IS〜インフィニット・ストラトス〜
自由の戦士と永遠の歌姫

第五十一話
「高速機動の貴公子」



 あれから、キラ達は蘭も交えてショッピングモールを周る事になった。今は時計店を見ているのだが、シャルロットが一夏の誕生日プレゼントとして腕時計を買うという事になったのだ。

「気に入ったのあった?」
「う〜ん・・・・・・」

 そもそも、一夏は時計をしない人間だ。時間は携帯の時計か白式を使えば良いので、特に必要としていなかったのだが、折角シャルロットがプレゼントしてくれると言うのだから、何か気に入った物を選ぼうとしている。
 そんな迷っている一夏を眺めながらキラはラクスと共に店内を見渡して様々な時計を見ていた。実を言うとキラも腕時計はあまりしない人間なのだ。

「あ・・・」
「キラ? あら・・・」

 ふと、キラの目に止まった時計、ブルーシルバーの金属ベルトにサファイアグラスを使ったアナログ時計、ワールドタイムやストップウォッチ機能、ソーラー電池に電波時計機能まであり、防水機能まで装備した高性能且つ見た目も美しい時計だった。
 全体的にスマートで、あまりゴツゴツしていないのも魅力的で、キラの好みにも合う時計の値段は、手頃な6万円。・・・6万円で手頃という辺り、キラの金銭感覚もズレている。

「これ、買おうかな・・・」
「良いのではないでしょうか・・・あら、これは色違いですわ」

 キラが目を付けた時計の横には同じデザインで色違いのピンクシルバーがあった。

「これ、お揃いで買おうか?」
「はい」

 店員を呼んでディスプレイの中から選んだ二つを出してもらうと調整を済ませて会計をした。そのまま腕に着けて行くので、箱だけ袋に入れてもらい、未だに迷っている一夏たちのところへ行く。

「一夏、まだ決まらない?」
「あ、悪いなキラ、ラクス・・・その、何かパッとしないんだよなぁ」
「でしたら、シャルさんが選んでは如何でしょう?」
「え、僕が?」
「良いのではないか? シャルロットならセンスも良いだろう」
「それなら・・・うん、じゃあ僕が選ぶね」

 蘭を連れて時計を選びに行ったシャルロットは、ゴールドホワイトの時計を選び、一夏に贈った。
 その後はパスタの店で昼食を採り、付け合せのアイスを食べていた時、一夏が自分のアイスを箒や蘭と食べさせ合い、箒も蘭も顔を真っ赤にするという光景が見られた。

「一夏ったら・・・あ、お兄ちゃん、お姉ちゃんまで」

 見ればキラとラクスもお互いのアイスを食べさせ合っていた。隣同士に座り、顔を寄せ合いながらスプーンで掬ったアイスをお互いの口に運ぶ。
 見ているシャルロットの方が恥かしくなる光景で、同じく見ていた一夏も少し恥かしそうに、箒と蘭は・・・何故かメモを取っていた。


 また授業が始まった。本日は第六アリーナに一組と二組、それから四組が合同で授業を行う事になっている。

「はい、それでは皆さ〜ん。今日は高速機動についての授業をしますよー」

 この第六アリーナは中央のタワーと繋がっており、高速機動実習が可能な造りになっている。高速機動が得意な生徒はよく此処を使って自習をしているのだとか。

「それじゃあ先ずは専用機持ちの皆さんに実演してもらいましょう!」

 真耶がそう言って手を向けた先にはキラと一夏、セシリアがいた。

「まずは、高速機動パッケージ、ストライクガンナーを装備したオルコットさん! それと通常装備ですが、スラスターに全出力を調整して仮想高速機動装備にした織斑君! そして、通常装備で既に高速機動型のヤマト君! この三人に一周してきてもらいましょう!」

 一夏とセシリアは高速機動補助用バイザーを掛けているが、キラは掛けていない。その事を疑問に思った生徒が一人、手を挙げた?

「あの、ヤマト君は高速機動補助用バイザーは使わないんですか?」
「えっとですねぇ、ヤマト君は先ほども言いましたがストライクフリーダムが通常の状態で既に高速機動型のISでして、普段から高速機動に慣れているんです。それで補助用バイザー無しでも問題無いという事ですね。でも、皆さんは必ず着用してくださいね? 本来、ヤマト君みたいにバイザー無しでも問題無く高速機動出来る様になるには時間が掛かるんですから」

 高速機動補助用バイザーが無ければ周囲の流れる速度に視界が追いつかず、何かに激突したり、酔ったりして本当に危険なのだ。
 キラの様に常日頃からISで高速機動をしながらの戦闘をしていなければバイザー無しなんてとてもではないが無理というもの。

「一夏、何かわからない事でもある?」
「あ、キラか・・・いや、このバイザー、モードを切り替えなきゃいけないんだよな? どれだ?」
「一夏さん、それでしたらモードをハイスピードモードにするのですわ。それと各スラスターを連動監視モードにしますの」
「わかった。こうだな」

 セシリアに教えてもらって一夏はバイザーのモードをハイスピードモードに切り替え、スラスターを連動監視モードにすると、準備を整えた。

「慣れないと酔うから、気をつけてね」
「おう、サンキュ」
「では、・・・・・・3、2、1、ゴー!!」

 真耶の合図で一夏とセシリアはスラスターを全開にして飛び上がり、キラは足を曲げて大きくジャンプをしながら全てのスラスターを全開にすると、ハイマットモードのまま一気にトップスピードまで速度を上げた。

「って、キラ速っ!」
「知ってはいましたが、速すぎですわ!?」

 ブルーティアーズも白式も、やっとトップスピードまで速度が上昇してきたというのに、ストライクフリーダムとの距離は一向に縮まらないどころか、更に広がっている。
 そして、キラはタワーの外周にトップスピードのまま突入して、カーブの手前で速度を落とさず、更にスピードを上げると神業的なハイスピードカーブを見せた。

「なぁ、セシリア」
「なんですの?」
「あれ、出来る?」
「無理言わないでくださいまし!?」

 あんな真似、キラ以外に出来るわけがない。やっとカーブに入った一夏とセシリアでさえ、スピードを少し落としたというのに、キラはスピードを落とさず、更にスピードを上げて曲がって行ったのだ。既に人間業じゃない。
 そして、一方のキラはというと、現在リミッターを切った状態のストライクフリーダムの高速機動に不満を感じていた。

「やっぱり、スピードが落ちてるな・・・それに、カーブの入りが思った以上に負荷が掛かってる。今のフリーダムだと、これが限界なのかな」

 現在のトップスピードですら遅いと感じてしまう。いや、実際にキラからしたら遅いのだ。レジェンドプロヴィデンスに落とされる前なら、今以上のスピードが出せたのだから。

「OSはもう調整してあるから、これ以上はもう無理なんだよね」

 正直、不満は多々あるが、これが現在の限界である以上、納得するしかない。
 スピードを落とす事無くタワーの頂上から折り返して、ドラグーンをパージすると、ヴォワチュールリュミエールシステムを起動、修理の際に劣化してはいるが、ヴォワチュールリュミエールによるストライクフリーダムの最大速度まで一気にスピードを上げる。
 最高スピードのままアリーナ地表まで戻ってきたキラは、速度を一気に殺して静かに着地して見せた。

「ヤマト・・・やり過ぎだ」
「あれでも、結構不満は残ってるんですけどね」
「あ、あはは〜・・・み、皆さんはヤマト君みたいな事、しちゃ駄目ですよ〜? あれはヤマト君だから出来る事ですから」

 いや、見ていて怖くなるような機動、誰も真似しようとは思わない。実際、キラの機動を見ていた生徒達の大半が肝を冷やし、内緒だがちびりそうになった子もいたらしい。
 そして、一番ビックリしたのは簪だった。凄いという感想と同時にキラの機動に身を縮こまらせ、プルプルと子犬の如く震えている。

「ああ、それと・・・自分の授業に戻れ更識姉!」
「そ、そんなぁ! 簪ちゃんの子犬の如き愛らしさをカメラに収めるまで待ってください!」
「・・・ふん!」

 何処から出てきたのか、カメラ片手にプルプル震えている簪を映していた楯無に、千冬は近くにいた鈴音を投げた。

「ちょっ! 千冬さん!? 何するんですか!?」
「織斑先生だ。それで、更識姉、さっさと戻る気になったか?」
「は〜い」

 鈴音をキャッチした楯無は渋々とアリーナを出て行き、簪はやっと落ち着いたのか、姉の醜態に溜息を吐くのだった。



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