IS〜インフィニット・ストラトス〜
自由の戦士と永遠の歌姫

第五十四話
「守る為に、自由の剣を」



 キラが駆るストライクフリーダムと、クルーゼの駆るレジェンドプロヴィデンスの戦いは激化の一途を辿っていた。
 ビームの連射速度が撃つ度に上がり、ドラグーンもより複雑な機動で動きながらビームを撃ち、相手を追い詰めようとする。
 一見互角に見えるこの戦いだが、会場の誰もが目で追えない中、千冬だけは暮桜・真打のハイパーセンサーを使って追う事が出来ていた。
 それ故に、判る・・・この戦い、キラが押されているのが。

「くそ、私も出られれば良いのだが・・・教師という立場が、今ほど邪魔だと思った事はないな」

 クビを覚悟で戦闘に介入する事は、確かにやろうと思えば出来る。だが、それをしてしまえば大切な弟を自分自身の手で、身近に居て守る事が出来なくなる。
 たとえキラとラクスが護衛として居ようともの、千冬は一夏の姉だ。だから最終的には自分が弟を守ると、二人に誓っている。
 その為に、教師をクビになるのは不味いのだ。

「頼むキラ・・・負けるなよ」

 今は、祈るしかない。力を衰えさせてしまった自由の剣が、それでも天帝に負けない事を。


 キラとクルーゼの射撃戦は更に激化した。キラとクルーゼが戦っている場所が緑色のビームが飛び交って一つのフィールドと化していたのだ。
 飛ぶ方向、姿勢、速度、全てをミスすれば一瞬で無数のビームが蜂の巣にしてしまう緑色の嵐の中、蒼い翼を広げる白き自由と、王者の如き威圧を放つ黒き天帝、両者とも無限のシールドエネルギーを駆使した強力な射撃を幾度となく撃ち続け、避け続け、それでも疲弊した様子を見せない。

「ええい!!」
「むん!!」

 ビームが降り頻る中、再びビームサーベルとビームジャベリンがぶつかった。キラが右手に持つビームサーベルと、クルーゼが左手に持つビームジャベリンが火花を散らす。
 激しいスパークの中、キラは得意とする二刀流による左のビームサーベルによる斬撃を放ったが、クルーゼも右手でもう一本のビームジャベリンを振り、合計4本のビームの刃が交差して、離れた。

「くっ!」
「ふっ」

 離れた瞬間にキラが放ったレール砲は余裕で避けられるが、その避けた先に向って、複相ビーム砲を発射。
 ここで初めてクルーゼがビームシールドによる防御を行ったのだ。

「でぇいっ!!」
「甘いよ!」

 二刀のビームサーベルで切り掛かってきたキラの斬撃を瞬時加速(イグニッションブースト)で避けたクルーゼは背後から連結させたビームジャベリンで突き刺そうとしたのだが、キラも此処で切り札を切った。

四重完全瞬時加速(クアトロ・フル・イグニッションブースト)!」

 ビームジャベリンがキラに突き刺さった。
 そう思われた瞬間、そのキラが消え、クルーゼの周りに四人のキラが現れ、クルーゼの背後のキラがビームサーベルでクルーゼの背中のドラグーンのパックを切りつけた時、残りの三人のキラがクルーゼの背後のキラに吸い寄せられる様に消える。

「い、今のは・・・」
瞬時加速(イグニッションブースト)系加速技術の最終到達地点、未だ誰もが到達出来なかった机上の理論でしかなかった究極加速技術」
「それが、四重完全瞬時加速(クアトロ・フル・イグニッションブースト)か・・・成る程、興味深い」

 しかし、これにも弱点はあった。一試合、一戦で使える回数に限度があるという事、それこそが弱点なのだ。
 エネルギーの問題もあるが、それ以上にスラスターやブースター、それから操縦者に掛かる負担が大きい。
 何度も使えばそれだけスラスター、ブースターは劣化していき、操縦者の肉体も脳も限界を超えてしまう。

「ふ、ふふふ・・・ふははははははは!! まさか機能低下したフリーダムで此処まで互角に渡り合うとはな、正直驚いたよ・・・いや、正確には改めて君の実力を思い知らされた、かな」
「・・・」
「だからこそ、私も本気で戦わせて貰おうか!!」
「っ!」

 48基のドラグーンの内、38基がビームを一斉射して、残りの10基がビーム突撃砲となりフリーダムを貫こうと飛んできた。

「その身で味わうが良い! これこそ、レジェンドプロヴィデンス最高の戦術だ!!」
「っ! くそっ! ぐっ」

 レジェンドプロヴィデンスまでビームライフルからビームを撃ちながら高速機動で接近して来ようとする。
 先ほどよりビームの数は減ったものの、何処からともなく飛んでくるビーム突撃砲やレジェンドプロヴィデンスを避けるのに精一杯になり、今度こそキラは反撃する余裕が無くなってしまった。

「不味い・・・っ! このままじゃ・・・あ、あれはっ!?」

 一瞬の判断ミスが命取りとなる状況の中、高速機動で移動しながら、避けきれないビームをビームシールドで防ぎながら飛び回り、そして・・・見てしまった。
 キラとクルーゼ、一夏たちとサイレント・ゼフィルスの戦いを逐一把握するのに超高感度ハイパーセンサーを駆使していたラクスの方へ銃口を向けた10基のドラグーンの姿を。

「無駄だ! もう間に合わんよ。この学園で流す最初の血は、歌姫の血となるのだ!!」
「やめろぉおおおおおおおおおお!!!」

 キラの悲痛の叫びも空しく、ドラグーンからビームが放たれ、オペレートに気を取られていたラクスがビームに気付いた時には、もう回避不能な状況になっていた。

「ラクスーーーーーーーーっ!!!!!!」

 三重瞬時加速(トリプルイグニッションブースト)に入り、それでも間に合わないと判断したキラは脳裏で種が弾ける衝動を感じた。
 SEEDが発動した瞬間、全スラスターのリミッターを一瞬で切り、機体限界を超えたスピードで三重瞬時加速(トリプルイグニッションブースト)のスピードの中を一直線に飛ぶ。
 ラクスにビームが直撃する前に何とかラクスとビームの間に割り込む事が出来た。しかし、ビームシールドを展開する時間は無い。
 もはや絶体絶命、絶対防御すら貫通するであろう高出力のビームがキラに直撃しそうになったその瞬間、キラの意識は・・・あの草原にあった。

「え・・・?」
『よ――で、僕―――を』

 キラの目の前で翼を羽ばたかせながら制止している蒼い鳥・・・フリーダムから声が聞こえた。

「フリー、ダム・・・?」
『呼ん――、僕の――前を!』

 段々とハッキリ聞こえる様になってきたフリーダムの声、掠れていた部分が・・・鮮明に聞こえてきた。

『呼んで! 僕の名前を! 人々の自由と運命を守る暁に照らされた正義の輝きの名を!!』
「人々の自由と運命を守る・・・暁に照らされた正義の、輝き・・・・・・」
『そう! その名は!!』

 一気に意識が現実に呼び戻された。あの草原での事は一秒にも満たない時間だったのだろう、迫り来るビームがまるでスローモーションの様に見えて、キラを貫こうとしている。
 しかし、そのビームがキラに届より数瞬早く、キラは・・・言葉を紡いでいた。人々の自由と運命を守る暁に照らされた正義の輝き、その真の名を。

「ブリリアントフリーダム!!!」
【Second Sift stand by ready set up】

 ストライクフリーダムが蒼い光に包まれるのとビームが直撃するのはほぼ同時だった。
 だが、ドラグーンから放たれたビームは蒼い光に霧散され、直撃しても装甲を傷つける事すら出来ずに消えてしまい、アリーナ所かIS学園全体に眩い蒼い光が広がったのだ。

「な、何だ・・・これは」
「キラ・・・」

 目の前で起きた事に驚くクルーゼとラクス、それは少し離れた所で戦闘をしていた一夏たちやサイレント・ゼフィルスの操縦者・・・(エム)も同じだった。
 何が起きたのか、それを理解するのに数瞬の時間を要し、そして理解する。あの輝きは、間違いなく・・・。

「ストライクフリーダムが・・・二次移行(セカンドシフト)する」
「綺麗な、光ですわ・・・」
「そうね・・・キラの心みたい」
「お兄ちゃんみたいな、温かい光」
「キラが、ストライクフリーダムと・・・」
「心を通わせたって事かよ・・・」
「キラさん・・・」

 思わず見惚れてしまう程、綺麗で、温かな光だった。

「クルーゼ・・・っ! くそ、キラ・ヤマト!」

 ストライクフリーダムが二次移行(セカンドシフト)をしたら、クルーゼでも流石に不味い。そう判断したのか(エム)は一夏たちが呆然としている隙にストライクフリーダムを包む蒼い光に突っ込んでいく。
 二次移行(セカンドシフト))する前に、キラを殺す。その為にサイレント・ゼフィルスのBT兵器、エネルギー・アンブレラを射出したのだが、蒼い光の中から放たれた無数のビームがビット全てを破壊して、更に迫ってきたビームを避けたサイレント・ゼフィルスの回避先にビームは既に来ており、武装の全てと手足を破壊されてしまうのだった。

「な、何っ!?」

 皆が見る中、蒼い光は漸く消えた。
 そして、中から現れたのは・・・12対24枚の蒼い翼を広げ、銃身が少し長くなったビームライフルを両手に持ち、全体的に変わった所は少ないが若干角ばった装甲の新たな姿となったフリーダムと、それを纏うキラの姿。

「・・・さあ、ラウ・ル・クルーゼ、ここからが本当の勝負だ」
「ほう、それが・・・君の新たな剣か」
「そう、これが、ストライクフリーダムの第二形態。人々の自由と運命を守る暁に照らされし正義の日輝き、ブリリアントフリーダム!!」




あとがき
お待たせしました。今日は休みのはずが、午前中だけ出勤してました…。



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