IS〜インフィニット・ストラトス〜
自由の戦士と永遠の歌姫

第十二話
「世界最強の実力」


 アリーナに突如現れた所属不明IS、教師の応援が駆けつけるまで応戦していた一夏と鈴音だったが、所属不明ISはスピード、パワー、防御、何もかもが高く、二人掛りでも苦戦を強いられてしまっていたのだ。
 しかし、その時現れたのは所属不明ISと同じ全身装甲(フルスキン)タイプのIS、ドラグーンを展開しているが故に輝く8枚の青い翼を広げて二人の前に立つその姿は宛ら大天使の如く、二人を護る為にストライクフリーダムは舞い降りた。

「キラ!」
「一夏、君は鳳さんと一緒に離れてて、アレの相手は僕がやる」
「ちょっと待ちなさいよ! あれを一人で相手するっての!? 無茶苦茶強いのよあいつは! あたしと一夏二人掛りでも苦戦したのに、アンタ一人で戦って、勝てるわけないじゃない!!」

 確かに、普通なら鈴音の言う事は正しいだろう。だが・・・事、キラに関しては普通など当て嵌まらない。それ以前に普通のIS操縦者・・・特にIS学園の生徒の普通など通用しないのだ。それは・・・実戦経験と殺し合いの経験から来る絶対的で圧倒的な実力の差だ。

「大丈夫、あの程度なら僕一人で・・・勝てる」

 言うや否や両手のビームライフルを構えて翼を広げ、ハイマットモードの加速に加えて瞬時加速(イグニッションブースト)も加わった超音速のスピード。
 一瞬にして一夏と鈴音、更に所属不明機のカメラからも姿を消したストライクフリーダムだが、その一瞬で所属不明機の頭部と両足、残った片腕が吹き飛んだ。

「うそ・・・あたしと一夏でも苦労した相手を、一瞬で・・・それに、何なのよ・・・あの異常なまでのスピードは」

 いつの間にかドラグーンを戻して所属不明機の上に浮いていたストライクフリーダムから感じられた絶対的な威圧感を、漸く自覚した鈴音は悟った。
 このISには、キラ・ヤマトとストライクフリーダムには、自分では何をしても勝つ事は出来ない。彼にとって鈴音など路肩の石に等しい力でしかないのだと。

「両手両足、頭も失ったのに、まだ動くんだね・・・ゴーレムT」

 キラがゴーレムTと呼んだその所属不明機・・・頭を潰されても動いている事から無人機と思われるソレは・・・動く術も、攻撃する術も、敵を捉える術も失ったというのに、まだ動こうともがいている。

「束さん・・・貴女は何をしたいんですか?」

 そう呟いたキラだったが、直ぐに表情を引き締め、両手のライフルを縦に連結させて銃口をゴーレムTに向けた。

「これで、終わりだよ」

 通常のビームよりも強力なビームが発射され、ゴーレムTの胴体を貫いた。コアは避けて撃ったが、ISとしての中枢機能を完全に破壊したので、これ以上動く事が出来なくなったゴーレムTは、その動作を完全に停止させるのだった。


 IS学園地下、最高機密室の管制室にキラとラクス、千冬と真耶は来ていた。
 管制室のガラスの向こう・・・メカニックルームのようになった場所には、先の所属不明機、ゴーレムTが解析をされている。

「どうだ?」
「やはり無人です・・・コアも調べてみましたが・・・・・・どこの国家にも登録されていないものです」

 つまり、ゴーレムTに使われているコアは、束が作った467個のコアとは別の・・・468個目のコアという事だ。

「やはり・・・ですか」
「ヤマト君、何か心当たりでも?」
「・・・いえ、特には」

 しかし、心当たりなんて聞かなくても真耶だって気付いている。コアを作れる人間なんてこの世に一人しか存在していないのだから。

「ヤマト、話がある、付いて来い・・・クラインも同席してくれ」
「はい」
「わかりましたわ」

 この場を真耶に任せて、千冬はキラとラクスを連れて別室に移動した。その部屋にある椅子に三人とも座ると、備え付けのインスタントコーヒーを淹れて少し、落ち着く。

「私もだが、ヤマトとクラインにはアレが何なのか・・・見当は付いているのだろう?」
「はい・・・一応、設計図は見た事がありますので」
「私も、キラと一緒に見ましたから」
「そうか・・・やはり束だな?」

 当然、千冬も気付いていた。しかし、束が何のつもりでこんな真似をしたのかは、流石に解らない。

「アレの名称は?」
「ゴーレムTです」
「Tという事はUとV・・・それ以降もあるのか?」
「私たちが見ただけではVまででしたが・・・」

 束ならそれ以上を作っている可能性が高い。

「つまり、あの馬鹿はまだ未登録のコアを2つ以上は作っているという事か」
「そうなりますわね」

 頭が痛い。本気で頭痛がしてきた千冬だが、それ以上に胃が痛くなりそうで・・・思わず全身から殺意が溢れ出しそうになった。

「ともかく、この話は最高機密事項として扱う。ヤマトとクラインは、ここでの話は絶対他言無用だ」
「了解」
「かしこまりました」

 国家最高機密クラスの内容になってしまうので、これは当然の事だろう。
 それから、今後も束関連の事で何かが起きる可能性があり、それが何の目的なのかを聞かなければならなくなった。


 一度地上に戻ったキラとラクスは自分達の部屋に戻り、携帯電話の電話帳から束の名前を出すと、通話ボタンを押した。

『もすもすひねもす〜? はぁい! みんなのアイドル、篠ノ之 束ちゃんだよ〜?』
「・・・・・・今日、ゴーレムTが来たんですけど」
『スルー!? 酷いよキー君! キー君にスルーされると地味に傷つくよ!?』
「あれ、束さんが送り込んだんですよね?」
『……まあね、確かにゴーレムTは束さんが送ったよ。誰にも強奪されてないもん』

 やはりそうだった。

「あれは明らかに一夏を狙ってましたけど、何故・・・ゴーレムTを?」
『キー君、いっくんはね・・・これから様々な人、組織、国に狙われる。それに、キー君が予想した第三次世界大戦・・・第一次IS世界大戦だっけ? が起きた時、いっくんは必ず世界中から狙われる事になるよ・・・・・・だからね、いっくんには成長してもらいたかったんだ。自分の身と、いっくんが選んだ大切な人を護れる強さに』
「そのために・・・実戦経験を積ませようと?」

 確かに、今後の世界の事を考えれば一夏の立場は危うい。何処かの組織、国に所属したとしても、世界で二人しかいないISを操縦できる男、世界大戦が起きれば間違いなく命を狙われる対象となる。それも、真っ先に・・・。

『いっくんは、私にとっても大切な弟みたいな子・・・・・・だから絶対に馬鹿な人間の思惑で死んで欲しくないんだ。だから、今からでも兎に角強くなってもらいたい・・・誰にも負けない力を得て、私とキー君が作った白式で、何にも負けない強い存在に』
「そうですか・・・・・・なら、鍛えるのは僕の仕事ですね」
『うんうん、それと強くなるまでの護衛』

 そして、実戦経験を積むのに・・・邪魔をしてはいけない。

『あ、でも某国企業が出てきたら遠慮無くキー君が叩き潰してね? あそこは今のいっくんには手に負えないし、今の状態では下手したら殺されちゃうから』
「勿論です。僕もあそこの事は調べてますけど・・・正直な話、殆ど解らないですし」
『天才束さんと同じく天才キー君でも調べきれないからねぇ。厄介だよ〜』
「ただ、もう一つ・・・問題が出てまして」

 ラクスの事だ。キラはラクスに電話を代わり、彼女自身に説明させる。

「お電話代わりましたわ」
『あ〜ラーちゃん! 制服の写真ありがとうね! すっごく似合ってたよ〜!』
「ありがとうございます。それで・・・私の問題なのですが・・・適正ランクがAと出ましたわ」
『おやおや〜? それは束さんも予想外だよ! それじゃあオペレーター志望っていうのが返って不味い事態になりそうだね』

 既に色々と起きている。学園の教師の中にはラクスにIS操縦者にならないか? と直接聞いてくる者もいるし、しつこく操縦者として勧誘してくる教師もいる。

「キラが護ってくれてますけど・・・その」
『まあ、いつかは限界が出てくるよねぇ。個人では企業や組織、国には勝てないところも出てくるもん』
「はい・・・」
『ふんふん・・・よし!! 束さんが一肌脱ぐとしますか!』

 嫌な予感がした。束が一肌脱ぐなんて言うと、碌な事にならない気がするのだ。

「束さん? 紅椿の事もあるのですから、無理はしないでくださいね?」
『問題な〜し! ぜぇんぶ束さんにお任せ!! それじゃあアイデアを纏めたいから切るね!? ちーちゃんやいっくん、箒ちゃんに宜しく〜!!』
「あ、あの・・・! ・・・・・・切られましたわ」
「束さん・・・なんだって?」
「何か、いいアイデアがあるとか・・・・・・」

 激しく嫌な予感がする。束のアイデアが良い方向へ流れた事なんてキラとラクスが知る限りでは数える程しかなかったのだ。

「しょうがない・・・悪い方向へ流れない事を祈ろう」
「ですわ、ね・・・」

 この日、悪い予感を拭い去る為、二人がベッドに入ってから寝るまで3時間は掛かったとだけ、記しておこう。


 クラス対抗戦は中止となった。所属不明IS・・・ゴーレムの出現によってトーナメント所ではなくなったので、優勝賞品であるスイーツ無料パスも当然だが無し、全学年の女子が嘆いたのは当然の結果だろう。

「はい、皆さんにお知らせがあります! 今日から転校生が来ますよ!!」

 朝のHRで、副担任の真耶がそんな事を言ってきた。この時期に転校生・・・2組の鈴音みたいに他国の代表候補生なのだろう。

「じゃあ、入ってきてください!」

 教室の入り口、ドアが開かれて入ってきたのは二人・・・片方は眼帯をした銀髪の少女で、もう片方は・・・・・・。

「うそ・・・」

 キラですら予想出来なかった存在の登場、果たしてそれは何を意味するのか、今はまだ・・・わからない。



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