<堕花 光 side>





 はぁ……なんでこうなっているんだろう……? 

 私は道場が休みの今日、道場へ自主練にやってきただけなのに……。

 そりゃぁ、憧れの真九郎さんに偶然だけど久しぶりに会えたし、この後一緒に食事に連れていってくれる事になってラッキーッ! 

 て思ったけどさ……。

 なんで幼女の、高町ユウリちゃんの面倒を見ないといけないんだろう……。私はただ稽古したかったのにな。

 ……まぁいいや!

 この後真九郎と一緒にお出かけすることになったし、結果オーライだしね!

 そ・れ・に! 嫌みたいに言っちゃったけど、ユウリちゃんサラサラで綺麗な金髪は見惚れちゃうし。

 以前に見せて貰ったヴィヴィオさんのお母さんの高町なのはさんの小さい頃の写真にそっくりだしね!

「ねぇ、ユウリちゃん。光お姉ちゃんと何して遊ぼっか?」
「ねぇねぇ、光! キラキラピッカ〜ンごっこしよぉ!」

 やはり来たな。

 半年くらい前に二人で遊んだときもそうだったよね。

 でもあの時はキラ〜ンステッキを持ってなくて、出来ないって大泣きされたのはいい思い出……。

 それが……それが! 今目の前に再現される!?

 泣くの? 泣いちゃうの?! 真九郎さんに頼まれた子守で、ユウリちゃんを泣かせる!?

 つまり……私のお使い失敗しちゃう!!?

 何か! 何か代わりになるものはないの!?


 ……?

 っえ……? ユウリちゃん? 昔の忍者みたいになに背中から出してるのかな〜? 

 間違いない、あれは……あれこそがキラ〜ンステッキー。

 学んでる! この子学んでる!

 さぁ……やろう! 当然私は怪獣役をやることになる。

 ユウリちゃんが楽しいように、右へ跳び、左へ跳んであげる!

 こんな事もあろうかと大好きなお姉ちゃんと一緒に見たキラキラピッカーンで予習もバッチリだしね!

 おいで! ユウリちゃん!!

「いっくよぉ〜。キラリン〜スタ〜ダスト〜!」

 何度目の必殺技なんだろうか。
 大きく後ろに飛んでグルグルと後回りをして、気づけば女の子にはあるまじきお尻を天に突き出す辱めのポーズにっ!?

 スパッツ掃いてるからいいんだけど、お尻を天に突き出してるなんてね。
 まぁ、憧れの真九郎さんには見られてな……い?

「…………??」

 火山が噴火するかと思うほど真っ赤に紅潮するのがわかっちゃうほど熱いよ……。

 なんで……なんで。真九郎さんがいるのっ!?

「や、やぁ。ユウちゃんの子守ありがとう……ね」
「い、いややゃゃゃや!!!」

 道場に私の叫び声が木霊した。



 <堕花 光 side out>





魔法少女リリカルなのは×紅×電波的な彼女
電波的なヴィヴィオ
外伝 2→3章
幕間「ユウリの冒険」
作者 まぁ





 <紅 真九郎 side>

 ヴィヴィオが高町邸を飛び出した翌日。

 なのはさんとの約束通り娘のユウリちゃんを連れて俺達の……人をまるで蚊のように簡単に殺してしまう歪んだ世界へとやってきた。

 まずは武藤環さんが師範をしている空手道場へとやってきた。

 日を間違えてたようで空手教室はやっておらず、道場の奥で環さんが二日酔いで唸っていた。

 まぁ、いつもどおりといえばいつもどおり……。

 まったくこの人は。

 かれこれ10年以上やってきた環さんの介抱。

 まったく役に立たない技術が磨かれたものだと苦笑してしまう。

 ユウリちゃんを、たまたま自主練しにきていた堕花光……光ちゃんに任せる事ができてよかった。

 ゲェゲェ吐いてる大人を純真無垢なユウリちゃんや光ちゃんに見せるわけには行かない。

「大丈夫ですか? またこんなに飲んで」
「んー、いい日本酒入ってさ」
「いい大人が」

 へへへっと懲りてない笑みをこぼす環を真九郎は呆れながらも、不思議と嫌いにはなれない。

 環にはそういう思わせる不思議な魅力がある。

 ドアの向こうからは、ユウちゃんと光ちゃんの楽しそうな声が聞こえてくる。

 これはユウリちゃんお気に入りの『キラキラピッカ〜ンごっこ』をしてるんだろう。

「環さん、ヴィヴィオの事なんですけど」
「ん? あぁ、大丈夫だよ。すぐに立ち直れるって」
「……はい」
「あたしも真九郎君も皆、あの娘を始め“子供達”をそんなやわには育ててないじゃん

 ――それに真九郎君は確かめたくてユウリちゃんを連れてきたんでしょ?」

「…………」

「ヴィヴィオがこの世界で築き上げてきたみょにょにゃぁ…………」

 はぁ、最後まで持たなかったか。

 でも、やはりこの人には勝てないな……。

 俺は気を張らないとすぐに崩れてしまいそうにあるのに。

 “あの事件”――『ベルカの覇王』を名乗る少女の誘拐に合わせた広域集落壊滅事件から始まったモノに……。

 次に狙われる可能性が高いのは聖王の遺伝子を継ぐヴィヴィオだ。

 だから、ヴィヴィオを理不尽な現実に負けないように強くしようと決めたじゃないか。

 ――くそ。

「ねぇねぇ、真九郎君。なんか寒いから抱きしめて〜」
「ふざけないでください。はい、タオルケットです」

 はぁ、ここにいたらまた変なこと言われる。

 真剣に思いを馳せても馬鹿らしくなるな、早く立ち去ろう。

 ドンッ!! っと……ドア越しに聞こえる落下音。

 光ちゃん、派手にやられてくれたんだね。おいしいものご馳走しないとな。

 さてと、そろそろ2人の元へといこうかと、ドアを開けて道場へと足を向ける。

「大丈夫、昔は心に身体が追いついてなくて危なっかしかったけど、今は身体も追いついてきたし

 ……まぁ、今は心が眠っちゃったけどさ。

 真九郎君はヴィヴィオっちの事よりも、自分の事しないといけないでしょ」

 ドキリ……っと、心臓が俺の反応を示すようにいつもより強く1つ鼓動を打つ。

 そう、左腕に角が生まれたあの日から、不意に襲ってくる圧倒的な破壊衝動。

 ヴィヴィオとの模擬線で角を開放した瞬間から、数日……俺は破壊衝動を抑えるのに必死だった。


 …………

 ……


 環さんを置いて道場へと入る。

 ?

 ??

 周囲を見回しても当の光ちゃんが見当たらない。

 ユウリちゃんはこっちに向かって決めポーズをしている。いい笑顔だ。よほど楽しかったんだね。

 下に目線を移すと……お尻を天井に突き出したポーズをしてる光ちゃんが。

 スカートの下にスパッツを穿いててよかった。

 それでも、スパッツ越しに見てはならない部位の形がハッキリと見えてしまった……。

「ユウリちゃんの子守ありがとう……ね」
「い、いややゃゃゃや!!!」

 なるべく刺激しないように言ってはみたものの、駄目だったみたいだ。

 さすがに恥ずかしいよね。

 しかしリカバリー早いな、もう正座してるって。

「ユウリちゃん、光お姉ちゃんと遊んで楽しかったかい?」

「うん! 光お姉ちゃんとキラキラピッカ〜ンごっこしたよ!」

「そうか、よかったね。そうだ、光ちゃん。折角だから少し稽古してこうか」

「っえ! いいんですか!?」

「うん。胴着に着替えておいで」

 はいっ! っと道場の奥の部屋に走って消えていった。実に元気いっぱいな光ちゃんらしい。

 ユウちゃんはユウちゃんで「稽古」と聞いてから、小さい身体を器用に動かして正拳突きを始めた。

 幼女趣味はないことは先に言っておくが、可愛らしいと素直に思える。

 そう……昔の紫やヴィヴィオ達に抱いた感覚と似ているな。

「すごいねユウリちゃん。もう正拳突きができるようになってるなんて」

「えへへ! 真シャン、ユウリも一緒にするー!」

「なら基本は一緒にしようか」

「うん!」

 満面の笑みで胴着に着替えた光ちゃんが出てきた。

 それから3人で真剣に、けれども楽しみながら稽古に励んだ。

 光ちゃんとの組手では、光ちゃんの性格のまっすぐさ、勤勉さを再確認できた。

 まだまだ甘いところは多々目に付くが、“競技”としての空手としてはかなりの腕だ。

 本当にいい顔、いい声で空手に取り組むものだ。っと笑みがこぼれてくる。

 最高の師匠、最高の仲間……ヴィヴィオもすぐに立ち上がってくるさ。

 壊した俺が言うことでは……ないか。

 ハハハ




「っあ、真九郎さん。先上がってください。私もう少しだけ稽古したいんです」

 っという光ちゃんは身体を動かしている。

 ユウリちゃんも光ちゃんの動きを真似している。

 ここは言葉に甘えて汗を流させてもらおう。

 用意がいいというかなんというか……湯船にはお湯がしっかりと張られている。

 汗を軽く流し、湯船へと入って一息つこう。

 いい温度で身体を温めてくれて、意識がボンヤリしてくる。

 心地よい感覚に浸ってしまおう。

 ボンヤリとした意識が気持ちいい。

「ユウリいっちばーん!」

 気づけば何時の間にか元気なユウちゃんの声が聞こえてきた。

 出てこない俺を知ってか、ユウちゃんが入ってきた。

 まぁ 湯船で待っていればいいか。っとまたボンヤリとした意識に浸る。

「あー、やっぱり稽古上がりのお風呂って最高よね」

 聞こえてきた光ちゃんの声に、ボンヤリとした意識は逃走してしまった。

 ピキっと固まってしまった身体の中で、必死にこの危機から脱出する術を考える。

 湯船に潜るか? いや、息は10分しか持たない……。

 それにこのお世辞にも大きいとは言えない湯船に潜っても接触を避けきることはできない……つまり、セクハラをしてしまう!

 天井に張り付いて気づかれないようにするか? いや、必ず見つかる……!

 そうなってしまってはフル○ンを晒す事になる……。そんな事がバレたら社会的に死んでしまう!

 極限状態の中で瞬間的にいくつもの対策が生まれては、否定されて消えていく。

 そんな事をしていると、ふと斜め上から視線に気づく。

 視線を合わせると、そこには固まっている光ちゃんがいる。

 仁王立ちした光ちゃんのあられもない姿が自然と目に入ってくる。

 1gも無駄のない肉。綺麗な曲線を描くシルエット。慎ましくも膨らみ始めた女性の象徴。

 イヤラシイ気持ちにならないと言えば嘘になるが、なんだろうかこの微笑ましい気持ちは……。

「……や、やぁ」

「ぇ? ええ……。な……なんで。$%Q!”#$”#%!!

 き……」

「ま……まぁなんていうか。」

「きゃ……きゃぁあああああああ!!!!」

 恥ずかしさから叫んだ光ちゃんは、アタフタと動き、ステンっと転んでしまった。

 咄嗟に身体を乗り出して光ちゃんの無事を確認してしまった事で、胸部と下腹部の女性の象徴をあられもない姿で目に収めてしまった。

 高校生時分だったら、鼻血を流してもおかしくないな……っとなんだろうか……? 賢者タイムみたいなモノに入ってしまった。

 自分の名誉のために言ってみるが、発射も起立もしていない。

「た、環さんが誰も入ってないって……。だから……」

「うん……なんか……ごめん」

「っお! ユウリちゃんも光ちゃんも、真九郎くんも入ってるなぁ!

 よぉし! 皆で乱れちゃおう!」

 脱衣所を見ると、そこには仁王立ちで『隠す』という概念がない裸族がそこに笑っていた。

 年中酒を浴びるほど飲んでいるのに、その身体に無駄な肉は一切ない。

 成熟し切った胸部と下腹部の女性の象徴。

「ユウリも!」

 ザッバーンっとユウリちゃんは湯船に入ってくる。

 こうなったら……最終手段だ。

 即座に湯船から飛び上がり、壁を蹴って脱衣所まで瞬時に逃げ出そう!

 いざ!!

「っあ! 象さんだぁ」

 ギュュゥゥウウウウウウウ

 幼女に恐れるものなし……。

 まさか飛び上がった即座に男性の象徴を握ってくるとは……

 全身から汗が吹き出て、全身の力はユウリちゃんの手に吸い取られるように消えていく。

 そして、重力に囚われ……光ちゃんが未だアタフタとしている洗い場に落ちていく。

「し……$&”$!%#%!$&」

 プシュュュゥウウウウウ。

 真っ赤なりんごのように赤くなった光ちゃんの頭から湯気があがる……。

 どうやら意識を失ったようだ……。

「真九郎君、キッチクゥ! そして、ユウリちゃんぐっじょぶ!」

 反論なんて初めから諦めている……。

 出来る事はたった一つ! ゆっくりだろうと逃げ切ろう。

 そして時間を掛けて、地獄から逃げ切った。

 日常に潜む、悪戯心から来る地獄絵図……皆も気をつけるんだ。

 服を着せられた光ちゃんを介抱した俺とユウリちゃんは、また酒を飲みだした環さんを残して街へ出ていった。





 まさかこの後、興奮したユウリちゃんが俺と光ちゃんが目を離した一瞬の隙に繁華街へと抜け出し、探し回る事になろうとは……



 <紅 真九郎 side out>





 <九鳳院 紫 side>




 私は少し不機嫌だった。

 折角、実の姉のように慕っている八神はやてと楽しくショッピングしていたところだったのに。

 なのに、突然はやては緊急召集だと言って帰っていってしまった。

 両手には2人で買ったモノが重く、気分を更にブルーにさせてくれる。

 ポッケに忍ばせたはやてにサプライズで渡そうと思っていたアニメ映画のチケットがさらに気を重くさせる。

 時間が中々取れないはやてとずっと一緒に見てきたアニメの劇場版を一緒に見たかった……。

 近くにある行きつけの本屋や、アニメショップにも立ち寄ろうという気にもならず……ただ呆然と立ち尽くしていた。

「まったく……ツマラナイではないか」

 ボソッと誰にも聞こえないつぶやきをした直後、お尻にボスンと衝撃が走った。

「あ、むーちゃんだ!」

「ん? ……ユウリか。どうしてここにおる?」

「真しゃんと遊んでるの!」

「真九郎は見えぬが?」

「真しゃん、迷子!」

 いや、逆であろう……っと思ったが、こうもキラキラとした瞳で見つめられては反論できぬ。

 それからはもう、ユウリの独壇場。

 キラキラピッカ〜ンという魔法少女アニメを見たいというからずっとアニメショップで番宣をずっと見る羽目になってしまった。

 そういえば、今日近くでキラキラピカーンのイベントをやっている事を思い出した。

 こういう時は、堕花雨に聞くのが一番だ。

 あやつはこういうイベント毎はもちろん、物事を正確に記憶しておるしな。

 普段は目が隠れるくらい前髪があるのが偶に傷じゃがな。

「のうユウリよ。これからこのキラキラピッカ〜ンが現れるらしい。行ってみぬか?」

「いくー! むーちゃんキラキラピッカ〜ンとお友達なの?! すごーい!!」

「うむ! 今日はユウリの為にショーをしてくれるのだそうだ」

 ユウリを喜ばせるため、誰も傷つかない“嘘”をついた。

 …………

 ……

 目的地を目指し、近道をしようと脇道を入った時だった。

 路地の反対側からコートを羽織った男がユラユラと近づいてくる。

 少し警戒し、ユウリの手をしっかりと手を握り直す。

 すれ違う瞬間、紫は警戒していたにもかかわらず、手首をがっしりと握られてしまった。

「九鳳院の女だな!」

 グイッと捻りあげられ、関節を決められた紫は抵抗する事も出来ず動けずにいた。

 奇襲が成功したことにニヤっとした男は紫に手錠をかけようと懐へと空いている手を忍ばせる。

 成功だと思った矢先、男の脛に重い衝撃が襲う。

 紫が衝撃を与えた存在へと視線を向けると、キラ〜ンステッキを振り抜いたユウリが男を睨んでいた。

「むーちゃんを離せ!」

「ユウリ! 危ないから逃げろ!」

「むーちゃんを助けるもん!」

 ユウリは叫ぶと共に、きら〜んステッキをもう一度振り被り、男の脛へと振る。

 男は紫の手を握っていた手を離し、両手でステッキを受け止める。

 男はステッキによるダメージに顔をしかめつつ、ステッキを両手で奪い取る。

 ステッキを奪われたユウリはこの世の終わりとでもいうような絶望の表情を浮かべ、立ち尽くしてしまう。

 紫は即座にユウリを抱き寄せる。

 「糞餓鬼がっ!」

 と男は叫び、ステッキを地面に投げ捨て、力いっぱいに踏み潰す。

 何度も何度も足で踏み潰し、ステッキはプラスチックの破片へと形を変えた。

「ユウリの……ユウリのステッキが……」

 無残に砕けたユウリご自慢のキラ〜ンステッキを並々と瞳に涙を溜めながら、ユウリが見ておる。

 この世界の理不尽さ、ステッキを壊された悔しさに、ユウリは身体全体をプルプルと震えている。

 そんなユウリを抱き寄せて、男を睨みつける。

 ステッキが壊れた悲しみからプルプルと震えているユウリの震えが突如ピタリと止まる。

 それと同時にブツブツとユウリから呟きが聞こえてくる。

「あーウゼェ……

 何ニヤニヤしてやがんだ、腐れ○ンポ野郎。

 テメェの締まりの緩いクソ汚ねぇケツの穴から腕突っ込んで奥歯ガタガタいわすぞ。

 ぁあ!? なにニヤつきやがってんだ?

 腹にぶよぶよ脂肪つけやがって、デブでも食ってろピザが。

 生まれてきた事後悔させてやるぐらいのた打ち回らせてやるよ」

 5歳とは思えないドスの効いた声を発したユウリは、冷たい視線を男に向けている。

 ギュッと紫に抱きしめられて動きが制限されているにも関わらず、ユウリは右正拳を男に向けて放つ。

 ユウリの小さく可愛らしい拳が男に向けて発射され、肘が伸びきって止まるとピンクの魔方陣が小さく浮かび上がる。

 それに連鎖してピンクの魔方陣が男に向けて何重にも展開される。

 魔方陣が全て展開されると、ユウリの拳に接している魔方陣から小さな魔法弾が撃ち出される。

 魔法弾が魔方陣を一つ、二つと通過する事に小さな魔法弾は大きくなり、速度を増していく。

 残り数個の魔方陣を通過する時にでもなれば、魔法弾は既に実戦での必殺に成りえる威力と速度を内包しているように紫には映る。

 それからも容赦なく魔方陣を通り越す毎に威力と速度は上がっていく。

 全ての魔方陣を通り終えた魔法弾は、ユウリの怒りを表しているように物凄い勢いで男に向かって向かっていく。

 そしてそのまま、魔法弾は男の水月へと一直線に飛び込む。

 軽自動車に惹かれたように後方へとぶっ飛んだ男は、ピクピクと震えながら地に伏せたまま動かない。

 ムフウ! っと大きく鼻息を出したユウリは堂々と胸を貼って立っている。

「ユウリ、一体……何をしたんだ?」

「? ユウリ何もしてないよ? キラキラピッカ〜ンが助けてくれたの」

「何を言うておる、あの魔法は……」

「?」

 そこでようやく気づいた。

 ユウリは無意識であの魔法を打ち出したのだ。

 母親のなのはさんからはまだ魔法の練習はしていないと聞いていたが……

 つまり、ユウリは感覚のみであの見たこともない魔法を打ちだしたということなのだ。

 ならば責めることも自覚させることもない。

「では、そろそろキラキラピカ〜ンに会いに行こうではないか」

「うん!」

「……呼んでみるか」

 ポツリと呟いた紫は携帯電話をポチポチと操作する。





 <九鳳院 紫 side out>







 <堕花 光 side>





「そうか……“糸”はしっかりとつけているんだよね? エリス」

「はい」

「なら、好きに遊んできていいよ。“人形”のカスタマイズをしているエミリも一緒に休暇をとりな」

「……っえ!? いいんですか?」

「糸の監視は途絶えさせない事。緊急事態ならすぐに知らせて。

 それさえ守ってくれれば好きに遊んでいいから。

 前からアキバで色々買い物したいっていってたじゃないか」

 何やら真九郎さんは部下のエリスという女の子と話している。

 お姉ちゃんと同じくらいの女の子で黒髪に八重歯が可愛らしい人だ。

 なのに、黒いスーツでパンツルックというちょっと似合わない格好をしてる。

 エリスさんはキラキラと笑顔をして、携帯電話で嬉しそうに話し始めた。

 電話を切ったエリスさんは、隠す事無く嬉しさを全身で表現していた。

 顔はにやけ、体を軽快なリズムを刻んでいる。

「うれし……そうですね」

「ん? まぁね。雇ってるのは僕なんだけど、中々休みを上げれなくてね。

 雑用か訓練で、2週間ぶりの休みだしね」

 なのはさんに怒られるな……と真九郎さんは軽く笑っている。


「それでは、真九郎さん!

 私とエリスはこれより半休に入ります!!」

 ビシッと敬礼したエリスとエミリ。

 真九郎は光と手を振って送り出していた。

「真九郎さん、“糸”の行先はこちらの予定です。

 『空』のゴーレムの改良版のテストで上空を飛ばしておりますので、

 緊急事態になってもしばらくは対象を護ってくれると思います。

 お迎えの時間になっても会えない場合はご連絡ください」

 小刻みに足踏みしながらエリスは空間投影モニターでユウリの行先を示した。

 ユウリが紫と一緒にいる事は伏せて、だが……。

 真九郎から『わかった』の一言が出る頃には秋葉原の人ゴミに2人は消えかけていた。

 2人が消えたのを確認した真九郎は2人とは逆方向へと向き、光を連れて歩き始める。

「さて、光ちゃん。

 ユウリちゃんの子守のお礼も兼ねてるし、遠慮せずにほしいモノ言ってね」

「っえ!? いいんですか!

 やったー!」

 小さくガッツポーズをした光は真九郎の腕を取り、秋葉原の街を駆けていく。




<堕花 光 side out>




<紅 真九郎 side in>




 俺は光ちゃんが欲しいという食べ物であったりアクセサリーなどを数点購入して渡した。

 光ちゃんは満足げに手に持ったソフトクリームをペロペロとなめ回している。

 光ちゃんを連れて目的地であつとあるビルへと向かった。

「そういえば真九郎さん、ユウリちゃんいるんですかね?」

「いるさ、あの2人が買い物を邪魔される危険を冒してまで半休は取らないよ。

 という事は安心できる子守がユウリちゃんに着いてるって事だからね」

 うーんと首を傾げた光の前を歩き、デパートへとたどり着く。

 俺は特に商品を物色する事無く、エレベータへと一直線に足を運ぶ。

 エレベータに乗り、屋上までやってきた

 俺は一つの確信に似たモノを持っていた。

 鳥籠に飼っていたとはいえ、この世界はヴィヴィオが10年程度過ごした世界だ。

 そこで紡いだ絆はきっと妹であるユウリも助けるだろうと。

 誰が助けるかまではわからないが、1人に出会えば全てが絡んでくるだろう確信は持っている。

 などと思っていると、エレベータは目的地である屋上へと到着した。

 扉が開くと、目の前には想像していた斜め上を行った光景が広がっていた。

「お……お姉ちゃん!!?」

 光ちゃんが目をひん剥き、声を上げるのも無理はない。

 幼児向けデパート屋上ヒーローショーに見慣れた女子高校生達がいた。

 九鳳院紫を始め、堕花雨ちゃん、斬島雪姫ちゃん、円堂円ちゃん、崩月散鶴ちゃんらがユウリちゃんを囲んで立っているのだ、

 家柄を知れば、驚愕としか言いようがない光景である。

 国を牛耳る表御三家の筆頭・九鳳院と裏十三家・堕花、斬島、円堂、崩月の4家の血族が踊って笑って、ショーをしているのだ。

 紫はユウリちゃんと手を繋ぎ、一緒にヒーローショーを楽しんでいる。

 雨ちゃんは周りの騒がしさなど意に介さずに、呆けているように立っている。

 雪姫ちゃんは他の追随を許さぬように、ヒーローショーに参加している。

 円ちゃんは完全に周りの3人に強引に連れ込まれたのがわかるぐらいに少し顔を赤らめて、居心地悪そうに立っている。

 散鶴……ちーちゃんは御淑やかに微笑んでいる……本当にお姉さんの夕乃さんに似てきた。

 目の前の光景に乾いた笑いがこぼれているが、確かにどこか心はほっこりと温まった。

 ヴィヴィオが築いたこの絆は、傷ついたヴィヴィオを直接的にか間接的にかはわからないが救ってくれる。

「さ、光ちゃんも入ってきな」

 光ちゃんの手を引き、ステージへと導いた。

 光ちゃんを皆の中に放り込み、俺は下がろうとするとふいに手を引かれた。

 手の先にはユウちゃんが少しムスッとした顔で俺の手を握っていた。

「真しゃんもっ!」

「あー、はいはい」

 笑顔で了承すると、ユウリちゃんは抱っこを要求してき、これにも従った。

 5歳程の幼女の軽さを改めて思い知りつつ、ヒーローショーへとはせ参じる事となった。

 紫をはじめ、皆ヒーローショーにノリノリに動き回り、俺はユウちゃんの言う通りにあっちへこっちへと動き回る羽目となった。

 皆公衆の面前でのショーなどという事を忘れているかのようにキャッキャと笑い、はしゃぎまわっている。

 推測でしかないが、ヒーロー役の人達もスムーズにストーリーを進めている事から、紫達も初見という事ではなさそうだ。

 あまりに見事に役回りを演じているからなのか、客席からしきりに写真を取られている。

 まぁ、誰とも知れない人たちだから気にすることもないか……。

 これがなのはさん達に知れ渡れば何を言われてからかわれるかわかったものじゃないな。

 愛あるイジリというか……なんというか、そうなったあの人達を俺はひっくり返す術をしらない。

 などと考えている内にヒーローショーは終わりを告げた。

 紫達は満足げにステージを降りた。

「真しゃん!」

「楽しかったかい? ユウリちゃん」

「うん! ユウリおしっこ!!」

「トイレいこうか」

 うん! という元気な返事と共に、ほっぺにチューをされたのは愛嬌だな。

 ユウリちゃんを抱っこしながら俺は、デパートのトイレを探しに屋上を去っていった。

 トイレが終わるとユウちゃんが喉が渇いたようなのでジュースを買ってあげ、ベンチでゆっくりしながら飲ませた。

「ユウリちゃん、紫達は好きかい?」

「うん! だってお姉ちゃんの友達だもん!」

「そうか……ユウリちゃん、お姉ちゃんは好きかい?」

「うん! でもこの前いっぱい遊んでくれなくて、ユウリ、寂しい」

「そうか……じゃ、会いに行こうか」

「ほんと!!?」

「ああ……」

 俺はユウリちゃんの答えに満足したのか、自然とユウリちゃんの頭を撫でていた。

 確かに俺は確認がしたかっただけなのかもしれない。

 ヴィヴィオがこの世界に来て作り上げた絆を見たかったのだろう。

 そして、自分が壊してしまったヴィヴィオがしっかりと立ち直れる土台があるのだと確信したかっただけだ。

 きっとあの子にはもう一難二難は必ず来るだろう。

 その時にはきっと、俺達が作ってしまった鳥籠を飛び出してくれると信じている。

 そして、俺はヴィヴィオの居所を聞きに風味亭へとユウちゃんを連れていくのだった。



......TO BE CONTINUED
......GO TO 【 第3章 『路地裏の豚』】









 <お・ま・け>




「以上、休日ですが、面白いと思ったので報告させていただきます、『高町教導官』!」

「ありがとうね、この現場写真は皆に転送してバックアップも取っておくから心配せずにいてね!」

 嬉しそうな高町なのはとそれをモニター越しでみるエリスとエミリは敬礼をして通信を切った。

「しかし、なのはさんも好きですよね……」

「まぁね、でもいいんじゃないかな。私達は以前提出した掘り出し物リストの中からどれかを貰えるんだしさ」

「まったくエリスは……」

「そういうエミリだって嬉々としてシャッターを押したじゃん。これであれが手に入るって」

「っう」

 エリスとエミリは手に持ったソフトクリームをペロペロと舐めながらキャイキャイと話している。

 2人が高町なのはに提出したのは、ヒーローショーでユウリを抱きショーに参加する真九郎の写真と

 ユウリが真九郎のほっぺにチューしている写真である。

 普段から真九郎に懐いているユウリの行動記録の為もあるし、酒の席などでからかう為である。

「っあ、これ送り忘れてた。メールメールっと」

 エリスは思い出した途端にモニターを操作し、高町なのはへとメールを出す。

 ん? とエミリはモニターを覗き込み、「あー」と言い、軽くて手を合わせて何かに祈りを捧げ、ソフトクリームをなめるのを再開させる。

「これで完了っと。ごめんなさいね、真九郎さん。これも私達のコレクションの為なんです!」

「いない人に謝罪しても何もならないですよ?」

「えー! でもエミリだって手を合わせて謝罪してたじゃん。

 これきっとボーナス来るって! これは我ながら最高のショットだと思うんだよね」

 エリスはそう言って、なのはに送信した画像を表示した。

 そこには、風呂場で真っ裸のユウリが飛び上がった真九郎のイチモツに両手を伸ばし、握っている瞬間が映し出されていた。

 モザイク処理をする必要がないほど綺麗にユウリはイチモツを小さな手で隠していた。

「まぁ、ユウリちゃんの監視をしてての不可抗力という事で処理しましょう。

 高町教導官が私達を売るとは思えないし……

 さ、行きましょうか、エリス」

「だね! 私達のコレクション棚を探しにね!」

「ええ!」

 そう言って、両手に大量の荷物を持った2人は軽快な足取りで人があふれるオタク街へと消えて行った。


  ――fin




押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.