Fate/BattleRoyal
12部分:第八幕

第八幕


 ――― 王は人の心が分からない ―――
それは誰が初めに言った言葉だったか・・・

「サー・ランスロット・・・・・・ッ!?」
アルトリアが呆然と呟く名にその場にいた者達は絶句する。その名はかつて、アルトリア・・つまり、アーサー王に仕えた騎士の中に置いて最も、勇猛果敢にして武勇に優れ忠節に厚い臣下として名を馳せながら不義によってカムランの落日を招いた“裏切りの騎士”
そのような強霊を前にした者達の感想は様々だった。
狙撃ポイントから離脱しながらも戦場の会話を拾っていた切嗣は舌打ちする。
(厄介な敵が現れた・・・能力云々以前にセイバーの精神面を揺さ振られるのはこの上もなくまずい)
かつての部下に本気であの騎士王様が戦えるのかと切嗣は危惧していた。一方、この戦いを水晶でアンシェルと共に見守っていたサーヴァント・セイバーことサー・ガウェインはそこに映る漆黒の騎士を睨み据えていた。
(今や私とて言えた事ではないが、今生に置いて、またも・・・またもや、王に仇名すと言うのか“裏切りの騎士”ッ!)
一方、イスカンダルは物珍しいと言う顔になってランスロットに問うた。
「いやあー、まさか、うぬが彼の湖の騎士とはなあ・・・それで貴様のクラスは何だ?そうして理性があり言葉も発している所を見るとバーサーカーではないのだろう?」
「いや・・先程、貴公が指摘した通り、この身は如何にもバーサーカーのサーヴァントだ」
ランスロットがキッパリ言うと今度はウェイバーが素っ頓狂な声を出して否定する。
「嘘つけッ!理性も言語能力も残しているバーサーカーなんて聞いた事がないぞッ!?」
それはこの場に居る者達全ての気持ちを多分に代弁する物だったろう。だが、ランスロットは尚も断言した。
「確かに・・・普通ならば考えられない事ではあるが、事実だ。そして、私自身も何故、自分に理性が残っているのかは答えかねる。逆に私が問いたい所だ」
その荒唐無稽とも言うべき言葉に戦場の者達は元より、ギルガメッシュを通して戦場を見ていた時臣も「そんな馬鹿なッ!」と眼を強張らせる。
バーサーカーとは元は格が低い英霊や魔術師が理性や思考能力、言語能力を喪失する事を対価に戦闘力を底上げする為のクラスだ。この甲冑のサーヴァントは見た所、その何れも失ってはいない。バーサーカーなどであるはずがない。
だが、そう斬って捨てるにはこのサーヴァントから溢れ出ている禍々しいまでの魔力が説明できない。それがバーサーカー故の物であると言えばそう見えなくもない。だが、それが本当だとしたら、このサーヴァントは狂化によるステータスの大幅な補正を受けながら、対価となる理性を保った文字通り最強の戦士と言う事になる。ましてや、このサーヴァントは低い格の英霊所か、円卓最強と謳われたサー・ランスロット・・・どれ程のステータスを誇っているのか見当もつかない・・・まあ、しかし・・・
と、時臣はランスロットの隣にいる雁夜を見る。
まさか、魔導から背を向けた凡愚がこの聖杯戦争に参戦して来るとはな・・・間桐の御老も必死な事だ。だが、今まで魔術と遠ざかっていた付け焼刃同然の魔術師など如何程のものでもない。如何にこのバーサーカーの能力がずば抜けていようとそんな男の魔力では早々に魔力切れを起こすのがオチだろう。
この時、時臣はそう結論付けるが、この後、すぐにその凡愚の口から青天の霹靂とも言うべき事を告げられる。

アルトリアは何を発すべきなのか皆目見当もつかなかった。自分は一体、何を言うつもりだ?彼に対して・・・自分などが彼に何を言えるというのか・・・
そうアルトリアが言葉を発しかねる中、先に口を開いたのはランスロットだった。
「王よ。どうか聖杯を諦めてはいただけませぬか?」
その言葉にアルトリアはやっと、口を開いた。
「何故だっ!?ランスロット、私は貴方達を・・・ッ!」
アルトリアの言葉を遮るようにランスロットは空かさず言葉を続ける。
「王よ・・我らの役目は終わったのです」
ランスロットは静かな声で・・しかし、確固たる力強い声でキッパリと言った。アルトリアは一瞬、言葉に詰まった。それは断固とした拒絶の言葉だった。
彼ならば自分の聖杯に請う願いを察せぬはずはない・・・つまり、彼はそれを察した上で拒絶したのだ。

何故だ・・・ランスロット?聖杯を手に入れれば、きっと・・国を・・民を・・・そして、貴方も。貴方だけじゃない・・・ギネヴィアも・・・・ガウェインにギャラハッド・・・円卓の者達だって・・それなのに―――ッ!

「何故、そのような事を言うッ!?それも貴方の口から―!」
アルトリアは思わず、子供の癇癪のように激情を吐露する。だが、ランスロットは尚も静かな声で―
「王よ。今、貴方に申し上げたかった事はそれだけです。今は―」
そう言うとランスロットはアルトリアの方へ背を向け、電燈のポールに悠然と立つ黄金のサーヴァント―――アーチャーことギルガメッシュを見上げる。それに対しギルガメッシュは傲岸な瞳を不快だと言わんばかりに歪ませて言った。
「誰の許しを得て(オレ)を見ている?狂犬めがッ・・・」
緊迫した空気が場に流れる。ランスロットとギルガメッシュが対峙する様を見たイスカンダルは己のマスターであるウェイバーに訊ねた。
「どうやら、彼の“湖の騎士”はあの金ぴかに戦いを挑みに来たらしいのう。それで、どうだ坊主?ありゃサーヴァントとしてはどれ程のもんだ?」
その問いに対しウェイバーは愕然と言った。
「分からない・・・・まるっきり分からない」
すると、イスカンダルは素っ頓狂な声で詰問する。
「分からないとは何だ?貴様もマスターの端くれであろうが?得手だの不得手だの色々、“観える”ものなんだろう、ええッ?」
マスターとなった魔術師は皆、サーヴァントのステータスをある程度、観える能力を与えられている。にも拘らず観えないとは何事かと言わんばかりにイスカンダルが唸るが、ウェイバーは尚も首を横に振る。
「見えないんだよ!アイツ間違いなくサーヴァントなのに・・・ステータスも何にも見えないッ!?」
見るとウェイバーだけでなくルクレティアやケイネスも冷や汗をかいて眼を瞠っている事から本当らしい。
一方、ランスロットのマスターと思しきパーカーを着た青年―雁夜がランスロットの隣まで来て同じくギルガメッシュを見据える。それに対しギルガメッシュはますます、不快気に赤眼を鋭くする。
「貴様まで何だ、狂犬の飼い主?飼い犬共々、死ににでも来たかッ」
だが、雁夜はギルガメッシュを見つめながらもその焦点は別の所に向けていた。そして、口を開く。
「遠坂時臣。どうせ、邸に踏ん反り返って見ているんだろう?三つ言っておく事があって此処へ来た」
その通るような声にその場に居る者達は各々、首を傾げながら、黄金のサーヴァントがどうやら遠坂のサーヴァントであるらしいと察した。
「まず一つ目だが、間桐臓硯は死んだ」
その言葉に周囲はザワッとする。それも当然だ。聖杯戦争を支える御三家の一角である当主が死んだと聞かされれば驚きもする。雁夜はさらに続ける。
「そして、二つ目だが・・・・桜ちゃんは無事だ。・・・・辛うじてな」
この二つ目ばかりは周囲には意味不明だった。当然だ。これは雁夜が一方的に時臣へ語りかけている言葉なのだから、そして、最後にこう結んだ。
「最後に三つ目・・・・俺はこの手で必ず、お前の馬鹿面をぶん殴る。以上だ」
雁夜は言うだけ言って再び、口を閉じる。要するにこれは遠坂時臣に対する宣戦状だったらしい。そう周囲は解釈した・・・が、一方のギルガメッシュは自分を見て置きながら、在ろう事か、その肝心の自分を素通りして別の誰かに話した事が余程、腹に据えかねたらしい。傲岸な瞳に凄まじい憤激を宿らせて言った。
「戯言はそれで終わりか・・・せめて、散り様で(オレ)を興じさせよ・・・雑種共がッ!」
途端にギルガメッシュの背後に生じた空間の歪みが雁夜とランスロットに向けられ、そこから剣と槍が切っ先を向けて射出された。
凄まじい威力を持った二つの刃が迫りくる中、雁夜は微塵も動揺すらせず、隣のランスロットに目線すら合わせずに命じる。
「バーサーカー・・・ブチかましてやれッ!」
その命にランスロットもまた、前方だけを見据えて頷く。
「御意、我が王(マスター)
その瞬間、二人がいた場所を凄まじい爆が巻き起こり、周囲のサーヴァントやマスター達は眼を瞠る。爆の煙が晴れかけるとそこには何一つ変わらぬ姿でランスロットが雁夜の前に立ち塞がる形で射出された剣を握り立っていた。そして、何でもなかったような声で言った。
「この程度なのか?」
その言葉にギルガメッシュの額に青筋が幾つも浮かび上がる。
「奴は・・理性がある事といい本当にバーサーカーか?」
ディルムッドが疑わしそうに感想を漏らすとイスカンダルも同意して頷く。
「確かに傍から見れば狂化されておるとは思えんし、バーサーカーには到底、似つかわしくない程に芸達者な奴よのう」
すると、ウェイバーが眼を丸くする。
「どう言う事だッ?」
「なんだ?分からんかったのか。あ奴は先に飛んで来た剣を難無く掴み獲り、続く第二撃の槍を打ち払ったのよ」
その言葉にウェイバーは呻き声を出す。あんな英霊ですら眼にも止まらない速度で射出された剣を取った挙句、第二撃もそれで難無く打ち払うだなんて・・・
「うむ・・ますますにバーサーカーだと言うのは嘘くさいな」
赤のセイバーもランスロットの凄まじくも研ぎ澄まされた技量を前にそう評する。だが、ピョートルは逆にこう評した。
「そうか?俺にはあそこまで異常に研ぎ澄まされたあの技量こそが狂っているように見えるけどな」
ギャラリーとなった英霊達が各々に評すると攻撃をアッサリと防がれたギルガメッシュはさらに憤激を昂ぶらせる。
「その汚らわしい手で我が宝物に触れるとは・・・そこまで死に急ぐかッ、狗ぅッ!!」
ギルガメッシュの背後の空間がさらに歪み先程とは比べ物にならぬ量の宝具の切っ先がランスロットと雁夜目掛けて射出される。
「その小癪な手癖の悪さで以って、どこまで凌ぎ切れるか・・・さあ、見せて見よッ!」
無数とも言える宝具が迫り来る中、ランスロットは微動だにせず、それを打ち払い、時には掴み獲り、また、打ち払って行く。確かにその絶妙とも言うべき神業ならぬ魔技はピョートルが評したように狂戦士らしいと言えばらしく見えた。その間、絶えず凄まじい爆が起こっては消えて行くが、雁夜(マスター)には傷一つ付いていない。
それを見た赤のセイバーはますます、ランスロットに感嘆の声を上げる。
「ほう・・・技量も見事だが、騎士としての心得も見事だな。主のいる場所から一歩たりとも動いてはおらん」
その言葉を聞き取りながらアルトリアは当然だと内心で呟く。

彼は正しく、最高の騎士だった。彼は剣技だけでなく、その剣に乗せる信念と志も一部の隙もない『理想の騎士』を体現した存在だった。そして、私と理想を同じくする掛け替えのない朋友だったッ!彼ならば私の気持ちを理解してくれるとも思っていた・・・だが、そんな私の思いも結局は私自身の一方的な甘えでしかなかったのかッ?

アルトリアがそう一人、自嘲する中、戦闘はさらに激化の一途を辿る。ギルガメッシュは馬鹿の一つ覚えのように凄まじい数の宝具を射出するが、ランスロットはまるで、水を得た魚と言わんばかりにその動きはさらに冴え渡って行く。それを見たイスカンダルは顎鬚を撫でて言った。
「成程のう・・どうやら、あの金色は宝具の数が自慢らしいが、だとすると湖の騎士との相性は最悪だな」
ピョートルもイスカンダルの言に頷く。
「ああ、あの甲冑は武器を拾えば拾うだけ力を増してやがる。にも拘らず、あの金野郎はますます、見境なしに宝具を無駄撃ちしている・・・完全に深みに嵌まってるぜ、ありゃ」
二人の指摘通りギルガメッシュは宝具を湯水のように馬鹿撃ちしているが、ランスロットはそれらを難無く掴み獲っては捌いて行く。これではハッキリ言って、切りがない。そして、ついには反撃を返された。先程、投げた宝具の斧と曲刀を投げ返されギルガメッシュが悠然と立っていた電燈のポールを三つに叩き切る。
ギルガメッシュは飛び上がって地上へと降り立った・・・が、ギルガメッシュの身体が突如、ワナワナと震える。と言っても“恐怖”などではない。その震えはズバリ“怒り”だ。
「痴れ者共が・・・・ッ!天に仰ぎ見るべき、この(オレ)を同じ大地に立たせるか!!その不敬は万死に値するッ!!そこな雑種共よ最早、肉片一つ残さぬぞッ!!!」
その咆哮とも言うべき憤怒と共に空間がさらに歪みを生じ、そこから先程とは比べる事すらおこがましい程の宝具が切っ先を突き出して今まさに射出されんとしていた。だが、ランスロットも雁夜もそれに何ら臆す事はなくギルガメッシュを見据える。
「来い・・だが、数を増やした所でそのような“馬鹿の一つ覚え”がこの私に通じる道理などないと知れ、英雄王ギルガメッシュ」
ランスロットの言葉に一同・・・特に遠坂時臣は愕然と眼を見開く。戦場に居る者達は彼のバビロニアの英雄王が現界し参戦した事にある者は驚愕し、ある者は納得げな顔になる。だが、一番に深刻な心情となっているのは時臣の方だった。これまでひた隠しにして来たギルガメッシュの真名がこれだけの敵に知られてしまった。この日まで入念に組んで来た計画が足元から崩れ落ちる感覚に襲われ、時臣は頭を押さえて沈痛な表情になる。
『我が師よ。ギルガメッシュは本気です。さらに『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』を解き放つ気でいます』
おまけに綺礼からも報告が成され時臣はさらに頭を抱える。

必殺宝具を衆目に晒した挙句に真名まで悟られるとは・・・・なんと軽率な・・・・今は唯、ひたすらにアサシンの諜報に徹する時だったと言うのに・・・このように手の内を晒したばかりか真名までも・・・ッ!

『我が師よ、ご決断を』
綺礼にも促され、時臣は己が右手に刻まれた三画の聖痕を歯噛みしながら、見る。

“遠坂たる者、常に優雅であれ”この家訓を遵守して来た自分が誰よりも先んじて令呪を消費する必要に迫られようとは・・・しかし、許容範囲を既に大きく逸脱してしまった今、英雄王には自重して頂かねば・・・

「令呪を以って奉る。英雄王よ。怒りを鎮め撤退を」

ギルガメッシュは令呪による強制撤退を申告され顔を歪めて毒づく。
「貴様如きの諫言で王たる(オレ)に怒りを鎮めろと?大きく出たな時臣」
忌々しげに吐き捨てると戦場にいるサーヴァント達に向かって言った。
「命拾いしたな・・・狂犬に飼い主よ。雑種共ッ!次までに有象無象を間引いておけ。(オレ)とまみえるのは真の英雄のみでよい」
それだけ言うとギルガメッシュは黄金の光となって瞬く間にその場から消えた。
「フンッ・・英雄王のマスターはあ奴程、剛毅な性質ではなかったようだな」
イスカンダルはそう呟くと改めて、ランスロットの方を見て言った。
「しかし、ますますに惜しいなあ・・・のう“湖の騎士”よ。是非とも余の軍門に下り、その清澄な剣技を余に捧げて見る気はないか?」
尚もズケズケとのたまうイスカンダルに周囲は呆れた声を出す。ウェイバーなどは頭を抱えて―――
「だからッ!お前は何でそう性懲りもなく〜!ぶわぁッ!!」
それを通例のデコピンで黙らせた後、イスカンダルはランスロットに再び、問う。
「それでどうだ?“湖の騎士”よ、返事は?」
すると、ランスロットは静かに眼を閉じて答える。
「征服王・・・私の答えは王やサー・ディルムッドと同じだと承知した上で問うのか?」
すると、イスカンダルは苦笑して言う。
「はあ・・やはり、駄目か。だが、そこがまた、気に入った!がっはははははははははははッ!!」
イスカンダルは愉快な豪笑を上げて言う。
一方、雁夜はやるべき事をやり、言うべき事は言ったという清々しい顔でランスロットに言った。
「行こうか、バーサーカー」
「御意」
それにランスロットは静かに従い、二人して背を向けた時、アルトリアは思わず―――
「待っ・・・ッ!」
“待ってくれ”と言おうとした時、銀髪の少年のサーヴァント―キャスターことマーリンが彼女の前に立ち塞がった。
だが、そうとは知らないアルトリアはマーリンに鋭い視線で射抜く。
「どけ!私は彼に・・ッ!」
「何を言うつもりなのかな?君が彼に・・・」
その言葉にアルトリアは途端に何も言えなくなった。

そうだ・・私は彼に何を言うつもりだ・・・今更、何を言い繕った所で私は・・・

結局、アルトリアは何も言う事ができず、ランスロットはそのまま霊体化し、雁夜もその場を後にした。
「取り敢えずは騎士王に英霊や魔術師達よ。今宵はもう退くがいい。特にランサーにそのマスターよ。君らとて、このまま続けても興醒めもいい所だろう」
マーリンがそう提案するとディルムッドとルクレティアは頷き合う。そして、ピョートルはケイネスに一応、視線を向けて言う。
「で・・俺様達はどうするよケイネス?」
問われたケイネスは少し、不満気ながらも渋々と言った。
「我々も撤退だライダー・・・・」
ルクレティアはディルムッドに抱き抱えられる形で去って行き、そして去り際にディルムッドはアルトリアに視線を送り『この決着は何れ・・』と告げ、アルトリアもそれに頷く。
ピョートルとケイネスはガレー船に乗って夜空を翔けて行った。そして、後に残されたのはアルトリアとアイリスフィール、イスカンダルにウェイバー、赤のセイバーと神威、そして、マーリンと奏だけになった。
イスカンダルはマーリンに問い掛ける。
「しかし、坊主。お前は何をしに戦場へ出て来た?見た所、お前はキャスターのようだが」
すると、マーリンは朗らかな声で肯定する。
「その通り、この身は如何にも最弱の魔術師(キャスター)。されども最強の魔術師(キャスター)だ」
「どっちだよ!?」
ウェイバーが思わず突っ込むと今度はアルトリアがマーリンに問うた。
「キャスター、先程、ランスロットと共に出て来た所を見ると貴様は彼と組んでいるのか?」
「ん?ああ、そう思ってくれて構わんよ」
アッサリと肯定する。すると、アルトリアは何時になく荒れた声でさらに詰問する。
「では何故に彼があのような事を私に言ったのかもお前は知っているな?」
その獅子の如き気魄を当てられてもマーリンは動じなかった。寧ろ、子供の浅慮に苦笑する親と言うような顔でやれやれと言う仕草をする。それがアルトリアの気をさらに逆撫でする。だが、次にマーリンの口から放たれた言葉に何も言えなくなる。
「それが分からないと言うのなら、お前は王として、それまでであったと言う事だろう」
その言葉はアルトリアの心に大きく突き刺さった。

『王は人の心が分からない』ある騎士が言った言葉が再び、脳裏で反芻される。アルトリアは苦悶の表情を浮かべる。すると、イスカンダルは何時になく考え深げな声でマーリンに言う。
「やけに言うではないか、キャスターよ。もしや、うぬも何処かの王か?」
「いや・・あくまで私見だよ征服王。ご不快だったかな?」
マーリンが涼しげな顔と声で答えるとイスカンダルはいいやと唸って。
「なかなかに深みのある意見であった。それだけでもこの場にこうして現れた甲斐があったと言うもの」
満足気に言うイスカンダルにアルトリアは呆れた視線を向けて問うた。
「結局、お前は何をしに出て来たのだ、征服王?」
「さあてなぁ、そう言う事は余り深く考えんのだ。理由だの目論見だの、そう言うしち面倒くさい諸々は後の世の歴史家が適当に理屈を付けてくれようさ。我ら英雄はただ、気の向くまま、血の滾るまま、存分に駆け抜ければよかろうて」
「それは王たる者の言葉ではない」
アルトリアが剣呑な声で言うとイスカンダルは「ほう」と頷いて言った。
「我が王道を否定するか?まあ、それも当然よな。貴様も王であるならば自身の譲れぬ王道が在ろう。それは決して相容れん。セイバーよ。お主はまず、ランサーとの因縁を清算するがよい。その上で勝ち上がって来た方と相手をしてやる」
それだけ言うとイスカンダルは手綱を握り、戦車(チャリオット)でその場を後にした。
後に残った赤のセイバーも隣にいる神威(マスター)に言った。
「それでは奏者よ。我らも行くとしよう」
「う・・うん」
「待て、この偽物ッ!」
アルトリアは凄んでそれを止める。すると、赤のセイバーはん?と不思議そうな顔で振り返る。
「何を当然のように帰ろうとしている・・・そこまで他人を愚弄した格好をして置きながら、唯で帰れる気になっていたのか・・ッ!」
その姿は先程の暗黒オーラを漂わせている。それを受けて神威は恐れ慄きながらも“ですよね”と納得していた。多分、彼女は先程、セイバーが言った事に対して怒っているのだろう・・・などと思ったらセイバーは―
「なんだ?もしかして、()を指摘した事をまだ、怒っておったのか?」

だ・か・らッ!なんでそう言う事を態々言うのかなあッ!?この子はああああああああああッ!!

神威が天を仰ぐと案の定、アルトリアは再び、乾いた笑い声を上げて風王結界(インビジブル・エア)に隠された剣を今まさに振り上げんとしている。
「またしても・・・・覚悟するがいい、下朗共。今ここで―あいたッ!」
「止めなさい」
その前にマーリンがアルトリアの頭に軽い拳骨を喰らわせ正気に戻した。
「その左腕で敵う程、彼女も容易な相手ではないよ。征服王が言ったように君はまず、あのランサーとの因縁を清算しなさい」
「なッ・・クッ・・・!」
言い返そうとしてアルトリアはまた、押し黙る。言っている事はほぼ正論だ。確かにアルトリア自身の直感スキルもこのセイバーが決して容易な敵ではない事を教えてくれていた。
それに、このキャスターの言う事には何故か耳を傾けてしまう。何故なのだろう・・・
そして、赤のセイバーは神威を右腕に掴んで言った。
「では青のセイバーよ。また、機会があるならば相見える事も在ろう。その時が来る事を余は願っておるぞ。さらば!」
そう言うと凄まじい跳躍でコンテナターミナルを後にする。神威の絶叫付きで・・・・
後に残ったアルトリアにアイリスフィールは眼の前にいる銀髪のキャスター・・マーリンに視線を向けて来る。それに対しマーリンは穏やかな顔で言った。
「それでは私達もお暇させてもらうよ。次にまみえるのは戦場か・・それとも・・・」
それだけ言うとマーリンは奏を伴って深い霧を発生させそれと共に消えた。
敵が失せた戦場でアルトリアは今夜、起こった様々な事に思考を巡らせていた。勿論、その大半はランスロットの事が主だろう。かつての朋友と再会し再び拒絶された。それが今、ただただ、アルトリアに重く圧し掛かっていた。

一方、この男、遠坂時臣も色々な意味で参っていた・・・・
何しろ、英雄王の独断行動・・・さらには理性あるバーサーカーと言う規格外のサーヴァントを伴った間桐雁夜の介入。そして、彼の口から告げられた間桐家当主、間桐臓硯の死・・・・そして、英雄王との交戦。そして、あげくには真名の暴露・・・そして、令呪一画の消費・・・最早、戦略を一から組み直さなければならない段階にまで追い込まれた・・・
さらに気に掛かるのは間桐にやった桜の安否だ。雁夜は無事だなどと言ったが、とても信用できる物ではない。いや、臓硯が死んだ今となっては人質として使って来る可能性だってある。今すぐにでも綺礼にアサシンを使って間桐邸に忍び込ませたいが、下手をすれば聖堂教会との協力関係を露呈する事にもなり兼ねない。自らのサーヴァントである英雄王を使う事などさらに却下だ。このような事をあの王が引き受けるはずがないし、何より令呪の強制で唯でさえ不機嫌になっている時に関係を抉らせるのは何よりまずい・・・
遠坂の悲願を当主として達成する為にも私事は捨て置かねばならない・・・時臣は父親ではなく当主としてそう結論付けた。
「許してくれ・・・桜」
時臣は誰に聞かせるでもなく自分に言い聞かせるような声で呟いた。

そして、同時刻・・・・

「ふむ・・・役者は揃ったと言うべきかな?」
アンシェルは水晶にて戦いの一部始終を見て、そう評した。それをガウェインは黙って聞く。
「しかし、今回は本当に妙な事になった物だ。彼の騎士王ばかりか、彼の湖の騎士までも召喚されるとは・・・」
そう言われてもガウェインはやはり、黙ったままだ。
「それにしても、英雄王相手にこれ程の戦いを演じるとは流石は君のかつての朋友と言うべきかなガウェイン。どうだ、勝てそうかね?」
すると、ガウェインは初めて口を開いて答えた。
「力の優劣は戦場で決めるものです。このような場で決しては主の名誉に傷を付けるだけでしかありません」
「ふむ、模範回答だな。確かに机上の空論など戦場に置いては無意味・・・か」
アンシェルは顎を撫で、突如、含み笑いを浮かべて言った。
「それよりも興味深い物をまた、見つけてしまった」
「と、申しますと?」
ガウェインが先を促すと彼は水晶に神威の姿を映す。
「彼だよ・・・」
「確か、アルトリア様と瓜二つなセイバーのマスターですね。彼がどうかしたのですか?」
すると、アンシェルは部屋を行ったり来たりしながら、説明する。
「知っての通り、君達サーヴァントの能力は私達魔術師(マスター)の力量に比例する。この少年は見た所、魔術師としてそれ程、日があるとは思えない。私とて一応は魔術師の端くれ。それくらいの見る眼はあるつもりだよ。にも拘らず、あのセイバーのステータスは破格とまでは行かずともかなりのパラメーターだ。実に解せない・・・」
そこでアンシェルはピタッと止まり今までにない程に歪んだ笑みを満面に広げて言った。
「だからこそ、面白い」



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