IS〜インフィニット・ストラトス〜
自由の戦士と永遠の歌姫

第六十二話
「撮影、ドキドキの時間」



 インタビューも凡そ終わり、次は写真撮影となった。
 撮影は地下のスタジオで行うのだが、何でもスポンサーの用意した服に着替えないと渚子の首が飛ぶらしいので、着替えることに。

「う・・・こ、これは」
「あら、可愛らしい服ですわね」
「それは私も思うが・・・わ、私よりラクスの方が似合うのではないか?」
「いえ・・・その、胸が・・・」
「・・・あ」

 箒が着替える事になっている服はかなり大胆に胸元が開いたブラウスにフリルが可愛らしいミニスカート、ショート丈のジーンズアウターだ。
 正直、この服は胸の大きい箒の方が似合うタイプで、胸が少し小さいラクスでは着こなせない。

「ら、ラクスはどの様な服を貰ったのだ?」
「私ですか・・・? これです」

 ラクスが着る事になっている服はフリルがあしらわれた薄桃色のブラウスと紺色のフレアスカート、箒が着るジーンズアウターの色違いだ。

「う、私もこういう物の方が良かったな・・・」

 フリルが付いたブラウスは少し考え物だが、胸元が開いたブラウスよりはまだマシだった。

「さあ、いつまでも迷っていたらキラ達をお待たせしてしまいます。早く着替えましょう」
「む・・・う、わかった・・・」

 服を脱いで着替えを始めた二人だったが、ラクスは箒の胸を間近で見て、そして自分の胸を見下ろすと深い溜息を吐きながら着替える。
 溜息を吐いたラクスを見て、箒は何事だろうかと思ったが、ラクスの視線が自分の胸と彼女の胸に行っていたのを思い出して頬を赤く染めると、いそいそと着替えるのだった。


 着替え終わった箒とラクスはスタジオの椅子に腰掛けてキラと一夏が出てくるのを待っていた。だが、中々出てこないのだ。
 男の着替えとは女よりも早いと話に聞いた事があるのだが、どうも遅すぎる。

「箒さん、一夏さんがその服を褒めてくださったら、必ず誘うのですよ? 今夜はご一緒に夕食に行きましょうと」
「う、うむ・・・一夏が褒めてくれたら、私が誘う・・・私が、誘う・・・・・・誘う」

 ラクスのアドバイスを受けて頬を染めながら呪文の様に呟く箒、ラクスから見ても緊張し過ぎているのがよく判る。

「はいはーい! お待たせしました! ヤマトくんと織斑くんのご入場でーす!」

 渚子が随分なハイテンションでスタジオに入ってきた。その後ろからは見事にカジュアルスーツを着こなしたキラと、まだ着慣れていないのか、少し微笑ましいカジュアルスーツ姿の一夏が入ってくる。

「うーん・・・何かこれ、変じゃないですか?」
「ぜーんぜん! 超似合ってるわよ! 十代の子のスーツ姿ってのもいいわねぇ」
「でも、キラの方が似合ってる気がするんですけど」
「あ〜・・・何ていうか、ヤマトくんは反則よね。凄く似合ってるんだけど・・・ホストみたい」
「あ、あはは・・・」

 一夏のスーツ姿は何処か新人サラリーマンみたいな印象を受けて、格好良いのだが、何処か微笑ましく思える。
 しかし、キラの場合は22歳だというのに随分と着こなし過ぎで、その美形の顔と相まってホストにも見えなくない。ていうか、寧ろホストだ。

「お待たせラクス・・・うん、よく似合ってるよ」
「ありがとうございます。キラも、素敵ですわよ」
「ありがとう」

 キラが自然と腕を差し出し、ラクスがそこに腕を絡ませながら抱きつく。それだけでピンク色のオーラが溢れ出し、スタジオにいる独り身の男女全てが、その甘ったるさにブラック珈琲を飲みたくなった。

「い、一夏・・・」
「お、おう。待たせたな、箒」
「う、うむ・・・・・・に、似合っているな・・・その、何だ、わ、悪くないぞ」
「お、おう、サンキュ。箒も、その・・・可愛いぞ」
「か、かわっ―――っ!?」

 一方、一夏と箒は、お互いに見慣れる服装である為か、二人そろって頬を赤く染め、目を逸らしながらも、ちらちらと目を向け、目が合うと直ぐに逸らしてしまう。
 付き合いたてのカップルみたいで微笑ましいのだが、やはり甘ったるい空気を醸し出してしまったのか、スタジオにいたスタッフは全員、事務所に内線を入れて珈琲を注文していた。

「あ〜、はいはい。それじゃあ撮影始めるわよ! 時間押してるから、サクサクいきましょう!」

 渚子が手を叩いて撮影準備をしていたスタッフを動かした。あっと言う間に準備が整い、漸く撮影は始まる。
 撮影ブースに入った四人は言われるままポーズを取って、カメラマンもその都度指示を出しながら撮影をしていく。
 四人だけ、キラとラクス、一夏と箒、キラと一夏、箒とラクス、キラと箒、一夏とラクスと、様々なパターンでの撮影も粗方終わり、後は最後の写真を撮るだけとなった。

「じゃあ、最後にヤマトくんとクラインさん、織斑くんと篠ノ之さんのペアで写真を撮りましょうか」
「「「「はい」」」」
「先にヤマトくんとクラインさんがブースに入って」

 キラとラクスがブースに入ると、カメラマンがカメラを構え、渚子からの指示が来た。

「ヤマトくん、クラインさんの腰に手を回して抱き寄せて、クラインさんはヤマトくんの胸板に顔を寄せる・・・というか、もう頭を預けちゃって」
「こう、ですか?」
「これで、よろしいでしょうか?」
「オーケーオーケー、よし!」

 シャッターが押され、キラとラクスの撮影が終わる。次は一夏と箒の撮影になるので、二人がブースを出ると、入れ違いで一夏と箒が入った。

「じゃあ、二人はそこの椅子に座って・・・あ〜、織斑くんはもう少し篠ノ之さんの方に寄ってちょうだい」
「え、でもそれじゃあ・・・」

 箒とピッタリくっ付いてしまう。そう言おうと思ったのだが、先ほどのキラとラクスの撮影を見て、キラとラクスがくっ付いて撮影した時のラクスの幸せそうな表情を思い出した。

「・・・(箒も、ラクスと同じ女の子なんだ。もしかしたら、ああいう風にやったら、喜ぶのかな?)」

 試しにと一夏は箒の方に寄って、自分から箒の腰に手を回して抱き寄せてみた。

「い、一夏!?」
「お〜、いいねぇ織斑くん大胆! でも、もう少しインパクトが欲しいかなぁ・・・」

 一夏の手が腰に回されて抱き寄せられた箒は顔を真っ赤にして、先ほどから心臓がバクバクと煩い。
 そんな箒を見ながら渚子が少しだけ思案すると、何か思いついたのか笑顔になった。

「篠ノ之さん、織斑くんの首に腕を回してみたら良いんじゃない? うん、いい、いいわ!」

 言われた通りに箒は一夏の首に腕を回してみたのだが、より一層密着して、更には顔まで近くなってしまった為か、箒は完全に頭の中が沸騰しそうな程にお花畑となってしまう。
 一夏も箒の顔が目の前にある為なのか、いつもの鈍感は何処に行ったと言いたくなるほど頬を赤くして、篠ノ之箒という女の子に・・・織斑一夏という男が反応しそうになった。

「う・・・(一夏の顔が、近い!? あ、ああ、後ちょっとで、き、キス・・・してしまいそうだぁ〜!?)」
「・・・っ! (ほ、箒・・・何だか、いつもより可愛い・・・良い匂いだし、何だろう。こんな感覚、初めてだ)」

 最高のショットが撮れた。付き合いたての初々しいカップルの様な二人の姿は無事にフィルムに納まり、渚子も最高の笑顔で右手の親指を立てる。

「はい、撮影しゅ〜りょ〜! 腕を回す必要も無かったわねぇこれは」
「「っ!!」」

 バッと離れた二人にグッジョブと内心微笑んでいた渚子の笑顔と、その後ろで一夏と箒の親とでも言いたげな慈愛の表情を二人に向けているキラとラクスが嫌に印象的だった。



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