西暦2196年 サセボシティ内ネルガル地下ドック




 人口増加とエネルギー確保に対応するために、月面と火星へと移住を行い、2つの惑星と1つの衛星が人類の活動範囲となった世界。

 人類は火星で見つかったオーパーツを解析し、新たな技術革新が待ち望まれた。

 表面上、世界は平和に進んでいた。

 世界に『木星蜥蜴』と呼ばれる昆虫型の機械兵器が襲い掛かった。

 連合宇宙軍は従来の兵器が効かない木星蜥蜴へ必死に食らいつき、多数の戦艦と一つの都市を犠牲にし辛くも小さな勝利を収めた。

 この小さな勝利以外は惨敗に惨敗を重ね、人類は火星から撤退せざるをえなかった。

 人類は襲い来る木星蜥蜴の襲撃に怯えつつも、反撃の狼煙が上がるのを今か今かと願っていた。

 軍事兵器を開発・販売する世界的企業ネルガル重工は火星の遺跡から発掘した相転移エンジンを転用した戦艦の開発を行っていた。

 真空では無限のエネルギーを生み出す相転移エンジンと重力波の矛と盾のを放つグラビティブラストとディストーションフィールドを装備。

 戦艦を守護するために機動兵器も実装し、スタンドアローンを実現した戦艦。

 戦艦を管理するためにAI「オモイカネ」を載せ、少人数での戦艦運用を可能にした。

 オモイカネをサポートし、戦艦運用の実働を担うオペレーターとしてとある少女が選ばれた。

 遺伝子操作により宇宙環境に対応できる身体機能と後天的に特殊なナノマシンを注入された少女。

 コンソールに手を翳すだけでナノマシンによるイメージフィードバックによる操作が可能となっている。

 スペシャリストが束になっても追いつけない技量を持つ少女ルリが戦艦のオペレーションルームへと足を運ぶ。

「あ、ルリさん。ようこそ御出でださいましたね。

 契約書などに関しては保護者の方と行いましたので、早速自己紹介をさせていただきましょうかね」

 とルリに近づいてきたのは、にこやかに笑う中年の眼鏡をかけた髭のおじさま。

「私はネルガル重工の社員で、この戦艦ナデシコのクルーをスカウトしておりますプロスペクターと申します」

 みなさんこちらへ。とオペレーションルームにいる大人たちを呼び込む。

 軍から出向してきた艦の副長アオイ・ジュン。

 同じく軍からのオブザーバーフクベ・ジン。

 ネルガルのシークレットサービスゴート・ホーリ。

 見知らぬ男性4名に囲まれる状況にもルリは怯えることなく、一礼する。

「初めまして、皆様。

 オペレーションを担当します、ルリ・スカイハートと申します。

 こちらは保護者のマブチ・キョーマさんです。

 少女なので夜の勤務はできませんが、よろしくお願いします」

 ナデシコの制服に身を包み、頭には2本の長い紐が垂れた大きく白い帽子をかぶっている。

 白い帽子の下からは綺麗な銀色の髪をなびかせ、少女は小さく笑顔を作る。

 ルリの後ろの男は作業和服と法被を身に着け、不愛想な視線を皆に投げながら言葉を発した。

「この餓鬼の保護者、マブチ・キョーマだ。

 よろしく」

 不愛想な髭面のおっさんと愛想良い銀髪の美少女。

 対照的な2人は同じ目的をもってこの戦艦に乗り込んだ。





 少女の物語はここより4年ほど前に遡り、横に立つマブチとの出会いによりスタートした。

 今から語られるのは時代に取り残された懐古の結晶と時代に生み出された最新技術の結晶との物語。





シルフェニア 12周年記念作品
機動戦艦ナデシコ × ディメンションW
―― 懐古の串と電子の妖精 ――
第1話「世紀を超えた出会いの前に」
作者 まぁ





 西暦2189年 サセボシティ郊外



 目覚めると、俺マブチ・キョーマは見知らぬ天井を眺めていた。

 イースター島で最後のスピンダーツを放った後、次元Wの暖かい緑の光に包まれた。

 忘却していた事も思い出し、けじめの一撃を放って……

「ようやく目覚めましたね、マブチ・キョーマさん」

 状況を理解しようとしているキョーマに優しく声をかけてきたのは、初老の男性。

 懐かしさをかみしめ、嬉しさに少なからず弾んだ男の声にキョーマはどこか懐かしさを覚えた。

「ここは……どこだ?」

「屑鉄屋『空心』の地下の秘密スペースです。

 レトロな自動車のレストアやカスタムはお手の物。

 人体改造なしに生体電流のみで操作できる義手技術を開発し、一財産築いたどこにでもある屑鉄屋ですよ」

 男性は『屑鉄屋』という単語の時は噛み殺しきれない嬉しさに言葉が弾んでいた。

「お前は誰だ。なんで俺の名前を知っている?」

「私は白川仁。かつて100年ほど前にあなたに悪戯して怒られていた悪ガキですよ。

 まさかあなたに再会できるなんて思ってもみませんでした」

 老人となった仁の存在を信じられないキョーマに、仁は様々な資料を見せながら時がたったことや変わったことなどを詳細に説明していく。


 キョーマの住居に複数人で忍び込み、悪戯をして遊んだ。

 全力で叱ってくれるキョーマに懐き、暇を見つけては通った。

 スコアに関する詐欺事件にあった後、仁は皆が知らない情報こそが困難をぶち抜けると実家の製菓会社を継がずに官僚の道へと進んだ。

 理不尽な仕事に忙殺されながらも、必死に頂に向けて走り続けた。

 人脈を可能な限り作り、社会の流れを作ろうとした。

 ナノマシンを打ち、義体と身体を馴染ませる技術を廃止したいと考えていた。

 子供時代、スコアにすべてを支配されていた完全管理社会への反発もあった。

 左手首に埋め込まれたマイクロチップすら人工物を入れるのを嫌った。

 派閥を作り、派閥のトップとして長年戦い続けてきた。

 技術開発業に進んだ友の新技術開発の助けもあり、優位にことを進めてきた。

 それが最後の最後、火星開拓の折に世論はナノマシン肯定に一気に傾いた。

 敗れた仁は官僚の世界を去り、情報屋として表と裏の狭間に生きてきた。

 いつものように情報屋として仕事をしている傍ら、かつての悪ガキ仲間と共に誓った目標に向かって動いていた。

 そこでマブチが倒れているのを見つけ、空心へと運び込んだ。



 仁が歩んできた人生の話がひと段落した瞬間、タイミングを見計らったように入室者が入ってくる。

「あれ、マブチはんおきたん? 久しぶりやな。覚えてる?」

 陽気な声とともに入ってきたのは元気な初老の女性。

 タンクトップに腰に巻いた半脱ぎのツナギ。笑顔が眩しい少女のようにも見えてしまうほど年齢を感じさせない。

「もしかして、お前……シオラ。シオラ・スカイハートか?」

 せや! とピースサインをしたシオラ。



 彼女も仁と悪ガキ仲間の紅一点。

 かつて世界を牛耳っていたニューステラの日本支部のCCOの孫娘。

 スコア詐欺の際、スコア下落を帳消しにする手続きを拒否し、転校していった。

 学校での勉強はあまりせずに、独学で機械工学や電子工学の勉強をしていった。

 スコアや学校の成績によって将来が決まる社会に反抗するように、周りの目を気にせずに学校をさぼり勉強に励んだ。

 祖母の助けもあり、20歳のころに屑鉄屋『空心』を開業した。

 時代遅れのエンジン自動車のレストアやカスタムや屑鉄の処理を生業としつつ、仁からの提案であるものの開発に着手した。

 ナノマシンを使用せず、生体電流を感知して操作する義体を開発したのだ。

 人体をナノマシンで弄ることなく失った四肢を得れるという事で、商品と特許でかなりの財産をシオラは得た。

 その資金を元手にある夢の達成に仁を初め悪ガキ4人衆で動き始めたのだ。



 シオラはこれまでの話を軽く済ませ、片手に持っていたタブレットを操作し始める。

 部屋は照明を落とし、プロジェクターが起動し、壁一面にタブレットのモニターが映し出される。

 銀髪の5歳ほどの少女。

 感情を表に出さず、無気力な瞳をした少女とプロフィールが映し出されている。

「早速なんやけど、この少女を誘拐してきて」

「はぁああ!!?」




 ――――



 西暦2189年 サセボシティ郊外




 キョーマと仁が出て行った秘密ルームにシオラは座ってタブレットを操作する。

 プロジェクターが投影していた壁が床へと降りて、壁の奥のスペースがあらわになる。

 地上ではスクラップが積み上がり、製鉄所内も油で汚れている。

 地下は油一つ落ちていない綺麗な空間となっている。

 現れた奥のスペースには、精密機械が所狭しと並び、小さな音を立てながら稼働している。

 その中心には、大きな水槽があり、その中にはアンドロイドの顔が浮いており、様々な管が繋がっている。

 シオラは水槽の中を見るたびに、これまでの人生を思い起こしてしまう。

 自身の人生を決定づけるに等しい出来事の象徴と目標がこの水槽内に浮いているのだ。


 かつて、『コイル』と呼ばれるエネルギー供給装置により世界はエネルギー問題を解決した世界に生きていた。

 スコアと呼ばれる自身の左手首に埋め込まれたマイクロチップと送信デバイスにより完全管理されていた。

 通学路以外に立ち入ると即位置情報が送信され、成績へと反映される。

 そんな生活の中、偶然見つけた行政上のミスにより侵入できたエリアでの出会い。

 化石と化したエンジン式の自動車を直しているマブチキョーマに怒られ、たたかれ、叱られた日々。

 子供たちに当たり障りのない対応しかしてくれない大人たちとは違っていた。

 シオラにとっては新鮮で楽しかった。

 悪ガキ仲間の仁を含む3人と暇を見つけてはいつも訪ねて悪戯をして遊んだ。

「せやせや、そこで初めて出会ったもんね。”ミラ”さん」

 キョーマの家に突如居候を始めた女性ミラ”と出会い、ある事故から悪ガキたちを身を挺し、首が断裂してなお助けてくれた。

 その事件でミラがアンドロイドであると発覚し、修理が終わってからもひそかに何度もあってくれた。

 それがある日を境にミラとキョーマは姿を消した。

「せや、虚無に落ちているイースター島で謎の光の爆発が観測された時やな。

 そっから数か月後やったっけな……一度だけ会いに来てくれたよね、ミラさん」

 ボロボロの外套に身を包み、右腕は焼失して肌も各所焼け焦げてナノマシンの修復が追いついていなかった。

 よく見れば、左足の先が鋭利なもので綺麗に切り落とされていた。

 はた目から見てもかなりの窮地であるミラは、シオラを見つけるといつもの優しい笑顔とともに一言残して消えた。

「コイルに何かあれば、私のトレーラーハウスに渡し物があります。取りに行ってもらえませんか」

 答えを聞くことなく、ミラは消えた。

 それから数週間後、世間を揺るがす事件が発生した。

 原因も何も不明、ただ世界システムに支えられたコイルが全て例外なく次元Wとのアクセスが停止した。

 新たに製造しても次元Wにアクセスはできなかった。

 それは不正コイルもβコイル、通称『ナンバーズ』も例外ではなかった。

 世界は一度は解決したエネルギー問題に再度ぶつかることとなった。

 世界は宇宙に資源とエネルギーを求めて月面開発競争が勃発した。

 月面移住と並行し、火星を人が住める惑星にするためにテラフォーミングを行った。

「火星の開発のために寿命延長手術の結果として100年たっても60歳程度や。そのおかげでうちらは夢の一つを叶えれたんや。

 ずっと会いたかったマブチさんとも再会できて、会話できて……」

 嬉しかったよ。とシオラは一粒の涙を流しながら、アンドロイドの顔へと語りかける。


 …………

 ……


 日本のとある都市、サセボシティ。

 その下町通りの一角にあるとある鉄鋼屋『空心』。

 創業100年を超える老舗。

 スクラップ処理からアンドロイド用義体の開発作成といった幅広く事業を手掛けている。

 驚くべきことは従業員は3人。広い工場を任されているのは一人の老婆。

 毎日汗まみれになりながらも、気立てはよく就業時間を過ぎれば品行方正な老婆となり、近所でも話題となっている。

 100年以上前のエンジンや自動車などの修理やカスタマイズはお手の物。

 世間が忘却した技術を持ち、日々助けを求める人たちがやってくる。

 そんな空心が世間には公表していない裏の顔が存在する。

 工場の地下。轟音を鳴らす機械の脇に存在する隠し扉を潜ると無菌室のような綺麗なラボが存在している。

 その奥に設置された大きな水槽。

 その中に満たされた液体には、首だけの女の子がいくつもの管に繋がれている。

「フフフ。もうすぐやで、”ミラさん”」




 ――――




 西暦2189年 人類学研究所



 多数の試験官ベイビーを生み出し、人類の発展のために尽力してきた研究所。

 表の研究もさることながら、裏の顔はさらに踏み込んだ研究が行われていた。

 遺伝子を操作し、宇宙での活動に対応する人間を生み出そうとしていた。

 遺伝子提供者が誰かもわからない検体を使い、試行錯誤が繰り返された結果、成果は芽を開く。

 「ルリ」と名づけられた少女は、完全自動化され人間と接することのない英才教育プログラムを日々受けることとなった。

 知識をはじめ、言語、思考法など様々なものを詰め込んでいた。

「エライヨ、ルリ」

「カワイイヨ、ルリ」

 スピーカーから流れる音声を父と母と思い、日々褒められるために全力を注いだ。

 そんな生活を何年か過ごした後、ルリは人間をモニター越しではなく生で見ることとなる。


「君がルリさんだね。私は星野と申す者です。今日から君はこことは違うところで生活することになりました」

 優しい声がルリを人間がいる処へと追いやった。

 『AKATUKI電算開発研究所』。

 ルリに与えられた新たな場所はやはり「研究所」だった。

 環境の変化になれる期間が過ぎてから、優秀なる新人類であるルリへと実験的にとあるナノマシンが投与された。

 コンソールパネルに手を翳すだけで意のままに電子操作が可能となる。

 代償として瞳は綺麗な青から金色へと変化した。

 元々色素が薄い遺伝子から生まれたため、髪の色は初めから薄い銀色。

 研究者から見れば、数々の実験の成果。人類の進化の一つの形。

 羨望の眼差しと好奇の目がルリに向けられた。

 英才教育で結果を出しても、研究者たちは当然とばかりに褒める者はいなかった。

 ナノマシン投与による副作用とルリが『実用化』される直前まで、戸籍を弄ることもなく、その存在そのものが隠ぺいされていた。

 ルリのコンソールパネルによる電子操作の訓練とその結果によるシステムの改善が行われ続ける。

 人類的な技術の向上という意味では有意義で革新的な1年間。

 ルリが感情を表に出すことを躊躇い、対人的な関わりを持つことを拒むのには十二分な時間。

 淡々と組み立てられたカリキュラムをこなし続けるルリ。

 自分の境遇がどうなろうが、どういう扱いを受けようがそれが運命とばかりに受け入れた。

 今日が何曜日なのか、何月なのか、熱いのか寒いのか。晴れているのか雨なのか。

 環境というものへの興味を失っていった。

 そんないつとも知れない今日。

 ルリの世界は一変することとなった。

 紺の兜と金の仮面付けたマントを付けた謎の男によって。




 かつてワイドショーで何度も取り上げられていた怪盗。

 予告状を出し、その通り現れて、何一つ盗めず去っていく。

 例え厳重なる警備の元であろうと目的の場所までは入っていく。

 しかし、手を付けれることなく去っていく。

 それが何度も何度も繰り返される内、世間は彼をこう呼んだ。

 ――――『ルーザー』と。


 その名は一度も成功させたことがない怪盗の名前。

 その名は人知れず、大願を遂げ天国へと昇った者の名前。

 そう、100年前の怪盗の名前。


 世界にまだ公表できない『宝玉』が盗み出された事件も、持ち主であるネルガルはこう言うしかなかった。

「施設内部に侵入を許しましたが、被害はありませんでした」

 ルーザーの全敗伝説の復活と世間は囃し立てた。





 ――TO BE CONTINUED






  あとがき

 シルフェニア12周年、おめでとうございます。

 管理人を黒い鳩さんから引き継いで初めての記念日となります。

 まだまだ未熟そのものですが、黒い鳩さんから引き継いだシルフェニアをどんどんと盛り上げていけるように頑張っていきます。

 これからも作家の皆様、読者の皆様と楽しい二次創作の場として頑張っていきます。


 どうぞよろしくお願いします♪



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