IS〜インフィニット・ストラトス〜
自由の戦士と永遠の歌姫

第四十一話
「異邦人の真実・1」



 血のバレンタイン、それは多くのコーディネイターの命が奪われた最悪の事件。地球連合が放った核ミサイルによって崩壊したユニウスセブンにいた24万3721名もの民間人が死亡した。

「何で・・・何で民間人が住んでるところに核ミサイルなんて!!」
「核ミサイルを撃ったMA(モビルアーマー)のパイロットは反コーディネイターを掲げる組織、ブルーコスモスの人間だった。彼等はコーディネイターをこの世から廃絶する事を目的としていたから、民間人であろうと、コーディネイターである以上、殲滅する対象だったんだ」
「酷い・・・そんなの、人間が、同じ人間にする事じゃありませんわ」
「そうだね・・・僕も、そう思う。でも、彼等はコーディネイターを人間とは思っていなかった。宇宙(そら)の化物と言っていたから」

 中にはこんな事を子供達に教えている所もあった。良いコーディネイターは死んでくれたコーディネイターだけだ、と。悪いコーディネイターは生きているコーディネイターだと。

「それがブルーコスモスのやり方、教えか・・・軍人としての意見を言わせて貰うなら、下衆の集まりだな」
「そうね、あたしもラウラに同意見よ。ブルーコスモスこそ化物なんじゃないの? って言いたいくらいだわ」

 血のバレンタインから、戦争は激化していった。
 南アメリカ侵攻、世界樹攻防戦、第一次ヴィクトリア攻防戦、世界中にニュートロンジャマーが散布されたエイプリル・フール・クライシス、カーペンタリア制圧戦、第一次ヤキンドゥーエ攻防戦、グリマルディ戦線、第一次カサブランカ沖海戦、スエズ攻防戦、新星攻防戦、そして・・・。

「C.E.71年1月25日、この運命の日・・・僕はいつもの様にオーブの資源コロニー、ヘリオポリスのカレッジで友達と一緒にいたんだ」

 そう、いつもと変わらない毎日のはずだった。それがこの運命の日、全てが崩れ去ったのだ。

「オーブは中立国、プラントにも地球軍にも属さない、ナチュラルとコーディネイターの差別もしない、完全な中立国だったんだ」
「ですが、一部の者がオーブのモルゲンレーテ、そのヘリオポリス工場で地球軍に依頼されてとある物を造っていたのです」
「とある物?」
「G・・・僕はガンダムと呼んでいる当時、最新型のMSを造っていたんだ」

 MSはプラント、つまりザフト軍の主力兵器であり、MAが主力の地球軍が劣勢にならざるをえなかった人型機動兵器だ。

「造られていたのはGAT−X102デュエル、GAT−X103バスター、GAT−X105ストライク、GAT−X207ブリッツ、GAT−X303イージスの五機、地球軍はこの五機のデータを取ってMS量産計画を練っていた」
「ですが、ザフトでも地球軍がMSを開発している事を掴んでいました。そこで行われたのがG奪取作戦、その指揮官として・・・ラウ・ル・クルーゼがいたのです」

 クルーゼの名前が出てきた所で皆、一瞬だが身体を硬直させた。キラを落とした男の名であり、キラと因縁のある人物の名に、緊張が高まる。

「作戦は見事に進んだみたいだね。事実、イージス、ブリッツ、バスター、デュエルは奪取された」
「? ではストライクは奪取されなかったのか?」
「うん、だって、ストライクには当時学生だった僕が乗って、ザフトを撃退したんだから」

 それが、キラの人生の分岐点となった。
 ただのヘリオポリスの学生だったキラが、MSに乗り、そしてそれ以降、長きに渡る戦いに身を置くことになったのだから。

「それから、僕は幼馴染と再会したんだ。ザフト軍の軍人としてイージスの奪取に来た・・・幼馴染、アスラン・ザラと」
「幼馴染・・・だと?」
「そう、一夏と箒みたいに、小学生くらいの年齢のときの親友で、親の都合で離れ離れになった一番の親友だったアスランと・・・再会して、それからは敵同士として、戦う事になったんだ」
「「っ!」」

 一夏と箒、二人が息を飲んだ。一夏と箒も小学生の頃は一番の親友とも言って良い幼馴染で、都合により離れ離れになった。
 だけど今はこうして、再会してからは共に学び、時には共に戦う仲間として一緒にいる。
 しかし、キラとアスランは敵同士として、命を掛けた戦いをしていたのだ。

「地球軍の新型艦、アークエンジェルに僕とカレッジの友達・・・サイ、カズィ、ミリアリア、トールも一緒に乗り込んで、地球に向っていたんだ。その途中で何度も戦ったよ、アスランと、アスランの仲間とも・・・ストライクに乗って、彼等が奪取したガンダムを相手に」

 そして、地球への道程の途中で、キラはラクスと出会った。
 ユニウスセブン慰問に訪れていたラクスは地球軍に襲われ、慰問船団は壊滅、ラクスは救命ポッドに乗って漂っていたのをユニウスセブンで氷を集めていたキラのストライクに拾われ、アークエンジェルに回収されたのだ。

「それからも戦いは続いた。漸く合流した地球軍の仲間、だけどザフト軍との戦いでヘリオポリスの民間人を収容した時に一緒に収容されたカレッジのもう一人の友達・・・僕の初恋だったフレイ・アルスターの父親が、乗っていた船ごと落とされて、その後、ラクスはザフトに帰して、そしてアークエンジェルは・・・攻撃を受けながらも何とか地球に下りる事が出来た」

 フレイには激しく罵倒され、守りたかったヘリオポリスの民間人が乗っていたシャトルはデュエルに落とされたが、それでもキラは戦わなければならなかった。
 戦える者はキラとムウだけ、ストライクに乗れるのはキラだけ。だから戦わなければならなかった。たとえ精神的にボロボロになって追い詰められていても、フレイと肉体関係を結んで強迫観念に突き動かされる様に、戦い続けた。

「その結果、僕はアスランの友達・・・ブリッツに乗るニコル君を殺し、アスランは僕の友達、トールを殺した・・・その後は、僕もアスランも、お互いがお互いを憎しみ合い、敵として殺す事のみを考えて・・・・・・殺し合った」

 今でもあの時の事は鮮明に覚えている。
 ブリッツのコックピットを切り裂いた感触、目の前でトールが乗るスカイグラスパーのコックピットが潰される光景、アスランへの憎しみ、アスランからキラへ向かう憎しみ、憎しみだけが突き動かした雨の中の殺し合いを。

「僕とアスランの殺し合いの結果は、アスランのイージスが僕のストライクに組み付いての自爆で決まった。アスランは自爆寸前に脱出、爆風で海岸に叩きつけられ、僕はストライクの中で辛うじて生きていたけど、重傷で・・・ジャンク屋のロウさんに助けられて、近くに住んでいたマルキオ導師の伝手もあって、プラントの・・・ラクスの家に運ばれ、療養していた」
「キラが私の家に運ばれてから、暫くは何も無い平穏が続いていました。しかし・・・その間に遂に始まってしまったのです。戦争に終止符を打つ為に可決されたザフトの作戦、オペレーション・スピットブレイクが」
「戦争に、終止符を・・・」

 オペレーション・スピットブレイクは地球軍の残された宇宙港があるパナマ基地を襲撃する作戦だった。
 だが、その作戦目標は直前で変更され、地球連合軍最高司令部の存在するアラスカ基地・・・アークエンジェルの目的地になったのだ。

「え、つまりアークエンジェルって・・・」
「うん、敵の襲撃に遭った。それも捕虜として捕らえたディアッカの乗っていたバスターとスカイグラスパーしか無い状況で」

 しかもバスターにもスカイグラスパーにもパイロットはいない。バスターは言わずもがな、スカイグラスパーのパイロットであるムウは転属になってアークエンジェルには居なかったのだ。

「その知らせをザフト最高評議会の一人、アイリーン・カナーバさんからの通信で聞いた僕は、再び戦場に戻る決意をしたんだ」
「だが、ストライクを失ったお前には戦場に立つ為の剣が無い。違うか?」
「うん、ラウラの言う通りだった。だから」
「私が、キラに新たな剣を授けたのです」

 それこそが、当時新開発されたばかりの最新鋭機、ZGMF−X10Aフリーダムだった。

「えっと、つまりストライクフリーダムの前の機体って事か?」
「そうなるね。僕はラクスに託されたフリーダムに乗り、地球を目指した」
「私はフリーダム強奪の手引きをした疑いを掛けられ、追われる身となりましたので、一時身を隠しました」

 その後、フリーダムに乗ったキラは地球に到着、一気に大気圏を降下するとアラスカ基地で苦戦していたアークエンジェルの危機を救った。

「だけど、問題が一つあったんだ。アラスカ基地の地下には大量破壊兵器サイクロプスが設置してあった。一度作動すればアラスカ基地の全てが溶鉱炉になる程の代物がね」
「ま、さか・・・」
「そう、アークエンジェルを含む軍上層部で不要と切り捨てられた軍人達を囮にして司令部の人間は既に避難していた。そして作動したサイクロプスは逃げ遅れた連合軍の軍人も、ザフトの軍人も、見境無く消滅させてしまた」
「ひどい・・・」
「味方諸共、なんて・・・」

 何とか脱出したアークエンジェルとキラは合流を果たし、敵前逃亡をしてしまった形のアークエンジェルは今更軍には戻れない。
 なので、オーブに行く事になった。中立国オーブなら、事情を話せば匿ってくれるからだ。

「でも、オーブでの平穏も、長くは続かない。マスドライバーが無い地球軍は宇宙に上がる術が無い。だからオーブのマスドライバーと、モルゲンレーテの技術を欲した」
「侵攻してきたのだな」
「ラウラ正解、地球軍は量産する事に成功したMS、ストライクダガーと、新型MS三機・・・GAT−X131カラミティ、GAT−X252フォビドゥン、GAT−X370レイダーを投入してきたんだ。その侵攻艦隊の指揮官はブルーコスモスの盟主、ムルタ・アズラエル。戦争をゲームかビジネスとしか考えてない男だった」

 アズラエルに関する情報はキラが独自にロード・ジブリール関連の資料などを調べた時に知った事だが、資料を読む限りでは事実その通りの男だった。

「こちら側の戦力は僕のフリーダムと、回収して修理した後にナチュラル用のOSを載せ、ムウさんがパイロットになったストライク、オーブ防衛の要とも言える量産MS、M1アストレイの部隊、アークエンジェルと巡洋艦数十隻、それと途中で捕虜から開放されて僕達と共に戦う事を選んでくれたディアッカの乗るバスターだった」

 キラ以外は皆、ストライクダガーの相手で精一杯になり、キラ一人で新型三機を相手しなければならなかった。その為、苦戦は必至で、殆ど防戦一方だったのだ。

「そんな時だったね。フリーダムの兄弟機、ジャスティスに乗ってアスランが僕達を助けてくれたのは」

 ラクスに叱咤されて、命じられるまま戦う事、ナチュラルを殺す事に躊躇いを見せていたアスランだったが、ジャスティスでキラを助け、地球軍が一時撤退した後の会話で遂に、二人は数年ぶりに親友として向き合う事が出来たのだ。

「だけど次の日、再び侵攻はあった。いくらジャスティスが増えても苦戦は必至、このまま行けばオーブは負け、モルゲンレーテもマスドライバーも地球軍の手に渡ってしまう。だからウズミ様は僕達を宇宙に逃がし、民間人を国外に避難させて、オーブを焼いた」



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