IS〜インフィニット・ストラトス〜
自由の戦士と永遠の歌姫

第七十六話
「大人なデート」



 ゴーレムVの学園襲撃と、亡国機業の篠ノ之束博士誘拐未遂事件の日の夜、キラとラクスは学園の食堂ではなく学園外にある高級ホテル最上階にあるレストランに来ていた。
 黒いタキシードを着こなすキラと、桃色のドレスが美しいラクス、この二人の姿はホテルに入った解きから周囲の視線を釘付けにしていたのは言うまでも無いだろう。

「こちら、お飲み物は如何なさいますか?」
「僕はフランス製のシャトー・シャロンを」
「私はイタリア製のスフォルツァート・ディ・ヴァルテッリーナをお願いいたします」
「畏まりました」

 注文を終えてワインが来るのを待つ間、キラとラクスは窓際の席なのでホテル最上階から見える見事な夜景を楽しみながら話に花を咲かせていた。

「綺麗な景色ですわね」
「うん、雑誌に載っていたのを見て、是非ともラクスと一緒に来たいって思ったんだ」

 学園からは少し離れた所にあるが、ホテル自体が大きいので、最上階からなら遠くの位置に学園が見える。
 今の時間でも電気は点いているので、見つけるは容易かった。

「学園でも、今頃は食堂で皆、夕飯かな」
「一夏さんと箒さんは別のレストランでお食事だと仰ってましたし、シャルさん達はそうでしょう」
「お待たせしました。こちら、シャトー・シャロンとスフォルツァート・ディ・ヴァルテッリーナでございます」

 ワインが来た。ソムリエの資格を持つ店員がワインのコルクを抜くと、キラとラクスのグラスにそれぞれのワインを注ぎ、再び栓をしてテーブルの上に置いた。

「それでは、もう直ぐお料理の方をお持ちいたしますので、それまでお楽しみください」

 店員が去ったので、キラとラクスはお互いにワインの入ったグラスを持って乾杯する。
 チン、と綺麗な音色の音と共にグラスが軽く触れ合い、二人は一口だけワインを口に含み、その香り、風味、味を楽しんだ。

「良いワインだね。シャルに教えてもらったフランスで有名なワインだけど、確かに良い」
「私のは以前の世界でも飲んでいたワインです。この世界でも美味しいですわ」

 それから、前菜が来て、スープ、魚料理、肉料理、デザートと食事を食べ進め、高級ホテルの高級レストランが誇る味を楽しんでいた。

「美味しかったね・・・ここはまた来たいって思える」
「はい、メニューを見ると、ワインの種類も豊富ですし、今度は別のワインを楽しみたいですわね」

 食事も終わり、ワインも程よく飲んだので、二人はレストランを後にした。
 この後、学園に戻るのかと言われればNOだ。明日は今回の事件の影響で急遽、学園が休みになってしまったので、この後はキラとラクスが学園に入学してからの行き着けであるバーに寄って、その後は・・・。

「じゃあ、行こうか」
「はい」

 行き着けのバーは近い、歩きで向い、バーに着くといつもの席に座っていつものカクテルを注文する。

「「乾杯」」

 バーの雰囲気は、少し薄暗いながらも照明の明かりが幻想的な風景を彩る大人な雰囲気だった。まぁ、バーは得てしてそんなものだが、この店は特に雰囲気を重視しているのか、店内は本当にキラとラクス好みなのだ。

「キラ」
「どうしたの?」
「私たちがこの世界に来て、もう一年経ちました」
「うん」
「長い様で、短い一年でしたわね」

 本当に、この一年はあっと言う間に過ぎ去って行った。
 この世界に来て束と出会い、愛機であるストライクフリーダムがISに変化して、それからは訓練の日々。学園に入学してからは一夏を始めとして箒、セシリア、鈴音、シャルロット、ラウラ、楯無、簪と、本当に様々な人と出会い、友として、仲間としての絆が出来た。

「でも、時々思うのです。私たちの世界では、今頃・・・皆さんが何をしているのか。私達が目の前で消えて、バルトフェルドさんが如何しているのか」
「それは・・・僕も考えていた。いつかは元の世界に戻りたいって思うし、今でも元の世界に戻る方法を探している」

 だが、一年掛けても見つからず、今ではキラも守りたい居場所や仲間が存在しているのだ。嘗ての世界での、共に戦う仲間ではなく、キラが成長を見守り、一人前になるまで守り続けたいと思える者達が。
 だからだろうか、最近はキラもラクスも、元の世界に戻る事を考えなくなってきたのは。
 諦めた訳ではないが、もしこのまま見つからないのなら、この世界に永住しても良いのではないか・・・、そう考えてしまう。

「キラ」
「・・・何?」
「たとえ、どんな世界だろうと、私はキラを愛してます」
「それは僕も同じだよ。僕も、元の世界でだろうと、この世界でだろうと、ラクスの傍に、これからも永遠に居続ける。ずっと、君一人を愛し続けていくよ」

 寄り掛かってきたラクスの肩に手を回して抱き寄せると、二人は静かに目を閉じ、お互いの温もりを確かめ合いながら、決して切れる事の無い絆を感じていた。

 バーを出た二人は、普通の人間なら既に立ち上がる事も出来なくなるであろう量の酒を飲んでいるのにも関わらず、確かな足取りで今夜の寝床にもなる場所を目指した。
 ピンクのネオンが眩しいホテル街、その中でもキラとラクスが此処に来る度に世話になっているホテルの中に入る。
 フロントで鍵を貰い、いつもの部屋に向った二人の手は、確かに、固く結ばれていた。

「いつか・・・」
「?」
「いつか、会いたいですわね。もう一度、あの世界の皆さんに。たとえ帰れないのだとしても、一目で良いですから」
「そうだね」

 部屋に入った二人は、その後明け方近くまで起きていた。
 何をしていたのかは、問うまでもないだろうが、何故かこの日の夜は、いつも以上に熱く、お互いの胸の内で何かが大きく燃えていたのは、言うまでも無い。


 朝、キラはベッドの上で目を覚まし、まだ眠っているラクスを起こさない様に起き上がると、床に落ちていたバスローブを身に纏って窓の傍に歩み寄った。

「変わらないね・・・何処の世界だろうと、朝の日差しは」

 時間を見ると、チェックアウトの時間まで充分時間があるので、シャワーを浴びる事にした。
 シャワーを浴びながら、キラはこれからの事を考える。一夏たちのこと、自分達の事、束との計画の事、亡国機業のこと、そして・・・ラウ・ル・クルーゼの事を。

「僕は、迷わない。この世界でも変わらず不殺を貫くつもりだったけど・・・・・・クルーゼ、貴方だけは、この手で殺す事を、絶対に躊躇わない。そして、亡国機業の人間も・・・もしもの場合は、僕が・・・」

 決意は固まった。もしもの場合は、キラは己に科した不殺の信念を破ってでも、己が手を血に汚す事を躊躇わないと。

「それから、もしもこの世界でやる事が無くなったら・・・そうだね」

 その時は、ラクスと二人で、何処か静かな場所で生涯を終えるまでのんびりと暮らしていこう。
 元の世界に戻る事に固執するのは止めた。もし見つかればラッキーだった程度に考え、この世界に骨を埋める覚悟で生きていこう。まだ若く、青い彼等の成長を、見守る。

「うん」

 決意を新たに、シャワーを終えたキラは身体を拭いて着替えると、ホテルに来る前にコンビニで買っておいた缶コーヒーを冷蔵庫から取り出すと、プルタブを開けて飲み始めた。

「・・・・・・やっぱ、缶コーヒーは缶コーヒーだね」

 自分で淹れた方が美味しい。そう思いながら、椅子に座ってラクスが起きるまで、その寝顔を楽しむのであった。



あとがき
大変お待たせしました。
引越しで忙しく、執筆時間がありませんでした。とりあえず修正だけのこれを上げます。



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.