の武器はぶつかり合い、ガギンッ! という音と共に激しく火花を散らした。
 激しい鍔迫り合い。だが先に離れたのは一夏だった。その判断は正解だ、パワー型の甲龍に白式が力比べをするのは愚かな事だから、あえて距離を取り、この後は一撃離脱にシフトするか、作戦通りに行くしかない。

「ふうん・・・初撃を防ぐなんてやるじゃない」
「・・・どうも」
「あ、そうだ・・・あんたの機体の簡単なスペックデータは見させてもらったわ。確かに・・・雪片のバリアー無効化攻撃は強大だわ・・・でもね、雪片じゃなくても攻撃力の高いISなら絶対防御を突破して本体に直接ダメージを与えられるのよ。勿論この、甲龍もね・・・つまり」

 一夏と鈴音の条件は互角、どちらが先にバリアーを突破してシールドエネルギーを消費させるのかが勝敗を左右する。
 鈴音が一夏に接近して双天牙月を振るおうとしたが、一夏は今までの訓練を思い出し、瞬く間に白式のトップスピードで離脱、甲龍の周囲を旋回し始めた。

「距離を取って様子見って作戦かしら? でも甘い!!」

 甲龍の非固定浮遊部位(アンロックユニット)となっている両肩の武装・・・龍砲から衝撃砲が発射され、不可視の弾丸が二発、一夏に向かった。
 しかし、龍砲の存在はキラがハッキングして得た情報で一夏も知っている。知らなかったらかわせなかっただろうが、知っているのなら当然だが警戒しているので、避けるのは容易い。

「っ!? 初見で龍砲を避けた!?」

 まさか外れるとは思っていなかった鈴音は慌てて龍砲を連射する。しかし、その尽くを一夏に避けられ、若干だが焦りが出始めた。
 そんな中、一夏は鈴音との試合で3回までと決めていた瞬時加速(イグニッションブースト)の一回目を使おうとしたのだが・・・・・・その時、異変は起きた。
 突然、アリーナの遮断シールドの一部が揺らいだかと思えば、一夏と鈴音の間に何かが激突して砂埃を巻き上げる。

「な、何だ!?」
「何!?」

 その瞬間、アリーナに非常警報が鳴り響き、観客席に物理遮断障壁が下りて避難命令が出た。明らかに異常事態が起きたという証だが、その答えは砂埃から出てきた存在が物語っている。

「何だ・・・? あのIS・・・・・・」


 管制室では山田先生を始めとして、管制をしている他の先生や生徒が大慌てになっていた。
 所属不明ISが落ちてきた瞬間、非常事態警報を鳴らし、一般生徒に避難命令を出して、更に穴の開いたアリーナの遮断シールドが再び展開された事に混乱しているのだ。

「織斑君! 鳳さん!」
『山田先生!?』
「織斑君! 今すぐ鳳さんを連れてアリーナから脱出してください!! 直ぐに先生たちが制圧に行きます!!」
『いや・・・先生達が来るまで俺達が食い止めます』
「織斑君!?」

 まだ山田先生の所にはアリーナの遮断シールドが展開・・・しかも最高レベルである5に次ぐ強度を誇るレベル4に設定されている事が伝わっていないらしい。
 今の状況では一夏も鈴音も逃げる事が出来ないし、先生たち鎮圧部隊もアリーナに入る事が出来ないのだ。
 未だに説得を続けようとした山田先生だが、所属不明ISが一夏と鈴音に攻撃を開始してしまったため、二人との通信が途絶えてしまった。

「織斑君! 鳳さん! 聞こえてます!? もしもし! もしもし!!」
「落ち着け!」
「ひゃうっ!?」

 繋がらない通信にいつまでも叫び続ける山田先生のおでこに千冬がでこピンをする事で何とか静めた。
 そしてアリーナの状況を示す画面を見せる事で、現状を何とか理解させる。遮断シールドの事、更にはステージに通じる扉が全てロックされている事、全てを教え、これが所属不明ISの仕業であろうということを伝える。

「シールドの解除を三年の精鋭たちに任せているが、あと何分掛かるか判らない。政府に援助の連絡を入れたが・・・それもすぐには来ないだろう。しばらく二人には・・・持ちこたえて貰わねばならない」
「そんな・・・」
「大丈夫ですわ山田先生・・・一夏さんはキラが頑張って鍛えましたから、簡単に負けたりなんてしません」

 ラクスの言う通り、一夏の実力はこの短期間で目覚しい成長を見せている。だから今出来る事は先生方に生徒を屋外に避難させる事だけだ。

「織斑先生」

 その時、ピットにいたキラとセシリア、箒が管制室に入ってきた。そしてキラが何を言いたいのかは、千冬なら目を見れば解る。

「任せても良いな?」
「はい」
「お待ちください! キラさんお一人で危険な場所に行かせるわけにはいきませんわ! 私もご一緒いたします!!」
「オルコットは待機していろ、お前ではヤマトの足を引っ張るだけだ」
「しかし!」

 確かに、セシリアではキラの足を引っ張るだけだろう、それはセシリア自身も理解している。だけど、自分が好意を寄せる男を危険な場所へ一人で行かせるなんてセシリアには耐えられなかった。

「ならば聞くが、ヤマトや織斑、鳳との連携訓練はしたか? その時のお前の役割は? ヤマトのドラグーンもある中、お前のビットを如何いう風に使う? 連携訓練での連続稼働時間は?」
「・・・っ、わかりましたわ・・・・・・」

 完全に論破されてしまった。これ以上、セシリアは反論する事が出来ず、涙を呑んでキラを見送る事しか出来ない。

「ではヤマト、アリーナの外から出撃してくれ」
「了解」
「ちょ、ちょっと待ってください織斑先生! ヤマト君も! まさか本当にヤマト君一人でアリーナに入る気ですか!? シールドもあるのにどうやって!? たとえ入れたとしても所属不明ISに挑むなんて危険すぎます!」
「問題ない、ヤマトの実力は私の知る限り学園どころか世界一だ。あの程度の木偶の坊の攻撃ではヤマトに中てるどころか掠らせる事すら出来ん」

 山田先生はキラの実力は確かに見ているし、実際に相手をしたから知っている。だけど、それはあくまでリミッターを掛けた状態でのストライクフリーダムとキラの実力だ。

「ヤマト・・・一夏を、頼む」
「うん・・・ああ、そうだ。篠ノ之さん、もう僕の事はキラで良いよ・・・友達なんだから、帰ってきた時には、そう呼んでね?」
「・・・あ、ああ! わかった! ならばお前も、帰ってきたら箒と呼べ! クライン・・・いや、ラクスもだ!」
「光栄ですわ、箒さん」

 今度こそ、キラは管制室の出入り口から出ようとしたが、最後に一度振り返り、ラクスと目を合わせる。
 ラクスもそれに応え、目を合わせて微笑みながらも確りと頷き、キラも同じく微笑んで頷き返し、管制室を出て行った。


 アリーナ外、避難してきた生徒と、避難誘導をしている先生方で溢れる場所から少し離れた所にキラは立っている。
 そして、ゆっくりと待機状態にしているストライクフリーダムを巻いている右腕を天に向かって伸ばし、己が最強の・・・自由の名を冠する翼を呼び出した。

「ストライクフリーダム、起動!!」

 ブレスレットが光り輝き、その光が止んだ後には全身装甲(フルスキン)のIS、ストライクフリーダムを身に纏ったキラが立っていた。
 キーパネルをタッチしてリミッターを解除すると、VPS(ヴァリアブルフェイズシフト)装甲を展開してバレルロールをしながら一気に空へと舞い上がる。

単一仕様能力(ワンオフアビリティー)発動・・・ミーティア、リフトオフ!!」

 アリーナ上空で停止したキラはストライクフリーダムの単一仕様能力(ワンオフアビリティー)を起動させる。
 ストライクフリーダムの武装の内、高エネルギービームライフル二挺とスーパードラグーン、シュペールラケルタビームサーベル二本が封印され、背中に巨大補助兵装がドッキングされた。
 これこそがストライクフリーダムの単一仕様能力(ワンオフアビリティー))にして、元の世界の戦争でも活躍した巨大兵装だ。
 ミーティアをドッキングする事でビームライフルとビームサーベル、ドラグーンの三種類の武装が封印される代わりに、ミーティアに搭載されている武装・・・高エネルギー収束火線砲が4門、MA-X200 ビームソードが2つ、エリナケウス 対艦ミサイル発射管が77門が使用可能となった。正直、対大多数用の拠点殲滅武装である。

「フルバースト一点集中砲火・・・的は、所属不明機が破った場所で!!」

 ミーティアの全ての砲門が開き、ストライクフリーダムの両腰に装備されたレール砲も展開された。そして・・・・・・全てのストライクフリーダムが現在使える武装の内、ビームソード以外の全てが一斉に発射され、本来は他方向に向かって行く筈の攻撃が遮断シールドの一点に集中して命中、遮断シールドを完全に破壊するのだった。

単一仕様能力(ワンオフアビリティー)終了。キラ・ヤマト、フリーダム! 行きます!!」

 ミーティアとのドッキングを解除して、ミーティアが消えるのと同時に全スラスターを全開で吹かし、瞬時加速(イグニッションブースト)を併用しながらビームライフルを腰にマウントすると、所属不明ISに近づいた瞬間にビームサーベルを抜刀した。
 遮断シールドが破壊された刹那の出来事だ。轟音と共に遮断シールドが完全破壊された瞬間、所属不明ISが突然左肩を切断されて吹き飛んだのは。

「き、キラ!」
「な、何なのよ・・・このISは」

 ストライクフリーダムを知る一夏はキラの登場に助かったとばかりに大喜びするが、鈴音は初めて見るストライクフリーダムの姿に圧倒されていた。

「一夏、鳳さん、後は任せて・・・あれは、僕が倒す」

 所属不明ISがゆっくりと立ち上がり、残った右腕のレーザーを発射したが、キラはビームサーベルを持っていない左腕からビームシールドを展開してそれを防ぐ。
 同時にビームサーベルを腰に戻してビームライフルを両手に持つと、ドラグーンをパージしながら、相手である所属不明ISを睨んだ。

「正体は判ってるよ・・・無人機なら、僕も遠慮無く破壊できる!!」

 始まる。戦いにすらならない一方的な破壊という名の、大天使の舞いが・・・・・・。



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