Fate/BattleRoyal
33部分:第二十九幕

第二十九幕


 ――― ケリィはさ、どんな大人になりたいの? ―――

そう自分に問いかけた少女は永遠に失われた。彼女自身が尊敬していた他ならぬ、自分の父の手前勝手な研究によってその人生を蹂躪された末に・・・自らが眼を背けたばっかりに・・・






「セイバー!今すぐにシャーレイを援護するんだ!!」
突如、それまで憮然とした態度で押し黙っていた切嗣から放たれた命令にアルトリアは元よりマーリンすらも驚愕の表情で切嗣を見るが、切嗣は意にも介さずセイバーに命じる。
「何をしている!?早くシャーレイを助けるんだ!!」
「き、切嗣、シャーレイとは一体・・!?」
その剣幕に戸惑うアルトリアにマーリンは戦場で白銀のシャムシールを振う褐色の肌をした黒のポニーテールの女性を指差して言った。
「アルトリア、恐らく彼が言っているのは彼女だ。行ってやりなさい」
「は、はい!」
アルトリアは頷いて早速、彼女の元へと駆けて行った。そして、残ったマーリンは吊り上げている頭上の風船型結界に取り込んだ切嗣を見た。だが、切嗣はマーリンの怪訝な視線など気にも留めず“シャーレイ”と呼んだ女性を凝視していた。
今、切嗣にとっては何故、彼女が―――シャーレイが生きていたかよりも今、彼女は戦場の只中にいる!随分と加勢も増えたようだが、それでも数と言う差を縮められたと言う程の事でもない!何としても救わなければならない!今度こそは!!
マーリンはその様子を黙したまま見ていたが、そのような悠長に構える時間は彼にはなかった。そして、それは切嗣がシャーレイと呼ぶ女性の救援に向かったアルトリアも同様だった。突如、二人に高密度に練り上げられた魔力のエネルギー波が襲い掛かって来たのだ!マーリンはそれを自らも魔力を練り上げたエネルギー波をぶつける事で相殺し、アルトリアも風に隠された秘蔵の名剣を以って弾き飛ばした。そして、二人がハッとなり天空を見るとそこには先程までアコロンが登場した事により戦意を半ば喪失していたモルガンが己が瞳に凄まじいまでの憎悪と殺意を燃え滾らせ、未だ魔力の残照が残る両手をそれぞれマーリンとアルトリアに向けていた。そして、次の瞬間には暗い笑みを口元に浮かべる。
「漸く・・・漸く会えたわねえ!アルトリア!!マーリン――――ッ!!!!」
そう叫ぶと瞬時に手早く高速神言で大魔術の詠唱を為し術式を発動させ、マーリンとアルトリアもそれに備える!



眼の前に、あの男が現れた・・・・!あの恥ずべき卑劣漢がッ!!

片腕をもがれた獣は痛みすら忘れ一心不乱に残る腕で嘗ては眼前にいる怨敵の物だった牙を振い、その怨敵へ突き立てようとするだが、怨敵が持つ白い槍で難無く受け止められる。それでも尚、獣は牙を振う事を止めない。寧ろ、苛立ちすら募らせながら、動きに益々荒々しさを増して行く。

この恥知らずの老い耄れがッ!老醜がッ!!このぉ・・・ッ老害めがああああああああッ!!!

だが、そんな中、その怨敵が不意に漏らす。
「やはり・・・・お前は、この私を心底恨んだまま逝ったのだな・・・」
その言葉に獣は込み上げて来る怨嗟と憤怒と言う名の激情を更に迸らせた。

恨む?ああ、そうだ・・・!そうとも・・・!あの時、()ではなく貴様が・・・貴様こそがッ―――貴方こそがあそこへ横たわるべきだったんだああああああああああああッ!!!


「Fiooooooooooonnnnnnnnnnnnn―――!!■■■■■■■■■■■■■■―――ッ!!!!」
オスカは祖父の名の獣の断末魔の如く叫び続け、その祖父に祖父の剣を以って斬り掛かり、容赦のない斬撃を浴びせ続ける。それをフィンは静かな眼で受け続ける。それをルクレティアにディルムッド・・・そして、彼のマスターであるルナは見守り続けていた。
「本当に・・・大丈夫なのでしょうか?」
ルクレティアが思わず呟くとルナは「さあ、どうかしらねー?」とマスターである自分すらも疑問形で答えた。だが、その後に「でも」と付け加えて言った。
「多分、今のあいつなら大丈夫でしょう・・・」
ルナはそう言って、つい先刻の事を思い出していた・・・・









「ほら、さっさと行くわよ!いつまでもグズグズしない!!」
ルナはそう声を張り上げて、後方でトボトボと歩いているフィンを叱咤する。だが、尚もフィンは顔を俯かせ憂鬱な溜息ばかりをついている。
ルナは舌打ちして頭を抱える。
(たくっ・・!でかい図体の癖して小心者なんだから!!いくら緊急事態だからって、これじゃあ却って足手纏いかしら?)
ルナはパートナーのフィンが嘗ての臣下であるディルムッド・オディナと顔を合わせる事を厭い、愚図っていたので今日の間桐邸での会合は見合わせる事にしたのだが、その直後にレグナの使い魔で急を告げられ、尚も渋るへタレの尻をひっぱ叩いて標的が子供達を連れて向かったアインツベルンの森へと馳せ参じたのだった。
「そうは言っても、ルナ・・・やはり今更、彼の前に顔を出した上、共闘を申し出るなど厚顔無恥も甚だしいのではないだろうか・・・?」
フィンはこの期に及んでも尚、ブツブツと後ろ向き(ネガティブ)な発言を垂れ流している。その言葉にルナは振り返り、満面のドヤ顔で凄んだ。
「お黙り!」
「ひぃぃッ!!?」
その凄みにフィンは一気に委縮されて呻く。そんなフィンにルナは一層眼を吊り上げて言う。
「あ・の・ね・え!今この時にも私の仲間やあんたの臣下が身を削って戦ってんのよ!だったら、ここで動かない方がよっぽど、あんたの臣下達に顔向けできないでしょうがッ!!」
「ぐぅ・・・そ、それは・・・」
フィンもそれにはグウの音も出せず口ごもった。それに対しルナは、このへタレ王の無骨な腕を引っ張って引き摺った。
「さあ!とにかくグダグダ言ってないで行くわよ!!もう戦闘は始まっているわ!それで今度こそ、あんたの醜態を挽回しなさい!!」
そう言ってズイズイとフィンを引っ張って森深く進むと、そこに見知った顔があった。それを視認したルナは思わず素っ頓狂な声を上げた。
「シルヴィア!?」
その声でシルヴィアもルナの姿を認め声を上げた。
「ルナ!?」
「なにシルヴィア?彼女あんたの知り合い?」
隣に居た褐色肌の女性が首を傾げて問い二人のサーヴァントらしいこれまた褐色肌の青年と騎士装束を纏った少女も怪訝な眼でルナを見る。それに対しルナは自ら名乗った。
「私はルナ・バートゥンよ。シルヴィアとは同門で盟友って所ね」
「へえー、まだ味方がいたってわけね。私はシャルリア!よろしく!」
褐色肌の女性―――シャルリアは陽気に笑って握手を求めルナもそれに応えた。そして、次にシャルリアのサーヴァントであろう青年が名乗る。
「俺はシャルリアのサーヴァントであるセイバー。真名はアリー・イブン・アビー・タ―リブ」
「よろしく!彼の大英雄たるカリフに会えるなんて光栄だわ。それであなたは?」
ルナは次にシルヴィアのサーヴァントである少女に問うと少女も天使の様な笑みで答える。
「初めまして。僕はシルヴィアのサーヴァントのセイバー。真名はジャンヌ・ダルクです」
それにルナは少し驚いたような顔になる。
「あなたが今回暴走しているジル・ド・レェ伯が探し求めている聖処女その人?」
「おい、ルナ!」
その遠慮がない物言いにシルヴィアが窘めるような声を出すが、ジャンヌは首を振って言う。
「ううん。大丈夫だよ、シルヴィア。事実なんだから・・・・」
それに対しルナも何時になく殊勝な顔になって謝る。
「いいえ、こっちも無神経過ぎたわ。ごめんなさい。さて、後は私のサーヴァントを紹介するわ。ランサー、名乗りなさい!」
そして、後ろで俯いているフィンを促した。それに対しフィンも渋々と名乗った。
「私はサーヴァント・ランサー・・・・真名は・・・・フィン・マックールだ」
「ほう・・・貴公が彼のアイルランドの老獪王か?それにしては随分と覇気が一欠片も感じぬが?」
アリーは値踏みするような眼で一瞥し無遠慮な一言を投げ掛け、ジャンヌは「アリー・・!」と窘める声を上げるが、アリーは構わずに続ける。
「そのような付抜けた面で戦場に出られては却って迷惑だ。お引き取り願おうか」
その言葉にルナも頭を抱えて言った。
「はあー、やっぱり?そうよねえ・・・こんな様じゃ死にに行くようなもんだわ」
その言葉にフィンは更にシュンと項垂れる。それに対しルナは苛立ち混じりに舌打ちする。
(―――たっく、もう―――!奮起させようと言ったのにそんな事も分かんないのかしら!!この木偶の坊はッ!!?)
などと言う遣り取りの中、もう一組の魔術師(マスター)英霊(サーヴァント)が加わった。
「お取り込み中に失礼するよ」
そう言って漆黒の修道服に身を包んだ紺色のショートカットの青年が声を掛けて来るとシャルリアがやっと来たと言わんばかりに声を上げた。
「あ、ディアン!遅かったわね」
その名にシルヴィアは驚いた顔で尋ねる。
「ディアン!?もしかして、聖堂教会最強の代行者にして『死神の化身』と言う二つ名を持つ、あのディアン・マクマートか!?」
それに対し修道服の青年―――ディアンは穏やかな笑みを浮かべて頷く。
「最強かどうかはさて置き、如何にも私がそのディアン・マクマートだ。よろしく。それと私の隣にいるのは、私のサーヴァントでクラスは『セイバー』、真名はサー・アコロンだ」
その言葉に彼の隣に控えている明るい金髪の少年騎士がパープルの瞳をまっすぐ周囲に注ぎ挨拶した。
「初めまして。僕がディアンのサーヴァントであるアコロンです。クラスは先程も言った様にセイバーとして現界しました」
「アコロン?何か聞いた事がない名前の英雄ね?」
ルナが怪訝そうに首を傾げるとアコロンは苦笑して言う。
「それはそうですよ。僕は英雄と言うより、どちらかと言うと――『アコロン!?ふぉー、久しぶりじゃないかね?』・・え!?」
そこから更にもう一つの声が割り込んで来た。そして、皆がその方向を見ると、そこには漆黒のローブに身を包んだ銀髪の少年の虚像が投影されていた。それにアコロンは怪訝な顔で問う。
「君は・・・?」
すると、銀髪の少年は朗らかな笑みを浮かべて言う。
『あはははははは!この姿じゃ分からぬのも無理はないな・・・私だ、マーリン・アンブロジウスさ』
その名にアコロンのみならず、その場にいる全員が絶句した。無理もない・・・彼のアーサー王伝説をプロデュースした大魔法使いがこのような少年だと言われれば、眼を丸くせずにはいられない・・・!特にアコロンは信じられないと言う面持ちで問う。
「本当に・・・マーリン殿でいらっしゃるのですか!?」
それに対しマーリンは鷹揚に頷いて答える。
『ああ、そうとも。どうだね?随分と見違えた姿だろう』
そう言ってクルクルと回って、のたまうマーリンにアコロンは「は、はあ・・・」と曖昧に答えた後、疑問を口にした。
「しかし、マーリン殿。何故、貴方がこのような所に・・・・」
『うむ。私もここに現れた死徒達と戦っていてね。私の固有結界に閉じ込めたまでは良かったが・・・・モルガンが増援を引き連れて乱入してきてね』
「!?」
アコロンがその言葉に身体を強張らせるとマーリンは半ば嘆息をついて指をパチンと鳴らして空間に歪みを生じさせ、そこから結界内の様子を投影させていた。そこには空中で浮遊するモルガンや下では海魔などを次々と召喚させて攻め寄せるジル・ド・レェを筆頭とした死徒やサーヴァントの軍勢が津波のように押し寄せる様が映り、ジャンヌの顔に翳が差し始める。
『と、ご覧のような有り様でね。正直、今は猫の手も借りたいような有り様だ。加勢してくれるなら、これ程有り難い事はない』
「無論だ、元より我らはその為に参じたのだからな」
アリーはにべもなく即答しジャンヌも強い決意を瞳に湛えて頷く。
「そうね。私達も―――っと・・・」
そう言おうとしてルナはフィンの方を省みて口を噤んだ。
(何しろ、この様だからねえ・・・どうしたものか―――)
そう思い自らのサーヴァントの方を振り返ると思わずルナは何時にない程、戦慄した。その理由はフィンの顔が先程の覇気のない顔とは一転して正しく『戦者の王』と言うべき風格を滲ませる程に精悍な物へと変わっていたからだった。
(なに?突然にどうしたわけよ、こいつ!?)
ルナは唐突に様変わりした自らのサーヴァントに怪訝な眼を向けるが、その理由を彼は自ら語った。
「ディルムッド・・オスカ・・」
「え!?」
ルナはその言葉に驚きを顕わにするとフィンの視線を追って戦況が映し出されている歪みの中で二人の騎士が鍔迫り合いを繰り広げている姿を見た。一人は赤い長槍に黄の短槍を持った右眼の泣き黒子が印象的な美丈夫の騎士・・・恐らく彼が『輝く貌』の異名を持つディルムッド・オディナなのだろう。そして、そのディルムッドにどす黒い魔力を放出しながら、獣の如き形相と疾駆で獰猛な剣戟を浴びせている見事な金髪の少年騎士が―――フィオナ最強の騎士と謳われ、フィオナ首領のフィン・マックールの孫である『鋼で覆われた角』のオスカ・・・!その獣の如き形相と咆哮からしてバーサーカーのクラスで召喚されたらしい。
「ほう・・・この戦者達がフィオナの『輝く貌』と『鋼で覆われた角』か?ふむ、二人とも伝承に違わぬ益荒男どもよ。しかし、この聖杯戦争はつくづく懐かしい顔が出揃う確率が高いな」
アリーは口調とは裏腹に複雑そうな眼をフィンに向ける。恐らくまた、フィンのメンタルを危惧しているのだろうが、ルナはこう思っていた。
(けど・・・もう、そんな心配は無用って奴かも。だってさあ―――)
ルナはそう思わず口元を綻ばせてフィンの今までにない程に力強く覇気に満ちた相貌を見て確信する。
(こいつ、今最高にイカした面構えしているし!)









「だから、もう大丈夫よ」
ルナはまるで子供の成長を喜ぶ母のような眼差しをフィンに送っていた。ルクレティアは尚も心配そうに戦況を見守り、ディルムッドは嘗ての主と親友を黙して刮目していた。

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■――――!!!!」
オスカは一歩も下がらず、祖父の剣をその祖父に突き立てんと狂気と殺意の赴くままに振り上げ続ける。その理性の欠片も残されてはいない獣の瞳からは止めどなく血の涙を流し続けている。フィンはそんな孫の荒々しい斬撃を極めて巧みな動作で受け流している。狂化されている分、オスカの身体ステータスはフィンを上回っているに拘らず、未だに決定打一つ打てなかった。それにオスカは半ば苛立ったのか、更に強大な魔力を放出させパワーを上げ、渾身の力を『辟邪の白星剣(マック・ア・ルイン)』に込め振り上げた―――が!フィンもそれを宝具でもある白槍『辟邪の白薔薇(フィン・ビルガ)』で難無く受け止める。だが、オスカもそれでも尚、諦めず自身の力を込めてフィンを押し切ろうとする。その中でオスカの瞳から流れ出ていた血涙は普通の―――否、悲しみの涙へと変わって零れ落ちていた。それを見てフィンは憐憫と後悔を滲ませた苦渋の相貌となって、自らに剣を突き立てんと迫る孫に語りかけた。
「オスカ・・・やはり、あの時の事を未だ恨んでいるのだな・・・?ディルを策謀で以って葬った、この私を・・・!」
その言葉にオスカはまるで“当たり前だ!”と言わんばかりの咆哮を上げる。それをフィンも「そうだな」と言わんばかりに頷く。今、オスカの瞳から流れ出ている涙の訳をフィンは知っていた。嘗て・・・自身の妻となるはずだったグラニアを攫ったディルムッドを一度は許したフィンだったが、その心の内ではディルムッドを許してはいなかった。その後、彼は策謀と無慈悲を以ってディルムッドを葬ったが、その後に心に去来したのは・・・・空しさと絶望だった・・・・
何故、自分は彼を殺めたのだ!終わった事を恨みに持っているばかりか、自身にとって掛け替えのない戦友をこのような形で殺めるなど!!・・・・そう彼は己の性根を罵り貶したが・・・最早、後の祭りだった。
そして、彼を親友として慕っていたオスカは・・・
『貴方が・・・!貴方こそが、此処に横たわるべきだったッ!!』
そう吐き捨てて、彼を葬った祖父であるフィンを恨み続けた。そう、命を落とし彼の腕の中で息絶える時まで・・・・・
この時、フィンは彼と自分達フィオナ騎士団の終焉の時を思い出していた・・・・

代替わりしたアイルランドの上王ケアブリは自分や騎士団を恐れ厭い戦いを仕掛けて来た。その際に自分の騎士団はケアブリと自分に味方する者達の二つに割れ、嘗ての同胞同士が互いに矛を向け血を流す、誇りも栄誉もない文字通り、ただただ血に彩られた骨肉の闘争を繰り広げる事となった。
そして、その末に孫のオスカはケアブリと相討ちになる形で倒れた。自分は倒れた孫を抱き抱え自分がこうなれば良かったと嘆いたが・・・・
『止めて下さい・・・!私は例え・・・ゲホッ!・・・貴方が倒れたとしても涙など・・・・流さない・・・ッ!』
オスカはそう言って最後まで自分を許す事はなかった・・・・当然だろう。それでも自分が悲しいから嘆いているのだと孫に告げた。その後、息を引き取った孫の骸の傍に自らの愛剣であった、マック・ア・ルインを墓標代わりに刺し、自らも最後の戦いに臨みその命が尽き果てるまで槍を振いそして、討ち取られた・・・・・

「・・・分かっている。お前の怒りと無念・・・・それを生み出したのは紛れもなく、この私だ・・・・だがな!」
そこでフィンは何と狂化の豪力で以って振り下ろされた大剣を逆に押し返し厳格さを漂わせる声音で言った。
「今のこれは何だ!?如何に狂戦士に堕とされたとは言え、無力な幼子に無軌道な暴力を働かんとする不届きな獣共の走狗と為る事がお前の騎士道だと言うのか!!」
「■■■■■■■■■■■■■■■■■―――ッ!!??」
それに対しオスカはまるで、“貴様に言えた事かッ!!”と言わんばかりの咆哮を上げる。
「その怒りと怨念を向けるべきは私だ・・・関係のない者まで巻き込むでないッ!!」
フィンは白槍で、そのまま大剣をオスカごと後方に弾き飛ばす。弾き飛ばされたオスカは尚も眼前の怨敵の喉元を喰い破らんと立ち上がろうとするが、利き腕を失くした上に先程のダメージが大きいのか、呻き声を上げつつも、なかなか起き上がる事ができなかった。そんなオスカにフィンは両手を広げ、自らの胴を大きく空けて言った。
「それ程までに私が許せぬと言うなら是非もない。遠慮なく我が心の臓を突け!元より、あの日・・・ディルムッドを葬った時から私はお前に討たれる事を常に覚悟して来たのだ!!」
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■―――ッ!!!」
その言葉に呼応すうようにオスカは再び絶叫にも似た咆哮を上げる。だが、そこでフィンは重苦しい声を上げて言った。
「だが・・!その前に分かっていたのか、オスカよ!!お前は今しがた、その親友を殺めようとしていたのだぞ!?狂戦士となって己の眼が曇った事も分からなかったのか!!」
その言葉を投げ掛けられた瞬間にオスカがビクッと己が身体を強張らせた。そして、徐にディルムッドの方を顔を向けると・・・驚愕と絶望にその顔は染まった・・・!
「・・・ッ!!?■■■■■■■■■■■■■■■■■■◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆―――!!!!!」
そして、錯乱したような・・いや、実際にしているのだろう。ともすれば、どこか悲鳴のように聞こえる咆哮を上げ、それと呼応してドス黒い魔力を一気に噴出させ今まで以上のスピードを以ってフィン目掛けて突進する!
「ぐお・・・!!??」
その限界以上にまで狂化によって底上げされた速度ばかりは流石のフィンも見切れず、咄嗟に槍で防御の姿勢を取るも、その速度とパワーに踏み止まれず後方へと吹き飛ばされる。樹木の一つに背中からぶつかりよろけたフィンにオスカは止めとばかりに再び『辟邪の白星剣(マック・ア・ルイン)』の魔力を解放しフィン目掛けて振り上げようとする!!
「フィン!!!」
だが・・・次の瞬間、フィンの眼に映ったのは・・・その前をディルムッドが立ちはだかり二槍を交差させて、その一撃を防ごうとしている姿だった・・・!
その光景を見てフィンの心に過ぎったのは、嘗て己の策謀で自身を突き殺そうと突っ込んで来る魔猪に策謀と知らず主を護ろうとするディルムッドの姿だった・・・・その時―――

ドシュ・・・



何故だ!?何故、こんな老害如きの首を取る事ができない!?

獣は己の牙と爪を怨敵に突き立てんと振り上げ続けたが、それらは一切、怨敵に届く事はなかった。全て受け流され良い様に弄ばれるのが関の山であった。獣は次第に苛立っていき、その動きも更に荒々しい物になって行く。そんな中、不意に怨敵はこう漏らした。
「オスカ・・・やはり、あの時の事を未だ恨んでいるのだな・・・?ディルを策謀で以って葬った、この私を・・・!」
その言葉は獣の憤激を更に大きくさせるには充分だった。

当たり前だッ!!と言うより許しているとでも思っていたのか!?あのような騎士の風上にすら悖る愚劣な行いに恥気もなく手を染めておきながら・・・ッ!!!

獣の咆哮の意味を怨敵も悟ったのか更に続けて言った。
「・・・分かっている。お前の怒りと無念・・・・それを生み出したのは紛れもなく、この私だ・・・だがな!」
そこで怨敵は今度は受け流すのではなく、獣を力づくで圧し始めた。そして、畳み掛けるように獣に言い募った。
「今のこれは何だ!?如何に狂戦士に堕とされたとは言え、無力な幼子に無軌道な暴力を働かんとする不届きな獣共の走狗と為る事がお前の騎士道だと言うのか!!」
獣はその言葉に一瞬、返す言葉を失くした。だが、すぐに怒りの咆哮を上げる。

何を貴様如きがッ!!では、貴様が彼を卑劣な罠で屠った所業は騎士道に則った物だとでもほざくかああああああああああああッ!!!

「その怒りと怨念を向けるべきは私だ・・・関係のない者まで巻き込むでないッ!!」
獣は怒りの赴くままに怨敵を喰い破らんと爪を振り上がるが、怨敵はそれを難無く退けたばかりか、獣をその豪力で遥か後方へと弾き飛ばす。獣は身体を打ち付ける!しかし、獣はそれでも尚も眼前にいる怨敵の首元を睨んで立ち上がろうとするが、身体は満身創痍と言って過言ではなく、なかなかに立ち上がるん事すら至難の業だった・・・そんな獣に怨敵は自ら急所を無造作に晒す仕草をして言った。
「それ程までに私が許せぬと言うなら是非もない。遠慮なく我が心の臓を突け!元より、あの日・・・ディルムッドを葬った時から私はお前に討たれる事を常に覚悟して来たのだ!!」
瞬間、獣は喉元をゴクリと唸らせ、その急所目掛け爪を振り上げんと起き上がり掛けるが、次に出た怨敵の言葉に身体を痙攣させる。
「だが・・!その前に分かっていたのか、オスカよ!!お前は今しがた、その親友を殺めようとしていたのだぞ!?狂戦士となって己の眼が曇った事も分からなかったのか!!」

なんだと?

獣は怨敵が吐いた言葉にさっきまで猛り狂っていた殺気が一気に沈んで行くのを感じた。いや、それよりもこの男は何と言った?自分が―――親友の彼を殺そうとした?何を言っている?その彼を殺した者こそが貴様であろうが・・・!この期に及んで言い訳など・・・!

そう思って獣は再び怨敵目掛けて駆け出そうとするが、ふと怨敵が現れるまで戦っていた獲物が気にかかった。そう言えば、あの獲物の動きはどこかで見たような・・・・そう思い改めて、その獲物の方を見た―――!
その瞬間に獣は己の眼による認識全てを否定した。

嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!!そんなはずはない!自分と彼は親友だった!それが・・・それがああああああああああああああああああッ!!!!

獣は眼前の情報を全否定せんと今度こそ本当の意味で思考を殺した!そして、訳も分からぬままに怨敵目掛けて突進した!怨敵もこればかりは踏み止まれなかったのか、今度は逆に後方の樹木の一つに背中からぶつかり、よろけた怨敵に獣は好機とばかりに爪を振り上げて再び突進する―――だが!
「フィン!!!」

・・・ッ!?

そんな獣の前に先程の獲物―――否、獣に取って何物にも代え難い親友が怨敵の前に出て来た。これはまるで、あの時と同じ・・・今、彼が背にして護っている怨敵の策謀とも知らずにただ騎士として主を護らんとして時と同じ―――

ドシュ・・・






何かが身体を貫いた音が響いた。だが・・・・その音の源はフィンでも、ましてディルムッドでもなかった・・・・
「フィ、フィン・・・!?」
「・・・・・・!!」
「がっ・・はぁ・・・ッ!!」
ディルムッドがそこで目にしたのは・・・フィンが自身の身体を押し退け自らが手にしていた『辟邪の白薔薇(フィン・ビルガ)』でオスカの心臓を貫いていた姿だった。それと同時に凄まじい魔力を放出していたオスカの『辟邪の白星剣(マック・ア・ルイン)』も纏わせていた魔力を雲散霧消させ活動を停止していた。やがて、オスカの残った左手からそれは零れ落ちるが如く滑り落ち地に落ちた。そして、心臓・・・霊核を貫かれたオスカは崩れ落ちるようにフィンの胸の中に倒れる。
「お、お爺様・・・」
「・・・!!オスカ!!」
やがて狂気の檻から解き放たれ消える束の間に理性を取り戻したオスカをフィンはしっかりと抱きとめた。フィンは堪え切れぬようにその眼から滂沱の涙を溢れさせ孫に何度も詫びた。
「すまぬ・・・すまぬ、オスカよ・・・ッ!!」
だが、オスカは首を振って言った。
「いいえ、悔いはありません・・・・刃を交えながら悟りましたから・・・お爺様が本当はディルムッドを殺した事を悔んでいると知る事ができたから・・・」
オスカは息も絶え絶えに言葉を紡いでいた・・・それをディルムッドはただ眺めていた。いや、声をかける事ができなかったのだ・・・
「・・・私とて、本当は分かっていたのです。お爺様がディルムッドを殺した事を悔んでいると・・・ゲホッ!で、でも、それでも・・・私は親友であったディルムッドを葬ったお爺様が許せなかった・・・・」
オスカは今や吐血し弱々しく息を継ぐのもやっとな声で祖父に懺悔していた。だが、それをフィンは首を何度も振って言う。
「分かっている・・・!全ては私の愚かしさ故の出来事だ・・・!オスカよ・・・・せめてお前には話したかった・・・私が本当は悔んでいたと言う事を・・・・!」
フィンはますます嗚咽を大きくする。それに対しオスカも首を振って言う・・・・
「・・・いいえ。お爺様は今、話してくれたではないですか。その事が知れただけでも、本望です・・・」
そして、消えゆく身体を見た後、オスカはディルムッドの方に顔を向けた・・・
「ディルムッド、すまなかった・・・親友であるお前に刃を向けてしまって・・・」
ディルムッドは嗚咽を必死に堪え頭を大きく振り親友に言った。
「いいや、オスカ!自身を責めるな!バーサーカーとして呼ばれてしまった以上、それは止むを得なったはずだ!!」
オスカは弱々しい笑みを浮かべ「ありがとう・・・」と言ってもう一度口を開いた。
「・・・ディルムッド・・・頼みがある」
「・・・何だ?」
ディルムッドは唇を噛み締めて問うとオスカは既に力のなくなった声で言った。
「お爺様を・・・・支えてくれ」
「・・・・ッ!・・・承知致した」
その願いにディルムッドは感情を押し殺した声で応える・・・・それを聞きオスカは満足した表情を浮かべた。やがて・・・・
「さらばです、お爺様・・・・お爺様達の武運を・・・・祈っています・・・」
オスカはフィンとディルムッド達に別れを告げると・・・そのまま消え去って行った・・・
「う、うあああああああああああああ!!!オスカあああああああッ!!!」
フィンはオスカを押し抱いていた拳を握り締めると眼から一層に涙を流しながら天に向かって嘆き叫んだ・・・




「何故ですぅ!?ジャンヌゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!??何故に未だお眼を覚まされませぬか!?貴女が信じたもうた神など元よりいはしない!いたならば、何故に貴女はあのような辱しめを受け!何故に『魔女』などと言う烙印まで押されたまま、あのような――――ッ!!!」
ジル・ド・レェは何時になく激昂し海魔を連続で召喚しジャンヌに差し向ける。ジャンヌはそれを『景仰すべき啓示の剣(サン・カトリーヌ)』で切り裂いていく。
「ジル・・ッ!僕はあの結末を悔いてなんかいない!どうして分かってくれないの・・・?」
ジャンヌは変わり果てた戦友の姿に顔を苦悩に歪めながらも強い決意をその双眸に灯らせ臆す事なく向かって行く。
「それ程までに神に囚われたままであると言うなら是非もありますまい・・・・このジル・ド・レェも全身全霊を以って貴女を捕らえて離さぬ神の檻を壊してご覧に入れましょうぞおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」
そう言って海魔の全てをジャンヌ一人に投入する。
そんな中、ジャンヌは眼を瞑り剣を上に掲げて呟くような声で言った。
「思い出して・・・ジル!」
そして、『景仰すべき啓示の剣(サン・カトリーヌ)』を天に向かって掲げ、それと同時に凄まじいまでの閃光がジル・ド・レェと海魔達を包み込んだ!

そして、ジル・ド・レェは眩しさに瞑っていた眼を開けると彼の前に広がったのは先程の宇宙空間ではなく草木が生い茂る平野だった。そして、ジル・ド・レェはこの景色を知っていた。彼は思わず両手を上げ震える声を出す・・・・
「おおお・・・おおおお・・・ッ!!これは・・・此処は・・・ッ!!」
「そうだよ・・・ジル」
そんな彼の前にジャンヌが現れ言った。
「此処は・・・パテー。僕達がランスへの道を開いた戦場だよ」
「ジャ、ジャンヌ・・・!?・・・『パカパカパカッ!』なッ!?」
ジル・ド・レェは何時になく本気でうろたえた仕草と声でジャンヌに近付くが、それと同時に馬の蹄の音が無数に響きギョッとする。だが、ジャンヌは驚きもせず言葉を更に尽くした。
「ジル、僕はさっきも言ったけれど、戦うと決めたのは神様に言われたからだけじゃないよ。僕自身が人々を守りたい・・・そう思ったから剣を取ったんだ」
だが、ジル・ド・レェは尚も聖処女に言い募る。
「ジャンヌ!!貴女はまだ、そのような戯言を・・・!その人々が救われて貴奴らが貴女に何をしてくれたと言うのですかッ!?誰もその為に傷つき囚われていた貴女を省みる事なくのうのうと―――「それは元より僕が望んだ事だよ」・・・なッ!?」
その返答にジル・ド・レェは絶句する。そんな彼にジャンヌは真摯な気持ちを伝える。
「僕はただ、皆に普通にいつも笑って暮らす・・・・そんな当たり前だけれど、とても幸福な生活を送って欲しかったんだ。僕はそれを守りたかっただけ。それにね、ジル・・・・それは僕だけじゃない。君達だって思って来た事だったはずなんだよ」
「・・・ッ!?」
ジル・ド・レェは思わず支離滅裂な反論すら口に出せず、衝撃に歪んだ顔でジャンヌの言葉にただ聞き入る・・・・
「君達だって、皆が笑っていて欲しかったから僕と一緒に剣を手にしてくれた。ジル・・・君だって人々の喜びに溢れて暮らす姿を見て嬉しくなかった?ううん、嬉しくなかったはずはないよ。だって君も紛れもなく人々を護る騎士だったんだから」
その言葉にジル・ド・レェはギョロ眼を更に見開き口を震わせ、たどたどしく何かしらを呟く。
「わ・・私・・・私は・・?ジャンヌ・・・私は・・・・」
そして、先程から響いている蹄の音が大きくなり、それはやがてジャンヌの背後の前で止まり土煙りが舞う。
「だから・・・・忘れてしまったのならもう一度、思い出させてあげる・・・・()()が!!」
その言葉を放つと同時に土煙りが晴れ、そこから姿を現したのはジル・ド・レェにとっては戦友であり朋友とも言うべき戦士たちだった―――!
ジャンヌの背後には何れも純白に十字を刺繍した旗を掲げた騎兵達が立ち並んでいた。嘗て『オルレアンの私生児』と呼ばれたジャン・ド・デュノワがいる、ジャンヌの熱烈な支持者でもあったアランソン公がいる、ジル・ド・レェと同じく元帥に叙せられたザントライユがいる!
共に戦場を駆けた苦楽を共にした最高の朋友達!彼らを独立したサーヴァントとして呼ぶ召喚宝具・・・それこそが彼女・・・ジャンヌ・ダルクの最強宝具であった。
「『紅蓮の聖処女の神軍(ラ・ピュセル・ド・オルレアン)』・・・・共に駆けた戦友達を現世に招き寄せる僕が最も頼みにする宝具だ・・・行くよ、ジル!君もその中の一人なんだって事を忘れたのなら・・・・僕達が力づくでも思い出させて上げるから!!」

紅蓮の聖処女は祝福の剣を道を見失った朋友へと向けた―――!



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