IS〜インフィニット・ストラトス〜
自由の戦士と永遠の歌姫

第五十七話
「大人達」



 キラと一夏、ラウラの三人が織斑家に戻ると、千冬と束、真耶の三人が既に到着していた。
 千冬達とラクスは子供達を眺められるテーブルに着き、千冬が持って来たのであろうビールや焼酎、日本酒がテーブルの上に並べられている。

「お、キラ、遅かったな」
「やっほ〜キー君! 早く飲もうよ!」
「お待ちしてましたよ、ヤマトくん」

 ご丁寧にツマミも用意して準備万端、キラは苦笑しながらラクスの隣に腰掛けると日本酒をグラスに注いだ。

「千冬姉、頼むから飲みすぎるなよ? 明日も仕事なんだから」
「馬鹿者、それくらい理解している。それに、明日は山田くんに殆ど押し付けるつもりだ」
「ちょ!? 先輩!?」

 山田真耶、明日の仕事は押し付けられる事が確定して、シクシク泣きながらIS学園学生時代の先輩である千冬に逆らえず、手にした焼酎を煽るのだった。

「姉さんも、飲みすぎは良くないですよ・・・その、研究が忙しいのですから」
「大丈夫だよ〜、箒ちゃんの見てる前では束さんもセーブするから!」
「まるで見てない所ではセーブしないみたいな言い方ですね」
「ギク!」

 実は、行方不明になっている間も、暇を見てはコッソリ千冬と飲みに行っていた彼女、その時は千冬同様セーブしないのだ。

「お兄ちゃんとお姉ちゃんは・・・あれ? 酔ってる所、見た事ないかも・・・」
「僕とラクスは酔い潰れるまで飲まないからね」
「それに、コーディネイターは基本的にお酒に強い者が多いですから」

 キラの脳裏に浮かぶのは幼い頃の事、キラの父であるハルマ・ヤマトとアスランの父であるパトリック・ザラがよく酒の飲み比べをしていたのだ。
 飲み比べでハルマはいつもパトリックに負けていて、飲むたびに酔い潰れる傍ら、パトリックはあまり酔った所を見た事が無い。

「とまあ、アスランのお父さんもお酒に強かったかな、バルトフェルドさんもだけど」
「私の父と母も強かったですわ。酔った所は見た事がありませんし」
「へぇ〜」

 勿論、絶対に酔わないという訳ではない。酒に弱いコーディネイターも中には居るし、飲み過ぎればコーディネイターと言えど酔い潰れる事はある。

「まぁ、程ほどにするよ」
「ですわね」
「お願いだよ?」

 念を押してくるシャルロットの頭を撫でて安心させたキラは日本酒を一口、それで咽た。

「ゴホッ、ゴホッ・・・これ、辛口ですか?」
「当たり前だ。甘口など邪道!」
「ん〜、でも束さんは甘口の方が好きかな〜? キー君、これ飲む?」
「・・・頂きます」

 束が入れてくれた日本酒は甘口だった。これならキラも好みの味なので、問題ない。

「あら、クラインさんは焼酎ですか?」
「ええ、味わい深くて、こういうのは好みです」
「ですよね!」

 ラクスは真耶と同じ芋焼酎をお湯割りで飲んでいた。ロックは流石に焼酎初心者のラクスではキツイので、お湯割りにしたのだが、中々の味わいでラクスの舌を満足させるものだ。

「しかし、ガキ共は元気だな。これだけ騒いでも翌日に響かないのだから」
「ですね〜、若いって良いですよ」
「まて、私たちはまだ若いぞ?」
「あ、あはは〜・・・なのに、如何して出会いが無いんでしょう〜・・・・・・」
「山田くん、酔うの早いな」

 出会いが欲しい〜、と泣き出す真耶を呆れた目で見ながら近くにあったミネラルウォーターの尾ペットボトルの蓋を開けると、中身を彼女の頭から注いだ。

「つ、冷たいです〜!?」
「酔うのが早すぎだ」
「はぁい」

 真耶の酔いが若干醒めたところで、大人たちは少し真面目な話をする事になった。近くに一夏達がいるが、まぁあれだけ騒いでいれば聞こえる事も無いだろう。
 一応、用心としてリビングとダイニングの間のガラス戸を閉めておいたので、万が一にも聞こえはしない。

「先ず、キラ・・・お前のストライクフリーダム・・・いや、今はブリリアントフリーダムだったな。ブリリアントフリーダムに対して国際IS委員会からの報告が来た」
「やはり、ですか」
「ああ、国際IS委員会の緊急会議の結果、キラは学園卒業後、国際IS委員会直属の操縦者として働いてもらいたいそうだ。ブリリアントフリーダムは解体、その技術の解明をして各国に提供するらしい」
「まぁ、ぶっちゃけるとキー君は委員会の傀儡として使うけど、フリーダムは反乱されたら困るから取り上げるって事だね〜。馬鹿な爺共の考えそうな浅はかな考えだよ」

 それから、ラクスは卒業後にアメリカへ渡ってアメリカの代表候補生になってもらうとの事だ。フリーダムと同じく、オルタナティヴは解体して技術吸収、専用機をアメリカで作って提供するらしい。

「それとねぇ、箒ちゃんも卒業後は紅椿共々日本所属の代表候補になってもらうみたいだよ。いっくんは白式共々国際IS委員会が引き取って実験に参加してもらうんだって・・・死ねば良いのにね」

 気に入らない。何もかも委員会に都合の良い方向へ進もうとしている現状が、何よりも気に入らない。

「あ、あの・・・でも委員会の決定は絶対ですし、仕方の無い事では・・・?」
「あのねおっぱい眼鏡、私は箒ちゃんといっくん、キー君とラーちゃんが馬鹿な爺共の思惑で動かされるのが気に入らないって言ってるの。理解してる?」
「ひ、ひぅ・・・」
「彼女を責めるな、それよりも如何するか、だ。私としても委員会の思うままに事を進めるのは気に入らない。だが、卒業までの間に準備は整うのか?」
「ん〜・・・本来なら間に合わなかったかな」
「本来なら?」

 本来なら、という事は、間に合う算段が付いたという事だ。

「キー君のフリーダムが二次移行(セカンドシフト)したからねぇ。お蔭で私はブリリアントフリーダムを堂々と調査する口実を得た訳! 今まで以上に準備が早く進められるんだよ〜」

 成る程、フリーダムは束が造った事になっている。その二次移行(セカンドシフト)をした機体の調査も、当然だが束でなければ進められないとでも脅したのだろう。

「でしたら、残る問題は亡国機業と」
「ラウ・ル・クルーゼだけだな」
「はい。今日はブリリアントフリーダムになったばかりで、力を知らなかった彼も戸惑っていたから勝てましたけど、次はまた、互角になると思います」
「だろうな。まぁ、サイレント・ゼフィルスとレジェンドプロヴィデンスが大破したんだ。暫くは動けまい」

 アラクネもまだ修理中のはずだ。それだけ壊しておいたのだから、亡国機業としても動きが遅くなるだろう。

「今のところ把握しているだけでも、亡国機業側で動かせる機体は福音だけです。僕と束さんがハッキングして調べてみても今まで出てきてませんでしたが、恐らく今の状況を見れば、動かさざるを得ないかと」
「となると、今の福音の操縦者も判るか・・・」
「あ、あの・・・ヤマトくん、ハッキングって・・・犯罪ですよ? って言っても、無駄なんでしょうね〜」

 福音が動けば操縦者も調べられる。向こうの戦力となる人間を把握して、情報戦で勝利する事は、戦いで大きな有利となるのだ。

「今のところ、把握している敵はクルーゼ、巻紙礼子、(エム)、クルーゼを回収した女性、こんな所ですわ」
「そうだな・・・」
「ううむむ・・・そうだ!」

 突然、束が立ち上がってキラの手を取った。何故か目がキラキラしているのは、嫌な予感を感じさせる。

「キー君! 模擬戦してみて!!」
「突然どうした、遂に気でも狂ったか?」
「ちーちゃん失礼だよ〜! ブリリアントフリーダムの戦闘データが取りたいから模擬戦してって意味で言ったの!」
「話が繋がっていないぞ」
「え? だって今思いついたんだもん」
「・・・」
「せ、先輩! さ、流石に日本酒の瓶は不味いですよ!! 博士が死んじゃいます!!」

 一升瓶を振り上げて束の脳天に振り下ろそうとした千冬を真耶が必死に押さえつけていた。

「そうだね〜・・・出来れば一対多のデータが欲しいから、キー君一人といっくん達全員の模擬戦で!」
「それは・・・まぁ、僕は良いですよ? 元々、一対多は得意分野ですし」
「え、でもヤマトくん、それは流石に無茶なのでは・・・? 相手は代表候補生や国家代表もいるんですよ?」
「問題ありません、キラは一対一よりも一対多の方が本領ですし」
「し、しかし!」
「許可しよう。アリーナの使用許可も私が取っておく」
「先輩!」

 まぁ、真耶が何だかんだ言っているが、キラVS一夏たちの模擬戦が決定した。目的はキラがブリリアントフリーダムに慣れる為というのが表向き、裏の理由は束とキラの計画の為、行われる。

「久しぶりの一対多ですから、楽しみにしてます」
「ああ、あいつ等に一対多のスペシャリストの戦い方を見せてやれ。あいつ等にとっても勉強になるだろう」

 そして、一夏達の更なるレベルアップの為にも、模擬戦決行は絶対となる。C.E.最強クラスの実力者相手に、如何戦うのかを、一夏たちに学ばせる為に。



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