IS〜インフィニット・ストラトス〜
自由の戦士と永遠の歌姫

第四十三話
「これからの事」



 第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦と停戦の話まで終えると、キラはその後の戦争やデュランダル議長の話を軽くして、最後にこの世界に来た原因である重力場と、ストライクフリーダムがISに変化した事を話して、全ての話を終わらせた。

「とまぁ、これが僕とラクスの秘密、千冬さんと束さんにしか今まで話していなかったんだけど」
「・・・まぁ、キラとラクスの事は解った。確かに考えてみればキラの強さって並じゃないとは思ってたしな。俺は納得だ」

 だが、別にキラとラクスがコーディネイターだから如何とか思う事は何も無い。コーディネイターだからって、別に二人が友達である事に変わりは無いのだから。

「それよりも、今はラウ・ル・クルーゼの事ですわ。そんな危険な方がこの世界にいる事、それが一番の脅威と考えるべきではなくて?」
「そうだね・・・お兄ちゃんが殺したと思われてた相手が、実は生きていて、この世界にいるんだから」

 クルーゼとまともに戦えるのはキラだけだ。
 だが、問題はキラのIS・・・ストライクフリーダムの事だった。先の戦いで大破して、修復しても前ほどの性能は発揮できないのだから。
 それに、逃げた巻紙礼子を追っていたラウラとセシリアが遭遇したもう一人の亡国企業の人間、それもイギリスで開発して、強奪されたティアーズ型二号機、サイレント・ゼフィルスの操縦者の事もある。

「多分だけど、クルーゼは亡国企業と共に行動しているんだと思う」
「何故だ?」
「タイミング、良過ぎるから」
「なるほどな」

 巻紙礼子のピンチに現れたクルーゼ、余りにもタイミングが良過ぎるのだ。

「千冬さん」
「ああ、今は国際IS委員会からの指示を待っているが・・・無駄だろうな」
「だね〜、あの無能共なんて期待するだけ無駄無駄〜♪」
「ええ、僕もラクスも、国際IS委員会に何かを期待なんてしてません。だから僕は独自に調べようと思ってまして」
「ふむ、なら構わん」
「それから束さん」
「なに〜?」
「暫く、学園に留まってもらえませんか?」

 キラの提案に一番驚いたのは箒だった。未だに姉との間に確執のある彼女としては、束が傍にいるというのは落ち着かない。

「箒には悪いと思うけど、でも今はそれを気にしている余裕が無いんだ。僕と束さん、二人で調査をしないと手遅れになる可能性が高いから」
「クルーゼが表舞台に出てきた以上、私たちに選択の余地はございません」
「それは、そうだが・・・」
「束さんはオッケ〜、ちーちゃん、部屋の用意お願いね?」
「はぁ、存在の秘匿は自分でやれよ?」
「もち! あ、でもくーちゃんどうしよう?」

 今まではキラと束が離れていた為、調査もバラバラだったから亡国企業の情報を掴む事が出来なかった。しかし、今度は天才二人が同じ場所に集まり、同時に調査を進めるのだから今まで以上の情報が得られるはず。

「束さん・・・出来る限りで良いのでストライクフリーダムの修理をお願いします。久遠はストライクフリーダムの修理が終わり次第、迎えに行きますので」
「わかった。多分、私でも完全修復は無理だと思うけど良い?」
「ええ」

 ストライクフリーダムの技術に、束はまだ完全に追いつけていない。だから完全修復は不可能だが、学園の技術者がやるよりはマシなレベルまで修理出来るだろう。

「あ、それと・・・君」
「え、あ、はい!?」

 束が指差したのは、シャルロットだった。

「君だよね? キー君が作ったISの持ち主」
「はい・・・」
「後で見せてね? キー君が作ったISに興味あるし〜」
「わ、わかりました」

 ストライクフリーダムは現在、学園地下の修理工場に置いてある。千冬に案内されて医務室を出て行った束を見送り、キラはベッドに倒れこんだ。

「お、おいキラ!」
「キラ!」
「お兄ちゃん!」
「キラさん!」

 何事かと心配して駆け寄ってみれば、随分と顔に疲労を滲ませているキラの姿が映った。

「ゴメン、ちょっと疲れた・・・もう少し、寝る事にするよ」
「び、びっくりしたぁ・・・、でも、お兄ちゃんも疲れてるんだもんね」
「ゆっくりお休みください、キラ」
「うん・・・」

 そのまま眠ったキラを起こさない様に、全員医務室から出た。
 学園祭は中止になったので、皆は自分達の部屋に戻るだけなのだが、何故か部屋に戻る者は一人も居らず、そのままアリーナに来る。

「キラがあんなになっちまう相手か・・・俺たちじゃ戦いにすらならないよな」
「ああ、歯がゆいな・・・私も一夏も、第四世代のISを持っているとは言え、実力が伴っていないのだから」

 第四世代のISを持っていても、一夏と箒の実力はこの中では低い方に入る。
 第三世代を持つメンバーを含めれば実力的に一番高いのはシャルロットとラウラが同レベルで一番高く、次に鈴とセシリアと一夏、その次に箒となるのだ。

「箒はあれね、今はまだ紅椿の性能を100%引き出せる様にならないとまだまだよ」
「わかっている。だが、努力をしている時間があるのかどうか・・・」
「ですわね・・・ラクスさん、クルーゼという男の事で、何かご存知ありませんの?」
「一つ、言えるのは亡国企業にも第五世代のISが後々に登場する可能性が高い事でしょうか? クルーゼという男は自分の持つ技術を流出する事に躊躇いを持たない方ですので」

 つまり、亡国企業のIS全てがビーム兵器を搭載して現れる可能性があるという事だ。此方でビーム兵器を搭載しているのはキラのストライクフリーダムとラクスのオルタナティヴだけ、後はセシリアのブルーティアーズと、シャルロットのエクレール・リヴァイヴ、ラウラのシュヴァルツェア・レーゲンに搭載されているレーザー兵器だ。

「もしも亡国企業のISにPS(フェイズシフト)装甲やTP(トランスフェイズ)装甲、VPS(ヴァリアブルフェイズシフト)装甲を搭載してきたら、鈴さんには勝ち目が無いでしょうね」
「あたしの甲龍には双天牙月と衝撃砲だけ・・・その装甲には効かないわよねぇ」

 鈴音の甲龍の第三世代としての武装が衝撃砲なのだ。それでは効果が無いのは確かで、もう一つの武装である双天牙月も実体兵器、効く筈がない。

「でも衝撃砲はダメージは与えられないでしょうけど、隙を作るのには有効ですわ」
「あ、ダメージ無くても衝撃で体勢を崩したり出来るのよね、確か」

 最も、あれこれ考えてもあくまで普通の相手に対して有効であるというだけであって、クルーゼには児戯にも等しいのだろう。

「ストライクフリーダムが機能低下するのは、痛いものだな」
「うん、如何したら良いんだろう・・・」

 この世でクルーゼに勝てる人間がいなくなる。クルーゼの性格から考えて、この世界でも大きな戦争を起こす可能性が高い事を考えると、厳しい状況だ。

「私たちも、今以上に強くならないといけませんわね・・・ブルーティアーズ!」
「うむ、私も紅椿を使いこなせる様にならないと、せめて絢爛舞踏を任意で発動出来る様にならないと駄目だ・・・だろ? 紅椿!」
「あたしも近接戦を磨くわ・・・甲龍!」
「僕はエクレール・リヴァイヴをもっと使いこなすよ・・・頑張ろう、エクレール・リヴァイヴ!」
「私も、今のままヤマトの足手纏いになる気は無い・・・軍人の意地を見せるぞ、シュヴァルツェア・レーゲン!」
「俺だって、キラの弟子なんだ。絶対に、強くなってやる! そうだよな、白式!」

 ラクスは6人がISを展開しながら宣言した決意を後ろで眺めていたのだが、ふとアリーナの入り口に人影を見た。

「あれは・・・更織・・・簪さんですわね」

 アリーナの入り口に見えたのは楯無と同じ髪型で眼鏡を掛けた少女、一年四組所属で、日本の代表候補生である更織 簪だ。
 部分展開したオルタナティヴのハイパーセンサーから捉えた映像には、何かの端末を持っている姿が映されており、恐らく一夏たちのISのデータを取ろうとしているのだろう。

「確か、打鉄・弐式は未完成なのですよね・・・」

 ラクスは模擬戦を始めた一夏達を残して、こっそりとアリーナの入り口に向った。
 もしかしたら、彼女も力になってくれるかもしれない。その為の協力として専用機の完成を手伝う事になるとしても、選択の余地が無い今、手段を選ぶ気は無かった。



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