いつも心にはあの人のヴァイオリンの音が鳴っている。

 直接聴いたのは数えるだけだが、これを超える音楽に出会う事は8年たった今でもない。

 どんなに迷っても、どんなに落ち込んでいても、この音楽を聴くだけで上を向ける。

 それだけで、私は自分が普通でない事を受け入れる事が出来た。









 ヴァイオリンの演奏が流れる時空航行艦・アースラの一室。
 フェイト・テスタロッサ・ハラオウンがソファーに座り、演奏に耳を傾けていた。
 “聖王のゆりかご”が出現し、今まさに管理局存亡を賭けた大戦が始まろうとしているそんな最中であった。

「やっぱりここにいた。フェイトちゃん、もうすぐ出撃だよ」

「うん」

「また聴いてたんだね――御父さんの演奏」

「うん。急に聴きたくなって」

 戦闘に向かうときには毎回、このヴァイオリンの音楽を聴きたくなる。大切な思い出だから……





魔法少女リリカルなのは×仮面ライダーキバ過去編
―雷光の音色―

作者 まぁ






 なぜ戦うのかがわからなくなったのは12歳の頃だった。

 ――親友のなのはが戦線復帰不可能寸前までの大怪我を追った時感じた無力感。
 ――兄のクロノの手伝いで執務官の業務に携わり、救えなかった時の悲しみ。

 執務官試験に三回目にしてようやく合格したときに襲ってきたのは、合格の喜びよりも、これからいくつの悲しみを見なければならないのかという恐怖にも似た感情だった。

(何故戦うのか……何故守るのか)

 考えても、考えても、答えが出なかった。

 焦りと恐怖に心が蝕まれていたそんな時、心の中に聴いた記憶などないはずのヴァイオリンの音楽が響いてきた。
 どこか懐かしく、どこか暖かい。その音楽に集中しているだけで心が震え、充足感が心を満たしてくれる。
 しかし、記憶を辿っても、自分の記憶にはこんな“美しい音楽”を聴いた記憶はない。

 毎日、何故戦うのかという問いを自問自答していると鳴り響き、途中からこの音楽はどこで聴いたのかを探すようになっていた。

 次第に塞ぎ込むようになり、なのは達とも疎遠になり始めていた。
 業務以外は人と話す事も少なく、使い魔のアルフとさえ話さない日も増えてきていた。

 そんな私を心配して養母であるリンディ・ハラオウンが様々な世界に連れて歩いてくれたが、私は心無い返事を返すだけだった。

 心に流れるヴァイオリンの話をしてからはありとあらゆるコンサートに連れて行ってくれた。
 音楽の専門知識はなかったが、何かが違う事だけはわかった。
 そんな中、一つの出会いが私の自問自答を終わらせるきっかけをくれた。

 第193管理外世界からの流出物――漆黒のヴァイオリン“ブラックスター”である。

 その音色を聞いた瞬間、埋め込まれたアリシアの記憶でも、フェイト自身の記憶でもない映像が流れてくる。





 明るい青のスーツを着こなす青年と、シルバーのジャンパーにサングラスを掛ける男。木目調の壁で温和なイメージを与える部屋で迎いあっていた。
 しかし、二人の表情は和んでいるとは言い難かい。お互いに落胆を抱え、空気は重さを増していく。

「そうか……俺が作ったブラックスターを弾いてはくれないか」

「あぁ、そうだ。このヴァイオリンは俺に弾かれたがっていない」

 ジャンパーの男は残念そうに肩を落すと、ブラックスターをケースにしまう。そして、ゆっくりと部屋を出て行く。

「お前はいつか……お前に相応しい名器を手に入れるだろう」

 そう……お前の情熱のように真っ赤な薔薇のような美しく優雅なヴァイオリンをな……

「……当たり前だろう? おれは千年に一人の天才。紅音也だぞ?」








 まるで、“フラッシュバック”のような映像でフェイトは理解した。
 第193管理外世界に自分が捜し求める音がある。そう感じた瞬間からの行動は早かった。

 未だ音楽に集中しているリンディの手を引き会場を出ると、今まで溜めていた有給を使って管理外世界に行きたいと懇願したのだ。

 しかし、リンディの反応は渋いものだった。

 第193管理外世界……そこは吸血鬼のような怪物、ファンガイアが蔓延る世界。
 その世界の住人は、その存在をほとんど知らずにすごしている。そんな世界に塞ぎこんでいる娘を喜んで送り出せはしない。
 しかし、こんなに力強い目を見るのは久しぶり。このまま、送り出さない事も出来る。

(……でも、本当にそれでいいの?)

 こんなに悩んでいる“娘”が、立ち直るきっかけを掴めるかもしれない。
 怪物に襲われて帰ってこないかもしれない。

 リンディの中に葛藤が生まれ、否定の意見と肯定の意見が激しく戦っていた。



 その場では結局保留にし、家に帰ってから、管理外世界の状況をフェイトに伝えた。それでも、フェイトの意志は変わらない。
 最終的には、押し切られる形でフェイトの第193管理外世界行きが決定した。

 しかし、条件が複数つく事となる。
 有給含めて4日間のみの探索で終わる事。危険を感じた時点で探索を終えて帰還する事。
 最終日とその前日以外、休みが合ったクロノと初めの二日間は常に行動する事。

 決定から行動までは早かった。
 身支度を済ませると、フェイトはクロノをせかし始める。出発の日は三日後ながら、フェイトは焦っているかのようだった。
 常に興奮し、行く世界がどんな所なのかを想像し、妄想に浸っていた。

 ようやく来た出発の日には、既に何度も旅したかのような感覚であったのだろう。
 落せないテンションに、心なしか気疲れしているようにも見え、クロノの心配は増幅するばかりである。

 第193管理外世界に着いてからは、可能な限りヴァイオリンのコンサートを回る。
 夜にはヴァイオリンの演奏をしている場末の酒場に行き、フェイトの心に響いている音楽を探す。

 しかし、フェイトの目的の音楽が見つかる事はなかった。
 どんな天才ヴァイオリニストと銘打たれたヴァイオリニストのコンサートに行こうとも、フェイトの表情は期待の表情から落胆の表情に変わる。

 結局、クロノと回った二日間では見つける事はなかった。
 一人で回る事になったフェイトは、同じようにコンサートを回り続けた。












 最後の望みとばかりに望んだ探索も不発に終わり、意気消沈のフェイトは無意識に暗闇が支配する海岸に足を運んでいた。
 心にぽっかりと空いた穴を埋める事も出来ず、何かに縋りたいのにそれさえわからない。絶望に包まれるフェイトは、波の音に耳を傾けていた。
 意識を手放し、波に聞き入り幾ばくかの時が流れた時、バルディッシュに備え付けられている自動防御が発動する。
 襲撃を受けたにも関わらず、フェイトの反応は薄い。ゆっくりと振り返るも反撃する意志も見せはしない。

 振り返ったそこにいたのは、ステンドグラス模様を身体に纏った異形の生命体がそこにいた。

 逃げようとも戦おうともしないフェイトに対しても、異形の生命体“ファンガイア”はフェイトに攻撃を開始する。

 なぎ払うかのように振られたファンガイアの腕がフェイトを簡単に吹き飛ばす。運悪く、放置自転車の群れに衝突したフェイトは、傷みにより動きが鈍くなる。
 動けなくなり、倒れたままのフェイトにゆっくりと近づいてくるファンガイアを見ながらも、フェイトの表情は変わりはしない。
 止めとばかりに腕を振りかぶった瞬間、凝縮された風圧がどこからともなく飛び、ファンガイアを吹き飛ばす。

 しかし、フェイトは諦めたように意識を手放して眠る。
 全てに興味を失ったようにこれから起こる出会いも放棄し、瞼を閉じる。

「こんな夜中に女の子を襲うとは、不届きな化け物ちゃんだ…!

 ――変身」

 ふざけた男の声を最後にフェイトの意識は途切れた。









 暖かい……優しくて、聴いているだけで心が感動のあまり震えてくるようだ。
 心に流れる音楽がまた、私に何かを呼びかけているかのようになっているのだろう。

 音楽に導かれるように目を覚ましたフェイトを迎えたのは、心に染み渡るほど圧倒的で、情緒的な“音の旋律”だった。
 まるで、波のように迫り、身体を突き抜けていく“弦の奏でる旋律”。
 その“音”は耳にではなく、彼女の心に直接届き、徐々に満たしていく。

 ――それは、どこから流れてくる音なのか?

 満たされていく心を感じ取りながら、フェイトは考える。

(これは私の妄想でも、夢の世界でもない)

 そう、これは現実。
 段々と、はっきりとしていく頭に、ようやく思考が追いついていく。

(誰かが近くで演奏している?)

 近くで誰かが演奏している事を、目覚めたばかりのフェイトが理解するのに時間は掛からなかった。



「ほぉう、ようやく目覚めたのか……」

 身体を起こしたフェイトに声を掛けてきたのは、フラッシュバックに映ったスーツを着こなす青年だった。
 その手には、少し赤みが掛かったかのような濃い目の色合いの木目が綺麗なヴァイオリンを持っている。
 先程の音楽を引いていたのは、彼に違いない。

「さっきの音楽は……」

「あぁそうだ。お前がいい夢見れるようにと、この千年に一人の天才、紅音也様直々の演奏だ」

 闇に包まれた心にポロポロっと光の柱が刺してくるように、フェイトの心は晴れていく。
 それに呼応するように、自然と涙が溢れ、音也に触れようと震えながら手を伸ばす。
 音也はその手を優しく掴むと、フェイトの横に腰を下ろした。

「求愛なら10年後に出直して来い……お前、どこかであったか?」

「いえ……でも、あなたの音楽が私の心に突然鳴って……ずっと探してました。なにか……探さないといけない気がして」

「どことなく、プレシアに似ているな? まぁ言ってもわからないか」

 音也はフェイトの顎に手を掛けた瞬間、反射的に声が出てくる。
 それに、フェイトも反応する。そして、その瞬間に全てを理解した。

 母であるプレシアがフェイトの深層意識に音也の演奏を埋め込んだ。
 それは、彼女にとっても“大切な記憶”だったから――

「母です! プレシアは……私の母さんです!」

「ほう、こんな大きな娘がいるとは思わなかった。俺と会った時は死人のようだったからな」

「いつ頃……母さんは」

「五年前だな。二・三度あったがな。俺の演奏を聴いたら消えて行ったよ」

「私が……生まれる少し前……」

「変な事を言う子猫ちゃんだ? お前はどう見ても12歳ぐらいだろう?」

 音也の問いに、明るかったフェイトの表情は曇る。
 不信がる音也だが、空気を読んだのか? それ以上、追求しようとはせずに沈黙する事で会話を切った。
 静寂が場を支配しようかとした時、ゆっくりと怖がりながらフェイトは口を開く。

「人造……生命なんです、私」

「腎臓? 生命?」

「人造生命……クローンみたいなものです。私は……母さんの本当の娘のクローンなんです」

 それから、フェイトは全てを音也に話し始める。

 プレシアが娘・アリシアを亡くして絶望の中生きてきた事。
 その後、フェイトが人造生命体として生を受けた事。
 アリシアを生き返らせる為に、犯罪に手を染め、その途中で死んだ事。
 自分は、その目的の為の駒として生まれた事。

 次元世界との繋がりのない世界の住人である音也にとっては信じられない絵空事のように思えるだろうと、フェイトは恐る恐る視線を向けると、音也は疑うどころか次元世界は面白そうだっと興味すら示していた。

「ところで、なにか悩みでもあるのか? 浮かない顔をして」

「何故戦っているのか……なぜ守りたいのかが、わからなくなって……
 クローンである自分が――母さんに捨てられた自分が戦うのはなぜかわからなくなって……
 戦えないと、いつか皆に見放されるんじゃないのかって。皆に捨てられるんじゃないのか。そう思うと怖くなって――
 ここにいるべきは私じゃなくて、アリシアなんじゃないかって……」

「そうか。なら、戦うのを止めてみろ。それで全てがわかるじゃないか」

「そんな……!?」

「決めるのはお前だ。俺はお前が他の世界から来ようが、クローンだろうがなんだろうが知らないなっ…! お前はフェイトだろう? そのアリシアってのでもない」

「音也……さん」

 音也の言葉を受けても、フェイトの不安も疑惑も吹き飛びはしなかった。
 それを証拠に、表情は暗く曇っている。そんな彼女を見かねたかのように、深く溜息をつく音也。

「なら、そのアリシアってのと決定的な違いをやろう」

「?」

「喜べ……! この千年に一人の天才紅音也がお前の父親になってやろう。俺はアリシアって餓鬼は知らんが、お前は娘だ。
 どうだ? 決定的な違いが出来ただろう?」



 音也の突然の提案に受け止めきれずに呆けていると突然、銃撃が音也とフェイトを襲った。

 暗闇の中現れたのは、漆黒のコートを羽織り、不健康そうな顔色の男。
 音也を恨めしそうに睨み、ゆっくりと近づいてくる。

「我は“キング”。お前が紅音也だな。我がクイーンをたぶらかした罪を受けよ」

 男が手を掲げると、赤と黒の蝙蝠型ロボット状の外見を持つ飛行生命体・キバットバットU世が噛み付く。
 噛み付かれた箇所から、ステンドグラス模様の紋様がキングに浮かび上がり、腰には突如発生した鎖が巻きつき、蝙蝠の宿木となるベルトが出現する。
 キバットバットU世が宿木に止まると、蝙蝠をモチーフにした赤と黒のダークキバの鎧が出現し、キングに装着される。

 ダークキバの鎧……それはファンガイアの王がクイーンからその資格を与えられ、反旗を翻したファンガイアを懲罰するための鎧。
 装着者に眠るファンガイアの力を増幅させる魔皇石が胸に三つ埋め込まれており、強力な力を発現させる。
 その巨大な力の制御を任されているのが、宿木に止まるキバットバットU世である。

 その圧倒的な威圧感を孕んだキングは音也を静かに睨む。

「っへ! 女一人繋ぎ止めれねー、パンク野郎じゃねぇかよ!」

 音也はキングの静かでそれでいて圧倒的なまでの威圧感を真正面から受けながらも、笑いながら啖呵を切る。
 この男、これまでの人生で、どんな大きな絶望、恐怖が襲ってこようと自身を絶対に信じぬく力を持ち、その状況を切り抜けてきた。
 これまでの人生でその力の根源は“人を魅了するヴァイオリンの才能”。
 そして、今、この男を突き動かす力の根源は、“才能”と“人が創り出した仮面ライダーイクサの力”

 イクサ発動のキーとなるイクサナックルを右の拳にはめる。大型の口径の銃口が二つ持つ打撃面に、乱暴に左手を当てる。
 ナックルから途切れ途切れの機会音が流れる。

『レ・ディ・イ!!』

 音声が流れると、音也の腰に、ナックルと同様のデザインのベルトが装着されていた。

「取られるのが嫌なら、必死に守ってみろってんだ!」

 右手を力強くキングに伸ばすとゆっくりと腕を開いていく。腕が真横に差し掛かると腕をたたみ、胸の前にナックルを持ってくる。

「――変身」

 ナックルを上からゆっくりと下ろし、ベルトに差し込む。

『フィ・ス・ト・オ・ン!』

 ベルトから放出された光がアームドスーツを形どり、音也に重なると完全な実体化を果たす。
 ファンガイアの脅威に対抗するために人間が組織した“素晴らしき青空の会”が科学の粋を結集させて生み出したライダーシステム。
 白を基調としたカラーリングに十字架を模したデザインの顔面が特徴的で、胸には太陽のマークが模されていた。聖人をイメージしたかのようなアームドスーツ、それが仮面ライダーイクサ。

「無駄な抵抗を」

「黙れ。いくぞ」

 イクサを纏った音也はダークキバの鎧を纏ったキングに襲い掛かった。
 お互いに剣や銃といった武器を持たないため肉弾戦が繰り広げられる事となる。
 しかし、歴代ファンガイアの王に受け継がれてきたダークキバの鎧と、ロールアウトされて間もないイクサではパワーに決定的なまでの差が生じていた。

 音也が何発当てようと、一撃で流れを止められる。そして、ダメージが蓄積されていく。
 攻撃を受ける毎に動きが鈍くなっていく音也に大して、キングにはダメージによる影響は見れない。
 ダークキバの鎧に埋め込まれている魔皇石の力でキング自身の力を増幅させる。影を広げ、音也を襲う。音也に触れると影は拘束し貼り付けにする。
 拘束を解こうともがくも、拘束を解く事かなわない。
 その間にキングは、ファンガイアの力を左手に集中させると音也に向けて放つ。

 赤黒いエネルギー波が容赦なくイクサを纏う音也を貫いた。

 イクサの鎧が脆くも崩れ去り、音也自身ももう戦えない程のダメージを与える。
 崩れ落ちた音也を抱えるとキングは、立ちすくむフェイトを睨む。
 ライフエナジーを吸い取ろうと、ファンガイアに備わる牙を飛ばしフェイトを襲うが、バルディッシュに備わる自動防御が発動し、失敗に終わる。
 しかし、フェイトに戦闘の意志も、逃走の意志も出てこなかった。ただ、探していた男が倒された。脅威が迫ってきているとだけ紙に書かれた文章のように無表情に浮かんでくるだけだった。
 キングは驚愕に包まれると共に、不気味な笑みを零し、フェイトの腹を殴り意識を奪うと担ぎ上げ音也と共に連れ去った。















「目覚めたか」

 音也とフェイトの目覚めは不快感を伴った。
 どこともわからない洞窟の中で鎖に繋がれ壁に貼り付けにされていた。
 壁に灯された蝋燭の灯以外に光はなく、ぼんやりとしか視認は出来ない。

 っが、二人がはっきりと認識出来た事は二つ――

 目の前にキングが椅子に座り、ワインを飲んでいる事。
 この洞窟が普通のモノではなく、特別なモノである事。

「喜ぶがいい、お前達は今からキャッスルドランの養分となるのだ」

「キャッスルドラン……だと?」

「お前達が知る必要はない。我らの城についてなどな――

 お前達はこれからライフエナジーを食われ、存在毎消え去るのだからな」

 キングの高笑いと共に、二人から急速なまでに生命力が抜き取られていく。しかし、一度に全部というわけではないらしく、すぐに止まる。

「お前達はこの砂時計が落ち切ると同時に死ぬ」

「っへ! 落ち着けよ、キング。この少女はデザートにしといてやれよ。千年に一度の天才と少女を一緒に食わせるなんてもったいない事するんじゃねーよ。キャッスルドランとかいう化け物も後悔するんじゃねーのか」

「そんなっ! なんで? 音也さん」

「黙って父さんの言う事を聞いておけ……」

「でも」

 音也はフェイトに笑みを向けるとがっくりと力が抜ける。

「っふ、まさか真っ先に死にたいとはな。ならばそうさせてやろうではないか」

 キングは砂時計を置くと共に、音也とフェイトを見る事もなく、分厚い本を読み始める。
 それからは定期的に音也のライフエナジーが抜き取られていく。目に見えて音也の生気が抜けていき、タイムリミットである砂が残り少なくなっていく。

「最後に……願いがある。ヴァイオリンを一曲弾かせてくれ――クイーンが愛した曲だ」

「ッフ、何を言うかと思えば――いいだろう。それぐらいの余興」

 キングはゆっくりと立ち上がるとどこから取り出したのか、高価なヴァイオリンを取り出し音也に投げる。
 鎖を解かれた音也は地面を這いながらヴァイオリンに辿りつく。フラフラと立ち上がると、ヴァイオリンを構える。

 ヴァイオリンを構えた瞬間、音也の纏う空気が一新する。ピンと張り詰めていながらも包み込む優しさに満ち溢れ、静寂になりながらも不快感はなく、音也を見る者に心地よさを与える。
 静寂な中に響き始める音也の演奏。洞窟内で反響して更に、音は聴く者の中に染み入っていく。聴く気もなかったキングですら、目を見開いて音也を見つめる。
 フェイトに至っては、全身で音也の音を記憶しようと一瞬たりとも気を抜く事はなかった。

 初めは聴き入っていたはずのキングは、目的を思い出したのか、クイーンの心を奪った音楽に怒りがこみ上げたのか、キャッスルドランに音也のライフエナジーを吸い取るように指示を出す。
 一瞬にして崩れ去り、掠れながらも叫び声を出す事によってささやかな抵抗が成される。
 フェイトもキングも音也の最後を感じたのか、フェイトは悲観を、キングは快楽を得た表情を音也に向ける。

「そうはさせないわ」

 澄み渡る気品漂う声と共に、キャッスルドランのエナジードレインが終わる。

 そこに現れたのは黒のドレスに身を包み、黒の髪を腰まで伸ばした妖艶な女性・真夜。
 ファンガイアのクイーンにして人と恋するファンガイアを殺す存在であった。

 全ての女性に気軽に話し掛けれるはずの音也に話しかける言葉を失わせるほどの美女であり、何百年と生きてきて伝説の名器を作成したストラディバリの弟子にもなった事がある程音楽に精通している。
 市販のヴァイオリンで演奏していた音也の音を完全に再現し、音也に伝説の名器にも劣らない音也の為だけのヴァイオリンの作成を促し、手伝った人物。
 人間とファンガイアという種族を超えて愛し合った事により、クイーンとしての力を剥奪され、音也と共にキングを筆頭にファンガイアに狙われる事となる。

 今回の騒動は、音也と真夜が愛し合った事から始まった。



「クイーン。そんなにまでこの男を愛しているのか? 我との息子大河を捨ててまで……」

「ええ……あなたとの間には愛はなかったわ」

「そうか……ならば、全て終わらせてやろう」

 キングは無表情に焼印のように刻まれた紋様を持つ左手を真夜に翳す。紋様が光ると、真夜から光が抜けていく。力が抜けたように地に崩れ落ちる真夜。
 何が起きたのかわからない音也は、必死に立ち上がろうと何度ももがく。

「お前のファンガイアとしての力を全て抜いた。お前はもう人間と変わりはしない――自由に生きるがよい。
 ただし、裏切り者となるのならば、大河は殺す」

「させねーよ!! パンク野郎!!」

 立ち上がった音也は痛いほどの殺気を孕んだ目をキングに向け、イクサナックルを構える。キングもキバットバットU世に手をかませる為にかざす。
 呼ばれるように飛んできたキバットバットU世は、キングの手を噛むと腰に出現した宿木たるベルトに止まる。ダークキバの鎧を纏い、音也に不用意に歩みを止めない。
 音也はイクサナックルを握る。

「先の戦いで勝敗は決したはずだが?」

「それがどうした……」

『おい、人間。お前、真夜を救えるのか?』

「当たり前だろう、蝙蝠もどき。俺が愛した女だ。泣かせねーよ」

『そうか……ならば力を貸してやろう。俺ならば、お前を“ダークキバ”の力を与える事が出来る。

 ――答えろ! 装着すれば死ぬとわかっていてもキバの力を望むか?』

「やってやろうじゃねーかよ…! 俺は、死なねーけどな」

『いいだろう、力を貸してやろう』

 キバットバットU世は音也に投げた問いの答えを受け取ると、キングに装着させたキバの鎧を解除し飛び立つ。
 何が起きたかわからないキングは音也に向かって飛び立つキバットバットU世を見つめていた。

 音也は左手をかざし、キバットバットU世を迎え入れる。

「受けとってやる……! 蝙蝠もどき」

 噛まれると同時に身体に現れる紋様。そして、急速に抜かれていくライフエナジーを感じつつも音也はダークキバの鎧を装着する。

 つい先程まで巨大な壁として対峙していたダークキバを纏った音也は、ファンガイアに変身したキングを静かに見据えていた。

「なぜだ……キバットバットU世」

「お前が真夜にした仕打ちが気に食わない。ただそれだけだ」

「我はキングだぞ」

「忘れるなよ、俺様はクイーンである真夜の命によってお前に力をかしていたにすぎん」

「既にクイーンではないのだぞ、真夜は」

「クイーンであっただろう」

「ごちゃごちゃうるせーんだよ……!」

 キングとキバットバットU世の会話をぶった切って戦闘を開始したのは、音也。
 抜き取られたライフエナジが残り少ない事を本能的に感じたのか、様子見をせずに全弾全力で撃ち込む。

 イクサの時とは違い、ダークキバの鎧ではファンガイア形態のキングと互角の戦いを繰り広げる。

 音也が攻撃を当てればキングがよろめき、キングが攻撃を当てれば音也は踏みとどまる。
 殴りあいのガチンコバトルが繰り広げられ、それを見守る側の人間達にとっては、一瞬も目の離せない壮絶な戦いが巻き起こっていた。

 ある者は愛するものの最後の姿を焼き付けるように……
 ある者は自身には存在しない答えを持って戦っている者に見とれて……

 お互いにラチがあかないと悟った二人は距離を取り、必殺の攻撃を仕掛ける為に力を溜め、機を待つ。

 先に仕掛けたのは音也。ダークキバの鎧に埋め込まれている魔皇石の力を解放し、影のようなエネルギー結晶体を創り出しキングに向けて放つ。キングはその影が見えないかのように簡単に影に囚われ拘束されてしまう。
 音也は腰に備えられていたフエッスルっと呼ばれる覚醒材を手に持つと、キバットバットU世の口に差し込む。

『ウェイクアップT!!』

 キバットバットU世の目がより一層光を灯すと、右手に魔皇石のエネルギーが集中し、端から見ているだけでその威力の巨大さを想像する事が出来る。
 ゆっくりと差し出した左手で挑発のように指を素早く自身に向け倒すと、影に拘束されていたキングは高速で拘束のまま音也に吸い寄せられるように吹き飛ばされる。
 綺麗にタイミングを合わせるように大降りした右拳がキングの胸を直撃する。

 そのあまりの威力の前に、吹き飛び倒れこんだキングの胸には煙と火花が飛んでいた。
 勝負はついたと弛緩する音也に対し、キングは気づかれぬように力を溜めていた。そして一瞬の隙を突き、音也に対してではなく、観戦していたフェイトと真夜に対してエネルギー波を放つ。
 一瞬後れてエネルギー波に気づいた音也は飛び込むようにエネルギー波とフェイト達の間に駆け込む。
 真後ろで展開したフェイトの自動防御に気づかず、全ての光線を受けきった音也からダークキバの鎧は崩れ去るように剥がれていく。音也自身も限界とばかりに崩れ落ちる。
 巨大なエネルギー波を受けたキバットバットU世も目を回し、地に落ちる。

 時間を掛けるようにゆっくりと歩を進めるキング。
 音也は対抗する為に何度も力の入らない四肢に鞭を打ちながら必死に立ち上がろうともがいていた。
 その光景に笑みを零して、先程のエネルギー波のエネルギーを溜める。

「驚くべき生命力だな。紅音也――だが、もう限界みたいだな」

「黙れ……テメー如きが俺様の限界決めてんじゃねーー!!」

 キングの言葉に抵抗するようにガバッと立ち上がる音也には余裕など皆無な表情ながら目に灯す灯は異常なまでに燃えていた。
 ライフエナジーをキャッスルドランに吸われ、ダークキバに変身するためにまた、ライフエナジーを吐き出し、常人なれば既に死んでいる。
 しかし、音也は闘志を燃やし続けている。そして、その手には、イクサナックルが握られていた。

「この千年に一人の天才! 紅音也の限界は……」

『レ・ディ・イ!』

「この俺だけが決める!! 変身!」

『フィ・ス・ト・オ・ン』

 雄たけびを上げながら音也はキングに突っ込んでいく。エネルギー波を放とうと突き出した腕を全力で振り上げた腕で軌道をずらす。
 今回も互いに乱打戦となったが、音也に踏みとどまる程の力は残されておらず、吹き飛ばされ舞台を移動しつつ戦いは繰り広げられる事となった。真夜とフェイトも物陰に隠れながら音也を追っていく。





「なんで……音也さん」

「愛する者を護る為よ」

 フェイトが突然の声に振り向くと、真っ黒なドレスに身を包んだ黒髪の女性・真夜が立っていた。
 どこか悲しむように、どこか微笑むように音也の戦闘をみていた。

「なんで……私なんかの為に……私は

 ――クローンなのに」

「それはね、あの人があなたを“護りたい”っと思ったからよ。それ以上でもそれ以下でもないわ。あの人はそう思ったから命を掛けて戦ってきたわ。それに、貴方は音也の娘だそうね」

「……は……い」

「なら、貴女は受け取らなければならないわ――音也の命を」

「音也さんの……命?」

「ええ。あの人は、人の為には生きてはいない――でも、人として生きていく為に必要な事を体現しているわ。誠実に全力で生きている。

 あなたもどこかでそれを見てきたのではないの? だから今、わからなくなってる気がしてるのよ」

「私も……見てきた……」

 たった数回の会話だけを交わし二人は無言で走る。
 フェイトは真夜に言われた事の回答を探し必死にこれまでの記憶を探る。
 しかし、答えは出ず、霧が掛かったようにモヤモヤとした何かがフェイトの心を包む。





 湖の砂浜に舞台を移すと同時に、崩れ落ちるイクサの鎧と音也の身体。
 思わず駆け寄るフェイトと真夜。気を失い動かないのだが、その表情に既に生気は感じられない。
 息の確認をしていなければ、完全に死亡していると勘違いしていただろう。
 そんな危機的な状況でも、キングはゆっくりと死神の行進のように歩みを止める事はない。

 意を決して立ちはだかったのはフェイト。バルディッシュを構え、バリアジャケットを纏うも、いつものように闘争の炎は燃えてこない。
 言葉の通り形だけの構え。先程までの音也のような倒す、ぶちのめすといった気合は感じられない。
 脅威とも思えないフェイトにキングの容赦ない右フックが襲い掛かる。
 簡単に吹き飛んだフェイトはすぐに起き上がるも、そこからの一歩も一撃も出はしない。
 自身の中にある“何故戦うのか”“何故護るのか”という自問自答が鎖のように巻きつき、フェイトの行動を停止させる。

 逆に行動を開始したのは気を失っていた音也。一瞬に何が起こったのかを理解し、その激情とともに立ち上がる。
 既に真夜の予想を大幅に超えて生きているだけでなく、巨大すぎる敵と戦い続ける音也にかける言葉も見つからず、真夜は立ち上がった音也の中を見る事しか出来ない。
 そこに、なんの悲しみもなく唯、見ていた。愛した男を刻み込む為に

「ハァ……ハァ。もう一度力を貸せ……! 蝙蝠野郎!!」

 音也の叫び虚しく、キバットバットU世は今だ森の中で目を回し、音也の声を聴く事はなかった。
 叫びの返事もなく、高笑いを上げるキングに構うことなく、音也は再びイクサナックルを握る。

「フェイト……一つ言っておこう。お前が迷ってる答えなんて既に出てんだよ……! お前もわかってるんだろう? でも、それが答えなのか信じきれないだけだ。

 つまりな……“なぜ戦うのか”“何故護るのか”ってなもんの答えは簡単なんだよ!!」

 キングを見据えたまま叫び続ける音也はイクサナックルを掌に全力で押し付ける。
 途切れ途切れの『レ・ディ・イ』という機械音が流れると、音也は自身のエンジンが掛かった最高潮であると主張するように力強く伸ばした腕を開いていく。

「俺はずっとそうしてきた……そうしない事がわからねーほどにな!! 変身……!」

『ヒィ・ス・ト・オ・ン』

 再びキングに襲い掛かるも簡単にあしらわれ、フェイトと同様に吹き飛ばされ、イクサの鎧が剥がれ落ちながら立ち竦むフェイトの元に着地する。疲労困憊の身体を起こしながら、音也はフェイトの肩に手をかける。

「護りたいから戦う……護りたいから護る……それじゃぁ、理由にはならねーか? 俺はなるね。俺はヴァイオリンを弾きたいから弾く。聴かせたいから聴かせる。愛する者を護りたいから戦う。命を削る! 簡単だろ……?」

「……でも……s」

「もう考えるな! 簡単でいいじゃねーかよ――お前がそうしたい、それが一番の理由だ。俺もそうだ。そこに小難しい理由なんて不要だ。クイーンだからキングの子を産み、キングに仕える……そんな運命知らない。唯……俺はクイーンではなく真夜を愛した。

 それは真夜がクイーンだからじゃない。真夜が真夜だからだ。俺が愛したいと思ったからだ。それで死んでも後悔なんて一切ないね。

 お前のしたいように……生きろ……!」

 音也の滅茶苦茶な言い分で、フェイトの心の靄は光に照らされるように晴れていく。
 そうしてもいいのかもしれない…っと心を決めたフェイトの心にかつて燃えていた闘志の炎が燃え始める。
 虚ろだった瞳に力が入り、敵をしっかりと見据える。バルディッシュを構え今出来る最善の攻撃と防御を頭に叩き込む。
 すると、自然に足は右自然体の構えを取る。

 音也は闘志に満ち溢れるフェイトを見るなり、フェイトと背中合わせに構える。迫ってくるキングに向けてフェイトと、打ち合わせしていたかのように同時に飛び出す。
 魔法弾をキング付近の砂浜に撃ち込み、目くらましするとフェイトは飛翔魔法で空中に飛び上がる。
 音也は視界を奪っている隙に近づき、闇雲に振り出されたキングの攻撃を跳んで避け、その勢いのままキングの後ろに転がるように着地する。
 気配だけで音也が近くに留まっている事を察知したキングは打ち降ろしの右を振り下ろす。
 音也は完全によんでいたとばかりに、両手で受け止めるも完全に押され顔面ギリギリでキングの右を止める。
 拳を左手で掴むと音也は足を器用にキングの足に絡ませると、腰に備えられた黒いフエッスルを手に取る。

「決めるぞ、フェイト! 最初で最後の親子の共闘だぜ!」

「はい! “お父さん”!」

「っへ……ようやく呼びやがったか」

 ほくそえむと同時に音也はフエッスルをバックルに差し込む。バックルの赤いクリスタルが光ると、ナックルに多大な熱量のエネルギーが注ぎ込まれる。
 それを敵に放つ攻撃方法がイクサに載せられた必殺だった。
 音也はそれを無視し、もう一度バックルから出てきたフエッスルを差し込み、更にエネルギーを充填していく。その充填されたエネルギーに耐えられないとばかりに電流が外装を走る。
 しかし、それでも、音也は構わずもう一度フエッスルを差し込む。長くは形を保てないと判断した音也は即座にナックルを拳に握るとキングに向け、標準をつける。その間にも、漏れ出る異常な熱によって、イクサの鎧もキングの外殻も溶けるように形を失おうとしていた。
 かつてないほどの脳内の危険信号が鳴り響いたキングは音也の拘束を解こうと必死になるも、手と足を拘束されては一秒強程の時間では脱出など不可能であった。

「あばよ……パンク野郎」

 雪崩のように噴出すイクサの熱波をまともに浴びるキングはその勢いに負け上空に吹き飛ばされそうになる。いや、吹き飛ぼうとしていた。
 しかし、上空に飛んだフェイトが高速で飛び付けた加速の勢いをそのまま載せたバルディッシュの一撃を背中から受けると、どちらの勢いの拮抗のど真ん中で悲しくも二人の初めてにして最後のコンビネーション攻撃を受ける事となった。
 徐々にひび割れていく外殻と共に、生命力を失っていき、熱波が収まる頃にはキングはステンドグラスの破片のようにバラバラに砕け消滅する。

 熱波の余波に当てられたイクサは『エ・ラ・ア』の機械音と共に崩れ去る。

 長かった一人の女を巡っての紅音也とキングの戦いは終わりを告げた。











 力尽きて動けない音也を岩辺に運ぶと、ようやく戦闘が終わったのだと力が抜けるフェイト。
 少しでも音也の事を覚えていようと思ったのか、力なく岩肌にもたれかかっている音也の横に座る。

 しかし、フェイトの少しでも触れていたいという願いを拒むように音也は立ち上がり、あろう事か3m程の岩山を登り始める。
 戸惑うフェイトに笑顔で止めようともしない真夜。

「どうだ? 少しは気が晴れたか?」

「はい……でも!」

「お迎えが来たみたいだぞ」

 音也はフェイトにそう告げると、不自然に光る砂浜を指差す。
 そこには遠目からでもフェイトは誰だか理解した。兄のクロノと母のリンディである。
 この世界にいる事が出来る時間が残り少ない事を悟ったフェイトは、迫り来るクロノ達を見ずに、音也に熱い視線を送る。

「どうやって戦っていけばいいか……まだわからないんです。一緒に来てくれませんか? 管理局の技術なら……残り少ないライフエナジーでも生きていけるかもしれません!」

「いいや、行かない。俺はこの世界で生きて死ぬ。真夜の元でな」

「なら……真夜さんも一緒に!」

「行かないわ。私はこの世界でしなければならない義務があるのだから」

「教えてください……わからないんです、何も」

「甘えるな、お前が探せ

 ――お前だけの音楽を探せ」

 音也の厳しくも優しい一言。
 音也はそれ以上語りかけずにブラッディローズを構え、自慢の演奏を奏で始める。生命が燃え尽きる最後のもがきかのように鳴り響く演奏に聞き入ってしまうフェイトを突然包む転送魔法の光。
 突然過ぎる発動に信じられないと迫り来るクロノ達を見ると、全てを悟ったかのような目でフェイトを見ていた。

「待って! まだ……まだ音也さんと……お父さんと話したいの!!」

「君は……早くアースラに帰って検査を受けないといけない……危険をおかしすぎだよ」

「ごめんなさいね……フェイトさん。でも、これ以上はどちらにもいい事がないわ」

「そんな……! いや……いやぁぁ!!!」

 泣き崩れながら叫ぶフェイトは願い虚しく、音也の演奏の終了と共に転送され、第193管理外世界から消え去る。














「フェイトちゃん!? フェイトちゃん!?」

 聴きなれた友人の声に目を開けると涙を流していたのか、みずみずしい瞼の感覚がフェイトに届く。
 手を頬にやり確認すると、やはり涙の後が大きく残っていた。
 
 いつの間にか、音楽に聴き入り立ったまま意識をなくしていたのだろう。

 今だ部屋に鳴り響くヴァイオリンの演奏が、昔の思い出を鮮明にフェイトに夢として見せていたのだろう。その事実にフェイトは微笑を零す。

「大丈夫だよ、なのは。ちょっと懐かしくなっちゃっただけだから」

「お父さんとの思い出?」

「うん。この決戦に一番不安を持ってたのは私なのかも……それを見抜いてお父さんが見せてくれたのかも。俺の教えを忘れるなよって」

「そうだね……いいお父さんだね。一度会ってみたかったな」

「会えるよ……いつか、どこかで」

 ゆっくりと近づき手を取ったフェイトと高町なのは、二人はゆっくりと身体を抱き寄せると、お互いの存在を確認するようにしばらくの間抱きしめあっていた。
 演奏が終わり、静寂に包まれると同時に、緊急事態のアラートが鳴り響く。お互いに覚悟を決めた表情で身体を離す二人。
 ゆっくりと部屋から出ると、フェイトは声に出さずに、唇だけで誰もいない虚空に向けて話す。

「いってきます……お父さん」

 静かに閉まる自動ドア。ドアが視界を支配しようかとした一瞬。

『あぁ、いってこい。お前の思うように駆け、お前の音楽を鳴らせ』

 っと音也の声を聴いた気がしたフェイトは、溢れそうになる涙を拭い先を歩くなのはに早足で追いつく。

「行こう、なのは」

「うん!」

「「私達の空へ!!」」







  TO BE CONTINUDE










 あとがき


 シルフェニア4000万HITおめでとうございます。

 シルフェニアでSSを読み始めて2年近く、投稿を始めて9ヶ月。

 末席でこのような記念を祝える事嬉しいです。

 これからもシルフェニアの発展する事を祈って……

 私も精進していきたいと思っております。



 短いながら、これにて失礼します。

       まぁ




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