IS〜インフィニット・ストラトス〜
自由の戦士と永遠の歌姫

第二十九話
「福音との決着」



 オルタナティヴの単一仕様能力(ワンオフアビリティー)、歌姫で足止めをしている白式と紅椿以外全てのISの傷が癒え、シールドエネルギーが満タンになった。
 二人を援護する為に、再び飛び出した一同、ラウラのレールカノンが福音を襲い、かわされる事を承知で撃ち続けて一夏たちから引き離した。

「すまん、回復に遅くなった」
「さぁ、反撃のお時間ですわよ!」
「ラウラ、セシリア・・・!」

 ラウラとセシリアが一夏に追いつき、自分達はまだ戦えると笑みを浮かべた。それに対して一夏も安堵して、それから他の皆の事も見る。

「一夏、さっさと片付けちゃおうよ」
「エネルギーは充分、僕達の心配はいらないよ」
「鈴、シャルロット・・・」

 鈴音もシャルロットも戦意はまだ失われていない。むしろ一夏の登場で更に高まったと言っても良いだろう。

「遅刻した罰だ、確実に福音を仕留めろ」
「僕も、本気を出すから」
『もし被弾しても、私が確実に癒して差し上げます』
「千冬姉、キラ、ラクス・・・」

 全員、まだまだ戦える。それだけでも一夏には心強い、仲間達と、世界最強の座にいる姉と、誰よりも強い師匠と、心を癒してくれる歌姫の存在、それが一夏を更に強くしてくれる。

「よぉっし! はぁ!」

 気合充分に飛び立った一夏を追って、キラ達も飛び出した。
 その後姿を見送る箒も、一夏たちがまだ戦うつもりで、それだけの気合が残っている事に安心する。

「一夏・・・(私は、共に戦いたい。あの背中を、守りたい!!)」

 いつの間にか、自分を遥かに超えて強くなった一夏の背中、箒は改めて、自分がISに乗る意味を見出した。
 箒は一夏と共に戦いたかったのだ。共に戦い、そして箒自身の手で、一緒に戦う一夏の背中を守りたい。他の誰でもない、箒自身の手で。その為に、箒は自分の専用機を望んで、今この紅椿に乗っている。
 もう大丈夫、慢心も油断も、絶対にしない。一夏を守る、ただその為に箒は紅椿に乗って、戦場に立つのだ。だから・・・・・・。

「紅椿・・・私に、一夏を守る力を!!」

 その時だった。紅椿が光に包まれ、全身が黄金の光を放って紅い装甲が金色に変わる。

単一使用能力(ワンオフアビリティー):絢爛舞踏、発動】

 これは、紅椿の単一仕様能力(ワンオフアビリティー)が発動したのだ。絢爛舞踏、それが紅椿の単一仕様能力(ワンオフアビリティー)の名前で、紅椿の切り札。

単一仕様能力(ワンオフアビリティー)・・・絢爛舞踏」

 絢爛舞踏が発動した瞬間、紅椿の残存シールドエネルギーが一気に回復して、フルチャージしてしまった。

「これは・・・千冬さんの暮桜・真打の絢爛・零落白夜と同じ・・・」

 千冬は絢爛・零落白夜によってシールドエネルギーを全快してバリアー無効化攻撃をしていた。
 紅椿に零落白夜の機能は無いので、ただシールドエネルギーが回復するだけなのだろうが、エネルギー効率の悪いこの機体にはピッタリの能力だろう。

「これは・・・!」

 そして、絢爛舞踏の事を少しだが調べた箒は、その真価とも言うべき力を見つけた。それは箒の願い通りの事を実現してくれる力であり、白式と紅椿が姉弟機だという証明でもある。
 箒はずっと下ろしっぱなしだった髪を、先ほど一夏からプレゼントされた白いリボンでいつもの髪型に戻すと、先に飛び立った一夏たちを追った。

「行くぞ、紅椿!」


 福音との戦いは白熱していた。ラウラとセシリア、シャルロットの射撃が福音の動きを限定させて、一夏と千冬が接近戦で兎に角ダメージを与えていき、キラが時には射撃を、時には接近戦を行って福音の判断能力を奪っていく。

「うぉおおおおおおおお!!!」

 だが、エネルギー効率の悪い白式は、第二形態になった事で更に消費効率が悪くなっている。もう残りエネルギーは10%しか無い。

「やばい、エネルギーが・・・!」

 短期決戦用の機体と言っても良い白式では、こんな長時間の戦闘には不向きだ。それが仇となって、シールドエネルギーが限界に近づいている。
 その時だった。一夏の隣に追いついてきた箒が並んだのは。

「一夏! これを受け取れ!!」

 近づいてきた箒が白式の手を取り、握り締めると、繋いだ手を中心に黄金の光が二人を包み込んで、白式のシールドエネルギーをフルまでチャージした。

「なんだ? エネルギーが・・・回復!?」
「一夏、奴を倒すんだ!」
「・・・おう、行くぞ!!」

 改めて、千冬は絢爛・零落白夜を発動、オルタナティヴも歌姫を発動していつでも回復出来ように準備をする。
 そして、一夏と箒の事を黙って見つめていたキラは、フッと目を閉じると、少しだけ深呼吸をして目を開く。

「出し惜しみはしない・・・行こう、ストライクフリーダム!」

 ストライクフリーダムを発進させた瞬間、キラの脳裏で種が弾ける様な衝動が起きる。キラの瞳からハイライトが消え、思考がクリアーになる感覚は、何度も戦場でキラを助けてきたSEEDの覚醒だ。
 そしてSEEDを覚醒させたキラを見ていたラクスもまた、ハイパーセンサーを全開にして戦況を把握、全ての情報が頭を流れ、同じようにラクスの脳裏でも種が弾けた。

「皆さん、福音のシールドエネルギーも残り少ない筈です。あと一息、頑張ってください」
『了解!!』

 最後の決戦が始まった。箒の紅椿が高機動で福音に切りかかりながら追い詰め、動きをどんどん封じていく。

「一夏! 今だ!!」

 箒の合図で一夏が雪片弐型を構えながら飛んでくる。しかし、福音の目の前で押さえつけていた箒の目に福音の白い翼から銀の鐘(シルバーベル)が放たれるのが映り、至近距離で直撃してしまった。
 紅椿から離れた福音は白式と切り合い、至近距離からの銀の鐘(シルバーベル)を浴びせようとするが、速度の上がった白式には当たらない。

「ラウラ! 頼む!!」
「任せろ!!」

 ラウラが小島に着陸して構えていたレールカノンが発射され、弾丸が福音を掠める。それに振り返った福音は一夏に対して決定的な隙を見せた。

「はぁっ!!」

 その隙を狙って切りかかった一夏だが、バク転でかわされ、レールカノンの弾丸も次々と避けられる。
 その中で放たれた銀の鐘(シルバーベル)が地上にいたラウラを襲い、ラウラは間一髪で防御をするが、ダメージが大きい。
 しかし、福音がラウラに向けて銀の鐘(シルバーベル)を撃っている背後からセシリアのブルーティアーズが4機、レーザーを撃ち込み、見事背中に直撃させる。

「私がここにおりましてよ!!」

 今度はセシリアの方を向こうとしていた福音に、鈴音が放った衝撃砲が直撃して、攻撃の隙を与えない。

「一夏! もう一回よ!!」

 だが、福音は衝撃砲の中、何とか飛び上がり、全方位に向けて銀の鐘(シルバーベル)を解き放った。

「鈴!」

 衝撃砲の構えを解こうとしていた鈴音は避ける事が出来ない。シャルロットがガーデン・カーテンを展開しながた鈴音を庇い、銀の鐘(シルバーベル)を防ぐ。

「一夏、急いで! もう持たない!!」

 回復したとは言え、これだけの弾丸の嵐だ。ガーデン・カーテンを持ってしてもシールドエネルギーは大きく削られていく。
 上空で銀の鐘(シルバーベル)を放つ福音の後ろからストライクフリーダムが接近してきて、ビームライフルとドラグーンによる射撃、ビームサーベルによる斬撃を繰り出してくる。
 SEEDの覚醒をしたキラが出すその速度は今までの比ではなく、一つ一つの攻撃も威力、鋭さが増していた。

「一夏! 千冬さん!!」

 トドメだ。福音の上空から太陽をバックに千冬が先に急降下してきて、バリアー無効化の斬撃を胴体に叩き込んで離脱、それに気を取られた福音は更に頭上から急接近してくる一夏に気付くのが遅れた。

「今度は逃がさねぇ!!!」

 雪片・弐型を持っていない左手、その掌から零落白夜のエネルギーが溢れ、エネルギー爪、雪羅が展開されて、福音に叩き込んだまま近くの島まで飛んだ。

「動く暇なんて、与えるかよ!!!」

 その状態から一夏は千冬ですら出来なかった芸当を遣って退けた。
 通常の瞬時加速(イグニッションブースト)ではなく、瞬時に機体限界を大きく超えた速度を叩き出す瞬時大加速(ハイパーイグニッションブースト)を使い、島まで一瞬で移動すると、その砂浜に福音を叩き付けた。
 砂浜に横たわる福音に零落白夜を発動した雪片弐型を突き付ける一夏だが、それを堪えて首を絞めようとしてきた福音。
 しかし、千冬とキラが追いついてきて腕を切り落とし、雪片弐型のエネルギー刃が装甲に当たるのと同時に福音のシールドエネルギーが0になり、機能を停止させる。

「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
「・・・終わったな」
「ああ、やっとな・・・」

 立ち上がって荒い息を吐く一夏に、近づいてきた箒が労いの言葉を掛けた。それに一夏も返すと、今度は千冬とキラの方を向く。

「千冬姉とキラもサンキューな、あのまま首を絞められてたら不味かった」
「ふん、まだまだ詰めが甘い・・・が、まあ、なんだ・・・・・・よくやった」
「うん、本当に強くなったね一夏」

 そっぽを向く千冬だったが、確かに声に出して一夏を褒めた。勿論、見えている耳は真っ赤に染まっている。それを指摘する勇気のある者は、残念ながらこの場にはいないが。

「帰ろっか!」
「うむ、帰ろう」
「そうだな、山田先生に司令室を任せっきりだ」
「帰って、ゆっくり温泉にでも浸かろうか」

 福音との戦いは終わった。
 機能停止した福音はキラが運ぶことになり、セシリア達も追いついてきて一同、旅館へと戻るのだった。
 今はただ、戦いの疲れを癒す為に、旅館の温泉を目指して・・・・・・。




あとがき
一気に五話です。



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