Fate/BattleRoyal
27部分:第二十三幕


初めは回想です。
第二十三幕


 今から時刻は少しばかり遡り・・・間桐邸にて・・・

「ふ〜む、じゃあ今回の英霊の大量召喚は聖杯その物が神の住処になったからだと?」
ボルドフは顎に手を当てて考え込むような仕儀さで問うとマーリンは肩をすかして答える。
「まあ、神とは言っても禍つ神だがね」
「成程・・・言われて見れば、今回のジル・ド・レェと言い、チェーザレと言い、とても聖杯がサーヴァントとして招くとは思えない怨霊だ・・・そう推測すれば辻褄は合うだろう。しかし、その場合は願望機としての機能はどう言う事になるわけだ?」
すると、マーリンは朗らかな顔で簡潔に答える。
「どう言う事になるも何もないね・・・無色透明な力に唯でさえ色が強烈な絶対悪の神が触れたんだ・・・そんな物、とうの昔に人が扱える範疇を逸脱している所か大いに歪な物に変わってしまっているだろうさ」
それを聞いたボルドフは頭を抱えてぼやく。
「なんてこった・・・」
「すまない・・・・家の糞爺ィのせいで・・・・」
雁夜は申し訳なさそうに頭を下げるが、ボルドフは首を横に振る。
「いや、お前が謝る事じゃないさ。それにしてもこの事を御三家や教会の連中は知っているのか?」
「恐らく教会と遠坂は何も知るまい。でなければ、こうして平然と戦争を続けているわけがない。まあ、間桐臓硯辺りはどことなく勘付いていたようだがね。そして、アインツベルンは・・・知っていたのではないかな。何しろ、今の聖杯が狂う事になった要因の大本はあちらにあるからね」
マーリンの推察に祐世が頷く。
「うむ・・・大いに有り得るだろう。アインツベルンは今や聖杯を降誕させる事のみに固執していると言う・・・・例え、それで世界が滅亡の危機に瀕する結果になろうともそれも致し方ないなどと本気で思う程にな」
それを聞いてボルドフは考え込むように頭を掻いた。
「やれやれ、随分とキナ臭い仕事になったもんだ・・・・これを教会に話した所で馬鹿正直に信じてくれるかね?」
その問いをマーリンは即答で否定する。
「まず、望みは薄いと言わざるを得ないだろうね。それは他の参加者にも同じ事が言えるが・・・」
その返答にボルドフは溜息をついて頷いた。
「だろうな。殊に切嗣の野郎は聞く耳持たねえだろう・・・」
そのボルドフの言葉に一同は眼を丸くする。
「まるで知っている口振りですね?その魔術師殺しの事を」
奏が問い掛けるとボルドフは頷く。
「まあ、敵として何度も殺り合った上、一度、話もしたからな」
「俺も初耳だな・・・」
雁夜も少し驚いた声を出す。それにボルドフは「まあな」と苦笑して言う。
「ただ、その時に聞いた奴の戦う理由って奴が余りに痛々しくってな・・・」
その僅かに憐憫を含んだ物言いにレグナが興味を持ったのかボルドフに問う。
「へえー、あの冷酷無比な魔術師殺しの戦う理由ねえ?あなたが持って来た書類を読む限りでは一見、金目当てのフリーランスって感じだけど・・・・その物言いだとそうじゃないんでしょう?」
それにボルドフは頷いて答える。
「ああ・・・金目当てなんて物とは遥かに程遠い。普段の手段を徹底して選ばない合理的戦術ともな・・・その末の目的が恒久の世界平和なんだとさ」
その言葉に一同は眼を丸くする。それは冷酷な殺し屋と結び付けるには余りに掛け離れた動機だった・・・・と言うより―――
「馬鹿ですか?そいつ」
奏が途轍もなく容赦のない感想を漏らす。すると、ボルドフは更に苦笑して言う。
「せめて、純粋と言ってやれ・・・それでも奴は本気で実現するつもりでいるんだからな」
「つもりも何も・・・そんなの現実問題で考えれば不可能だと良い大人なら分かるでしょうが」
またも容赦ない奏にボルドフは雁夜に言う。
「雁夜・・お前の弟分、結構容赦ないな」
「これでも最初の頃に比べたら随分、丸くなったんだ・・・」
雁夜も苦笑して答える。それに奏はムッとなって言う。
「雁夜さん、余計な事は言わないで下さいよ」
「まあ、とにかくだ。奴自身、実現不可能と分かっているからこそ恐らくそれを聖杯に縋るより他はなかったんだろう」
ボルドフが最後にそう締め括ると奏は嘆息をついて更に容赦ない言葉を吐く。
「おまけに神頼み同然の“奇跡の願望機”頼りですか・・・救いようもありませんね」
「あなた・・・・本当に結構キツイわね?」
レグナが思わずそう零すと奏はこう続ける。
「常識で考えてくれ・・・そんなある意味、()()()()な夢物語を大きな力で現実に無理矢理、押し通して置いて下手な代償で済むはずがない」
すると、ボルドフは大きく頷く。
「だよなあ・・・だけど、アイツは結構一途だから・・・・」
「一途じゃなくて盲目でしょう。少なくとも俺はそれで生じるトバッチリを喰らうなんてまっぴら御免だ」
奏の容赦がない物言いにボルドフが「たははは」と頬をボリボリと掻く。
その時、二つ程、魔術の信号音が響き、敏和とレグナが眉をピクッと動かした。どうやら彼らが呼んだ協力者が来たらしい。その後、マーリンが一部、森界を解いて新たな協力者達を招き入れた。
「お初にお目に掛かります。私はルクレティア・サルヴィアティ。サルヴィアティ家の当主です」
ルクレティアが横にディルムッドを伴って気品を感じさせる仕草で挨拶しディルムッドもそれに倣った。
「俺はルクレティア様にお仕えするサーヴァント・ランサー。真名はフィオナ騎士団が一人、ディルムッド・オディナ」
すると、クー・フーリンが口笛を吹く。
「おう、知ってるぜ。俺とレグナもこの間の戦いを見てたからな。騎士王相手にあの槍捌き・・・流石はフィオナの『輝く貌』の名は伊達じゃねえな。しかし、マックールの小僧ももったいない事しやがる・・・私怨でこれ程の男を取りこぼすとはな」
「貴公は?我が主を知っているようだが?」
ディルムッドが怪訝そうに問うとクー・フーリンも自己紹介する。
「俺はサーヴァント・ランサー。真名は赤枝の騎士団、クー・フーリン。よろしくな、色男さん」
「なんと・・・!貴方が彼の『光の御子』で在らせられるのか!?」
ディルムッドは眼を瞠る。然も在りなん。同じケルト神話の英雄である彼にしてみれば、クー・フーリンは偉大なる先人とも言うべき大英雄に他ならないのだから。
次に鷲蘭が中国式の礼で挨拶する。
「此度のお招き頂いた儀、痛み入る。私は蓮家当主、蓮鷲蘭。これよりは共に戦う戦友として遇させて頂く」
鷲蘭が丁寧なお辞儀をする隣で李書文が豪快な笑いを上げて名乗る。
「呵呵呵呵呵呵呵呵呵ッ!儂の名は李書文。此度はアサシンのクラスを得て現界した。よろしく頼む、小童ども」
この二組をレグナは手で指し示し改めて紹介する。
「二人は私とは違う先生に師事しているんだけど、私にとっては親友と妹分って所ね。それでもう一人来る事になってたんだけど・・・・二人とも、ルナはどうしたの?」
レグナの問いにルクレティアも首を傾げて答える。
「はあ・・・何でもサーヴァントが愚図っているとかで今日は一先ず会合を見合わせると・・・」
「おいおい、随分とチキンな野郎なんだな。そんな奴、戦力になるのかよ?」
クー・フーリンが呆れたような声を出す。
「ルナが言うにはかなりの猛者らしいんだが・・・・」
鷲蘭も顎に手を当てて半ば疑問形で言葉を濁す。それに対しレグナは「まあ、いいわ」と言って口を閉ざす。そして、もう一人緑色のパーマヘアーの女性を敏和が紹介した。
「彼女は僕の幼馴染で陰陽師の末裔である唐草家の当主の―――」
「唐草伊織です。これからよろしくお願いします」
と言葉を継いで丁寧な挨拶を返して来る。それにレグナがにこやかに返す。
「こちらこそ。それより、貴方のサーヴァントは・・・・」
と、レグナが言いかけると彼女はそこで言葉を噤んだ。何故なら、晴明の前に一人の顎鬚と無精髭を蓄えた男がガン睨みしていたからだ。
「おや?これは懐かしい顔が」
と、晴明は白々しい微笑みを浮かべて自分とは対照的な漆黒の平安装束を気だるく纏った無頼漢・・・道満を見た。それに対し道満はこの上もなく嫌な顔を浮かべ吐き捨てる。
「だから・・・嫌だったんだ。こんな野郎と手を組むなんざな」
すると、晴明はワザとらしく首を傾げた。
「はて?私があなたの気に障るような事などしたのでしょうか?」
その言葉だけで道満の顔に幾つも青筋が立ち更に歯軋りを始める。
(野郎〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!)
「なになに、あっちはもう会って早々に喧嘩?」
レグナが呆れた声を出すと彼らのマスターである敏和と伊織が共に頭を下げた。
「「面目ありません・・・・」」
暫く後、晴明と道満の喧嘩も沈静化した後、互いの情報交換をし、これからの話し合いが行われた。
「まず、肝要なのは何よりも大聖杯の確認だろう。そこへ赴けば、何らかの異常が見つかるかも知れない」
マーリンの提案に晴明も頷く。
「左様・・・まず大本を確かめない事には始まりますまい。早急に調査を行う必要があるでしょう。それから、もう一つ・・・」
「うむ。脱落したサーヴァントの魂を収納する小聖杯だな。間桐の記録書を読む限りでは恐らくアインツベルンが用意しているのだろうが・・・問題はどこにあるかだ」
マーリンが考え込む仕草で呟くと敏和が徐に口を開く。
「やはり・・・・アインツベルンと接触するしかないんですかね?つまり・・・・あの『魔術師殺し』と」
その言葉に一同は一斉に押し黙る。然も在りなん・・・相手は問答無用で標的をあらゆる手で葬る魔術師狩りを生業とする殺し屋だ。会談を申し込んだ所で一蹴される所かいきなり撃って来る事だって有り得る。
重い空気が漂う中、晴明の傍らに『十二天将』の一角『大陰』が現れた。
「どうした?」
晴明が問うと大陰が囁くように彼の耳元に近づく。そして、間もなく晴明の優雅な顔が瞬く間に歪み思わず大きな声を出す。
「なに!?」
その仕草に一同も何事かと眼を瞠る。それに対し晴明はどうにか冷静な顔に立ち戻って言う。
「・・・・ジル・ド・レェが大勢の子供達を暗示で連れ、アインツベルンの森に入ったと。それも死徒を数十名程従えて・・・」
一気に場が凍った。唯、マーリンは冷静に事態を把握しようと努めた。

ジル・ド・レェが死徒達と?手を組んだ・・・と見るべきか?しかし何故、アインツベルン城に・・・いや、それ以前にこれは―――不味いかも知れん。

「とにかく俺達も駆け付けるべきだ!早くしないと子供達が・・」
雁夜がそう言いかけた時、マーリンが即座に「待ちなさい」と制した。
「まずは作戦を考えるべきだ。救出はそれをやってからの事だ」
その言葉にルクレティアが最初に喰って掛かる。
「そんな!グズグズしていたら―――!」
しかし、それを遮るようにマーリンは言う。
「無策でノコノコ出て行けば、魔術師殺しの魔弾を浴びる事になる」
その言葉に全員がハッとなる。マーリンは更に続ける。
「先程も話した通り衛宮切嗣と言う男は聖杯を勝ち取る為ならば、如何なる手段をも辞すまい。例え今が名目上の休戦中で在ろうともな。あらゆる物を利用して勝ちに来る・・・そう人質になっている子供らでさえも―――」
「まさか!子供達を餌にッ!?」
ランスロットがその先を悟り激昂する。それに対しマーリンは冷静な面持ちで頷く。
「遠慮なく使うだろうね。それは彼の経歴から見ても一目瞭然だ」
「なんと・・・ッ、破廉恥なッ!!関係のない幼き命を勝つ為に利用するなどと・・・!その男には血が一滴も通っていないのかッ!?」
祐世はテーブルを両手でダンッ!と叩いて憤怒一色の顔で激怒する。
「最低・・・!」
伊織も軽蔑と怒りが入り混じった声で吐き捨てる。
「チッ!胸糞悪い野郎だな・・・・」
クー・フーリンも気に入らないとばかりに舌打ちする。
そんな中、マーリンは咳払いして話を進める。
「そこでだ。私に策がある」
その言葉に全員が喰い付くように耳を澄ます。
「まず、ランスロット、ディルムッド殿、クー・フーリン殿、李書文殿は君らのマスター達と共に救出へ回ってくれ。魔術師殺しの誘いに乗ってやろうじゃないか。一先ずはね」
その言葉にディルムッドがいの一番に異を唱える。
「馬鹿な!そのような外道の眼前に主を晒せと言うのか!?」
「でなければ、こちらも彼を誘いだせない。これは言うまでもない事だが、衛宮切嗣が現時点で消したがっているのはアルトリアの腕を槍の呪いで蝕んでいる君達だ。そして、次点での排除対象は恐らく、ランスロットと雁夜殿」
その言葉に今度は雁夜が眼を瞠る。
「どう言う意味だ?」
すると、マーリンは然も当然だと言う口調で答えた。
「どう言う意味も何もない。彼からして見れば、アルトリアのメンタルを乱しかねないランスロットの存在はハッキリ言ってマイナス以外の何物でもないだろうさ。今後を鑑みれば早急に消したいと考えるのは当然の事だ」
「つまり・・・餌には餌だと?」
ランスロットが厳しい眼を向け問うとマーリンは平静な顔で頷く。
「確かにマスターの姿を晒すのはリスクが高い・・・だが、マスターを隠しては肝心の彼が動かない。彼が主に狙うのはマスターだろうからね・・・・そして、私と奏が誘いに乗って来た彼を足止めする。と言ってもリスクが高い事は否定しない。もしマスター達に不服があるなら・・・」
「不服も何もありません!」
マーリンの言葉を遮るようにルクレティアが言う。
「今は一刻を争う事態です。やらせて下さい」
「ルクレティア様!」
ディルムッドが諫めるように声を上げるが、ルクレティアは彼の眼を見て言った。
「元より命を賭す覚悟でこの戦争に参戦したのです。なのにイザと言う時に足踏みなど、どうしてできるでしょう!何より今回は無関係の子供達の命も懸かっています。退くわけには参りません!」
それを聞いてマーリンも感歎の表情を浮かべる
「見事な覚悟だ・・・」
雁夜も意を決したように頷く。
「そうだな。俺も不服なんてない。何よりこんな女の子まで命を賭けるなんて言い張っているんだ。なのに大人の俺がみっともない所は見せられないよな・・!」
「雁夜殿・・・」
ランスロットが憂うように声をかけると雁夜は相棒に微笑んで見せる。
「そんな顔をするな。俺だって自分の身くらい自分で守れるさ。何より死徒とも戦い慣れているし、魔術師殺しの戦い方もこの眼で見ているわけだしな」
「私も乗るわ!ここで身体を張らなきゃ何時張るんだってえの!」
レグナは胸を張って頷き、鷲蘭も「ああ、そうだな」と瞳に決意の火を灯す。
「うむ・・それでは祐世殿やエルキドゥ殿、敏和殿に晴明殿にはここで留守居を頼みたい。ここの守りは堅牢と自負するが、流石に桜を一人にするわけには行かない」
マーリンの言葉に祐世も渋々頷く。
「うむ・・・私としてはその外道をこの手で凍りつかせたい所ではあるが、止むを得まい」
「うん。桜の事は僕達に任せて」
エルキドゥも自分の膝で眠っている桜の髪を撫でて頷く。
「分かりました。」
「お任せあれ」
敏和と晴明も力強く頷く。
「あの・・・それで私と道満は?」
一方、後に残った伊織が徐に手を上げ尋ねるとマーリンは朗らかに笑って言う。
「ああ、君達にはとても大事な役目がある」
その言葉に伊織も道満も?マークを頭に浮かべた。その時、ボルドフの隣辺りから別の声が突然、割って入った。
「その話、私も乗らせて貰おう」
その声と共に真紅の胸当てと腰鎧、黄金の肘当てと額にティアラを纏った鍛えられた身体つきをし長い柄を持った両刃の斧を手にした女性が現れた。
「その外道・・・私もアマゾネスを束ねる女王として見過ごせぬ」
「ボルドフ殿・・・彼女は若しや・・・」
マーリンの問いにボルドフは頷く。
「ああ、俺のサーヴァントだ。クラスはランサー。真名は・・・」
すると、マーリンはそれを遮って言う。
「いや、それは先程の彼女の言葉で察せる・・・アマゾネスを束ねる女王と言えば、彼のペンテシレイアぐらいな物だろう?」
その言葉にボルドフのサーヴァントは頷いた。
「如何にも我が真名はペンテシレイアだ。それはそうとブリテンの大魔術師よ。私も是非にその外道の足止めに加えてはくれぬか?」
暫く、マーリンが黙考した後、口を開いた。
「良かろう・・・ボルドフ殿はどうかな?」
ボルドフもそれに頷いた。
「ああ、俺も構わない。何より俺も切嗣に二三言いたい事はあるからな」
マーリンはそこで不敵な笑みを浮かべ言った。
「では作戦開始だ!」








そして、時は戻りアインツベルンの森・・・

「先ずはボルドフ殿とミス・ペンテシレイアが先行してくれる。どうも二人ともに魔術師殺しに二三言いたい事があるそうだしね」
マーリンは水晶で戦況を見ながら説明する。
「しかし・・・ペンテシレイアはあの騎士王のお嬢さんの願いを聞いた途端になんか気合いが妙に増したよな?」
奏の言葉にマーリンは「ふむ」と頷き言った。
「恐らく同じ王を務めた者として思う所があったのではないかな」
「それはそうと俺達は何時、突入するんだ?グズグズしていたら、魔術師殺しが雁夜さん達を狙える位置に移動するんじゃないか」
奏がそう問い掛けるとマーリンが頭を振って言う。
「と言っても私の宝具の発動には些か時間がかかる。それまではボルドフ殿達の健闘を祈るしかあるまい。そして、ランスロット達の健闘もな」

それと同時刻、ランスロットらはサーヴァントを従える死徒軍団とジル・ド・レェの海魔の群れを相手に劣勢ながらも善戦していた。
「チッ!このヒトデ野郎共、斬っても斬っても湧いて出やがる!」
クー・フーリンはゲイ・ボルクでサーヴァントや死徒を屠る傍ら海魔を薙ぎ倒しながらも、その都度、湧き上がるように現れる状況に毒づく。
「しかも、『必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)』ですら物ともしないとは・・・ッ!」
ディルムッドも驚愕に顔を歪めて信じられないと言わんばかりに黄の短槍を振るう。しかし、ランスロットはそれを自らも剣を振るって否定する。
「いや・・・ゲイ・ボウは間違いなく効いている。だが、見ろ」
その言葉にディルムッドだけでなく皆も海魔を切り殺した瞬間を見た。すると、飛び散った海魔の鮮血から瞬く間に別の海魔が湧き出て来た。
「この魔物達はどうやら自らの血肉を魔力に還元して召喚されるらしい・・・」
ランスロットの言葉にクー・フーリンは更に毒づいた。
「それじゃあイタチごっこって事じゃねえかよッ!」
「だったら―――」
そう言ってレグナは火で形成した戦斧を振り上げてそこから更に炎の大蛇を生み出す。
「その血肉ごと灰にしてやるだけよ!」
その言葉に従うように炎の大蛇は今にも海魔達を焼き尽くさんと襲い掛かったが、突如として出現した青白い炎の壁がそれを阻んだ。
「なッ!?」
レグナが驚きに眼を見開くと青白い炎の壁を作った術者らしき女性の死徒が嘲笑った声を出す。
「あらあら、敵は魔物だけじゃなくってよ。クスクス」
黒いローブを纏った黒髪の女性が獰猛な赤眼を光らせて言うと彼女の隣にいるサーヴァントであろうプラチナブロンドを靡かせた豪奢なドレスを纏った美しい貴婦人も品定めするようにレグナを見る。
「ほう・・些か猛々しさを感じるが、中々に若く美しい女子よのう。それに残りの女になり切っておらぬ女童や男装の女子も捨て難い・・・是非とも、その鮮血を我が身に浴びて見たい物よ」
その視線にレグナだけじゃなくルクレティアや鷲蘭もゾッと背筋を凍らせた。それを守るように彼女達のサーヴァントの殺気が貴婦人のサーヴァントに注がれる。すると、貴婦人は大仰な身振りで喚く。
「おお、怖い!怖い!血に飢えた番犬共が妾を睨んでおるわ!そなたら飼い犬の躾と言う物がなっておらぬなあ・・・なれば、妾が代わって躾けてくれようぞおおおおおおッ!!!」
その言葉と共に彼女の背後から白石造りの美しい外観の城が出現する。
「投影魔術!?」
レグナが畏怖を感じさせる声で呟く。その声を貴婦人は快悦に満ちた笑みを浮かべて手招きするような仕草で言う。
「さあ、来るが良い・・・・そなたらを我が居城に招待しようぞぉ・・・このエリザベート・バートリー直々にな」
「エリザベート・バートリー!?多くの少女を惨殺しその血を浴びたと言う・・・ッ!?」
ルクレティアの言葉に貴婦人はニンマリと頷く。
「左様じゃ。妾こそ、そのエリザベート・バートリーよぉ」
それに対しクー・フーリンは顔に冷や汗をかいて言う。
「おいおい、そいつは英霊所か悪霊同然じゃねえかよ・・・・青髭の野郎もそうだが、今回の聖杯はマジでやばいんじゃねえか?」
「だわね・・・」
レグナも顔を引き攣らせて答える中、エリザベートは挑発するように甲高い声を上げ続ける。
「どうした!?いつまで待たせる?まさか、もう怖気づいたのかえ!?早う来ぬか!我が居城へ!!」
(冗談!なんで明らかに罠と分かり切っている所へ行かなきゃなんないのよ!)
レグナは油断なく炎の戦斧を構えながら間合いを取る。
(それ以前に私達の後ろには子供達が・・・それを置いて敵のテリトリーに踏み入るなど愚の骨頂だ!)
鷲蘭も双剣を両手に子供達の前を一歩も動かずに敵を見据える。そして、ルクレティアは冷静にこのサーヴァントを分析していた。
(それにエリザベート・バートリーと言えば、その逸話から考えても該当するクラスはジル・ド・レェと同じキャスター。そして、あの宝具で在ろう居城は間違いなく彼女の魔術陣地!明らかに誘いをかけている・・・であるならば、彼女に肉体的な戦闘能力は皆無と見ていいのでしょう。見た所、ジル・ド・レェのような召喚魔術を習得していると言うわけでもなさそうですし・・・それに彼女自身、生前の魔術師としての格は然程高いと言うわけでもない。それは現在、見えている彼女のステータスから見ても明らか!やはり、ここは―――)
誘いに乗らず、あちらからの攻撃を迎え撃つべきと彼女が断じた瞬間、白亜の城の窓から凄まじい絶叫と共に青白い霊魂が無数に飛び出し彼女らに向かって来た。それを空かさず彼女達のサーヴァントは各々の宝具で弾き飛ばしたが、次の瞬間に霊魂が生々しい子供の悲鳴を上げ消えていった。彼らはそれに呆然となるが、良く見るとその霊魂は苦悶の表情を浮かべる幼い少女の姿をしていた。それによって彼らは全てを悟った。
「まさか・・・これは・・・ッ?」
ルクレティアが震える声で言うとエリザベートはケラケラと笑いながら答える。周囲に少女の霊魂を侍らせながら。
「アハハハハハハハハハハハハハハハハハアッ!!そうよ!それらの霊魂は皆、此度の聖杯戦争の際に掠め取り我が居城にて取り込み時間を掛けゆっくりと全ての血を絞り尽くしてくれた女童よ!本来は妾の魔力供給を行う役割を担う為の物じゃが、こうして射出する事で攻撃に転じさせる事もできる・・・
これぞ妾の至高の宝具『血に濡れし白亜の虚城(チャフティツェ・フラド)』よおおおッ!!」
再び、慟哭を轟かせて少女達の霊魂が襲い掛かる中、ルクレティア達は怒りに顔を歪め歯噛みすると同時に幼い少女の霊魂に攻撃を加える事に若干の躊躇を覚える。
(既にどうしようもない事は分かっている!けれど―――!)
ルクレティアがそう逡巡しかけた時、彼女達の後方から無数の飛針が飛び霊魂を打ち消して行った。彼女達がハッとなって後ろを振り返ると雁夜が唇を噛み血を滲ませながら飛針を手にしていた。レグナは若干、顔を顰め・・・
「ミスター雁夜・・あなた・・・ッ!」
雁夜はそれを遮るようにして言う。
「・・・・ッ!今、俺達の後ろには子供達がいるッ!ここで躊躇すれば、この子達も奴の玩具の仲間入りだッ!」
その言葉に三人はハッとなった後、頷く。その通りだ・・・ここで後ろの子供達まで守り切れなかったら何の為にここで出張ったのか!その意味がなくなってしまう!
「はい・・そうですね」
ルクレティアは両手で火と風を練り上げ霊魂に向け手裏剣のように投げ打ち消す。
「まったくだ・・・!」
鷲蘭も火を纏わせた双剣でそれを弾く。レグナも火の戦斧でそれらを切り裂く。それに呼応するように彼らのサーヴァント達も全力で霊魂や海魔達、サーヴァントを薙ぎ払って行く。
だが、それでもエリザベートは何ら臆す事なく寧ろ、ますます甲高い声を上げいい気になって霊魂を飛ばし続ける。
「フハハハハハハハハハハハハハハハハッ!調子付きおってッ!!だが、全て徒労よ!霊魂を打ち消せば、すぐさまに我が居城に還元され再び我が魔弾となる!そんなイタチごっこが何時までも続くと―――なに?」
そこでエリザベートは異変に気付く。先程から打ち消された霊魂がこちらに還元されていないのだ。数も徐々に減って来ている。何故―――?そう思いかけた時、自分達の上から轟く凄まじい轟音によってその原因・・・正体が明らかになった。自分達の上空を見上げると無数の蜂が大挙して自分達に狙いを定めていた。
「な・・何よッ!あれ!?」
リオンもいつもの余裕ある顔を引き攣らせて蜂の大群を見て思わず背筋に冷や汗をかいた。すると、自らのサーヴァントであるチェーザレが彼女の前に出て言う。
「下がれ、リオン。何やら雲行きが怪しくなった」
そう言っている内に蜂は一斉に死徒達目掛けて飛来して来たエリザベートのマスターは青白い炎を以って焼き払おうとするが、蜂達は焼き払われる所か寧ろ、炎の勢いの方が見る見る弱くなり蜂達の勢いが更に増した。
「なッ!?」
エリザベートのマスターはその法則を著しく無視した現象に面を喰らいながらも危険を察知し一端、エリザベートの城に逃げ込む。
一方、リオンも風の刃を以って斬り裂こうとするが、それも全く効かず蜂の勢いを止める事すらままならなかった。
「ああ!イラつくぅッ!!なんで、こんな虫けらどもを消し飛ばせないのよッ!?」
すると、チェーザレはリオンを後ろから抑え自分の緋のマントの中に隠す。突然の従者の行動にリオンは怒鳴りながら不平を並べる。
「ちょッ!いきなり何すんのよ!?邪魔しないでッ!」
だが、それに対し従者の答えは素っ気なかった。
「良いからこの中にいろ。あの蜂は唯の蜂ではない」
「はあッ!?」
リオンが訳が分からないと言う声を出すが、それも近付いて来た轟音に掻き消された。
一気に降下して来た蜂の大群は海魔や死徒達に振り払う間すら与えず取り付いて行く。彼らのサーヴァント達は主に取り付いた蜂を薙ぎ払おうも如何せん、全員が正気を失くしたバーサーカー。令呪で「自分達の命令がない場合は自分達マスターの敵を殺せ」と命令は受けているものの、その間もなく蜂の大群に取り付かれては命令も発せるはずもなく、ただ、荒れ狂うままに暴れるばかりだ。いや、そうでなくともミクロン単位とまでは行かずとも極小の蜂の大群を振り払う術など、さしものサーヴァント達にも在ろうはずはなかった。やがて、蜂達は全ての獲物に取り付き終わった。その姿が蜂によって掻き消されると言う程に―――!
その時、死徒達から絶叫は轟かなかった。否・・轟いたとしてもこの蜂の轟音で掻き消されただろう。全てが終わった後、蜂は獲物から離れて行ったが、そこにその獲物は骨すら残らなかった・・・死徒達だけに関して言えば、残ったのはその服の残骸だけだった。すると、死徒達のサーヴァントは依り代を失くした事で徐々に光に包まれて消えて行った。全てが終わった後、出て来たリオンとエリザベートのマスター達は余りの事に唖然とする。辺りを見渡せば、息をしている死徒は今や自分達二人を含めても数名だけでしかも、相当に疲弊しているらしかった。更には顕在しているサーヴァントもチェーザレとエリザベート、唯一人だけマスターを連れてなかったジル・ド・レェを含め過半数以下しか残っていなかった。
「な・・・何よ?これ・・・・?」
リオンが呆然と呟くと同時に蜂の大群は全て主の―――雁夜の元に集まり先程の獰猛さはどこへやら静かに佇んでいた。一方、それを見たエリザベートのマスターは恐怖に眼を慄かせ呟いた。
「・・・・・・・・ホーネット・・・・・ッ!?」
「はあ!?何それ?」
リオンが小馬鹿にしたような口調で問うと雁夜は嘆息をついて答える。
「確かに・・・そう呼ぶ奴もいるみたいだな」
その答えにエリザベートのマスターは一層、顔を恐怖に歪める。唯一人リオンだけが?マークを浮かべていたが、レグナ達までも愕然とした眼で雁夜を見ていた。
「嘘!?ミスター雁夜!あなたがあの“ホーネット”!?あの『執行者殺し』とも言われている!?」
レグナが畳み掛けるように問うとクー・フーリンは「何だ、そりゃ?」と怪訝な顔を浮かべると彼女に代わって鷲蘭が答える。
「一言で言うならフリーランスの魔術師及び怪異専門の狩人だ。聖堂教会を相手に仕事をしているんだが、主に狙うのは行き過ぎた研究・・・有り体に言えば、人道に抵触した魔術師や死徒などの怪異・・・つまり、一般の人々に害を為す者達のみを狩っている。ただ、名前も姿も秘匿しているのだが、大きな特徴として魔力を吸い取る針や蜂の群れを使役する事から“ホーネット”と呼ばれている」
「ほお・・・それで『執行者殺し』とはどう言うわけでついた二つ名じゃ?」
李書文は興味深そうに雁夜を見て問い掛ける。それに対し雁夜は「いや、それは・・」と顔を逸らすと代わってルクレティアが答える
「ただ、ホーネットは一応は教会の雇われと言う形ですから当然なのですが、魔術の秘匿を徹底している魔術師であっても人道に抵触した行いをしていれば、立ち所にその研究成果ごと魔術師を葬ってしまうので魔術協会から顰蹙を買う事も珍しくなくある日、とうとう外道の魔術師が遺した研究成果を巡って数十名の執行者とたった一人で小競り合いをする事になったのですが・・・・その執行者達も一人残らず狩ってしまったが故に『執行者殺し』と言う名が出回ったと父が言っていました。けれど・・・まさか、それが」
ルクレティアも興味深げな視線を雁夜に注ぐ。一方、雁夜は居た堪れないと言う顔でその視線を逸らし続ける。
一方、リオンはと言うと嘲り顔を浮かべて悪態をつく。
「はん!成程ねえ・・・衰退した間桐の水属性の特性は“吸収”・・・それを馬鹿正直に吸い取る魔術を只管に極めたってわけ」
「ああ、才能ない奴は才能ない奴なりに工夫をしないとこんな稼業はとても、こなせないんでね」
雁夜が肩をすかして言うとリオンはその顔に醜悪な笑みを浮かべ獰猛な赤眼を光らせる。
「そう・・・つまり、あんたの頼みはその蜂共だけってわけね・・・なら―――」
すると、リオンの姿は一瞬で消え去り瞬時に雁夜の真ん前に来る。
「蜂共を動かす前に息の根を止めるだけだわ!こう見えてあたしってば、格闘技も齧って―――ッ!」
今にもその牙を雁夜に突き立てようとした瞬間、リオンは鳩尾に掌底をモロに喰らい血反吐を吐いた。
「ガハアッ・・・!」
「齧った程度じゃ話にならない」
雁夜は冷たい声で吐き捨てると掌底を抜いて瞬時にリオンを蹴り飛ばした。すると、辛うじて生き残っていた他の死徒達も我先にと人間を遥かに超える速さで突っ込んで来るが、雁夜はそれを臆す事なく真っ直ぐに見据え、難無く捌いては飛針を打ち込み次々と仕留めて行く。
その動きはリオンの眼から見れば、限りなく地味で雁夜のような如何にもお安そうな男にお似合いだと傲慢に思っていたが、その動きは地味でありながらも最短且つ最大のダメージを的確に死徒達に叩き込んでいった。すると、それで仕留められた数名の死徒のサーヴァントが次々と消えて行った。
(これって・・・詠春拳って奴!?確か中国拳法の中でも実戦に特化しているってあの・・・てか、この安上がり男、そんな技まで!つーか、アイツってば本当に人間!?あたしの身体能力は死徒化によってサーヴァント程ではなくとも著しく向上じているはずなのに!)
リオンが忌々しげに顔を歪めると不意に雁夜の鋭い視線を受け、思わず身を強張らせた。
「さて、これでお前らの戦力は大幅に削られた・・・・形勢逆転だな」
その言葉にリオンはこれまでにない程、顔を屈辱に歪めた。
(ちっくしょう〜〜〜〜〜ッ!!てか、この中で真っ当な知名度のある英霊なんてあたしのチェーザレと気違いのジル・ド・レェやエリザベートぐらいしかいないのよ・・・他の奴らは歴史書にも乗らないような格の低い連中ばっかり!おまけに全員バーサーカーと来やがった!マスターが死んだ途端に魔力が枯渇してすぐに消えやがって・・・こんな体たらくの連中でたった四騎とは言え、何れも名だたる英雄であるこいつらに敵いっこないわ!おまけにマスターの一人・・・それも付け焼刃だと思ってた間桐のマスターがこんなバケモノだったなんて!!)
リオンは拳を血が滲む程に握り絞める。一方、レグナ達やサーヴァントも雁夜の大立ち回りと普段の物腰から想像できない凄みにグウの音も出ないようだった。
「桐生さんとの戦いで、とても付け焼刃の魔術師には見えないとは思っていたけれど・・・これは・・ひゃあああ」
レグナは思わず素っ頓狂な声を出す。
「戦い慣れている所の話じゃないぞ・・・・」
と、鷲蘭も感歎の声を出す。クー・フーリンはヒュウ♪と口笛を吹いてランスロットに言う。
「お前のマスター、結構、イカしてんじゃねえか」
「その賛辞、ありがたく受け取るとしよう」
ランスロットも主の奮闘振りに眼を瞠りながらも誇りに思い深く頷いた。









その頃、アインツベルン城ではその戦闘の様子を見ていた切嗣たちも驚嘆していた。
「おい・・・ランスロットのマスターは付け焼刃の魔術師だって言ったのはどこのどいつだよ・・・?」
ガルフィスは顔を引き攣らせて誰に問うでもなく呟く。すると、切嗣も普段の無表情を装いながらも嘆息をついて言う。
「さあ・・・誰だったろうね」
切嗣も正直に言ってこれには頭を抱えた。今まではランスロットのマスターに関しては間桐の後継になれなかった落伍者が付け焼刃の魔術師になって参戦したぐらいに考えいつでも殺せるぐらいに想定していた。故に当初は泳がせるつもりだったのを偶々、従えているサーヴァントがセイバーの精神面にこの上ない影響を与えかねなかったサー・ランスロットだったからこそ次点での排除対象にしたと言う程度の脅威でしかなかったのだが、いざ蓋を開けて見れば、とんだ見当違いだ。今の戦闘を観る限り間桐雁夜はかなり・・・いや、相当に熟練した戦闘職の魔術師である事は明らかだ・・・そして、身体能力は最低でも代行者クラスであると想定・・・更には魔力や死徒の血を吸い上げる魔蜂の群れと言う自分の起源弾とは違った意味で魔術師殺しに特化したのみならず通常の殺傷能力も極めて高いであろう礼装まで持っている。考えていた以上の脅威だ・・・
と、切嗣が内心で頭を痛めていたのと対照的にアルトリアはホッとしていた。
(良かった・・・・恐らくジル・ド・レェ達にこれ以上の抵抗は無理だろう。これだけの戦力を失ってはランスロット達から後ろの子供達に害を為す事など到底できまい)
だが、彼女の安心は他ならぬ彼女の主によってまたも打ち砕かれる。
「舞弥、藤二、ガルフィス、三人とも武器を準備してくれ。これから残りのマスターを狩り取る」
その言葉に全員がまたも絶句する。そこで最初に異を唱えたのはアイリスフィールだ。
「でも、戦闘は殆ど終息しているわ・・・なのに不意討ちの隙なんて・・・」
「だからこそさ。人間が一番油断をするのは終わりが近くなった頃だ。緊張状態が一度、途切れると周囲の警戒が驚く程にお粗末になる物だからね」
次に藤二が口を出して来る。
「だが、間桐雁夜を殺せば、彼の魔蜂が暴走する危険性があるぞ」
その懸念に対し切嗣はにべもなく言う。
「RPG−7を使う。あの魔蜂が吸い取るのは恐らく主に魔術的な現象だ。だったら物理的な火力には極端に弱いはずだ。それに先程の攻撃で全ての死徒を喰らい尽くせたはずなのに敢えて残した。恐らくあの魔蜂にも吸い取れる容量と言う物があるんだろう。だから、敢えて残したんじゃない。残さざるを得なかったんだ。例え撃ち損じてもすぐに食事を始める事はないさ。これでマスター達を一掃する」
「切嗣!それでは子供達まで・・・ッ!!」
アルトリアが制止するように大声を上げるが、切嗣はこの上もなく冷たい声で一蹴する。
「だから、どうでも良いだろう?言ったはずだ。ここであの子供達を助けたって何の意味も・・・」
「お前にはないが、あの子達や彼らの親にはあるさ」
その時、切嗣の言葉を遮るようにボルドフの声がした事で切嗣たちはハッとなって声がする方角を向くとそこにはショットガンを右手に左手にデザートイーグルを手にしたボルドフが佇んでいた。
「ボルドフ・・・ッ!?」
切嗣は何時にない程、動揺した声を発する。それにアイリスフィールは怪訝な声で夫に問う。
「切嗣、知り合いなの?」
その問いに藤二が代わって答える。
「彼はボルドフ・グヴィン。傭兵団『白銀の餓狼』の首領で代行者クラスの戦闘力を持った魔術傭兵だ。そして、切嗣や俺達が何度か戦った相手でもある」
切嗣はすぐに動揺を振り払いいつもの冷徹な顔と声で口を開いた。
「一体、何の用だ?僕は見ての通り取り込み中なんだが?」
「なに・・俺も教会から民間人の警護と獣共の討伐を依頼されてなあ。んでもって・・・今はお前の足止めを外で身体張っている連中から頼まれたって訳だ」
そう言ってデザートイーグルを切嗣に向ける。それに対し切嗣は冷たい声で返す。
「なら・・お前は僕の敵だ」
すると、ボルドフはやれやれと言う仕草で嘆息をつく。
「相も変わらず、どうしようもない無意味で愚かしい夢を見てんのか?いい歳して、妻子まで持って」
その嘲るような物言いに切嗣は何時にない程の憤激を瞳に湛えた。だが、ボルドフはそれに臆す事もなく更に言い募る。
「悪い事は言わねえ・・・止めとけ。この世から戦争を本気で無くそうと思えば、人間を滅ぼすか若しくはそれこそ人間をお前のような精密機械を動かす為の部品に貶すしかなくなる。そんな在り方が人だとお前は本気で思っているわけか?」
すると、切嗣はにべもなく返答する。
「そんな事は有り得ない。僕はそうなる以外の道があると思ったから、この戦いに身を投じた。そして、それを叶え得るのが聖杯だ」
その返答にボルドフはまたも大きな嘆息をつく。
「確かに・・・・こりゃ救いようがねえわ。こうなりゃ俺が無理矢理にでも目を覚まさせてやるしかねえようだな」
「・・・・どうあっても僕の邪魔をするのか?ボルドフ!!」
切嗣の最後通告とも言える問いにボルドフもにべもなく頷く。
「おおよ。そりゃ確かにお前の平和を願う気持ちは尊いんだがなあ・・・・それ以前にお前の願いは色々と矛盾している上に色々と取り違えてんだよッ!!」
そう言ってボルドフはデザートイーグルの引き金を引き火を吹かせた。

その様子を水晶で見ていたマーリンは満足気に微笑む。
「ふむ・・・先ず順調と言って差し支えないね。ランスロット達の方も一段落が着いたようだし」
「キャスター。宝具の発動は?」
奏が問うとマーリンはニヤと不敵に笑う。
「もう間もなくだ。さて・・・」
マーリンは不意に水晶に映るアルトリアに眼を注いだ。それと同時に在りし日の光景と彼女が自分の忠告に対して答えた言葉が過ぎっていた。

『多くの人が笑っていました。それはきっと、間違いではないと思います』

「皆は・・・・笑っていたのではなかったのか?アルトリア・・・・」
マーリンは水晶の向こうに映る娘に奏が聞き取れない程に小さな声で呟いた。




と言うわけで・・・・雁夜さんが輝く回でした。本当にすいません。と言うか雁夜さんを強化させ過ぎと言う人いたら本当にすいません。
次回からは正真正銘、マーリン大先生が暴れられます。



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