Fate/BattleRoyal
26部分:第二十二幕


今回も展開が早いです。
第二十二幕


 聖杯戦争が混迷を極める中、事態はさらに加速し各々の参加者達は一斉に大きく動こうとしていた。

夕刻。冬木市、深山町・・・街道。

「もう!いい加減に機嫌を直してよー、道満!」
緑色のパーマヘアーに朱色の瞳をした女性―――唐草(からくさ)伊織(いおり)は隣にいる自らのサーヴァントに必死に言い聞かせていた。そのサーヴァントは胸に赤で逆五芒星を刺繍した漆黒の平安装束を気だるくダラッと着込み、長烏帽子を被った顎鬚を蓄え両頬に無精髯を点々と生やした如何にも“無頼”と言う言葉が似合う男で、不機嫌この上ない表情で憮然としている。
「ふん・・不貞腐れたくもなる。こちとら晴明の野郎を叩き伏せたくって参戦したってのに・・・事も在ろうに野郎と手を組まなきゃいけねえなんてな」
すると、伊織は大きく溜息を吐いて言った。
「仕方ないでしょう!聖杯が穢れているなら戦争所の話じゃないもの・・・それにあなたも陰陽師なら人々を災厄から守らないと!」
「そりゃあ分かってはいる・・・・が、野郎のしたり顔を見ると思うと腸が煮え繰り返ってしょうがねえんだよ」
と、サーヴァント・・・道満は忌々しそうに吐き捨てる。伊織は嘆息を付きながらも内心はしょうがないかとも思っていた。
何しろ、自分が呼び出したサーヴァント・キャスター・・・真名、芦屋道満は最強の陰陽師と謳われた安倍晴明のライバルと呼ばれた陰陽師で晴明と伯仲する程の実力者だったが、当時、道満は彼の藤原道長の政敵である左大臣藤原顕光のお抱えであり彼から道長の呪詛を命じられ、その後、道長のお抱えである晴明との式神対決で敗れ播磨へと追放されてしまった。故にこの聖杯戦争では同じく現界している晴明に目に物を見せてやろうと意気込んで参戦したのを事も在ろうにその仇敵と手を組む事をマスターから強要されて面白い訳がない。それは分かっているのだが・・・・
頭を抱える伊織に対し道満は拗ねるように言った。
「ふん、そりゃお前は良いだろうよ・・・惚れた男からのお誘いなんだからな」
その言葉に伊織は顔を一気に真っ赤にする。そう・・彼女に同盟を申し入れて来た安倍晴明のマスターは幼馴染であり長年の想い人であった。指摘された伊織は真っ赤な顔そのままに思わずポカポカと道満を殴り付けた。
「そっ・・そんなんじゃないわよ!私だって陰陽師の末裔である唐草家の当主としてねえ―――!」
「いててぇぇッ!!叩くな!俺は唯でさえ他のキャスターのサーヴァントと比較したって、耐久の値がE--とこの上もなく低いんだぞッ!手前のサーヴァントを殺す気か!?」
「うっさい!それでも人よりは頑丈なんだから我慢しなさいよッ!」
この珍道中は間桐邸に着くまで延々と続けられたのだった・・・・

























冬木市、新都の住宅街にある一軒家・・・

「ねえー、ねぇー、あそうぼうよ!おにいちゃん」
「わたしもー!」
小さな家の居間で七六歳程の男の子と女の子が青いブレザーを着た鮮やかな長い金髪に翠緑の瞳の少年に催促し少年を困惑させていた。少年―――モードレッドは何故、このような事になったのかと三日前まで記憶を遡った。

「お前、今日から俺の家に居候しろ」
正義からそう命じられたモードレッドは別段、口答えする事もなく頷いた。
「無論そのつもりだ。サーヴァントは霊体化し常にマスターの傍に控える事が基本だからな」
すると、正義はにべもなく首を横に振った。
「違う。他人様の家に無断で上がる奴があるか。家では霊体化は禁止だ。正式に家族にも引き合わせる。家内にも家出小僧を暫く預かる事になったと既に連絡してある」
トントン拍子な口調でのたまう正義にモードレッドは何時にない程、素っ頓狂な声を上げた。
「はあぁッ!?」
それに対し正義は煙草を吹かして更に言い募る。
「初めに会って分かったが、お前は根暗過ぎんだよ。いつまでも昔の事を引き摺りやがって・・・俺がマスターになったのも何かの縁だ。この際、徹底的にその性根を俺が叩き直してやる」
暫くモードレッドは二の句が告げなかった。その傍ではギャラハッドが美沙にねだった高級店のティラミスを「モキュモキュモキュモキュ」と頬張り、美沙は財布を見て泣いている。そして、パーシヴァルと寺島は揃って苦笑している。
「貴公は馬鹿か・・・普通は家族をこのような事とは遠ざけたいと考える・・いや、遠ざけるべきだろう?それを事も在ろうに私と引き合わせるなどと・・・!?」
モードレッドは信じられないと言う声で呟くが、正義はにべもなく言う。
「別に有りの儘を話すつもりはねえ。勿論、この戦いに巻き込むなんて事は絶対にしねえ。そんな事は当然の事だ。ガキが余計な事に気を回してんじゃねえよ」
その言葉にモードレッドは半ば“カチン”と来た。
「随分な物言いだな・・・ガキと言うが、私は本来なら貴公よりも年齢は遥かに目上だ」
だが、正義は即否定した。
「いや、お前はガキだよ。背伸びして大人ぶっているだけのな」
モードレッドは冑の中から歯軋り声を響かせ威嚇するが、正義は何ら臆す事なく睨み返して言う。
「そんな物々しい甲冑で全身を覆い隠してるのが証拠だ。まんま自分の殻に閉じ籠ったガキそのまんまじゃねえか」
「なんだと・・・ッ!」
モードレッドが初めて殺気が滲んだ声を出す。周囲は緊迫した空気が流れるが、正義はと言うと顎に手を当てて考え込むような仕草になった。それにモードレッドは苛立つように唸り声を上げるが、それから正義は間も空けずに口を開いた。
「そもそも、そんな虚仮威しの冑を被ってんのがいけねえんだ。おい、今すぐにそれ脱げ。今後も着けるな」
「断る」
抜け抜けとのたまうマスターに対しモードレッドはプイとソッポを向いて拒絶する・・・が、そこで正義は自らの右手に刻まれた三画の刻印をモードレッドに突き付ける。それを見たモードレッドはギョッとする。
「確か、こいつは三回まで有効な絶対命令権って奴だったな・・・」
正義がワザとらしい口調で言う。一方、モードレッドは完全に困惑した顔で呆けていた。
「貴公・・・まさか、そのような事に貴重な令呪を使うつもりか・・・ッ?」
モードレッドは“正気か!?”と言わんばかりに自らのマスターに問う。彼だけでなくギャラハッドやパーシヴァルも呆気に取られた顔で正義を凝視している。一方、正義はスーと息を大きく吸って言う。
「令呪を以って―――」
「ちょっと待て!本気でそのような事に―――!?」
モードレッドが制止しようと手を上げるが、それより早く―――
「命じる!その暑苦しい冑を二度と着けるな!」
それによって正義の右手に刻まれた刻印が一画だけ消えていった。モードレッドは余りの事に暫く呆然自失となっていたが、やがて口を開いて言った。
「正気か・・・?このような愚に令呪を消費するなどと・・・」
それに対し正義は拳骨で応酬した。が、当然の事ながらサーヴァントの武装を素手で殴って無事で済むはずもなく・・・
「いってええ・・・流石にかてえな・・・」
と、赤くなった手をブラブラと振った。一方、モードレッドは憤然と正義に喰って掛かった。
「いきなり何をするッ!?」
すると、正義は真剣な顔でモードレッドに諭すように言った。
「顔もまともに見せねえ相手が信頼できると思うか?それとも信頼関係も築かねえで生き残れる程、この戦いは甘い物なのかよ?」
これには流石にモードレッドも言葉を詰まらせた。そんな彼に正義は更に続ける。
「俺にとって信頼ってのは互いの顔を見て互いの言葉に耳を傾ける事から始める物だと思っている。お前はテメエの生前を随分と気にしてるようだがな・・俺はそんな事でお前を判断しないし決め付けるつもりもねえぞ。お前の顔を見てお前の言葉に耳を傾ける事で判断したい。だから、お前も俺の顔を見て、俺の言葉に耳を傾けろ」
「・・・・・」
モードレッドはそれに対し何の言葉を発する事もできなかった。だが、その代わりに自らの顔をスッポリと覆っている魔物のような冑に両手を掛け脱いだ―――

回想終了・・・・

「ねえ、あそぼうよ、おにいちゃん!」
栗色の髪をした可愛らしい女の子がモードレッドに膝に乗っかって催促して来た。それに彼女の兄であろう、どこか正義と面影が似通った男の子が抗議して来た。
「あー!ずるいぞ、まなか!」
二人の幼子に詰め寄られモードレッドは何時になくオロオロと所在なさ気にキョロキョロと辺りを見回していた。この二人は正義の実子で兄を正哉と言い、妹を愛歌と言う。モードレッドがこの家に居候して以来、どう言うわけか二人はすっかりモードレッドに懐いてしまい彼を困惑させているのだった。そんなモードレッドに助け船が出た。
「正哉、愛歌、モードレッドさんを困らせちゃ駄目よ」
台所の入口から愛歌に面影が似た穏やかな美貌の女性がエプロン姿で入って来て息子と娘を窘めた。すると、子供達は「はーい」と返事をして渋々、モードレッドの傍を少し離れた。彼女は正義の奥方で優歌と言う。
「忝い、優歌殿・・・」
モードレッドは徐に頭を下げ礼を言った。すると、優歌はクスと笑いながら首を横に振る。
「いいえ。こちらこそ、いつも正哉や愛歌の相手をしてくれて本当にありがとうございます」
「は・・はあ・・・」
(いや・・と言うより、正確には“させられた”んだが・・・)
などと思いながら、モードレッドが何とも言えないと言う顔をすると優歌がそれを見て取ったのか突然こう言った。
「強引でしょう?あの人」
突如そう言われ、それが誰を指しているか悟ったモードレッドが頷く。
「それは・・・まあ・・」
(いや・・・強引所じゃないんだが・・・)
すると、優歌はモードレッドの心を読んだように苦笑して言った。
「まあ、確かに強引って範疇には収まらないかも知れませんね」
その言葉にモードレッドも嘆息を付いて言った。
「正直・・・貴女を尊敬する。あのような御仁の奥方など並大抵の器量では務まるまい。相当な苦労を掛けられているとお見受けする」
それに対し優歌はこう続けた。
「あの人はね・・・そう言う人なんです。昔から・・子供の頃から自分の前で困っている人や非行に走る人を眼にすると放って置けない性分で・・・どうあっても、その人を見限る事ができない人なんです。こうして、あなたのような子を実際に連れて来た事もこれが初めてじゃないんですよ」
その言葉を受け、モードレッドは俯いて言う。
「余り・・・賢い性分だとは言い難い」
すると、優歌も苦笑して頷く。
「ええ。でしょうね・・・でも、私はあの人のそう言う所が好きで一緒になったんです。ううん、私だけじゃない。桂木さんや寺島さんもあの人のそんな人柄に惹かれているんだと思います」

『お前はテメエの生前を随分と気にしてるようだがな・・俺はそんな事でお前を判断しないし決め付けるつもりもねえぞ』

モードレッドは正義の言葉が脳裏を過ぎり居た堪れないような顔になった。

決して・・・賢いマスターとは言い難い。マスターとしての能力は意外にも魔力供給の点に置いて問題はない。いや、寧ろ自分の霊格を十二分に引き出して余りある。それに魔術の心得は愚か知識すらないが、状況の判断力や事態を素早く呑み込む柔軟性をも併せ持っている。身体能力もサーヴァント程ではないにしても相当に高い。空手の腕前も自分から見ても実戦レベルだ。マスターとしては頼もしい限りだろう・・・
だが、やはり甘い・・・他の参加者は聖杯を手にする為ならば、人を殺す事など一切、躊躇わぬ連中だと言うのに彼は「俺は人殺しをする為に参加したわけじゃねえ」などとのたまう始末だ・・・そもそも、この戦争に参戦する理由からして惰弱極まりない!だが・・・何故だか、それを余り不快には感じてはいない自分がいる・・・何なのだろうな?この気持ちは・・・

「おう、ただいまー!」
丁度その時、玄関のドアが開き正義の声が響くと子供達がパアーと顔を綻ばせてドタドタと玄関へと駆け出して行った。
「おとうさん、おかえりなさいー!」
「パパ、おかえりなさいー!」
「おう、二人とも、ちゃんと良い子にしてたか?」
そう言って正義は息子と娘の頭を交互に撫でてやった。モードレッドはそれを見て一瞬、脳裏に嘗て裏切った主君にして父だった王が過ぎったが、首をブンブンと横に振った。
(何を考えている・・ッ?私と王は彼らとは違う!)
などと感傷を振り払おうとした時、正義の後ろから更に四人の人が入って来たのを見てモードレッドは唖然とした。
「お邪魔しまーす!」
「失礼します」
「こんにちは・・・」
「ご招待痛み入ります」
初めに寺島が元気よく挨拶し次に美沙が恐縮そうに頭を下げ、その傍らにはギャラハッドがぐるぐるキャンディを舐めながら挨拶し更に後ろではパーシヴァルが爽やかな笑みを浮かべて騎士然とした挨拶を返した。二人とも現代相応な格好をしている。
ギャラハッドは短パンにローラースケートを履きキャップ帽を被ったボーイッシュな服装を身に付けている。一方、パーシヴァルはキッチリとしたスーツに身を包んでいた。
(な・・・何をやっている・・・貴公ら・・!?)
モードレッドが口をあんぐりと開けていると正義が平然とのたまう。
「桂木のとこにホームステイに来てる留学生と今度の事件でインターポールから派遣された刑事だ。歓迎も兼ねて家で食事する事になった」
(おい!何だ、その無理矢理な捏造は!?)
思わずモードレッドが心中で突っ込むと優歌は―――
「まあ、それじゃあ腕にふるいをかけなきゃなりませんね!」
(それで通じるのか!?)
モードレッドは今や傍から見れば、顔芸をしているのかと思う程、表情がコロコロと変わっていた。それをギャラハッドは「モードレッド、変な顔・・・」と指摘するが、彼の耳には入っていなかった。

このような無茶振りな嘘をのたまうマスターもマスターだが、そのような嘘を鵜呑みにする奥方も相当に抜けている・・・・
今更ながら、このような事で本当に大丈夫なのだろうか!?

モードレッドがコロコロと顔芸する横でパーシヴァルが耳元で囁く。
「ちょっと、モードレッド卿?固まってますよー」




























同時刻。冬木市、海浜公園

カフェテラスでウエーブが入ったブロンドのロングヘアーを靡かせた十四歳程の少女がお茶をしていた。向かい席には白いジャケットを羽織ったヘイジーブロンドの流れるような長髪を後ろで纏めた美貌の男がコーヒーを飲んで相対していた。
少女は翡翠の瞳を注意深く周辺に注いでいた。すると男は肩をすかして少女に言った。
「イザベラ、それ程に硬くならずとも連中の活動時間にはまだ些か早い。少しは肩の力を抜け」
すると、少女―――イザベラ・ヴェルディは首を横に振って言う。
「そうでなくとも油断は禁物ですわ。今は如何に休戦協定を結んでいるとは言え、騎士道も解さぬ輩がいつ何時、襲って来るか知れた物ではありませんもの。最低限の警戒は必須です」
「まあ、違いないがな」
男もコーヒーを口に入れながら同意する。すると、イザベラは不意に男に問うた。
「それはそうと・・・おかしいとは思いませんか、ローラン?」
「ああ、何故に百騎以上の英霊が呼び出されたか・・であろう」
男―――ローランは灰色の瞳を不敵に輝かせ答えた。
「聞いていた話では聖杯がこの世にサーヴァントとして留められる英霊は七騎が限度と聞いていましたし、大体そんな物でしょう。にも拘らずこれは異常です」
「うむ・・・これは調べてみなければなるまい。聖杯と言う願望機の質も含めてな」
ローランの言葉にイザベラは頷く。
「ええ・・同じく参戦している私の親友も同様の事を言っていましたわ。彼女も調査をして見ると・・・私達も独自に調査する必要がありますわ」






















その夜・・アインツベルンの森にて・・・

大勢の子供らを連れ歩く数十人の集団がいた。皆、一様に黒いローブを頭から被っており、どこか獣染みた唸り声を微かに漏らしていた。ただ、その先頭には奇抜な服装をしたギョロ眼の大男が闊歩しており、その手には人の皮で装飾された本が握られている。その様子をアルトリアらはアイリスフィールの千里鏡を通して見ていた。
「ジル・ド・レェ・・・・ッ!?やはり生きていたか・・・!」
アルトリアは歯噛みして千里鏡に映る殺人狂を睨み付ける。
「人質・・・でしょうね。きっと」
アイリスフィールが徐に敵の意図を口にするとアルトリアは決意の籠った声で言う。
「私達が直に出向いて救い出すしかありません」
その言葉にエル・シドとベディヴィエールも頷く。しかし、それを切嗣が制止した。
「それには及ばない。連中は暫く泳がせる」
「「「なッ!?」」」
アルトリア、エル・シド、ベディヴィエールが同時に眼を剥いた。それに対しアイリスフィールも真意を測るように切嗣に詰め寄る。
「切嗣・・泳がせるってどう言う意味?」
切嗣は千里鏡に映る子供達を囲んでいる黒ずくめの集団を指差して言った。
「見てごらん。こいつらは時折、獣ような唸り声を上げている。その上、息遣いも荒い・・・・間違いなく全員死徒だ」
その言葉にその場にいる全員が絶句する。藤二は顎に手を当てて切嗣の言わんとする事を口にする。
「つまり・・ジル・ド・レェ陣営やチェーザレ陣営が死徒の集団と手を組んだと言う事か?」
「そう言う事だ。つまり、この数十匹の死徒全員がサーヴァントを従えたマスターだと考えた方がいい。だとすれば、マスターは元より従えているサーヴァントの力量も未知数だ。数で言ってもこちらの倍・・・こっちから仕掛けるのは到底、得策じゃない。それよりも今は待つべきだ」
「待つ?何を・・・?」
アイリスフィールが怪訝な声で問うと切嗣はにべもなく返答した。
「決まっているだろう。極上の餌に喰いつく連中をさ」
『!?』
その言葉に今度こそ全員が絶句する。
「要するに・・・・こいつらとガキどもを餌に他の魔術師やサーヴァントが来るのを待つってか?」
ガルフィスが頭を掻いて問うと切嗣は頷く。
「元より狩りは他の連中に任せるつもりだったからね。特にジル・ド・レェはセイバーを事も在ろうにジャンヌ・ダルクと勘違いしている。現にこちらから動かずともこうして向こうから来てくれた。だから、アイリ。君はセイバー達を連れて華やかに只管、逃げ続けてくれればいい。ただ、死徒は銃を用いてもそう簡単に殺せる物じゃない。だから、僕はその陰から主に餌に喰いついた連中を叩く」
そう言った途端にアルトリアらサーヴァント達の怒りが爆発した。
「切嗣ッ!あなたと言う人はあの子供達を見殺しにするばかりか挙句に闇討ちの為の餌にすると言うのですかッ!!」
アルトリアは翠緑の瞳を憤怒に染め上げ激昂する。
「貴様ァ・・・ッ!どこまで腐り果てた外道なのだッ!!」
エル・シドも研ぎ澄まされた瞳をいつも以上に鋭くして雷鳴の如き怒りを咆哮する。
「切嗣殿・・ッ!あなたと言う人は・・・・ッ!恥は愚か道理の分別すら知らぬと言うのかッ!!」
普段は温厚なベディヴィエールですら到底、怒りを隠せぬ程の怒声を発する。
だが、切嗣は彼らの糾弾などはどこ吹く風と言わんばかりに淡々と()()である藤二やガルフィス、アイリスフィールらに対して話していた。
「藤二、ガルフィス。君達はいつでも動けるように備えをして置いて欲しい。アイリ、君はこのまま映像を映していてくれ」
そんな彼の態度に藤二は片手で頭を抱えて言った。
「切嗣・・・・いい加減にしろ。少しはエル・シド達の言葉に耳を傾けたらどうなんだ!?」
「そうだぜ!流石に無視ってのはないだろう!?」
ガルフィスも援護射撃をする。その二人の言葉を受けアイリスフィールも夫を諫めるべく言葉を継ぐ。
「二人の言う通りよ、切嗣。少しはセイバー達の言葉に・・・・」
だが、切嗣の返答は素っ気ない上に若干の棘がある物に終わった。
「関係ないだろう。僕達は是が非でも聖杯をこの手に獲得しなければならないんだ。子供の一人や二人命を落としたって何になるんだ?紛争地に比べれば、幾分も安い」
その言葉が最早、決定打と言って良かった。サーヴァント達の怒りはピークへと到達した。
「衛宮切嗣ッ!!あなたは・・・いや、貴様は・・・ッ!!」
アルトリアは風王結界を解いて自らの宝剣の切っ先を切嗣へと向けた。一方、エル・シドも瞳孔を開いて自らの宝具である長剣と短剣を抜き、ベディヴィエールも冷たい殺気を発散して短槍を構える。
アイリスフィールと藤二やガルフィスはギョッとして眼を瞠る。
(ああ・・・これはもう、フォローできないわ・・・)
アイリスフィールがオロオロとうろたえる中、事態は更にヒートアップする。
「貴様を漸く外道だと認識した・・・最早、世界を救済するなどと言う甘言など到底、信じるには値しない!」
アルトリアは憤激を湛えた瞳で自らのマスターを射竦める。
「藤二の口添えがあればこそ黙認しては来たが・・・我慢の限界だ・・・ッ!」
エル・シドは静かだが、殺気と怒気が漂うオーラを全身から発散させている。一方、普段は諫める役所の筈のベディヴィエールですら今にも短槍を切嗣の胸に突き刺さんとする勢いだった。
「覚悟は良いか・・・外道・・・ッ!」
すると、切嗣は瞳に何時にない程の憤怒を滾らせ呟いた。
「外道は・・・・どっちだ・・・ッ!」
「「「なに?」」」
サーヴァント達が一斉に問うと切嗣はその口から・・・

ボゴォッ!

突如、藤二は切嗣の横っ面を拳で殴った。その行動にアイリスフィールやガルフィスは愚か当のサーヴァント達ですら呆気に取られた。
「切嗣・・・いい加減にしろ・・・こんな事で全てを棒に振る気か?」
藤二は息を切らして切嗣に言い聞かせる。すると、切嗣は徐に起き上がり言った。
「すまない・・・藤二。そして、ありがとう」
切嗣はいつもの無表情に戻って親友に詫び礼を言った。
次に藤二はサーヴァント達に向き直って言った。
「君達も気持は理解できるが、抑えてくれ。騎士王・・・今、切嗣を殺せば君の宿願は叶わない。そこの所をもう一度、思い出してくれ。エル・シド・・・切嗣も本心で言ったわけじゃない。こいつも本当は子供達を助けたくてしょうがないんだ。ただ、今は大きな目的を果たす為に自重している・・そこだけは信じてくれ。それから、ベディヴィエール卿。君まで冷静さを欠いてどうするんだ?君がこのスリーマンセルをまとめる要であると言う事を忘れないでくれ。そして、何よりも仲間内で諍いを起こした所で子供達を助ける事にはならない。そこを理解してくれ!」
そう言われ、サーヴァント達も漸く得物を下ろした。エル・シドは何時になく殊勝な顔で藤二に詫びた。
「すまん・・・藤二」
「確かに・・・このような事をしている場合ではありませんでした・・・・」
アルトリアも深く項垂れ、ベディヴィエールも悔いるように頭を垂れた。
「申し訳ありません・・・・」
アイリスフィールはホッと息を付いたが次の瞬間、千里鏡の中を見て一気に蒼褪める。
「皆ッ!」
彼女の悲鳴に皆の視線は一気に千里鏡の映像へと引き寄せられる。そこではジル・ド・レェが大仰な身振りで子供達の暗示を解き意識を取り戻した子供達に言った。
『さあさあ、子供達よ。今から鬼ごっこをしましょう。ルールは簡単、この私から逃げ切れば良いのです。捕まったら・・・・』
そう言ってその屈強な右腕を子供の一人に伸ばし頭を鷲掴みにする。その意図をアルトリアは自身が持つ直感スキルでその行動の果てに待つ惨劇を瞬時に察知する。一方のエル・シド達も顔を蒼褪めた。
「や・・止め・・・ッ!」
アルトリアが叫ぼうとした瞬間、千里鏡の映像に鮮血が飛び散った―――が、それは子供の物ではない。子供の頭を鷲掴みしていたジル・ド・レェの右腕が斬り落とされた際に噴出した物だった。
『ぐっ・・ぐぎゃあああああああああああああああッ!!』
瞬く間にジル・ド・レェは鮮血を迸らせる右腕の切断面を押さえて絶叫する。
『があああッ・・・な・・何者だああああ!?』
ジル・ド・レェが憤怒の叫びを上げると周囲を囲む死徒集団も呆気に取られるが、その間に神速とも言うべき速さで子供達を掻っ攫う者があった。そして、彼らの眼の前にアルトリアが知る限りに置いて最高の騎士が鮮血を湛えた黒光りする大剣を携え彼らに対峙していた。
「ああ・・」
アルトリアは思わず感動を湛えた声を出す。映像に映る漆黒の騎士―――サー・ランスロットは冑越しに外道の輩共へ義憤に満ちた声を投げ掛ける。
『外道に名乗る名などない。ましてや、騎士道は愚か基本的な人道にすら悖る貴様らなどにな』
そして、その後ろにには先程、掻っ攫われた子供達を背にして三騎のサーヴァントが得物を携えていた。
『然り!貴様ら如きは槍の一閃で充分。ましてや、騎士王はこのディルムッドの獲物だ。貴様如きに譲る道理などないぞ!』
そう言って赤と黄の二槍を構えディルムッド・オディナが同意し、その横では紅い棘の突起が先端にある長槍を携えたクー・フーリンが不快な顔と眼光で血に飢えた獣達を射竦めていた。
『胸糞が悪いんだよ・・・ッ!テメエらも英霊の端くれだってんなら、強者にこそ、その牙を剥けってんだ!』
更にその横では中華の武闘服を纏った李書文が喜色に溢れた眼を値踏みするように獣達に注ぎ狂喜していた。
『呵呵呵呵呵呵呵呵呵呵ッ!この死に損ない共、どこから壊してよいものやら!しかし、くれぐれもこの間の連中のようにアッサリとは壊れてくれるな!余りに脆弱過ぎては壊す甲斐がないわ!』
そして、後ろにいる子供達を彼らのマスター達が保護していた。
『もう、大丈夫だ。おじさん達がついてるからな』
雁夜が怯える子供達を宥める。
『ほら、男の子なら泣くな。』
鷲蘭は涙ぐむ男の子達を優しく叱咤する。
『さあ、後ろへ下がって』
レグナやルクレティアは子供達に自分達の後ろへ下がるように促す。それを見たジル・ド・レェは残った左腕で髪を掻き毟り憤怒する。
『己オノレオノレオノレオノレオノレオノレェェェェェッ!!!聖処女に捧げる神聖な贄を掠め取るとは!恥ずべき不心得者どもがッ!』
すると、ランスロットは何時にない程、冷たい声でそれを遮る。
『黙れ、外道。何を心得違いをしているかは知らぬが、あの方の真名はアーサー・ペンドラゴン。一度は刃を向けた私が言うもおこがましいが、私が唯一無二、忠誠を誓った名高き聖君だ。断じて貴様の言う聖処女などではない』
その言葉に千里鏡を見ていたアルトリアはズキッと胸が痛んだ。
(違う・・・私は決して、そんな者ではないんだ・・・ランスロット・・ッ!)

その頃、その様子を同じくアインツベルンの森付近でマーリンと奏が水晶を通して見ていた。
「とうとう始まったな・・・・」
奏はゴクリと生唾を飲み込んで言うとマーリンはおかしそうに笑う。
「おや、緊張しているのかい?」
「悪いか・・・」
奏は素直に頷く。だが、マーリンは首を横に振る。
「いや、何事も適度な緊張は必要さ。さて・・・ここまでは順調だな。この面子だったら子供達を護り切れるだろう。後はアルトリアのマスターへの対処だが・・・」






マーリンがそう言っていた頃、当の現場では黒ずくめの一人が哄笑を上げた。それは年端もいかない少女の物でそれを聞いたルクレティアや鷲蘭はギョッとして叫ぶ。
「「その声・・ッ!?」」
それに対し少女は顔を覆っていたフードを取った。すると、そこには高慢な笑みを浮かべたリオン・アルテイシアの面貌があった。ただし、その双眸を血の様な赤に染めて・・・
「リオン・・!あなた・・その眼はまさか・・・!?」
ルクレティアが愕然とした声を出すとリオンは歪んだ笑いを浮かべて言った。
「ええ・・そうよ。あたしは死徒に生まれ変わったの」
それを受け雁夜は愕然と眼を見開いて言った。
「そんな馬鹿な・・・完全な死徒化には数カ月から数年の月日がいるはずだ・・・・それをこんな短期間で!?」
すると、リオンは得意げに答える。
「そこはそれ。抜け道ってのがあんのよ。ま!あんたらは知る必要はないけどね・・・なんてたってあんた達はここで死んじゃうんだから!アハ♪」
そう言った途端に彼らの周囲にチェーザレなどを始めとしたサーヴァントが複数、実体化し得物を向けすぐさま戦闘態勢を取った。
「チッ!やっぱり、この獣ども全員がマスターかよ!」
クー・フーリンはこの夥しい数に舌打ちする。
「呵呵呵呵ッ!そうでなくては張り合いがないわっ!」
一方、李書文は油断なく間合いを詰めながらも嬉しそうに笑う。
「アサシン、後ろに主や子供達がいる事を忘れるなよ」
ディルムッドが諫めると李書文は肩をすかして答える。
「分かっておるわ。要は童どもに近づく奴らを片っ端から殺せと言う事であろう」
「無駄口を叩くな。来るぞ」
ランスロットは眼前のサーヴァントと死徒の集団を見据えて皆に言う。
サーヴァント達が応戦の構えを取る中、マスター達も子供達を背に各々の礼装を取り出し準備を整える。一方、ジル・ド・レェは残った左腕に『螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)』を手に無数の海魔達を召喚し戦力を増やした。
「さあ!怯えるがいい!恐怖するがいい!そして・・絶望するがいい!聖処女を目覚めさせる神聖な儀式を穢した罪は万死に値する・・・その大罪は貴様らの血肉を以って贖うがいいぃぃぃぃィッ!!!」







同時刻・・・アインツベルン城。

「切嗣!一刻も早く我々も救援に!幾らランスロットやディルムッド達でもこれだけの手勢を相手に子供達を守り切れるとは・・・」
アルトリアは必死に自らのマスターに訴えかけるが、その返答は無論・・・
「馬鹿を言うな。折角、餌に魚達が喰いついて来たんじゃないか。それも早急に仕留めなければならないサーヴァントが二騎もね。今、彼らは死徒とサーヴァント達に釘付けになり更には子供と言う余分な物に態々、気を配っている。彼らのマスターも同様にね。つまり、叩く絶好のチャンスだ。ついでに他の二組にもここで退場願おうじゃないか」
「切嗣ッ!それでは残される子供達はどうなるのです!?」
淡々とのたまうマスターに食って掛るアルトリアに切嗣は容赦なく告げた。
「さっきも言ったが、どうでも良いだろう。子供の死体なんて君らだって戦場で多く見たはずだ・・・今更、それが此処で出来た所で何だって言うんだ。
その後はセイバー、君の回復した腕で対城宝具を振るってくれればいい」
その返答にアルトリアらサーヴァントだけでなくアイリスフィール達も息を呑む。絶句しているアルトリアに代わってアイリスフィールが切嗣に震える声で問う。
「まさか・・・・子供達ごと・・ッ!?」
それに対し切嗣は淡白な眼を向けて口を閉ざす。その仕草だけで「それがどうした?」と言っているも同然だった。アルトリアはそれに怒りに震える声で問う。
「私が・・・それに従うとでも?」
それに対し切嗣は自らの手に刻まれた令呪をかざし返答した。
「切嗣・・・・ッ!あなたはどこまで・・・・ッ!?」
アルトリア達サーヴァントは再び激しい怒りを身体中から発散させるが、それに対し切嗣は初めてサーヴァント達に向き合って言った。
「ここで・・あの子供達を救った所で全ての・・・命の危機に瀕している子供達を救えるわけじゃない。今、ここで救っても此処とは違う場所で他の子供達が死んでいる・・・そんな事に何の意味もない」
淡々とした口調だったが、それは何かを呪っている、若しくは焦がれているかのような声だった。それを感じ取ったのかサーヴァント達の怒りも幾らか薄らいでいった。そんな彼らに切嗣は更に言い募る。
「これはそんな事を全て終わりにする為の戦いだ。如何なる犠牲を払おうとも・・・如何なる悪辣な手段を用いようとも僕は聖杯を獲得する。もう誰も犠牲になどしない為に・・・・ッ!」
そこで切嗣は拳を血が滲むと言う程にまで握り締める。その様を見ていたアルトリアらは何の言葉も発せなかった。非難の言葉すらも・・・そして、切嗣は最後にこう言った。
「でなければ・・・・誰も救われない」

同時刻・・・アインツベルンの森付近。

「まあ、アルトリアのマスターの人となりと経歴などを鑑みれば、殺しににくい死徒のマスターよりも雁夜殿達を狙って来るだろうな」
マーリンは水晶で戦いを見守りながらも切嗣の戦略を推察する。
「おまけにアルトリアの腕を槍の呪いで蝕んでいるディルムッド達がいれば、尚の事だろう。恐らく左腕を回復させた後は対城宝具を以って残るジル・ド・レェ達サーヴァントや死徒達を葬る算段だろう。子供らごとね」
その傍らで奏はコンバットナイフを研ぎながら、自分達の役割を確認する。
「で、俺達はそれを防ぐ為の足止めと」
「それもある・・・が、今回の作戦は講習会(セミナー)も兼ねての事だ」
マーリンが楽しそうな声で言うと奏はオウム返しに問う。
講習会(セミナー)?」
「そう・・困ったちゃんと中年中二病患者の更生講習会(セミナー)だ♪」
マーリンはますます楽しげな声で答える。それに対し奏は顔を引き攣らせながら言う。
「お前・・・本当に趣味が悪いのな」
「褒め言葉として受け取っておこう」
マーリンは朗らかに微笑んで受け流した。だが、すぐに真顔となって奏に問う。
「それよりも・・・君の『眼』の感度はどうかね?」
すると、奏は何時になく口元を不敵に微笑ませて言った。
「感度も何も・・・初めから良好だよ。何しろ生まれた時からこうなんだからな。それに人が撃つ弾丸なんて呂布の弓矢に比べたらスローモーションも同然だ。それに、いくら魔術加工された魔弾でも綻びや寿命をなくせるわけじゃねえだろ。絶対に()()()()()()
そう言った途端、眼元まで覆った長い前髪の中からこの世の物とは思えぬ程に妖しい蒼色の双眸が光っていた。




次回・・・・・マーリン大先生が大暴れします。ついでにオリ主人公でありながら出番が序盤以外、殆ど恵まれなかった奏も本領を発揮致します。
あと、何気に雁夜さんも活躍・・・するかも?



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