Fate/BattleRoyal
6部分:第二幕

第二幕


 弓と化したランサーの宝具軍神五兵(ゴッドフォース)から巨大な弓矢が常人などでは到底、眼にも止まらぬ速度で放たれた。
奏は己の起源『予知』と身体強化魔術を最大限にまで酷使する。巨大な弓矢がかなり速めのスローモーションとなって奏の視界に映る。奏は宝具勝利すべき黄金の剣(カリバーン)を突きの構えで繰り出し弓矢の軌道をギリギリで逸らし、弓矢は近くの建物に直撃した。
ランサーはそれを見て感歎の声を上げる。
「ほう・・・今のは紛れもない必殺の一撃だったのだが・・・つくづく楽しませてくれるな人間。だが、二度目も同じように出来るか?」
そう言ってランサーは再び矢をつがえる。奏も再び、臨戦態勢を取る・・・が、その戦いを一つの声が押し止めた。

「おいおい、いけないなあ。こんな街中で戦闘なんて・・・・公衆の面前において魔術の行使はご法度のはずだろう?」
その場にいた四人はその声のする方を振り向くとそこには貴族然とした服装に身を包んだアッシュブロンドの短髪の男がいた。そして、隣には白銀の鎧を纏い太陽のようなブロンドの短髪を靡かせ端正な顔立ちの如何にも騎士然とした青年が控えている。恐らく彼のサーヴァントなのだろう。
一方、アレックスはその男を見るや・・・
「アンシェルッ!テメエまでこの戦いに」
「アレックス・・・それはこちらのセリフだよ。落伍者である君が無謀にも聖杯を求めようなどとはね」
アッシュブロンドの男―アンシェルが嘲笑も露わに言うとアレックスは乱暴な身振りで怒鳴る。
「うるせえッ!そっちこそボンボンが実戦に出ようなんて笑わせるぜ・・・いっそここで首を落としてやろうか?ああッ!?」
すると、アンシェルはほとほと呆れ果てたと言わんばかりの声で言った。
「その前に君達自身の首が監督役や他のマスター達の手によって落とされるとは考えないのか?この惨状を見たまえ」
そう促され自分達の周囲を見ると先程の弓矢を別方向に逸らした結果、逸らされた弓矢が直撃した家が全壊していた。それに耳を澄ませば周囲も騒ぎ始めていた。
アレックスも舌打ちしながらも漸く自分の迂闊さに気付きランサーに霊体化を命じてその場を後にした。そして、場には奏とキャスター、アンシェルと彼のサーヴァントのみが残った。
アンシェルは奏を値踏みするように見つめた後に口を開いた。
「初めましてだね・・鳴宮奏くん。私はアンシェル・ジルヴェスター。こっちは私の従者(サーヴァント)であるセイバーだ」
アンシェルの紹介を受け白銀の騎士―セイバーは自らも名乗る。
「お初にお目に掛かります。アンシェル様の従者を務めるセイバーと申します。どうか主の良き好敵手で在らん事を」
「は・・はあ」
奏は思わず間の抜けた返事をしてしまう。だが、アンシェルは含み笑いを浮かべながらも言葉を続けた。
「それにしても先程の戦闘だが、実に恐れいったよ。宝具の助力があったとは言えサーヴァント相手に・・それもあの()()()を相手に互角に渡り合うとは・・・」
「あんたも気付いてたのか?ランサーの真名を」
「それは勿論、あの方天画戟の宝具を見て気付かない方がどうかしているだろう」
その口振りだと今まで自分達の戦いを見物していたらしい。
「諫めておいてその実は()()か・・・狡猾だ事で」
奏が皮肉を込めて言うとアンシェルは意にも介さず笑いながら、いけしゃあしゃあと言った。
「はははは、お陰で()()()()()()()()を見れたよ。なあ、そう思うだろうセイバー」
突如、話を振られたセイバーは僅かに眉を動かすが、何も語らない。奏はそれに少し違和感を感じたが、アンシェルはそれで話は終わりだと言わんばかりに背を向けて最後にこう言った。
「それでは私はこれで失礼するよ。そして、鳴宮くん・・・気を付けたまえ。此度の第四次聖杯戦争は過去の聖杯戦争とは何もかもが違う」
その言葉に奏とキャスターが訝るとアンシェルは口元をにたりと歪めて告げた。
「私の調査で本来、七人のみに配当される令呪が私達を含む百人の魔術師に配当された事が判明した」
「は?」
奏は思わず間の抜けた声を出した。『何の冗談だそれは?』と言わんばかりに・・・だが、アンシェルは確信がこもった声でさらに続けて言う。
「つまり、百騎もの英霊(サーヴァント)がこの冬木の地に召喚され覇を競い合う・・・今だかつてない文字通りの大戦争となる。当然、それだけの数の英霊達が戦うのだ。被害や爪痕は冬木の地だけには止まるまい。日本全体・・・いや、下手をすれば―」
「ちょと待て。在り得ないだろう、そんなの・・・いくら聖杯が『万能の願望機』だからってそんな数の英霊を現界させるなんて事ができるわけ・・・」
「フッ、在り得ないかどうかは君自身も直に分かる事だろう・・・尤も君達がそれまで生き残っていればの話だが。それでは次は戦場にて相見えるとしよう」
それだけ言うとセイバーを伴い去って行った。
「マスター、私達も行くとしよう。残念だが、君の家に戻る事はもうできない。彼の言が本当ならば君の周囲が危険に晒されよう。それに彼が言っていたように直にここへ人が来る」
「ああ」
キャスターに促され奏はその場を後にしながらもアンシェルの言葉を頭の中で反芻する。

百騎もの英霊(サーヴァント)が殺し合う?笑えない冗談だな・・・・

それと同時刻・・・

「で・・どうだセイバー。アレはやはり、()()なのか?」
アンシェルが問うとセイバーは簡潔な調子で答える。
「はい、ランクこそ劣化していますが、アレは紛れもなく私のかつての王が持つべき宝具。少なくとも、キャスターが所有する謂れなどない宝具です」
すると、アンシェルは面白そうな顔になって言った。
「ふむ・・・かつて、騎士王の臣下だった君としては心外なのかね?サー・ガウェイン」
「いえ・・・ただ、解せないと言うだけの事です我が王。私は貴方の剣。そこに余分な感傷など一切ありません」
セイバーは理路整然と答える。ますます面白いと言わんばかりにアンシェルは笑みを広げた。
「ふむ・・・それで君はあのキャスターに見覚えがあるのかね?」
「いいえ、初めて見た顔です。私の知る限りにおいて円卓の騎士団にもあのような者はおりませんでした」
その答えにアンシェルは一瞬、考え込むような顔になるが、それもそこまでだった。すぐに決意に満ちた顔になって己の騎士(サーヴァント)に告げる。
「そうか・・・まあ、その件はいい。それよりもこれからの戦略を練らねばなるまい」
「御意」
セイバーはそう答えたが、内心は驚愕と共にある懸念を抱いていた。

あのキャスターに見覚えがない・・と言うのは嘘ではない。事実、私はあのような者の顔は知らない。だが、あのキャスターの雰囲気と佇まいは誰かを思い出させる・・・
いや、そもそもアルトリア様以外であの剣を宝具として持ち、且つ魔術師(キャスター)のクラスと来れば該当する英霊など私の知る限りにおいてはたった一人しか・・・いや、まさかとは思うが・・・

セイバーは疑念を抱きながらも考えを打ち消し主の後に従った。

「まず、これからの戦いを勝ち抜いて行く為に先程、君が使った宝具について説明しておく」
拠点を変えやっと、落ち着いた時、キャスターがこう切り出した。
「ランサーとの戦いで君が使った宝具『勝利すべき黄金の剣(カリバーン)』は私が使う事を想定された宝具ではないと言ったが、これには語弊がある」
「と言うと?」
「要するにアレは本来、()()()()()()()()ではない。アレは元々、ある剣の英霊が持つべき宝具なのだ」
「それじゃあどうして、魔術師の英霊であるお前がそれを持ってるんだよ?」
尤もな問いだ。白兵戦向きではないキャスターのクラスが剣の宝具を持つなんて道理が本来あるはずもない。
「まあ、私もあの剣には多少なりとも縁があったのでね。一応は私の宝具として昇華されたのだろう。それはそうとアレの宝具としてのスキルだが、第一にマスターである君が武器として使う魔術礼装となる事。第二にそれによって一時的に身体能力などがサーヴァントにも迫る程に強化される。この二点だ。もっとも、それとて本来の用途ではない。故に宝具としてのランクも本来よりも劣化しているし何より制限時間(リミット)も設けられている」
制限時間(リミット)か・・・もっともだな。そんな都合のいい物であるはずもない・・・で、その時間はどれくらいだ?」
「ジャスト五分。先程はかなり、ギリギリだった」
キャスターがキッパリと答える。すると、奏は苦笑して言った。
「要するに俺はアンシェルに救われたって事だな・・あのまま使っていたらどうなっていた?」
「恐らく宝具から流れ込んで来る魔力の圧力に魔術回路が耐え切れずオーバーヒートを起こしていただろう」
「そう言う事は召喚された最初に言ってくれ・・・」
アッサリと今頃になってそんな事を言ってくれる己のサーヴァントに奏は頭をかきながら嘆息を付く。
「この際に聞くが、お前は他にどんな宝具を持っているんだ?」
「秘密だ」
キャスターは意地悪く即答する。これには流石の奏も苛立った声で詰問する。
「おいッ!お互いの命がかかっているんだぞ!」
「教えた所でどうなる訳でもない。私の宝具は対魔力を持つ三騎士クラスにはほぼ効かないし、まあ、とっておきの宝具なら話は別だが、とっておきだけあってあれは魔力の消費量が激しい・・その上、一度でも使えば私の真名も瞬く間に敵に知れよう。ましてや、此度は七騎所か百騎ものサーヴァントが参加するともなれば先は長い。少なくともこのような序盤で手の内を晒すべきではない」
「そりゃそうだが・・・」
「とりあえず、今日は眠るといい・・明日からは戦争だ」
今日ばかりは己のサーヴァントの言う通りにするかと奏は再び、眠りに付く事にした。そして、奏が寝静まった後、キャスターは一人佇むように呟いていた。
「百人の魔術師に百騎のサーヴァントか・・・やれやれ、何やらきな臭くなってきたな・・・」

その頃、ある人気のない納屋では青いパーカーを着た男がサーヴァントの召喚に臨もうとしていた。
男の名は間桐雁夜。本来なら御三家の一角、間桐家の頭首となるはずだった男・・・だが、間桐の陰惨な魔導を嫌い家を出奔した。その後は普通の日常を手に入れるはずだったのだが、雁夜自身でも何故かは分からないが、独学且つ独自に魔術の修練を積み始めた。何故かは雁夜自身も分からない・・・だが、その時は間桐の家を離れて尚、そうした方がいいと思えたのだ。
そして、今・・その直感は決して間違いではなかった事を雁夜は知る。
幼馴染でありずっと自分が想いを寄せて来た女性・・遠坂葵。その娘である桜が選りにも選って間桐の家に養子に出されたと言う・・あの糞爺の下に・・・ッ!
間桐の家を出た時、自分は余りにも無力だった・・・だが、今は違う修練は元より経験も積んだ。さらに言えば己の右手に現れた令呪だ。聖杯戦争の参加者に配当されると言う魔力の塊・・これならサーヴァントを召喚し使役できればあの化け物を・・・間桐臓硯を倒し桜ちゃんを救う事ができるかも知れないッ!

雁夜は藁にも縋るように召喚の為の魔法陣を無数の飛針を指し並べる事で形作り、詠唱を唱えた。これらの飛針は自らの魔術礼装であると同時に今まで狩って来た魔術師達の魔力がストックされており、これによって自らの魔力だけでなくこれらの飛針からも魔力供給をサーヴァントへ行う事ができる。何故にこのような仕掛けをするかと言うとこれから呼ぼうとしているサーヴァントのクラスは多分に魔力消費(コスト)がかかるからに他ならない。
「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。
閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)
繰り返す都度に五度。
ただ、満たされる刻を破却する」

Anfang(セット)

「――― 告げる」

「――― 告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。
誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者」
そこで雁夜は呪文を付け足す。いくら修練を積んだとは言え時臣と言った他の参加者に比べたら自分の魔術師としての技量はやはり、些か劣る。まして、それが聖遺物なしとなれば尚の事。ならばステータスの大幅な底上げがどうしても必要だった。
「されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者―――」
いよいよ召喚は大詰めだ。雁夜はさらに力を込めて最後の一節を唱える。
「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
暴風と閃光が納屋を包み静寂が訪れるとそこには禍々しいまでの漆黒の魔力に包まれた黒甲冑(フルプレート)に身を包んだ大柄の騎士が立っていた。

やった・・成功だッ!

雁夜は召喚が成功した事に安堵の笑みを浮かべたが、次の瞬間にその顔は驚愕へと染まった。何故ならば―

()()()・・・問おう、貴殿が私のマスターに相違ないか?」

言葉など知らぬはずの狂戦士(バーサーカー)が口を開き問うていた・・・・




雁夜さん・・かなり改竄しています・・本当にすいません。



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