Fate/BattleRoyal
35部分:第三十一幕

第三十一幕


「これならぁ―――どうかしらあああああああああああああッ!!!」
モルガンは遥か上空に巨大な魔法陣を発現させ、そこから風だの火だのと言った攻撃魔術をガトリングの如く連射する!それに対しマーリンは魔法陣型の結界を張り、それをやり過ごそうとするも、その結界に罅が入る!
「む・・ッ!?」
「随分と温いわねえ?それでやり過ごせるとでも思っているのかしらあッ!?」
モルガンはそこで更に魔力の出力を上げ、そのままマーリンの結界を突っ切る!その拍子にマーリンは地上まで吹き飛ばされるも瞬時に後方に結界を張り踏み止まった。それを見たモルガンは口元に笑みを浮かべて勝ち誇る。
「ふん・・・良い様ねえ、マーリン!史上最強の魔術師と言う二つ名は返上した方がいいんじゃないかしら?何なら、この私が貰って上げても良くってよ?」
それに対しマーリンは何時になく無表情と無言で受け流し、再びモルガンと同じ上空へと浮遊した。
「あら?突然だんまりを決め込むの。ふっふふふ、流石の貴方も万策が尽きたのかしら。でもね、今更悔いたって許して上げないんだから―――!」
モルガンはそう言った直後に高速神言で詠唱を唱え、今度は黒い炎で象った竜を生成し手をマーリン目掛けて翳して嗾ける!黒炎の竜は周囲を圧し溶かしかねない黒い炎圧を噴出しながらマーリンに襲い掛かる。それは、さながらモルガンの怨念が具現化した炎にも見えた。
一方、マーリンが持つ風船結界の中にいる切嗣は黒炎の竜を見て魔術師としての本能で危険性を瞬時に理解していた。
(あの炎の魔術・・!アレは拙い!!結界越しにも伝わる重苦しい魔力・・!アレは恐らく魔術と言うより呪術に重きを置いた物なのだろう・・・あれを喰らえば、人間は元よりサーヴァントですら、まず命はない!!)
そして、マーリンはと言うと何の言葉を発す事もなくその竜から背を向け魔術による強化で距離を取ろうとする。だが、当然それを容易く見逃してくれるモルガンではない!
「逃がさないわよ!!」
モルガンが手を指揮者(コマンダー)の如く振り上げると黒炎の竜は口から荒れ狂う咆哮と共に黒炎の弾を散弾銃の如く撃ち出した!マーリンはそれを速度の強化でかわし結界で凌いだりしながら、防いで行く。
「ほらほらほらほら?どうしたと言うの!?防戦一方でどうにかなる程、私の魔導は甘くないわよ!もう修行時代、貴方の掌で遊ばれていた私はいないわ!!悔しかったら貴方も反撃してご覧なさいなあッ!!!」
モルガンは狂喜一色の面貌でますますいい気になり黒炎の竜を一層に荒々しく雄々しく操り黒い炎圧を周囲に拡散させていく!
切嗣は只管に逃げを決め込むマーリンに言った。
「おい!何故、お前も反撃しない!?お前は奴の師だったんだろう?だったら、あれくらいの芸当お前にだってできるはずだ。奴の言うように、このまま防戦一方じゃ―――アイタッ!」
そう言った途端に切嗣は額に衝撃を受けて呻いた。マーリンが結界内で軽い衝撃波を切嗣の額に放ったのだ。そして、この上もなく憮然とした声で言った。
「まったく―――!怪我人は引っ込んでい給えよー。と言うか、その精密機械並みな思考は戦局を冷静に見据える事が出来ない程鈍っているのかい?見なさい、下を」
マーリンに促され切嗣は真下を見た。すると、そこには自分達を果敢に追撃して来る黒炎の竜が猛る度に、その身体を構成している黒炎の残りカス・・火の粉を地上に撒き散らしていた!その猛威は間桐陣営の同盟者達は元より味方の死徒とサーヴァント達にまで及んでいた。
「なッ!?あいつ敵も味方も見境がないのか・・・ッ!!」
切嗣が呻くとマーリンも大きな溜息をつく。
「あの子は昔から血が上ると、ああして周りの迷惑も省みずに魔術を乱射するのさ・・・・まったく、幾つになってもあれでは幼子の癇癪と大差はないな」
「言っている場合かッ!と言うか、あんなのを弟子にして置きながら、よく寝首を掻かれなかったな!!」
シミジミとのたまうマーリンに切嗣は苛立ちを込めて突っ込むとマーリンはにべもなく言う。
「まあ・・・あれで冷静に思考を働かせれば、聡明且つ怜悧で慎重な子だ。直球で事を為せると思う程、馬鹿じゃないさ。と言うか、私が彼女にした事を思えば、ただ殺すなんてだけじゃ満足しないだろう。それこそ長い時間を掛け・・・久遠にすら思える苦痛を余す所なく刻み付けて殺したいぐらいには考えているだろうからね・・・」
切嗣は話が脱線している事にすぐに気付いて本題を切り出す。
「・・・・話がかなり脱線している。そんな事よりもお前が反撃しないのはその余波で地上の被害が更に深刻な物になるからと言う事か?」
「ああ・・・あれは呪術の中でも殊更に強力で危険な物。言わば『禁術』の類だ。私がアレを同様の術で相殺・・・よしんば、打ち負かすなどすれば、その余波は遥かに大きくなり極上の呪いが凝縮された火が地上を包む・・!尤も―――」
そこでマーリンは頭上の結界内にいる切嗣に眼を向けて言った。
「君にして見れば、それでマスターやサーヴァント達を大量に一掃できる訳だから願ったり叶ったりと言った所なのだろうが・・・・生憎と私は君のサーヴァントではない。残念だったねえ〜♪」
途端に切嗣は本気の殺気を自身を結界で捉えているサーヴァントに注いだ。だが、それも次に続いた彼の言葉に打ち消される。
「だがまあ・・・今は君の“初恋の君”も地上にいるし、私の判断は現時点ではイーブンなのかな?」
「・・・・ッ!!」
切嗣はグゥの音も出せず呻く以外になかった。そんな切嗣を尻目に独り心地に、または不敵に呟く。
「それに・・・手がない訳じゃないさ」


「アハハハハハハハハッ!!どうしたのよ、姉さんッ!さっきまでの威勢は何処〜?風にいつもの冴えが全然ないじゃない!!」
リオンは得意満面で風の刃を姉に・・・シルヴィアに放っていた。対するシルヴィアは風のハルバードを振いながら、それらを弾いて行くが・・!
「ハアハアハア・・・ッ!」
息を切らしている上に風で生成したハルバードも心なしか風力が心細くなっている。その理由はズバリ、ジャンヌが自身の最強宝具を発動し、その使用が長引いている事にある。固有結界による独立サーヴァントの連続召喚・・・これに掛かる魔力供給は馬鹿にならない!そんな中で全力の戦闘など儘なるはずもなかった!
「そんな様であたしを止める〜?きゃは♪笑わせないでよねッ!!」
リオンは殊更、強力に練り上げた風・・否!竜巻をシルヴィアに向けて放った!シルヴィアはそれをハルバードで裂こうとするも逆に後ろへ吹き飛ばされる。
「ぐぅぅぅッ!!」
シルヴィアは吹き飛ばされながらもハルバードを地面に刺し抉る事でどうにか踏み止まる!
「チッ!相変わらず、憎たらしいぐらいに、しぶといわね!」
リオンが舌打ちする傍らシルヴィアは息を切らしながらも自らのパートナーの身を案じた。
(ジャンヌ・・!何があった!?)


同時刻・・・ジャンヌの固有結界宝具『紅蓮の聖処女の神軍(ラ・ピュセル・ド・オルレアン)』内では・・・!

パテーの戦場を巨大な海魔がその巨体を良い事に蹂躪する。兵士達はこぞって、その海魔に向かって行く。だが、その巨体に剣やら槍で裂き弩を放とうともすぐに再生を始めてしまう。ハッキリ言って焼け石に水だ!
「大砲を撃って!」
ジャンヌがそう命じると兵達は迅速な動きで砲台を数台、担ぎ出し異形の蛸目掛けて一台、一台がA+ランクの対軍宝具に相当する威力を持った砲弾を放った!だが、それも決定打には成り得ず巨躯に空いた大穴はすぐに閉じられた。
「そんな・・・この結界内ではジルの魔物はその力を半分も発揮する事すら儘ならないはずなのに・・・!どうして?」
ジャンヌは悪魔や黒魔術に傾倒した力の一切を無効化する己の固有結界の中にあって尚、衰えを見せぬ魔獣に絶句するとその疑問に背後から答える者があった。
「俺のサーヴァントの力だ」
ジャンヌはハッとなって瞬時に背後を振り返り剣を返そうとするが、その者―――白いダウンジャケットの男は既に手刀を彼女の霊核目掛けて放とうとしていた―――ガキィィィンッ!!
それを間一髪、ザントライユが槍を以って防ぐ。
「ぐぅ・・・ッ!無事か・・・ジャンヌ?」
「ザントライユ!」
「チッ!どいつもこいつも無駄な事を・・・!」
白いダウンジャケットの男は毒づきながら、手刀で槍の柄を砕き、そのままザントライユの霊核を穿った!
「ぐがあっ・・・!?」
ザントライユはそのまま膝を突いて消滅した。
「ザントライユ卿!野郎・・・ッ!!」
その死を受け彼の配下らしい騎士達が何人か、白いダウンジャケットの男へと向かって行く。
「み、皆、駄目・・・・ッ!!」
ジャンヌは瞬時に男の力量を悟って皆を制するが、時既に遅く彼らもその男の手刀によって朱に染まった・・!ジャンヌは眉間を怒りに歪めると剣を抜き男と対峙する。
「皆は下がって!彼は僕が引き受ける。皆はジルを・・!」
その言葉に彼らは躊躇いながらも従い、その場にはジャンヌと白いダウンジャケットを纏った死神だけになった。
「君は誰?何故、ジルを・・!?それよりもどうやってこの結界に・・!」
ジャンヌの問いに白い死神はせせら笑って言う。
「言ったはずだ・・・俺は他の魔術師とは一味違う魔術を使うとな。それにな・・・名乗る必要もないだろう?何故なら、お前は此処で死ぬ―――!」
そう言った途端に白いダウンジャケットの男はサーヴァントをも超える速度を以って手刀をジャンヌの霊核目掛けて突き出した―――が!そこで彼は手刀を止めた。いや、彼だけでなくジャンヌもハッとしたように怪訝な顔になる。
「なに・・・この魔力は?」
「なんだ?この妙な魔力の動き・・・・なッ!?」
白いダウンジャケットの男はそう呟いた途端に絶句する。何故なら、ジャンヌの固有結界が・・!いや、そればかりかジルの巨大海魔すらも神神しいまでの後光で引き裂かれ霧散霧消してしまったからだ!



時は数刻前にまで遡る。ジャンヌの『紅蓮の聖処女の神軍(ラ・ピュセル・ド・オルレアン)』の外・・・マーリンの『幾星霜の理想郷(アンブロジウス・アヴァロン)』に置ける戦場では・・・・!

上空では相も変わらずモルガンが黒炎の竜をマーリンに嗾け、その余波の火の粉を落としていた。それに苦慮したのは勿論、地上で戦闘を行っている者達だろう。何しろサーヴァントすら焼き滅ぼす呪いの火の粉が上空から降りかかって来るのだ。これでは互いに戦闘所ではない!
「くそ・・!モルガンの野郎・・・やる気を取り戻したのは良いが、見境を失くしやがって!俺らへの被害を考えてねえのかッ!!」
クラストルは降りかかる火の粉を避け、雷で相殺しながら毒づく。彼が眼を凝らすと既に戦局は勝敗云々以前に混沌の様相を呈していた。

「おおおおおおおおおおッ!妾が掻き集めた女童の魂があああああああああああああッ!!??」
エリザベートは黒い火の粉に自らが収集し魔力原で在り武器ともなっている少女達の魂を焼き滅ぼされ頭を狂ったように掻き毟り半狂乱の形相で喚いている。
「ざまあ見ろ!と言いたいとこだけど―――はっ!こっちもやばいわね・・」
シャルリアはシャムシールを振い火の粉を払うも冷や汗をかき彼女と背中合わせになっているセイバーことアリーも「・・だな」と頷く。そんな彼らの元にアルトリアがモルガンのキメラを振り切り駆け付けて来た。皮肉にもモルガンの見境がない攻撃によって道を阻んでいたキメラの大半が焼き滅ぼされ突破口が開けたのだ。
「サーヴァント・セイバー。我がマスターの命により救援に駆け付けに参った」
それにシャルリアは笑顔で歓待した。
「助かるわ!丁度人手が欲しい時だったのよね!あなたはここを拠点にしているサーヴァント」かしら?
「はい。アインツベルン陣営に属しています」
すると、シャルリアは少し首を捻り眉間に皺を寄せて問うた。
「アインツベルン?じゃあ、あなたは衛宮切嗣の・・?」
その言葉にアルトリアは少し考えてから頷いて答えた。
「はい・・・彼のサーヴァントとして召喚されました」
その言葉には端々に苦い物が滲み出ていた。それを見て取ったアリーは殊勝な声で言った。
「ふむ・・どうやら中々に難儀なマスターに呼び出されたようだな・・・」
それにアルトリアは答えず憮然とした表情だけを浮かべる。そして、シャルリアはこう結んだ。
「まあ、いいわ。今はこの状況を切り抜けましょう」
そう言って上空から降りかかる黒炎にシャムシールを振う。

「あっの魔女!敵と味方の区別もつかねえのかよ!?」
「喋っている暇があるなら動きなさい!この火の粉・・・当たったら、あんた達サーヴァントでも唯じゃ済まないわ!!」
クー・フーリンが火の粉を払いながら舌打ちするとレグナは炎の大蛇を子供達の楯にし、自身は炎の戦斧を振って叱咤する。
「ディル!マスターを背に!」
「承知!」
その傍らではフィンとディルムッドもルナやルクレティアを背にして火の粉を防いでいる。雁夜も飛針や魔蜂で火の粉を吸収しようとするが、一部を吸い込んだだけで両方とも弾けてしまった!
「なんて重たい魔力だ・・!残りカスだって言うのに吸収し切れない!」
「俺の魔眼なら難無く殺せるけど、この数じゃハッキリ言って焼け石に水だッ!次から次へと・・・!!」
奏も『直死の魔眼』をフルに扱い火の粉を斬り裂くが、手が間に合うはずもない!咲耶も難しい顔で頭を捻り半蔵に問う。
「アサシン・・・あなた達でも流石に捌き切れないかしら?」
「遺憾ながら・・・・我が配下の者共を総動員したとて手が足らぬ上に被害も深刻なれば・・・」
半蔵も口惜しそうに答える。
「ま〜ったく!ケバイお局は無駄に盛りが付いているようですねっと!」
玉藻の前は毒を吐きながら、自身も呪術を以って呪いの火の粉を打ち消す。
「うわー・・・あれはもう完璧に味方の存在すら忘れちゃっているみたいだな〜」
メルディはこんな時にものんびりな姿勢を崩さず、玉藻の前の傍らで風の結界を生成し火の粉を凌いでいる。
「これではお互いに戦闘所の話ではありませぬ・・!」
ランスロットもガレスと剣を交えている途中で火の粉に降られ、ガレス共々戦闘を中断しその対処に追われていた。
「くっ!あの人は何処までも・・・ッ!」


「ちくしょう〜!これが敵だけなら絶好の機会だってえのに・・!!」
クラストルが歯噛みして地団太を踏む傍らで味方の混乱する声も彼方此方から聞こえた。
「おい、クラストル!これは拙いぞ!!」
黄円がアサシンを使って火の粉を防ぎながら叫び、エリザベートのマスターも青い炎を円陣に広げて楯としながら事態の切迫を叫ぶ。
「このままじゃ、この火の粉で敵諸共に心中よ!!どうするのぉッ!?」
「むぐぐぐぐ・・・!こなくそがああ・・・・ッ!!!」


一方、先程まで無双とも言える働きをしていたディアンやアコロンも今は火の粉を打ち払い、友軍や子供達の護衛に努めていた。
「モルガン・・!」
アコロンは恋人の暴走に憐憫の表情を浮かべる。そんなアコロンにディアンは黒鍵で火の粉を裂きながら言う。
「アコロン・・・気持ちは分かるが、今は子供達を護る事が先決だ」
「うん。ディアン、分かっているよ」
アコロンも頷いて剣で火の粉を払う!


「あっはははははっははははははははッ!!!いつまで逃げ切れるかしらねえ!!と言うか、逃がすつもりもないのだけどおおッ!!!」
上空では、相も変わらずモルガンは黒炎の竜を使役しつつ同時に大魔術を放つなどしてマーリンを追い詰めていく・・!それに対しマーリンは只管に逃げと防戦一方を愚直なまでに決め込んでいた。それをモルガンは侮蔑と優越ともつかない顔で吐き捨てた。
「本当に情けなく無様だ事・・・あなたはいつもそうやってやり過ごすつもりなのね。そうよ。生前の時からそう・・!あなたは自分の予言の力に怠惰に浸かって『運命の守り手』なんて尤もらしい理由を付けて、流されて、逃げて!その挙句に私からお父様やお母様を奪ったッ!!」
そして、途端に殺気を目線に含み眼前のマーリンへと注ぐ。
「それでいて、あなたは言い訳一つも吐く事はなく・・かと言って謝罪するでもなく・・!そうやって、いつも涼しい顔をしているだけだった・・!思えば、私があなたに弟子入りを申し込んだ時だってそうだったわよね。あなたは自分を仇として寝首を掻くかも知れない小娘を何の躊躇もなく平然と受け入れた・・・どうして?まさか、せめてもの罪滅ぼし?それで万事丸く収まるとでも思ったわけ?・・・・・冗談じゃないわ!!!」
モルガンは眼を剥いて感情を更に激する。
「そんな自己満足が免罪符などになるものですかッ!!私があなたに頭を垂れたのはあなたの魔導の業を盗む以上にあなたの手の内を知り抜く為よ!!ただ殺すだけで私の気が済むと思って?冗談じゃない・・!あなたは私の全てを踏み躙ったのよ?だったら同じようにあなたの全てを踏み躙るのが礼儀と言うものでしょう?それこそ時間をかけて・・息をしている事すら地獄と思える程に追いこんで・・!お分かり?そうしたあなたの様を見る事でしか私は満たされないの!!だ・か・ら!」
モルガンはそこで高速神言による詠唱を唱え黒炎の竜の炎圧を更に上げ広範囲に渡る出力で黒炎の咆哮を放たせる!
「精々、私の掌で踊り狂いなさい!!」
そうして避けようもない呪いの火がマーリンと切嗣に迫る・・ッ!
(馬鹿な・・・!僕はこんな所で・・・!?ナタリア・・シャーレイ・・ッ!!)
切嗣は迫り来る呪いの炎に思わず眼を瞑り次に来る焼き尽くされる感触を思い覚悟を決める。だが、マーリンの方は・・・!
「チェックだよ・・・モルガン」
笑っていた。

その瞬間、戦場を神々しいまでの後光が広範囲に包み呑み込んでいった!そう敵も味方も何もかも・・・・!!
突然の光に皆は一時視界を奪われて眼を瞑っており次に開けた時には既にマーリンの『幾星霜の理想郷』は解かれており元のアインツベルンの森に戻っていた。だが、異変はそれだけでなくモルガンが先程まで出していた黒炎の竜は既に霧散霧消している上に敵、味方に拘らず魔力が大幅に削れ、その影響で宝具もその機能を麻痺させていた・・!
誰も彼もが余りに突然の事態に呆然として動かない。中でもモルガンの驚き様は酷く先程まで勝ち誇っていた笑みは引き攣り眼は狼狽の色に染まっている。
「ど・・うして・・?」
そう呟いた途端に彼女は地上に膝を突いた。魔力が大幅に削られた事で浮遊魔術を行使するだけの力も残っていないのだろう。尤もそれはマーリンとて同様だったが・・・・
モルガンはこの上もなく腹立たしいと言わんばかりに眼前で同じく魔力が尽きて切嗣を背に抱えて地に足を着けたマーリンを睨み付け問う。
「何を・・したの・・・ッ!?」
それに対しマーリンはしれと言う。
「私は別段何もしてはいないよ。これは()の力だ」
「“()”・・ッ!?」
モルガンがオウム返しに問うとマーリンは自分達の遥か上空を指差した。すると、そこには、浮き雲に乗っかって浮かんだ道満と伊織がいた。道満はブスっとした顔でのたまう。
「ったく・・・晴明の野郎と、どっこいどっこいに人使いが荒い野郎だ。何時間も上空で待機して魔力を充填させるなんざな・・・!」
「文句言わないの!それもこれも皆を助ける為でしょう!!」
伊織に叱咤され道満は舌打ちして答える。
「分かってるよ・・・・俺だってイザって時の務めは果たさあ」
そう言うと同時に道満は身体中からあり得ない程の魔力を発散させ、自分達が乗っている浮き雲を巨大な雨雲へと変えていく!
「な、なんなの?あれは・・!?」
モルガンが呆然と呟くとマーリンが事も無げに答えた。
「彼の最強宝具さ。ただ厄介な事に発動には幾つか条件がある上に対象を選べない難物でもあってね」
「対象を選べない!?はっ!」
そこでモルガンは気付いた、気付いてしまった・・!今正に自分達が詰まれたと言う事を!
「そう今、彼は先程、私達から吸い上げた魔力を自らに取り込んでいる。そして、それを雷に変換し任意の対象を葬る事ができる。まあ、私の『幾星霜の理想郷(アンブロジウス・アヴァロン)』と同じく発動にはえらい時間と魔力を喰う事になるがね」
「その時間を稼ぐ為だけに・・!私の行動すら予測して・・・あなたはぁ・・・・ッ!?」
モルガンは怒りと屈辱に身体を震わせる。そんな彼女にマーリンは悠然と言う。
「手の内を知り抜いているのは君だけじゃない。魔術師とは賢き者の事を言う。常に一歩先を読み、考え、手を打つ。そして、その本分は他者のサポートにこそある。にも拘らず、それを履き違えた君には、とても『史上最強の魔術師』の称号は譲れないな」
「〜〜〜〜〜〜〜ッ!!マーリンンンンンンッ!!!!」
モルガンは双眸に烈火を迸らせ正しく視線で射殺さんばかりの憎悪を滾らせる。それに対しマーリンは静かな声で言った。
「我が弟子よ・・・今一度、英霊の座にて頭を冷やすがいい」
その言葉と同時に道満の雨雲から雷の閃光を迸る。だが、モルガンは怒りに引き攣った口元を僅かに綻ばせて言った。
「そちらこそ爪が甘いわよ・・・マーリンッ!」
そう叫んだ途端に彼女は自身のルビーを入れたピアスを剥ぎ取って、それを天に翳し高速神言を唱える。すると、ピアスのルビーが割れ、そこから空間の裂け目が出現しそこからブラックホールの如くモルガンやクラストル、その他の死徒やそのサーヴァント達を引き吊り込んで消えた。後には夜の静けさのみが残った・・!
「空間転移・・・万が一に備え、ピアスのルビーに予め魔力炉と転移術式を組み込んでいたか。これは抜かったね」
マーリンは嘆息をついて肩を空かした。
「何はともあれ・・・助かった・・・・」
奏はやっと息を付いて座り込む。
「ああ・・・正直俺も生きた心地がしないよ・・・・」
雁夜も同様に嘆息をつく。そんな二人にシャルリアは嘆息をついて話しかけた。
「あらあら、これくらいで、へばるなんて男子の癖に情けないわねえ。まあ、さっきは相当にやばかった事は確かだけど」
すると、奏は怪訝な顔になって問う。
「そういや、あんた誰だ?」
すると、シャルリアはにべもなく自己紹介を始めた。
「ああ、あたしはシャルリア。あんた達と同じ聖杯戦争の・・「シャーレイじゃ・・・ないのか?」・・・ッ?」
その時、不意にマーリンに抱えられた切嗣が問うとシャルリアはそちらに眼を向けた。その顔は先程までの朗らかな笑顔ではなく多分に険しいものへと変わっていた。更に、その隣でアルトリアが「切嗣」と呼んだ事でその眼光は一層に鋭い物となった。
「切嗣・・・?そっか、あんたが衛宮切嗣・・・」
シャルリアはこの上もなく無感動な声で呟く。だが、切嗣はただただ呆然とするばかりでまたも呼ぶ・・
「・・・シャーレイ?」
「さっきも言ったけれど、あたしはシャルリア。シャーレイじゃないわ・・・・」
そう話すシャルリアの顔は酷くクシャクシャになっていた。怒り、悲しみと言った感情がごちゃ混ぜになったかのように・・・それに対し切嗣はいつもの無感情ではなく痛々しい、悲しみを堪えた表情で愚鈍なまでに震えた声で問う。
「・・・じゃあ、どうして君はシャーレイに似ているんだ?」
それはアルトリアも始めて見るような顔だった。一方、シャルリアは淡々と語り出した。
「・・・シャーレイはあたしにとっては従妹だった。父親とシャーレイの父親は兄弟で父さんは何時かあたしとシャーレイを会わせたいといつも言ってたの・・・」
そこから彼女の声は徐々に激しさを増した・・!
「でも、それは叶わなかった・・ッ!そのすぐ後にシャーレイが住む島が災害で壊滅、島民は全員が死亡したと言うニュースを聞いた。でも、父さんと母さんはそれが死徒って言う怪物が引き起こした物・・そして、それを隠蔽する為に魔術師と聖堂教会の奴らが壊滅させたって事を聞いたわ・・・ッ!!」
それを黙して聞いていた切嗣は今や蒼白な顔で口をワナワナと震わせていた。アルトリアは元よりその場にいた者達・・特に先程まで彼と戦闘をしていた奏はこれが、あの『魔術師殺し』か?と首を傾げていた。
一方、シャルリアはそれも構わず語り続ける。
「それから、あたしは泣いたわ。父さん達は島の人達は殆ど死徒になってしまったって言っていたけど中には、そうはならなかった人だっていたかも知れない・・・なのに!それを保護もしないで魔術の隠蔽を口文句にして皆殺しにしたあいつらが許せなかった!!」
それは痛みを知る者の慟哭だった。それを切嗣は何の言葉を発する事も出来ずに黙って聞いていた。
「それから、あたしは傭兵になった。その傍らで色々調べて、その時に島を燃やした魔術師や聖堂教会の奴らを一人づつ始末していったわ。」
それから、シャルリアはその眼光を切嗣へと向けて更に言った。
「そして、次に掴んだのがその元凶・・・・封印指定を受けていた、ある魔術師が死徒の研究をしていた末の結果だと知って、そいつを始末しようとしたけど・・・そいつは殺されていた。そいつを殺したって言うその息子・・今は『魔術師殺し』と呼ばれる男の事を聞いて調べた末に・・・」
そう言った彼女が腰に下げていたシャムシールを雷光を思わせる速さで引き抜くとそのまま切嗣の首を薙ごうとしてアルトリアに止められた。だが、刃を止められて尚、彼女の気炎は治まらなかった。
「あんたに行きついた!そして誓ったわ!あの地獄を生んだ、その地獄にシャーレイを巻き込んだ奴らに鉄槌を下すって!!」
切嗣は何時になくシドロモドロな声で言う。
「・・・僕はシャーレイを・・・救いたかった。苦しむシャーレイに殺してくれと頼まれても・・救おうと・・・・」
だが、シャルリアは眼光に灯った火を消す事もなく声を荒げる。
「言い訳なんて聞きたくない!あんたの父親がくだらない研究をしなければ、シャーレイは・・・!あの子は死なずに済んだんだ!!」
「・・・・!」
その言葉に切嗣は返す言葉がなかった。何故なら、それは事実だからだ。確かに引き金を引いたのはシャーレイだが、それ以前に父が人並みの常軌と配慮を持ち合わせてくれたなら、あんな悲劇には元より至らなかっただろう。だからこそ自分は父を迷う事なく、この手にかけたのだ。
やがて、シャルリアは刀を鞘に納めると、そのまま背を向けて言った。
「切嗣、あたしはあんたを許さない。あたしは聖杯なんかに興味はないし、あんたが聖杯に何を願おうが関係ないけど・・・あたしはあんたを認めな・・「その辺にしてやれ」・・・!?」
シャルリアの糾弾をアインツベルン城から駆け付けて来たボルドフが制した。隣にはペンテシレイアが控えている。
「切嗣!無事か!?」
「おいおい・・酷いやられようじゃねえか・・!」
その後ろからは藤二にエル・シド、ガルフィスとベディヴィエールも駆け付けて来た。それを視認したランスロットが思わず叫んだ。
「ベディヴィエール!?貴公も参戦していたのか!?」
一方、ベディヴィエールもランスロットの姿を確認して挨拶した。
「はい。ランスロット卿も王から話は聞き及んでおります。お久しぶりです」
雁夜はボルドフの姿を見て声をかけた。
「ボルドフ、無事か?」
雁夜の問いにボルドフは顎を撫でて答えた。
「ああ、なんとかな。しかし、突然にマーリンの結界が解かれた挙句その直後に死徒共がまとめて吸い込まれるように消えちまったのには、おったまげたがな・・・それはそうと眼帯の姉ちゃん」
ボルドフはそこで再びシャルリアに目線を戻して言った。
「確かにアリマゴ島の事件はこいつの父親が元凶だろうさ。だが、こいつはまだ、ほんの子供(ガキ)だったんだ。何も知らされちゃいないな。いや、例え知った所で何もできやしなかっただろう・・・親の罪が子に報いなんて道理は幾ら何でもねえだろうがよ」
だが、シャルリアは頷かない。
「何もそれに限った事じゃないわ・・・言ったでしょう。私はこいつの事を調べて来たって・・・!あんただって、こいつの知り合いなら知っているでしょう?そいつのやって来た事を・・!」
「ま・・なあ」
これにはボルドフも流石に否定の言葉は出て来なかった。確かに切嗣が行って来た事は傍から見たって、この如何にも真っ直ぐそうな気性を持つであろう彼女が到底受け入れられる物ではないだろう。
「と言う訳で、こいつ自身の経歴も含めて私は認めないって言っているのよ。じゃあね」
そう辛辣な声で言い放ち、彼女は今度こそ背を向けたまま歩きだした。アリーもそれに続く。一方、切嗣は深く項垂れたまま何の言葉も発せずにいた。そんな普段からは想像もできないマスターの姿にアルトリアは何とも言えない表情をしていた。そして、マーリンはそんな彼女に抱えていた切嗣を手渡して言った。
「さて、私達も今日の所は引き上げるよ。アルトリア、君ももう一度良く考えなさい。君の願いが意味する所を・・・・マスター諸共ね」
「・・・・・」
アルトリアはそれには答えず切嗣を抱え、藤二とエル・シド、ガルフィスにベディヴィエールの所へと歩み出ると不意にランスロットと眼が合ったが、彼もそして、彼女も何の言葉も発せず互いに黙したまま擦れ違った。
そして、藤二はアルトリアの耳に囁くように言った。
「(さっき、アイリスフィール達から連絡があった。一先ずは深山町に用意した予備の拠点に逃げ込んだそうだ。俺達もそこへ向かう)」
それにアルトリアは首を縦に振って頷く。その直後、アルトリア達サーヴァントは各々のマスターを抱えて、その場を瞬く間に去った。


「あいつら、自分達の拠点を捨てたのか?」
奏が怪訝な顔で呟くとマーリンは事も無げに言った。
「まあ、これだけの襲撃があった上にあちらも随分な痛手を受けた。まともな神経の持ち主なら同じ場所に留まる事はとてもできないだろうね・・「マーリン殿」・・ん?」
不意にアコロンがマーリンに声を掛けて来た。アコロンの表情はいつも以上に真剣で瞳には揺るがない真摯な炎が灯っている。彼は続けて言った。
「後程・・・お時間をいただけるでしょうか?」
それに対しマーリンも何時になく殊勝な表情になって頷いた。
「ああ・・いいとも」


「さて・・・この子達は記憶を消して親元へ届けないとな」
雁夜は子供達をまず催眠魔術で眠らせて息をつく。
「それでは、その後は私のアサシンの配下にそれぞれ送らせましょう」
咲耶の申し出に雁夜は頷く。
「はい、頼みます。とは言っても道満の宝具で魔力が大分削られたし・・・魔力が回復するまで待たなきゃな・・・」
雁夜は頭を抱えてまた溜息をつくと不意にランスロットが憂いを帯びた顔をしているのを見やり言った。
「ランスロット・・・お前も焦るなよ」
「雁夜殿・・・?」
「サー・ガレスとも騎士王とだって話せる機会はきっと来るさ。だから諦めるな」
それにランスロットは淡い笑みを浮かべ再び眼に決意を灯して頷く。
「御意・・ッ!」



そして、その傍らではフィンがディルムッドを前に膝を突き頭を下げて且つ滂沱の涙を流しながら、赦しを請うていた。
「ディル・・!私を許してくれ!私のくだらない私怨の為にお前を見殺しにしたこの私を・・・!!」
それに対しディルムッドは殊勝な表情となって頭を横に振る。
「フィン・・・頭を上げて下さい。そもそも貴方の妻となるはずだったグラニアを攫ったのは私です。罪があるとするなら、それは私の方・・・咎められるべき相手は私なのです。どうか・・・」
すると、フィンは徐に顔を上げて言った。
「ディル・・・分かった。ならば願いたい・・!今一度、私と共に戦ってくれるか?このフィン・マックールと共に・・・・」
無論、ディルムッドはにべもなく即答する。
「フィン・・・・このディルムッド・オディナ。再び共に戦う事を誓いましょう!」
一方、それを少し離れた所で見ていた二人のマスターは・・・
「ったく――もう!本当に世話を焼かせんだから・・・!もし、この期に及んで愚図るなら去勢するとこだったわよ!」
ルナが半分怒ったような、それでいて半分は嬉しそうな顔で乱暴に息を吐くとルクレティアは若干、赤面して苦笑した。
「ルナ先輩・・・少し下品ですよ・・・・でも、本当に良かったです」



シルヴィアは傷だらけの身体をジャンヌに抱き抱えられる形で支えていた。
「シルヴィア・・!大丈夫?」
それに対しシルヴィアは弱々しい声で頷く。
「ああ・・・みんな掠り傷だ・・・大した事は・・・ない。それに・・・ッ!私よりもお前は大丈夫だったのか?随分と手間取っていたようだが・・・・」
すると、ジャンヌは顔を陰らせて答える。
「うん・・・僕は大丈夫・・・・僕は大丈夫だけど・・・・」
それ切りジャンヌは口を閉ざした。彼女の頭の中は心が傾き始めたジルを再び狂気へと誘った白いダウンジャケットの男で占められていた。結界が破られた後、彼の姿は既になかった。恐らく結界が敗れると同時に瞬間移動に近い魔術で飛んだのだろう。基本、干渉が不可能な固有結界に介入する程の魔力・・・サーヴァントすら圧倒するだけの身体能力と戦闘力・・・どれを取っても唯者でない事は明白だった。何よりジルを・・・サーヴァントを狂わせる程に禍々しい魔力・・!あれは一体何なのだろう?ジャンヌの中で切実な危機感がとぐろを巻いていた。






そして、その白いダウンジャケットの男は新都の繁華街にそびえ立つ超高層ビルの天辺に立ち、摩天楼の下、眼下に輝く夜のイルミネーションを静かに見下ろしていた。そんな彼の背後に何者かが暗殺者特有の足音が全く響かない歩法で近付いて来た。勿論、彼も承知している。
その何者かの姿がビルの天辺に設えてあるサーチライトに照らされ露わになる。黒を基調にしたコートを羽織り荒々しい黒髪の短髪に赤紫のメッシュを入れておりワンレンズ型のサングラスをかけた青年―――迅鷹山が獰猛な笑みを浮かべていた。彼は口を開いて鷹山に問うた。
「報告を聞こうか?」
すると、鷹山は明朗快活とも言える声音で答える。
「勿論、依頼は完了だ大将!・・・と言いたいとこなんだけどよ」
すると、彼は鷹山が言うより早くその先を口にした。
「『次代の聖杯』と目撃者を逃がしたそうだな」
「・・・あんだよ・・・知ってんじゃねえかよ。だって、しゃあねえだろう?サーヴァントが二騎も相手じゃ俺だって幾ら何でも分が悪過ぎらあ。殊にヘラクレスなんて上等の大英霊サマが相手じゃな。おまけに何だ、アーチャーなんて言っといて基本ステータスは俺のバーサーカーと殆ど大差はねえぞ?どんだけチートなんだよ!」
鷹山が矢継ぎ早にのたまうと彼は嘆息をついて言った。
「もういい・・・貴様、先の楽しみに取って置くとばかりに敢えて逃がしたのだろう?」
すると、鷹山はおちゃらけた声でのたまう。
「ありゃ?バレてたか・・・」
彼は最早、この男に関しては諦観したと言わんばかりに続けて言った。
「まあ、いい。元より貴様に命じたアインツベルンの討滅は極めて俺の個人的な理由だ。今や小聖杯の為り損ないである小娘一人なぞ、どうでもいい。どの道、全ては数日の後に闇へと消えるのだ。今や全ての事が些事でしかない」
すると、鷹山は不思議そうに首を傾げて問う。
「じゃあ・・・何で態々、その些末事でしかない陣営を気にかけんだ?」
「愚問だ。連中が俺の杯を壊さんと動いている・・・・如何に相手が蟻共だとは言え、俺の行く手を阻むと言うなら容赦はしない。確かにくだらん些事でこそあるが、過去、その些事で転落し挫折した英雄はそれこそ星の数だ。故に慢心も増長も不要だ。蟻の駆除は徹底する」
彼が有無を言わさない声音で断言すると鷹山は肩をすかして了承すうる。
「へいへい、今はあんたが俺のクライアントだ。オーダーには従うさ。で、これからどう動きなさるんで?」
鷹山の言葉に彼はこう続ける。
「先日のハイアットホテルの事件はお前も聞いているな。あれは『リーサルウェポン』が従えているサーヴァントの仕業だ」
すると、鷹山は飄々とした佇まいを一変させた。
「なッ!?あの世界中の政府が文字通り最終手段として頼る最強の魔術傭兵がか!?」
「そうだ。政府もサーヴァントが百騎以上も現界すると言う異常事態によっぽど怖じ気づいたのだろうよ。故に奴を使いこの馬鹿騒ぎを早急に終息させるつもりだ・・・この冬木市ごとな」
鷹山は息をついて得心がいったと言う顔になり、更に瞳に獰猛な色を帯び始める。
「なーる!つまり俺に『リーサルウェポン』を殺れつー事だな」
「そう言う事だ。情報によれば、奴は既に冬木市に自身の私兵団を入れている。貴様の『鐵』の忍び衆を今からでも引き入れられるか?」
彼の言葉に鷹山は鼻で笑う。
「詰まんねえ事は言いっこ無しだぜ、大将。俺らはプロの中のプロだ。プロができませんじゃ済まされねえだろうがよ」
すると、彼はフードから僅かに見える口元に不敵な笑みを作る。
「そうだったな・・・今の所、用件はそれだけだ。連絡はこちらからする」
そして、彼は自分のサーヴァントを呼ぶ。
「行くぞ・・・アヴェンジャー」
すると、彼の隣に血のように濃い真紅のロープを纏い彼と同じくフードで顔と頭をすっぽりと隠したサーヴァントが実体化し同時にこの上もなく強大且つ歪な魔力を周囲に発散した。
「おお、おお、相も変わらず噎せ返るような魔力だなあ。しかし、そいつは一体何処の英霊だ。幾ら何でもそんな奇抜な風体の英雄なんざ見た事も聞いた事もねえが?」
鷹山の問いを彼はにべもなく一蹴した。
「お前に教える義務などあるまい。お前は払った対価に見合うだけの仕事をしていればいい」
「へいへい、了解しやしたと」
鷹山は気だるい仕草で了承した。
そして、彼のサーヴァント・アヴェンジャーは真紅のロープを肥大化させ丁度、鳥の翼のように形作らせて背に主を載せ、そのまま遥か上空へと一気に駆けていった。



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