IS〜インフィニット・ストラトス〜
自由の戦士と永遠の歌姫

第六十三話
「五反田食堂」



 撮影が終わり、各自着替えをしているのだが、男子更衣室で着替えをしている一夏はキラに尋ねたい事があると言ってきた。

「あのさ・・・今日、箒と撮影してて感じたんだけど、今日の箒ってさ、何かいつもより可愛かったよな」
「それは、うん・・・僕も思うよ?」
「でさ・・・何て言えば良いのかな、箒の隣にいた時、凄い心臓が高鳴って、その、胸が苦しくなったんだけど」
「・・・一夏、それが何なのか、解る?」
「いや、ラウラや鈴と居た時だってこんな事は無かったのに、箒だけって、如何いう事だ?」

 呆れた。何故に一夏は自分の感情に気付かないのか、ここまで色恋に鈍いとは流石のキラも思わなかったのだ。

「それ、ラウラや鈴に聞いちゃだめだよ? 他かに話すなら千冬さんかセシリアにする事。それから、僕から言えるのは・・・ちゃんと箒を見てあげる事だね」
「お、おう・・・箒を、ちゃんと見る、か・・・っ!?」

 また一夏の頬が赤く染まった。恐らく箒の顔でも思い出したのだろうが、まぁ大した問題でも無いので、見守る事にする。

「さ、着替え終わったから行こう。ラクスと箒も待ってるから」
「そ、そうだな」

 着替え終わり、撮影に使った服はくれるという事なので貰った鞄に入れると更衣室を出た。


 編集部からの帰り道、キラ達は分かれてそれぞれ食事をと思ったのだが、箒がどうしてもキラとラクスにも付いて来て欲しいと言ったので、ディナーには四人で行く事になった。
 まだ箒も二人だけでディナーというのは緊張し過ぎて耐えられないらしく、キラ達が一緒に居てくれればリラックス出来るらしい。

「それで・・・ディナーって、何処に行くの?」
「あ、それはだな・・・えっと、あった。これだ」

 キラに尋ねられ箒は持っていたバックから一冊の雑誌を取り出して、ページを捲ると目的のページを見せてきた。
 書かれていたのは今話題のカップルがデートで行くお店ベストテンという見出し。その一番人気の店に印が付いている。

「ここは帰りの地下鉄から近いから、ここにしようと思うんだ」
「まぁ、素敵なお店ですわ。お値段も学生に優しい手頃な価格で、お料理も美味しい、ですか・・・楽しみです」
「へぇ・・・って、カップル?」

 一夏が首を傾げたが、それは無視する。
 確かに、この店なら地下鉄から近い所にあるし、雰囲気もあるので箒と一夏の為には良いのかもしれない。

「でも、五反田食堂も美味いぜ?」
「い、いや、そのだな・・・ここに行ってみたいのだが、駄目・・・か?」
「っ! いや!? そ、そうだな! 偶にはこういう店も良いかもな!」
「そ、そうか! ならここにしよう、うん」

 こうして、箒が行きたいと行った店、針葉樹の森に向ったのだが・・・。

「あー、満員だな」
「日曜日のディナータイムだからね」
「これでは入るのに何時間掛かるのでしょうね」
「・・・・・・」

 見事に満員で、店の外にまで人が並んでいた。
 キラとラクスは余りにも不憫な箒の方を見たのだが、当の彼女は唖然として、若干だが白く煤けて見えてしまった。

「どうする? 二時間待ちって書いてるけど、下手したらそれ以上に待たされそうだぜ?」
「う・・・ぅぅ・・・」

 遂には涙目になった箒、ちょっと可哀想になったので、キラは一夏に何処か良い店は知らないかと聞いたのだが、それで紹介された店が、よりにもよって箒にとってはライバルでもある少女の実家でもある五反田食堂だった。

「五反田食堂?」
「あれ? 箒はまだ来た事無かったっけ? ここは俺の友達の実家だよ」

 五反田食堂の前、そこに四人は立っている。
 箒は呆然と食堂を見上げ、キラとラクスはもう此処まで来ると苦笑しか出て来なくなった。何故。よりにもよってこの店をチョイスしたのか、本気で一夏の頭をかち割って中を見てみたくなってしまう。

「っ!? き、キラ? 今、お前の方から不穏な空気を感じたんだけど・・・」
「気のせいだよ」
「え・・・でも」
「気のせいだよ」
「・・・・・・」
「気のせい」
「はい」

 とりあえず、ここでこうしていても仕方が無いので、中に入る。中はそれなりに人が入っていたが、キラ達四人くらいなら問題なく座れそうだった。

「お、弾だ」
「おお? 一夏か! って、女子連れか? 彼女かよ」
「馬鹿、よく見ろって、前に話しただろう? 同じ男のIS操縦者のキラと、その彼女のラクス、それからファースト幼馴染だよ・・・っていうかこの前の俺の誕生日パーティーの時に居ただろ!」
「馬鹿野郎、俺が虚さんからアドレス聞き出すのにどれほど苦労したと思って・・・」

 確かに弾と虚は良い雰囲気だったが、まさかアドレスを聞き出していたとは・・・。だが虚も満更では無さそうだったので、これはこれで良いのかもしれない。

「虚さんがどうしたって?」
「ゴホンゴホン・・・なんでもねーよ、それでえっと、何て言ったっけ? しののさん?」
「篠ノ之箒だ」
「ふむふむ。あ、俺、弾。よろしくな」
「あ、ああ・・・」

 キラとラクスの事は覚えていたので、改めて自己紹介する必要は無さそうだ。
 四人席に案内されて、弾がカウンターに入っていったのを見送ると、メニューを開いて早速だが何を食べるか決める事になった。

「キラ達は何食う?」
「僕はそうだね・・・この生姜焼き定食にする」
「私は焼き魚定食にします」
「箒は?」
「む、・・・こ、ここのお勧めは何だ?」

 出来れば一夏のお勧めを食べてみたい。箒の乙女心から出た言葉だった。

「そうだな、どれも美味いけど・・・あえてすすめるなら、魚系かなぁ・・・・・・あ、このカレイの煮つけとかほんとに美味いぞ?」
「そ、そうか・・・ふむふむ」

 箒はまだ迷っているみたいだが、一夏は既に決めていたらしく、弾を呼ぼうとしたのだが、箒が一夏の服の裾を掴んで止める。

「ん? どうした?」
「あ、いや・・・その、い、今・・・料理の練習をしているのだが、良ければ今度、試食をしてくれないか? 此処に来て思い出したのだが・・・」
「お、マジ? 箒は料理上手いからなぁ・・・そりゃ楽しみだ!」
「そ、そうか! そうか・・・そうか・・・うん!」

 何と言うか、傍から見ていて本当に微笑ましいのだが、一夏は気付いているのだろうか、この店に居る一夏に恋するもう一人の女の子がこの光景を見たら、何を思うのかを。

「さてと、俺は焼き魚とフライの盛り合わせ定食にしようかな、箒は?」
「え!? えっと、私は・・・」
「ああ、この業火野菜炒め定食っていうのもいいぞ、何せ看板・・・鉄板メニューだからな」
「そうなのか。では、それにするとしよう」

 やっと決まったらしいので、一夏は弾を呼んだ?

「ほいほい、決まったか?」
「ああ、俺は焼き魚とフライの盛り合わせ定食、箒は業火野菜炒め定食、キラが生姜焼き定食、ラクスが焼き魚定食で」
「ん、了解。じゃあちょっと待っててくれ」

 素早く伝票に注文の品を書いていった弾は厨房へ消えていった。料理が来るまで少し暇なのだが、箒は隣に座ってキラと話す一夏をチラリと見て、少しだけ椅子を寄せる。
 それを見ていたラクスは、ずっと微笑みながら水を一口飲んで、持ってきていた小説を読み始めるのだった。



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