「管理局と裏ニ家」




「ほう、散鶴がな・・・それは管理局とやらの全体で行ってはいないと」

「はい。一部、腐敗したやからが、改造人間のようなものの改造のデータ取りとして誘拐しました。」

「そうかそうか・・・ところで、真九郎。散鶴はお前に黙って街まで出たんだよな?」

「はい、すみません。気づいていたらこんな事には」

「そんなことええわい。あの引っ込み思案な散鶴がお前に黙ってねぇ・・・エエ傾向じゃな」

「そうですね。それを言ってしまうと、前に五月雨荘まで家出して来ましたよね。」

「夕乃が少しキツクやっただけだがの。」

 深刻な顔の真九郎と違い、真九郎と対面している崩月の当主法泉はケラケラと笑いながら話を聞いていた。

「あ・・・あの・・・状況は理解され・・・」

「あぁあ、わかっとるよ。ボインの金髪嬢ちゃんや。」

「ボッ!」

「夕乃も準備が出来たみたいだ。今回はわし等も着いて行くぞ。身内が誘拐されたんだ。

 それに数回とはいえ、うちに来た散鶴の友達も一緒とあってはわし等が行くしかなかろう。

 表にはわしが連絡しておこう。」

「お願いします。」

 真九郎は頭を下げると、居間にいる夕乃の元に向かう。

 残されたフェイトは未だ笑顔でお茶を啜る法泉を見ていた。

「もっと怒り狂うと思っておったかい?」

「はい・・・真九郎さんなんてすぐに乗り込もうとしたのに」

「ワシは妻を殺された・・・いや、殺したのぅ。ワシを殺したい裏の家業の者に人質に取られてな。

 そいつ等を殺した時の衝撃で崩壊した天井の下敷きになってな。そ

 れ以降、裏の家業は行わぬと決めたがな・・・わし等は、手を出さなければ無害じゃよ。

 裏から手を引いた者は全てそうじゃ。それを理解できぬものもいよう。それにな・・・」

 法泉は笑顔を崩さずに、湯飲みをフェイトに見えるように位置どる。フェイトがそれを見た瞬間に、湯飲みは

 砂のようにサラサラと細かく崩壊していく。

「久しく忘れておったわ。そうかそうか・・・裏の家業はもうせんと思っておったがの。

 こうまで挑戦されてはうけるしかなかろう。明日からの旅行はなしじゃな。」

 そういうと、法泉は軽い足取りで庭に出て行く。

「あの・・・貴方もいかれるのですか?あそこは・・危険です。」

「このご老体では不足かな?」

「私達がいます。止めようとする人も多数協力してくれます。わざわざ行かれる事は・・・」

「そんなに心配せんでエエよ。要は安心できる実力を見せればええんじゃろ?」

 法泉は何気なく左拳を振りかぶると、石が敷き詰められている手入れが行き届いた庭の中心に振り下ろす。

 それは異常だった。

 よくなのはが悪戯で地面に魔法弾を撃って地面をへこましていたりするけど、目の前の光景はそれを軽く超越していた。隕石・・・隕石が墜落したようなクレーターが半径10mに渡って創られた。

 創った本人は飄々として部屋に戻ってくる。

「こんなもんじゃい。まだまだ現役じゃよ。」










 去っていった真九郎は居間で寛ぐ夕乃に迫っていた。

「残ってください!」

「いやです。それよりも真九郎さん・・・」

「なんですか?」

「巫女服がいいですか?制服がいいですか?私服がいいですか?」

 大和撫子を体言したような容姿を持つ崩月夕乃は真面目な顔でこんな事を言ってくるのだ。

 憧れの目で見ている連中に見せたいくらいだ・・・

 っと真九郎は思いながらも、夕乃に戦場に立って欲しくない一心で止める。

「真九郎さん。あなたがちーちゃんを妹として大事にしている事は知っています。最近は稽古に付き合ってくれてます。しかし、ちーちゃんは私の妹です。10以上離れてはいますが大事な妹です。」

「わかってるよ!でも・・・ここには冥理さんもいます。冥理さんを守らないと・・・」

「母は大丈夫です。」

「でも、夕乃さんに戦場に立って欲しくないんだよ!内定も貰ったんだし」

「真九郎さん。裏の血筋を引く者として、今回ばかりは引けません。なんと言おうと行きます。」

「・・・」

「そ♪れ♪に、真九郎さんが守ってください。」

「わかりました・・・行きましょう。・・・殺す事になるんですけどいいんですか?」

「はい。ちーちゃんが人体実験の検体にしようとしている人たちは、人間ではありません。

 敵です。初めてです・・・人を人と思えないのは」

「・・・行きましょうか。そろそろ、切彦ちゃんも来ます。」

 真九郎は、冥理に挨拶すると、玄関に向かって歩を進める。

 その後ろに、続く夕乃はパンツルックでどこかデートにでも行くみたいな格好である。

 法泉は普段着の袴を来て、まるで散歩にでも出るかのような足取りで歩く。

 真九郎は、仕事着として着ているスーツ。ネクタイを軽く緩めると、玄関を出て行く。

 そこには、いつものように黒いマフラーをした切彦が二本の刀を持ってまっていた。

「やっと出てきたか・・・場所の特定も相手もわかってんだろう?」

「あぁ・・・今回は殺すな、なんて事は言わないよ。」

「当たり前だ。雪姫にてぇだしたんだ・・・ただでおくかよ!おい!デカパイ、送れ。」

「はい。では・・・」

 フェイトは部隊長の八神はやてとの打ち合わせどおりに、四人を腐敗して暴走した部隊の宿舎前に転送する。

「気をつけてください。電撃作戦ですが、こちらの準備はまだ整ってません。それまで・・・耐えてください。」

 フェイトの心配は、腐敗した部隊に向けてなのか、真九郎たちに向けてなのかはわかりきってはいた。

 しかし、どちらが“耐えてください”という言葉を受けるのかはわからなかった。




















 
「っで、データ取りの方はどうなってるんだ?」

「はい。一様、崩月の方のレントゲンや内部の調査は終わりました。今はその結果を見ています。

 多分、崩月の方は、2日もあればデータが取れるかもしれません。それ以降再現する実験に入れます。」

「そうか。斬島の方はどうだ?」
 
「一様、刃物を持たせてみたはいいんですけど・・・変化はあるものの、報告されたような事はありませんでした。」

「刃物を異常に扱えないのか?あれは」

「やはり、報告された切彦を直接見なければならないと思います。」

「崩月に向かわせた部隊には、成人の鬼を連れてきてもらわねばな。

 譲渡が出来るなら、そいつから抜けばいい。」

 無菌室に縛り付けられている紫、散鶴、雪姫、ヴィヴィオ。

 それをモニターで見る白衣姿の男達。

 完全に誘拐された四人は実験素体としか見られていない。

 誘拐された四人はそれぞれ信じるものの名前を何回も呟いていた。

 紫と散鶴は真九郎の名前を。ヴィヴィオはなのはの名前を。雪姫は切彦の名前を。

 四人とも必死で助けてもらう事を祈っていた。信じるものは必ず来てくれる。

「おにーちゃん・・・こわいよ・・・」

「お願いだ・・・真九郎・・・助けてくれ・・・帰ったらいい子にするから」

「まま・・・なのはママ・・・フェイトママ」

「切ちゃん・・・切ちゃん・・・」

 誘拐されて一日が経っても祈ることを止めはしない。子供達の戦いはここに始まっていたのかもしれない。

 そんな中、子供達には希望の鐘。部隊員としては警報の鐘が鳴り響く。

 それはあまりにも大きく、あまりに原始的な振動。

 始まりの鐘は鳴り響いた。
























「なんじゃ、別世界といってもあまりかわらんものじゃな」

 転送されて周囲を見渡した法泉は未だ気楽気分だった。

 救出隊となった四人は、まるで田舎道を歩くようにゆっくりと優雅に歩いていた。

「始まりの鐘を鳴らさんとな。真九郎、お前が鳴らせ。」

「・・・はい。」

「ド派手にな。崩月と斬島の共闘などもう二度とないぞ!」
 
 部隊の宿舎に辿り着くと、真九郎は右腕に埋め込まれた裏の世界の象徴、崩月の角を開放する。

 体中に流れる血液が一気に沸騰したかのような熱を持ち、真九郎を本当の意味での戦闘モードに入らせる。

 腰を落とし、息をゆっくりと大きく吸い込みながら捻る。

 吸い込んだ酸素が真九郎の血液をより一層熱く燃焼させる。

 真九郎の全ての力が体全体に染み込むと、真九郎は目を閉じて沸騰しているような熱い血液で熱を持った脳内を冷静にさせる。

「ッハぁ!!」

 巨大な建物の壁に真九郎の今の怒りを全て込めた拳が突き刺さる。

 壁の破壊ではなく、壁に繋がっている全てに衝撃を与える拳。

 その衝撃は建物内にいる人間全てに感じ取らせていた。

 部隊に敵対するものが現れた事を・・・























「頑張ってや、これの動き出せるタイミングによって成功か失敗かがわかれんねんから!」

「はい!今、証拠のかためと拘束する手続きに取り掛かってます。これが終われば・・・」

「頼むで・・・先行した真九郎さん達が持ってる間に・・・」

 はやては、腐敗した管理局の上層部の一斉検挙による管理局の一新をこの緊急時に行おうと、信頼できるメンバーに声を掛けていた。

 そのかいあって、声を掛けた全員が賛同して動いてくれている。

 この1年、管理局の腐敗した部分がきっかけとなった事件が起きた。

 これも一新を行う決心をさせた要因であろう。

「問題は・・・腐敗した上層部の息がどこまで掛かってるかって事や・・・」

 今回の一斉検挙で最も問題となっているのは、管理局の腐敗し今回の誘拐事件を起こした一派がどこまで手を広げていたかという事。この線引きを誤れば、腐敗が残る結果となる。

 そんな事になれば、自身達が高齢になり、前線に出れなくなってからまた同じような事が起こる。

 それだけは避けねばならない。

 自身の正義を守る為、世界の平和を守る為、はやては必死で祈っていた。

 この一斉検挙が成功する事を。

「残念ながら、そこまでです。」

 その声と共に、管理局の保安部の制服に身を包んだ隊員たちが機動六課宿舎を占拠した。

「そんな・・・保安部がなんで・・・」

「起動六課部隊員。あなた達をクーデターの主犯格として拘束させてもらいます。」

 機動六課を占拠した保安員達は、六課隊員全てに魔力完全封印のリミッター装置を取り付け、拘束して訓練場に集める。

 集められた隊員の周りにアクリル板で出来た透明な板が取り囲み、その真上に脱走者射撃用のオートマトンが設置される。

 その周りも保安部がギッシリと取り囲み、完全封鎖とも思える防衛線が完成した。

「あかん・・・完全に読み負けや。まさか保安部があっち側やったやなんて」

「でも、レジアスさんが陸の大半の隊員を抱え込んでたし・・・」

「抱え込めれるのは、保安部と技術部の一部。前線部隊は・・・さすがにないわな」

「やられましたね・・・ハッキングデータも罠だったのかも・・・」

「もう、考えたないな・・・後は別働隊のなのはちゃん達に任せようか。リンディ提督達がなんとかしてくれるやろ」

 囚われている中、はやてはシャーリーと反省会をしていた。

 協力を煽った中の中心人物のリンディ提督とゲンヤ・ナカジマに全てを賭ける。

 そうしなければ、ウミの側のクーデターと知らされて動いているリクの部隊員が全て怒り狂う裏の家系の者達に殺されてしまう。

 今回は、こちらの頼みなど聞いてくれる余地はなかった。

 身内の誘拐と人体実験。ウミ側が殺されなかっただけでも運がよかったのだ。






















 囲まれていた。

 真九郎の始まりの鐘とともに、一分とせずに管理局の武装隊が、真九郎たちを取り囲んでいた。

 相手は魔法弾を既に充填しており、魔法を持たない者には絶望的な状況。

 しかし、真九郎たち全員追い込まれたような表情は一切ない。

「真九郎と夕乃や・・・先に進んで散鶴たちを取り返して来い。それまでワシと斬島の当主が止めていよう。」

「っけ。爺さんとかよ。でも、見てみたいな。本当の鬼ってやつをよぉ」

「師匠、気をつけてください。」

「ハッハハ。遂に弟子に心配されるようになったか。

 誰にいっておる、ワシは裏の十三家当主の一角、崩月法泉ぞ!」

「じゃぁ、おじいちゃん。はしゃぎすぎないでね。後々面倒そうだし」

「わかっとるよ。お前も気をつけろよ。顔に傷なんて着いたら嫁の貰い手がなくなるぞ?」

「っ!大きなお世話です」

 真九郎と夕乃は包囲の一角を自力で崩すと、一瞬にして包囲をすり抜けていく。

 そして、目指すは管理局陸の天守。

 残された法泉と切彦は真九郎たちが抜けるのを確認すると、戦闘の準備を始める。

 切彦は持ってきた日本刀を鞘から抜き、法泉は軽く肩を回す。

「ほう、その刀。裏十三家で噂の斬島の弐鬼刀(ふたおにがたな)かな?」

「あぁそうだよ。当主にのみ使用を許される斬島家に伝わる刀だよ。」

「やはり、美しいものだな。・・・まぁ、話は終わってからにしようではないか」

 2人はまるで長い間、共に戦ってきた戦友のように背中合わせに立つ。

 そして、後ろからの攻撃は一切ないと信じきっているように背中を警戒しない。

「お2人方、投降してください。この戦力差・・・懸命な判断を行ってください。

 我々としましても、実験体を傷つけたくはありません。」

「戦力差?」

「ええ、この2対5個大隊。圧倒的ではありませんか。」

「ップ」

「んっく」

「聞いたか?崩月の」

「聞いたぞ?斬島の」

「圧倒的だってな」

「そのようだの」

「見れば誰でもわかる事です。あなた達はもう逃げる事も叶いません。投降してください。」

「圧倒的だな・・・我々が」

「あぁ、バカだな。数なんてのは・・・算数で使うんだぜ?」

 2人は放たれた魔法弾を掻い潜りつつ、正反対に突進していった。そうして始まる裏十三家の当主の共闘。

























 リクの宿舎に入った真九郎と夕乃はすぐに二手に分かれた。

 戦力が分断されるとかそういった考えは一切なかった。

 ただ、散鶴達を探す効率のみを優先した。

 中には外と同等の数の戦闘員が待ち構えていた。

 真九郎は戦鬼となって蹴散らしていく。剛力で単純に殲滅していく。

 魔法弾を掻い潜り、拳一撃で生命を奪っていく。

「くそっ!当たらない。こうも圧倒的な数なのに!」

 魔法弾を撃ち続ける戦闘員は真九郎の圧倒的なまでの肉弾戦闘の技術の凄さに驚愕していた。

 歪曲して進む魔法弾ですら一瞬で見切って的確に身体を動かして避けていく。

 紙一重、そう言ってしまえば言いように聞こえる。

 しかし、真九郎にとって迫ってくる魔法弾に、一撃でも喰らえば終わるような威力の魔法弾を、まるでゴムボールのごとく無視して突き進んでくる。

 そして、射程圏内に入ると、物理を無視したような初速度の蹴りや拳を放つ。

 そうして、廊下に群がっていた管理局の戦闘員を殲滅し終えると、散らかった死体を見もせずに奥に歩んでいく。

「夕乃さんの方は大丈夫だよな。」

 特に心配もせずに真九郎は奥に進んでいく。








「体・・・なまっちゃったのかしら」

 手をブラブラとさせながら夕乃は奥に進んでいく。

 その後ろには、まるで獰猛な魔獣が食い荒らしたかのような無残に散った死体と破壊された壁があった。

 無傷なのは夕乃と夕乃が通ってきた幅50cmほどの一本道のみ。

「最近、大学で勉強ばっかりだし・・・ダイエットにはちょうどいいかもしれませんね」

 軽く、まるでジョギングを始める女性のような口調でリクの宿舎を進んでいく。

 夕乃の服には一切戦鬼化した後は見えなかった。

 つまるところ、戦鬼化せずに真九郎と同等以上の戦果を上げている。






















「運が悪いな・・・俺達にケンカ吹っかけるなんてな」

 二本の日本刀を握った切彦は戦闘員を無情なまでに切り捨てていきながら笑っていた。

 日本刀の刃に触れるものは全て切り開かれていた。それが人体、デバイス、魔法弾に至るまで・・・

「悪いな・・・この二本は特別なんだよ。

 触れるものは空気すら断ち切ると言わしめた遥か昔のバカが創った物なんだよ。

 血華美刃(けっかびじん)・鬼百合と百華繚乱(ひゃっかりょうらん)・鬼蛍だからな。

 それに・・・」

 まるで空間毎切り裂いているかのように全てを切り裂いていきながら、切彦は講釈をたれていた。

 愉快でたまらないとばかりに上機嫌に語っていた。

「振るっているのは、ギロチン様だぜ?」

 何度人体を斬りおとそうと、血も油も一切刃にはついていない。

 刀が通り過ぎてから、一瞬後に思い出したかのように血が吹き出ていく。

 やはり、刃物を扱う事においては神の域にでも達している切彦。完全に一方的な処刑の場となっていた。



















「投降していただきたい。あなたは紅真九郎に戦鬼の角を譲渡した。そのデーターを取らせていただきたい。

 貴重なサンプルです。」

「ほう、そんな事までわかっておるのか」

「はい。利口な判断を・・」
 
 法泉は戦闘員の言葉が終わる前に、真九郎以上に物理を無視した加速で距離を潰すと、軽くしっぺでもするように戦闘員の喉に腕を振るう。

 指二本分の触れた部分だけが、その形を維持したまま彼方へ飛んでいく。

 距離を潰してからはケンカでもしているかのように、大振りに拳を振るう法泉。

 しかし、その初速、加速全てが物理を知らないかのようなモノとなっており、戦闘員は避けるところが見ることすら難しくなっていた。
 
 遠巻きに見ている者にも影がかすかに見えているに過ぎない。

 それほどまでに、法泉は人間の域をかなり逸脱しているのだ。

「ワシはこれでも利口で通っておるのじゃ。」

「ホンの70年前まではな」

 ホホホっと愉快そうに笑いながら、拳を振るう。

 齢70を軽く超える者が出来る運動量を大きく超えているが、息すら乱れていない。

 遠巻きから見ている者の一部は法泉のあまりの化け物ぶりに恐怖していた。

 こんな化け物と戦えるか!っと逃げ出す者すら出てきていた。

 逃げ出した者に対しても、法泉は攻撃を加える。目の前の戦闘員の肉の一部を事も無げに抉り取ると、腕のスナップのみで逃げた者へ投擲する。

 コントロールと威力全てが揃った肉片は逃げた戦闘員の体の一部を突き破り、何処かへ消えていく。

「おいおい、ケンカ吹っかけて逃げるたぁ・・・ゆるせねぇよな?」

 ケンカの暗黙の了解を破った事に怒りを見せる法泉。右腕に力を込めていく。

 袴の上からも鍛え抜かれている事がわかる体全体に血管が浮かんでくる。

 そして、現れる崩月の角。

 真九郎の角よりも小柄で生まれたばかりのような初々しさがどこか漂う角が肘から出現する。

 法泉は人に対して直接攻撃する事から地面に対して攻撃するようになっていた。

 斜め下にアッパーの軌道で打ち抜く。

 コンクリートで固められた地面が無数の礫として戦闘員に向かっていく。

 しかし、その礫を視認出来た物はいない。

 この礫すら速度がマッハにでも届いているかのような速度を出していた。

 あんな硬質なモノがマッハに近い速度で飛んできて攻撃力がないなんて事はない。

 まるでくりぬかれたように身体に穴を明けられていく。

 既に五個大隊は法泉と切彦によって一方的な蹂躙の餌食となっていた。



 














「皆・・・聞くのだ!」

 真九郎の会戦の鐘を聞いた紫は、未だ祈り続ける散鶴達に声を掛ける。

 既に散鶴達をサンプリングしていた研究者たちは迎撃と逃げる為にモニタリングルームを出ていたのだ。

 これが光となった。

 紫たち誘拐された子供達のささやかな反逆に気づかなかったのだ。

「助けを待っているだけではいけないのだ!私達も戦わなければならないのだ!」

 演説気味た紫の声に、ドンドンと散鶴達は耳を傾ける。

「私も・・・真九郎が助けてくれるまで・・・戦うと言う事がわからなかった。

 ただ・・・兄の子を生んで死ぬだけだと・・・諦めていた・・・

 でも!それだけではいけなかったのだ!母も・・・お父様を愛した。恋をした。

 閉鎖されていたからかもしれない・・・でも・・・それは母の戦いだったのかもしれない。

 周りに近親相姦を蔑まれているのを知っていても・・・止まらなかったのは・・

 その場で出来る最善を行おう!私達が私達が正しいと思う事を!全力で!」

 もう誰にも言いたくなかった過去を語りに入れながら、紫は皆を奮い立たせようとしていた。

 真九郎達必死で生きる者を見て、紫も感化されたのだろう。

 必死で戦う事を選ぼうとしていた。

 それに賛同する者もまた、いる。

「うん・・・」

 最初の賛同者は散鶴。いつものようにどこかオドオドしたような顔ながら、目は強い意志に溢れていた。

「・・・私も・・・行く。切ちゃんに会いに行く。」

「・・・」

 最後まで座って悩んでいるのはヴィヴィオだった。

 信じるなのはと昔戦わされた事が尾を引いているのかもしれない。

 また、戦えばなのはを悲しませるのではないか?っという疑問が頭から離れないのだろう。

「ヴィヴィオ、私達は、行く。ヴィヴィオも来るのだ!魔法を知っているのはお主しかおらぬ。私達を助けてくれ」

「・・・でも・・・」

「私は負けっぱなしは大嫌いだ。アヤツ等は私達を負けた者としてしか見てはいなかった。

 それが悔しい!ヴィヴィオもそうではないのか?」

「悔しいよ・・・でも、戦うとママが・・・」

「会いに行くのだ!来てくれるばかりではダメなのだ!私達は・・・私達ならできるのだ!

 表御三家と裏十三家が着いておる。それにお主は王だそうではないか」

「王の遺伝子を持ってるだけだよ・・・ヴィヴィオは・・・高町ヴィヴィオだよ。」

「なら!高町ヴィヴィオ!立って歩くのだ!歩かねば、前には進まない!

 下を向いても見えるのは足元だけ!前を見なければ母の顔も見れぬ!」

「いけるよ・・・」

 散鶴の手がヴィヴィオに伸びる。その笑顔にヴィヴィオが決意を決める。

「行く。ヴィヴィオはママに会うもん」

 決意に満ちた目を待ち望んでいたかのように笑顔で迎えうける雪姫と紫、散鶴。

 こうして、表御三家の筆頭九鳳院の息女と裏十三家の一角崩月の次女、斬島の次女、聖王の遺伝子を持つ少女の共闘が始まる。

 始まりは紫の演説。

 続くは崩月の次女散鶴。

 頭の中にある真九郎の構えを再現する。

 腰を落として右拳を引く。

 腰をひねり、息を整えていく。

 そして、角を開放する。

 触れれば折れてしまいそうなほどか細い角。

 細身の散鶴にはよく合っている。

 血液が一気に煮えたぎり、軽い興奮状態に入る。

 ここまで来ると、おしとやかや大人しい引っ込み思案などのモノはなりを潜める。

 戦闘に感情を入れない。ようやく散鶴にも、崩月家の思考に昇ったのだ。

 腹の底に力が満ちるのを感じると、厚さ30cmはあろうかというアクリル板に向かって飛び上がる。

 そして、射程に来ると一気に右拳に力を込めて振り切る。

 そのモーションたるや、真九郎を髣髴とさせる。

 ガキン

 と攻撃が無駄に終わったかのような音が紫たちに届く。

 折角の決起もここで失敗すれば全てが泡と消える。

 一気に不安になる紫たち。散鶴は角を収め、アクリル板を見上げていた。

 カリッ

 じっくりと見なければわからないような微かに散鶴が攻撃した箇所のアクリル板が欠ける。

「散鶴・・・もう一撃いけるのか?」

「ううん・・・いらない。」

 振り向きもせずに散鶴は紫の言葉に答える。それと同時に無数の亀裂がアクリル板に走る。

 格子状にヒビが入ると大きな音を上げながらアクリル板は崩壊する。

 子供達は一気にモニタールームに入ると、扉に向かう。

 その間に雪姫は実験で使われたナイフがあるか探していた。

 そして、発見する3本のナイフを見つける。

「散鶴、もう一発扉にかますのだ!」

 既に二発散鶴が固く閉ざされた扉に攻撃しているが、戦鬼化する事が出来なくなった散鶴にはどうにも出来なくなっていた。

「私がやる!」

 冷酷な感じを出した雪姫がナイフを持ってゆっくりと扉と向かい合う。

 ナイフを構えると刃先を鍵穴に向ける。

 モニタリングルームでは扉のノブは両側鍵でしか開かない仕掛けとなっていたのだ。

 それに向かって雪姫はナイフを走らせる。

 ガリガリガリッ

 一本目のナイフの刃が完全に死ぬと、二本目に。

 もったいない、やってしまったといった事を一切見せずにただ、鍵の破壊に意識を集中させる。

 二本目の刃が死ぬ頃になると、大部分の鍵は破壊されていた。

 最後の3本目が死ぬと同時に鍵も死ぬ。

 これにてモニタリングでの脱走を果たす。

「行くのだ!ヴィヴィオ、真九郎たちを探すのだ!」

 検索魔法を覚えているヴィヴィオに検索用の魔法を出させて、管理局員に見つからない様に四人は進んでいく。

 























 真九郎達が暴れまわるリクの宿舎から遠く離れた所。

「くそ!化け物どもが・・・」

 ヘリに乗って逃げていく。リクの今回の誘拐事件を指示した上層部達。

 ウミ側の一斉検挙を抑えるために、ウミのクーデターとして保安部に動きを止めさせた。

 六課の欲しい情報をホンの少し流し、そちらに力を注がせ、こちらの動きを見せないようにする。

 そうして、中心の部隊を押させる事が出来た。

 協力している部隊にも保安部は向かった。

 このまま、行けば、手駒の多くは失うが、崩月のデータがある。

 これを使って機動六課に揃った優秀な人材を使って再現すれば、管理局リク側は一気に強化される。

 ウミに介入される心配もない。

 戦闘機人をより高位に推移させて、戦力を補強すべきなのだ。

「本当に、我々は運がいい。リクを支配していた三脳も死に、大派閥の頭レジアスも死んだ。

 リクは既に我々の物。それにジェイル・スカリエッティが残した資料で戦闘機人も再現できる。

 ミゼットたちも失脚させる事も可能。これで世界は我々の物となる。」

 高々に響く笑い声。完全に管理局の乗っ取りを狙った上層部は勝利を確信していた。

 ヘリを取り囲むなのは達を見るまでは・・・

「機動六課所属、高町なのは教導官。あなた達を誘拐及び人体実験指示の疑いで拘束させてもらいます。」

 既にヘリの周りには、スバルのウイングロードが張り巡らされ、空を飛べない面々はその上に立っていた。

 飛べる者たちは飛びながら上層部の拘束に向かう。

「黙れ!クーデター派が!お前等に正統な拘束権は一切ない!さがれ!」

「いいえ!ミゼット提督をはじめ、伝説の三提督の勅命を受けています。

 クーデターを目論んでいたのは・・・あなた達です!」

 なのはの強い口調と権限に押される上層部。

 既に戦闘員を枯渇させ、守りは薄い今となっては、囲まれた時点で終わりだった。

 こうして、なのは達は腐敗した上層部の一斉検挙という機動六課の目的は果たされた。























「ふぅ・・・圧倒的だったな」

 死体の肉によって作り出された小型のアリーナの中、法泉と切彦は笑っていた。

 かすり傷すら一切ない2人は息も乱れていなかった。

 五個大隊と戦って尚、ウォーミングアップが終わったなっとばかりに背伸びしていた。

「ほう・・・また増援だな。」

「ほらよ。切り刻んでおいたぞ。」

 切彦は刀で死体を切り刻み、骨をある程度の大きさに切っていた。

 それを法泉は数個掴んでは増援として飛んでくる戦闘員達に向かって投げる。

 距離がどうのこうのっという議論すらバカらしくなるくらいに法泉は骨を投げ続ける。

 それが戦闘員にとっては意外。

 まさか魔法を持たない人間が未だ視認しにくい距離の者に攻撃を仕掛けているのだ。

 しかも、武器は近接戦闘モノのみのはずだ。

「ホホッホ。愉快愉快。」

「面白そうな事考えてるんだろう?」

「わかるか?」

「俺も同じ事考えてんだよ。」

「「このまま、この組織を壊滅させるか」」

 2人は笑いながら、向かってくる増援に骨を投擲し続けていた。

 切彦が死体から骨を切り刻み、法泉が投擲する。

 初めての共闘であるにも関わらず、二人の息はぴったりだった。

 ようやく法泉たちを囲む頃には、増援は半分以下になっていた。

 そして、囲むと同時に法泉達からの投擲はなくなり2人は近接戦闘に入っていた。

 片や、十代半ばの女の子。片や、70歳を軽く超える老人。

 裏の家系だとしても、2人は異常だった。

 既に五個大隊を2人で片付けておいて尚も増援を半分以上投擲のみで削る。

 そんなに動いていながら二人は息が少し上がり、エンジンが掛かってきたとばかりに身体を捻る。

 完全に数の道理は無くなっていた。この2人を見ると、量より質が真実のように見える。

 しかし、それは完全に選ばれたものの理屈。

 これが、努力で上がってきた人間だと、こうは見えない。というよりもこのような状況では確実に数に負ける。

「崩月の、最後の1人は生け捕りだぜ!」

「わかっとるわい!」

 2人は二手に分かれて包囲に突っ込んでいく。

 魔法弾を掻い潜り、正拳。

 魔法弾を切り捨てながら、人体も切り捨てる。

 増援もただ、死体を提供しに行っているようにしか見えない光景が繰り広げられていた。





















 男は恐れていた。

 目の前に現れた20歳の女性に。戦場やこういった場所でなければ、見惚れてしまいそうな程、美しかった。

 長い髪、スレンダーな体。それを引き立たせる少し地味目の服装。

 笑顔が美しく、大和撫子を体現しているかのようだった。

「ちーちゃんたちを返してくれませんか?」
 
「じょ・・・冗談をいうな!大事な素体なんだぞ!あれのデータで戦闘機人は・・・

 リクはウミを支配することも出来る!」

「そう・・・ですか」

 笑顔を崩さずに壁を軽く叩く。

 そこから反対側の壁の接着地点までまるで始めからなかったかのように、綺麗にはぎ取れていく。

「返してくれないなら仕方ありません。」

「お・・・お前も素体として捕まってもらおう。こっちには・・・人質がいるんだぞ!」

「ちーちゃんですか?それなら真九郎さんが何とかしてくれますしね。」

「お前の残してきた母親だ!」

 男は勝ち誇ったように捕まっているであろう、夕乃の母親の映像を見せようと通信を繋げる。

『あら?なにかしら、これ?』

 そこに写っていたのは、不思議そうなものを見つめる冥理が写っていた。

 その顔は二児の母親というよりは好奇心旺盛な少女のように見える。

「・・・っな・・・なんで・・・」

『あら?夕乃じゃないの。そっちはどう?』

「こっちはあらかた片が着きました。後は真九郎さんに任せます。

 そっちにこちらの方達のお仲間が母さんを捕まえにいってるそうですが?」

『あぁ、お母さん、頑張ったのよ?

 なるべく、穏便に帰ってもらおうって、御爺ちゃんが壊したお庭をこれ以上壊さないようにって』

「ど・・・どういうことだ?」

「母は、あれでも私よりも強いんです。」

『もうっ、そんな事言ってぇ。夕乃にはもう抜かれてるわよ。』

 そんな軽い会話をしながら、夕乃は冥理の無事を確かめていた。

 そして、見向きもせずに軽く叩く様に男の顔面を叩く。

 しかし、戦闘モードの夕乃の破壊力は痛いといった次元にいなかった。

 あまりの衝撃に首の筋が乱暴に切れ、骨がなんとか繋がっているような状態となった。

 既に男は血を大量に吐き出しており、放っておいても絶命する。

 夕乃はそれを見取りもせずに母と一様の別れの挨拶をして子供達捜しに戻っていった。

 

 














「ここに・・・いたはずなんだ」

 真九郎はもぬけの殻となったモニタリングルームも辿り着く。

 その手には管理局員の頭を持って引きずっていた。

 襲ってきたグループの最後の人間を生け捕りにして、この場所を聞き出したのだ。

 しかし、決起した子供達は既に出てしまっていた。

 しかし、絶望なんてものは浮かんでこない。

 逆に嬉しくもある。

 捕まって不安なはずの子供達が必死に今できる最善を行っているのだから。

 自分がそうだったら出来ただろうか?

 子供の頃、テロで家族を全て奪われてから考えた事はどうやって死んで家族に会いにいくかというだけ・・・

「やっぱり、子供は誰よりも強いな。」

 真九郎は笑顔を少しこぼしてから、子供捜しに戻る。

 既に宿舎にいる戦闘員や管理局のほとんどを葬ってきたから、紫たちに危険が及ぶ可能性は少ない。

 後は、根性のみ。

 真九郎は戦鬼の角を収めて走り出す。

 
















「なにか、静か過ぎないか?」

 物陰に隠れながら宿舎を進んでいる紫たちは周りの違和感に気づく。

 誰かが侵入してきたのはわかった。

 それが誰かはわからないが、自分達を助けに来てくれたのだろう事はわかる。

 それにしては、あたりの様子が静かだ。脱出した当初は管理局員の声が聞こえていた。

 しかし、いつの間にか声どころか足音すらしなくなっていた。

「人が・・・いない。」

「ヴィヴィオ。あたりに人はいるのか?」

「待って・・・一人・・・二人いる。どっちもこっちに来てる」

 ヴィヴィオの言葉に一同は息を潜める。物陰から、紫が覗き込んだ先には、紅真九郎だった。

「真九郎!」

 紫は涙を滲ませて、真九郎の胸に飛び込む。

「寂しかったのだ!黙って出て行ってしまって・・・すまないのだ」

「いいよ。無事でよかった・・・全員いるんだろう?」

「あぁ。後ろにいる。」

 紫の手招きにより、散鶴たちが出てくる。全員を安心させるために真九郎は全員の頭を撫でる。

「さぁ、ここから出ようか。夕乃さんも来たし。」

 真九郎が全員を連れて歩いていると、夕乃がゆっくり歩いていた。

「夕乃さん。師匠達と合流して、立ち去りましょう。」

「ええ。でも、御爺ちゃん達、どこかへ行ったみたいです。

 二人とも、転送・・・っという物を行ってどこかに消えてました」

「えぇ!切ちゃんいないの?」

「多分、エンジン掛かってきたから、もっと大量に敵の要る所にいったんじゃないですか?」

「それなら、後始末は六課の人に任せようか。っというわけで、宿舎に戻りましょうか。」

 一同は未だ拘束されている事を知らない起動六課宿舎に転送装置を使って転送を行った。

















 
 咄嗟に守れたのは、夕乃と散鶴、紫だった。雪姫とヴィヴィオは位置の関係上、守れなかった。

 しかし、魔法の世界の住人である、ヴィヴィオが全員を守る大きさのバリアーを張っていたから助かった。

 起動六課の宿舎に転送すると同時に保安部が真九郎達を撃ってきたのだ。

 なんとか防御できたが、状況はかなり悪い。

 既にヘロヘロな散鶴達子供達を守りながら、軌道六課を占拠している保安部と戦うことは無理だった。

「では、真九郎さんはちーちゃん達を守ってあげて下さい。私が六課の人たちを解放してきます。」

 にっこりと夕乃が笑って宿舎に向けて歩みだす。

「でも、夕乃さん。見分けつかないんじゃ」

「この制服をやればいいんでしょう?」

 そう行って夕乃は右腕の角を開放する。

 夕乃は真九郎以上に物理を無視した加速で保安部と距離を詰めると、容赦なく蹴りを放つ。

 蹴りを受けた保安部はその部分が達磨落としのように勢いよく飛んでいく。

 そして、飛んでいった肉片が大型の弾丸となって別の保安部に襲っていく。

 そうして、不特定多数戦においての極意、一人に時間を使わない。

 を夕乃は事も無げに実行していく。

 真九郎も地面を割ると、その破片を礫として、遠くの保安部に投げつける。

 近接戦闘で夕乃が倒して、遠距離射撃で真九郎が数を削る。

 そうすること、5分。数もまばらになり、訓練場が騒がしくなる。

 
















「なんとか・・・間に合いましたね。」

 フゥッとため息を漏らしたのは聖王協会の武装シスターのシャッハであった。

 その手には自身のデバイスが握られており、周りには伸びている保安部が山積みにされていた。

「ありがとう。助かったわ」

「いえ、あなたが緊急のボタンを押してくれたからこそ、私たちは動けました。」

「ホンマよかったわ・・・ここにいる保安部だけでも命を助けられて・・・」

「?」

「多分な・・・今夜ぐらいにやぱいニュースが流れるわ・・・管理局も大々的に」

「何かあったんですか?クーデターの疑いですか?」

「いや、そんなん即効で吹き飛ぶくらいの奴やと思う・・・リクの方の事ってわかる?」 

「聞いてみましょうか。武装シスターの何人かを偵察に行かせてますので」

 シャッハは軽く、偵察に出ているシスターに通信を繋いで状況を聞く。

 しかし、偵察に出ているシスターは放心していた。

 ありえない事が目の前に現実として出現したかのように、

 まるで地獄が現世に降臨したかのように放心していた。

 そうして、やっと出てきた言葉が、

 “ありえない・・・”

 だった。

「あかん・・・やっぱりや・・・最悪や・・・だから、一斉検挙しようってがんばったのに・・・」

 ヘナヘナっとはやてが力尽きていく。

「どういう事なんですか?」

 リクの情報がまったく入ってこない状況で状況を理解したはやてにシャッハは食い入るように見つめる。

「真九郎君の強さは知ってるやんな?」

「はい。一度見せてもらいましたから・・・」

「あの人は、結局その血筋の人の力を別けてもらってん・・・別けてもらってあれや・・・

 本家がマジになったらあんなんじゃないって事やん。それが二人やで・・・均衡するかと思ったけど・・・」

「・・・つまり・・・」

「リクの本局は壊滅してると思う・・・宿舎だけならなんとかなると思ってんけど・・・」

「リクの壊滅ですか・・・」

「人材不足やってのに・・・これで管理局はマジで変わるやろね・・・」

 はやては落ち込みながらも、面白そうと笑っていた。

 そこへ、今回の事件のきっかけの子供たちが笑って歩いていた。

「どうやら、無事に終わったみたいですね・・・」 

「師匠達が未だに暴れてますけどね」

「お迎えはこちらが出しますので、ゆっくりしていてください。」

「はい。」

 こうして、一部未だ暴走しているながら事件は終わろうとしていた。















 結局、法泉と切彦が帰ってきたのは、日が沈んでからだった。

 二人とも、一日中遊びまわった子供のような笑顔で真九郎達と合流する。

 はやてに送られて、真九郎達は元の世界に送られる。

「では、紅真九郎さん。今回は大変ご迷惑をおかけしました。」

「いえ・・・きっかけを与えたのは、この子達ですから」

「でも、これで中々変われなかった管理局も変われると思います。

 また、落ち着いたら一回連絡は入れさせてもらいます。」

「頑張ってください。」

 真九郎は笑顔ではやてにエールを送ると、それぞれの帰路に着く。

 はやては転送して消え、真九郎は一人五月雨層に、

 紫は真九郎と一緒に行こうとしたが、九鳳院の迎えに連行される形でパーティに連れて行かれた。

 今回の紫の護衛は近衛がすることになった。

 いつもは真九郎に頼んでいるが、今回は疲れているだろうと、遠慮したのだ。

 散鶴は疲れたのか、夕乃の背中で眠っていた。

 法泉は携帯から電話をするとどこかへ消えていった。

 夕乃曰く、最近出来た二股目の彼女だそうだ。老いて尚欲情。それが法泉。

 切彦は背中で眠る雪姫を担いで帰っていく。

 数え切れない程人を切ったにも関わらず、刀は二本とも欠ける事すらしていない。

 その刀を握って切彦は夜の寒さと戦いながら帰る。






















 それから後の事を少し話しておこう。

 結局、暴走した法泉と切彦によってリクの本局は死体が撒き散る廃墟となってしまった。

 リクで無事だったのは上層部派にも、レジアス派にも入らなかったわずか3部隊のみだった。

 こうなっては、再編とか行っていられる状況ではない。

 そこで、ミゼット提督たちの指揮の下、リクを解体し、

 一部隊に武装局員を

 一部隊に執務官を
 
 一部隊に残りの局員を

 っといった配置換えし、不足している人材はウミから転属させた。

 少ない人材でも回せるように、民間企業の導入も始まり、本格的にリクは形を変えていった。



 真九郎たちは、いつも通り、人が人を殺すのに意味を持たない歪んだ世界で笑って生きている。

 愛する人と笑い、些細な時間を共にすごす。

 それが、真九郎の世界。全員が命を全うし、愛を求め愛を与えて、人の温もりを感じる。

 歪んでいるからこそ、些細な事が見えてくる。







 二つの世界は交わらないのかもしれない。しかし、交わるかもしれない。

 先の事は、誰にもわからない。

 人が信じる神ですらわからないのかもしれない。

 もしわかっているなら、神は人々に無関心だろう。

 わかっているなら興味はそそられないだろう。

 だからこそ、わからないからこそ・・・人生は面白い。

 今回も誰かの行動が変わっていたら、未来は変わっていたのかもしれない。

 でも、変わらなかったかもしれない。

 かもしれない

 かも





終焉





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