IS〜インフィニット・ストラトス〜
自由の戦士と永遠の歌姫

第四十九話
「高機動」



 夢・・・そう、これは夢なのだろう。今、キラが見ているこの光景は夢なんだと、理解した。
 キラの目の前で、まだMSだった頃のストライクフリーダムがレジェンドと戦っている。これは、メサイア攻防戦の時の光景なのだろう。

「なんで、今更・・・」

 既に終わった戦争を夢に見ているのか、そう呟いた瞬間、見ている光景がガラリと変わった。キラはいつの間にか草原の上に立っており、辺りは青空と果てしなく広がる草原のみの光景となっている。

「・・・此処は」

 何時だっただろう、ラクスと二人っきりでデートをした草原に似ている。沢山のハロと一緒に、ラクスが遊んでいた草原だ。

「懐かしいな・・・」

 本当に、懐かしい。まだキラがフレイの死で塞ぎ込んでいた頃、ラクスと共にこの場所に来て、随分と心癒されたものだ。

「この世界にも、こんな場所があったら、またラクスと一緒に行きたいな」

 きっとラクスも喜ぶだろう。そう思いながら草原を歩き出したキラだったが、いつの間にか遠くに人影らしきものが見えた。

「・・・え、あれは」

 見覚えのある人影、赤い髪を腰まで伸ばした少女の姿は・・・キラの初恋の少女、フレイ・アルスターだった。

「ふ、フレイ・・・なの?」
『久しぶり・・・キラ』

 間違いなくフレイだった。あの頃と全く変わらない姿、あの頃と同じピンクのワンピースの姿で、肩には何故か蒼い鳥を乗せている。

「フレイ・・・何で、僕の夢に?」
『言ったでしょう? 私の本当の想いが、貴方を守るって・・・今、弱った剣を持つしかなくなった貴方に、伝えたい事があったの』
「伝えたい事・・・?」
『そう、この子がずっと・・・貴方に話しかけていたの、知らないのよね』

 この子、というのはフレイの肩に乗っている蒼い鳥の事だろう。

「その鳥は?」
『貴方がよく知っている子・・・ずっと貴方と共に戦い、今も尚、貴方と共に在り続ける翼であり、剣』
「まさか・・・その鳥は、フリーダム・・・なの?」

 ピィ! と、まるで肯定するかのように鳥が鳴いた。

「やっぱり、フリーダムなんだ」
『そう、この子はずっと、貴方に語りかけていたの。だから、それを伝えたかった』
「そうなんだ・・・ねぇフレイ」
『・・・何?』
「ごめんね・・・君を守れなくて」
『良いのよ、言ったでしょう? あれで良かったって・・・』
「うん。今、僕は幸せだよ・・・守りたい人が出来て、共にこれからを歩みたいって思える人が、出来た」
『良かった・・・キラ、幸せになってね。貴方は、幸せにならないと駄目よ・・・必ず』
「うん、君を守れなかった分も、彼女を守って・・・きっと、幸せになるよ」

 急に、辺りの風景と、フレイの姿が薄れてきた。夢の終わりが近づいてきているのだろう。

「時間、だね」
『そうね・・・キラ、もう私が貴方に会う事は、多分・・・二度と無いと思うの。だけど忘れないで、いつでも私の本当の想いが、貴方を守っている事』
「・・・うん、ありがとう。さようなら・・・フレイ」

 草原と、フレイの姿が消えて無くなり、辺りは真っ暗な闇に包まれる。ただ、その中でキラの目の前にはフレイが消えても残っていた蒼い鳥・・・フリーダムが今も残っていた。

「フリーダム・・・?」
『ピィ!』

 羽ばたいた。そのままキラの周囲を飛び周り、肩に乗る。

『―――――――で』
「・・・?」
『ブ――――ト―――ダム』

 フリーダムから声が、確かに聞こえた。だが、耳元にいるというのに、何故か声が遠く聞こえ、殆ど聞き取れなかった。
 そこで完全に夢は終わり、キラは夢の世界から現実の世界へと意識を戻すのであった。


 寮での夕食の席、そこではキラ達はいつものメンバーに簪を加えた9人で食事をしていた。その席で一夏の誕生日が今月である事を知り、それを知っていたであろう一夏のダブル幼馴染がジト目で見てくるラウラから目を逸らすという光景が広がっている。

「一夏の誕生日・・・9月27日だっけ? 確かその日ってキャノンボール・ファスト当日だよね?」
「らしいな、だから大会が終わったら俺の家で中学の時の友達とかも呼んでパーティーするんだけど」
「でしたら、その日は私たちもご一緒して、お祝いしませんと」

 決まりだ。一夏の誕生日には、ここに居るメンバー全員で一夏の家に行ってパーティーをする。
 それから、もう一つ考えなければならないのは、キャノンボール・ファストの事だ。明日から大会の為に専用機には高機動整備が始まる。

「でもよ、高機動整備って、具体的に何をするんだ?」
「ふむ、基本的には高機動パッケージのインストールだが、お前の白式には無いだろう?」

 プチトマトを頬張りながらラウラが説明した。確かに、白式にはパッケージが存在しない、というか白式の方がパッケージを拒絶しているのだ。

「お兄ちゃんのストライクフリーダムと簪さんの打鉄・弐式と箒の紅椿もだけど、その場合は駆動エネルギーの配分整備とか、各スラスターの出力調整とかかなぁ」

 ストライクフリーダムの場合、機能低下していても素の状態で充分速いので必要無いのだが、白式と紅椿、打鉄・弐式には必要だろう。

「ふぅん、確か高機動パッケージっていうとセシリアのブルーティアーズにはあるんだったよな?」
「ええ! 私、セシリア・オルコットの駆るブルーティアーズには、主に高機動戦闘を主眼に据えたパッケージ『ストライク・ガンナー』が搭載されていますわ!」

 立ち上がり、腰に手を当てながら高らかに宣言したセシリアだが、キラから見た感じ、最近の落ち込んだ様子は見られない。
 学園祭の時、クルーゼや巻紙礼子とは別に来ていた亡国企業の人間を逃がしたのが原因で、暫くは落ち込んで、一人で訓練している事もあったらしいのだが。
 まぁ、仕方が無いだろう。何せセシリアが相手をしたのはイギリスで強奪されたティアーズ型2号機サイレント・ゼフィルス、つまりセシリアの愛機ブルーティアーズの姉妹機なのだから。

「つかさ、今回の大会で有利なのはセシリアと一夏と箒、それにキラよね」

 大会には出ないラクスを除いて、白式と紅椿、ストライクフリーダムとストライク・ガンナーを搭載したブルーティアーズは正直、今回の大会では有利だろう。

「つうかさぁ、うちの国は何をやってんだか。結局、甲龍用高機動パッケージ間に合わないし。シャルロット、あんたは?」
「僕のエクレール・リヴァイヴは出来立てだし、元々はお兄ちゃんが造った機体だから・・・リヴァイヴ用のパッケージで規格が合うのはガーデン・カーテンだけなんだよね。まぁ、まだ第三世代が開発されてないフランスで、パッケージがある訳もないし、スラスターの整備くらいかなぁ」

 それから、ラウラのシュヴァルツェア・レーゲンは姉妹機であるシュヴァルツェア・ツヴァイクの高機動パッケージを調整して使う事になるらしい。

「それより、キラさん・・・ストライクフリーダムは大丈夫ですか? 機能低下しているって聞いてますし、リミッターも掛けての大会ですよね?」
「うん、多分リミッターを掛けて紅椿と互角くらいのスピードになるかな? だから問題は無いと思うよ」

 機能低下して、更にリミッターを掛けて紅椿と同等のスピードとか、既に次元が違いすぎると頬を引き攣らせる一同だった。

「キラ、その・・・姉さんでも完全修復は無理だったのか?」
「まぁ、ストライクフリーダム自体が束さんの技術力を超えた機体だから、流石にね」
「そうか・・・」
「呼んだ〜?」
『っ!!?』

 突然、どうやって隠れていたのか箒の後ろに束が現れて、そのまま箒に抱きついてきた。

「ね、姉さん!? は、離れてください!!」
「え〜、いいじゃん〜。折角、時間が空いて箒ちゃんを堪能したいのに〜」
「じ、時間が空いたって、今まで何を・・・」
「エクレール・リヴァイヴを見てたの〜」

 え? と、キラとラクス以外がシャルロットの胸元を見ると、確かに、待機状態のエクレール・リヴァイヴが見当たらなかった。

「キー君凄いね〜、現行第三世代の中では最強って言っても良い機体だよ、あれ」
「一応、ブルーティアーズや甲龍、シュヴァルツェア・レーゲンのデータを見ながら、それを上回る様に造りましたから」
「それに〜、木星の使者(ジュピター・メッセンジャー)だっけ? あれは束さんもビックリ! まさか束さんが思いつかなかった重力兵器とは、恐れ入るよ〜」

 どうやらキラの造ったエクレール・リヴァイヴは束の御眼鏡に適った様だ。

「それで、スラスターとブースターの方なんですけど・・・束さんから見て問題とかはありました?」
「ん〜? そうだねぇ・・・第三世代というコンセプトならあれで充分じゃないかな? 特に問題らしい問題は無かったよ〜」
「そうですか」
「それなら安心だな束・・・そして、何時まで箒に抱き付いているつもりだ貴様は」
「・・・あれ? ちーちゃん?」

 その瞬間、束の頭に中身の入ったビールの缶が落ちた。

「きゅ〜、ひ、酷いよちーちゃん! それ、中身入ってるよ!?」
「知ってる。だから使った」
「確信犯!?」
「千冬さん、今日はもう仕事は終わりですか?」
「ああ、だからこうしてビールが飲める」

 イイ笑顔でプルタブを開けて、飲み始めた千冬だった。そんな姉の姿に一夏は頭を抱え、仕方ないとばかりに立ち上がるとカウンターにつまみを取りに行くのだった。

「一夏、スルメで頼む」
「はいはい、あんま飲み過ぎんなよ」
「ふん、そんなヘマはしない」
「はぁ」

 一夏がカウンターに行ったのを見届けて、千冬はビニールに入れていたビールの缶を一本取り出してキラに差し出す。飲め、目がそう言っていた。

「い、頂きます」
「キラ、お前はもう少しビールに慣れろ。カクテルやワインなんて私の前では許さんぞ」
「あ〜、ちーちゃん! 私も私も! キー君と一緒に飲みたいって前から思ってたんだ〜」
「ほら」

 はたして、生徒が見ている前で良いのだろうか。そう思っているキラだったが、千冬には何を言っても無駄な気がして、仕方ないとプルタブを開けるのだった。




あとがき
親睦会で本日はネット上に私は生息していません。



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