IS〜インフィニット・ストラトス〜
自由の戦士と永遠の歌姫

第十九話
「千冬の覚悟、シャルロットの涙」



 タッグマッチはシュ ヴァルツェア・レーゲンの暴走によって中止となった。一応、全生徒の力を見る為に1回戦だけは全試合を行い、2回戦以降は全て中止だ。
 キラはシュヴァルツェア・レーゲンの暴走の後、千冬に言われて束と連絡を取りながらドイツと亡国企業、織斑一夏誘拐事件当時の事を調べていた。
 調べてみて判った事だが、シュヴァルツェア・レーゲンに搭載されていたVTシステムに使われている千冬のデータは彼女がドイツへ教官として赴いた時に取られた実戦や訓練、模擬戦のデータから取られているのだ。

「束さんの方は如何でした?」
『う〜ん? 束さんが得た情報もキー君のと大差ないんだけどねぇ。でも随分と頭にくる情報が見つかったかなぁ』
「もしかして、見つかったんですか? クローン技術」
『さっすがぁ! そうなんだよねぇ、ちーちゃんがドイツに行って少ししてから急にドイツがクローン技術を完成させてるんだよ〜、もしかしたらサイレント・ゼフィルスを盗んだちーちゃんソックリさんはドイツで生まれたのかもねぇ』

 まだ亡国企業とドイツの繋がりは見つからないが、恐らく間違いなくビンゴだろう。

「千冬さんにはクローンの事、知らせますか?」
『良いよ〜、ちーちゃんは知っておくべきだと思うもん』
「後はドイツが何故、一夏を亡国企業に誘拐させてまで千冬さんを欲したのか、ですね。ブリュンヒルデの実力が欲しいからっていうのは判ります。VTシステムに千冬さんのデータが欲しかったからというのもあるんでしょうけど、それだけじゃない気がするんですよ」
『それを調べるのは束さんの役目だよ〜、丁度良く紅椿は完成したし、そっちに集中出来るから』

 どうやら完成したらしい。白式と共にキラと束が開発した二機目の第四世代型ISにして、“彼女”の専用機が。

『あ、それとラーちゃんにも良い物を用意しておいたから、そっちの臨海学校の時にでも紅椿と一緒に持っていくから〜』
「良い物?」
『そう! ラーちゃんの為に作り出したオペレーター専用のISがね!!』

 ラクス専用のIS、それもオペレーターが乗る事を前提として束が開発した新型のIS、それが完成して、紅椿と共に届けると言っているのだ。

「ラクスに専用機って! それは不味いんじゃ・・・」

 只でさえラクスをIS操縦者にしようと学園上層部や日本、国際IS委員会が煩いのに、専用機を持たせてしまっては不味い状況になる。

『だから、そのためのオペレーター専用ISなんだよ〜』
「どういう事ですか?」
『それは公開してからのお楽しみ! まあ、キー君も納得出来るスペックにはなってるから、安心して良いよ』

 束の事だからその辺の事は任せても大丈夫だという信頼はあるが、如何も心配になってしまうキラは、過保護なのだろうか。

「じゃあ、臨海学校の時にまた」
『うん! 会えるの楽しみにしてるよ〜、じゃねぇ!!』

 電話が切れたので、キラは集めたデータをUSBメモリーに入れて部屋を出た。向うのは寮長室、つまり千冬の部屋だ。

「織斑先生、僕です」
『ヤマトか、少し待て』

 ノックをすると中から千冬の声が聞こえ、少しの間だけ待たされる。その間に中からは何かを片付けているのであろう音が聞こえ、5分くらいで漸く扉が開いた。

「待たせたな、入れ」
「失礼します」

 寮長室の作りは他の寮生の部屋と大差ない作りになっていた。ただ、部屋の彼方此方には、片付けてはいるのだろうが、服が散らばっており、ゴミ箱には大量のビールの缶が捨てられている。

「少しは片付けましょう?」
「一夏と同じ事を言うな。それで、調べたのだな?」
「ええ、束さんと共同で調べて、随分と見つかりました」

 先ず見せたのは先日、束から送られて来たイギリスでのサイレント・ゼフィルス強奪事件の監視映像だ。そこに映っている人間の顔を見た時、千冬の米神には青筋が浮かび、憤怒の表情になった。

「クローンか」
「恐らく、織斑先生がドイツに行って少ししてから、ドイツはクローン技術を完成させたみたいですね」
「それに、VTシステムのデータ、これも私がドイツにいる間に取ったものを使っているのだな」

 実に面白くない。VTシステムを完成させる事と、千冬のクローンを作る為に、その為に千冬が利用されていたなどと、気に入らない話だ。

「これで、間違いなくドイツと亡国企業の繋がりは確かな物になったが、証拠が見つからんか」
「ええ、これだけでは証拠として不十分です。一夏誘拐事件を起こした亡国企業が、ドイツの依頼で行ったという確かな情報が見つかってません」
「歯痒い、な・・・」

 とりあえず、証拠の捜索は引き続き束がやってくれるので、キラも暇な時にはそれに協力する事になった。
 それと、もしかしたら本当に暮桜・真打が必要になるかもしれないという事実が発覚してしまった。千冬も覚悟を決め、いざという時は躊躇無くラクスから受け取ると約束してくれた。

「それじゃあ、ヤマト、お前は大浴場にでも入って来い。大浴場の男子入浴時間が作られたからな、IS学園学生寮自慢の大浴場をたっぷりと堪能して来ると良い」
「判りました、それではお言葉に甘えて」
「ああ、一夏はもう入ったみたいだからな、今なら一人で広い風呂を楽しめるぞ」
「それは楽しみです」

 キラも広い風呂は好きだ。アークエンジェルの天使湯にもキラは毎日浸かっていたくらいで、実は天使湯がアークエンジェルに作られたのはラクスとキラ、二人の要望だったりするのだ。

「それでは、データは置いて行きますね。失礼しました」
「ああ、すまないな」

 寮長室を出たキラは部屋に戻って着替えとタオルを取りに行き、部屋の中に居たラクスに大浴場に行ってくるという旨を伝えて部屋を出ると、丁度シャルロットと遭遇した。

「あれ? キラ、何処か行くの?」
「あ、うん、大浴場に。男子の入浴時間が出来たって聞いて、今が丁度その時間らしいんで入ってこようかなって」
「そう、なんだ・・・」
「うん、それじゃあね」

 シャルロットと分かれて大浴場に来たキラは、早速その広い風呂を堪能していた。予想以上に広い風呂に、風呂好きのキラは大満足で、前に入った事があると言っていたラクスの話通りの良い湯加減だった。

「天使湯は戦艦内の温泉だったから、そんなに大きくなかったけど、ここは凄いね」

 やはり部屋のシャワーや小さいバスユニットだけでは満足出来る筈も無い。こうして足を伸ばしてゆっくりと湯に浸かっているのが一番だ。
 その時、脱衣所への入り口が開く音が聞こえた。それと同時に足音が二つ、その足音の軽さから女子のものと判断出来る。

「うそ、如何しよう・・・?」

 慌てて隠れるかしようとしたキラだったが、入ってきた人物が視界に入ってきて驚いた。入ってきたはラクスとシャルロットの二人なのだ。

「ら、ラクス、シャルロット?」
「失礼しますわね、キラ」
「えっと、お邪魔します・・・」

 何故か、ラクスとシャルロットはキラが入っているのにも関わらず、入ってきてしまった。ラクスはキラの裸を見るのも、自分の裸をキラに見られるのも慣れているので、今更恥かしがる事も無い。
 しかし、シャルロットはそうもいかず、初めて異性、それも歳の近い異性との入浴という事で顔を真っ赤にして、タオルで必死に身体を隠しながらゆっくりと湯に浸かった。

「あの、ラクス? なんでシャルロットと一緒に・・・その、僕が入ってるの知ってるのに」
「あら、私はお友達とご一緒に入浴したかっただけですわ。シャルロットさんは私のお友達ですもの、キラもシャルロットさんのお友達でしょう?」
「いや、だから年頃の女の子が恋人でもない異性と一緒に風呂っていうのは・・・」
「ぼ、僕は別にキラが一緒でも、その・・・良いよ?」
「いやあのね・・・」

 正直、目のやり場に困る。ラクスの裸は見慣れているので今更だが、シャルロットは恋人ではない。何より、恋人であるラクスが横にいるのに、シャルロットの裸を見る訳にはいかない。

「それに、少しお話したい事がありましたから、私も、シャルロットさんも」
「話・・・?」

 急に真剣な表情になったラクスに、キラも表情を変えた。こういう真剣な表情をする時のラクスは、冗談を言ったり、からかったりする事は無いのだ。

「先ず、シャルロットさんですが、学園に残ることを決意したみたいですわ」
「・・・本当に?」
「うん、僕はやっぱり学園にいたい。キラやラクス、一夏たちと・・・友達と一緒にいたいから、だから僕は、生まれて初めて父に逆らうよ。もう、僕の人生を父に決められたて動きたくないから、僕自身の意思で、僕の進むべき道を決めるんだ」
「そっか、良いと思うよ」

 シャルロットがそう決めたのなら、それを尊重する。自分の意思で決めた事を、他の誰かが否定したり、口出しする資格は無い。シャルロットが自分で決めたのなら、それを応援するだけだ。

「それから、私からのお話ですが、シャルロットさんを私とキラの妹として引き取りませんか?」
「・・・・・・え?」
「学園を卒業したら、シャルロットさんは間違いなくフランスへ強制送還されるでしょう。ですから、卒業と同時に私とキラの妹として正式に引き取るのです。幸いにもシャルロットさんはデュノア社長の娘となっていますが、戸籍上は養子縁組も何もしていませんでしたから」

 だから、卒業と同時にシャルロットをキラとラクスの妹として引き取り、フランスに手出しをさせない。シャルロットが卒業する頃にはキラとラクスも22歳、既に成人しているので、別に問題も無いだろう。

「私とキラは、卒業と同時に結婚します。ですから、シャルロットさんはそのままヤマト家の人間として戸籍登録をしてしまえば宜しいのですわ」
「凄いこと考えるね、でも良いかもしれない。シャルロットは間違いなくこのままだと卒業して直ぐにフランスへ強制送還、恐らくは女だとバレた事で牢獄行き間違い無しだからね」

 シャルロットの意見は如何かと彼女の様子を伺ってみると、目尻に涙を浮かべながら震えていた。

「シャルロット?」
「シャルロットさん?」
「い、良いの? 僕、そんなに迷惑かけちゃって、キラとラクス、フランスに恨まれちゃうかもしれないのに、それでも僕を、妹に、してくれる、の?」
「勿論、僕は構わないよ。迷惑でもない、シャルロットを守る為なら僕もラクスも、迷惑なんて思わないから」

 ラクスも笑顔で頷いた。キラもラクスも、シャルロットの幸せの為ならフランスを敵に回す覚悟もあるし、戦って勝つ自信もある。

「卒業したら、私はお姉さんですわ。キラはお兄さん、妹が姉と兄に甘える事は、決して悪い事ではございませんわよ」
「う、うん、うん! ありがとう、キラ、ラクス・・・ううん、お兄ちゃん! お姉ちゃん!」

 涙を流しながらラクスに抱きつくシャルロットの頭を、キラは近寄って優しく撫でた。ラクスも抱きついてくるシャルロットを優しく抱きしめ、まるで姉というより母のような慈愛に満ちた表情で見つめていた。



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