IS〜インフィニット・ストラトス〜
自由の戦士と永遠の歌姫

第三十六話
「姑息な手段」



 学園祭の出し物が決まったある日の事、キラとラクスは廊下を歩いていたのだが、生徒会室の前を通りがかった時、中から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「一夏・・・?」
「それと、生徒会長の声ですわね」

 何故、生徒会室から一夏の声が聞こえてくるのか、それは同じく聞こえてきた生徒会長の楯無の声が物語っている。

「やっぱり、標的を一夏に変えたんだ」
「どうします?」
「・・・立ち聞きは好きじゃないし、向こうに不干渉を言った僕が今更生徒会室に入るのはちょっとね・・・」

 話なら後で一夏に聞けばいい。
 二人は後で一夏に詳しい話を聞くと決め、急ぎ足で教室に戻る。教室に戻って少しすると、若干だが表情の固い一夏が帰ってきたので、丁度良いと話を聞く事にした。

「一夏、更織生徒会長と何を話してたの?」
「キラ? なんで知ってんだ?」
「私とキラが生徒会室の前を偶々通りがかったら、中から一夏さんと更織会長のお声が聞こえましたもので・・・」
「そっか・・・実はさ」

 一夏は楯無に勝負を挑まれたらしい。その勝負に一夏が負けたら楯無が一夏を鍛える。一夏が勝てば、その話は無し。

「最初はさ、キラが鍛えてくれるからいいって断ったんだぜ? でもそしたら先輩、顔色を変えて詰寄ってきたんだよ・・・『彼に教わってたら一夏君は取り返しのつかない事になる』なんて言われて、それでつい、カッとなって」

 そこまで言うのならキラに鍛えられた実力を見せてやるという事になってしまったらしい。随分と安っぽい挑発に乗ったものだと思うが、楯無が言った取り返しのつかない事になるというのは少し、聞き捨てならない。

「成る程、一夏を僕から引き離す作戦か・・・」
「姑息な手段ですね」

 一夏をキラから引き離して、そこからキラを中心として構成されているメンバーを崩し、キラの味方を全て楯無側に引き込む。
 そして孤立したキラに、自分から楯無側に来るように仕向けるつもりなのだろう。本当に姑息な手段で、少し考えれば直ぐに判るような程度の低い作戦だ。

「一夏、正直に言うよ・・・一夏は多分、負ける」
「なっ!」
「たとえISだろうと、生身だろうと、一夏に更織会長と戦った時の勝率は低いよ」

 あれでも更織家の天才、ロシアの代表操縦者なのだ。IS操縦だろうと、生身の戦闘だろうと、今の一夏よりも実力は上のはずだ。

「一夏は剣道を止めて長い。そして最近になってISでの戦闘の為に鍛え直し始めたばかり。その一夏が、現役学園最強の更織会長に、勝てる? 今まで鍛錬を怠っていない相手に、今の一夏が」
「それは・・・」

 無理だ。それは剣道をやっていた一夏が一番よく解っている事だろう。一夏自身、昔の自分にすら今の自分は勝てないと自覚している。だからこそ余計に解る。
 キラの見立てだが、恐らく楯無は白兵戦においてはラウラと互角か、それ以上だ。ラウラに白兵戦で勝てない一夏が勝てる相手ではない。

「なぁ、キラは勝てるのか? 先輩に」
「この前、ISでの模擬戦をしたけど、その時は勝ったよ。白兵戦でも、たぶん・・・勝てる」

 キラは元々現役軍人だったし、アスランやバルトフェルド、ムゥなどから徹底的に鍛え上げられたので、白兵戦に関しても自信はある。
 そもそも、ナチュラルとコーディネーターとでは基本的に身体能力に差がある上、スーパーコーディネーターのキラの身体能力は軽く人間を凌駕しているのだから、勝てない道理はない。

「くそ・・・如何するかなぁ。正直、鍛えてくれるのはキラが良いんだけど、会長に勝ち目無いとなるとマジで俺、先輩直々に鍛えられる事になるぜ」

 正直、楯無の事が苦手な一夏は出来れば今まで通りにキラに鍛えてもらいたいのに、現実問題、それはもう不可能になってしまう。

「・・・・・・一夏、もう一夏が会長に鍛えてもらうのは仕方ないとするよ。だから、少しだけ待ってて、僕もそれなりに準備を整えたら直ぐにでも一夏をまた僕が鍛えられる様にするから」
「本当か!?」
「うん、僕もそれなりにコネはあるからね」

 例えば世界最強とか、世界最高の天才とか、そして・・・学園の支配者とか。


 放課後、一夏が楯無と戦う為に武道場へ向ったのを見届けたキラはラクスと共に職員室に向かっていた。
 二人の目的は只一つ、この学園の支配者との謁見許可を貰うため、その為に千冬に協力してもらうのだ。

「そうか・・・更織がな」
「ええ、生徒会長として僕に接触出来なくなり、更織家の方でも、ロシアの方でも、僕の事を詳しく調べられなかったから、今度は一夏を皮切りに僕の周りを会長側に取り込んで、僕を孤立させるみたいですよ」
「ふん、随分と姑息な手段に出たものだな・・・あいつらしくもない」
「それだけ、切羽詰った状況なのか、只の興味本位なのか、負けず嫌いなのか・・・ですわね」

 だからこそ、なおさら会う必要があるのだ・・・このIS学園の裏の支配者、轡木十蔵に。

「わかった。彼に会う為の段取りは付けておく、恐らく会えるのは明日の放課後か、明後日の放課後になると思うぞ?」
「構いません」
「そうか・・・なら、手配しておく」

 これで良し。一安心したキラとラクスは職員室を後にすると、特に用事も無いので寮に戻った。
 寮の部屋に戻ってきた後、ラクスは大浴場に向ったので、キラは一人部屋に残されているのだが、ふと何気なくストライクフリーダムを部分展開して部屋全体をスキャンする。

「合計59個・・・随分と、仕掛けたものだね」

 部分展開したストライクフリーダムを再び待機状態に戻すと、机の片隅の目立たない部分にある小さな窪みを押す。
 するとその部分が開いて中から赤いボタンと青いボタン、黄色いボタンが出てきて、迷う事無く赤いボタンを押した。

「これで良しっと」

 ボタンを押した瞬間、部屋全体に電流が流れ、彼方此方で小さな機械が爆発する音が響いた。

「しかし、どうやって侵入したのかな・・・? まぁ、パソコンは弄られた跡はあるけど、セキュリティは僕が開発したものを使ってるから何も得られなかっただろうけど、まさか盗聴器を仕掛けてくるなんてね」

 先ほどの電流で爆発したのは部屋中に仕掛けられていた59個の盗聴器全てが爆発した音だった。
 朝は特に異常が無かったので、昼間、キラたちが学校に行っている間に仕掛けたのだろう。他の部屋よりも破るのが難しい筈のドアを破って。

「はぁ、千冬さんに頼んでドアの鍵をもっとセキュリティ性の高いものに変えてもらおう」

 電子ロックなので変えてもらった後にキラが手を施せば例え楯無でも破れないだけのものにする自信があった。

「もし、本気で僕に敵対行動を取るなら・・・束さんにも動いてもらおうかな」

 束が動けば、楯無は今後、二度とISを操縦する事が出来なくなる。更にキラが本気で動けば更織家を社会的・物理的にも潰す事など容易い。

「さてと・・・僕もそろそろお風呂の準備しないと」

 男子入浴時間が出来てから寮の大浴場が使えるのが本気で楽しみになったキラは、ロッカーから着替えの下着とパジャマ、それから風呂道具とヒヨコの玩具を取り出した。

「うん、これで準備完了」

 ラクスが帰ってくるまで、キラはパソコンを起動してハッキングを楽しむのであった。・・・・・・ハッキング先がロシアと日本である事は、言わずもがなである。



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