IS〜インフィニット・ストラトス〜
自由の戦士と永遠の歌姫

第五十二話
「教えて、キラ先生!」



 キラ、一夏、セシリアの三人による高速機動実習を終えて、訓練機組の選出を行う為に各自割り振られた機体に乗り込んだ。
 専用機を持つ者はそれぞれグループに分かれる事になっている。
 セシリアと鈴音は高速機動パッケージ組、機体出力調整組には一夏と箒と簪、増設スラスター組にはラウラとシャルロット、リミッターを掛けるだけで特に何もしないキラとキャノンボール・ファストに出ないラクスは専用機持ちたちの見回りという事になっていた。

「あ、一夏」
「ん? キラ、どうかしたか?」
「束さんから一夏に新しいISスーツが届いてるんだけど、キャノンボール・ファストで使って欲しいって」
「新しいISスーツ?」
「そ、束さんが作った僕のスーツと同タイプの色違い」
「マジ? やった! キラのスーツって全身タイプだから羨ましかったんだよなぁ」

 今まで一夏が着ていたISスーツは着るのも脱ぐのも面倒だと前に言っていた。その点、キラが使っているISスーツは束が作ったもので、キラがこの世界に来た時に着ていたパイロットスーツを基にして最初はブカブカだが、手首のスイッチを押せばピッタリフィットする全身タイプのスーツ、着るのも脱ぐのも楽なのだ。

「後で束さんに貰って、今は束さんが持ってるから」
「あれ? 束さん、まだ学園に居るのか?」
「うん」

 束には今も学園に留まって貰っている。キラと共に亡国機業の事を調べる為にいるのだが、近々くーちゃんこと、久遠を呼ぶとか言っていた。
 ストライクフリーダムが直ったので、漸く迎えに行く準備が整ったので、今度キラが束の隠れ家へ行く予定だ。

「おいヤマト、悪いがデュノアとボーデヴィッヒを見てやってくれ」
「あ、わかりました」
「それと織斑、お前はいつまでも喋ってないで篠ノ之とエネルギー分配整備の相談でもしろ、いいな?」
「は、はい・・・」

 一夏が箒の方に行ったので、キラもシャルロットとラウラの所に向かった。

「あ、お兄ちゃん!」
「キラか、見回りか?」
「そんな所、二人は如何?」
「今ちょうど二人とも増設スラスターの量子変換(インストール)が終わったところ。これから調整に入ろうって、ね?」
「ああ、その通りだ」

 シャルロットとラウラは二人ともISのヘッドギアを部分展開していた。シャルロットはヘアバンドを、ラウラはウサミミを着けているみたいで何だか可愛い。

「そうだ、キラ・・・悪いが私とシャルロットの調整を見てもらえるか? 高速機動の専門家からの意見が欲しい」
「良いよ、チャンネルは?」
「私が305、シャルロットが304だ」
「わかった。じゃあ、ちょっと見させてもらうね」

 ISに備わっている機能、直視映像(ダイレクト・ビュー)によって視覚の共有をする為にストライクフリーダムのヘッドを部分展開するとチャンネルを合わせて準備を整える。

「お兄ちゃん、準備はOK?」
「うん、大丈夫」
「じゃあラウラ、行こっか」
「ああ」

 シャルロットとラウラはエクレール・リヴァイヴとシュヴァルツェア・レーゲンを展開して浮遊すると、上昇して一気に増設したスラスターを全開にすると飛翔して行った。
 それぞれの視覚映像を見ていたキラは、二人の高速機動の問題点や注意点、その他諸々と、良い部分を洗い出していく。

「シャルもラウラも、流石は代表候補生ってだけあって上手いね・・・あ、シャルは少し加速する時に力みすぎる癖がある。これはちょっと危険かな? ラウラは・・・加速は問題無いけど、加速した時に少しだけ姿勢制御に小さなブレがある。問題とは言えないけど、機体に掛かる空気摩擦を考えると、後々直していかないと駄目か」

 普段の飛行なら二人とも問題は無いのだが、流石に高速機動ともなると問題点がいくつか出てきてしまう。慣れていないのもあるのだろうが、実戦で高速機動が必要な時に備えて直しておかなければならない。

「あ、戻ってきた」

 二人ともタワーの折り返しから戻ってきた。キラの前に着地してISを再びヘッドギアのみの部分展開に戻すと、キラに歩み寄る。

「お兄ちゃん、どうだった?」
「シャルは加速する時に少し力みすぎ、あれはちょっと危ないよ。それからカーブの減速だけど、少し早過ぎ、あれだと高速機動戦では不利になるかな。それから、エクレール・リヴァイヴのスラスターの位置、ちょっとだけ問題ある点が・・・元々のスラスターと同時に吹かしてバランスが少しおかしくなってる所があった」
「あう・・・やっぱり問題あったかぁ」
「私はどうだった?」

 今度はラウラだ。まるで軍の新兵が教官に教わっている時の様な目を向けてきている。
 実際、キラはオーブ軍の准将とザフト軍特務隊の白服を兼任している軍人だ。ドイツ軍少佐のラウラからしたら世界も国も違うが上官みたいな存在になるのだろう。

「ラウラは加速した時に姿勢制御で少しだけブレがあったかな、問題とは言わないけど機体に掛かる空気摩擦の事を考えると追々直していった方が良いね。それとカーブの減速が遅すぎ、あれだとミスしたら壁に激突するよ。後は、少しレーゲンの重さを考えてなんだろうけど、スラスターが強すぎかな? 結構制御出来るギリギリまでやったでしょ」
「ああ、少し制御に手間だが、慣れれば問題無いと思ったのだが・・・」
「スラスター、少し減らして一つ一つの出力調整してみたら? それでも充分だと思うよ」
「・・・そうだな、やってみるか」

 問題点のピックアップをしたら、今度は褒める番だ。キラだって、何も鬼ではない。褒める所は確りと褒める、ザフトに居た頃も新兵にはこうやってきたのだから。

「後はシャル、姿勢制御が上手だったよ。全体的にバランスを取ろうと意識して、別の思考で前に進む事も考えて飛んでたでしょ? 流石だった」
「え? そ、そうかなぁ」
「ラウラは加速の仕方が良かった。ラウラらしい思い切りの良さが出てたから」
「う、うむ・・・レーゲンは重いからな、加速とかは前から意識していたのもあるのだろう」

 二人とも照れながらも、何処か嬉しそうにしている。ザフトに居た頃から言われていた事だが、何でもキラは褒め上手なのだとか、特に女性に対しては。キラのルックスでの微笑みと共に褒められる、それだけで女性は大抵が大喜びしていた。

「じゃあ、僕は他の所も見て周るから、二人も調整、頑張って」
「うん!」
「任せておけ!」

 手を振ってその場を去ったキラは、他の所にも顔を出し、この後もセシリア、鈴音、簪、箒、一夏から高速機動の調整を見てくれといわれるのであった。


 キャノンボール・ファスト前夜、キラはラクスと共に束の部屋に来ていた。束の部屋には既に千冬も来ていて、既に話し合いが始められる様になっている。

「キー君、ラーちゃん、いらっしゃ〜い!」
「遅いぞ」
「すいません、持ってくる資料が少し多かったので」
「申しわけ御座いません」
「まぁいい、座れ」

 束と千冬の真向かいのソファーに腰掛けた二人は持って来た資料をディスプレイに映し出し、早速だが話し合いを始めた。

「まず、更識家に頼んでドイツ軍及び政府の調査をしてもらう事になりました。同時に、ラウ・ル・クルーゼの事も」
「そうか、クローン・・・か」
「ちーちゃんのクローンと仮面が一緒に行動しているって見た方が良いのかな、これ」

 束がズームした資料には此処最近になって多発している各地のIS武装研究所の襲撃事件に関する資料だ。
 キラがお得意のハッキングで得た情報なのだが、どの事件にも共通しているのはレジェンドプロヴィデンスとサイレント・ゼフィルスが襲っているという事だった。

「それと、若干の音声データからサイレント・ゼフィルスの操縦者の名前・・・というより、コードネームですね、それが判明しました。M、そう呼ばれています」
「M・・・か」
「こっちは面白い名前だけどね〜、織斑マドカだって〜」

 マドカ・・・頭文字のMだけを使ってコードネームにしているようだ。

「・・・・・・」
「千冬さん? どうかなされました?」
「いや、何でもない」

 何か、考えているのだろう。眉間に皺を寄せて険しい表情で資料を見ている千冬は、何処か不安を感じさせる。

「あと、私がハッキングして得た情報だとね、国際IS委員会はキー君を何処かの国に所属させるより、委員会所属のIS操縦者にしようと考えてるみたい。ただし、ストライクフリーダムは解体して技術を世界中に振り撒こうとしているらしいよ〜」
「身の程知らずも良い所だな、バカな爺どもの考えそうな事だ」
「まぁ、その計画書が入ってるコンピュータにはキー君お手製の最強ウイルス“ハロ”を送っておきました!」
「ナイスです、束さん」

 今頃、国際IS委員会は大混乱しているだろう。他の機密情報も合わせて全てが消滅してしまったのだから。

「ああ、そう言えば明日はキャノンボール・ファストだったな・・・お前たちも朝早いから、手早く進めよう」
「はい、すいません」
「なに、謝るのはこちらだ。気にする必要はない」

 こうして、話し合いを急ピッチで進めて、夜は更けていき、翌朝、遂にキャノンボール・ファストが開催されるのだった。



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