IS〜インフィニット・ストラトス〜
自由の戦士と永遠の歌姫

第四十五話
「歴史が変わる時」



 簪の専用機、打鉄・弐式の開発を手伝っていたキラは、時間が空いた為、学園の地下深く、機密保管室に来ていた。
 そこには嘗てクラスリーグマッチの時に襲ってきたゴーレムTが保管してある他に、現在修復中のストライクフリーダムがあるのだ。

「束さん」

 そして、今は束が一人でストライクフリーダムの修理を行っている。学園の技術者では束ほどの技術を持っていないのと、彼女が他人嫌いなので、自然と束一人で修理を行う形になってしまった。

「やあキー君、どしたの〜?」
「いえ、フリーダムは如何かと思いまして」
「う〜ん・・・正直ね、私でも完全修復は無理かな。直っても以前より性能が30%は落ちると考えた方が良いよ」

 幸い、レーザー核融合炉エンジンとハイパーデュートリオンエンジンは無事だったので、エンジン出力は問題無いのだが、武装やスラスター、ブースターなど、ほぼ全てが爆散してしまっているので、いくつかはオルタナティヴの技術から流用しなければ直らない。

「完全に修復出来るのはマルチロックオンシステムだけかな、あれしか私では完全再現出来ないから」
「まぁ、30%ダウンで済んで良かったと思えば良いでしょうね」
「まぁね〜、ここの技術者なんかに任せたら更に性能が落ちちゃうもん。下手したら80%以上落ちるかも。それどころかビーム兵器も無くなっちゃう」

 代わりにレーザー兵器でも積まされる。流石にそれでは第五世代とは言えなくなる上に、ストライクフリーダムの性能がガタ落ちしてしまうのだ。

「どれ位で直ります?」
「半月って所かな? 天才・束さんに掛かればこの程度も〜まんた〜い!」
「そうですか・・・」

 なら、この場は束に任せて打鉄・弐式の方に戻ろうとしたキラだったが、千冬が何やら鬼気迫る勢いで入ってきて、キラの腕を引っ張った。

「千冬さん?」
「来てくれ、不味い事態になった」

 連れてこられたのは一つ上の階にある情報収集室だ。ここでは世界中の合法IS関連施設に関する情報が入ってくる。

「これを読め」
「えっと・・・北アメリカ北西部にある第十六国防戦略拠点。通称、地図にない基地(イレイズド)が崩壊・・・崩壊!?」
「それだけじゃない・・・その下を読んでみろ」
「・・・そこに封印されていた銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)が奪取され、専属操縦者のナターシャ・ファイルスと、アメリカ代表操縦者にしてアメリカ第三世代機“ファング・クエイク”操縦者のイーリス・コーリングが・・・意識不明の重体、ファング・クエイクは大破・・・」

 襲撃者は・・・イギリスから奪取されたサイレント・ゼフィルスと、レジェンドプロヴィデンスだった。

「っ! クルーゼが・・・」
「ああ、奴が動いた。そして二次移行(セカンドシフト)をした福音を・・・奪っていった」

 アメリカは直ぐに国家所属のIS全てを動かしてサイレント・ゼフィルスとレジェンドプロヴィデンスを追ったが、追撃したIS部隊は全滅、結果としてアメリカは現状、動かせるISの全てを失ってしまった。

「アメリカは暫くIS関連では表舞台に立てなくなった。量産したアラクネ型も、試作の第三世代機も全てを失ったからな。一からISを造る所から出直しになってしまった」
「死傷者100名以上・・・国家、企業に所属していたISは全てが大破で、操縦者も皆、戦死や操縦者として復帰が望めない程の重体・・・」

 壊滅的打撃だ。この報告を受けた各国は第三世代機開発に躍起になる国もあれば、襲撃を恐れて自粛しようという国もある。

「これでイギリス、アメリカ、両国のISが亡国企業に奪取されたわけだ。アラクネ、サイレント・ゼフィルス、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)・・・キラ、お前なら次に奪取されるとしたら何処だと思う?」
「・・・イギリスのメイルシュトローム型か、イタリアのテンペスタU型・・・でしょうか? ドイツのシュヴァルツェア・ツヴァイクは無いでしょうね・・・機体を奪取しなくても、レーゲンを含めてデータは間違いなくドイツ政府か軍のどちらかから亡国企業に行っている筈ですし」

 アラクネの件もあるから、第二世代のメイルシュトローム型の量産機を盗まれる可能性は高い。イタリアのテンペスタ型の量産機も可能性はあるが、第三世代のテンペスタU型の方が高いだろう。

「幸いなのは既にメイルシュトロームもテンペスタも解体してコアを初期化している事か・・・」
「後は操縦者がいますが、2年生と3年生のコールド・ブラッドとヘル・ハウンドver.2,5も可能性として挙げるべきかと・・・クルーゼがいるので、操縦者を殺して奪うという可能性がありますから」

 そうだ。操縦者が決まっているからと安心してはいけない。クルーゼがいる以上、殺して奪うなど容易い事の筈なのだから。

「学園も、安心は出来ないか・・・」
「ええ、正直、ここは最新のISが豊富ですから」

 白式、紅椿、甲龍、エクレール・リヴァイヴ、シュヴァルツェア・レーゲン、霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)、打鉄・弐式、暮桜・真打、オルタナティヴ、ストライクフリーダム、コールド・ブラッド、ヘル・ハウンドver.2,5とIS学園は各国の専用機の宝庫だ。

「もし、またラウ・ル・クルーゼが来た場合・・・キラ、お前は勝てるか?」
「・・・フリーダムの性能がガタ落ちしてしまう現状を考えて言わせて貰うのなら、無理です」
「私でも足止めや時間稼ぎが限度だろうな、全盛期まで力を戻したとしてもだ」
「ええ、一番の脅威はドラグーンの数、ですか」
「だろうな、48機は流石に不味い」

 この学園で、クルーゼに勝てる者はいない。唯一勝てる可能性のあったキラも、ストライクフリーダムの性能が落ちてしまえば勝てなくなる。

「亡国企業も、これから更に脅威になるな」
「現状、判っているだけでサイレント・ゼフィルス、アラクネ、福音。福音は二次移行(セカンドシフト)までした機体ですから、その性能は第三世代を凌駕してます」

 操縦者の腕も代表候補生並か、代表並と考えて良いだろう、一夏たちも苦戦は必至だ。

「キラ、重傷を負ったばかりで、更には更織妹の機体の開発までやっている時に悪いが、一夏たちのことを頼む。今まで以上に強くなってもらわねばならないからな・・・正直、更織姉では力不足だ」
「ええ、承知してます。このままでは駄目だというのは、僕も理解してますから」

 楯無は確かにロシアの国家代表で、実力的には申し分無いのだが、亡国企業にクルーゼがいるという事は、向こうのIS操縦者だって並以上に鍛えられている。
 クルーゼと同レベルの者が鍛えなければ対抗するには心許ない。楯無ではクルーゼと同レベルとは言えないからこそ、キラでなければならないのだ。

「それより、更織妹と何やら悪巧みをしているらしいな」
「やはり知ってましたか・・・ええ、彼女が会長へのコンプレックスを振り払う為にと言ってました」
「そうか・・・まぁ、更織姉には良い薬になるかもしれんな」

 溺愛する妹からの悪巧み、確実に面白い事になりそうだ。と、千冬は何処か楽しみだと言いたげな表情をする。

「楽しんでます?」
「ふ・・・当たり前だ。私は楽しむ時はとことん楽しむのが信条だ」
「・・・流石、束さんの親友です」
「失礼な」

 もし、今の千冬の表情を箒が見たら、間違いなく束にそっくりだと言うだろう。一夏も同じく、束の事をよく知るからこそ、箒と同じ事を言う。
 是非とも、この場に一夏と箒の二人が居てほしかったと思うキラだったが、直ぐにその考えを振り払った。

「それでは、僕は打鉄・弐式の方に戻りますね」
「ああ、早く完成させてやれ」
「はい」

 千冬を残して情報収集室から出たキラは、少し歩いた所にあるエレベーターの前まで行くと、少し俯いて右拳を壁に叩き付けた。

「何処まで・・・何処まで世界を壊せば気が済むんだ・・・・・・」

 右拳から滴り落ちる血を気にする事も無く、キラは福音の操縦者だったナターシャのことを思い出した。
 また会おう、そう約束した彼女は・・・今はアメリカで生死の境を彷徨っている。

「ラウ・ル・クルーゼ・・・貴方は、貴方だけは!! 絶対に、僕が・・・っ!!!」

 いつもの穏やかで、儚げな優しい表情は、今は憤怒に歪んでいる。
 そして、静かにエレベーターが到着した音が響き、扉が開いたので、キラは陥没した壁をそのままに、その場を立ち去るのだった。



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