IS〜インフィニット・ストラトス〜
自由の戦士と永遠の歌姫

第四十八話
「和解」



 楯無と簪の試合を見ていたキラ達だったが、キラとラクス以外は事情が飲み込めていない。ただ、二人が似ている事から姉妹なのだろうという事は理解出来る。

「なぁ、キラ・・・結局、何があったんだ?」
「それにあの方は・・・確か4組の方でしたわよね?」
「うん、更織 簪さん。4組の生徒で、日本の代表候補生」
「日本の? という事はあの機体は打鉄の発展機か?」

 箒の言う通り、打鉄・弐式は純国産第二世代、打鉄の発展機でもある。

「今まで完成が遅れてたけど、この前まで僕とラクスが手伝って完成させたんだ」
「完成が遅れていた? いや、確かドイツに居た頃に聞いた事があるな、白式のデータ収集や白式専用の武装を造るのに倉持技研が掛かりっきりになって、日本の第三世代機の開発が遅れていると」
「そう、それを簪さんは引き取って一人で造ってたんだけど、行き詰って僕とラクスが手伝ってたってわけ」

 それから更織姉妹の事情も話した。天才の姉の影でいつも自分を見てくれない周囲に怯えて過ごしてきた簪の事、そのコンプレックスを拭い去る為に、それからキラの事を影でコソコソと調べまわっている楯無の事、楯無がキラから一夏たちを遠ざけて孤立させようと計画していた事まで全て、話す。

「下らないわね、そんな事の為にキラを孤立? あの会長、天才とか言われてる割に結構バカじゃないの?」
「さあ? でも、ロシア政府と日本の政府、更に実家まで使って僕の事を調べようとしていたみたいだよ」
「お兄ちゃんの事を・・・かぁ。まぁ、何となくだけど解らなくはないかな? だって、知らない人からしたらお兄ちゃんって結構謎の人だもん」

 シャルロットの言葉に、ちょっとグサっと来たキラだった。

「しかし・・・流石は代表候補生と、キラが開発を手伝った機体だ。まさか学園最強を相手にここまで追い詰めるとは・・・」
「ラウラから見て、簪さんの実力は如何?」
「ああ、間違いなく私達の中でも最強に近いだろうな・・・いや、もしかしたら私たちの中で最も強いかもしれん」
「潜在能力は高かったから、僕も少し鍛えてみたんだけどね」
「余計にか・・・まったく、これは私もうかうかしてられんな」

 実際の所、簪の実力はシャルロットとラウラの次くらいのものだ。今回、楯無を相手に此処まで戦えたのは、この模擬戦に掛ける簪の想いの大きさが起因している。

「さてと、そろそろ僕は簪さんの迎えに行こうかな・・・たぶん、会長とも話す事になるだろうから」
「え? キラ、先輩と話って何だ?」
「ちょっとね」

 一夏の問いを笑顔で誤魔化してキラはラクスと共にピットに入った楯無と簪のところに向った。
 ピットには既にISを解除してスポーツドリンクを飲んでいる更織姉妹の姿があり、入ってきたキラとラクスの姿に楯無は表情を強張らせ、簪は笑顔で手を振る。

「お疲れ様、簪さん」
「良い試合でした」
「ありがとうございます・・・でも、負けちゃいましたけど」
「負けたとしても、あそこまで会長を追い込んだのは、君の努力と、想いの強さの現われだから、誇って良い事だよ」
「はい!」

 何故だろう、キラに褒められた簪のお尻に犬の尻尾が見えた気がする楯無だったが、直ぐに萌えそうになるのを堪えてキラに鋭い視線を向けた。

「さてと、それで・・・会長、何か御用でも?」
「っ・・・そうね、どうやって私の可愛い妹を手懐けたのかしら?」
「別に特別なことはしてませんよ。ただ、彼女が困っていたから手を貸した・・・ただ、それだけです」
「そう・・・気付いているわよね? 私があなたの事、まだ調べてるって事」
「ええ、部屋の鍵を変えてからも侵入しようとした痕跡がありましたから。今度は入れませんでしたか?」
「・・・」

 沈黙は肯定と受け取る。キラはストライクフリーダムの腕だけ部分展開すると、一つの映像を映し出して見せた。

「これ、何だか判りますか?」
「・・・ウイルス?」
「そうです。僕が作った自己消滅型のコンピュータウイルス…通称ハロです」
「それが、どうかしたのかしら?」
「実は、貴女がこれ以上、僕のことを嗅ぎ回るのでしたら、日本とロシアのホストコンピュータにこれを流そうかと思っていたんです。ついでに更織家のコンピュータにも」
「・・・脅しかしら?」

 脅しだ。このウイルスはキラが全力で作ったもので、密かに束も手を加えた世界最強のコンピュータウイルスなのだ。
 これを流されたコンピュータは全てのデータというデータが消滅して、更にはそのコンピュータが二度と使えない状態にまでしてしまうえげつないもの。

「因みに、あらゆるワクチンソフトに抗体を持つ特殊なタイプです」
「・・・わかったわ。もう、今度こそ本気で貴方たちに手を出さないって誓う。一夏くん達の事も、あなたから遠ざけようとしたのは、悪かったわ」
「はい」
「ただ、あの子たちの特訓に付き合うくらいは良いでしょ?」
「それくらいなら・・・正直、一夏たちには今以上に強くなってもらわないといけないので」
「それって、学園祭の時の仮面男の事で?」
「ええ」

 クルーゼの事、楯無も実際に戦ってみて解っている。あの男が亡国企業にいる以上、一夏たちには今以上のレベルアップが要求されるのだから。

「キラさん、学園祭の時の仮面男というのは・・・?」
「そっか、簪さんは知らないのか・・・これ」

 ストライクフリーダムに保存してあったクルーゼとレジェンドプロヴィデンスの画像を映し出した。

「この男の名前はラウ・ル・クルーゼ・・・僕と少なくない因縁がある男で、昔・・・確かに僕が殺した筈の男なんだ」
「っ! こ、殺した・・・?」
「穏やかじゃないわね・・・その殺した筈の男が生きていたって事よね?」
「はい、そして使っている機体は僕が昔、彼と戦った時に、彼が使っていた機体が二次移行(セカンドシフト)した機体です」
「・・・それは、危険ね」

 恐らく、アメリカで起きた福音奪取事件は既に楯無も知っているだろう。それを前提にして話す。

「アメリカにも、クルーゼは現われました。正直な話、これ以上クルーゼに好き勝手させる訳にはいかない。だから会長に依頼したい事があります」
「クルーゼって男の事ね?」
「その通りです。クルーゼと、亡国企業の動向を追ってもらえますか? 更織家を使って」
「・・・まぁ、今回のアメリカの件もあって、本家も何かしら動こうとしていたから丁度良いわ。受けてあげる」
「それと、もう一つ・・・ドイツを調べて欲しいんです」
「ドイツ?」

 何故、ここでドイツが出てくるのか理解出来ないという顔をしている。まだキラと束が行き着いたドイツと亡国企業の繋がりは知らないらしい。

「これは僕と、とある人が調べ上げた事なんですが・・・ドイツ軍、政府と亡国企業には繋がりがあります」
「ちょっと待って・・・マジ?」
「本当ですわ。この画像を見てください・・・イギリスで起きたサイレント・ゼフィルス奪取の時の監視カメラの映像です」

 今度はラクスがオルタナティヴを部分展開して映像を出した。サイレント・ゼフィルスが盗まれる瞬間の映像で、そこには犯人の顔も映っている。

「荒かった映像を修正したものです」
「これって・・・織斑先生ですか?」
「顔は似てる・・・っていうか、本人のコピー?」
「これはまだ推測の域を出ていませんが、おそらくクローンかと」
「クローンって・・・」

 そこで、千冬がドイツに教官として出向する事になった経緯と、出向してからドイツで急激に進歩したクローニング技術の話をする。
 その話をした途端、楯無も納得出来たのか、少し険しい顔になった。

「それが真実であった場合、ドイツは世界中を敵に回す事になるわ」
「そうです。ドイツはそれを理解している筈だから徹底的に隠していると思われます」
「だからこそ、更織家の力で調べて欲しいって事ね・・・・・・良いわ、ちょっとばかしこれは見過ごせないし、やってみる」
「お願いします」

 こうして、キラと楯無の和解は成立して、同時に亡国企業を調べる為に手を組む事になった。
 だが、一番の問題となっているのは、クルーゼの事。再びクルーゼと戦う事になった時、今のままでは勝てない。たとえレベルアップしたとしても、一夏たちではクルーゼには勝てない。
 そして、キラ自身も・・・・・・。



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