IS～インフィニット・ストラトス～
自由の戦士と永遠の歌姫
第七十五話
「戦いが終わって」
今年は呪われているのか、全学年合同タッグマッチまでもが中止になってしまった。
生徒たちの殆どが寮の自室に戻り、一年の専用機持ちと楯無は皆、第一アリーナの管制室に呼ばれ、集まっていた。
他にも管制室には千冬と真耶、それから束の姿もある。
「さて、お前達に集まってもらったのは他でもない。今日、学園を襲撃して来た無人ＩＳの事についてだ」
真耶がスクリーンに映像を映し出した。そこに映っていた映像は襲撃してきた５機のゴーレムⅢと、それと戦う一夏たちの姿だった。
「この無人機、以前のクラス対抗タッグトーナメントの時に襲撃してきた奴と同系統の発展機だと思われる。そして、これを送りつけてきた犯人に関してだが・・・ヤマト」
「はい。無人機が襲撃してきたのと同時刻に亡国機業の構成員、巻紙礼子・・・彼女はオータムと名乗っていましたが・・・その人と、幹部と思われる女性、スコールの二人が学園敷地内に侵入、僕とラクスのＩＳ奪取及び、篠ノ之博士の身柄拘束が目的と思われる言動をしていました」
ゴーレムⅢは束が造り、束の命令で学園を襲撃してきたのだが、束が思いついたのは亡国機業に罪を押し付ける事だった。
勿論、真相を知る者はいる。キラとラクス、それから先ほど二人っきりで束を締め上げて聞き出した千冬の三人だ。
「篠ノ之博士がＩＳ学園に居る事を嗅ぎ付けて襲撃してきたという事、ですのね」
「最初に無人機で学園を混乱させて、その隙に篠ノ之博士を狙う。なるほどな、手段としては上等だろう」
セシリアとラウラの二人はキラの説明から凡その事を想像して、それを信じてしまった。この二人の場合、頭が良すぎるから逆に騙しやすい。
皆を騙している事にキラやラクスに罪悪感が無いとは言わないが、一夏と箒を鍛える為の事だとは言えないし、亡国機業のことは何とかしなければならない以上、こうして亡国機業をダシにして罪を押し付けるのが最もｂｅｔｔｅｒなのだ。
「それからもう一つ、亡国機業は第五世代型ＩＳの試作機を完成させて、実戦に投入してきました。操縦者は先ほど述べました幹部、スコールという女性で、ＩＳの名前はインフェルノ」
千冬が真耶に指示を出すと、投影型スクリーンに新しい画像が映し出される。スコールと、彼女が身に纏うインフェルノの画像だ。
「第五世代型ＩＳインフェルノ、ラウ・ル・クルーゼのレジェンドプロヴィデンス、僕のブリリアントフリーダム、ラクスのオルタナティヴ同様、第五世代型のＩＳです。ここで改めて第五世代の特徴を挙げていきますと、一番の特徴は天候に左右されないビーム兵器・・・これはビームライフルやビームサーベル、ビームシールドがそれに当たりますね。その他に拡張領域（バススロット）には予備の弾丸などを入れるのみに留めて、ほぼ全ての武装を機体の表面に装備、露出しておく事で武器切り替えのタイムラグを少なくした事です」
そう、第五世代のＩＳの拡張領域（バススロット）には武装らしい武装は一切搭載されていない。唯一例外なのはブリリアントフリーダムの単一仕様能力（ワンオフアビリティー）でもあるミーティアくらいで、後は殆ど消費した弾丸の予備弾くらいだ。
一言で言えば第五世代は武装で身を固めた機体、と言った所だろう。
「このインフェルノはビームライフルとビームサーベル、ビームシールドを基本装備として、他に目立つ武装は一つだけ。この非固定浮遊部位（アンロックユニット）にもなっている翼、彼女は紅き灼熱と呼んでいましたが、これが最強の武装らしいです」
「何コレ・・・羽をビームコーティングしながら射出する武装で、その合計が２万５千って、避けるの難しくない！？」
「僕のガーデン・カーテンでも防ぎきるのは難しいかな・・・」
速度のある白式や紅椿は、操縦者である一夏と箒の技量が足りないので、逆にその速度が原因で直撃を受けてしまうだろう。
高速機動で避けたり、直撃しそうな物を弾くなど、キラほどの技量が無ければ不可能な芸当なのだ。
「千冬姉・・・これ、避けれるか？」
「織斑先生と呼べ・・・いや、今の私ではギリギリで避けるのが精一杯だろうな。弾くなども何枚かは出来るだろうが、接近するのは不可能だ」
暮桜・真打の性能なら可能かもしれないが、肝心の千冬が全盛期よりもやはり衰えてしまっている為、不可能だ。
シュヴァルツェア・レーゲンは重量がありすぎて回避不能、打鉄・弐式とエクレール・リヴァイヴは白式や紅椿と同様である。
「しかし、これで試作機という事は、この先・・・出てくるのか、完成された第五世代が」
「箒・・・」
「正直、私と一夏が第四世代を使っているからといって、安心出来る相手ではない。それだけ、第五世代の機体は恐ろしいんだ。ブリリアントフリーダムは・・・キラは味方だから安心出来るけど、レジェンドプロヴィデンスとインフェルノは敵だから、それが怖い」
箒の言いたい事は、この場の誰もが理解出来た。
だからこそ、キラと束の二人は計画をいくつも立てていたのだから、それをこのタイミングで発表する。
「皆に話しておきたい事があるんだ。これは僕と束さんが計画していた事なんだけど・・・多少のリスクを犯してでも第四世代の技術を提供する事にした」
キラの言葉、それは千冬すらも寝耳に水だったらしく、キラとラクス、束以外の全員が驚愕していた。
「白式と紅椿以外の全て・・・ブルー・ティアーズ、甲龍、エクレール・リヴァイヴ、シュヴァルツェア・レーゲン、打鉄・弐式、霧纏の淑女、これら全てに展開装甲技術を搭載して、第四世代として改造する」
「監修は私こと、天才束さん！ 設計は同じく天才のキー君！ ブイブイ♪」
「それから、同時に白式と紅椿を第五世代として改造する事にした。第四世代技術に第五世代技術を搭載した新たな機体として」
今回の事、戦力強化の意味もあるが、キラとラクス、そして束の一番大本にある計画の為にも必要だと判断した為の事だ。
世界中に第四世代の技術を広める事にはなってしまったが、それを埋める意味でも第六世代計画もあるので問題は無い。
「俺の白式と・・・」
「私の紅椿を・・・第五世代に？」
いきなり第五世代を託される事になった一夏と箒の二人、何故この二人に第五世代なのか、それは二人が白式と紅椿の操縦者だからというだけではない。
キラが最も注目している人間が、この二人だからだ。この二人、今はまだ覚醒していないが、段々とキラのＳＥＥＤとしての感覚が教えてきているのだ、二人の内に眠り、覚醒の時を待つ種子の存在を。
「第五世代を二人に託すにあたって、一夏と箒には皆とは別メニューの訓練を施す事になる。これは完全に僕とラクスが二人で行うから、覚悟していて・・・・・・多分、数日は死にたいって思えるから」
「「・・・・・・」」
二人に第五世代を託すまでに、やらなければならない。キラとラクス、二人の手で、若きこの二人に眠る種子の覚醒と、覚醒してからの訓練を。
「お、お兄ちゃん・・・？ 二人にどんな訓練をするの？」
「・・・知りたい？」
「っ！？ う、ううん！？ 絶対に知りたくないよ！？」
キラの微笑みが、何故か黒いオーラを纏っている様に見えて、シャルロットは慌てて首を横に振った。
キラといい、ラクスといい、このカップルは似たところが多すぎる。今回の黒いオーラも、ラクスが時折出しているオーラと全く同じなのだから、正直・・・勘弁して欲しかったりする。
「とりあえず、皆の国からは許可も貰っている。第四世代技術データとの交換でね。まぁ、明日から少しずつ作業を始めていくけど、その間は専用機が使えないなんて事は無いから安心して」
大きい作業は休日を使って行うので、平日の間は主にシステム面での作業だけだ。それはキラと束の二人掛りでやれば数日で終わる。
「それから会長」
「ん？ 実家を使えば良いのね？」
「はい」
「任せて、その代わり・・・簪ちゃん、手伝ってね？」
「え・・・お姉ちゃんの手伝い？」
「そ、私一人じゃ手が回らなくて・・・やる事が多いけど、頑張ってもらうから」
簪に見せる様に開いた楯無の扇子には『勤労』の文字が書かれていた。
「よし、やる事は決まったな。ならば今日はもう解散だ。疲れをゆっくりと癒すと良い」
皆が解散した後、管制室にはキラと千冬、ラクス、束の四人だけが残った。
四人が見ているのはとあるデータ、それはキラと束が進めているプロジェクトである第五世代量産計画の資料と・・・もう一つ、第六世代型ＩＳの試作機の設計データだ。
「ムラサメにアストレイ・・・これが量産化計画の要か。片方は汎用性を極めた機体であり、もう片方は・・・ほう？ 高速機動形態への変形機能か。構造上難しいだろうに、解決したのか？」
「ええ、凡そは」
「最初は無理かなぁ？ なんて思ったんだけどねぇ。なんか出来ちゃった♪」
それから、話は第六世代の話に移る。
「こちらが束さんとキラが考案した第六世代の設計ですわ」
「因みに、前のゴーレムⅠのコアを使って束さんの専用機にしようと考えてま～す！」
「お前の専用機だと・・・？ それに第六世代か・・・本当に貴様等は世界に喧嘩を売るのが好きだな」
今だに第三世代の量産化に難航している世界を余所に、第四世代、第五世代と造り、更には第六世代、もはや世界に喧嘩を売っているとしか言えないだろう。
「それで、第六世代のコンセプトは何だ？」
「第六世代は第三世代の発展型で、自立行動兵器を搭載した機体になる予定です」
「自立行動、だと？」
「そう！ 操縦者の脳波とリンクして、兵器に搭載されたコンピューターＡＩが独自に判断して行動する兵器、それが第六世代のコンセプトだよ～」
凄い物を考えたものだが、千冬からの観点で言わせてもらうのなら、実現したら面白い、だった。
「そうか・・・ああ、そうだ束」
「ん～？」
「今回の件、上には黙っていてやる。その代わり・・・暮桜・真打に第五世代の兵器を搭載してくれ・・・いや、正確には雪片・壱型を第五世代兵器として改造してくれ」
「良いよ～」
簡単だった。簡単に答えてしまった。
だが、千冬の言いたい事も理解出来る。この先の戦いで、ビーム兵器の存在は必要不可欠、戦いの要となる一夏と箒が第五世代を手にするのなら、千冬もまた、第五世代の兵器が必要だと判断したのだ。
「私は、今のまま満足するつもりはない。福音事件以来、また暮桜を動かしていないが、もう迷わん。世界最強のＩＳ操縦者・・・ブリュンヒルデとして、再び実戦へ正式に戻るとするさ」
勿論、学園の教師も続けるが、操縦者として現役に戻ると、千冬は宣言した。
「キラ、あいつ等への訓練で忙しいとは思うが・・・少し、実戦の勘を取り戻すのに協力してくれるか？」
「・・・勿論です」
こうして、世界最強の頭脳と世界最強の操縦者は、世界最高のヒトと共に立ち上がるのだった。
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